「結婚を、したいんです!」
そうペロロンチーノは、深夜のナザリック地下大墳墓の巨大図書館「アッシュールバニパル」で叫んだ。
休眠不要のアンデッドの司書長達に無理やり休息を与え、モモンガ達は連日深夜の製本作業に追われていた。製本しているのは勿論モモンガ達のサキュバス店レビューだ。今現在図書館で製本作業中なのは眠ることの出来ないアンデッドであるモモンガに、同じく眠る事の出来ないハーフゴーレムの弐式炎雷、その二人。
ペロロンチーノはそんな二人の前にふらりと現れると、前置きも無しにそう叫んだのだ。
モモンガは、もしギルドの誰か一人に背中を預けろと言われれば、間違いなくペロロンチーノを選ぶだろう。その際の相性等もあるだろうが、彼とならばそれを覆すことが出来ると、モモンガはそう確信している。
そんな親友相手だが、やはり「いきなり何言ってるんだこの人?」という思いは抱かずにはいられない。そんな気持ちを抱くのも慣れっこではあるのだが。
「……わかる」
そんなペロロンチーノの意味不明な叫びに応えたのは、隣で作業を続けていた弐式炎雷だ。
(……わかるのかよ)
弐式炎雷は製本作業の手を止めて、ゆっくりと、そして神妙にペロロンチーノに頷いている。何だこの人たちはとモモンガは二人を眺めながらも、先ほどからモモンガにも少しずつ不思議な感情が胸に湧いてきた事に気付く。
(……くそ! 俺もわかるっ!)
異世界に訪れて、様々な種族の女性とこれまた様々な経験を積んだ。
だが、この場にいる三者はそれまでは童貞だったのだ。恋愛経験などある筈も無い。当然、その先にある結婚など完全未知である。それだけに、憧れはある。
以前のモモンガならばその手の願望は無かったと思うが、向こうで色々知ってしまった今では、少し事情は違ってくる。知らないことを知ってしまうと、その先に知りたくなるのだ。
「ようするに、あれか、ペロロンさん? あの新婚のイメージプレイが出来るサキュバス店に行きたいって事?」
弐式炎雷が分厚いファイルを取り出してペロロンチーノに問い掛けた。
「ええーと、あのお店の名前はなんだっけ?」
「源次郎さんが仕分けしてくれてますから、イメージプレイグループの結婚カテゴリーに入ってると思いますよ?」
弐式炎雷が取り出したファイルはモモンガ達のではない。主にスタンク達のレビューが収納されたファイルだ。それもついでだと源次郎が仕分けしてくれているので、非常に探しやすくなっている。
店名で並べるよりも、お店の内容でカテゴリー分けした方が探しやすいだろうとは、源次郎の談だ。
「ああ、あったあった。……うーん、まあ、悪くはなさそうだけど、やっぱこれ普通のイメージプレイのお店だよなー。それならさ、おかしらのアジトでも良さげだけど」
「私はあのお店軽く出禁になってるんですけど……」
「完全出禁でもないし、大丈夫じゃない? まああそこ、割と気まぐれでイメージプレイの内容が決まるらしいから、花嫁プレイがいつになるかわからないってのはあるか」
「詳しいですねー、弐式さん」
「結構オキニだし。それに、その場で会ったばかりの子と結婚プレイってのもなー。味気ないというか」
「ですねー。この大聖堂って場所までも、それなりに距離がありそうですし」
そんな事を弐式炎雷と話していると、ペロロンチーノが妙に芝居がかった仕草で突き立てた指をチチチと振る。
「向こうの由緒正しい場所で、鐘の音を聴きながらってのが、良いんじゃないですか。それに、二人が気にする点については俺に考えがあります」
『考え?』
モモンガと弐式炎雷の問い掛けが重なった。その問いかけに、ペロロンチーノは仮面の上からでもわかるニンマリとした笑みを浮かべるのだった。
その笑みに若干の嫌な予感を覚えながらも、モモンガは少しだけ気になっていた事をペロロンチーノに尋ねた。
「そう言えばペロロンさん、女性陣達と一緒に赴いたあちらの世界はどうでした? 楽しんでくれていました?」
「あ、それ俺も気になってた」
二人の問いかけに、ペロロンチーノは少し視線を彷徨せてからがっくりと肩を落とす。
「……その件は聞かないで下さい」
(な、何をしたんだ、茶釜さん!?)
