至高のレビュアーズ   作:エンピII

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前置きだけで長くなったので、一度上げます。
一話5000文字くらいで~とか考えてたのに、上手くいかない。


魔導士デミアプロデュース本店 前編

「うぐぅ……ふぐぅ……シャ、シャルティアが……モモンガさんにぃ!ぐすぅ!シャルティアぁ!俺じゃ……俺じゃ駄目なのかな?あんな愛おしそうにモモンガさんをぉ……ぐす……」

 

 シャルティアにネクロフィリア設定を付けた創造主(張本人)であるペロロンチーノが、第九階層「ロイヤルスイート」の自室内のベッドで悶えている。

 NTR専門店『扉のスキマ』を訪れて数日経過しているが、未だにこんな感じであった。枕は溢れる涙でべちょべちょで、悔しさに噛み締めたシーツはボロボロである。

 勿論ペロロンチーノも常時この状態ではない。普段はいつも通りである。だがベッドの傍らには『扉のスキマ』で頼んだ水晶レターが転がっており、録画された映像をホログラムの様に映し出していた。

 モモンガとシャルティア(正確にはシャルティアのコスプレをしたハーフリングのピルティア)の痴態(ピルティアが玉座に跨ったモモンガの体を弄るだけの映像である)が録画された、向こうの世界のアイテムである。ペロロンチーノは定期的にこの水晶を起動させ、その映像を眺め視ては、こうして一人鬱に閉じこもっているのである。

 最愛の人が、最高の親友に寝取られる。その映像を繰り返し見ては、悶え苦しみ、泣き叫ぶ。苦行ともいえる。恐ろしいまでの強敵だ。これほどの強敵は、大好きなエロゲシリーズ数年越しの新作、そのヒロインの声優が自身の姉であったあの時以来だ。ワールドエネミーすら霞んで見えるほどだと、ペロロンチーノは映像の中の二人のプレイを眺めながら思う。

 何故ペロロンチーノはこれほどの苦行を、自ら進んで行うのか。それには理由があった。ペロロンチーノは理解しているのだ。

 NTRの真の醍醐味は、この苦しみの先にある事を。

 この苦しみの先にある扉を開けば、ペロロンチーノは更なる進化を遂げる事を。

 それを理解しているからこそ、繰り返し水晶レターを起動するのである。

 

「ちくしょう……モモンガさんめ……俺は負けないぃ……この先にある快感を、必ず手にしてみせる……ぐすず!ううぅぅ……シャルティアがモモンガさんを、あんなに愛おしそうにぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 技術の発展は最初に軍事、次にエロと医療に使われるのだ。これはエロの偉大さを物語っている。

 ペロロンチーノの持論である。そしてエロは例え今が苦しかろうと、必ずその先に新しい扉を、ご褒美を用意してくれているのである。限界は無いのだ。エロは、必ずその先に快楽と快感の楽園が広がっている。それをギルドで、いや、ナザリックで一番理解しているのが、ペロロンチーノなのである。

 

「ふぐぅぅぅぅ!俺は負けない!もっと俺は強くなるから、待っててね、シャルティア!あああああああ!?シャルティアがモモンガさんの頬骨を舐めたぁぁぁぁぁ!ふぐぅ……ぐず!うううぅ……新たな扉はまだ見えてこない……ぐす……。……っ!?」

 

 何かを感じ取ったペロロンチーノは水晶レターの映像を停止する。

 なぜ急に苦行を止めたのか、それはペロロンチーノに予感が走ったからである。誰かがこの部屋を訪れようとしてる。そんな予知にも似た先読みが発動したのである。

 ペロロンチーノは、長距離広範囲爆撃に特化したガチビルドだ。探知系スキルは持っていない。それなのになぜこうも素早く第三者の接近を感じる事が出来たのか。

 それは、長年姉と同居していた弟だから持ちえたリアルスキルである。姉の方も姉の方で、弟に予知すらさせずにおっぱじめた瞬間に扉を開けるリアルスキルを持っているのだが。結局のところ、姉弟同士では間に合う事も、間に合わない事もあるが、今回は間に合ったようだ。ペロロンチーノは水晶レターを、バレないように手早くベッド下に潜り込ませる。

