至高のレビュアーズ   作:エンピII

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注意

今回も酷い話だと思います。


こげつき亭の依頼 セッ〇スしないと出られない部屋

「<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)>」

 

 スキルを併用したモモンガの放った第十位階魔法の空間切断が、眼前に聳え立つ塔を守る門番ゲート・キーパーを分断した。

 

「……ふむ?」

 

 モモンガの魔法によって切り裂かれた門番、スフィンクスに似た巨大なゴーレムだ、の破片がそれぞれ急速に再生していく。

 

「急速再生のスキル持ちか? いや、分断されたパーツごとに再生し、復活するパターンか」

 

 切り裂かれたパーツが個々に再生をしていき、それぞれが再びスフィンクスらしき姿を取ろうとしている。

 

「面白い能力だが、それを悠長に眺めている私では―――いや、仲間達ではないぞ?」

 

 モモンガの言葉通り、再生を始めたパーツに、次々と放たれた光球が吸い込まれ、消滅させていく。

 残ったいくつかのパーツが、まるで意志を持つかのように怯え退こうとするが、それは足元に潜んでいた、神話級アイテムすら溶かし尽くす酸の沼が許さない。

 残ったパーツを飲み込んだ酸の沼が、いびつながら人のような姿をとり、すべてを溶かし尽くすと、いつもの一抱えほどしかない普段のヘロヘロの姿に戻る。

 

「結構強かったですねー」

 

 門番を溶かし尽くしたヘロヘロが、のほほんと言う。

 そう、この門番は確かに強かった。

 結果として、チームを組んだモモンガ達の敵では無かった。だがそれでも、この門番はモモンガ達の攻撃を受けながらも、最初は反撃までしてきた。

 

「まあ、流石はSランクのこげつき依頼って事ですね」

 

 いくつかの門番の破片を消滅させたペロロンチーノが、ゲイ・ボウを構えたまま油断なく言う。弓を降ろさないのは、一度倒した相手がこちらが油断する頃に復活するという、かつてユグドラシルでもあった出来事を警戒してだろう。

 

「こんなのが入り口を守ってたら、大抵の冒険者は弾かれるか」

 

 弐式炎雷がそう言ってから、軽く手を上げた。周囲の安全は確保したという合図だ。そこでようやくモモンガ達は戦闘の警戒を解き、武器を収める。

 眼前に聳え立つ塔の周囲は、モモンガ達の戦闘の余波で、燦燦たるありさまだ。

 後々まで影響が残るほどでは無いだろうが、いずれこの場にブループラネットを連れてきて、念のため周囲の土地の浄化を頼んだ方が良いかもしれない。

 まあ、それも次回以降で良いだろうと、モモンガ達は塔の入り口まで歩みを進める。この聳え立つ塔に相応しい、見上げるほどに巨大な門だ。かなり大柄な種族でも問題無く中に入る事が出来るだろう。

 

「さて、この依頼がこげついたであろう最大の障害は排除できましたが。……ふふ、皆と初見のダンジョンアタックを仕掛けるのは、いつ以来かな」

 

「……たしかに、久々だね」

 

 そう言って、笑いあう。

 感情が抑制される程の強い喜びでは無いが、それでも穏やかな喜びが、ふつふつと込みあがってくる。

 喜びのまま、モモンガは扉に触れる。

 重厚なその造りに似合わず、扉は然したる抵抗もなく開かれる。そのまま探索役の弐式炎雷を先頭に、塔に踏み入った。

 『冒険者の酒場 こげつき亭』でうけたSランクこげつき依頼。

 始祖のサキュバスタワー攻略の依頼。その達成の為に。

 

「さあ、皆さん。難易度の高そうなこのダンジョンを一発攻略し、こげつき亭の看板娘たちを驚かせ、私達が普通の冒険者―――いえ、普通のギルドでは無い事を、こちらの世界にも知らしめてやりましょう!」

 

 おお! と溢れんばかりの返事が、塔に木霊した。

 

 

 

 

 

 

<魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)>」

<魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)三本烏の先導(リード・オブ・ヤタガラス)>」

 

 モモンガの魔法によって、小さな妖精と、三本足の烏が一行の前に進み出る。

 

「さあ、行きましょう」

 

「あいよ」

 

