「くっ……殺せ!お前たちのようなケダモノに辱めを受けるくらいなら……いっそ殺せッ!」
「くくく……はっーはははははは!」
女騎士の悲痛な叫びに、白い尋問服に身を包んだ男は哄笑で答えた。
「何が可笑しい!?」
「……いや、すまない。笑うつもりは無かったんだ。だが、お前があまりにも見当違いな事を言うのでな」
くつくつという笑い声が、尋問服の下から聞こえてくる。この男は本当にそう思っている。名誉と誇りを守り、辱めを受けるくらいならば死を選ぼうとする騎士の気高き魂を、本気で嘲笑っているのだ。
「――教えてやろう」
言葉と共に、尋問服が一瞬で燃え尽きる。
尋問服が燃え尽きた後に現れたのは白い骨の体。スケルトン。生きとし生けるもの全てを憎むアンデッド。
「くッ!」
女騎士は気丈にもスケルトンを睨みつける。その視線を受けて、スケルトンの窪んだ眼窩がゆっくりと女騎士に向けられた。
右の眼窩に、暗い炎の様な光が灯る。
「お前は自分を殺せというが、死はこれ以上の苦痛を与えられないという意味で慈悲である。……お前には私が、それほど慈悲深い存在に見えるのかな?」
スケルトンが女騎士に向け歩み寄る。
豪華な指輪が嵌められた骨の指がゆっくりと、ゆっくりと女騎士に向け伸びていった。
「あ……ああ……あああッ!」
恐怖に、声にならない呻きが漏れる。歯がガチガチと音を立てる。震えが止まらない。
怖い。殺される。いや、死よりも恐ろしい何かが、あたしに起ころうとしている。
あたしは再びこのアンデッドに死を望むだろう。今度は誇りを守るのでもなく、苦しみから、生という苦しみから解放されるために死を乞うだろう。そしてこのアンデッドは再び笑うのだ。あたしの苦しみを、ただただ楽しむために。
「楽に逝けると思うな……ニンゲンよ」
骨の指が顎に触れた瞬間、女騎士というたがが外れた。そして――
「ふえーん」
盛大に泣き出した。
「……えっ?」
泣き出した女騎士のコスプレをしたサキュ嬢に、モモンガはどういう事と尋ねる様に弐式炎雷達に振り返ってくる。
先ほどまでモモンガが着込んでいたものと同じ、白い尋問服に身を包んだ弐式炎雷が呆れたような声を上げる。女騎士が泣き出すのも無理ないだろうと、心底呆れた声を。
「……うん、モモンガさん。やり過ぎだから。ガチアインズモードなんて、普通の人は耐えられないから」
「い、いえ、私としてはやり過ぎたつもりは……。本当なら同時に絶望のオーラも噴き出させるんですが、今回はプレイという事で控えましたよ?さ、最後の台詞だって『逝ける』と『イケる』を掛けた私なりのユーモアで……」
「絶対通じてないし。……ああ、もう」
弐式炎雷がぽりぽりと後頭部を掻くふりをしながら、盛大に泣き続ける女騎士――そのイメージプレイをするサキュ嬢に歩み寄る。
長い金髪の、恐らくだが人間だろう、その泣き続けるサキュ嬢の前にしゃがみ込みポンポンと頭を優しく叩く。
「あー、ごめんね。あの人さ、死の支配者ロールが本職みたいな人だからさ、ちょっと驚かせちゃったよな」
恐らくちょっと驚いた程度では無いだろう。先程までは天井から垂れ下がった鎖を掴んで拘束されているフリをしていたが、今はもうそういう体裁も無しにガン泣きである。
「……ぐすんっ……あ、あたし、殺されないの?死ぬことが慈悲って思えるほど、ひどい目にあわないの?……ぐす」
「大丈夫大丈夫。そんな目に合わせないから。だから泣き止んでくれよ。そうだ、何かお詫びは出来る?何でも言ってくれていいよ」
「ぐす……じゃあ、あたしが出演してるサキュバスムービー買っていって……」
「……逞しいな。うんうん、買う買う。どこで売ってるの?」