その只ならぬ様子のペロロンチーノに、先ほど以上の嫌な気配がする。
ぶくぶく茶釜はギルドのブレーキ役でもあるが、常識人に見えてあれでアウラとマーレの創造主でもあり、何よりペロロンチーノの姉なのだ。
やまいこと餡ころもっちもちの二人も、暴走すると手の付けられない面を持つが、一度アクセルを踏み込んだぶくぶく茶釜はその比では無い。
ごめんね? そう振り返っていつもの声で謝るぶくぶく茶釜を幻視しながらモモンガは、レビュー製本作業の手を止めて、自分達の扉申請用紙に必要事項を書き込み始めるのだった。
◆
モモンガさん達と知り合って、だいぶ経ちました。元々ボクは、スタンクさん達より早く食酒亭で皆さんと面識がありましたから。
なによりモモンガさん達はその見た目、って言い方は失礼ですよね。でも多種族が入り混じった下界でも見たことの無い種族の方ばかりで、似ていてもまったく違う性質だったり、異世界から来たと聞かされても、驚くよりも納得が勝ってしまったくらいの不思議な人達です。
そんな人達でも話してみると、意外と優しくて、異世界の支配者というのに驚くくらい普通の人みたいで、スタンクさんやゼルさん達と同じである意味気の良い方々なんです。
けども。
だけれども!
「なんでボクが、ウェディングドレスを着せられてるんですかーーー!」
叫びながらボクは、モモンガさんの魔法で作り出された闇の扉に振り返ります。
闇の扉を通って姿を見せるのは、普段とは違う純白のタキシードに身を包んだモモンガさんに、弐式さんとペロロンチーノさん。その三人はボクを見るなり、なぜか感心した様に頷いていました。
「おー、そういう格好をクリム君がすると、本当に女の子にしか見えないねー」
「ですね、良く似合ってるよ、クリム君」
うんうんと頷く弐式さんとモモンガさん。ボクのすぐそばで感心した様に二人に眺められていますが、今日のボクはモモンガさんの闇属性にもダメージを受けません。
理由はこのウェディングドレスに、ほぼ完全な闇属性耐性が備わっているかららしいです。
そうボクが今着ている、着せられているウェディングドレスは、モモンガさん達の世界で作られた装備なんだそうです。正確にはユグドラシルって所の装備らしいんですが、僕にはよくわかりません。
「ほらほら二人とも、そんなジロジロとクリム君を見てたら失礼ですよ」
ペロロンチーノさんが背中の羽を一度羽ばたかせてから、二人を軽く窘めます。ペロロンチーノさんもタキシードに着替えてますけど、その羽はどうやって出しているんでしょうか。そもそもこのドレスも、採寸なんてされてないのにボクの体型にぴったりでしたし。
「って、そうではなくて! なんでボクが、こんな格好でフラスパ大聖堂まで連れて来られているんですか!」
今日の朝方にお願いがあると言われました。
お店もお休みの日でしたし、バイト代も戴けるとの事でしたので、二つ返事で了承したんですが、三人に行きたいところまでの同行を頼まれたボクは、あれよあれよという間にこんな格好をさせられて、モモンガさんの魔法でフラスパ大聖堂まで連れて来られたんです。
それなのに、まだ詳しい説明をして貰えていません。
「いやー、ごめんね、クリム君。この大聖堂の場所を知ってる人が居ないと、モモンガさんの集団転移魔法が上手く働かないからさ。スタンク達は今どっかいってるみたいだし」
「それは構いませんけど、ボクが聞きたいのはこの格好をさせられた理由ですよ……」
すると三人が少し驚いたように顔を見合わせました。
「クリム君の格好は、彼女からのリクエストだったんだが」
そう言ってモモンガさんが、開いたままの闇の扉に振り返りました。ボクもつられるようにそちらに視線を向けると―――
「―――なんだ? 俺の花嫁はまだグズってるのか?」
闇の扉から姿を見せたのは、
「エ…エルザさん!?」