 モモンガの言葉に弐式炎雷が頷き、二体の魔法によって生み出された先導役の後に続く。

 しばらくは一本道を螺旋状に登っていくだけらしい。

 罠を警戒し、周囲に目を配りながらも、一行は雑談を交えながら歩を進めていく。

 

「だけど、サキュバス淫魔王の遺産とは、妙なこげつき依頼ですねー」

 

 ヘロヘロが今回の依頼を口にした。

 

「ええーと、正確にはサキュバス淫魔王と呼ばれる存在が遺した塔に巣食った古代人の防衛システムの排除、ですね」

 

 モモンガが今回のこげつき依頼状をマジックアイテムを通して読み上げる。

 この塔の最上階に、サキュバス淫魔王と呼ばれる存在が後の世代のサキュバスたちに残した知識が眠っているらしい。

 サキュバスたちはその知識を求めたが、なぜかサキュバスとはまるで関係ない古代文明の種族が一度塔を占拠したらしく、その古代人たちが消えた今も、防衛システムだけは生きているために、手が付けられないらしい。

 その最たる存在が、門番であったスフィンクス型のゴーレムだろう。あれは並大抵の冒険者や軍隊では、歯が立たないはずだ。

 かといって知識と言うあやふやなものを、サキュバスたちもそこまで本気で追い求めていないらしく、龍種や魔王といった存在にまでは依頼を持っていかなかったらしい。

 依頼の報酬も、多少の金銭に、依頼主のサキュバスたちがサービスしますよ的なものだ。正直、依頼難度と報酬が釣り合っていない。

 

「この先の通路に罠。踏んだら防衛システムが発動して、敵が湧くタイプ。時間効率的に正面突破が一番だと思うけど、どうする?」

 

 罠を探知した弐式炎雷がこちらを振り返りながら尋ねてくる。

 モモンガ達の答えは決まっていた。

 

『正面突破で!』

 

 そう言って、駆け出す。

 この依頼は通常とは違う、こげつき依頼だ。それもSランクの。

 依頼達成すれば、サキュバスたちだけでなく、こげつき亭の看板娘達によるサービス付きなのだ。

 勿論モモンガ達の今回の最大の目的は、仲間と共に初見ダンジョンに挑むという行為そのものなのだが、貰える報酬は多ければ多い方が良い。せっかくこちらの世界に訪れているのだ、そういったご褒美も欲しい。

 そしてモモンガ達は特別な許可か申請が無い限り、異世界滞在は一回に付き二十四時間とルールも設けている。

 攻略にそこまで時間が掛かるとは思わないが、その後を考えるならば、楽しみながらも、ダンジョン攻略は早めに済ましておく方が確実だ。

 そのため、転移系でもない限りはわざと罠を発動させる、正面突破の脳筋解除の手段を取る事にした。

 

「おっ、ぞろぞろ湧いてきたぞ」

 

 弐式炎雷が先頭で罠が設置されている通路に踏み入った瞬間、無数の魔法陣が至る所に現れ、そこから武装したドール型の防衛システムが次々に湧き出てくる。

 

「古代人のトラップの癖に、なんでこう見た目がアンドロイドっぽいんですかね?」

 

 ヘロヘロが数体まとめて触手のような手でドールたちを絡めとり、触れた箇所から溶かしていく。

 

「妙な文明レベルだよなー。スタンク達も当たり前の様にアンドロイドとか言うし」

 

 弐式炎雷が体術を駆使し、次々にドールたちを破壊していった。

 

「そんな事言ってたんですか? どんな会話の流れで?」

 

 ペロロンチーノが、自身の羽を飛ばし、ドールたちを貫いていく。

 

「ほら、あのモモンガさんとヘロヘロさんが行ってたお店。そこの話をスタンクとしてたら『アンドロイドレベルの娘ならイケる』とかなんとか」

 

「ほほうー」

 

 雑談を交えながら、ドールたちを次々に破壊していく仲間達に、モモンガは苦笑いする。完全に出遅れてしまった。どうやら今回はモモンガの出番は無いらしい。

 まあこの先にいくらでも出番はあるだろうと、モモンガは今回は譲る事にし、ドールたちの破片を避けながら先を進んでいく。

 そのまま、脳筋解除のままにだ、基本的に一本道を進んでいき、塔の中層に差し掛かったくらいの場所で、初めて道が分かれた。

 先導役の魔法の妖精と烏も、別れ道の手前で消えた。

 役割を終えたという事だろう。

 そしてこのパターンは、どちらの道も両方を行く必要があるという事だ。それもチームを分けて、同時に攻略するタイプだとモモンガ達はユグドラシルの経験からそう予測する。

 チームを分けるなら、探査役の弐式炎雷と魔法詠唱者のモモンガは別れるべきだ。だが、これまでのダンジョン難度からそこまでは不要と判断した一行は、各々指でコインを弾いて落ちてきたそれを手で受ける。ヘロヘロはそれっぽい動きをだが。

