ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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「小物じゃけえこそ、むしろ怖い。憎まれっ子世にはばかるっちゅうてのォ、心根のくだらんもんがアホほど力を持っちょるほうが、やばさは洒落にならんと思わんか?」
――相州戦神館學園_八命陣、壇狩摩のセリフを一部抜粋。

要約:下品で屑で卑怯者な小物が弱いとは限らないし、そういうやつが力を持ってるとやばい。


愚者の変異

 王都での戦いは一気に王国側に偏ったと言える。

 

 王都の南にてフリードが召喚した神獣ジャバウォックは真・竜化したティオ、細胞極化(アルテマセル)という新技を披露したシアにより翻弄され、そしてハジメが使用した神の杖という超兵器にて粉々にされたことで制圧されたとみて間違いない。

 

 また、王都の東にて発生した天使の軍団は蓮弥と雫の手によってまとめて葬り去られた。

 

 王都の西にてフリードが神命を果たすためにユエに挑んだが、これも『神ノ律法(デウス・マギア)』を会得したユエに撃退され、撤退を余儀なくされる。

 

 そして王宮を攻め落とすはずだった部隊は楽に攻略できると思っていた勇者パーティーに敗北することになった。

 

 局地的に少し不安要素がないこともないが、大体人族寄りに形勢が傾きつつある。

 

「まあ、だからこそ僕が介入する余地があるんだけどね」

 

 とある場所から戦場を眺める黒コートの少女、中村恵里はこの状況をみてほくそ笑む。

 

 人族は突然の奇襲にてピンチを迎えたものの、各地でのハジメ達の戦果によって状況を持ち返しつつあり、少しだけ余裕が出始めてきた。

 一方魔人族は焦りを覚える。まだまだ戦力はいるとはいえ、必勝を確信して戦争を開始したにも関わらず、各地での戦いがほぼ全て敗走に終わり、現在勢いを失っている状況だ。

 

 つまり人族は少しの余裕で、魔人族は焦燥で、いい感じに混沌とする場が整いつつある。

 

「檜山の奴はもう辛抱効かなさそうだし。クソ天使も配置について仕事している。なら僕もそろそろ行くとするかな。……人族も魔人族もせいぜい踊ってればいいさ……最後に笑うのは、僕達だ」

 

 さあ、見せてやろう。パワーアップするのは何も正義の味方だけの専売特許じゃないことを。

 

 

 その想いを胸に中村恵里は静かに屍の部隊に対し指揮を振るい、舞踏会の準備を始めた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ!」

「おらぁぁ!」

「ふん!」

「やぁぁぁ!」

 

 まさに勇者パーティー無双だった。香織の活躍のおかげで王宮に迫っていた魔人族の部隊は全滅し、残されたのは指示を出すものがいなくなった魔物の群れだ。指示を出す魔人族がいなくなったとはいえ、魔物は完全に無力化したわけではない。指示を出すものがいなくなったらいなくなったで野生の本能のまま行動を開始した魔物たちだが、完全に流れに乗った勇者達や戦士達の士気は高く、順調に魔物はその数を減らしていくこととなった。

 

「愛子様が見てくださっている……皆の者ッ、ここで女神の思いに応えるのだ!」

「はっ!」

 

 そして愛子の演説はここでも効果を発揮していた。今まで足を引っ張るばかりだった教会騎士達がここにきてようやく正常な機能を取り戻したのだ。拠り所さえ戻れば彼らとて人族最高峰の騎士達に間違いない。襲い来る魔物にも恐れることなく立ち向かい、永山パーティ同様、戦えない者の避難を積極的に行うようになった。

 だからこそ余裕ができた光輝達勇者パーティと香織は、今も現場で指揮を執るメルドの指示で一旦後方に下がり、連戦により消耗した魔力や体力を香織の魔法によって回復している最中だった。

 

「……今回の戦い、何とかなりそうだね」

「ああ、最初はどうなるかと思ったけど……俺達なら乗り越えられる、絶対に!」

 

 鈴の何気ない一言に光輝が答える。その言葉には以前手も足も出なかった魔物達を討伐したことで、今回はきっと乗り越えられるという手応えと確かな自信を持ったことがわかる。

 

