あのサキュバス店、めっちゃ興奮した。
妻と知り合ったのは、大学のサークルでだった。
やや面長で秀麗な顔立ちに白磁の様な肌。下世話なサークルメンバー達は彼女の豊かな胸をよく話題にしていた。それでいてふとした仕草が非常に楚々としており、育ちの良さが、両親に愛情をもって大切に育てられたのだろうというのが窺えた。
そんな彼女のサークル内での人気は当然高かった。よく言い寄られているところを目撃したものだ。そのたびに彼女は困っていたし、度が過ぎる様ならば私が間に入りもしていた。
そんな彼女だからこそ知り合ってすぐに意気投合、と言った事は無かった。彼女はあまり自分の意思を伝える女性では無かったし、私も積極的に異性に話しかける人間では無かったからだ。彼女が気になりこそしたが、会えば少し話をする、その程度の関係が三か月ほど続いていた。
親しくなったきっかけは今も覚えている。メンバーとのちょっとした会話、小さいころに何が好きだったか、そんな話題が挙がった時だ。
私は古い特撮もの、特に変身ヒーローが好きだ。それに憧れ、今も警察官を目指している、そう正直に語った時だった。
当然、大いに笑われた。
そんな反応は慣れっこだったし、女性のサークルメンバーからはそういうのが好きだったなんて意外と、揶揄われもした。一通り笑われ、話題が移り替わる頃、彼女が小さく、揶揄う様な笑みでは無く純粋な笑みで、私に話しかけて来てくれた。
「私も、特撮ヒーロー好きですよ」
そう、言ってきてくれた。
それからは親しく話すようになり、すぐに自分から想いを伝えた。あの時の驚いたような彼女の顔、それでも嬉しそうに、そして少しだけ潤んだ瞳は忘れない。
二人で色々なところに行き、色々な思い出を作り、共有していった。男性と付き合うのは初めてという彼女。自分も今まで付き合ってきた女性とは違う魅力を持つ彼女に、初めて女性に強い感情を抱くようになっていった。
自分が警察キャリア試験に無事合格し、その頃に家族を紹介し合った。お互い自然結婚を意識し始め、卒業と同時に入籍した。
幸せな毎日だった。
忙しく、中々二人の時間を取れない自分を、彼女はいつも笑って献身的に尽くしてくれた。順調にキャリアの道を歩み収入も安定し、二人で相談し、少しだけ無理をしてアーコロジーに家を持つことにした。
本当に幸せな毎日だった。
家を持ち、その家を彼女が、妻が守ってくれる。幼いころの夢でもある正義の味方にもなれ、傍らには美しい妻。何一つ不満など無い、充実した、本当に充実した毎日。
そう、あの日までは。
切っ掛けは、家の中にあるほんの僅かな違和感。職業柄些細な差異には聡い。微かに残る痕跡に、すぐ気づいてしまう。
妻は白絹の様な美しい髪をしている。その彼女とインセクトの自分が住まう家にはあり得ない痕跡。
床に落ちていた黒い、そして短い毛髪。訝し気に拾い上げると、その正体に気付く。
黒く細い、柔軟で独特のぬめりがある毛髪。これはカシミヤだと、気付いてしまった。
気付いた瞬間、思わず口を手で押さえた。凄まじい嘔吐感。自分の異変に妻が慌てて駆け寄ってきて、体を支えてくれた。
こちらを、私を心配するその表情に、嘘は無い。嘘が無いだけに信じられなかった。この彼女が、妻が、不貞を働いたかもしれない。
あり得ない。妻の、彼女の愛情を疑うなど、私はどうかしてしまったのだろうか。だが、一度気付くと、痕跡は様々な場所から見えてくる。
僅かに動かされた形跡がある家具に、使われたと思われるスリッパ。普段なら気にしなかった変化が、たった一本のカシミヤによって、全てが異変となりこちらを狂わせる。
翌日は病院に行くと偽り、仕事を休んだ。
付き添うという彼女を安心させるように無理やり微笑み、その足ですぐさま盗聴器一式を用意した。一般販売されているものでは無く、ツテが無ければ手に入らない高性能のもの。職業柄、そういったものが何処で手に入るのかはわかっていた。帰るなり妻には疲労がたまっていただけと嘘をつき、彼女が寝静まったころを見計り、家の至る所に盗聴器を設置した。
