ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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黒白のアヴェスターが面白すぎる。

魔王が良い意味で馬鹿ばっかりで良かったし、マグサリオンが無慙してた。あそこで特攻するところが流石すぎる。

というわけで前回とは違いテンション上げながら更新。
事態は新たな局面を迎えます。


堕天使が告げる世界の危機

 ハジメ達はその魔力流の中心地に近づくこともできないでいた。

 

(これが……俺達と蓮弥の差か)

 

 否が応でも理解してしまう。いや、ずっとわかってはいたのだ。蓮弥と自分達の間には何か決定的な差があると。

 

 悪食戦での大立ち回りやレギオンを駆逐している時にもその力は見せてもらっていたが、ここにきてその真価のほとんどを理解できていなかったのだと気づく。

 

 ハジメの目にはちょうど剣と剣の境目に、この世界とは明らかに違う正体不明の異界があるように見えた。

 

 それはこの世界にはない法則。神代魔法ですら届かない領域。それが何なのかはわからないが、それの一端を垣間見てハジメは思う。

 

「舐めんなよ。俺は、お前に置いて行かれるつもりはねぇ」

 

 ハジメはせめてしっかりと見据えることにする。いずれ自分が辿り着かなければならない頂きを。

 

 

 己の魂に刻み込むために。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥とフレイヤは剣を合わせるばかりで行動を起こさなかった。鍔迫り合いからのにらみ合いが続く。

 

 

 蓮弥はフレイヤを観察する。金糸の髪に赤い目。顔のパーツが黄金律の配置で定められているその美貌は相変わらず女神だと言われても信じられるレベルのものだった。

 そのメリハリの効いた肢体を包む衣は以前とは違い白い軍服。どんな心境の変化があったのかはわからないが、より神聖さを高めているような気がする。

 そしてその身に纏う力は、以前より遥かに増していた。

 

 

 蓮弥とてあれから強くなっている。強敵との戦いによる渇望の深化。王都での戦いによる膨大な魂の吸収。それを踏まえても目の前のフレイヤも同等レベルで強化されているのがわかってしまう。

 

 そしてその剣には……

 

 

 蓮弥は剣を振り払い、一度地上に降り立つ。

 

 ようやくせめぎ合いの衝撃から解放された雫が蓮弥の側に立ち村雨を構える。

 

「蓮弥……一体何が……!?」

 

 そこに異常を察知したハジメ達が駆け寄るが、舞い降りた堕天使の姿に驚愕の表情を浮かべる。

 

 美しい金髪に赤い目、その特徴は否が応でも彼らの大切な人を思い浮かべるも、大剣を手に持つ美貌の堕天使はハジメ達を視界に入れず、蓮弥だけを見続ける。

 

蓮弥とフレイヤの睨み合いは続く。そこにもはや他人が介在する余地も資格もない。だからこそ、次の行動でこの王都は再び戦火に包まれることになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめだ」

 

 

 

 

 だが、蓮弥はあろうことか創造を解除した。

 

「なっ!?」

 

 周囲はいきなり蓮弥が武装を解除したことに驚くが、それを気にすることなく蓮弥が話を進める。

 

「お前もいい加減それをしまったらどうだ。お前の剣には敵意がない。何か用事があるんだろ?」

 

 その言葉を聞いたフレイヤは面白そうに顔を歪める。蓮弥のうんざりしたような表情とは正反対だった。

 

「あら、ご明察。よくわかったわね。もっとも、気づかないなら気づかないで楽しいひと時が過ごせたかも知れないけど?」

「冗談言うな。誰がお前と好き好んで戦いたいと思うんだ。だからあの時、確実に止めを刺したはずなんだけどな」

「残念ながら私は戻ってきてしまったわ」

 

そこでフレイヤは蓮弥と同じく大剣を消し、己の目的を果たす。

 

「さて、では単刀直入に言いましょうか。私はあなたと敵対しに来たんじゃない。手を組みに来たのよ。遠くない日に来るであろう『大災害群体(レギオン)』の脅威に対抗するために」

 

 フレイヤが極上のスマイルを浮かべて蓮弥を見つめる。だが蓮弥からしたら得体が知れなさ過ぎて怖い。敵意がないのはユナとも確認済みだが、一体何を企んでいるのか。

 