「それもカオリンが助けに来てくれたからだよ~うりうり」

「ちょっと鈴ちゃんッ、いったいどこ触って!」

「またまた~、しばらく見ない内に中々挑発的な恰好するようになっちゃって。うへへ、たまりませんな~」

 

 鈴が積極的に香織に絡み、その久しぶりのやりとりに香織は翻弄されるしかない。

 これは鈴の考えによる行動だった。さきほどの香織は確かに冷たい気配を漂わせて怖いと感じたが、やり方はどうあれ自分達を助けにきてくれたことに間違いはないのだ。そんな彼女を排斥するなどあってはならない。そんな考えの元、誰よりも積極的に香織にいつも通り絡んでいる。……もう、他人を恐れて踏み込めず手遅れになることは嫌だったから。もっとも、いつの間にか露出度が増えて清楚さを保ちながらも中々コケティッシュになった香織に鈴の中のおじさん魂が暴走したのかもしれないが。

 

「もう、そうやって調子に乗ってたらダメだよ。この世界は本当に何があるかわからないんだから」

「まあけど何とかなるだろ。俺達も遊んでたわけじゃねぇからな」

「そういえば龍太郎君? いつの間に闘気(オーラ)を使えるようになったの? ……よく見ると、魔素(マナ)内気(オド)に変換してるよね、確かこんな技能持ってなかったと思うけど」

「ああ、それは藤澤のおかげでな。この技能を手に入れてから随分強くなれたと思うぜ」

 

 香織が龍太郎が闘気を纏っていることに気付き、それに対して力こぶを作りながら答える龍太郎。

 

「けど、私が守らなきゃ危ない場面もあったんだから気をつけてよね」

「うっ、わかってるよ」

 

 その行動に対して油断しないように注意する鈴と龍太郎と鈴のやり取りを微笑ましく見守っている香織。

 

 その光景を光輝は静かに見つめていた。

 

(そうだ、やっぱり香織にはこの光景が似合っている)

 

 後は雫と恵里がいれば完璧だった。自分と龍太郎が前線に出て敵を倒しつつ皆を守り、香織と鈴と恵里が支援に入る。雫は広い視点で物を見て前衛と後衛の両方のフォローに回る。それがここに来て光輝が作り上げた勇者パーティーの姿だった。

 

「そういえばなんでカオリンはここにいるの? シズシズとは合流できた?」

「ちょっと神山に用事があってね。雫ちゃんとも合流できたし、一緒に王都にきてるよ」

「そうか、雫もここにいるのか。今どこに?」

「……たぶん、まだ戦ってると思う」

 

 香織の言葉で気を引き締める光輝。形勢は人族側に寄っているとはいえ、まだ戦争は終わっていないのだ。回復と補給が終わり次第、応援に行かなければならない場所がいくつもある。雫が未だに戦っているというのなら応援に行かなければならない。力の差がどれだけ埋まったのかはわからない。だが、以前よりは成長したというところを見せたいと光輝は思う。

 

「けど雫ちゃんのことは心配いらないと思うよ。雫ちゃんだってすごく強くなってるし、それに……()()()が側にいるからね」

 

 響く不協和音。

 少なくとも光輝の中ではそうだった。この理想のパーティーの中に含まれていてはならない異物。

 

「それに()()()()も新兵器のテストだとか何だかんだ理由をつけて戦ってくれてるし、少なくとも魔人族相手なら遅れなんて取らないよ」

 

 その信頼しきった声を聞いて光輝の中で黒い感情が浮かんでくるが、流石に今は違うと頭を振ってメルドから教わった精神統一法を実施する。心乱されてはいけない。少なくとも今は。

 

「はい、おしまい。みんな、もう魔法陣から出ていいよ」

「えっ、もう!? ……すごい。本当に魔力が全回復してる!」

 

 香織の言葉に鈴が驚くのも無理はない。時間にしてわずか数分。勇者パーティーは限界突破や大技を使わなかったおかげで余裕のあった光輝はともかく、鈴は相手の大魔法を防ぐために魔力を使い果たし、龍太郎は身を呈して守ったお陰で闘気をかなり消耗していた。それだけではなく、この場には傷つき、魔力を限界まで消耗した兵士や冒険者が軽く五十人以上はいたはずなのだ。