盗聴器を設置し、数日は何の異変もなかった。仕事は年次休暇を強引に使い、無理やり休んだ。家の近くに車を止め、盗聴を続ける毎日。ほんの僅かな物音に動悸が激しくなり、汗が噴き出してくる。
だが無理やりに取得した休暇が残り少なくなっても、何の異変も起きなかった。その頃には、やはりすべては自分の勘違いだったと思えるように感情が変化していた。
今まで疑ってしまっていたことを妻に正直に伝え、謝ろう。誠心誠意、心を籠めて謝れば、妻もきっと私の行いを許してくれるだろう。
そうだ、詫びるだけは無く、久しぶりに外に二人で食事に出掛けよう。店は二人で初めて訪れたあの店が良いだろう。予約をしようと、携帯端末に手を伸ばす。
瞬間、心を、心臓を掌握されたような衝撃に襲われる。
玄関が開く音。そして盗聴器から聞こえる微かな硬質な足音。音の間隔から歩幅も知れる。男の足音だ。そしてこの硬質な音は―――蹄。
『ククク、待たせてしまったかな?』
『……貴方なんて、待ってなどいません』
『これは失礼。扉の鍵は開いていたので、歓迎されていると勘違いをしてしまったよ』
くつくつと嘲笑うかのような声。この声に、私は聞き覚えがあった。良く知る男。
「……ウルベルト・アレイン・オードル……」
漏れる怨嗟の声。なぜあの男が家に、妻しか居ない私の家に現れるのだ。
『では私はこれで失礼するとしよう。歓迎されていない場に長居をするほど、無作法ではないのでね』
ウルベルトが踵を返す。そうだ、そのまま送り出すんだ。そうすればすべては無かった事に、再び二人で笑いあえるあの日常が帰ってくる。頼む、どうか送り出してくれ。
『……あっ……ウルベルトさんっ……』
妻の漏らした声に、踵を返した蹄の音がピタリと止まる。絶望のあまり、思わず手で顔を覆う。
なぜ、なぜ声を、なぜウルベルトの名を呼び、引き留めた!
「くっ!……ぐぅ……!」
思わず涙が零れそうになるのを、必死で堪える。力任せに拳をハンドルに叩きつけた。声が、嗚咽が漏れる。胸奥に、感じたことの無い暗い感情が生まれ、それがちらちらと心を舐めてくる。
『随分愛おしそうに、私の名を呼ぶじゃないか。それほど私が恋しかったかな?』
『そんな……貴方が恋しい訳ありません……。貴方は……ただのセフレです』
(セフレっ!?)
貞淑な妻から発せられる筈の無い言葉に、体が震える。一体私は、俺は何を聞かされている。
『……それはそれは。フフ、それほど私が良かったのかな?あの男と比べて?』
『……あの人の話は、しないでぇ……!あんッ……ああ、そんな……いじわるをばかりを』
『言わないと、続けないよ?』
『ウルベルトさんがッ……!ウルベルトさんの方が、ずっといいんですぅ!あの人の交接器より、ウルベルトさんの動物―』
「…………っ!」
衣擦れの音と、私が聞いたことも無い妻の甘い声。その甘い蜜に、いや毒に誘われた蟲のように、私のハンドルを叩きつけた手は、別の場所にと伸びて行った。
『禁忌と喪失のNTR専門店 扉のスキマ』
◇オーバーロード モモンガ
8
NTR専門店という事で、色々とルールのあるお店でした。
それ自体は問題無いのですが、いきなりNTRと言われても、女性と付き合ったことの無い私は正直ピンときません。そんな私がこのお店を訪れた理由は、ペロロンさんから寝取り役を依頼されたからです。
私にそんなプレイは出来ませんよと正直に伝えたのですが、どうしてもと頼まれました。まあ、内容的には私は玉座に座っているだけの簡単なものでしたが。
諸王の玉座を模した、わざわざあまのまさんに依頼したそうです、アイテムに座り、その私の上で、シャルティアのコスプレをしてくれたサキュ嬢さんが跨るという、よく分からないプレイ。
ハーフリングのピルティアさんという、ペロロンさんのオキニです。このお店にも在籍しているらしいです。その子が悪戯っぽく微笑みながら私の体を弄るのは、正直視覚的に興奮してしまいそうでした。
まあ、興奮しそうでしなかった理由は、その光景をガン見しながら号泣するペロロンチーノが、目の前に居たからなんですけどね。