モモンガさん達と同じ真っ白なタキシードに身を包んだ、ハイエナ獣人のエルザさん。男物のタキシードなのに、その女性らしい体型にすごくフィットしていて、女の人なのに格好良くて、男の人の格好をしているのに胸の膨らみとかがハッキリしていて、ボクはその姿に思わず見惚れてしまいました。
エルザさんの男の人の格好に、女の人の魅力に、ボクの女性の部分も男性の部分も凄く惹かれてしまって、キュンとなってしまいます。
「俺のものになるのは不満か?」
そう覗き込まれるように尋ねられ、ボクは小さく首を振る事しか出来ませんでした。
「……良い子だ」
エルザさんの突き出したマズルから零れた少しハスキーな声に、今は両性なのに、ボクの女の子の部分がキュンキュンと反応していって、抗えそうもありません。
「あぁ……、ボクが、ボクがエルザさんのものに……」
説明もして貰えてないけど。
なっちゃうしか、ありません。
◆
「うんうん、クリム君も満足そうですね」
ペロロンチーノはうんうんと頷きながら、エルザに迫られるクリムを満足そうに見つめる。
「ペロロンさんの考えって、こういう事だったんですね」
モモンガの感心した様な声に、ペロロンチーノは大きく頷きながら振り返る。
「ええ、結婚初夜プレイするのに、オキニの子に頼まないでどうするんだって話ですよ!」
ペロロンチーノの考えとは、こうであった。
せっかくの結婚初夜プレイを、出会ったばかりのサキュ嬢とするから満足度がいまいちなのである。通いつめれば話は変わってくるだろうが、異世界において時間制限のあるペロロンチーノ達ではそれも難しい。
ならば最初から、普段通い詰めているお店のサキュ嬢にお願いをすればいい。
ドレスだって、ユグドラシルでは毎年六月にはジューンブライドイベントが開催されていた。
そしてペロロンチーノ達は、相手も居ないのに、折角のイベントだからと完全制覇して手に入れた結婚用のイベントアイテムが山ほどある。
ペロロンチーノに至っては、課金しなければ手に入らないバージョンのウェディングドレスすら持っているのだ。結局それはユグドラシルでは使い道は無かったが、こんなところで役に立つこととなった。
ちなみにモモンガと弐式炎雷も、渡す相手も居ないのに、その課金装備を手に入れていた。
「そういえば、この教会はどうしたんだよ、ペロロンさん?」
弐式炎雷が顎で背後の建造物を顎でしゃくりながら尋ねてくる。
ペロロンチーノ達はフラスパ大聖堂のある街の郊外、外に建てられた教会に転移してきていた。街の外ならば祝福の鐘の音も届くし、多少騒いでも迷惑にならないであろうという判断からだ。
「建物ごと借りたんですか?」
モモンガの質問に、ペロロンチーノは仮面の下でニンマリと笑う。
「いえ、建てました」
『……は?』
友人二人の声が重なる。その反応に、満足そうに頷きペロロンチーノが続ける。
「現地の人にお願いして、俺達用の教会を建てて貰ったんです。完成したのは俺も今日初めて見ましたけど、中々いい感じですよね」
「……いやいや、ペロロンさん。街の外とはいえ勝手に教会建てたら不味いだろう」
「大丈夫ですよ、この辺の土地ごと買いあげましたから」
「そ、そんなお金何処から得たんですか?」
「建御雷さんとメコンさんから借りました。あの人達何回か勇者魔王案件という依頼を解決してるみたいで、結構お金持ちみたいです」
「建やん達そんな事してるのかよ。というか勇者なんているんだ、この世界」
「いるみたいですね。あとこの建物は、教会風サキュバス店として建ててますので、こっちの避妊魔法とか面倒な手続きもすべてクリア済みですよ。俺達が利用するだけで、実際に営業はしませんけど」
そこまで説明すると、モモンガと弐式炎雷は呆れた様な、感心した様な、何とも言えない顔でペロロンチーノを見ていた。
一人は頭蓋骨で一人はタキシードを着ててもいつもの頭巾をしているが、付き合いが長いとそれくらいは分かるのだと、ペロロンチーノはにんまりと笑う。
「もちろんスタッフが足りないので、その辺は協力をお願いします。俺達の花嫁の準備ももう少しかかるでしょうし」