「……店頭でも販売中……ぐすんっ。……旧作一本1000Gで、最新作は2000G。全部買うと9000Gだけど、わたしを指名してくれたら、8000Gにまけられる」
「……結構出演されてますねー……。うん、俺が君を指名するからさ、機嫌直してくれよ」
「……お買い上げ、ありがとうございます。じゃ、じゃあ、個室に一緒に……だ、だめー。さっきので腰が抜けちゃって、立てないー」
「了解了解。……ほいっと」
腰が抜けたという女騎士を弐式炎雷が担ぎ上げる。お姫様抱っこの状態だが、ナーベラルにもこんな事したことないなと弐式炎雷は思う。
「悪いけど、この子は俺が指名するよ」
女騎士を抱き抱えながら、弐式炎雷は仲間達にそう宣言する。
本当はラビットガールと言えばいいのか、長いウサギ耳とウサギのようなふわふわした尻尾が生えた子が気になっていたのだが、今回はしょうがないだろう。弐式炎雷はナーベラルに三つある兎さん魔法を全て覚えさせるほど、ウサギさん好きなのだ。
そういや個室ってどこにあるんだと、弐式炎雷は辺りを見渡し、ついでに他のサキュ嬢の様子も観察する。他の囚われた女騎士たちは、直接モモンガの支配者ロールに付き合わされたこの子程のショックは受けて無さそうだ。フォローは必要なさそうで、ほっと胸を撫でおろす。
「おー、盛り上がってるかー?でも、ここでヤるんじゃねーぞー」
安心した弐式炎雷の前に、受付に居たこの店の店長、いやおかしらか、が姿を見せる。
「お前はその女騎士か。アンタらはどの女騎士にするんだ?」
「私は、その一番おっぱいの大きいミノタウロスの女騎士さんでお願いできますか?」
おかしらの問い掛けに、シーツを頭から被ってオバケの真似をした幼児そっくりのヘロヘロが女騎士の一人を指名する。どうやらこの世界では、粘体も外装を着込むことができるらしい。
「おう、いいぞぉ。有翼人のアンタはどうする?」
「うーん、ちょっと大きい子ばかりですねー。ロリの女騎士はいますか?」
「あと少し待ってくれれば、攫ってこれるぞ。それでいいか?」
恐らく出勤待ちのサキュ嬢にロリな子が居るのだろう。わざわざ出勤を攫ってくると言うあたり、演出が細かいなーと弐式炎雷は感心する。ペロロンチーノはそのおかしらの言葉に小躍りしながら頷いていた。
「じゃあ、私は―」
そういってモモンガが次は自分の番だと女騎士達を見渡すが、途端全員が激しく首を振って拒否をする。先程のモモンガのアインズロールっぷりを見せられては、無理も無いだろうと思う。
「ええええ……」
「……悪いが、アンタはご褒美無しだな。今回は我慢してくれよ」
『イメージサキュバス店 おかしらのアジト』
◇オーバーロード モモンガ
1
NGを喰らいました……。
女騎士のイメージプレイという事で、アインズとして蓄積した経験値をフル活用し、私なりに全力で女騎士を捕まえたアンデッドを演じたのですが、それが裏目に出てしまいました……。
弐式さんがフォローしてくれたおかげで出禁になる事はありませんでしたが、残念です。前回レビューしたニンフさんのイメージプレイ店程、がっつり演技ってお店では無いんですね。
燃やした尋問服代もしっかり払わせられましたし、これはまあ、私が悪いんでしょうけど。今回はおとなしく、皆さんのプレイが終わるのを外で待っていました。
でも皆さん。延長するなんて、聞いていませんでしたよ!
◇バードマン ペロロンチーノ
10
奇跡って、あるんですね!
ビビビッと来るロリな子が居なかったので、おかしらにお願いして攫って来てもらう事に。個室で一人待つこと数十分。とうとうその時は訪れました。
「あれー?ペロロンさんじゃないですかー」
ピピピピ、ピルティアちゃん!?どうして君がこの店に!?
