少女金銭   作:杜甫kuresu

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人形すころうとしたら指揮官が面白い人になった。多分人形をすこれてるのでどうぞ。




「おはようございます、指揮官!」

「ああ、来たか。早速書類の整理を頼もう」

 

 朝日に照らされてもその顔は辛気臭い。人形たちに専ら指揮官と呼ばれるこの男は、そういう部類の性分だ。

 挨拶もない不躾な彼の態度にもカルカノM1891の笑顔は崩れない。一方男も大して関心を見せず、自然な動作で書類を渡す。

 

 朝早くだと言うのに談笑の一つもしないまま、カルカノが書類にパラパラと目を通し出した。

 

「あー、今日は巡回警備と、あと…………開発関連が多い予定ですね」

「となると、俺はどれから片付ければいい?」

 

 トントン拍子で今日の計画が完成する。簡素で純然な計画だけの話し合い、一周回って此処まで無味無臭な会話をする男女はいくらなんでも中々居ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて。気づけば置かれていた珈琲を当然のように飲んだ。

 不味くはない。及第点なら言うこともないので放置して、別件について尋ねる。

 

「さて。昨日は人形から俺宛の苦情は有ったか?」

「有りましたよ、もっと言葉使いに気をつけろ。だそうですね」

「人形に向ける言葉なんぞ全部命令だろうに、何を思って気を付けなくてはならんのだ」

 

 カルカノが少し怒ったような顔を俺に寄せてくる。近いのは単純に苦手だがまあ、慣れればどうということもない。

 

「またそういう事を言う、そんなに酷い性格でしたか?」

「俺はかなり酷い性格だと思うが。そもそも、人形は結論付ければ道具だ――――――なんて平気で宣う外道は指揮官でも俺しか知らん」

 

 面白い話だが、指揮官は多少なりとも人形に情が湧く。何せコイツラの肌は傷付くし、嫌なことを言えば不機嫌になり、酒が入れば羽目は外れ、とある場所では指揮官相手に狂愛をぶつけたりもするという。

 そういう生きた姿を間近で見ると、段々武器であり消耗品であり更に言えばモノであるという事実に耐えかねる輩が現れるのだそうだ――――――うーむ、実にくだらない。

 

 眼の前のコイツも含め、武器で消耗品でモノだ。事実は変わらない。

 

「…………はぁ。まあそれはともかく、この前WAさん怒ってましたよ? 指揮官、この前貰ったお菓子に何も返していないそうじゃないですか」

「それはもう全くWA2000が悪いな。センスと節操がない、俺が物を貰って貰いっぱなしが我慢できない性分とでも?」

 

 そんな非現実的なビジョンを持って俺に物を寄越す奴が居るとは、正直想定していなかった。

 カルカノは俺の言動が余程気に食わないのか、不機嫌そうに目を細めて空になったカップを取り上げる。丁度いい。

 

「後、夜間警備をしていた人形達はもう交代の時間です。今日はProwlerを核とした下級AIの部隊と接敵したと報告が入ってますよ、どうします?」

 

 ふむ、下級AIか。中でもDinergateは可愛らしいと人形達もくっちゃべっていたな、極めて同感だ。

 アイツラは専らそこらの市民にも可愛いロボットだと認識されていて、何なら時折アイツラ越しに情報が漏れて揉め事が起きたりもする。漏洩元は「可愛がっているだけ」なのだから俺はコメントも残せない、暗に無知は怖いなとだけは感じたが。

 

「損傷はどうだ?」

「そうですね、前衛の一〇〇式が少しだけ。後はまあ、砂利を噛んだくらいで済んでいると思いますよ」

「成る程。損傷の幅を見るべきだ、出るとしよう」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「服がボロボロだな、見てて痛ましい」

「珍しいことを言うんですね」

「嘘だ。一ミリも思ってない」

 

 痛ましいだとか可哀想だとか、そんな情けで出来る職でも無い。

 外まで試しに出てみているのだが、遠目で見える限り、確かに警備部隊の損傷は一〇〇式だけと見える。他もカルカノの言う通り、多少砂利に塗れたかというぐらいには有るが一〇〇式だけが服をボロボロにして。おお、頬に掠り傷も有る。

 

