帰り道。
仁由は、やや前を機嫌よく歩く昂司という男を眺めながら、肩を落とした。
「元気ないねえ、どうしたの。ほら、賞金も頂いたし、どっかでぱーっとやっちゃおうよ」
昂司は、仁由の心の内など一切おかまいなしだ。
「どうして賞金が出たんですかね」
気持ちの落ち込みを隠すように、仁由は話をそちらへ向けた。
「まあ、これだけ世間を騒がせて、実は自分の身内がやったことでしたー、とは言いにくいからでしょ。下手したら、財産没収されるし、それは免れても信用ガタ落ちだろ。賞金というより、まあ、口封じってとこだね」
「何か、証拠ってありましたっけ?」
おそるおそる、仁由はその疑問を口にしてみた。
「ないよ」
にっこり。やっぱり。がっくり。
「それでどうしてあの隠居は、金を出す気になったのか。さっぱりですよ」
仁由は、どうにも納得がいかない。
確たる証拠がなければ、そんなことを認めるはずがないだろう。しかも、あれだけの店を持つような手腕の男だ。いいかげんなこちらの主張など、知らぬ存ぜぬで押し切ろうとすれば、いくらでもできたろうに。
そして、仁由自身もあの店主の自作自演であるなどと思うような要素を見つけることができない。
「あの隠居も、なんとなく疑っていたんだよ。そこにずばり、言われたもんだから、つい納得したんだろうね。今頃、そんな証拠がないのに気がついて、地団駄踏んでるかもしれないけどね」
昂司は、意地の悪い笑みをひとつこぼした。
「昂司は、なんであの店主の仕業だと思ったんです?」
「勘だよ。勘」
「ステキな勘ですね……」
「最初は、賊から狙われたのがあの店だけってのが一寸ひっかかったんだよね。別に評判の悪い店じゃないし。だったら、あの店でしか盗みができない事情があるのかと思ってね。そんで、あの隠居の話だろ。あの店主、随分窮屈らしくて、ほんの少しの金も自由にならないみたいだったから」
「それだけですか」
呆れた。いや、仁由は呆れるを通り越して、感心していた。そして、自分に呆れるに至った。昂司というのは、こういう人間だ。それを知っていながら、忘れてしまう。
「それから、『博打好きのロクデナシ』だよ」
「それが?」
「初めの盗みでは、そこ一箇所に、しかもかなりの額が投げ込まれたって話だったろ」
「もしかして、そいつが、店主の仲間って訳ですか」
「多分ね。急に金まわりがよくなっても、義賊サマから頂いたことにすれば、怪しまれない。とかなんとか、考えたんじゃないのかな。それで金をこっそり山分けにしようとしたんだろうね。ところが、そのロクデナシが金もって逃げちゃったんだよ。だからやむなくあの店主は、また盗みが入ったことにして、同じように金をばら撒いたんだよね。もっとも、ちょっとケチな撒き方だったけどね」
カラカラと、いかにもおかしいと昂司は笑った。
つい、仁由も笑ってしまった。
それは、本当のことだろうか。もしかしたら、すべて昂司の妄想であるのかもしれない。そして、その妄想にあの隠居は惑わされてしまったのかもしれない。或いは、隠居自身の中の何かに、惑わされたのだろうか。
ともかくもその後、その町で義賊が現れることはなかった。
「そういえば、義賊はどこに行ったのかしらね」
女は寝入りばなに、突然そんなことを言いだした。
「きっと、義賊は森に帰ったんだよ」
男はぬるい微笑みを返す。
「森?」
「義賊は森に隠れ棲んでるもんだろ。僕は森に住むなんて御免だけどね」
「そうね。あなたには街がお似合いだわ」
女はそう言って、薄く笑った。
『義賊は森に 悪党は街に』 了
全く、何のこっちゃ。。。という感じですが。
気にせず、次、いってみよ~~~!