軽装の騎士鎧に身を包んだピルティアちゃんがそこに居ました。なんでもピルティアちゃんは色々なお店に在籍しているらしく、このお店にもたまに出勤しているそうです。ハーフリングはコスチューム指定アリのメニューが大人気で、こういうお店は指名を取りやすいらしいですよ。
「ロリコンばっかりですよーw」
とはピルティアちゃんの談。
肝心のイメージプレイは、突如偵察中にゴブリンに襲われ、先輩騎士と従者が全滅した中、騎士叙勲を受けたばかりの新人女騎士のピルティアちゃんが一人残され、ゴブリン達に凌辱されるのをただ待つばかりだった絶望する彼女の前に、金色の粒子を鎧から曳きながら颯爽と登場する謎の仮面騎士と恋に落ちるという、壮大なストーリーをリクエストさせてもらいました。あ、謎の仮面騎士は勿論俺の事ですよ?
二人で役作りから始めたため、時間延長をお願いしました。ダブルって言うらしいですね。
今日はピルティアちゃんに女の子にしてもらって、男の子の俺もピルティアちゃんに気持ちよくして貰えた、大大大大大満足な一日でした!
―追記―
いや、これサキュバス店のレビューじゃなくてピルティアちゃんのレビューだろうと、今回のレビューを弐式さんに渡したらそう怒られました。
なので、もう少しお店の事にも触れておこうと思います。
お店的には色々な種族のサキュ嬢さんが在籍しているので、イメージプレイ抜きでも手っ取り早く異世界を体験したいというサキュバス初心者向けのお店とも言えます。まだサキュバス店を経験してない方達はこのお店で異世界デビューするのも、俺はアリだと思いますよ!
◇ハーフゴーレム 弐式炎雷
9
なぁ、逆膝枕ってどう思う?
お店に関してはペロロンさんが書いてくれると思うから、割愛するよ!
今回はモモンガさんのアインズモードに腰を抜かした長い金髪の女の子を指名。お店一番の演技派って事で、モモンガさんの支配者ロールのお相手をさせられた可哀想な子です。
個室まで俺が運んでベッドに寝かせたんだけど、シャワーにも入ってないから当然そのままプレイするなんて事はせず、折角だから買ってきたサキュ嬢さんのサキュバスムービーを一緒に見る事に。
いや、あれだね。そういうムービーに出演している女優さんと一緒に、そういうムービー見るって、逆に俺の方が照れるね。
俺もベッドに腰掛けたんだけど、そしたらサキュ嬢さんがモゾモゾと這いずって俺の膝にポスンって頭を置いてきた。その状態で自分が出演してるサキュバスムービーの解説を笑顔でしてくれてたんだけど、やべえ、なんかすげえ照れる。けどこの子すげえ可愛い。
しばらく一緒にサキュバスムービー観てたんだけど、だんだんお互い口数が少なくなってきて、そういう雰囲気に。
この時点ではまだシャワーも浴びてなかったし、俺もいつもの忍者装束で姿をまだこの子に晒してなかったから、驚かしちゃうかなってちょっと躊躇ったんだけど、サキュ嬢さんから「人間種じゃないんでしょう?膝枕してもらってたから、わかるよ」って言ってくれた。そういや途中で股間を、さらりと撫でられたかも。
サキュバスムービーを全部購入してくれたお礼に女騎士以外のプレイもしてくれるというから、長い金髪をポニーテールにしてもらって、彼女の私物の深い茶色のローブという変哲もない服装をお願いした。一緒にこういう性格の子でって説明すると、「畏まりました。弐式さ―――ん」と。
もう我慢できませんでした。俺が襲い掛かると「な、何を!?弐式炎雷様!」って、そういう所でナーベからナーベラルに戻っちゃうところも凄い演技派だ。反応が、俺が伝えたナーベラルっぽい。
延長ですか?勿論しました。
別れ際に「……次は黒髪のウィッグとバニーガールの衣装も用意しておくから、また遊びに来てね」と耳打ちしてくれた。はい、絶対来ます。我ながらチョロイな、俺。
ペロロンさんのレビューに駄目出ししたけど、これ俺も大差ねーな、ごめん、ペロロンさん。
◇古き漆黒の粘体 ヘロヘロ
9
すっごい大きな胸をした子がいたので、思わず指名してしまいました。
ミノタウロスの女騎士とは斬新ですね。とにかくおっぱいです、それにつきます。勿論理想のサイズはソリュシャンなんですけど、男はおっぱいの大きさには抗えないんですよ。帰りにペロロンさんには全否定されましたが。
プレイ的には折角の女騎士さんがお相手ですので、私は知性の無いエロスライムに徹することに。エロゲーRPGの序盤に出てくる、アイコンにピンク色のハートマークが浮かんでいるタイプの粘体です。
「ピギィー!(生殖本能の赴くまま女騎士に襲い掛かる私)」
「う、うわぁー。このー、わるいすらいむめー、騎士として……えーと……とにかくやっつけてやるぅー」
「ピ、ピギィ?(余りにもな演技力に、このままイメージプレイを続けていいのか躊躇う私)」
「……ごめんなさいー。色々な格好するのは好きなんだけどー、演技はあんまり自信ないんだー。でも、その分体は丈夫だから、好きな事をしてくれていいよー」
「ピギィー♡(ある程度無茶出来るとわかり喜ぶ私)」
こんな感じでした。
まあ、無茶をするといっても、流石に再生能力の無い種族のサキュ嬢さんを溶かすのは可哀想なので、覆いかぶさって丸ごと私の体の中に取り込む程度に収めましたよ。あ、ちゃんと呼吸は出来るように工夫はしてますよ?