 他のメンバーに用は無いので適当に報告だけ聞いて風呂にでも向かってもらおう。

 漸く話せる距離になった、と思う刹那。一〇〇式に向かう足にカラビーナがグイグイと左から割り込んでくる。面倒な。

 

「何だ。俺を止めたいなら金を払うか、正式な書類を俺より上の階級に届けてからにしろ」

「指揮官さん、おはようございます!」

 

 ちょっと張り詰めた様子で挨拶をしてくる。何だその眼は、お前の期待なんぞに答える予定はない。

 

「お前は一際服が綺麗だな」

「え、そう見えますか? 一応デザインには費用が掛かっていると聞き及んでいますわ、指揮官さんも漸くわたくしの魅力に――――」

「いや、仕事をしていないという意味だ。という訳で下がれ、以上」

 

 他のやつは随分小汚い格好になっているというのに、このモコモコだけが取り柄のお嬢様かぶれは何だ。服だけは一端だな、お前。

 かぶれ人形が不満そうに頬を膨らませて俺の左手を強奪する。

 

「ああ不味い、これ以上立ち塞がると言うなら可愛い可愛い部下から罰金をせしめなくてはならなくなる。とても嫌だから退け」

「指揮官、顔がニヤついてますよ」

「はい後五秒、よーん、さーん」

「指揮官さん、ちょっとぐらいがめつさを隠そうとしてくださるかしら!?」

 

 おっと失敬、金は大事だからな。金が有れば人生大体何とかなる。

 機嫌を損ねたカラビーナが右手まで強奪した。

 

「仕方ない罰金は倍としよう。要件は何だ、請求は後にしてやる」

「わたくし頑張ったんですけど! 言うことが有るのではなくて!?」

「次の仕事に備えることだ。退け」

「ちーがーいーまーすー!」

 

 勝手に俺の手でアルプス一万尺を始めるカラビーナ。お前は何だ、邪魔以外の何物でもないぞ。

 カルカノが視界の右端から現れる。困ったように笑いながら耳打ちをしてきた。

 

「ちょっと頑張ったって言ってあげれば大丈夫だと思いますよ」

「ソーダナー、カラビーナハヨクガンバッタゾー。エライナー」

 

 うわ、自分でも酷い棒読みだ。だが俺の最大限の譲歩を受け取れカラビーナ、礼には及ばん金は貰うからな。

 

――恐ろしい話だが今のには適切な効果があるらしい。処方箋もない特効薬に襲われたカラビーナが、へへへと気色悪い頬の緩ませた笑い方をしながら両手で顔を覆う。

 

「ね? 言ったでしょう?」

 

 ウインクなんかして得意げなカルカノ。まあ言った通りだな。

 

「言葉で良いとは単純な性格だ」

「駄目ですね、舞い上がって聞こえてませんよ」

「えへへ…………」

 

 気持ち悪い。適当に退けて一〇〇式に何とかご対面と相成った。カラビーナの方をチラチラと見て何やら様子を窺っているが、俺にそんな事情は関係ない。

 

 コイツの服装は極東の学生服によく似ている。デザインしたやつは何か拗らせているのだと結論付けざるを得ないが、その桜模様のタイツも中々に破れて白い肌が露わになっているし、暖かい格好をイメージしたらしき服もところどころがほつれたり破けたりしている。

 

「し、指揮官。一〇〇式に何か御用でしょうか…………」

 

 萎縮したような表情。最近投入されたばかりだ、どうせ俺の人となりやら何やらが掴めないと怯えているのだろう。そんな事をしようがしまいが俺の対応は大差ないというのに。

 

「いや、お前だけが軽い負傷をしていると聞いてな。様子を見に来ただけだ」

「あの、その…………」

 

 何か言いにくそうに顔を伏せる一〇〇式。

 

「何だ。報告に不備があったのか」

「いえ、そんな事はないです…………それで、一〇〇式にどういったご用件しょうか」

 

 そんな怯えられるほどの事はまだしでかしていない。今後は知らん。

――では、ご要望どおりに本題と入ってやろう。

 

「服を貸せ」

「………………はい?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…………ふぅ。年か、糸通しも出来なくなるとは」

 

 眼鏡をかけよう。その歳で丸眼鏡、とサボり魔の同僚にごちゃごちゃ言われたことは有るが俺はコレが性に合ってる。

 だが奴に俺を笑う権利が有るものかよ。奴は過労で常に顔面真っ青だからとリトルグレイと呼ばれていたのだ、お前の方が腐りかけの見た目だぞ。

 

