今回は冒頭500文字でオチつきます。蛇足も楽しんでください、にょろにょろ~。
さて。諸君は面倒な人形の対処はどうしている?
――はあはあ、面倒じゃない? それは幸せな脳感覚をお持ちらしい、まあ俺とは相容れないだろうが精々上手く立ち回る事だな。応援は別料金だが益々のご発展とやらはお祈りしてやろう。
――では対処が分からないお前に朗報だ。今から教えてやる。
壹。後ろから面倒な人形が来たとする。
「指揮官さん、おはようございます!」
ソイツは後ろから走ってきていると想定すると良い。
貳。後ろを向いたまま飛びついてくる目標の位置を音で把握しろ。
參。至近距離に来たら上体を前に落とし、片足で勢いよく走ってくる愚か者の足を軽く刈れ。慣れてきたらそのまま足を地につけ広げろ、つまり予め型を取れ。
「え?」
肆。抱きつこうと広げた両腕を一口に纏めて両手で長物の柄のように持て。
「あら?」
伍。そのまま上に放り投げろ、力は要らん。怪我なく穏便にと言うなら、そのまま手を持って地面に叩きつけろ。鞭みたいなものだと考えておけば楽だ。
陸。面倒なやつは倒れ伏した。この戦い、我々の勝利だ。おめでとう
「…………あら、あらあらあら?」
「ボディタッチはオプション外な訳だが、お前は俺に幾ら払える?」
了。新米でも出来る人形撃退講座だ、料金は後に記載する口座に振り込むように。
◆◆◆◆◆◆
「さて。カルカノ」
いきなりだがこのカルカノ、とはあの七面倒なピンクライフルのことではない。今回はその妹、カルカノM91/38と呼ばれている方のことだ。面倒だから略称を設けようとした時期もあったが、思いつかないのが現状である。
二体揃うと俺はもう面倒臭さが振り切れて新しい方、古い方と呼ぶ始末だ。あまり嫌がられもしないので良いだろう、嫌がっても呼ぶがな。
「お前は俺が何を嫌うかについて知っているな」
「勿論ですよ。ワタシは指揮官については出来うる限りの理解と、把握と、収集とに終始している健気な人形なのですから」
何だ収集とは。お前は狂人なのか、それとも適当な法螺か。
時折俺ですら目を剥く嘘をつく人形だからな、都合の悪いことは全部法螺だと思う方が良いかもしれん。という訳で今のは法螺だ。
これでもカルカノは俺のことは嫌いではないと言っていた。時々鉄血に寝返ろうとする辺りで思わず解体を考えたことが有ったが、姉曰く「悪気のない嘘なんです」とのことだ。
そもそも悪気の有る嘘とは何だ。倫理学でも言われるが、人は自分が良いと思ったことをするのだ。私利私欲に走った嘘であった所で、それは悪気など無いだろう。
まあ結果として。俺は基本コイツの言葉はあまり相手にしていない、時間の無駄だ。
「身長は189cmですね?」
「もっと高い」
俺も割と嘘はつく人種だ、もしかすればカルカノは正しいことを言っていたりしてな。
其処を考えるのは俺ではない――――――俺を見ている奴だ。
「体重は70kgでしたか?」
「重すぎる」
軽すぎるかもな。
「血液型はO型ですから、誰にでも輸血できると仰っていたような?」
「はぁ? いやいや、俺は輸血などせん。その話題自体した覚えがないが?」
金が国家の血液というのなら、血液は身体の通貨だ。無料で売り渡すような隣人愛に満ちた男である覚えはない。わざわざ流通通貨の相場崩れを起こそうとする国家はあるまい。
カルカノは途端にうーんうーん、と唸りだしたが、暫く放置すると申し訳なさげに
「後は、後はですね…………アレです。機密保持のために消去しました」
何を取って付けたように。まるで覚えていたかのような。
「そうですよ?」
「そうか、そろそろ解体でも考えるか。気づいたら拘束されていたとなっては俺も敵わない」
「…………」
そんな悲しそうに見つめてきても俺は動じない。悪いがモノにしか見えてないものでな。
「冗談だ」
「そうですか、分かってましたけどね」