取り込んだサキュ嬢さんを、私の体の一部をあれっぽくして作った触手で、ありきたりですが上の口と下の口に咥えさせて楽しみました。自分の体の中に取り込んだ女の人の中に、自分の一部が侵入していく快感は、粘体ならではでしょうね。取り込んでいるのに、取り込まれるというんでしょうか?これはハマってしまいます。
延長ですか?ええ、勿論しましたとも。
◆
「……私が外で待ってるって知ってるのに、延長までしてくるなんて……。おかげでこんな時間になっちゃったじゃないですか!」
ナザリックの宝物殿に戻ってきたモモンガ達は淡く発光する異世界に繋がる扉に、光を通さない扉をすっぽりと覆る事のできる大きな布をかぶせる。この場に入れる者は限られるし、わざわざ来ることも無いだろうが、そうしないとこの扉の存在がバレてしまうからだ。
「ごめんごめん。いやー、楽しいお店でさ。すっかりハマっちゃった」
「ですね!まさか今日二回もピルティアちゃんに会えるなんて、夢のようでした。あ、ピルティアちゃんってなんか、シャルティアに名前が似てません?これって運命なんでしょうか?」
「どういう運命ですか。でもそうですね、私も二軒目のお店は楽しめました」
「……私は二軒続けて失敗でしたけど……」
つやつやした仲間達に、モモンガは恨み言を述べる。その恨み言を聞くと、弐式炎雷は嫌らしい笑みを、表情は無いから雰囲気だが、浮かべる。
「あれー?モモンガさん、そんな事言っていいのかなー?」
「な、なんですか、弐式さん?」
「いやー、俺もモモンガさん一人外で待たせるのは可哀想だなーって、一体分身を送ったんだけどさー」
「ほうほう?」
「ちょ!?弐式さん!?」
「では外で一人待つ我らがギルマス、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の物真似です。『……ショートコースなら行けるな……』。そう言ってモモンガさんはサキュバス街に消えていきました」
「やめてー!それ以上言わないでー!」
「ねえねえ、モモンガさんが歩いて行った方向さ、この前行ったニンフ専門店の方だよね?いいのかなー、モモンガさん。二回も、それも一人で行っちゃうなんて、完全オキニだよね」
「そ、それを言ったら弐式さんだって、今回のお店の子が完全にオキニじゃないですか!また次行く約束をした――」
「アインズ様、オキニってなんですか?」
モモンガの台詞を遮り、今回扉を使ったメンバー以外の声が、突如聞こえた。
「う、うぉ!アウラ!?」
「ぶぃ!」
振り返るモモンガ達にアウラが両手にピースを作って微笑んでいる。
「だ、駄目だよ、お姉ちゃん。御方達がお帰りになられたんだから、まずはご挨拶をしないと……」
アウラの影からマーレが姿を見せ、そして二人揃って跪く。
『お帰りなさいませ!アインズ様、ペロロンチーノ様、弐式炎雷様、ヘロヘロ様!』
「う、うむ、出迎えご苦労。しかしなぜお前たちがこの場に?ここはギルドの指輪無く入れる場所では無いが……」
尚且つ指輪を使い転移した場所からも離れている。マーレの指輪を使い、宝物殿に転移してくることは可能でも、わざわざ来る場所では無いはずだ。
「お、お出迎えありがとうね、アウラにマーレ!あ、俺用事を思い出しましたから、先に寝ますね。お、おやすみなさい――」
用事を思い出したから寝るという訳の分からない言い訳を使い、ペロロンチーノが自身の指輪で転移し、消える。
「あ、私もソリュシャンに話があるんでした。二人とも、ご苦労様です。それじゃあ失礼しますね」