 

「……ええーと、俺とヘロヘロさん。それと弐式さんとモモンガさんですね」

 

 コインの裏表で、そうチーム分けが決まった。

 

「それじゃ、この先で落ち合いましょう」

 

 二人と一度別れ、モモンガは弐式炎雷と共に先を進んでいく。すぐに扉が見えてきた。構造的に、この先はフロアになっているだろう。

 

「扉に罠は無し。とりあえず入ろうか?」

 

「ええ」

 

 弐式炎雷の言葉に頷き、二人同時に扉を通る。

 そこはモモンガの予想通りに、広めのフロアになっていた。壁際に小さな彫像が置かれており、その口から飲めそうな水があふれ出ている。まるで、ここまで登ってきた一行を労わるかのようだ。

 勿論飲食不要で疲労も無い二人に、小休止など必要が無い。そのままフロアを抜けようと歩みを進めていく。すると部屋の中ほどまで進んだ瞬間、モモンガ達が入ってきた扉がひとりでに閉まる。

 

「……罠の類はなかったんだけどな」

 

 弐式炎雷が言う。彼が探知出来なかったのならば、これは罠の類ではない筈だ。

 こういう時、ユグドラシルならば何かイベントが起こる。そう例えば、避けられない中ボスがエリアに湧くとかだ。

 しかし少しの間待ってみるが、何も起きない。肩透かしを食らった二人は、軽く顔を見合わせ、出口に向かう事にする。

 だが、出口の扉に触れた瞬間、これまで無かった出来事が起こった。

 

「……開かない。イベントはこれか?」

 

 弐式炎雷の呟きに、モモンガは扉の付近を視線で探る。

 これがイベントの正体ならば、なにかヒントがある筈だ。そしてそれは直ぐに見つかる、扉の右側に一枚の金属製らしいプレートが嵌め込まれており、何事か刻まれている。

 

「……セッ〇スしないと出られない部屋、とありますね……」

 

 マジックアイテムを介して文言を読み上げたモモンガに、思わずという感じで弐式炎雷が吹き出した。モモンガも、そんな弐式炎雷に苦笑いで応えた。

 

「だははは。そ、そういやここサキュバス淫魔王とかいうのの塔だったね。忘れてたわ」

 

「ええ、私もです」

 

「こんなあからさまなトラップかよ。流石サキュバスダンジョン。まあ、いいや。ちゃちゃっと開錠する」

 

 そう言って弐式炎雷が扉に向かい開錠スキルを使用する。

 彼は忍者と言う職業を得るまでに、様々なクラスの積み重ねがある。その為多種多様のスキルを持ち、モモンガを除けば、その手札の多さはギルドでもトップクラスだ。

 そもそもユグドラシルプレイヤーであるモモンガ達に、ただ部屋に閉じ込めるなど何の痛痒にもならない。この扉もすぐに開かれるだろう。

 

「―――ごめん、開錠に失敗した。……嘘だろう、そんな難度じゃないだろう、これ?」

 

「えっ?」

 

 しかし、少し経ってから弐式炎雷が告げた言葉は、まさかの開錠失敗。モモンガの無いはずの鼓動が、僅かにトクンと跳ねた気がした。

 

「も、モモンガさん、一度戻ろうか?」

 

「え、ええ」

 

 問われ、モモンガは頷き<転移門>を発動させる。

 モモンガの魔法によって闇の扉が開かれ、二人でその扉を通る。

 通るが、出た先は同じ部屋だった。試す様に闇の扉に腕だけ伸ばすと、その腕がモモンガの眼前に突き出てくる。中で空間がねじ曲がっているかのように。

 転移魔法で、抜け出すことが出来ない。

 

「ま、まあ、ここから出ないと先に進めないしね。それに俺のスキルはあくまでも副産物みたいなものだし、こういう事もあるよ。勿体ないけど、これ使っちゃうか」

 

