これは本日もう一つ更新されたものとほぼ同時間での話です。
ハジメ視点でのバーン大迷宮攻略になり、バーン大迷宮なので一応閲覧注意です。
南雲ハジメには自信があった。
例えどんな大迷宮であろうと自分達なら乗り越えられると。
事実ハジメ達の大迷宮攻略はこれで5つ目、もうすぐ終わりが見えてくるころだ。今までの大迷宮での試練はそのほとんど全てが彼らの血となり肉となり、力を与えているといえるだろう。
大迷宮の試練は良く出来ている。それぞれの大迷宮にテーマを設け、ただ力だけではなく精神力を鍛える必要があり、その試練を乗り越えることで成長できるようになっている。そこまでしないと神とは戦えないという解放者達の願いなのだろう。
ではバーン大迷宮のテーマは何なのか。ハジメが蓮弥から聞いた話では神の誘惑に負けない意志を持つことだという。なので神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事が条件なのだという話だった。
ハジメ達はエヒト教なんて微塵も信仰していないどころかハジメに至っては、教義の一つや聖句の一節も知らない状況なので前半に関しては問題なくクリアーできると確信している。ならば問題は後半。この大迷宮は扉を潜るたびに魂に対するスキャンがかけられ、それによって魂が少しずつ汚染されていくのだという。
要はこの大迷宮を正気を保った状態でクリアーできればいいとハジメは解釈する。
こう言ってはなんだが、ハジメはこっちの条件についても自信を持っていた。自虐するわけではないが、オルクス大迷宮の奈落の底にて発狂寸前の地獄を乗り越えたのだ。だからこそ精神的な強度には自信があったのだ。例え目の前に旧支配者が現れたとしても心乱すことはないだろうと。
だが、そんな自信も実績も関係なく、この大迷宮でハジメは人生史上最大のピンチを迎えることになる。
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バーン大迷宮攻略開始数時間後。ハジメは一人でバーン大迷宮を攻略していた。もちろん最初から一人だったわけではない。大迷宮に突入した時はもちろんハジメパーティー全員そろっていたし、途中までは一緒だったのだ。
だが二つの扉を数回選択した後、徐々にパーティーメンバーが分離していった。
一番最初に赤の道、青の道の選択でユエとティオが消え、次の獣の道と鳥の道でシアと香織がいなくなった。つまり現状ハジメは一人で攻略を行っているわけだ。
だが現状は取るに足らないとしか言いようがない。一応蓮弥の忠告通り扉から出るたびに自分のチェックを怠ってはいないが別におかしいことはない。扉の先も変わったものはなかった。
だがなぜだろう。次の扉に書かれている文字に不穏な物を感じるのは。
『筋肉の道』
『贅肉の道』
「…………」
扉に意味などないとは分かっているのだが、ハジメは何か不穏なものを感じていた。
本当になんなのだろうか。この先に進むととてつもなくひどい目に合う気がする。
「……ここでじっとしてても始まらねぇ」
ハジメは筋肉の道に進むべく扉を開けた。
「なんだここ? あっちぃ」
ハジメが入った部屋は高温多湿空間だった。視界に靄がかかり息をするだけで苦しくなってくるような環境はまるでサウナだった。
「…………」
なんだろう、なぜ奥から怪しい匂いが漂ってくるのだろうか。
「はぁ~い。待ってたわよ~ん♪」
そしてハジメの前にそれは現れた。
テカテカモリモリの筋肉にブーメランパンツ一丁のブルックの町に存在する装飾店の漢女店長、その名はクリスタベル。ここにいるはずのない異形の生物だった。
「ば、化物!」
「だぁ~れが、古代の怪物すら裸足で逃げ出す、見ただけで泣く子が心筋梗塞を起こすような化物だゴラァァアア!!」