そう言ってヘロヘロも転移して宝物殿から消える。逃げたとモモンガが確信すると同時に、最後に残った弐式炎雷も影に沈もうとしていた。
「逃がすかぁ!《グラスプ・ハート/心臓掌握》!」
モモンガは即座に魔法を詠唱し、弐式炎雷の行動を阻害する。
「ぐぉ!ふ、普通いきなり友達に第九位階魔法を使うか!?」
「逃げようとする弐式さんが悪いんですよ!」
スキルでの魔法強化を全て外した状態で使用した為、当然の様に弐式炎雷の抵抗レジストが成功する。目的は朦朧状態にさせ、弐式炎雷のスキル発動を阻害する事だ。もっと安全な方法もあっただろうが、咄嗟だったために、一番の得意魔法が出てしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて双子が弐式炎雷に駆け寄る。弐式炎雷は当然ダメージなど受けていないが、行動を阻害され尚且つ心配する二人に縋りつかれ、諦めたように影から這い出てくる。
「……ありがとう、アウラにマーレ。いやほら、全然大丈夫だから。モモンガさんも手加減してくれてるし。で、どうして二人ともここに居るんだ?」
弐式炎雷にダメージも無く、喧嘩したわけでもない事に安心したのか、双子は胸を撫でおろしてから口を開いた。
「はい!最近至高の御方々が忙しくされてるとお聞きして、何かお手伝いすることは無いかなって、二人でお探ししていました!」
質問に元気よく答えるアウラに、モモンガと弐式炎雷の、二人揃ってない筈の心臓がチクリと痛む。
「あの、その!御方の皆様が宝物殿によく出入りされていると、ぶくぶく茶釜様からお聞きして、ぼ、僕達も何かお手伝いしようってお姉ちゃんと」
さらに無いはずの心臓が痛んだ。
「……ああー、ありがとうね。二人とも。でも俺達は大丈夫だし、その気持ちだけ受け取っておくよ、な、モモンガさん?」
「ありがとう、アウラにマーレよ。弐式さんの言う通りだ。……二人とも、もう夜も遅い。このことは茶釜さんは知っているのか?」
「……実は、黙ってきちゃいました」
気まずそうにしゅんとする二人に、モモンガと弐式炎雷はそのいじらしさにアウラとマーレの頭を思わず撫でてやる。
撫でられた二人は嬉しそうに破顔し、くすぐったそうにモモンガと弐式炎雷に身体を摺り寄せる。
「……このことは私達だけの秘密としよう。私たちがこの場で何かしているのは事実だが、危険は一切ない。安心して二人とも休むと良い」
そうモモンガに諭され、二人は元気よく返事をし、マーレの指輪を使い転移していく。モモンガはその二人に手を振る弐式炎雷を、恨めしそうに振り返る。
「……弐式さん?」
「……悪い。完全油断してた。いくらアウラ相手でも、あそこまで接近されてて気づかなかったのは忍者失格だな」
項垂れる弐式炎雷に、油断していたのは自分も一緒だと、非難めいたことを言ってしまった事をモモンガは謝罪する。
「あの二人が、お手伝いをしてくれようと私達を探し回ってる間、私達はサキュバス店で遊んでいたんですね……」
「……やめてくれ、モモンガさん。その台詞は俺にも突き刺さる」
「あんな純粋でキラキラした目で見つめられて、私達はあの二人が尊敬してくれる大人になれたんでしょうか?」
「いや、設定的には二人とも七〇歳以上で、俺らより年上だし!」
「設定じゃないですか、それ」
「……じゃあ、これからサキュバス街に行くの控える?」
「いえ、それは……。……また行きたいです」
絞り出すようなモモンガのうめき声に、弐式炎雷も頷く。
「……ですよねー。俺だって、また行くって約束しちゃったし」
色々と覚えたてで、まだまだ色々と知りたがりな二人は、出る筈も無いため息を、揃って吐き出すのだった。