INFINITE Be The One!!!   作:テントウムシ!!!

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第20話:ビルドとしての決意

春万Side

ココ最近、布仏が暗い。不機嫌というよりは、元気がないという感じだ。学園では、キャノンボール・ファストはあれ以降行われるかの審議などで、先生方は奔走中であり、生徒達は恐怖を与えたスマッシュにどう対抗するかなどを生徒会を中心に活動が始まったりもしてはいるが、教室は若干の暗さをもっていた。

仕方がないとは思う。突如として化け物が自分達を襲ってきたのだ。その恐怖は簡単には消えはしない。心の傷までは、ビルドは守ることが出来ないから。

俺もかなり湿っぽくなってしまっているようだ。こういう時は研究するのが一番だ。気が紛れるし、熱が出て随分出来なかった為に張り切ってやりたいと思っている。

ただ、やはり布仏が気になってしまう。

せめて元気くらい取り戻して欲しいと思っている。これも俺のせいなのだろうか。

 

「はぁ」

 

「あ、あー、布仏?大丈夫か?」

 

「え、えぇ。すいません。ちょっと考え事で・・・」

 

「お、おぅ。ココ最近元気ないから、ちょっと心配なんだが」

 

「・・・・そう、ですね。ご心配お掛けしました。これでも大丈夫ですよ」

 

無理に作り笑いをする布仏が痛々しく見えてしまった。

 

 

それから数日間、布仏は俺のいる開発室には来ず、織斑先生と何か話し込んでいるようだった。

そんな光景をこっそり見ていた俺の背後から突然声がした。

 

「ストーカーか?」

 

多少勢いよく振り返って、全力で否定した。直ぐに気づいたが、話しかけてきたのはダリルであった。

 

「んなわけないだろ!!!ってダリルか」

 

「おう、それよりも何してんだ?」

 

「あー、ココ最近、布仏の奴元気ないからさ、それも何だか俺が原因ぽくてな。ちょっと気になってる」

 

「あー、虚はここの所元気なかったからな、あのキャノンボール以来かな?お前が原因だったのかよ。何したんだ?」

 

「いや、特に何もしてないんだけどな」

 

「何もしてなくてあんなに落ち込むわけないだろ。それに自分が何もしていないなら、なんでそんなに気にするんだ?」

 

そう言われるとそうだ。俺には特に思い当たることが・・・・多分ない。でもやはり友達だからこそ元気になって欲しい。

 

「友達だからだよ。それに、アイツがいないと研究が滞るんだよ」

 

「友達はいいとして、理由が最低だ」

 

酷い言いがかりを言われてしまった。これでもかなり心配をしているのだが、ダリルにはあまり伝わらなかったようだ。

 

「それにな、オレはお前になんか思うところがあると思うんだよな」

 

ダリルは神妙な顔をしながらそう言ってきた。

 

「思うところってなんだよ?」

 

「それは自分で考えろ。虚のことは、まぁオレに任せとけ」

 

少し思うところもあるが、今はダリルに任せることにした。

俺はその場を離れ、開発室に戻り、考えた。ダリルに言われた通り自分に何か思うことがあったのだろうか?そう考えていると、ふと、キャノンボール・ファストの時を思い出した。

 

「自分を犠牲にだけはしないでください」

 

消え入りそうな声で俺に訴えてきた布仏を思い出した。

俺にはよく分からない。俺は自分を犠牲にしたつもりは無い。

勿論戦うのだから傷だって付く。しかしスタークやナイトローグ、スマッシュと戦う上で無傷で戦うなんてことは出来ない。

しかし何故、俺は戦おうと決めたのだろう。

記憶のない俺が何故戦うのか、未だに俺は俺自身のことが分からない。何故ビルドを造ったのかも。

兵器でないと言いながら、現状最強であるISを凌駕する力を持ったビルドは本当に兵器では無いと言いきれるのか。

俺は一番大切な記憶を失くしながら、訳も分からず戦っている。それが現状だ。

その為に戦う理由が見つからない。

 

「困っているようだね、春万君?」

 

そう思い詰めていると、突然ファルティナ先生が入ってきた。

 

「ファルティナ先生、どうしたんですか?開発室に何か用でも?」

 

「んー、開発室ってよりも、君にだね〜。ちょっと保健室にいらっしゃい」

 