 そして扉が開くと同時に、ペロロンチーノはベッドに潜り込んだ。

 最初は一般メイドの子だと思っていた。涙でぐしゃぐしゃになったベッドのメイキングに来てくれたのであろうと。だがその予想に反し、来訪者はノックも無しにペロロンチーノの自室の扉を開けた。そんな真似をするNPCはいない。ギルドメンバーにだって二人しかいない。そして扉を開けたのはピンク色の肉棒では無かった。という事は必然的に一人である。

 その一人がのしのしと異形の体を引きずり、頭からベッドに潜り込んだペロロンチーノの所までやってくる。そして大きく息を吸うと――

 

「あたしはーもーちー♪あんころもっちもーちー♪どこにいるーのー♪あたしのーペットぉー♪」 

 

 大声で歌いだした。

 ペロロンチーノは、駄目が付くが絶対音感の持ち主である。それが災いし、拾わないで良い音階も拾ってしまう。要するに、ものすごく煩いのである。向こうもペロロンチーノの音感を理解し、あえて音階を外してきている。完全に嫌がらせだ。

 負けては駄目だとペロロンチーノは自身に言い聞かせる。ここで負けるから、相手も調子に乗るのだ。これ以上折れてはいけない。

 

「あーあ♪ぺェットー♪さがしてーるぅ♪」

 

「人の部屋でうるさいな!なんだよ、もう!ジャイアンリサイタルか!」

 

 だが、結局は堪えきれずに叫んでしまう。

 

「あたしはもち。ジャイアンじゃない。可愛いペットを探しているの」

 

「知ってるよ!ハムスケがいるだろう!?」

 

 部屋にノックも無しに入ってきた異形、餡ころもっちもちにペロロンチーノは怒鳴る。怒鳴られた餡ころもっちもちは不満そうに口を開いた。

 

「ええー、だってハムスケさぁ。最近は、某は殿にお仕えすると心に云々でござるよーっとか言ってモフらせてくれないし、餡ころもっちもち王国にも出勤してくれないんだもーん」

 

「出勤制だったのか、あの動物園!?」

 

 トブの大森林を一部切り開いて作られた餡ころもっちもち王国の知られざる事実に、ペロロンチーノが叫ぶ。実態はただの動物園なのだが。

 

「だよ?有休もあるし、育児産休も完備。福利厚生はバッチリ。まあ、それはいいとして」

 

「勝手に部屋に入られてジャイアンリサイタル開かれた俺は良くない」

 

「あたしはもち。ジャイアンじゃない。あとペロン、なんであたしにだけ敬語じゃないの?失礼でしょう?」

 

「俺のが年上だろう!」

 

「同い年じゃん」

 

「俺は三月生まれで、お前は四月生まれ!学年が違う!というか同い年だとしても、俺にだけ敬語を使わせるつもりだったのか!?どんだけジャイアンなんだよ!」

 

「あたしはもち。ジャイアンじゃない」

 

「そのフレーズ、気に入ってますよね!?ああもう、マジで何の用なんだよ?用があっても無くてもどっちでもいいから、とりあえず出て行ってくれますか?俺、餡ころさんと違って忙しいんで」

 

「あたしだって忙しいさー。というかさ、なんで世界征服も終わったのに、ペロン達忙しいの?モモンガさん今日も出掛けてるしさー」

 

「……なんだっていいだろう?」

 

「そりゃいいけどさー。行先も告げずに魔導王陛下が出掛けるのはさ、不味くない?供回りも付けないから、アルベドが乱心してたよ?モモンガ様をお守りするーって。ついでにお父様もーって」

 

「……タブラさんついでか。まあモモンガさん達には、弐式さんにヘロヘロさんも付いてるから問題ないって。それに三日後には帰ってくるよ」

 

「そう、そこだよ、ペロン。メンツは違うみたいだけど、なんで四人で出掛けてるの?あたしたち、ユグドラシルのプレイヤーが一番強いのは、バランスの取れた六人チームでだよ?それなのに、なんで毎回毎回四人でナザリックから消えるのさ?」