ペロロンチーノ達の花嫁役をお願いしたサキュ嬢たちは今おめかし中だ。ドレスや小物はユグドラシル産の装備を渡しているが、髪型のセットや化粧などは、彼女達自身に任せるしかない。
勿論出張費を含め、その他すべての経費はすべてペロロンチーノが借りたお金から捻出されている。
「はぁ、まあ、いいけど。……了解、それなら俺も少し考えがある。モモンガさん、魔法都市まで飛ばして貰っていい?」
「構いませんが、魔法都市に何か?」
「うん、この際だしね。この前貰った大量の割引券を活用しようと思ってさ」
「何かあてがあるんですね。……それなら私も一つ準備をしますか」
二人もエンジンが、やる気に火が点き始めたようだ。やるからには全力で楽しむのも、自分達の良い所だと思う。
「よーし、じゃあ二人とも! アインズ・ウール・ゴウン式新婚初夜プレイ! 全力で行きますよ! 全部の準備が終わったら、花嫁を迎えに行く所から始めましょう!」
◆
「……綺麗だよ、ピルティアちゃん」
ユグドラシル産の純白のドレスに身を包み、小さな、それでいて希少なユグドラシルの花で作られた見事なブーケを手にしたピルティアが微笑みながら小首をかしげる。
会ったこともない相手だが、彼には意中の女性がいる事は知っている。何度かそのシャルティアという女性の格好をして、イメージプレイをしたことがあるからだ。
「ふふ……、今日はシャルティアさんの真似をしなくてもいいんですか? ペロロンチーノさん?」
だから少しだけ意地悪をしようと、そう悪戯っぽく尋ねる。すると、ペロロンチーノは満面の笑みを浮かべた。
「今日の俺は、ピルティアちゃんと結婚するんですから」
そう言って彼は笑う。
本命の子だけじゃなく、自分にもそんな笑顔を向ける彼が、眩しい。疚しさなんて、微塵も感じさせない笑顔だった。
「……ペロロンチーノさんは、イケない子ですね」
きっとペロロンチーノはこの笑顔を、すべてのサキュ嬢にも向けるのだろう。
「俺はあの二人と違って、ちゃんとイケますよ?」
そう言う意味じゃ無いんだけどなと、この年下の彼にピルティアは花嫁に相応しい笑みで、微笑むのだった。
「……弐式炎雷様」
長い黒髪を彼の好みとドレスに合うように結い上げて、彼を微かに顎をあげて見上げる。
「……凄い……綺麗だ、ナーベラル」
感嘆した様に呟いてから、ゆっくりと彼は、こちらをエスコートするように手を差し出して来てくれる。
「そ、それはドレスの事でしょうか!?」
彼、弐式炎雷からの素直な賛辞に、思わず訊ねてしまう。彼はこの美しいドレスを褒めてくれているだけなのでは無いだろうか。そう思わず確認してしまうかのように。
「はは、そんな訳ないだろう。ナーベラルが綺麗なんだって」
「あ……ありがとうございます……」
彼からの言葉に、感極まったような反応をしつつ、僅かに俯いた。
「さあ、行くか。みんなが待ってる」
伸ばされた彼の手を取る。その手に触れた瞬間、自分の手が僅かに震えた。
「か……かしこま……ぷっ……くくくっ。ご、ごめん弐式くん。た、耐えられなかった」
そこで限界を迎え、思わず吹き出してしまう。
「おかしらのアジト一の演技派が、途中で笑っちゃ駄目でしょう」
「だ、だって、弐式くん。タキシード着てるのに、頭巾はいつものままなんだもん。い、違和感が凄い」
「ふっふふ! ニンジャは容易く素顔を晒さぬのだ!」
「見せたくないだけでしょう? あたしは弐式くんの顔嫌いじゃないけどなー。 マネキンみたいで」
「最後の言葉で嬉しさ半減なんだけど。まあ、俺もナーベラルプレイは流石に限界ぽかったし、もう普通に行こうか?」
「肩少し震えてたもんね。笑いそうだったでしょう?」
「ぬお、見破られてる!?」
「元女優志望だもん。……相変わらず仕事は入らないけど」
「……今日付き合ってくれたお礼にさ、今度の公演観に行くよ。観客席満席にする」
「えー、それって観客席一杯に分身弐式くんがいるって事でしょう? 他の子が引かないかなー」