そう言われ、俺はファルティナ先生について行き保健室に行った。ファルティナ先生は椅子に座ると、俺に問いかけてきた。

 

「それで、何を悩んでいるのかな少年?」

 

「えっと、とりあえずいきなり何故?」

 

「この前さ、キャノンボールの時に君はあの怪物を倒すために無理して戦った。その結果、君はまたしても倒れた。布仏さんはかなり心配してたんだけどね。その時に彼女、かなり思い詰めていたのよ」

 

「それが、俺とどういう?」

 

「・・・春万君は鈍感なんだね〜」

 

「は?」

 

「まぁいいや、君たちの会話を聞いてた私はね、ふと思ったのよ。何故君は戦うのかなって」

 

的を射ていた。やはり先生もその疑問が湧いたようだ。

 

「正直に言うと、自分でも分かっていないんです」

 

「え、自分でも分からない?じゃあ君は理由も何も無く怪物達と戦っているっていうの?それはちょっとおかしくないかな?」

 

「っ、はい。俺はちゃんとした理由もなく、ただ目的も無く俺は戦っているんです」

 

理由もない俺が何故戦うのか、なんで俺はライダーシステムを作ったのか、思い出そうとすると、頭がグチャグチャになって何も分からなくなる。

 

「目的も無くってことはないよね。・・・もしかして、戦ってる時になんか思い出したの?」

 

「なっ、なんで」

 

「ふ〜ん。そっかぁ。それで、何を思い出したの?」

 

「・・・その、銀髪の少女と兎耳の付けた人が何か研究していた記憶が」

 

「銀髪の少女ってあのボーデヴィッヒちゃんと同じような?」

 

「はい、なんか変な箱みたいなものもありましたが」

 

「ふーん。それで、他は?」

 

「いや、今のところはそれだけで」

 

関係が余りないような記憶であったが、あの兎耳を付けた女性に俺は見覚えが非常にあった。

そして確信している。その女性は俺の事をよく知っているはずだと。

よく分からない確信ではあるのだが。

もっと思い出したいと思うほど、戦おうとしてしまうのである。

ビルドは多くの人を助けるためにと思ったはずなのに、これでは自分の記憶の為に戦っているのと同じだ。

 

「そっか〜。それじゃあ君は自分の記憶の為に戦っているってこと?」

 

「それはちが・・・」

 

黙ってしまった。俺ははっきりと言えなかった。何故ならその戦う理由を未だ見つけられていないからだ。

 

「自分はそう思ってはいない、でも体はそう動いてしまっているってことだね。だから戦う理由が見つからない、というよりも理由を決めきれないってところだね」

 

「・・・っ、はい。俺は多くの人の為にこのビルドを作りました。でも、それが本当に誰かのためになっていたのか、分からないんです。防衛装置と言いながら、根本は兵器と何ら変わりないのではないかと」

 

「君は面倒臭いタイプだね。良いかい?君は戦うことに理由を求めようとしているけどさ、それは違くないかい?」

 

「何が、違うって言うんですか?戦う為には必ず理由が・・・」

 

「そこに君がどうして戦うのかということに繋がるんだよ。君はビルドとなってどうしたいんだい?」

 

「ビルドとなって、どうって・・・」

 

「戦うための理由ってのは結局言い訳に過ぎないんだよ。命を背負って戦うにはそれ相応の覚悟があれば理由なんてのは自ずと分かってくるんじゃないかな?正義のヒーローくん?」

 

覚悟。そうだ、例え自らの命を落としたとしても、俺は多くの人を傷つけるスマッシュから俺は、守りたい。誰かが傷ついていく姿など見たくない。

ビルドは多くの人を守る為と思って造った防衛装置だ。

だから、人々を傷つけるスマッシュを野放しになど出来ない。奴らを野放しにすれば、きっと多くの人が傷つく。そんなことさせない。その為に、俺は・・・。

 

 

 

「俺は、守りたいです。大切な人たちを、多くの人の命を、多くの人の明日を守りたい。大切な人達に、多くの人々に希望ある明日を創りたい。俺の発明で。もう、誰かが悲しむ姿を見たくないから。そのために俺はビルドを造ったんだ!!!」

 

 

 