面倒くさいやつだ。幾ら口から出任せを重ねた所で、逐一言葉の真偽を考えるほど脳容量に余裕はない。
さて。どうして俺達はグリフィン内の廊下をほっつき歩いているのか、いい加減に本題に戻ることにしよう。こんな嘘真も判別のつかない下らない雑談に数時間費やせる身分ではない。
「本題に戻せ」
「ええっと、今日の夕飯は南蛮漬けが良いというお話でしたよね?」
「材料は有る、後でそんな物は俺が用意しよう。それで、俺は何が嫌いだ?」
カルカノはじぃと俺の顔を見る。そんなに金を俺に渡したいと言うなら無理に止めはしないが、しかしやはり誰にでも平等に請求するのが俺のやり方だ。
――という視線にカルカノがすぐに前に視線を戻した。賢明だな。
「ワタシが聞いた限りなら、損が嫌いです」
「正解だ。後は?」
「無いですよね」
「正解だ」
完答だ、つまらん質問だったが飴でもくれてやる。質疑応答は報酬の成立する『仕事』だ。
グレープ味の飴だったのだが、気に入ったらしい。少しだけ頬を緩めた。
今、俺は収支を調べ上げた帰りである。貸借対照表とかいう専門的な経理の紙まで引っ張ってきた以上、今回それなりの根気をもって取り組む用意が有った。
無駄を殺しに来たのである。
「指揮官、失礼しますよ――――――」
カルカノの声に消えていた意識が辛うじて神経に戻ってくる。
――ソファに寝転がっていた気がするが、にしては当たる感触が生暖かい。しかも妙にもちもちしてる。
どうでも良くなってきた。悪い癖だ。
取り敢えず起き上がると、何かで側頭部を強打する。同時に鋭い悲鳴。
「いった…………!?」
「…………カルカノ新しい方。何をしている」
何故俺を膝枕なんぞする必要があるのかさっぱり分からん、というか頭を打った。治療費。
「かなり今のは効いたぞ。お前も痛かったんじゃないのか」
「は、はい……? 何のことでしょう、全然何ともイッタタ…………ッ!」
「額を抑えながら言われてもまるで説得力に欠けるな」
額を抑えて涙を浮かべるカルカノ新しい方。古い方が「指揮官。前々から思っていましたが、せめて妹とか姉でお願いします。長いし何だかワタシのAIに直でダメージが入ってます」
「何故」
「慰謝料取りますよ」
カルカノ姉の方は随分気が短いようだ。
さて。
「さて。カルカノ妹、これはどういう事だ」
「えっ、ほら指揮官がして欲しいって」
「言ってない」
咄嗟の嘘が苦しすぎるとは自分で思わなかったのか、この妹は。しかも顔も明らかに動揺している、幾ら何でも誤魔化せるわけがないだろう。
取り敢えずあわあわとしている妹は放置して、姉の方に責任追及をするとしよう。
振り向いて扉の方を見ると、姉が困ったように笑って頬を掻いている。何だその反応は。
「指揮官、怒ったりはしませんけど…………ワタシの妹に変な命令はしないで欲しい、ですね」
「いやそんな訳があるか。コイツの口から出任せだ」
え、そうなの。とでも言わんばかりに一周回ってぬるりとした動作で妹を見る姉の姿は滑稽だ、俺は珍しく笑いそうだった。お前のシスコンには俺はつくづくウンザリしているし、今の程度で許そうとは思わないが、今のは正直面白かった。
さて。明らかに目を丸くして動揺している妹にスポットライトを当てていこうじゃないか。
「本当なの?」
「え。いや、そうです」
「…………駄目でしょ、そういう嘘をついちゃ」
「ごめんなさい」
俺の目の前で大真面目な説教をする部下なんぞ、俺にとってはやはりモノ扱いしておくのが楽なのである。
「さて? 何で俺を膝枕なんぞしていた、代金なぞ払わんぞ」
「それは業腹というものですよ」
何が業腹だこのポンチ。少し休むと言ったらこのザマだ、後少しで俺は「口は達者なくせに人形相手に邪な願望を充足していくゴミクズのような守銭奴」に成り下がるところだった。ゴミクズ以下の下りは案外正解かもしれんが、その前はおかしい。