「そこも見破られてる!? ……これがオキニかー、すごいなー」
「ふふ、いつもありがとうございまーす」
そう言って彼の手を繋いで、ヴァージンロードに向けて、歩き出すのだった。
「……良く似合っています。……とても」
嘘を感じさせないその言葉に、冥精ランパスが微笑む。
「ありがとう、悟くん」
今彼には、ウェディングドレスに身を包んだ母親の姿が見えているはずだ。
そして彼が何か言いたそうにしているが、こちらから促したりはしない。彼、モモンガという名の、死の神とも呼べる存在の言葉を微笑みながら待ち続ける。
「……その姿を、父さんにも見せて上げたかった」
「お父さん?」
「ええ。……父さんの記憶は殆ど無いんだけど、たぶん一度はちゃんとしたドレスを、母さんに着せて上げたかったはずだから……」
思わず彼の骨の頭を胸に抱え、抱き締めたくなったが、堪える。そんな事を彼は、たぶん望んではいないだろうと思ったからだ。
この幻術は、彼の記憶を読み取るというよりは、同調させるものだ。だからモモンガの中の母親を自分に投影させることは出来ても、その彼の過去を知れるわけでは無い。勿論お店のプライバシーポリシーにも抵触するので、出来たとしてもしないのだが。
彼が望むことは全てするが、行き過ぎた真似はしない方が良い。
思い出に踏み込み過ぎてもいけない。踏みにじるのは勿論、触れて欲しくない部分にも決して触れてはいけない。
難しいお客様なのだ、彼は。
「……行きましょう。みんなが待っているでしょうし」
「ええ、悟くん」
だからこそ、やりがいがある。
差し出された彼の骨の手に引かれ、そう思った。伝わってくる芳醇な魔力に酔いしれながら。
◆
「おめでとうー!」
「幸せになってねー!」
「そんな綺麗な子、どこで見つけてきたんだよ! 爆発しろ!」
ボク達は、沢山の人達に祝福されながら、パートナーと共に教会にまで続くヴァージンロードを歩いていました。そう、沢山の、沢山の……弐式さんとデミアさんに祝福されながら。
「……お前の友達、すごいな」
エルザさんの感心半分、呆れ半分の声に、小さく頷きます。
なんかもう、モモンガさん達は凝れる所は全部全力で凝っていく人達みたいです。
「花びら、ついてるぞ」
そうエルザさんが優しく微笑みながら、ボクの髪に付着していたらしい花びらを取ってくれます。
「……んっ。 あ、ありがとうございます」
「……今のお前、完全女の顔してるぞ。もう少し我慢しろ。……その顔は俺にだけ見せればいいんだよ」
「……は、はいっ!」
「ふふ、いい子だ」
エルザさんにそんな風に耳元で囁かれると、ボクは従うしかありません。
「……どうやら、アイツらが花びらを撒いてるみたいだな」
つられて空を見上げると、そこにはライオンの頭をして四枚の羽を生やした天使? が、上空でボクらを祝福するように花びらを撒いていました。それも六人も。
「……知り合いか?」
エルザさんに尋ねられますが、ボクにはフルフルと首を振る事しかできません。だって、あんな人達天上でも見た事ありませんから。
「ああ、あれは
そうペロロンチーノさんが教えてくれますが、ボクはこの場面をどうか天上のあの御方が見ていませんようにと祈るばかりです。さらりと伝えられた超位魔法って単語も凄く怖いです。
「召喚魔法使えるなら、無理して弐式さんに分身して貰わなくてもよかったかもしれませんね?」
「つっても今のメンツだと、モモンガさん頼みになるしなー。デス・ナイトとかデスじーちゃん、デスばーちゃんに祝福されたくはない」
わいわいと談笑しながら、ボク達はそろってヴァージンロードを歩いて行きます。沢山の分身弐式さんとデコイデミアさんに祝福されながら、教会に辿り着くと、そこにも神官風衣装のデミアさんがボク達を迎えてくれました。
「ようこそ、アインズ・ウール・ゴウン専用教会型サキュバス店『出会って数分で初夜なんてもったいない❤』に」
「……ここ、そういう名前だったんですか……?」
