そして今回、丁度よく新年になる前に執筆出来た作品なので色々とやる気をだします。
あらすじにもある通り、ここハーメルンやその他の投稿サイトには二次創作のライダー。つまりニセモノのライダーです。
今ライダー界隈は平ジェネで盛り上がっているところでしょう。ですが、皆さん公式のライダーに数々の思い入れがあるように、もしかしたら二次創作のライダーに思い入れがある人がいると思います。
完結している作品は確かに少なく、作者達は皆プロの脚本家という訳ではありません。それでも借り物の名前であろうと、希望、願い、憧れを誰かに与えられると信じています。
「準備はいいかい?
「準備が必要なのは、お前の方なんじゃねぇの?」
日本の中心区、とあるテレビ局の一階。吹き抜けに作られた大きなホールに数十人の従業員が人質に取られていた。その中、人混みに紛れるように縮こまりながら、会話相手に届いているかすらわからない声で何かを企む二人の男達がいた。
「上で見張ってる奴らにバレねぇように行くって。お前正気か?」
「正気もなにも、できなかったら君に頼まず警察を待つさ。その方が安全で確実だ」
「つまりそれより安全で確実ってことか? これが?」
その二人は明らかに他の従業員とは違って見える。礼儀正しく、知己のような青年は足元まである白衣を羽織って、白城銀河と呼ばれた、口調の荒い、疑問ばかりを口にする青年はタンクトップの上に大きく襟の開いたTシャツ、ジーンズと、ラフ過ぎる格好。
どういう目的があってここにいるのか分からないこの二人組に、なぜか周りはおろか、眼の前に居座るテロリストでさえ疑問を抱いていない。
終いには時折銃を向けて首を傾げるだけだ。
そんな視界外の出来事に2人は目もくれず話し続ける。
「そうさ。この方法が安全で確実。なおかつ、ここにいる人達も巻き込まない。保証するよ」
「……信じていいのか」
「予定通りならね。私が上の見張りを片付けて、合図を飛ばす。そして君が『ソレ』で1階の敵を一掃する。なんてことはない。至極単純だろう?」
「簡単だから疑ってんだ。お前の言う『コレ』が上手く動くのかもわかんねぇし、お前が上の奴らを倒すのは簡単な事じゃない。そのカッコを見るに、そういう訓練をしているわけでもなさそうだしな」
「ふむ、私の事も、その機械の事も何も問題は無い。お互い助かる為だ。私は私の最善を尽くす。君が心配する余地もないほどにね」
「それほど言うなら信じるぞ。じゃあ確認だ。俺はお前がアイツらを倒すまで待つ」
「終わったら私が合図を送る。そしたら君が」
「こいつで全員ぶっ倒す」
「よし、ミーティングは終了だ。じゃあ私は行くよ」
話を終わらせ、唐突に白衣の男がためらいもなく立ち上がり、座っている人達の合間を当然のようにすり抜けていく。
銀河は突拍子もない行動に声を上げそうになって、違和感に気付いた。
テロリストのほとんどが、仰々しい自動小銃を担いでいる。加えて彼らは防弾ベストや弾薬ポーチも装備していたはずだ。それを留めるはずのベルトも。
それならば金属とプラスチックの擦過音ぐらい、かすかにでも聞こえていてもおかしくはない。だが今、それすら感じないほど辺りが閑散としている。
いや、自分より遠くにある音ほど聞こえなくなっている。
「そうだ、確かに。確かにおかしい。普通テロリストってのは人質を注意深く見張る。俺たちが話している時も、あいつが動いた時も、誰も反応してない」
銀河も意を決して立ち上がった。ただの間抜けな行動に、やはり誰もこちらを見る者は居らず、周囲からの声すらない。
こんな真似ができる者、考えられるのは――
「多分あいつの仕業……って事でいいのか?」
白衣の男。
物騒なテロリストに人質として盾にされ、困り果てていたところに現れた『なにか』。銀河は初めて男と顔を合わせた時、一瞬だけ息が詰まりそうになった。
瞳孔の色素が極限まで薄まり、白目と同化しそうな目をしていたのだ。
「あんなやつに目をつけられるなんて縁起悪いぜ。こりゃいつか死ぬな」
そう悪態をつきつつも、銀河は手に持っていた2つのガジェットを身に着ける。一つは液晶パネルのついた腕輪、一つは古臭いブラウン管コンピュータに見えなくもないベルト、どちらも白衣の男が持っていたものだ。