その威圧とそのテカる筋肉とその圧倒的な濃い存在感に圧倒されそうになるが、ハジメは自身を鼓舞し、クリスタベル? に銃撃した。
この大迷宮にこの化物店長がいるわけがないという判断の元、これは大迷宮の用意した試練の一つだとわかった上での速攻。だが……
ボム、ボム、ボム
放たれたレールガンは全て筋肉に塗られたオイルで滑るか、その厚い筋肉自身に阻まれた。
「!!」
「無駄よ~ん♪ このっくしいボディは日々のレッスン、レッッスンによって鍛えられているわ~。だからそんな攻撃は、き か な い の♪」
ハジメの方にバチンと音が鳴るようなウィンクをかますクリスタベル。
ハジメの正気度が下がった。
「さあ、あなた達。ハジメきゅんにも筋肉の素晴らしさを理解してもらいましょうね~~ん♪」
『はぁぁぁぁぁい♪』
見ればクリスタベルの背後にはテカテカモリモリの筋肉を携えた漢女達がハジメに向けて熱のこもった眼を向けてきた。
ハジメの正気度が下がった。
「冗談じゃねぇ!! てめぇらまとめて……」
ハジメが宝物庫を開いてメツェライにて、こいつらの自慢の筋肉をズタズタにしてやると手を伸ばしたが、その前にその腕をごつごつした大きな手によって掴まれ、そのままスリスリ触られる。
「う~~ん、少し量は物足りないけど中々良い筋肉してるじゃな~~い♪ ハジメきゅん可愛いわね~、食べちゃいたい♪」
腕をスリスリされて全身鳥肌立たせ硬直しているハジメの尻を……
ふわり
と音がなるようなフェザータッチで軽く撫でた。
ハジメの正気度がドカンと下がった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ハジメが蕁麻疹を出しながらも強引に振り払い、ショットシェルを使った左腕で顔面をその膂力で全力でぶん殴るが。
「いいわ~♪ すごくいい感じよ~ん♪」
やばい。ハジメの本能が警鐘を鳴らす。
このままここにいたら、ハジメは大事なものを失う気がする。
「掴ま~えた♪」
そうこうしている間にハジメが拘束される。ハジメらしからぬミスだが、ハジメはこの部屋に入ってから一度も冷静に慣れていない。ハジメが全力で暴れるものの、その漢女の筋肉は伊達ではないのかびくともしない。
そしてハジメの前方から蒼いつなぎを着た男が現れ……
「ウホッ! いい男……」
や ら な い か
「限界突破・覇潰ィィィィィィ──ッッ!!」
必死だった。
ハジメはつい先日習得した限界突破・覇潰を躊躇なく使う。
そのまま5倍に増大した膂力で漢女を振り払い、全力で逃走する。
予感がした。このままここにいたら、絶対に失ってはいけない大切なものを失くすと。
奥にドアが見える。そのまま突っ走るハジメだったがその前に人影が立ちはだかる。
「どけぇぇぇぇぇぇぇ──ッッ!!」
ハジメに躊躇はなかった。邪魔するものは全て潰して進む。今ほどそれを実行しなければならないと思ったことはない。
その巨体にハジメの拳が突き刺さる。衝撃の余波は周囲に爆風を生み出し。筋肉たちが「あら~~ん♪」と言いながら吹き飛んでいるが関係ない。なぜなら……
ハジメの前に怪物を超えた怪物が佇んでいたのだから。
それは筋骨隆々な漢女達の中でも飛びぬけた筋肉の持ち主だった。全長は三メートルほど。全身に備えられた筋肉を日曜日の朝で出てくる魔法少女のような衣装で覆っている。
その濃い作画はもはや別作品。某世紀末救世主伝説に出てくる覇王のような濃さである。
そして何より、彼? が纏っている闘気らしきものが尋常ではなかった。現時点でのシア以上の力を感じる。
そして頭には、猫耳が生えていた。
「初めまして、メ~ルたんだニャー♪」
ハジメの正気度がドカンと下がった。