 横で俺を手伝うカルカノも相変わらず丸眼鏡をじっと見ている。

 

「見世物じゃない、見物料を払ってもらおうか」

「いえ、似合ってますよ。いつも愛嬌がありますけど、今日は特に可愛らしいです」

「お前の眼、腐ってるんじゃないのか…………」

 

 世の中には血気盛んな若者というやつも居るわけだが、古臭い銃が大好きな若造にすら俺は「枯れている大人って感じ」と言われた。今のエピソードが何かと言えば、ともかく俺は懐古趣味のやつを持ってしても褒められる所の少ない枯れ方をしているという話だ。

 

 タイツは任せ難いからカルカノに寄越している、俺は学生服だ。

 俺自身はどうでも良いが、話を聞いたカラビーナが「私のブーツも」とかわけの分からんことを抜かしたり、AR-15が「私のハイソックスもビリビリでしてー! そのー!」とか部屋に向かって叫んでくるので廃止した。

 

 玉結びの覚束なさを呪いつつ、糸の魔術師として絶賛営業中のカルカノを横目で一瞥。

 

「お前は相変わらず手慣れている」

「まあ、この服だって自分で何度か直しましたからね。指揮官もほつれた洋服とか有ったら直してあげますよ」

「俺は自分でやる」

「そう言わずにー」

 

 ニコニコとしているのは結構だが、どちらにせよ俺は人に自分に関わる管理は一切任せない。

 訳も分かっていない割に手伝いだしていた一〇〇式がとうとう手を止めて、俺の方をきょとんとした眼で見てくる。

 

「見物料」

「い、いえ! その、どうして服の修繕なんてわざわざ…………」

「いえ、じゃない。見物料」

「指揮官、そろそろいい加減にしないと一〇〇式さんのパフォーマンスに関わりますよ」

 

 それは不味い。辞めるか。

 溜息が止まらん。

 

「どうしてわざわざ説明する必要がある、お前は仕事をすればそれで良い」

「あう………………」

 

 あからさまに落ち込む一〇〇式を見たカルカノが俺に突っかかってくる。

 

「指揮官! いい加減にしないと妹の写真集送りつけますよ!」

 

 うっ、それは事実かカルカノ。

 青空色の瞳が肯定を返す。信じられん、コイツは時折自分でデザインした服を色んな人形に着せては写真集を作っているらしいのだが…………これが妹の分だけ分厚い。

 

 カルカノM91/38は確かに顔は良いだろうが、だからとたかだか数十枚の写真で一時間を語り凌ぐ神経ばかりは理解しかねる。そして仕事が滞る割に俺の心労は溜まるばかり、かなり蟻地獄じみている。

 

「悪かった。反省しよう、代金は70%OFFだ。これで手打ちとしよう」

「見るだけならタダですよ、指揮官!」

「ひっ。わ、分かった…………くそ、あんな写真集をちらつかされたぐらいで俺と来たら」

 

 未だに精神強度に難があるか。どうやって補ったものやらな。

――見物料が取れないと言うなら、説明ぐらいはしてやろう。これからもこうなる度に一〇〇式の手が止まったり尋ねられてはこちらに支障が出る。

 

 さて。

 

「さて。では、お前の質問に入社サービス代わりに答えてやろう――――確か最近入隊したはずだな」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

「服には金が掛かる。俺はくだらん出費を抑えているだけだ」

「…………え?」

 

 何を驚くところがあるのかさっぱり分からん。いつもこの下りに入るとカルカノは苦笑いをしているが、俺は至極真っ当な理由で行動している。

 

 タイムイズマネー。祖国の言葉で「時は金なり」、これは俺もかなり賛同できる言葉だ。

 時間は金だ。健康は金だ。文字は金だ。身体は金だ。技術は金だ。知恵も金だ。世界の全てのものは金に換えられる。

 では金を手にするにはどうすればいい? かけがえが有る、換えるための贅沢品である金という無形資産を蓄え、全てを解決し得るまでに到達するにはどうすればいい?