 そこにいる全員の治療と魔力の回復を同時に僅か数分で済ませるなど彼らの常識では考えられないことだった。

 

「よし、みんな行くぞ。まずはッッ!?」

 

 言葉の途中で悪寒を感じ光輝は後方を振り返る。

 

 嫌な気配を感じるとでも言えばいいのだろうか。それは光輝だけでなくここにいるメンバー全員が感じていることだった。

 

「兵士の皆さんは此処に残ってください。俺達が様子を見てきます」

 

 その言葉と共に、勇者パーティーと香織は飛び出す。

 

 少し進んだ先にある広場。そこはこの町の中央に位置する大広場であり、かつて龍太郎と鈴がベンチで笑い合っていた場所でもある。

 

 その場所は今、ある種の地獄を形成していた。

 

「こ、これは一体!」

 

 血、血、血。

 

 それと臓物と肉片。複数人のものであろうそれらが辺り一面に散らばっている。流石にそれを見て卒倒するものはいないが、気分を良くするものもまたいない。

 

 広場の中央では二人の人物が対峙していた。

 

「! メルドさん!」

 

 一人はメルド。王国騎士団団長であり、光輝達の頼れる師であり保護者でもある。そんなメルドが血まみれになりつつも剣を構え、目の前の人物を隙なく見ている。

 

 もう一人は黒コートの存在。黒コートを隙間なく着ているせいで人族か魔人族かはおろか、男か女かもわからない。

 

「香織、メルドさんの治療を」

「もう始めてるよ」

 

 香織が”焦天”にてメルドの傷を癒す。

 

「メルド団長、一体何が」

「気を付けろお前達。こいつは今までの敵とは違う。……一瞬だ。気がついたら周りは全滅していた。……下手をするとこいつはハジメ達の領域に……うぅ」

 

 メルドがうめき声をあげ倒れる。

 

「”聖棺”」

 

 香織が魔法版メディカルカプセルにメルドを包み込む。焦天にて傷は跡形もなく消したはずなのに倒れたところに嫌な予感を感じる。すぐさま香織はメルドの身体の異変の原因の解析を始める。

 

「貴様ッ、よくもメルドさんを!」

 

 光輝が勇ましく聖剣を構えて黒コートと対峙する。黒コートは足元を見つめて微動だにしない。

 

「何とか言ったらどうなんだッ、答えろ!!」

 

 苛立ちを覚えた光輝が叫びながら魔力を聖剣に込めるために詠唱を始める。

 

 その声のせいかはわからないが、黒コートは顔を上げると光輝を見つめて目を逸らす。鈴、龍太郎と目を移していき、そしてメルドの治療に当たっている香織を見たことで動きが止まる。

 

 

 ドクン

 

 

「ひーひひひひひ、いーひひひひひ」

 

 突然不気味な笑い声を上げ始めた黒コートはフードを取って素顔を晒す。

 

 その顔を見た者達の行動は二つに分かれた。

 

 一つは純粋に驚愕する者。光輝などはこれに当たるだろう。何か意外なものを見たような顔をしているのがわかる。

 

 もう一つは納得する者。その顔を見た瞬間、警戒心をさらに高めた者だ。聖棺の中にいるメルドと香織がそれに当たる。

 

「だ、大介……」

 

 近藤礼一は呆然と友の名を呼ぶ。

 

 そう、フードを下ろした先にあった顔は、髪の色を白に変え、狂相に顔を歪めながらこちらを見る行方不明だった生徒の一人、檜山大介だったのだ。

 

「なぜ、なぜ檜山がここに。一体何をしていたんだ。みんな心配して……」

「光輝ぃぃ!! そいつに近寄るな──ッッ!!」

 

 聖棺の中から、メルドが叫びを上げる。

 

「きひ」

 

 そう短く笑うと檜山は無造作に手を払った。

 

「なっ、ぐぅぅ!」

 

 辛うじて防御に成功した光輝だったが、その思わぬ膂力に龍太郎のいる場所まで吹っ飛ばされてしまう。

 

「光輝っ!」

 

「ぎゃはぁあはぁはぁあああああぁぁああああ!」

 

 身体をくねらせながら奇声を発する檜山の目は香織から目を逸らさない。

 