 弐式炎雷が板のような形状のマジックアイテムを取り出す。

 アーティファクト、七門の粉砕者エビノゴイ。

 七度しか使えない、九十レベル相当の盗賊の鍵開け能力に匹敵する力を持つアイテムだ。

 弐式炎雷がアーティファクトを扉に当て、力を解放する。

 そして―――

 

「ウッソだろう!? おい!?」

 

 信じられないと言う様に叫びだす。

 瞬間、モモンガの動悸も跳ね上がり―――沈静化される。

 

「お、落ち着きましょう! 弐式さん!」

 

 精神が沈静化されるモモンガと違い、それでも耐性はある筈だが、弐式炎雷は興奮のまま扉を殴りつけた。

 本人は自分を非力と評するが、それでも百レベル近接職の手加減無しの一撃だ。それだけで扉が吹き飛んでも良いはずだが、揺れもしなかった。

 

「くっそ、俺を本気にさせたな!?」

 

 扉が壊れない事に、弐式炎雷は虚空から二対の小太刀を取り出し構え、スキルを発動させる。

 

「<鎧通し>!」

 

 黒い短剣が弐式炎雷の周囲に浮かび上がり、扉目がけ何本も飛んでいく。対象の防御力を削ぐスキルだ。

 

「<頭殺し>! <腕殺し>!」

 

 流麗な動きで、弐式炎雷が扉を斬り付ける。

 太陽の如き眩き煌めきと、月の如き静かな輝きを宿した二対の神話級武器を持つ彼の動きに、思わずモモンガは目を奪われる。

 一度シャルティアに対し振るった事のある武器だけに、その本来の所持者との違いをまざまざと見せつけられた。

 しかし。しかし、それでも。

 

「無傷だと!?」

 

 モモンガは思わず驚愕に声を上げ、再び精神が沈静化された。

 弐式炎雷の一連のコンボを受けても、扉には傷一つない。弐式炎雷は小さく舌打ちし、素早く後ずさる。

 

「退いてて、モモンガさん!」

 

 瞬間、弐式炎雷が別の武器を持ちだす。

 彼の切り札である「素戔嗚スサノオ」。その三メートルを優に超える武器を構える。

 様々なペナルティを抱え、振る速度が非常に遅くなってしまうが、相手が動かない扉ならば問題は無い。

 ユグドラシルで様々なボスモンスターのトドメをさしてきた、一撃に限ればギルドアインズ・ウール・ゴウンでも最強とされる忍刀が、初めて異世界で振るわれた。

 扉に忍刀がヒットした瞬間、凄まじい値のダメージ係数が適用された多段攻撃が入る。

 

「…………ははははは、嘘だろう? ……夢でも見てるのか、これ」

 

 結果、扉には何の痛手も無く、依然無傷。

 そのあり得ない光景に、モモンガは思わず言葉を失う。

 何度精神が沈静化されれば済むのだろうか。

 だが、このままでは、このままでは―――

 

「―――弐式さん。身替りのスキルは使えますか?」

 

「……モモンガさん? あ、ああ! 大丈夫! 気にしないでやっちゃって!」

 

 扉に向かい一歩進んだモモンガの真意を理解した弐式炎雷が下がっていく。その姿に頷き、モモンガもまた切り札を見せる事にする。

 この扉は物理攻撃に絶対的な防御力を誇るのだろう。恐らくそれは魔法力も同様のはずだ。

 だが全てに耐性を持つことなどは、不可能だ。少なくともユグドラシルでは。それゆえに絶対的な力を持つモモンガ達も、どこかしらに必ず弱点を抱えている。それがルールなのだ。

 

 モモンガが持つ職業の一つエクリプス。

 その職業が持つ、本当の意味で死を極めた死の支配者のみが、この職業に就き、日食のごとく全ての生命を蝕むと記載された、百時間に一度しか使用できないと記された特殊技術。

 エクリプスの切り札。

 それを使う。

 

「<あらゆる生あるものの目指すところは(The goal of all life is)死である(death)>」

 

 呟きと共に、モモンガの背後に十二の時を示す時計が浮かび上がる。

 そして、魔法を発動させた。

 

 「<魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)>」

 