「ちなみに店名は俺が考えました」
「清々しいまでに、スタンク達のレビューしたお店の名前をパクってますね、ペロロンさん」
ニッコリと神官デミアさんが微笑み、小さく咳払いして続けます。
「コホン。では皆さま、神の御前で夫婦の契りをかわすことを誓いますか?」
デミアさんからの問い掛けに、ボクとモモンガさん達はパートナー達と視線を合わせました。
ボクは照れながら、そしてモモンガさん達は楽しそうに笑いながら、その問いかけに応えます。
『はい。私達は今日一日、素敵な結婚生活を送る事を誓います』
『出会って数分で初夜なんてもったいない❤』
◇オーバーロード モモンガ
10
今回は色々変則的な楽しみ方ですが、十分満足のいくお店に仕上がっていました。一応お店という体面を保たないと、避妊魔法の処置が取れないみたいですね。
正直、向こうの世界を訪れるまで結婚に対して憧れは、あったとしても僅かだったと思いますが、今はその憧れが分かる気がします。
なんというか、オキニの子と一夜を過ごすというのは少し照れますが、やはり楽しいものです。
楽しい。楽しかったけど、楽しかった分だけ、大きな負債も抱えてしまったよ、ペロロンチーノ。
◇ハーフゴーレム 弐式炎雷
10
ペロロンさんの提案で、お気に入りのサキュバス嬢と結婚プレイしようぜ! って事で行ってまいりました。
結果、最高でした。
いや、それしか書きようが無いよ。レビューも何も、各々憧れてた結婚初夜プレイしてただけだろうし。ただそれが最高。ペロロンさんに感謝だな。
だけどみんなオキニとどんなプレイしたのかは、恥ずかしいからか、俺も含めて殆ど触れてない事に笑う。
そして今回ペロロンさんが準備に使ったお金を、俺達も楽しんだから割り勘にしたんだけど、その費用だけは笑えなかった。
大盤振る舞いしすぎだろう、ペロロンさん。
まあ俺が、割引券使ったけど、デコイデミアさんを大量にレンタルしてきたせいもあるんだけどさ。
◇バードマン ペロロンチーノ
10
ピルティアちゃんと、とうとう結婚しちゃいました!
いい! とてもいい結婚式でした!
やっぱりこういう事は妥協せずに、全力で取り組むべきです。お金なんて気にしちゃ駄目です。
でも建御雷さん、メコンさん。
次に勇者魔王案件の冒険が回ってきた時は、俺も噛ませてください。お願いしますね!
◇天使 クリムヴェール
10
こんにちは。
こちらでは初めてレビューをさせていただきます、クリムヴェールです。
と、言っても以前スタンクさんが、モモンガさん達とレビューを書いているみたいですね。少しだけ気が楽になりました。
レビューは、……満点を付けさせていただきます。
久しぶりに再会した方との、本当に夢のような体験でした。夢魔さんのお店でも同じことが出来そうですけど、夢では無く、本当の体験だというのが、とても良かったです。
やっぱり最後の別れ際が凄い寂しくて、切なかったんですけど、今度は現実で『またな』と声を掛けて貰えたのが、ボクが一番嬉しかった部分ですね。
皆さんの、本当に楽しむためにお店の垣根も超えて行こうとする姿勢は、素直に凄いなと思いました。
◆
ナザリック第六階層。
そこでナザリック警護の為シモベを引き連れ巡回しているシャルティアを感知したアウラは、素早く彼女の元に移動する。
自らの創造主に課せられた使命を果たすのに、丁度いいと思ったからだ。
「やっほー、シャルティア。今ちょっといい?」
手を上げて近寄るアウラを確認すると、シャルティアは手を上げてシモベを下がらせる。それを了承と受け取ったアウラは、シャルティアと並び歩く。
「用件は、なんでありんす?」
「うん、ちょっとアンケートに協力して貰いたくてね」
そう伝えると、シャルティアは少しだけ嫌そうに鼻を鳴らした。課せられた役目の邪魔をするなという事だろう。シャルティアの仕草から、その不満を読み取ったアウラは伝わりやすいように、露骨にため息をついてみせた。