「ああ、やっぱり香織はおおおお俺の女神だああったんだなあぁあ」

 

 呂律が怪しいながらも明確な声を発する檜山を静かに観察する香織。

 

「ひひっ、やっと、やっとおれのものになるるるる。……やっぱり、南雲より俺の方がいいよな? そうだよなららら? なぁ、香織? なぁ? ぎひっ、ぎひひひひ」

「なんだよ……こいつ」

 

 そのあまりの意味不明さに周りが得体のしれない悪寒を感じる中、一つだけわかったことがある。

 

 檜山大介の狙いが、白崎香織であることだ。

 

「お前、香織を狙って……させない。させないぞ檜山ッ、香織は……香織は俺が守る! いくぞぉぉぉぉ!!」

 

 光輝が弾かれたように聖剣に光を纏わせ檜山に突撃する。

 

「光輝君ッ、ちょっと待って!?」

 

 香織の静止の声は届かない。

 

『やらせない。香織は俺が守るんだ。()()()()()()、勇者である自分が!』

 

 檜山が香織を狙っていることがわかったことで溢れ出したその無意識の想いで光輝は駆け出す。

 

「光輝ッ。クソッ、俺達も出るぞ。谷口頼む」

「うん、”聖絶・纏”」

 

 野生の本能で何か嫌な予感を覚えた龍太郎が鈴に防御魔法をかけてもらい、突撃する。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 聖剣を高速で振るう光輝に対して、大介は型も何もない滅茶苦茶な動きで躱す。

 

「ぎひ、邪魔すんじゃねれれれれ。このヘボ勇者がぁぁぁぁぁ!!」

 

 剛腕一閃。

 

 一見何もない素手の攻撃が光輝を襲う。攻撃の予兆が見え見えだったので光輝は躱すことに成功するが……

 

「なっ!?」

 

 その躱した場所に炸裂した檜山の素手の攻撃でクレーターが出来上がる。間違いなく以前の檜山ではできるはずがない破壊力。

 

「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 檜山の無防備な横顔に拳を叩きこむ龍太郎。流石の檜山もたまらず吹き飛んでいき、大広場の壁に激突する。

 

 だが……

 

 

「どいずもごいずも邪魔してんじゃねぇえええぞぞぞ」

 

 龍太郎の攻撃を喰らった檜山が何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「ちっ、結構マジで入れたつもりなんだけどよ」

 

 予想以上のタフネスに龍太郎が警戒する。どうやら本当に一筋縄ではいかないことを確認した龍太郎は、かなり先行している光輝の援護を行うために檜山に挑みかかった。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 光輝と龍太郎が檜山と戦う中、メルドを治療していた香織が聖棺の検査結果に目を通す。

 

「これ毒じゃない……小さい微生物みたいなものが暴れてる……まだ奥まで侵入してない。なら……」

 

 香織が魔力をメルドの中に流し込むと傷口から血が溢れ始める。それを確認した香織はメルドの一番大きい傷である肩口に短い光で作ったメスを当て……

 

「すみません。少しだけ我慢してください」

 

 傷口を肉ごと抉り取った。一瞬苦痛に顔を歪めたメルドだったが、そこは流石の騎士団長。声を漏らすことはなかった。

 

 原因となる異物を一か所に集め肉ごと切除した香織は、それを手持ちの保存液入りの瓶に詰め、メルドの傷口を回復魔法にて治療する。

 

「これでなんとか大丈夫」

 

 ほっと一息を付く香織だったが、そこで戦場を振り返る。

 

 

 そこでは光輝と龍太郎が前にでて檜山と戦っているところだった。幸い二人は鈴の援護もあり、傷を負っているようには見えない。

 

 だが香織は檜山から得体のしれないものを感じていた。メルドの症状といい、間違いなく普通ではない。

 

「光輝君ッ、檜山君から得体のしれないものを感じるの。ここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その一言は気を使った言い方をしていた。

 

 香織は光輝に掛けられた聖約の存在を忘れてはいない。だからこそ戦闘中に動きが止まるという致命的な隙を晒さないように嘆願の形で言ったのだ。

 だが、逆を言えばそれは何の強制力も持たないことを意味している。

 