「錬成師さん。お願いがあるんだニャー。メルたん、猫人族だから魔力が無いニャー。だから、そんなメルたんでも魔法少女になれるような素敵なアイテムを作ってほしいんだニャー」
ハジメはSAN値がいきなりドカンと下がったことで一時的な狂気状態に陥っており思考回路がまともに機能していない。そんなことに気付かずメルたんと名乗る世紀末覇王がハジメの手を握る。
「お願いしますニャー。メルたんに、ふぁんたじーぱわーを授けてくださいニャー」
ハジメは限界を迎えた。
「知るかぁぁぁ──ッッ!! 鏡見ろやぁぁぁぁッ! お前の存在そのものが既にファンタジーだろぉぉぉ──ッッ!!」
ハジメは走って走って走りまくり、迫る筋肉を乗り越え、ギリギリ脱出することに成功する。
「はぁ、はぁ、はぁ、な、なんだったんだ、いったい?」
その声は震えていた。ハジメは心なしか周囲の温度が数度下がったように感じる。
こんなところもういられるか。そう思ったハジメは再び試練を乗り越えるために眼前の扉を確認する。
『筋肉の道』
『贅肉の道』
「~~~~~~~~~ッッ」
思わず扉に向けて発砲しそうになったハジメだが、そんなことをしても弾の無駄遣いだと己を諫める。
そして今度は贅肉の道を選ぶ。
少なくともこちらの道なら筋肉共はでてこないし、理不尽な頑丈さを持っていた筋肉とは違い、贅肉なら殺せるという判断の元、ハジメは扉の奥に進む。
そこで待っていたのは……
「デュフフフフwwww 待ってたでござるよ南雲氏wwww」
いかにもキモピザ要素を混ぜ合わせましたみたいな巨漢のデブだった。
「死ね」
「オウフww辛辣な返答ktkr。流石ドSに定評があるでござるなーww」
ハジメは攻撃をためらわなかった。もう一切油断しない。扉の中にいる生物は絶滅させる気持ちで挑むことにしたのだ。
ドンナーが火を吹き、目の前のデブをラードに変えるために弾丸が迫るが、デブとは思えない機敏な動きで全部避けられる。
「!!」
「無駄無駄無駄無駄ーでござるよ南雲氏ww。オタ芸を極めた拙者にその程度の攻撃なんぞあたらんでござるよードプフォww」
そしてハジメの耳にベルの音が鳴る。ちょうど電車のドアが開く際に聞くような音だった。
そこで冷静に周囲を確認してみるとこの場所が横幅3メートル未満の長細い通路になっていることに気付く。横には横開きのドアがつけられているようだった。まるで電車のように。
そして、ベルが鳴った後、ドアは開き。中に贅肉たちが押し寄せてきた。
「なっ、ぐぉぉぉ」
ハジメは対応できずに贅肉集団に押しつぶされる。
そして完成したのは汗と贅肉と悪臭の地獄だった。狭い通路に充満する異臭は夏コミと言う名の戦場から帰還したばかりの戦士達のオーラ(汗の湯気)から出ており、それが超超満員電車並みの人口密度で密集することで濃縮された状態でハジメを襲う。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」
なんとか鼻を抑えても悪臭は微塵も軽減されず、ハジメは急に上昇した室温と湿度も相まって気絶しそうになる。
「やっぱり魔法少女カレイドユエたんこそ至高でござったなww」
「いやいやww見た目は聖女、中身は腹黒のキュアブラックカオリンこそが究極でござろうww」
「いやいや、エリセンミュウミュウたんこそ唯一絶対wwあの未成熟の可憐さはロリBBAwwには出せんでござるよw」
さっきから勘に触ることを言われているのに身動き一つ取れないのと悪臭によりふらふらのハジメ。このままでは落ちると判断したハジメが全力の魔力放出で脱出した。
「おやおや、そっちの方へ行ってもいいのでござるかww あちらは貴腐人の方達の聖域でござるよwwぶふぉww」