「手を組みに来ただと? そんなこと信用するとでも? そもそも俺たちの間にそんな関係が成立すると本気で思ってるのか?」

「ええ、成立すると思うわ。今から私の話を聞けば、今のように呑気に平和を謳歌している場合じゃないとわかってもらえると思うから……」

 

 どうするのか暗に聞いてくるフレイヤ。蓮弥は少しユナと相談する。

 

『ユナ、どう思う?』

『……話を聞くしかないかと。あの堕天使は大災害群体(レギオン)といいました。おそらくこの世界中で発見されている例の怪物に関係することでしょう。……私もアレは無視していいとは思っていませんでしたので』

 

 つまり話を聞かないという選択はないわけだ。

 

 一体どんな厄ネタを持ってきたのか。この調子だとハジメをトラブルメーカーとは呼べないなと蓮弥は内心でため息を吐いた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 それから蓮弥達を含むこの国の主要人物達が一堂に会することになった。場所は王宮の一室。本来復興中の王都から遠い場所でやるべきなのだろうが、残念ながら相応しい場所がなかったのだ。

 

 

 現在、その部屋に集まった人物は全員ある一人の人物を見ていた。ある者は恐れを抱き、ある者は警戒し、ある者は嫌悪感を抱きながら。その視線を全て受け止め、堕天使フレイヤは余裕の笑みを見せる。

 

「な~に? 随分警戒されてるわね。一応私は客人なのだからお茶の一つでも出さないわけ?」

 

 椅子に腰かけ偉そうにふんぞり返りながらそんなことを宣うフレイヤ。蓮弥はちらりとリリアーナを横目で見て合図する。その意味を正しく受け取ったリリアーナは使用人に合図を出し、数分もしない内にフレイヤの前に紅茶が出される。

 

「へぇ、これクーランの物よね。流石に王宮なだけあっていい葉を使ってるじゃない。やっぱり昔から良いも悪いも含めて葉っぱはクーランの物に限るわね。もっとも実際に飲んだのは初めてだけど」

 

 随分リラックスしながら優雅に紅茶を飲みだしたフレイヤに周囲のイライラが積もり出す。特にハジメ辺りからは隠しきれない嫌悪感が駄々洩れだ。もし事前に蓮弥が言い含めていなければ今にも銃を抜きそうな気配。そしてそんな気配は当然フレイヤにも伝わる。

 

「あんた。何さっきから私をジロジロ見てんのよ。私、あんたみたいな根暗陰険勘違い俺様野郎に興味ないから勝手に見ないでほしいんだけど……ああ」

 

 ハジメを根暗で陰険呼ばわりしたことでハジメパーティーが顔をしかめた。そしてハジメに対してまるで興味を示さなかったフレイヤもその視界にユエが入ると何かに納得するような顔をする。

 

「そうだったわね。何、そんなに私の顔が気になるわけ?」

 

 挑発するように嘲笑するフレイヤに空気が重くなる。そしてそのフレイヤの容貌こそが、現在ハジメ周辺をイラつかせている原因だ。おそらくこの場にいる大多数の人間が思っていることだがユエとフレイヤは髪と目の色から顔立ちまでそっくりなのだ。フレイヤの方が外見年齢が高いため大人びて見えるがほとんど瓜二つと言っていい。ユエなどは先ほどから自分そっくりの顔……ではなく軍服を押し上げる豊満に膨らんだフレイヤの胸を親の仇のように睨んでいる。少し空気が読めていない行動だったがユエにとってはタイムリーかつシリアスな問題だった。

 

 悪くなる空気を何とかするために蓮弥がその空気に割って入る。

 

「そうだな。この際本題に入る前に聞かせろ。お前とユエに何か関係はあるのか?」

 

 現状この場でフレイヤが暴れても対処できるのは蓮弥だけなのだ。特にハジメ達には現状のハジメ達じゃフレイヤに絶対に勝てないと蓮弥は断言し、決して挑発に乗らないように言い聞かせている。よって必然、話をするのは蓮弥が中心となって行われる。

 

「もちろんあるわよ。というかここまで似てて関係ないわけないじゃない」

 

 渋るかと思ったフレイヤだったが、何の気なしに平然と答える。

 

「私が生まれたのはちょうど300年前。つまりそこの吸血姫が封印されたから、そいつの因子を参考に私は作られた。尤も私は吸血鬼じゃないから吸血鬼由来の技能は使えないけど」

「つまり神エヒトがわざわざユエを参考にお前を作ったわけか。何のために?」

「言えない」

「…………」

 