 加えて相手は檜山大介。クラスメイトの一員であり、光輝に比べて遥かに劣っていた生徒。

 

 そんな状態で南雲ハジメに頼ったほうがいいと言われたら光輝は……

 

「限界突破!!」

 

 意固地になってしまうのだ。

 

 限界突破の恩恵を受け、光輝の速度が加速する。

 

「ぎぃ、ぎぎぎっぎぃぃぃぃぃ!!」

 

 少しずつ切り刻まれていく檜山。迫る拳を避け、その腕を斬りつける。薙ぎ払いに対しては屈んで避け、足を斬りつける。その動きは香織の懸念とは裏腹に冷静な動きだった。

 

 態勢が崩れた檜山に光輝は聖剣を振りかざす。

 

 正直まだ人を殺せる自信はない。ましておかしくなってしまったとはいえ、同郷の仲間なのだ。光輝の初体験としては中々ハードルが高いと言えるだろう。

 

 だが、メルドとてそれは想定していた。光輝との修行の際、もし殺す覚悟が整わないのであれば、殺さず無力化させることもできると光輝にその技を伝授していたのだ。もちろんそんなことではいつまでも覚悟なんてできない。だからこれは自分によっぽど余裕のある時だけにすることを約束していた。

 

 光輝は檜山の両肩の筋を斬る。こうすれば両肩を上げることはできない。倒れ込む檜山のすれ違い様、足の腱を斬る。これでもう動けない。

 

 倒れ込む檜山に背を向け、香織の方を一瞥する光輝。

 

(どうだ、香織。南雲なんていらない。俺だってできるんだ)

 

 それは確かな成果だと言えるだろう。これが並みの相手だったら周りの皆と力を合わせて捕縛することも可能だったかもしれない。だが……

 

「光輝ぃぃぃッ、後ろだぁぁぁぁ!!」

「えっ……」

 

 必死な形相でこちらに駆け付けながら叫ぶ龍太郎に戸惑う光輝。

 

 その後ろには平然と立ち上がり光輝に魔手を伸ばそうとしている檜山の姿。

 

「なっ!?」

「しゃらあぁぁぁぁあぁあ!!」

 

 とっさに攻撃を受け止めることができたのは訓練の賜物か。だが、とっさに受けた以上、完璧な防御とはいかない。

 

 受けた聖剣の腹から罅が広がり、砕ける。そしてその勢いで光輝は壁に叩きつけられた。

 

「がはぁ!」

 

 血を吐く光輝。聖剣は折れ、使える状態ではない。

 

「ぎひひひひ、相変わらずおまぇはあぁっぁぁ……バァカァだよなぁぁぁ~~~!!」

 

 光輝の惨状をあざ笑う檜山。

 

「あんときもそうだったよななな。俺がちょっと土下座したらさひひひ。お前って簡単にゆるしてぐれぇたんだからなぁあ。本気で反省してるわけないだろ。だからお前はヘボなんだよぉぉぉぉぉ、バァァァァカァァァ! ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「てめぇ、調子に乗ってんじゃねーぞぉぉぉぉ──ッ!」

 

 龍太郎が殴り掛かるもひょいと避ける檜山。

 

「邪魔ぁあああああすんじゃねぇ!!」

「がぁッ!」

 

 そしてさけられた拍子にお返しとばかりに拳で払われる。防御したものの、その威力を殺すことができず同じく龍太郎も壁に叩きつけられる。

 

「さぁぁああ、かおりぃぃぃぃ。もう邪魔者はいない。おまえはひひひ、俺の物だぁぁぁ、俺だけのものなんだよぉぉぉぉ」

 

 狂気を放ちながら香織にゆっくり迫る檜山。周りの人物はその得体の知れなさすぎる気配に動くこともできない。

 

「……檜山君さ」

「あん?」

 

 檜山に向けて手を翳す香織。その顔には感情などない、魔女の顔をしていた。

 

「私、あなたのこと……大っ嫌いだから……”堕天”」

 

 黒い光球が放たれ檜山に命中する。

 

「ひ、ひぎ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ──!!」

 

 悶え苦しみだす檜山。全身の肉が爛れ始め、腐臭が黒コートから漏れ始める。

 

 クラスメイトはとっさに目を逸らし、息を止めた。香織がかつてベヒモスに使った外道魔法を行使したことが分かったからだ。

 