 室内に女の絶叫が波紋の如く響き渡る。それは即死の効果を持った叫び声。

 まだ何も起きない。当然だ、このスキルの真価は十二秒経過してからだ。

 効果的に弐式炎雷を巻き込んでしまうが、彼には忍者の特殊技術身替りがある。一度だけ、あらゆる攻撃を肩代わりさせることが出来るスキルだ。そのため心配はない。

 

(……十二秒が長い)

  

 時計の針が、やけに遅く感じる。

 かつてこの魔法は、人造物扱いであるシャルティアのエインヘリヤルだけでなく、生命無き空気や大地すら死滅させた。

 すべてに平等に「死」を与えた。

 

(……頼む)

 

 モモンガは祈る。祈る神などどこに居るのかも知れないが。

 

(……頼むから、通ってくれ)

 

 扉を食い入るように見つめる。もしこれが通らなければ、扉に死が訪れなければ―――

 

(―――弐式さんとセッ〇スなんてしたくない!)

 

 それしか、この部屋から出る手段がなくなってしまう。

 同時に時計の針が一周を終え、再び天を指す。そしてモモンガの切り札は発動し、瞬間、世界が死ぬ。

 

 世界が―――死ぬはずだった。

 

『………………………………………………………………』

 

 モモンガと、スキルを発動させ死から逃れていた弐式炎雷の、長い、長い沈黙が重なる。

 

「……イヤだ」

 

 その長い沈黙を切ったのは、弐式炎雷。

 

「イヤだよ! 俺、素人童貞なのに! モモンガさんとセッ〇スなんてしたくない!!」

 

 一瞬素人童貞が何の事かわからなかったが、すぐに理解したモモンガも叫ぶ。

 

「お、俺だって嫌だよ!?」

 

 久しぶりにギルドのメンバーの前で一人称が俺に戻るほど動揺しながら。

 

「どうするんだよ、これ! どうすれば出れるんだよ、これ!?」

 

 扉は健在だ。モモンガの切り札を受けてなお。

 <あらゆる生あるものの目指すところは(The goal of all life is)死である(death)>の効果がしっかりと発動した証拠に、部屋に流れ出ている水は腐ったような汚水になり、死んでいる。

 それなのに、扉も、壁も、床も、全てが何事も無かったように、そのままであった。

 

「ヤダ! イヤだ! 絶対に嫌だ!」

 

 弐式炎雷が、子供の様に手あたり次第周囲を斬り付け、スキルを振るっている。そんな姿を、モモンガは今までの付き合いで初めて見た。

 

「そうだ! モモンガさん、超位魔法だ! <天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)>! あれならいけるんじゃない!?」

 

 対建築物用の超位魔法の名を弐式炎雷があげた。

 

「そんなのとっくに試しましたよ! でも何の効果もありませんでした!」

 

 弐式炎雷が半狂乱になっている間に、モモンガも取れる手段は、課金アイテムを使ってでも試していた。宇宙兵器の効果が発動した実感はあるのだが、それでもこの部屋にはなんの影響も無かった。

 

 モモンガは、いや、これはギルドのメンバー全員がそうであろう。

 油断を、慢心をしていた。

 この世界でも、自分達に敵う存在は無く、その力は全てに勝ると。

 その慢心が、この結果だ。

 

「もうこうなったら、しょうがない! モモンガさん、モモンガ玉を使おう!」

 

 弐式炎雷の言葉に、モモンガの精神が一気に沈静化された。

 

「ここで!? セッ〇スしないと出られない部屋の為に、世界級アイテムを使うんですか!? 俺、そんな事でレベルダウンするの!?」

 

 思わずモモンガは、普段の仲間に対する口調も忘れ、まくし立てる。

 

「だってもう、それしかないじゃん! 世界級アイテムを使うしか無いよ! 経験値稼ぎは俺も手伝うから!」

 

「どれだけ時間かければいいんですか! というか、嫌ですよ! みんなにセッ〇スしないと出られない部屋を出るために、世界級アイテムを使いましたって、どうやって報告するんですか!?」

 

「セッ〇スセッ〇ス、連呼しないでよ、モモンガさん!」

 

「好きで連呼してませんよ!」

 

 思わず動揺の中、二人でくだらない事で喧嘩になりそうになる。

 

「……ダメだ。ここで俺達が争ってもしょうがない」

 

「え、ええ、そうですね」

 