 推察できることはいくつかあるが、現状ではあまり踏み込むべきところではないだろう。これ以上話を続けると必然的にユエに関わる深い話になりかねない。

 

「あの日、お前に確実に止めを刺したはずだった。なのにお前は俺の神殺しを受けて平然としている。どうやって復活した?」

「言えない」

「なんのために中村と行動を共にしてる?」

「言えない」

「お前の後ろにいるのは誰だ? 神エヒトではないんだろ?」

「それも言えない」

 

 言わないのではなく言えない。これが意味するところはフレイヤにも何か縛りがあるのだろうか。一応蓮弥は頭の隅に情報として残しつつ本題に入ることにする。

 

「それで……お前は何のためにここに来たんだ。確か言ってたな。大災害がどうだと」

「そうね。だけど説明するのは少し面倒ね……直接見てもらった方が早いかしら」

 

 そうフレイヤは笑いおもむろに手を広げて……自身の目玉を抉り出した。

 

「!!」

「今から見せるのはついさっき私が見てきた光景よ。これを見れば、誰でもこの世界に異常が起きているとわかるわ」

 

 そして掌に握りしめている自身の目玉を握りつぶした。

 

 肉が弾けるような音ではなく、ガラス玉が割れるような音が周囲に響き渡る。

 

 キラキラと光の粒が舞う光景は中々幻想的だったが、すぐに景色が変わる。

 

「これは……」

「……どうやら視界共有の術の一種のようですね。単純に術者が見た光景を映し出すだけのようです」

 

 ユナが言うなら害があるものではないらしい。

 

 

 蓮弥達の視界には、トータスの風景が映っていた。空を移動しているらしく、地面からそれなりの距離がある。

 

 

 そしてその光景は蓮弥達もかつて行ったことのあるライセン大峡谷を映し出しており……

 

「なっ!?」

 

 誰が呟いたのかはわからない。わからないが関係ない。なぜならその呟きはこの風景を見ている全員が共有しているものだったからだ。

 

 

 黒い。

 

 黒い。

 

 黒い。

 

 大峡谷が黒に染まっている。まるで波打つタールが詰まっているかのように、鍋の中に地獄を煮込んで吹き返しそうになっているかのように。所々混じっている赤がさらに不気味さを増している。

 

 その光景はどう考えても異常だった。当たりまえの話だが、前回蓮弥達が大迷宮攻略を行った時はこうなってはいなかったのだ。そしてその光景をもっとよく見てみると、蓮弥が知っているもので構成されていることに気付く。

 

「これは……レギオン?」

 

 そう、クーランで、旅の道中で、そして王都にて戦ったレギオンが大峡谷から溢れ出さんと息づいていた。

 

「だけどこれは……」

 

 そこで景色が通常に戻る。場所は王都の一室、現状何も変わっていないのに誰も何も言いださない。フレイヤはその隙に素早く眼球を再生させる。

 

「そう、あれが大災害群体(レギオン)。現在ライセン大峡谷はこの世を地獄に変える猛毒の壺へと変わっているわ」

 

 この世を地獄に変える。その言葉を否定したいが、先程見た光景はその言葉に説得力を与えていた。

 

 何しろ今まで出会ったレギオンとは規模が桁違いだ。ライセン大峡谷の幅は小さな町なら余裕で収まるほどで、高さは登り切るのにそれなりに時間を要する深さ。そして長さは大陸を東西に横断する。その大峡谷の約8割を埋め尽くすレベルの黒泥の塊など半端な規模ではない。構成する魔物の数は憶や兆単位でも足りないだろう。

 

「あれが溢れだせばこの世界は終わりね。世界は奴らによって黒一色に染め上げられる」

「聞かせろ。アレはなんだ?」

「だから言ったでしょ。”大災害”だと」

 

 フレイヤは真剣な目をしつつ、大災害について語り出す。

 

「大昔、神エヒトがこの世界に降り立った頃、世界は混沌の中にあった。人類は大災害という名の絶望に滅ぼされそうになっていたからよ」

「お待ちくださいッ。まさか、まさかあなたのおっしゃる大災害とは、創世神話で語られるあの大災害ですか!?」

 

 フレイヤの言葉に割り込む形でリリアーナが驚愕の声を上げる。

 

「知ってるのか、姫さん?」

「……はい。エヒト教の創世神話、その一節に描かれています。とはいえエヒト神が未だ地上で活動していたころという遥か大昔の伝説なのですが……」

 