すんなりと言葉が出てきた。先程あれ程分からなかったはずの答えが、無意識に出てきていた。

例え記憶が無くなったとしても、俺は俺である。

今も記憶を無くす前も、俺は大切な人達を、多くの人々の明日を守りたいと願いビルドを造ったのだ。

そんな大切なことを、俺はやっと、やっと気づくことができた。

 

「それで良いんだよ。自分の気持ちは、例え記憶が無くなったとしても簡単には消えないのよ。うん、さっきよりもいい顔になったね」

 

「俺、これからもいっぱい、迷惑かけると思います。布仏に、勿論先生にも。でも、それでも俺はやります。やってみせます!!!」

 

「男の子はそれぐらいでないとね。それはそうと、君のその決意と一緒に記憶の方もしっかり整理しないとね」

 

「はい。あの、ありがとうございました。なんか、ファルティナ先生には見透かされてたみたいですね」

 

苦笑を浮かべながらそう俺は言った。

 

「それは勿論だよ。だって先生だもの。君たちのやり取りを見て、いずれこうなるかなって思っていたんだもの」

 

やはり、ファルティナ先生にはお見通しだったようだ。ファルティナ先生には勝てる気がしないな。

 

「それと、ちゃんとこのことは布仏さんにも言うこと!!!とりあえず、何故布仏さんが元気を無くしていたのかの理由は自分で分かったでしょ?」

 

布仏は俺が傷ついていくことが嫌だと言っていた。だが、傷ついてでも守りたいと思うものを全力で守りたい。

このことを分かってもらう為にも、しっかり話さなければいけない。

 

「はい、アイツとちゃんと話してみます。これからも沢山の心配をかけさせるかもしれないけど、スマッシュとの戦いには多くの意味があることを、ちゃんと伝えたいと思います」

 

「よろしい。はぁ〜、久しぶりに真面目に話したわ〜」

 

すると、ファルティナ先生は急に力が抜けたように、先程の凛々しい姿が一変して通常のだらけモードに戻ってしまった。衝撃的なギャップ差だ。

 

「それでは、失礼しました。本当にありがとうございました」

 

「いやいや、いつでも相談に来なさいな〜」

 

そう笑顔で送り出してくれたファルティナ先生に感謝しつつ、俺は布仏の元へ向かった。

春万Sideout

 

千冬Side

職員室に、何か疲れた様子でファルティナさんが入ってきた。疲れたというよりはデフォルトであるような気がするが。

 

「ファルティナ先生、どうしたのですか?」

 

「あー、千冬センセ。さっき相談事を受けてましてね。まぁ男の子の悩み事をサクッと解決したところですよ〜」

 

「男の子と言うと兎野ですね。それはお疲れ様です。どんな内容かは・・・まぁ聞きませんが」

 

流石に年頃の男子の悩みを一々聞こうと思うのは少々思うところがあるために聞くのは控えた。一夏にもそういうのがあるのだろうか?

あいつは余り無さそうだが、今度帰った時に一応聞いてみようか。

 

「おぉ〜、千冬センセにもデリカシーを考えることは出来たのですね〜。感心感心」

 

「ファルティナ先生、おちょくっているのですか(キレ気味)」

 

危うく、兎耳カチューシャを付けた幼馴染と同じように殴りたくなってしまったが、これでも社会人である。モラル位持たなければと思い、しっかり抑え込んだ。

 

「そんなセンセには私から特別にコーヒーを入れてあげましょ〜。デスクワークも疲れるでしょ」

 

「いえ、お気遣いなく。何卒新任の為、仕事が多いので」

 

「教員は大変ですものね〜。私は養護教諭ですけど。はいどうぞ」

 

「ありがとうございます。ゴク、ぶっ」

 

不味い、びっくりするほど不味い!!!ファルティナ先生は一体何をしたのだろうか?毒でも盛ったかと思うぐらい不味かった。

 

「千冬センセ?どうしたの?」

 

「い、いえ。それよりもこのコーヒーは?」

 

「あぁ、これはね、私の趣味のひとつでね、せっかくだから美味しい豆を使ったコーヒーをと思ってオリジナルブレンドの持ってきているの〜。どうどう?」

 

なんて答えれば良いのだろうか?束の時と同じレベルで困った私だった。

千冬Sideout

 

その後、

 

「さて、どんな味かな〜。・・・・・・不っ味!!!!!!」

 

自爆していたファルティナ先生であった。

 

 

 


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