至高のレビュアーズ   作:エンピII

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幕間―2

 ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」。

 その中に一室だけ、一般メイドの立ち入りを禁ずる部屋がある。

 正確には、部屋の一画が立ち入り禁止になっているのである。

 そのロイヤルスイートの間取りは他のギルドメンバーの部屋と同じ。違うのは、壁で部屋を仕切り、その中に六畳一間を再現している事である。

 ナザリックが転移した世界の素材を用いて作った畳を敷き詰め、その畳敷きの六畳間の中心に貧相なちゃぶ台がちんまりと置いてある。

 それだけなら、趣味の範囲だ。一般メイドの立ち入りを禁ずる理由はない。立ち入りを禁止する理由は一つ。

 その部屋があまりに汚いのだ。

 汚部屋である。

 足の踏み場もない程にゴミが散乱し、それが引かれっぱなしのせんべい布団にも侵食している。ゴミに紛れ、様々なものも所狭しと置かれていた。

 一般メイドがこの部屋を見たら、泣きながら自らの創造主か、ナザリック支配者であるモモンガに懇願するだろう。

 どうか掃除をさせて下さいと。

 そしてそんな部屋でうごめく異形が一体。

 この部屋の主であるナザリックの支配者の一人であり、ギルドアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人、源次郎である。

 

「……こんなものかな?」

 

 そう言って彼はちゃぶ台に広げていた紙や羊皮紙の分類を終える。

 その紙や羊皮紙は、ギルドアインズ・ウール・ゴウンの面々が異世界で体験したサキュバス店レビュー、その原本である。

 源次郎はそれを、様々な項目ごとに分類し、整理していたのだ。

 

「だけど弐式さんも、レビューを纏めて書籍にしようなんて、思い切った事を考えるよなー」

 

 そうこれは、異世界を発見した弐式炎雷から依頼された作業なのだ。

 異世界に繋がる扉を発見し、その世界にギルドメンバーが訪れる様になって早半年。

 毎日毎日フル稼働している扉の働きに比例するように、ギルドのメンバーが書いたレビューの束は分厚く、そして多様性を持ち始めていた。

 基本のテンプレート用紙はあるのだが、あえてそれに一工夫する者もいる。クリエイターチームなどは、自ら描き下ろしたイラストを添えたりと、一手間も二手間も掛けていたりする。

 それ以外にもメンバーの知らなかった一面、まあ性癖だが、を知れるこれらを一回限りのレビューとして終わりにするのは勿体ないと、弐式炎雷が何かの形にしようと提案したのである。

 それが書籍化だ。勿論NPC達には秘密なので、製本は全て自分達で行う。図書館の設備を、司書長にバレないようにこっそり利用すればいけると踏んだのである。

 そしてその前段階である仕分け作業を、源次郎が請け負ったという訳だ。

 

「流石に風俗―――サキュバス店レビューの仕分け作業なんて初めてだけどね」

 

 一人の作業だから、こんな独り言も出てしまう。だけど源次郎はそれが嫌いなわけでは無い。もくもくと作業をするのは好きなのだ。

 一通りの仕分けを終えた源次郎が、分厚いレビューの束をアイテムボックスに丁寧に仕舞う。隣の、同じ源次郎の部屋なのだが、部屋に気配を感じたからだ。その気配の主は源次郎の六畳間に繋がる扉を小さくノックする。

 この扉もいつかふすまに変えたいなーと源次郎は思いながら、ノックに応える。

 源次郎の六畳間を訪れるのは、ギルドのメンバーを除けば二人だけだ。

 一人と言っていいかは分からないが、一人は恐怖公。同胞を源次郎の娘におやつ代わりにされて困っていると偶に相談に来る。

 そしてもう一人が―――

 

「お父さぁーん」

 

 源次郎が創造したNPCエントマ・ヴァシリッサ・ゼータである。

 エントマはトコトコとゴミを避けながら源次郎の所まで歩いてくると、この部屋で唯一座れる場所、すなわち源次郎の膝にダイブしてくる。

 

「お帰り、エントマ。今日は何か捕まえられた?」

 

 源次郎が自分の膝にダイブしてきたエントマの背中をさすりながら尋ねると、エントマはえへへと嬉しそうに笑う。勿論仮面状の蟲である表情に変化は無いのだが、その内側では間違いなく笑顔だろう。

 

「今日はぁ、弐式炎雷様をぉ、捕まえちゃいましたぁ」

 

「おお。凄いなー、エントマは。弐式さんを捕まえたんだ? えらいえらい」

 

 そう褒めて源次郎は、エントマの仮面の下の彼女の顎をくすぐる様に撫でてやる。そうするとエントマは口唇蟲の声では無く、彼女本来のやや硬質的な声でキュィキュィと嬉しそうに鳴く。

 

「弐式炎雷様もぉ、こんなところに巣があるなんて気づかなかったぁー。エントマは凄いってぇ、褒めて下さいましたぁ」

 