 リリアーナはエヒト教に明るくない蓮弥達のために説明する。

 

 まだこの世界に秩序がなく、ひどく原始的だった時代の話。

 

 世界を脅かしていた七つの大災害。

 

 絶望に沈む原住民を救うために降臨した七人の光の使徒。

 

 それによって大災害は討伐され、世界に秩序が齎されたこと。

 

 そして……その光の使徒の長がエヒト神となったこと。

 

「これがエヒト教に語られる神話の一部です。ですがその一節には大災害は神により討伐されたと」

 

 リリアーナの話を信じるなら、この世界にかつて存在した大災害は全て討伐されたはずだという。

 

「フレイヤ。この認識は正しいものなのか?」

「そうね。大まかには正しいと言えるけど、正確じゃないわね。正しくは全て討伐したわけじゃないわ。中には当時のエヒトでは封印することで精いっぱいだった大災害も存在してる。というより……あなた達は既にあれらの一柱と遭遇してるわよね。エリセンで」

 

 神話で語られるような怪物。蓮弥達の脳裏に過るのはたった一つの怪物。

 

「悪食のことか?」

「そうよ。海に漂う暴食の大怪異”悪食”。かつて世界を滅ぼしかけた大災害の一柱」

「つまり悪食と同格レベルの化物がライセン大峡谷に現れつつあるということだな」

「そんな……悪食と同じって……」

 

 思わずシアが呆然とこぼしてしまうのも無理はない。なまじ直接あれと相対したからこそ大災害の強大さやその脅威を骨身にしみて知っているのだ。

 あの日あの時、蓮弥達は一時大災害悪食を前に匙を投げた。今もこうしていられるのは香織が文字通り命がけで大偉業を成し遂げたからだが、もし香織がいなかったらトータスの西半分は赤い海に沈んでいてもおかしくないのだ。

 

 それと同格の化物が現れたなど言われたらシアのような反応もおかしくない。

 

「さて、どうして今更そんな太古の怪物が次々復活しているのか。復活させているのは誰なのか。言わなくてもわかるわよね。少なくともここにいる奴らは同じ認識を共有しているはず」

 

 神エヒトが封印しているものを解放できるのは、神エヒトだけ。

 

「そんな……それではやはりエヒト神が?」

 

 トータス組の動揺は大きい。一応エヒトは悪神であるというのは周知の事実だ。だが、実際に神話の怪物を復活させていることを考えると、思ってしまうのだ。

 

 神エヒトは本当にこの世界を滅ぼすつもりなのだと。

 

 その心情を把握したのかフレイヤは嘲笑を深くする。まるで愚かな人類を嘲け笑うかのように。

 

「あいつに何を期待しているのかは知らないけど。神エヒトは人族が思っているような存在じゃない。他人の不幸は蜜の味。もうすぐ世界が平和になるという段階まで進めといて、それを土壇場で台無しにして生まれる混沌を腹の底から笑って楽しむような性格ドぐされ陰険野郎よ。あいつにとってこの世界の全ては最初から遊技場であんたらはその駒でしかないわ」

 

 なまじ神の使徒であるフレイヤの言葉だから生々しい。心なしか個人的な恨みも募っているような気がする。

 

「本来この世界を根本から破壊しかねない大災害の解放はあいつにとっても不都合な物。あいつはこの世界とあんた達で遊びたいだけであって滅ぼしたいわけじゃないから。だからそれを解放するということはそれだけエヒトが焦ってるということ。今のあいつは自分の手足がことごとく潰されて身動き取れないしね。この世界の神の使徒はエーアスト(1番)からノイント(9番)までの9体がいたんだけど、今や残っているのはエーアストただ一人。そのエーアストもつい最近私が半殺しにした上に、忠実な手駒である魔人族が壊滅状態とあってあいつは頭を抱えてるんじゃないかしら」

 

 フレイヤが上機嫌で語る。ひょっとしたら神エヒトが頭を抱えていることを想像して内心笑っているのではないかと考える。そしてそれからわかることが一つあった。

 

「じゃあお前は神エヒトを裏切ったんだな。そして大災害とやらが解放されたのは俺達への対策か?」

「その通り。そしてあいつが今一番恐れているのはあなたと私よ。かつて『解放者』って呼ばれてた奴らが七つの神代魔法を全て集めて概念魔法の習得、つまり『到達者』一歩手前まで来た時なんかは世界中を扇動して対処するなんて大げさなことをしたらしいし。ましてやとうとうこの世界に現れてしまった自分以外の『到達者』なんてあいつにとって邪魔以外の何者でもないのよ」