泣くほど辛いならもう止めましょうと言ったのですが、結局時間一杯そのままでしたよ……。
高得点の理由は、ペロロンチーノがどれだけ泣いても叫んでも、彼からストップがかからない限り躊躇無くプレイを続けた、ピルティアさんに対してですね。
◇インセクト たっち・みー
10
素晴らしいお店ですね。
何よりも、こちらの熱意に応えようとしてくれるお店のその姿勢に、心を打たれました。こちらが望めば望むほど、力を入れれば入れるほど、その上を行く拘りを見せてくれる、そういうお店でした。持ち込んだシークレットハウスを使ったプレイにも対応してくれて、感謝に堪えません。
妻とは幼馴染だったのですが、やはり現実とプレイは切り離すべきと、シルキーのサキュ嬢さんに合わせ設定を変えました。こういう要望にもすぐに対応してくれる素晴らしい女性でした。シチュエーション的に盗聴器越しというプレイ内容にさせて貰いましたが、水晶レターにプレイ内容を録画するサービスもありますのでその点も安心ですね。ナザリックに戻りこのレビューを提出次第、内容の確認をしたいと思います。
本番無しというのも、元警察官としては安心できます。私と同じくパートナーを持つ方は、このお店に足を運ばれるのも、良いのでは?
最後に、寝取り役という難しい役柄を演じて下さったウルベルトさん。忙しいなか、私のリアル世界での自宅と車を模したシークレットハウスを作成して下さったあまのまひとつさん。お二人に最大の謝辞を述べさせて貰います。
お二人とも、ありがとうございました!
◇悪魔 大災厄の魔 ウルベルト・アレイン・オードル
8
あの人は、なんで俺を寝取り役に指名するんでしょうね?
意味が分かりません。どういうイメージを俺に持ってるんだ、アイツ。
どうしてもと頼まれたので、音声のみ、台本は全てたっちさんが仕上げるという二つの条件付きで了承しました。
はっきり言って、NTRというものが理解できません。理解できませんが、悪魔の嗜好はそういうのが有りみたいですね。あくまでも寝取られでは無く、寝取りにですが。
元人間の感情が悪魔の嗜好に付いて行けなくて、久々に吐きそうになった。
高評価は、完璧なロールを魅せたシルキーの彼女に敬意を表して。
◇バードマン ペロロンチーノ
10
うう、俺にはNTRは無理でした……。
シャルティアが、シャルティアがあんな愛おしそうにモモンガさんの骨の体を……。なんで、なんでそんな動物みたいな真似が出来るんだよぉ!
こんなのって、こんなのって無いです!あんまりです!
シャルティアの瞳がモモンガさんに向けられるたびに!シャルティアの吐息がモモンガさんに触れるたびに!シャルティアの白くて細い指がモモンガさんの体を弄るたびに!
俺は死にそうになりました!
なのに!なのに!シャルティアが悪戯っぽい瞳で俺をチラリと見るたびに、俺はどうしようもない程に興奮しちゃうんです!
ううぅ!前回のショックから立ち直るためにリハビリで選んだお店で、新しい扉を開いてしまった、そんな感じです……。
◆
「……お店は高評価だけどさ、俺は行かないで正解だったよ。寝取られるのも寝取るのも個人的に無理」
そう円卓で零すのは、今回のレビューを集め纏めている弐式炎雷だ。レビューの発行は彼が取り仕切っているために、発行と言ってもギルドメンバーで流し読む分だけだが、こうして同行していないお店にも、必ず一度はチェックが入る。
「正直私もそうですね。ペロロンさん的にはアリなのかナシなのかよく分かりませんが……」
「そもそもペロロンさんは10点連発しすぎだよ。聞いたら『俺は相手をしてくれた女の子に10点以外は出せません』とか言うし。その理論で行くと淫魔の詰め合わせ部屋も10じゃん、あの人」
「まあ、ペロロンさんですしね」
そう締めくくり、モモンガも弐式炎雷を手伝うべく、今回のレビューに特別小冊子を同封する作業を続ける。今回はおまけにたっち・みーのNTRシナリオ台本付きなのだ。