 

「……なんでもないって。だからいい加減出てってくれませんかね?さっきも言ったけど、俺忙しいんで」

 

「ソロプレイに励んでるの?ベッドでシコシコと」

 

「違うし!マジでそういう事言うの止めてくれませんか!?……少しはやまいこさん見習えよ」

 

 ペロロンチーノが呆れながら、しっしっと餡ころもっちもちを追い出す様に手で払う。その仕草に餡ころもっちもちはやれやれと両手を広げてから、ペロロンチーノに背中を向けた。

 

「はいはい、お邪魔しましたっと。じゃ、頑張ってね。かぜっちにはペロンがオナ――」

 

「ホントいい加減にしてくれませんかね!?」

 

 餡ころもっちもちの背中をベッドの上で見送ったペロロンチーノは、あからさまなため息をついた。

 

「なんだったんだ、アイツ。……まあいいや、つづきつづきっと。……あれ?」

 

 ベッド下を覗き込んだペロロンチーノが疑問の声を上げる。

 

「水晶レターがない……」

 

 

 

 

 

 

「……ペスゥー、エクレアー。上手くいった?」

 

 ペロロンチーノの部屋を後にした餡ころもっちもちが、歩きながら問いかける。問い掛けに餡ころもっちもちの背後から、アイテムによる不可視化を解いた二人が姿を見せる。

 ナザリックメイド長ペストーニャ・S・ワンコに執事助手エクレア・エクレール・エイクレアーである。

 

「ハッ!万事滞りなく、完了致しました」

 

 そういってエクレアが両のフリッパーで持った水晶らしき玉を、餡ころもっちもちに差し出す。

 

「ご苦労様。……なにこれ?水晶?……本当にこれをペロンがベッド下に隠していたの?」

 

 餡ころもっちもちの問い掛けに、エクレアがぶんぶんと何度も頭を振って答える。餡ころもっちもちがペロロンチーノの相手をしている間に、アイテムによって不可視化したこの二人がベッド下を探っていた。餡ころもっちもちの歌は、姿を隠していた二人の物音を誤魔化す為だったのだ。

 ペロロンチーノは見られたく無い物をベッド下に隠す。これはぶくぶく茶釜からもたらされたギルド女性陣の共通認識だ。その為とりわけ最近様子がおかしいペロロンチーノのベッド下を、二人に探らせたのである。

 

「その水晶のみ、ベッド下に置かれていたモノの中で<魔法感知(ディテクト・マジック)>に反応がありました」

 

「ほー?<道具鑑定(アブレーザル・マジックアイテム)>の結果は?」

 

「鑑定不能と。……込められた魔力量からして、魔法による妨害対策が施されている訳ではないようですが……あっ、わん」

 

「魔力量は大したことないのに、鑑定不能のマジックアイテムねぇ?」

 

 餡ころもっちもちは異形の手で水晶を玩びながらしげしげと眺める。

 

「ですが、宜しかったのでしょうか?至高の御方の許可なく、ご寝室から勝手にアイテムを持ち出してしまって……」

 

「平気平気。責任はあたしが持つから。それにペロンのモノはあたしのモノ。あたしのモノはモチロンあたしのモノ。問題ないでーす。……かぜっちはしばらく放っておこうとか言ってたけど、アイツら間違いなくなんかしてるなー」

 

 そう言って、餡ころもっちもちはくくくと笑う。ぶくぶく茶釜からは放っておこうと言われていたが、こんなものすごく面白そうな予感がするものを放置して置けない。

 

「面白そうな予感がするなー。なんか新しい子(ペット)、新しい甘い物に出会える予感がするぞー?よーし、まずはこの水晶から探ろうか。原産地とか分かるかな?ふふふ、二人ともー、いそがしくなるよー」

 

 特に男どもがしていることはNPCに知らせるなと、そうぶくぶく茶釜から注意されていたことも忘れ、餡ころもっちもちはスキップを始める。

 そしてその彼女に創造された二人のNPCは、嬉しそうな創造主に微笑み、一人はしずしずと、一人はトコトコと、ついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ぜぇ……ぜぇ……。着いたぞ――――――――――!」