「だけど、この力の通じなさは、確実に世界級アイテムクラスの無茶苦茶さがあるよ。……認めたくないけど、俺達が取れる手段は、三つだけだ」

 

 その三つを、既に理解しているモモンガも頷く。

 

「モモンガ玉を使って物理的に突破するか。それとも寿命の設定も無い俺達が二人して永遠にこの部屋で過ごすか」

 

 指を立てながら、弐式炎雷が確認していく。

 そして最後に、三本目の指を立てて、言う。

 

「……俺達で、セッ〇スするか。この三つだけだよ……」

 

 その絶望的な言葉に、モモンガもまた、頷く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「あ、ようやく出てきましたねー」

 

 ヘロヘロが間延びした言葉と共に、部屋の扉から姿を見せたモモンガと弐式炎雷の二人に手を振って出迎える。

 

「…………………………………」

 

「…………………………………」

 

 扉から姿を見せた二人は無言だ。無言でヘロヘロ達に合流する。

 

「いやー、しかし。面白いトラップでしたね。まさかセッ〇スをしないと出られない部屋だなんて。プー、クスクス」

 

 粘体の触手で口らしき部分を押さえながら、ヘロヘロは笑う。しかし二人からは反応は無い。その姿にヘロヘロは疑問気に首を傾げ、尋ねてみる。

 

「二人でセッ〇スしてきたんですか?」

 

 瞬間。二人が激高した様に叫びだす。

 

「して無いよ! するわけないだろう!?」

 

「してませんよ! というかなんでペロロンさんは、体育座りで泣いているんですか!?」 

 

 モモンガからの質問には答えずに、ヘロヘロは構わず質問を重ねる。

 

「それで、どうやって部屋から出てこれたんですか?」

 

「モモンガさんにデスじいちゃんとデスばあちゃんをスキルで召喚して貰って、そいつらにヤッてもらったんだよ!」

 

 弐式炎雷が頭を抱えながら叫ぶ。デスじいちゃん、デスばあちゃんというのはデス・エンペラーとデス・エンプレスと言う名のアンデッド系モンスターの事だ。

 

「ほうほう。こちらではそんな事を命じる事が出来るんですねー」

 

「あー! 二人にセッ〇スしろって伝えた時のあの表情! 思い出したくない!」

 

「ちょっと! 直接命令した私の前で、それを言わないでくださいよ!」

 

「だって、あいつ等セッ〇ス終わった後、俺気付いてたからな!? 二人でそっと後手に手を繋いでたの! 何なんだよ、この世界! なんであんな命令が通って、尚且つちょっといい雰囲気になってるんだよ!?」

 

「あーあー! 言わないでー! アイツらと感覚共有を切っても、感情が少し流れ込んで来てた俺の前で、そんな事言わないでー!」

 

「楽しそうですねー」

 

「全然楽しく無いよ!? というかペロロンさんが泣いてる説明をしろよ!?」

 

「ああ、それはですね―――」

 

 説明しようとヘロヘロが話し始めた途端、ペロロンチーノが立ち上がり、涙声のまま叫びだす。

 

「け、汚れてしまった! ごめん、シャルティア! 俺は汚れてしまった! ヘロヘロさんに汚されてしまったー! 助けてよ、姉ちゃん!」

 

「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでくださいよ。少しの間私の身体に取り込んだだけでしょう? PvPでいつもやってる事じゃないですか」

 

 ヘロヘロ達は一通り扉を開ける手段を試した後、早々に諦め、別の手段を試した。

 ヘロヘロのスキルの一つに、対象を自身の粘体の身体に取り込んで、身に付けた装備品と共に相手にダメージを負わせるものがある。それをペロロンチーノ相手に試したのだ。

 

「まあ、私の普段のプレイはサキュ嬢の皆さんを身体に取り込むのが基本ですからね。そのスキルをPvPとして使ってもしてる事は一緒だし、いけるかなーって思ったんですよ」

 

 そしたら無事に扉が開きました。

 そう続けるとモモンガと弐式炎雷は言葉を失い、固まった。ようやく動き出したと思ったら、再び混乱した様に叫びだす。

 

「嘘だろう!? あのスキル、こっちの世界じゃセッ〇スにカウントされるのかよ!?」

 

「あのスキル! ユグドラシルでも、向こうでも、何回も受けているんですけど!?」

 