包み隠さず言うなら銀河は白衣の男を信用していない。だが、いくらあの男が奇妙だと、狂ってると考えても、今この状況を切り抜けるためには彼の力が必要なのだ。雑念に構っている暇はない。
「合図……そういや合図ってどれだ? なにが合図だ?」
銀河の周囲にそれらしいものはひとつもない。
上階にいるのは階下を見張る、奴らの仲間だけ。
もし姿が見えていたなら、行動を起こすどころか怪しい仕草をするだけでも彼らには筒抜けだっただろう。
「あいつの言うとおりにすれば、これがひっくり返るって訳か」
実は白衣の言葉を冗談で半分聞き流していたのもあり、それがこうも目に見えた形で現れているのが事実だと理解するのに数秒使った。
恐らく光学迷彩の類だろうが、銀河が抱いていたイメージよりもっと進んだ技術に見える。
あの白衣に細工があるとすれば想像はできた。本来光学迷彩は事前準備があってこそのものだ。それを、今そこに居た面識のないの他人に、かけられている本人にも気付かれずに用意出来るものだろうか。しかも姿を隠すのではなく、音を遮断し、存在すら隠すものを。
今の技術力ならどれも夢や空想で片付けられてしまう。
だがこれは既に起こっている事実だ。変えようのない現実であり、この窮地に射し込んだ一筋の光明だ。銀河は覚悟したように息を吐いた。
「そうだ。合図はまだか?」
銀河達の作戦としては、まず敵を1人ずつ減らすことから始めなければいけない。それに時間をかければバレてしまう。
ふと、上階に目を向ける。
始めから数を確認していないのだから、減っているか分かるはずもない。
だが少し奇妙なものを発見した。見張りの1人がテレビ撮影に使う大型のカメラを担ぎ、こちらを向いている。
銀河を映している訳ではなく、周りの人質達に注視しているようだ。
「中継……? テロリストが?」
目的のわからない不信感に銀河は眉根を上げる。小さな音を立てて動くレンズが見通すものは、どこに行っているのかと考える気は起きなかった。
それは他人に暴力を振るうように、相手の意思を汲み取る時ではないからだ。
今までの緊張を解すために軽く肩の力を抜いた。その時である。
突然、音が一斉に動いた。
人質の1人が走り出す。恐怖に耐えかねたのだろう。
テロリスト達が何かを叫ぶ。やはり彼らは逃亡者を許さない。
銃にしては軽い発砲音が響く。酷く静かな音で。
今度は人質達が喚き散らす。助けての一点張りを繰り返して。見えない誰かを求める。
たった一瞬で。ほんの一瞬で、この場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
テロリストの冷徹な行為に1人は引きつった顔をする。
同僚が殺されたことに1人は涙する。
次は自分が殺されるんだと、1人は錯乱する。
その真っ只中で、銀河だけは周りと一緒に騒ぐことも、人が殺されて憤ることもなかった。
命令を待つ猟犬のように律儀に合図を待っていたわけではない。
「そうか。
独りごちた銀河。
カメラに向けていた冷たい目をゆっくりとテロリスト達へ下ろす。
「助けるさ。俺はそのために居る」
銀河は腰のベルトに手をかける。
数秒だけ、その形を細部一つ一つ、覚えるように指で一巡し、最後にベルト横の不自然な割れ目に行き着く。
それを躊躇わずに押し込み、ベルトを完成させた。すると腕に付けた機械から危険信号似た、独特なブザー音が鳴る。
その耳障りな音に押されて駆け出した銀河は、1歩目を踏み込んだ瞬間に腕の機械のダイヤルを合わせた。
「変身」
「首尾はどうだ? ドロー」
「一つだけ無線が繋がらないエリアがあります。例外が出たようです」
ドローと呼ばれた男の視線が、側に立つ
「たった1つだろう? なら問題は無い」
パワードスーツはその視線に応えず、くぐもった声を発した。
「こちらは4つだ。いくら抵抗しようが倍の数を殺し尽くせばいい。他のチームに伝えろ。皆殺しだと」
「分かりました。しかしフリード。今後邪魔をしてきたらどうします?」
「余計な事は考えるな。俺達に求められてるのはボスの目的成就に役立てるかどうかだ」
バトルスーツの赤く灯った眼光がドローを捉える。