 

 地図と目の前の都市を何度か見比べ確認した後、ここが『魔法都市』で間違いないと確信した弐式炎雷は両手を突き上げ叫ぶ。呼吸等していない弐式炎雷の息が荒くなることは無いのだが、元人間の感覚からどうしてもそんな感じになる。

 

「ほら、着いたぞ!俺一人走らせやがって!」

 

 そう言って弐式炎雷は自身の影に振り返る。声に、三つの異形が影から這い出る様に姿を見せた。

 

「流石ですね、弐式さん!ケンタウロスの足で四日掛かる道程を、たった半日で走破するなんて!」

 

 感嘆した様に、影から這い出た異形の一つ、オーバーロードのモモンガが弐式炎雷を褒め称える。

 

「ま、まあね!タブラさんから特製の薬も貰っていたし、これくらいの距離、俺なら余裕だよ」

 

 褒められて満更でもない弐式炎雷が照れくさそうにそう言う。そして影から這い出た残り二つの異形も弐式炎雷の労を労う。

 

「ご苦労様、弐式さん。私の薬が役立って何よりだよ。それとモモンガさん。さっきの上がり、UNO宣言してないでしょう?」

 

 そう言ったのはブレインイーター、大錬金術師タブラ・スマラグディナである。

 

「ちゃんとしましたよ」

 

 タブラの指摘に憤慨したようなモモンガに、残る最後の異形、古き漆黒の粘体ヘロヘロが口を開いた。

 

「いえ、私も言って無かったと思います。あ、弐式さん、ご苦労様です。そもそも終盤のスキップ戦術はなんなんですか、いやらしい」

 

 あからさまにおざなりな感謝に、弐式炎雷は疲れたようにがっくりと肩を落とす。

 

「こっちは<闇渡り>に<縮地>も使って全力で走ってたのに、みんなしてUNOしてたのかよ……。まあ、いいけどさ別に……」

 

「私達の中でここまでの高速移動が可能なのは、弐式さんだけだからね。まあ、ギルド内にはそれが出来るのが後二人いるけど、片方は筋金入りのロリコン(ペロロンチーノ)で、もう片方は貧乳至上主義(フラットフット)だしね」

 

 タブラがそう云々と魔法都市を見上げながら頷く。

 

「スタンクさんのレビューを読む限り、あの二人はこのお店は合わなそうですし。しかしやっと来れましたね!NG無し!オール40点レビューのお店!私ずっと来たかったんです!」

 

 そうヘロヘロが嬉しそうに粘体の諸手を挙げて喜ぶ。その姿にモモンガも微笑み頷く。

 

「ここまでの物理的な距離と、期間が三日というのがネックでしたからねー」

 

「最初に扉の使用は一回に付き24時間というルールを作ったからね。私もヘロヘロさんからこのお店に誘われてから、ずっと興味あったんだよ。まあこれで、私とモモンガさんが<転移門(ゲート)>を使えるから、移動はぐっと楽になるはずだよ」

 

 タブラの言葉に、モモンガも頷く。扉から魔法都市までの移動手段はこれで確立された。これでモモンガとタブラは「また行くんですか?しょうがないなー、私が<転移門(ゲート)>を使いますよ」と、他の仲間がこの都市を訪れる際に優先的に同行出来るはずだ。

 

「とりあえず、街の中まで行こうよ。扉を三日も占有するんだから、急ごうぜ」

 

 そうですねと四つの異形が歩みだす。全員に自然と笑みが零れる。

 これから行くのは、ギルドアインズ・ウール・ゴウンの全員が全幅の信頼を寄せる食酒亭を拠点とするゼルさんレビューだけでなく、様々なレビューチームが満点評価をたたき出したサキュバス店なのだ。どうしても期待をしてしまう。

 

『いざ行かん!オール40点レビューのお店!』

 

 四つの異形の声が重なる。目的はただ一つ。

 

『身代わり魔法デコイ人形のお店 魔導士デミアプロデュース本店』

 

 である。




遠隔視の鏡からの<転移門>のコンボで、弐式さんが走らずとも魔法都市に行けたかもしれないと今さらに思う。

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