現在円卓に腰掛けているのは、弐式炎雷とモモンガ、そしてもう一人。モモンガはそのもう一人、不機嫌そうに頬杖をつきながら指でトントンと円卓を叩くウルベルトを見やる。
視線に気付いたのか、ウルベルトが芝居がかった仕草で大きく息を吐き、やれやれと両手を広げる。
「俺は散々でしたよ。こんな猿芝居まで演じさせられて」
口元に笑みを浮かべながらも、やはりどこか不機嫌そうだ。
「いやでも、このたっちさんのシナリオそこまで悪くないんじゃない?だから今回おまけに採用したんだし」
弐式炎雷のたっちに対するフォローらしきものに、ウルベルトはにやりと笑う。
「ここを見てください」
そういってウルベルトは近くにあった台本を広げ、一点を指さして見せる。広い円卓で距離はあるが、モモンガ達には問題無く見て取れる。そこには使用された形跡のある客用スリッパに妻の不義を疑うと書かれていた。
「俺は蹄ですしね。スリッパは使いたくとも使えません。まあ、そこは目を瞑ったとしても、次には俺の登場の演出でわざわざ蹄の音と書いてある。色々おかしいんですよ、この台本。それだけじゃありませんよ?次の寝取り男の声を聞いたたっちさんが、不義の相手が俺と確信するこのシーン。ここで俺とたっちさん―――寝取り男と寝取られ男に面識があるのもおかしい」
「そうなんですか?」
モモンガの質問に、ウルベルトは頷く。
「間男の正体が分からないのであれば、問題はないのですけどね。妻が不貞を働く切っ掛けを、自分で想像することが出来ますから。でも寝取られ男と寝取り男に面識があるのならば、妻が間男と知り合った切っ掛けの描写は不可欠です。まさかあの時既に……?となりますからね。これは重要ですよ。なのにたっちさんは、そう言った寝取られの醍醐味である部分を色々とすっ飛ばしている。おかしいんですよ、この台本は」
ウルベルトが丸めた台本でペシペシと円卓を叩く。その子供っぽい仕草に思わずモモンガは苦笑いを浮かべる。
「ああ、言われてみるとそうかも。最初の大学での出会いからして無理あるね。これ最初は人間だった頃をイメージさせてるのに、いきなりインセクトとかカシミヤとか出て来てる。そもそもアーコロジーで家を建てたとか書いてるのに。俺らはリアルでも異形種か」
弐式炎雷の指摘に、モモンガはその部分の台本を改めて目を通してみる。なるほど。確かに最初は人間だった頃を彷彿させるのに、途中から異形種の特徴が唐突に描写されている。
「家とか車とか盗聴器とか。小道具ばかりに力を入れて、肝心のストーリーが穴だらけなんです。NTRをやりたいなら、そんな小道具なんかに拘る前に破綻の無い台本を寄こせと、俺はそう思いますね」
そうウルベルトは悪態を吐く。
「まあ、たっちさん特撮好きですし。そういった小道具の方に、力を入れてしまうのかもしれませんね」
「変身ベルトじゃあるまいし、もう少しNTRを勉強してから誘ってこい」
「ウルベルトさんこそ随分詳しいね。そっち系が好みだっけ?」
弐式炎雷の指摘に、ウルベルトは少し迷いを見せてから、忌々し気に口を開く。
「……勉強したんです。ペロロンさんとタブラさんに教わりながら。幸い図書館にはそういったデータが山ほどありましたから。たっちさんから盗聴器越しってシチュエーションだけは聞いていましたから、声での演技に説得力を持たせるために、茶釜さんに演技指導までお願いして……」
そのウルベルトの言葉に、モモンガは素直に感心する。
「凄い、ウルベルトさん」
「流石だわ、ウルベルトさん」
「そんなところを感心されて――」
ウルベルトの台詞を遮る様に円卓の扉が開いた。転移して来れる円卓に、わざわざ歩いて扉を開いて入ってくるのは誰だろうかと、三人がそちらに視線を向ける。
扉を押し開き姿を見せたのは、今まさに話題になっていた男、たっち・みーだった。
「……ウルベルトさん」
フルフェイスの兜に覆われ、たっち・みーの表情は伺えない。だがその声は、何処か暗かった。その声に何かを察したのか、ウルベルトがやれやれと立ち上がる。
「……ふぅ。たっちさん、まさかまたお誘いですか?一度限りだと約束したじゃないですか、我儘言うべきじゃないと思いますけどね」