「す、すみません。善処します」
「うだうだ考えるやつは死ぬぞ? こういう時ぐらいもっと馬鹿な奴みたい単純に行け。こんな感じにな」
ドローが指し示された方向を向いて薄い笑みを浮かべる。
フリードの背後に広がる情景は悲惨なものだった。野菜を手でちぎったような惨殺死体があちこちに転がっている。
どの死体も恐怖に顔が醜く歪み、バラバラなパーツを内臓が繋げている有り様だ。
「そんな感じに出来るのは貴方だけですよ。早く下っ端の俺達にも支給されないんですかね?」
「焦るな、直に数は揃う。研究者の馬鹿共はこんな使い方を思いつかない。対抗して完成させた頃には既にことが終わってるだろう」
「そういえば、今回の命令は首都壊滅なんて、ボスも思い切りましたね」
ドローがしかめっ面を和らげて感心する。
それに同意するかのようにフリードも頭を揺り動かした。
「付いてきた甲斐があったな。こんな楽しい祭りに参加できるとは。テロリストはもう少し、忍耐を鍛えるもんだと思っていた」
彼らに課せられた今回の任務。それは大規模なデモンストレーションだった。
ここに日本の首都、東京で、各区の施設を占拠する。
全ての事が終わるのに10分もかからなかった。
「はははっ、これで終わりじゃありませんよ。まだまだ始まりじゃないですか」
「そうだな。海外に散らばったメンバーが集めればいよいよ本腰に入れる。今日本にいるのはどのチームだ?」
「ちょっと待ってください。今調べます」
ドローは懐から携帯端末を取りだし、画面をしばらく注視する。
彼らテロリストの組織、クロッカーは24のチームからなっている大規模な犯罪組織。それらの呼び名はチームの幹部の名前をA~Zに当てはめたものだ。
「
「Rか。あいつは組織のトップを張れる実力を持ってる。もしかしたら全員が揃う3ヶ月後には終わるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね……って、ちょっと待ってください?」
突然ドローが耳元を抑える。何が起こっているのかはフリードのインカムにも雑音混じりで届いていた。
「はい……はい。無線が繋がらないチームがわかりました。Jの管轄です。」
「あの野郎がしくじったのか、サツにでも踏み込まれたか?」
「いや、アイツらの最後の無線から察するに、俺達と同じ兵器を持ってたようです! しかも民間人が!」
「――ははっ」
その報告に、フリーデはいつの間にか体を揺らして笑っていた。パワードスーツの発声装置から飛び出る声は、今までのトーンより高い。
「思わぬ伏兵が居たか、ははは、面白い。いつか戦えるって事だよな? 楽しみにしてるぜ、民間
その日、首都東京は大混乱を起こしていた。
高層ビルに取り付けられた特大モニタに映った光景を、恐らく誰も忘れることは無いだろう。
仮面を付けた男から告げられた日本壊滅という言葉、続いて流された血も涙もない鏖殺映像の元凶である無機質な『悪魔』、その中に紛れ込んだテロリストを返り討ちにする無機質な『英雄』。
しかし、姿形は似ていても、相反する印象を国民に植え付けた2人の鉄塊は、行方、素性、共に不明という結果を残して。
そして彼らが再び巡り会ったのはファーストコンタクトから1ヶ月後、豪火に包まれたエレベーターシャフトの中だった。
「まさかバレていたとはな。民間ライダーもなかなかやってくれる」
「……お前と喋ってる暇はねぇ」
次回予告
ファーストコンタクトから1ヶ月。
突如起こったビルの爆破テロ。
今日まで止むことの無いテロリストの猛攻を阻止していた白城銀河には、いつも通りの業務になるはずだった。
しかし、
「お前があのライダーか」
「この逃げ場のない戦場で、俺を倒して尚且つ助かろうなんて希望的観測は諦めておくんだな。民間ライダー」
銀河――仮面ライダー94の前に、不運か
次回、「赤いレンズフレア」
「つまらない幕引きだな、そう思うだろ?」
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プロローグ終わりました。
次回は、今回明かされなかった白城銀河の変身する仮面ライダー。
『94』の活躍回です。お楽しみください。