「……はぁ、シャルティア? あたしが至高の御方々が定めた就業時間内に話しかけているんだよ? そこまで言えば、あたしがどの御方の命で動いているか、想像つくよねぇ?」
そう言ってやると、シャルティアはすぐさま理解したようだ。驚いたような、非常に苦手なものに出くわしたかのような、そんな複雑な表情を浮かべる。
「ぶ、ぶくぶく茶釜様の命でありんすか……?」
「ぶくぶく茶釜様の命でありんす」
頷いて答えてやると、シャルティアは観念した様に項垂れる。
もし他の者がぶくぶく茶釜の名前に、苦手とも取れる感情を見せたのならば、アウラはすぐさまそれを正す行動に移っただろう。
だがそれがシャルティアならば話は別だ。
自分達の創造主を含めた関係は、このナザリックにおいてはやや複雑だ。
シャルティアはぶくぶく茶釜に対し、他の御方には見せない感情を見せる。そして自分も、これはマーレも一緒なのだが、ペロロンチーノに対し、非常に不敬ではあるのだけど、時折複雑な感情を抱くことがある。
アウラがマーレに抱く様な、手のかかる弟に抱く様な感情をだ。
一度そんな感情を至高の御方に抱いてしまう事を恥じて、だけどもそれを自らの創造主に相談することも出来ず、シャルティアと共にアインズに相談をしたことがある。
相談を受けたアインズは非常に嬉しそうに笑い、そしてその気持ちを大事にするようにと言って下さった。
それ以来アウラとシャルティア、そしてマーレも、自分達の創造主が姉弟であるという事に起因して生まれた複雑な感情を大事にし、そして楽しむ事にしていた。
だからアウラはその観念して項垂れるシャルティアを、ぶくぶく茶釜様を前にしたペロロンチーノ様のようだと小さく微笑む。
そうしながらも、自らの課せられた使命を果たす為に、懐から尋ねるべき質問が書かれた手帳を取り出す事は忘れない。
「それじゃあ、聞いていくね。問一、最近よくお出かけになる至高の御方々に対して、何か思う事はあるか? この質問の答えは、あたしとぶくぶく茶釜様以外知る事は無いから安心して答えてね」
質問し始めると、やはり唐突ではあったのだろう。シャルティアがアンケートに答える前に、こちらに質問を被せてくる。
「そのアンケート、他の守護者にも聞いて回っているでありんすか?」
「守護者に限ったものじゃないけどね。コキュートスとかには、デミウルゴスが聞いて回ってるみたい。ほらほら、時間ももったいないし、ぶくぶく茶釜様もその時抱いた感情で素直に答えていいって仰っていたから、手早く答えてってよ」
そうアウラに言われ、シャルティアは少しの間腕を組んで考え込み、それでもすぐさま答えを口にした。
「……不満なんて、無いわよ。本来わらわたちは、至高の御方々の留守を守護するために創造していただいたんでありんすから」
「うんうん。まあ、そうだよね。じゃあ、どんどん質問していくねー」
続けて次々に質問、アンケートをアウラはシャルティアに尋ねていく。
普段の仕事はどうだとか、就業時間に不満はあるか、そんな事をいくつも尋ねていく。
これはシャルティアには伝えないが、この質問の殆どに意味は無いとアウラはぶくぶく茶釜から伝えられていた。
いくつかの本命の質問を、それと悟られないために質問を水増ししているらしい。そして当然その本命の質問と言うのは、アウラにも伝えられていない。
「それじゃあ、これが最後の質問ね。……これはシャルティア用の質問だってぶくぶく茶釜様が仰っていたんだけど、ええーとね、ペロロンチーノ様がナザリック外の子に優しくしているのはどう思うか? ……これはカルネ村の子とか、竜王国の子とかについてかな?」
手帳に書かれた質問をアウラが読み上げると、シャルティアはそんな事? と言わんばかりに胸を張って答える。
「どう思うも何も、あの御方の愛はまさしく太陽! 降り注ぐ日の光が、地を這う虫も照らしてしまう事に、いちいち目くじらを立ててもしょうがないでありんすでしょう?」