そういう事か、たっちさんハマってるなーと、モモンガと弐式炎雷の両名がのほほんとたっち・みーを見る。どうせこの後はいや、我儘言ってるのウルベルトさんの方ですよとでも言うのだろう。向かい合うウルベルトとたっち・みー達の成り行きを見守る。
「……どうしてもと言うのならば、せめて台本を、いえ、そもそもNTRがどういうモノなのか、ペロロ――」
「黙れ」
成り行きを見守った結果は、ウルベルトの台詞を遮るたっち・みーの斬撃。
「ぬお!?」
ウルベルトが普段の彼らしくない危機感に満ちた声を上げつつ、両手を上げ仰け反ってその斬撃を躱す。普段見せる事の無い仰け反るウルベルトを注視するべきか、それともいきなり斬り付けるという、こちらも普段見せる事の無い姿を見せたたっち・みーを注視するべきか、モモンガと弐式炎雷の視線が二人の間を泳ぐ。
「……お……ま……はぁ?いきなり何を――」
「ウルベルトさん。あれは何の真似ですか?……いえ、ウルベルト・アレイン・オードル。貴方は私の妻を、何処まで辱めれば気が済むんですか?」
「―妻?……もしかして、シルキーのあの子の事か?あの子はあの店のサキュ嬢であって、たっちさんの妻じゃ、いや、そもそも台本を手掛けたのはたっちさんで―」
「彼女が水晶レターで見せたアヘ顔ダブルピースの事だッ!」
再び鋭い斬撃。ウルベルトは寸でのところで、その斬撃から身を躱す。
「な、何を言って――いや、まて。水晶レターだと?……たっちさん、まさか、頼んでいたのか?録画サービスを?俺に一言も断りなく?」
扉のスキマはプレイ内容を録画できるサービスがあり、たっち・みーもレビューにその事に言及していたが、どうやらウルベルトには許可を取っていなかったらしい。ウルベルト自身もレビューを出した後は、たっち・みーのレビューに目を通すことはしなかったのだろう。そう推測するが、そんな事よりも衝撃的な事がモモンガと弐式炎雷の二人にはあった。
「……モモンガさん、たっちさんの口からアヘ顔ダブルピースなんて言葉が飛び出してきたぞ」
「……ええ、正直聞きたくはありませんでした。あの人、私がユグドラシルで憧れた最初の人なんですけど」
恐らく水晶レターの最後に、ウルベルトの知らない所でサキュ嬢のアヘ顔ダブルピースシーンが追加でもされていたのだろう。そしてそれを観たたっち・みーが激高している。そういう事だろうが、いくらなんでも今日のたっち・みーは酷すぎる。NTRプレイにのめり込み過ぎに、引きずられ過ぎだ。
「俺だってそうだよ。俺はまあ、建やんにくっつく感じでつるむようになったけどさ――あ、ヤバい」
弐式炎雷の警告じみた声に、モモンガも素早く円卓に潜り込み身を隠す。キレたウルベルトが哄笑を上げ始めたからだ。
「クク……ク……フハハハハハハハハハハハッ!この!このウルベルト・アレイン・オードルが!?他人の妻を寝取るなどという下衆な真似を演じさせられ、尚且つその様子を録画されていただと?ハハハハハッ!これ以上の、これ以上の笑い話があるか!セフレ呼ばわりされる事にも堪え、必死に耐えた結果がこれか!?たっち・みー!!」
「やっぱたっちさんの為に、無理して付き合ってくれてたんだな―、ウルベルトさん」
「なんだかんだで、仲間想いですからねー、ウルベルトさん」
円卓に身を潜めながら、僅かに顔だけを出してモモンガと弐式炎雷が様子を窺う。
「たっちさんも、きっといい笑顔で頼んだんでしょうねー」
「無垢というか邪気が無いというか、純粋だからね、たっちさんは。だからこそのめり込め過ぎて、自分で頼んでおいて寝取り男役のウルベルトさんにキレてるんだろうけどさ」
モモンガと弐式炎雷は呆れた顔で、たっち・みーと相対するウルベルトを見守る。
「いいだろう!お前が掲げるアインズ・ウール・ゴウン最強の金看板!今日この場で、このウルベルト・アレイン・オードルが燃やし尽くし、灰燼と化してみせよう!」
「私は誰にも負けません。……妻を辱めた罪。その身で贖え、ウルベルト・アレイン・オードル!」