そしてキモデブの檻から抜け出したハジメを待っていたのは……
「きゃ、やだぁww、ここは女性専用よ~ww。け、ど。僕君可愛いから特別に許しちゃうww」
見た目は一般的なアラフォーのおばさん。贅肉ダルダルか、骨と皮だけのBBAがゴスゴスでフリフリな衣装を恥ずかしげもなく着ている光景だった。
ハジメの正気度が下がった。
「ねぇねぇ僕君。お姉さんたちね。今同人誌書いてるの~。けど、男の子に見せたことがないからぜひ読んでほしいな。全部読んでくれたらここを通っていいからね」
そういって渡された本をハジメは無意識に手に取る。既に思考能力の半分以上が汚染されていた。
そして表紙にハジレンの錬金術師と書いてある同人誌を開いた。
以下、内容の一部を抜粋。
「ハァ……ハァ……どうだ? 蓮弥……これが、俺の、パイルバンカーだ!」
「ハジメ……ハァ……ハァ……すごく……世界最強です」
「ハァ、ハァ、まだだ、まだまだこんなもんじゃねぇ。今夜は、寝かさないぞ」
「ああ──なんて逞しい筋肉なんだ。そう、ここが……」
「俺達の……」
「「デウス・エクス・マキナ!!」」
ハジメの正気度が、天墜した。
その後も襲い来る試練を乗り越えるハジメ。
もはや筋肉の道でもない癖に筋肉はデフォルトで現れるようになっていた。
ある部屋では筋肉がバーベルを持って筋肉トレーニングに励んでいた。
ある部屋では筋肉が筋肉体操という謎のくねくねした動きで筋肉をぴくぴくさせていた。
ある部屋では筋肉が筋肉達と共に筋肉と筋肉と筋肉を使って筋肉を筋肉していた。
筋肉では筋肉が筋肉で筋肉を筋肉して筋肉だから筋肉になり筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉。
筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋肉筋
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「あは、あはは、あはははは、やった、俺は、俺はついにやったぞ」
ハジメは極限までボロボロになりつつもついにそこに到達する。
筋肉で出来た通路の先に待つ一つの扉には確かにこう書かれていた。
『休息への道』
それはハジメが待ち続けた朗報だった。蓮弥から聞いていた休息ポイント。そこには魂の汚染を除去することができるスープがあるらしい。ハジメの顔が明るくなる。
そして……
「シア……まだまだ修行不足。あれしきの幽霊で叫び声を上げるなんて」
「だってぇ、急に飛び出してこられたら誰でもびっくりしますぅ」
「確かにアレはちょっとびっくりしたね。だけどユエ。ユエだって一個前の急に絵が笑い出すところでは固まってたじゃない」
「私はユエ。常に前進し続けるものにして過去を振り返らない女」
「もう、調子いいんだから」
「妾としては中々良い体験じゃったがの。こうゾクゾクする感じもまたたまらなかったしの」
「相変わらずティオさんはぶれないですぅ」
「みんな……」
T字の左側から聞こえる声にハジメは泣きそうになった。
正直舐めていた。この試練はハジメの想像を超えていた。そして思い出す。今まで考えてみれば本当の意味で自分だけで攻略できた大迷宮なんてない。誰かの助けがあったからこそ乗り越えられたのだと。ハジメはその事をこの大迷宮で骨身に沁みるほど教えられた。
今度からはもっとみんなに優しくしよう。あ、ティオは特別に叩いてやるかな。
そんなことを考えながら通路を走るハジメ。
ユエに、みんなに会いたい。
その想いを胸に通路の交差点でハジメの前に……
筋骨隆々の世紀末覇王と化したユエ、シア、香織、ティオが現れた。
ハジメは……正気を……失った