 ここに勝負あり。光輝の傷を瞬時に回復して見せたのは驚いたが、回復するということは過回復も有効である証だ。このままなす術もなくドロドロに溶かされ……

 

「あああああああああああああああはははははははは!!」

 

 溶かされることなく笑い声をあげた。

 

「なっ!?」

「効かねぇ、効かねぇえんだよ俺にはよぉぉ。きひひ、ひーひひひひ」

 

 黒コートの中身が膨張する。まだ中身は見えないがそれが肥大化した筋肉であることはわかる。

 

「”堕天”」

 

 再度檜山に堕天を行使する香織だが、命中したにも関わらず今度は苦しむ素振りさえ見せない。

 

「かおりぃぃぃぃ──ッッ!!」

「ッ、”縛煌鎖”、”縛光刃”!」

 

 迫る檜山に対して無数の鎖と十字架が襲い掛かり、檜山の動きを止めようとする。だが、今の檜山の様子は尋常ではない。

 狂った叫びを上げながら鎖を引きちぎり、十字架を破壊して邁進する。

 

 香織は内心歯がゆい思いを隠せない。

 

 香織は確かに強いだろう。魔人族の部隊をたやすく屠って見せた能力や、相性が良ければ悪食のような大災害を退けることもできる。だが、香織には基本的に攻性魔法に適正がないという弱点があった。

 

 絡め手が通じる相手ならいい。最悪堕天が通じればなんとかなる場面はたくさんあるだろうが、反面耐魔力や耐久がやたら高い、レベルを上げて物理で殴りかかってくる敵にはめっぽう弱い。

 

 これがユエなら高レベルの魔法で相手を倒せるし、シアならその身体能力で圧倒できる。だが香織にはどちらもないのだ。

 

「”聖絶”!」

 

 目の前にまで迫ってきた檜山の前に聖絶が五枚重ねで展開される。

 

「カオリ、カオリ、カオリ、カオリ、カオリ、カオリィィィ!」

 

 一枚、二枚、その明らかに尋常ではない筋力で破られていく障壁。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ──ッッ!!」

 

 光輝が身体を何とか起こし叫ぶも何もできない。限界突破の反動で動けない上に、聖剣は再び折れてしまった。今の光輝には香織が襲われるところをただ見ていることしかできない。

 

「さぁああああららららら。もうすぐぅ、もうすぐお前ははは……俺の物だぁぁぁあああああぁぁああ!!」

 

 叫ぶ檜山に対して、焦りを覚えていた香織はあるものに気付き、笑顔を浮かべた。

 

「無駄だよ。私には、私を助けてくれる最強無敵の錬成騎士がいるからね」

 

 

 そして大広場に一発の銃声が響き渡る。その銃声と共に吐き出された銃弾は檜山の右半身に命中し、身体の半分を消し飛ばしながら檜山を広場の壁に叩きつける。

 

 

 

「無事か、香織」

「うん。大丈夫だよ、ありがとうハジメ君」

 

 そう、このタイミングで香織の錬成騎士、南雲ハジメはクラスメイトと合流を果たした。




>檜山大介
神父たちに囚われて奴隷扱いされていたが、ここ一か月拷問じみた人体実験によりある特殊な微生物を寄生させられる。そのおかげで力は大幅に増しているが神父の補佐なしに知性や理性を保てなくなっている。今の檜山に残っているのはハジメへの筋違いの恨みと香織への偏執的な執着である。

>光輝VS檜山
光輝は相変わらず頭の中がふわふわしてますが、それを想定していたメルドによって体に教え込まれた技にて善戦。だが最後の最後で油断して聖剣を折られ敗北。彼は彼なりにあがいているが、大事な場面でいまいち決まらないのは覚悟のなさか?

>香織VS檜山
ここで香織の弱点発覚。攻撃魔法が使えない香織は状態異常を駆使して相手を追い詰めるテクニックタイプですが、それゆえに状態異常の効かないフィジカルモンスターは香織の天敵です。味方の中ならハジメや蓮弥を除けばシアが天敵。

次回ハジメVS檜山。
悪役のターンの名の如く、檜山の手札はまだあるのでお楽しみに。

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