命なんぞゴミクズだからな。今や替えがきく、よりによって誰もがそれはないと思っていた「金」で出来るだろうさ。
この技術を作り上げた夢が命を「時間」としてある程度消費する時点で、命なんて優先度が低いのは分かりきっている。世間の奴らは何時か言った、「命あっての物種だ」。
今は「物種有っての命」なんだよ、生きるのは自己愛とエゴの結果だといい加減理解するべきだろうさ。汚いもんだ、汚くて構わないもんだ。
話が逸れまくったな。戻そう、くだらん俺の偏見の話さ。これは。
「では問い直そう。金の他に、お前は何を得たんだ? 姉も大変聞きたいそうだぞ新しい方」
「いえ別に興味はないんですけど、流れ的にじゃあ聞きたいってことにしておきましょうか」
俺が間抜けみたいだろうが、辞めろ。
問い詰められてあからさまにバツの悪そうに縮こまるカルカノ妹。おいおい、これじゃ俺が虐めてるみたいじゃないか。真っ当な情報開示の要求だってのに。
姉の方が痺れを切らした。
「では今回はもうお話は終わりにしましょう」
「俺は納得していないが?」
「指揮官は納得しなくても生きていける性格ではないですか」
はっ、言ってくれるぜ。今のはたいへん傷ついた、侮辱罪で訴えて慰謝料を請求してやろうか。
無理矢理にでも話題を切り上げようという魂胆か、カルカノ姉は机に散らかしていた書類をぱっぱかと纏め始める。正直俺もどうでも良くなってきたな、あの散らばる書類が全て処理できていないという中途半端さにイライラしてきた。
仕事を途中で放り投げて遊んでるみたいじゃねえか。
「おい姉の方、どうせなら手伝ってくれ。量が馬鹿馬鹿しいんだ」
「勿論です。指揮官の手足ですからね、ワタシ達人形は」
そうだ。
概要を話している最中、妹はボソボソと何かをつぶやいた。
「また……お姉さんに取られちゃいました…………」
よく分からないが、そこでボソボソ言われても鬱陶しいのでお望み通り使ってやろうじゃないか。働かざる者食うべからず、同様に働かざる人形生きるべからずだ。
コストの分は働いてもらわなければ割に合わん。
◆◆◆◆◆◆
「さて。姉の方、仕事は終わりだ。給金には幾らかブチ込んでおいてやる」
「要りませんよ、仕事なのに」
「お前らに貸し借りを作るなど俺のプライドが許せない、そしていざという時にその貸し借りを持ち出されるのはもっと許せない」
難しい人ですね、なんか言いながら笑って出ていくカルカノ姉。同時に――――――うわあ、カラビーナが交代で入ってきた。カルカノ姉がお気の毒にという顔で見ていたが、今から追加料金を払うから助けてはくれないだろうか。いや多分無理だな、交渉の余地が有ったら今苦笑いして出ていってない。
もう生きるのが辛いな。命は金より軽いわけだし、今から窓から飛び降りてみても良いかもしれない。後先など知ったことではない身の上だ、取り敢えず今差し迫った苦痛から逃げるのも――――
カルカノ妹が羽交い締めにして止めてくる。
「指揮官、落ち着いて下さい。ワタシがいざとなれば多少止めますから」
「そういう問題じゃない。俺はコイツと同じ空気を吸うのが辛い」
「背負投げをされ、次は同じ空気を吸いたくない………………一周回って魅力的な方ですね」
コイツやっぱり頭がおかしい。俺は死ぬ、死なせろ妹。
五行の間にどのような説得が行われたかは各自想像することだ。少なくとも俺の膨大に膨れ上がった自殺願望をしっかり相殺できる有意義な弁舌をカルカノ妹が提供できたことには間違いない。
仕方なく書類作業に戻る。カルカノ姉には仕事が終わったと言ったが、真っ赤な嘘である。アイツが居るとひたすらやりにくいだけなので程々に切り上げて帰ってもらった。俺は自分のペースで仕事がしたい。
よってカルカノ妹も不要。あくまでどうせ手伝わせるなら数が欲しいだけのことだ、スペックが落ちるなら数で補う。経済活動の基本だろう?