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「これで良し」
『休息への道』にて、香織はユエとシアの治療術式の準備をしていた。ここに運び込まれた時は真っ青な顔色をしていた二人だったが、スープを飲んだおかげだろうか。少しだけ顔色が良くなっているように思える。
だがそれだけでは二人は回復しきれず、やたら窓を怖がるシアとずっと含み笑いを続けるユエを強制的に眠らせて聖棺に入れ、たった今、スープを参考に作成した治療術式を急速回復モードで起動させたのだ。
「これで後数時間くらいで元に戻ると思うよ」
「ほう、相変わらず大した腕じゃの」
香織の手際を感心したような目でティオがのぞき込む。
ハジメ以外のメンバーは二組に分かれてバーン大迷宮の前半を攻略していた。
組み合わせはシアと香織、ユエとティオといったように分けられ、最初は順調に攻略していたのだが、途中でシアとユエが異常行動を起こし始めたのだ。香織とティオはそれぞれ再生魔法を使いながら、蓮弥のアドバイスを思い出し、なんとかここまでやってくることができた。ある種の狂気耐性のようなものがあったらしい香織と年季による経験値を持つティオはそこまで影響を受けなかったのが運が良かったと言える。
「さて、問題は……」
だが香織はまだゆっくり休憩とはいかない。なぜなら、今回の大迷宮にて一番重症な人間の治療が終わっていないからだ。
「うう、うう、僕もう嫌だよぉぉぉぉ。家に帰りたいよぉぉぉぉ。筋肉が、筋肉が迫ってくるよぅ。大胸筋の群れに窒息死させられるよぅ……」
それは休憩の道にて備え付けられているベッドの上で布団に包まりながらぶつぶつ言っているハジメだった。
休息への道の直前で合流したハジメだが香織達を見た途端、悲鳴をあげて卒倒したのだ。
口から泡を吹いて痙攣を続けるハジメを見て、やばいと思った香織はティオと協力してハジメを連れて休息の道へ入ったのだ。
そこからハジメにスープを飲ませた──ハジメは意識がなかったので口移しするしかなかったが、どちらがどう飲ませる云々言っている場合ではなかったのでスープを真っ先に発見したティオが急いで口移しを実行した──後、様子を窺っていたのだ。
しばらくすると痙攣が収まり、意識を取り戻したのだが、すっかりハジメは奈落に落ちる前に近い口調に戻り、誰もいないところで一人ぶつぶつ言い始めたのだ。
一先ず危険はないと判断した香織は未だに顔色が悪かったユエとシアの治療を優先してここに至ると言うわけだ。
「これはよっぽどひどい目にあったのじゃな。まさかご主人様がこんなことになるとは……」
「ハジメ君にも治療術式を使うつもりだけど……」
あの様子では、それだけでは足りないかもしれない。
「筋肉怖い筋肉怖い筋肉怖い筋肉怖い筋肉怖い」
「…………ふむ」
布団に包まりながら筋肉怖いと言い続けるハジメにティオが何やら試案顔になっている。そしておもむろにハジメの頭をそっと抱き起こして。
思いっきりその究極の母性の象徴へとハジメの頭を押し付けた。
「ちょ、ちょっとティオ!?」
香織が虚を突かれた顔をするがティオは微笑みながらまるでハジメをあやすかのように優しく抱きしめた。
「ご主人様よ、怖かったであろう。でももう心配には及ばぬ。今ここにあるのは妾の柔らかい胸だけじゃ」
その母性の象徴でハジメを包み込む姿はまるで聖母のようだった。ハジメも自らを包んでいるのが硬い筋肉でも臭い贅肉でもないことに気付き、安らかな表情を浮かべる。
「うう……腹筋硬い。おっぱい柔らかい。上腕二頭筋怖い。おっぱい怖くない。大胸筋臭い。おっぱい良い匂い……おっぱい暖かい……」