 

 単純。今言ったものを金にするのだ。何時かのために、使うために、今蓄える。

 

「こんなものに幾分の時間がかかる。だが新しく新調すれば金を食う、何処ぞやに依頼しても今どき高かろうよ。ならば俺がする、グリフィンの資産状況は俺の懐状況に関わるからな」

「え? そ、それだけですか?」

 

 そうだ。

 

「それだけだ」

「指揮官はこれでG&Kの資金協力者ですからねー、資産がないと困るっていうのは一部事実ですよ」

「ええ!? 富裕層の方なんですか!?」

 

 何だその気取った形容は。

 驚き桜色の瞳で俺をじぃと見つめる一〇〇式、これでまだ金を取るなというのだからカルカノという人形は巫山戯ている。

 

「そんなふんぞり返ってる馬鹿共と一緒にするな」

「ご、ごめんなさい…………」

 

 萎縮した所で遅い。言葉は戻らん。

 

「アイツラは金に物を言わして「身の安全」をG&Kから買っている。俺はそんな確率論でしか無いものはいらん、死ぬときは死ぬ。金を使えば偶に避けれる程度のものが生き死にというものだ」

 

 アイツラは死の危険をなるたけ遠くにしたつもりだろうが、所詮確率が下がっただけ。身体の強度は変わらない、一歩外に出れば危険、俺はそんな馬鹿馬鹿しい家畜に成り下がる予定は今後も無い。

 

「一〇〇式――――――切羽が詰まれば俺もお前もどうせ死ぬ、だが金が有れば死ぬまでにやりたい事は大抵出来る。金を持ち、金を使え。金は人類最大の発明だ、お前含む人類第二の発明は最大手の恩恵に預かっておくのが一番だろう」

「は、はい…………?」

「ごめんなさい、一〇〇式さん。指揮官は悪い人じゃないんですけど、こう…………面倒くさい人なんです」

 

 誰が面倒くさいだ。コレほど単純明快な行動原理の男は中々居ない。

 

 さて。

 

「さて。一〇〇式、お前は軽傷とは言え損傷のある人形だ。役に立とうというのなら裁縫を手伝うより、まずは十全の状態で雑用でもすることだと俺は思うのだが違うか?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「怒られました…………」

「いやー、アレは怒ってるわけじゃないんですよ。うん」

 

 カルカノの苦笑いに一〇〇式は殊更に肩を落とす、慰めか何かだと勘違いしているらしい。

 修復に入るにも適切な設備というものは勿論あり、一〇〇式は今回が初めての負傷だったから案内を受けている。別に彼女が恐ろしいほど優秀で今回はとんでもない目に遭ったとかではなくて、単純にまだこの基地に入って間もないだけである。

 

「だけど邪魔だって暗に言ったようなものですよ、あの言い方だと……」

「そうじゃなくて、あの人ああいう言い方しかしないんですよ――――――そうですね、例えばさっきお菓子の作り方ぼやいてたでしょう?」

 

 一〇〇式が思い出すには、それは確かメレンゲだと言っていた。別段指揮官としては美味くもなんとも無いのだと言っていたが、にしては妙に変な拘りを見せてはカルカノに意見を聞いていた気がする。

 

 それが何なのか、と一〇〇式は桜の瞳で問いかける。

 カルカノが屈託なく笑った。

 

「アレ、WAさんへのお返しなんですよ」

「お返し?」

「ええ。どうやら指揮官、WAさんのお菓子の事は忘れてたみたいで」

 

 そうだったのだろうか、と思うかもしれないが半分正解で間違っている。

 彼はそもそも「何かお返しが有るのが普通」と考えているのに当たりがつかなかっただけであり、別に忘れては居ない。

 

 それが礼儀の一種なら、「仕方なく」やるのだ。パフォーマンスを下げないために。

 という名目で一応。実際は誰にも分からない。

 

「後刺繍とか結構可愛いのつけてくれますよ」

「本当ですか?」

「嘘はつきません」

 

 ニコリと返したカルカノに、一〇〇式も控えめに笑って返した。




カルカノをすころうと思ったら指揮官は裁縫を始めた。理由は分からない。
基本こんな感じの短編の詰め合わせです、すこりたいものをすこるだけ。

ああ、ちなみに指揮官が本当に金を払わせたことはないですよ。言い訳して逃げる。
「俺のモデルを知りたい? 教えてやろう、金を払え」
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