 本当に嬉しそうなエントマに、源次郎も嬉しくなる。

 エントマはナザリック内にいくつか獲物を捕らえるための巣を持つ。そのうち一つに弐式炎雷が掛かったのだろう。勿論彼が本気で捕まるわけはない。当然ワザとだ。

 ナザリックのNPCは設定や種族本能により、様々な欲求を抱えている。その欲求を出来る限り穏便に満たしてやるのが、創造主であるギルドのメンバーの仕事でもある。

 エントマには捕食本能がある。獲物を捕らえたいという欲求がある。それを満たしてやるために、ギルドのメンバーの幾人かはたまにフラっと彼女の巣に囚われてやる。

 主にエントマの姉であるプレアデスの創造主達やモモンガ、たっち・みーに武人建御雷。稀にウルベルトが捕まってくれることもある。

 要するに、創造主がエントマに捕われてもその真意に気付き、理解してくれるNPCを持つ者達が順番で捕まってくれるのだ。

 そのためガーネットは不可だ。一度捕まって、静かに怒ったシズとエントマが喧嘩をし、宥めるのに苦労をした。

 

(今度お礼をしないとなぁ)

 

 仲間を捕まえたエントマは嬉しそうに、源次郎に報告しに来るのだ。今日は誰々を捕まえましたぁと。それが源次郎には可愛くてしょうがない。

 エントマがギルドメンバーを捕まえたと報告しにくるのも、恐らくは源次郎が喜ぶからだろう。でなければ、戦闘メイドプレアデスの一員であるエントマが、至高の御方を捕らえるという不敬な真似はしない。

 そのため本当にエントマの欲求が満たせているのか分からないが、彼女は笑い、源次郎はそんな娘の姿を見れて幸せなので、とりあえず今はこれでいい。

 

「お父さんはぁ、今日はお出かけしないんですかぁ?」

 

「ん? そうだね。今日はずっとナザリックにいるよ。エントマはどうしたい? 一緒にどこかに出掛ける?」

 

 源次郎の問いかけにエントマは、「んー」と考え込む素振りをする。

 

「今日はぁ、お父さんとぁ、一緒にお部屋で過ごしたいですぅ。お父さんのお部屋、落ち着くんでぇ」

 

 この汚部屋で落ち着いちゃうのは自分に似たのかなと源次郎は苦笑いしつつ、愛娘の頭を撫でてやることで、その願いに応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ―――流石に。

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国首都、エ・ランテル。そこに築かれた王城。その王たるモノの執務室に続々と運び込まれる羊皮紙の分厚い束を眺めながら、モモンガは思う。

 

 ―――行き過ぎたっ、異世界!

 

 そう骨の手で顔を押さえる。

 

「どうかなさいましたか? アインズ様?」

 

「ああ、いや。何でも無いのだ。アルベドよ」

 

 大量の羊皮紙、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の主、魔導王たる自分が目を通さなければならない書類の山を見上げながら、モモンガはアルベドになんでもないと答える。

 

「……これほどの量を処理するには、アルベドも苦労したのではないか?」

 

「いえ、そんな事は!? 定められた就業時間はしっかりと守っております!」

 

 慌てて否定するアルベドに、モモンガは頷く。今のは質問が悪かっただろう。

 

「いや、この山にアルベドの頑張りが見えてな。ありがとう、アルベドよ」

 

 そう褒めてやると、当然の務めなどと口にしているが、アルベドの背中に生えた羽が嬉しそうにパタパタと揺れていた。

 

(仕方がない。しばらくは魔導王の、アインズの仕事に専念するか)

 

 仲間がいる今、魔導王アインズの、モモンガの仕事はかなり減った。

 仲間達がモモンガの仕事で出来る部分は絡めとり、持って行ってくれるのだ。分散したために、いくらちょくちょく異世界に赴いているとはいえ、ここまで溜まる事は無い。

 単純に、アルベドが最近何かと留守がちなモモンガを引き留めるために、頑張ったのだろう。人知を超えた才媛であるアルベドの頑張りを、元々一般人のモモンガが処理するには正直手に余るが。

 

(いや、でも。魔導国の就労時間は定めてるんだし。それをトップが破るのは不味いよな、うん。アフターファイブを楽しむのもありなんじゃないか?)

 

 そんな事をモモンガは考える。たぶん誘えば、ちょっと一軒感覚で乗ってくるメンバーは多いだろう。そんな事を想像しつつ―――

 

「アインズ様?」

 

 アルベドから、声が掛けられた。モモンガは今は仕事の時間だと、思考を切り換える。このままではボロが出てしまいそうなので、ひとまず異世界の事は頭の片隅に追いやる。片隅にはしっかり異世界があることから、モモンガのハマりっぷりが分かるが。

 

「ああ、アルベドよ」

 

「なんでしょうか? アインズ様?」

 

 モモンガは書類の山から一番手近な物を掴み、その分厚さに辟易しながらも、アルベドに話しかける。

 書類を運び込んだエルダーリッチ達は退室し、今はアルベドとモモンガの二人だけだ。ならば良いだろうと思う。

 

「今は私とお前しか居ない。気にせず私の事はモモンガと呼ぶがいい」

 

 そう言うとアルベドが、信じられないというような顔で、頬を赤く染めた。美人は驚いた顔をしても美人だなとモモンガは笑う。

 

「はい! 畏まりました! モモンガ様!!」

 

 こんな事を自然に言えるようになったのは、あちらの世界のおかげかなと思いつつ。




行き過ぎた!の部分は大槻ハンチョー風に。

という訳で一時このシリーズ休止しようと思います。
理由はこれから活動報告に書いてみます。

このシリーズ個人的に大好きなので、止めちゃうわけじゃ無いですよ!

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