「だから、PvPとセッ〇スは違うでしょう?」

 

 ヘロヘロが呆れたように伝えるが、それでも二人と泣き続ける一人は納得できないように叫び続けている。

 やれやれとヘロヘロは時刻を確認する。今日中にダンジョンを攻略するには先を急がないといけない。

 

「ほら、どうします? もうそんなに時間も無いのに、まだ半分来たくらいですよ。一応この先を偵察してきましたが、もう少し行くと、また道が分かれてましたよ?」 

 

 そう伝えると、混乱していた三人の動きがピタリと止まる。

 そして―――

 

 

 

『こげつき亭の依頼 セッ〇スしないと出られない部屋』

 

 

◇オーバーロード モモンガ

 依頼未達成のため評価無し

 依頼を達成出来無かったのは、私達があちらの世界に劣っている訳では無く、時間的余裕があまりなかっただけです。

 決して私達は負けていません。

 ただ、制限時間と言う私達が定めたルールに従ったまでです。

 

 

◇ハーフゴーレム 弐式炎雷

 依頼未達成のため評価無し

 この世界のダンジョンアタックは、俺達には早すぎた。

 

 

◇バードマン ペロロンチーノ

 依頼未達成のため評価無し

 泣きそうです。

 

 

◇古き漆黒の粘体 ヘロヘロ

 依頼未達成のため評価無し

 こげつき亭さんのSランクこげつき依頼にチャレンジしましたが、残念ながら未達成に終わりました。

 エキドナのスーネリアさんにお相手して貰いたかったんですが、残念!

 あの長い体を全部取り込んで、楽しみたかったんですけどね。

 

 ダンジョン難易度的には、そこまででもありません。防衛システム自体は力押しで進めるので、苦労はしませんから。

 ただ本来の塔自体のトラップが難敵でしたね。

 ああいうのが、サキュバスダンジョンって言うんでしょうねー。

 もう少し先に進んで、どんなトラップがあるのか、確かめたかったなー。

 

 

 

 

 

 

「ククク、どこぞの誰かが塔の防衛システムをあらかた無力化してくれたおかげで、労せず最上階まで登る事が出来たな、デミアよ」

 

 デスアビスはにんまりと笑いながら背後のデミアに振り返り、そう伝える。

 この塔の存在は勿論知っていたが、依頼の報酬と塔の入り口を守る門番の強さの釣り合いが取れていなかったために、今の今まで放置していたのだった。

 

「サキュバストラップも、わらわの力とおぬしの万能デコイを使えばさほど苦労もない。このままこの塔に眠るサキュバス淫魔王の知識というものを、拝見しようではないか」

 

「んー、デスアビスぅ? 私としては、こんな火事場泥棒みたいな真似はあまりしたくないのだけど?」

 

「あの突如現れた神格集団のことか?」

 

 デスアビスはそう試す様にデミアに笑い掛ける。

 

「……やっぱり知ってた?」

 

「知らないでか。どこぞの街で毒竜の希少な素材が大量に流れ出た。フラスパ大聖堂周辺に、謎の天使が六体出現したという報告もある。全部そいつらの仕業であろう?」

 

 意地悪く笑いながらデスアビスは、最上階のフロアを突き進む。

 この塔周辺の戦闘痕。あれも並大抵の存在が残せるものでは無い。

 何よりこの塔を貫く、天上からの光を見たというものも居る。その者はあれはまるで天上から降り注ぐ剣のようであったと証言している。

 

「そんな奴らを、おぬしが放っておくわけがあるまい?」

 

「まあ、確かに、知り合いではあるけど。それで、どうしてほしいの?」

 

 デスアビスはフロアの中心部に浮かぶ一枚のプレートを拾い上げる。これがサキュバス淫魔王の遺産だろう。

 

「紹介しろ。やつらの力を借りれば、今度こそ政権を取れるかもしれん」

 

「んー、あの人達。あんまりそういうのに向いて無い気がするけど。それで、デスアビス。遺産にはなんて?」

 

 デミアの質問にデスアビスが、プレートに刻まれた文言を読み上げる。

 

「なになに。『おめでとう❤ ここまでたどり着けたみんなの絆こそが―――』」

 

 そこまで読み上げて、デスアビスはプレートを床に投げつけて捨てた。

 




EDのハッスルタイム、いきなり規制されてるんですけどぉ!?
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