普段からは考えられない行動だが、ハジメがティオの胸に溺れるようにしがみ付き始めたのだ。そしておもむろにティオの着物をはだけて胸に手を伸ばす。ティオもそれならばと着ている着物を脱いでしまう。
「ご主人様よ。いいのじゃよ、今日は妾に甘えても……ほれ、香織もこっちにこぬか。何やら筋肉に怯えているようじゃったからの。ならば女体にて包んでやるのが男にとっての一番の良薬じゃろうて」
香織は衝撃を受ける。まるで最新医療にばかり目を向けた医者が民間療法の意外な効果を目の当たりにして目から鱗が落ちるような感覚。そして何より……これは恋する乙女として結構おいしいイベントである。
「……そうだね。これは治療だもんね」
香織が遠隔操作にてユエとシアの聖棺のモードを急速回復モードからゆったりリラックスモードへと切り替えた。ここに備え付けられている時計は0時を指している。これなら朝までユエとシアは絶対に起きない。
「よし……白崎香織、行きます!」
香織は覚悟を決め、着ている服を全て脱ぎ捨ててハジメの布団に潜り込んだ。香織はできるだけハジメに密着するようにその裸体を密着させ、さらにハジメの手を取り、掌を自身の胸に押し当てつつ治療術式を開始した。干渉を行うなら密着面積は大きい方がいいのである。逆側ではティオが同じく全裸でハジメに抱き着いていた。
「ああ……おっぱい柔らかい。筋肉じゃない、痛くない、苦しくない…………」
そして、同じベッドの中で三人は抱き合いながらまどろみの中に落ちていったのだった。
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それから無事に正気を取り戻したハジメが全裸で色々丸見えの状態で「ハジメ君……昨日のあなたは素敵だったよ」などと顔を赤くしながら言ってくる香織といつも通りなティオの姿に、ついにヤッてしまったのかと激しく動揺したり、大迷宮後半にてユエとシア、香織とティオの間にいざこざが合ったりしたが、なんとか大迷宮深層にまで辿り着くことができた。
そしてハジメは無駄だとわかりつつも現れたラウス・バーンの幻影に向けて能面のような無表情で銃を撃ち続けた。仲間が止めるまでひたすらひたすら撃ち続けた。
それが攻略に影響するわけもなく、無事に全員魂魄魔法の入手に成功したわけだが、バーン大迷宮はハジメの中で行われているクソダンジョンオブザイヤーにて不動の一位だったライセン大迷宮をぶっちぎりで追い越し、堂々の一位に輝いた。ハジメは全てが終わったら神山ごとこの大迷宮をぶっ壊す気満々だった。
さらに余談だが、この日以降、ハジメは過剰な筋肉に触れると手足が震え、蕁麻疹が出るような後遺症が残ったと言う。
>無間筋肉地獄
ハジメが迷い込んでしまった異界。そこで生きるものは全員筋肉を愛し、筋肉で全てが決まるという世界。なぜかカマ率が異様に高い。
>メルたん(イメージCV:三宅健太)
超生物。元々猫人族の線の細い中性的な美少年奴隷だったのだが、ある時偶然逃げ出すことに成功し、行き倒れていたところをクリスタベルに救われる。
クリスタベルの元、日々魔法少女になるために精進しているが、亜人族故に魔法の才能がないばかりか、固有技能「闘気変換」を所持しているため魔法が使えない。そのかわりあらゆる攻撃を跳ね返す強大な闘気を纏う。
いつか魔法少女になって困っている人に「もう大丈夫だニャー、私が来た!(ここだけイケボ)」と言って助けるのが夢。
いつか地上最強の生物の座をシアと争うことになる……かも。
元ネタはハイスクールD×Dのミルたん
>衆道至高天
ハジレンと光龍が王都の流行り。どこかで薄い本が作られているかもしれない。
>香織とティオの民間治療
進んだ関係の深さは違えども奇しくも香織は親友と同じく、想い人と全裸同衾することに成功。
次回は正月休みで少し遅れるかもしれません。