とある駒王の未元物質 作:弥宵
垣根帝督とリアス・グレモリーの関係を端的に表すならば、『消極的な同盟関係』となるだろう。
主に不戦協定を軸として、両者にとって共通の敵が現れた場合のみ共闘する。そういった『敵ではない』という程度の関係だ。
「どうもこうもねえよ。堕天使が正体隠して接触してきたからボロ出すまで付き合ってやってただけだ」
「だから、それを私に報告してほしいと言っているのだけど。貴方の独断で対処されると私の面子に関わるのよ」
「俺に言わせりゃ、むしろどうして気づいてねえのかって話だがな。あの女が接触してきたのは三日前だぜ?怠慢と謗られても文句は言えねえぞ管理者サマ」
情報共有の必要性を訴えるリアスに対し、その程度は把握しておけと垣根は取り合わない。
「つーか、本来なら情報提供すべきなのはテメェらの方なんだぞ?何のための協定だと思ってやがる」
「っ……それは」
痛いところを指摘されリアスは口籠る。垣根の言う通り、彼女こそがこの街の情勢を最も詳しく把握していなければならないのだ。
領主として、魔王の妹として、そして垣根の取引相手として。
『貴方、私の眷属にならない?』
『お断りだ。テメェごときが俺の上に立てると思うなよ』
入学から数ヶ月後、垣根が神器持ちであると知ったリアスは彼を眷属に勧誘した。それはあっさりと突っ撥ねられたが、彼女が魔王ルシファーの実妹であると知った垣根が提案したのが現在の関係、すなわち同盟だった。
リアスの側からは不戦、垣根の側からは情報提供を基本骨子として、互いの都合に応じて諸々の条件を織り込みつつ出来上がったのが現在の協定である。
無論、このことは兄サーゼクス・ルシファーの耳にも入れている。というより、サーゼクスの『女王』グレイフィア・ルキフグスの仲介があってようやく取りまとめられたのだ。
聖書という巨大勢力の一角の長、魔王としての権力を、垣根帝督という個人を敵に回さないためにフル活用したという事実は、『
「ま、俺だって一朝一夕でめぼしい情報が手に入るとは思ってねえ。だからある程度は待ってやるし、それまでの間テメェらの仕事を多少手伝ってもやる」
軽い調子の言葉に反して冷徹な目でリアスを見据え、垣根は宣告する。
「ただし、テメェにリターンを用意する能力がねえってんなら話は別だ。意味もなく敵対する気はねえが、利益だけ持ち逃げなんてナメた真似をするなら灸を据えておかねえとな」
「……わかっているわ」
ならいい、と垣根はあっさり退いた。
「次だ。堕天使どもの残党をどうするかだが」
「単独犯じゃないということ?」
「まず間違いなく。あの女、ギリギリ中級に引っかかる程度の雑魚にしちゃあ随分と内情を把握していやがった」
リアスやソーナの眷属および垣根の一派である『スクール』を除くとすれば、あの堕天使はこちらさえ把握していない神器持ちの情報を得ていたことになる。それほどの能力が彼女個人にあったとは思えないのだ。
あるいは探知機の類を持っていたのかもしれないが、その場合は堕天使の組織『
「そう……なら拠点は廃教会かしらね。私達が寄り付かない格好の場所だもの」
「無難に行けばそうだろうな。こんなところで遊び心を発揮する意味もねえし、ほぼ確定と見ていいだろ」
「じゃあ今後の対処だけど、下手したら戦争になりかねない以上こっちから手を出すのは控えるべきね。今でもギリギリ過剰防衛なのだし」
「その辺は領主殿に任せるがな。後手に回って被害拡大なんて間抜けなことにはなってくれるなよ」
そんな醜態を見せれば即座に切る、と目で語る垣根。無論、リアスとしてもそのような事態は許容しがたい。
「もちろん、私の名にかけてそんな無様は晒さないわ。
垣根と比べれば見劣りするが、リアスとて若手悪魔きっての有望株と称されるだけの実力はある。下級や中級の堕天使程度に遅れを取りはしないだろう。
「差し当たり必要なのは、あの堕天使が掴んでいたらしい神器持ちの生徒を探すことね」
「まあ、おおよその見当はつけられるだろ。素質のある神器持ちってのは総じて我が強いからな」
神器は想いの強さによって強化されると言われている。ならば、より強固で強烈な自我―――『
つまりは、学園内でも特に目立つような人物である可能性が高いということだ。
「大サービスだ。俺の予想を教えてやる」
明くる日の放課後、駒王学園中等部にて。
兵藤一誠は今日も元気に駆け回っていた。
「変態許すまじ絶対死なすゴルァァァアアアアアアアアアアア‼︎」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああっ⁉︎ 何か殺意高すぎねえ⁉︎」
正確には逃げ回っていると表現すべきだろうが。
「どこ行ったあの変態‼︎」
「絶対見つけ出して死なす!」
「死なす死なす‼︎」
「くそっ‼︎ まさか中等部がこんな魔窟だったなんて……!」
一誠は無類のおっぱい好きである。乳に大きさの貴賎なく、大も小も等しく宝。でも大きいとなお嬉しい。そういう
普段は変態三人組こと松田と元浜とともに高等部を中心に
(中学生の未成熟なおっぱいも、それはそれで将来の成長を予想する楽しみがあるしなぐへへ)
とかそんな感じのことを考えていた一誠だったが、その目論見はいきなり頓挫してしまった。
『あら、覗き?随分堂々としているのね』
手始めにと、ドレスが似合いそうな金髪の少女を
さらに想定外だったのは、どうやらその女子はかなりの人気者だったらしく、騒ぎに気づいた周囲の生徒達が総出で追ってきたことだ。元浜ならばいざ知らず、一誠は中等部の事情にはあまり明るくなかったのが災いした。
「竹刀、アーチェリー、金属バット……モーニングスター⁉︎ 何でそんなもんが学校にあるんだよ!」
普段の五割増しでバイオレンスな追手達によって、一誠は徐々に追い詰められていく。
中でも厄介なのは、時折気配もなくどこからか飛んでくる弾丸だ。流石にエアガンのようだが、最近の中学生は狩猟か暗殺でも習うのだろうか。
「ってえ!」
バスッッ!と。
膝裏に弾が直撃し、一誠は堪らず床へ倒れこんだ。
「よぉし
「弓箭さんナイス!」
「いいいいいえ、わわわたくしで皆様のお役に立てたのなら……」
とうとう下手人を仕留めたことに、背後では歓声が上がっている。
立ち上がる暇もなく、もはやこれまでかと思われたその時。
「ごめんなさい、ちょっと待ってもらえるかしら?」
一誠の前に、紅髪がたなびいた。
「リ、リアス様⁉︎」
「リアスお姉様⁉︎ どうして中等部に⁉︎」
突然の学園一の有名人の登場にざわめく生徒達。当然ながら、一誠も混乱の極みにあった。
「貴方が兵藤一誠くんで間違いないわね?」
「は、はい!」
問われ反射的に肯定を返したが、高嶺の花もいいところである彼女が自分などに何の用だというのか。まさかとは思うが、自分達の行いがとうとう目に余って直接対処に乗り出したのだろうか。
緊張と興奮に身を強張らせる一誠に、リアスは蠱惑的な笑みを向ける。
「ねえ、ちょっとウチの部活に来てみない?」
「―――え?」
数秒の空白があった。
「え、えぇぇぇえええええええええっ⁉︎」
ようやく理解が及んだ生徒達が一斉に絶叫する。驚愕に彩られた数多の悲鳴が、中等部の校舎を震撼させた。