そういう訳で、人形共は談笑をする運びとなる。基本設計が女に近いからな。
「カラビーナさんは指揮官と仲が良いんですね」
コイツ、目と耳がおかしいな。それとも嘘なのか?
「どうしてでしょうか?」
「言うまでもなくアプローチが大味だからでしょうね」
「おい分かってるなら辞めろ。このお嬢様かぶれが」
地獄耳ですか、とカルカノに驚いた顔をされる。同室で話している自覚が足りていない。
そして訂正が有る。
「俺は害があるものからは当然逃げる、それだけだぞ。好き嫌いなどという枠組みで考えるな。それで言えばお前らは全員嫌いだ」
「指揮官がワタシに酷いことを言います!」
「指揮官さんひどーい!」
「事実だ。その程度の泣き落としで俺は訂正しない」
俺は『人形自体』は嫌いだからな。
「カルカノ、お前はその点勘違いをしてるらしいな」
「…………成る程成る程、そういう事ですね?」
キョトンとした顔で成る程というのか。口と口以外の全てが切り離されたような人形だな、全く。
カラビーナも俺の言ってることが全く分かっていないらしい、カルカノ以上に興味及び驚愕に塗り固まった鮮血色の瞳で俺の方をじいと見る。開いた口が実に間抜けだ。
では解説だ。本来、俺はわざわざこんな事を説教たらしく言うのは趣味ではない。
今のは嘘かもな。いやどうだろう、ひょっとすれば今までの下り全部が嘘かもしれんぞ? さてさて、真偽は俺ももう知らん。
「お前らは勘違いしているが、人形の中に俺は一々好き嫌いをつけてなどいない。もっと言おう、そのランキング付けが面倒だ。更に言おう、お前らの個人の性格はうろ覚えだ。締めに言おう、俺はお前らを最大効率で動かす情報ならきっちり覚えている」
それは機嫌取りかもな。良好な関係保持かもな。ビジネスライクが良いのかもな。
ともかく俺は、コイツラが最大効率で動く付き合い方自体は知っている。下手をすれば、今俺が喋っている全てが「キャラクター」で、これが俺に出来るコイツラを最大効率で動かす指揮官の人格かもしれんな?
真偽などどうでも良い。今の話を閉じてしまおう。
「要するになカルカノ。俺はお前が妹だろうが姉だろうがどうっでも良い、ピンク髪でうざったい爽やかな笑顔と献身を見せつける英雄気取りの姉だろうが、紫髪の気持ち悪いほど能面ヅラ描写の多い人形気取りの嘘つきの妹だろうがどうっでも良い。興味がない」
「お前の姉ごときに、俺は奪えない。ましてや俺は、生まれてから通して誰のものでもねえよ」
カルカノの嘘つき妹でも、カルカノの爽やか気取り姉でも、このカラビーナとかいう阿呆でも、一〇〇式とかいう新人でも、ヘリアントスでも、他の人形でも、クルーガーでも、無理なんだよ。
俺は俺の所有物だからな。
「良かったなカルカノ妹、朗報だぜ。お前は姉に俺を取られない、何故なら俺は「俺のもの」だからだ」
以上。
さて。カルカノは先程のつぶやきを実は完全に俺の耳に入れられていた、なんて事実の重みに耐えかねたのかな。耳だけを赤くして涙を浮かべると口をパクパクとさせ始めた。
今のがフォローだというのなら好きに思え。そうかもしれないしそうでないのかもしれない。
それは俺の善意だというのなら好きに思え。善意かもしれないし効率化の一環かもしれない。
ともかく事実は
「指揮官なんて嫌いです!」
と言って走って出ていったカルカノ妹だろう。
アイツは一体、誰に泣きつくのだろうなあ。コンマ数秒興味を持ったが、金にならなさそうなので取り敢えず忘れておいた。
指揮官は好きに解釈して下さい、貴方が信じる本性が真実。常に問いかける姿が人形をすこりやすい所以かもしれない。
面白いおじさんなのは事実じゃないかな多分。
どうでも良いけどこの人が嘘か真か、みたいな人だからカルカノ妹と喋らせると大変なことになる。やってみたらだいぶカオスだった。
今回は「真偽は定かではない」を強調しました。そういうつもりで書いてる。