「だからあの子はお前の妻じゃねぇだろうがァ!」
そしてアインズ・ウール・ゴウン魔法職最強と戦士職最強が、円卓で激しくぶつかり合い始めた。
「あー、不味いなー。ウルベルトさんロールを忘れ始めてる」
「キレてても、ウルベルトさんが無意識にロールを演じてる間はまだ安心出来るんですけどね。―――よし、アルベドに連絡して、この区画には誰も近づけさせないようにしました」
「サンキュー、モモンガさん。あとは俺らの身を守るだけだな」
「ですねー。――おっと」
ウルベルトの放った魔法がたっち・みーによって弾かれ、モモンガと弐式炎雷の頭上を掠める。慌てて頭をひっこめた二人は、円卓を盾にしながらひそひそと相談を始める。
「……どの辺で止めに入りますか?」
「……もう少し待とうよ。スキルの使用回数と魔力を消耗させてからじゃないと、俺達の方が返り討ちにあう。……問題はそれまで円卓がもつかだな。ここ他の区画より強化されてるんだけどなー」
「修繕費、いくらになるんでしょうね……」
背中を預けた円卓が衝撃に揺れる。戦闘は激しさを増していくばかりだ。争う二人と同じ百レベルプレイヤーのモモンガと弐式炎雷の二人でも、安全とは言い難い。強化された区画内にあっても、さらに頑丈な円卓を盾にしているとはいえ、不安でしょうがない。
「会議は踊る!されどすす――」
暴れる音に混じり、声が聞こえた。疑問気にモモンガは顔を上げようとするが、その瞬間たっちー・みーの斬撃が鼻先を掠めた為に慌てて円卓に隠れる。
「今の声は?るし★ふぁーさんの声だった気がしますが?」
「ああ、トラップゴーレムでしょう?速攻ぶっ壊されたみたいだけど」
「……大浴場のトラップゴーレムは、私と守護者達でそれなりに苦労させられたんですが……」
「まあ、あの二人だし……」
「あの二人ですしねー……。でも、あの二人もこうして直接ぶつかり合えるようになったのは、少し感慨深いです」
「ユグドラシル時代はぶつかるにしても、ちょっとお互い嫌味っぽかったからね。根っこでは仲良かったんだろうけど、あの頃を知ってる身だと、確かに感慨深いよ」
激しい戦闘音と揺れる衝撃から身を守りつつ、モモンガと弐式炎雷は軽く微笑みあう。あの頃も、こうして全力でぶつかり合えば良かったのにと。
「でもさ、モモンガさん。俺ちょっと不安になってきた」
「あの二人を止めに入る私たちの未来にですか?」
「いや、それもだけど、セバスだよ」
「セバス?」
「うん。セバスって設定が『執事である』くらいしか書き込まれてないだろう?だからNPCの中でも一番創造主に似てて、もしたっちさんのNTRに興味津々な性癖まで受け継がれてたら、不味くない?」
「……あー、それは不味いですね……。私たちに話を持ちかけてくるなら止めようがありますが、セバスがデミウルゴスにそういう事を持ちかけでもしたら……」
「ウルベルトさんのレビューを読むかぎり、寝取りは悪魔的に有りみたいだしね。セバス相手だといっても、デミウルゴスはナザリックの仲間達には優しいし、頼まれれば断らないかもよ。あのデミウルゴスの寝取りプレイ。興味はあるけど、止めないとヤバいでしょう」
「……これが終わったら、デミウルゴスと遠回しにですが話をしてきます」
「俺はセバスとツアレさんに会いに行ってくるよ。……よし、そろそろ行くか。セバス達の為にも、ここで死ねないぞ、モモンガさん!」
「私達あの二人のNTRプレイの喧嘩で、どれだけ悲壮な決意をさせられているんでしょうね……。でもナザリックの為にも、ここで死ねませんから!行きましょう、弐式さん!」
「生きて帰るぞ!行きたいサキュバス店は、まだまだ一杯あるんだ!」
「ええ!私もです!」
そう誓いあってモモンガと弐式炎雷は、争う二人を止めるべく円卓から飛び出していく。
「ウルゥベルトォォォォッ!!」
「たぁぁぁぁっちぃぃぃぃぃっ!!」
互いの名を叫び合う、最強の二人に挑むべく。
そして今回のレビューにこう付け加えておこうと思った。
プレイをプレイと割り切れる人でないとNTRプレイは難しい、と。