「……はぁ。……なるほど?」
「そしてペロロンチーノ様を太陽とするならば、わたしは月! あの御方の愛を一身に浴びて、一番に輝くの!」
「…………うん。アンケートに協力ありがとう、シャルティア」
その場でくるりと回ってみせてから答えるシャルティアに、アウラはぞんざいに頷く。手帳にペロロンチーノ様は太陽で、シャルティアは月とだけ書き込みながら。
「……何よ、冷たいわね」
「ペロロンチーノ様がシャルティアを一番大事にしているのは、あたしから見ても間違いないしねー」
「そうでしょう! そうよね! 間違いないわよね!?」
嬉しそうに瞳を輝かせるシャルティアに、アウラは再び適当に頷きながら、手帳を懐にしまい込む。
「ペロロンチーノ様。至高の御方達だけでお出かけになられる際でも、シャルティアを連れてらしたからねー。……最近はそうでもないけど」
そう言うと、シャルティアは痛い所を突かれたように、うっと呻いて口ごもる。
アウラはそんなシャルティアに、はぁと何度目かのため息をつく。ぶくぶく茶釜が望んでいたのは、そういう反応だろうとわかっているからだ。
「ぶくぶく茶釜様が望まれてたのは、取り繕った答えじゃなくて、シャルティアのそういう思いなんだよ? シャルティアは最近寂しいんでしょう? そうならそうって、ちゃんと答えなよ」
「……だって」
シャルティアは手をもじもじさせて、言いにくそうにしている。
「他の御方になら兎も角、ぶくぶく茶釜様になら知られても構わないでしょう? シャルティアがあたしに聞かれて欲しくないならさ。アインズ様にお願いして、後でこの事の記憶はあたしから消して貰うよ」
「……そこまでして貰わなくてもいいわ。……それに不満って訳じゃないの。ただ……」
「やっぱり寂しい?」
コクリと小さく頷くシャルティアの肩に、アウラは優しく触れる。そうしてやるとシャルティアは少しだけ躊躇いながらも、ゆっくりと続けていく。
「あの御方の愛が遠くなったとか、そういうことは一切ないの。ペロロンチーノ様の愛は、本当に大きなものだから。ただ偶にだけど、ペロロンチーノ様は今まで見せられたことの無い表情をすることがあるのよ」
ペロロンチーノ様は常に仮面をされてるけどね。
そう思わず言いそうになり、アウラはぐっと堪える。それにシャルティアも嘘を言っている訳では無いだろう。創造主の感情を読み取れないシモベが、このナザリックに居る筈も無い。
「あれはきっと、本当の男の顔ね。そんな表情を、ふとした瞬間御見せ下さるようになったの」
それから随分長い間のろけとでも言えばいいのか、延々とそんな事を聞かされた。ちょっと優しくしすぎたかなーという思いはおくびにも出さず、アウラはうんうんと頷きながら聞き役に徹していた。
「……ただ、ペロロンチーノ様がそんな表情を見せる様になった切っ掛けを、わたしは知らないわ。それが本当に、ただ悲しいの……」
締めくくる様に言った言葉を一字一句忘れないように、ぶくぶく茶釜に伝えるために心に留めつつ、アウラは大きく頷く。
そういえばもう長い事廓言葉を忘れてるなこの子と思いながら、アウラは一つ質問をしてみる。恐らくぶくぶく茶釜は、こういう感情の揺れをアンケートを通じて知りたかっただろうから。
「それじゃあさ、もしペロロンチーノ様がそんな男の顔を見せる事になった切っ掛けがナザリックの外に―――うーん、なんて言えばいいかな? ……うん、あたし達以外にあったとしたら?」
その瞬間、シャルティアはにたりと笑う。微笑むのではなく、久々に見せる純然たる敵を見つけた時の笑みだ。
そしてゆっくりと時間を置いてから、アウラの問にシャルティアは笑みのまま答えた。
「ぶっ殺す」
アニメ化、コミックス四巻、小説版二巻、アンソロジー発売直前記念!
本当はこれ、三巻発売時に投稿しようとしてたネタでした。
レビュアーズ記念なので、そっち側に寄せようとしています。
正月に一生懸命書きました。
昨年の正月もレビュアーズ書いてた気がします。