 

 蓮弥とフレイヤを倒すために神の使徒をいくら差し向けても無駄だ。それに蓮弥もフレイヤもこの世界に執着などないから解放者の時と同じ方法は使えない。となるとそれ相応のものを用意しなくてはならないが、それにふさわしいのが大災害しかいなかったということだろう。

 

 ここまでくるとある疑問が浮かび上がってくるが、その前に今まで黙って話を聞いていたハジメが割り込んできた。

 

「ちょっと待て。さっきから新しい情報ばかりだが、一つ聞かせろ。概念魔法、そして到達者ってのは何だ?」

 

 ハジメはフレイヤと蓮弥の二人に問いかける。蓮弥はミレディとの約束でそれらの詳細は黙っていたわけなのだがもうここまでくると潮時かもしれないと思い直す。

 

「最初に謝っとく。悪いな、ミレディから口止めされてたんだ。七つの神代魔法にはそれよりさらに先の境地が存在する。それが概念魔法。この世界の理の根幹に作用する神代魔法とは違い、世界の理を己の願いで塗り潰して新たな概念を産むことのできる魔法だ。そしてそれらを自由に行使できるようになったものをこの世界では『到達者』とよぶらしい」

「一つ付け加えるならあんた達をこの世界に呼び出したのは、エヒトの概念魔法よ」

「!? つまり……概念魔法を習得すれば世界の壁を超えられる。俺達は……地球に帰れるんだな」

「!!」

 

 ハジメのその言葉に今までとは違う動揺が広がる。少し考えればわかることだ。この世界に蓮弥達を呼び出したのが神エヒトの概念魔法なのだとするならつまりその逆も然りということ。ハジメの言葉を受けクラスメイト達に喜色が浮かび上がる。神エヒトが頼りにならない以上、自力で帰還するしかない。だからこそハジメ達は神代魔法に希望を託して世界を周っていたわけだが、それの具体的な目標ができたのだ。今までとは心構えから違ってくる。

 

「そう簡単な話でもないけどな。概念魔法は通常の魔力では発動しない。以前白崎が言ってた魔力の第三要素、魂の力でのみ駆動する。そして魂の力を引き出すのに必要なのが渇望。つまり世界の理を歪めるほどの強い想い。だからその都合上、誰でも好きな概念を顕現できるわけじゃないんだ。例えば俺は帰還のための概念を生み出せないしな」

「それに……あんた達の中から到達者が現れる前にこの世界が滅びてなければの話よね」

 

 フレイヤの言葉で浮かれていた雰囲気が再び緊張に包まれる。今すぐ帰れるならともかく、帰還できるようになるまでそれなりの時間がかかる以上、それまでに世界が滅びたらアウトだ。

 

「だからこそ手を組みましょうと言ってるの。私にとってもエヒトから離れて自由にやれているのに世界が滅びたんじゃ意味ないし。藤澤蓮弥、あんただってわかってるでしょ。大災害相手に戦力はいくらいてもいすぎることはないって」

 

 最終的に悪食は概念攻撃以外通じないレベルにまで成長したのだ。現在のレギオンは魂魄魔法が使えるなら対処できるレベルでしかないが、今後もし成長を続けるなら到達者以外戦えないという事態に発展するかもしれない。そうなってくるとこの世界で蓮弥以外の到達者であるフレイヤの存在は貴重なんてものではない、必要不可欠になる。

 

「話は分かった。この世界に猶予がないことも、そのために手を組む必要性があるというのも理解できる。だが、お前を信頼できるかどうかは別問題だ。……一応聞くが本当に俺達と手を組む意思はあるんだな」

「ええ、もちろんよ。そうでなければこんなところまで来やしないわ」

 

 蓮弥はフレイヤの目を見るが、一応嘘をついていないことはわかる。個人的にはいくつか疑問もあるのだがそれは後でもいい。まずは目の前の問題を解決するのが先だ。

 

「結論から言うと、手を組むのは構わない。ただしこちらにも条件がある……ユナ」

聖術(マギア)10章1節(10 : 1)……"聖約"

 

 ユナの聖術が発動し、蓮弥の前に羊皮紙が浮かび上がる。

 

「今から俺と聖約を交わしてもらう。それが飲めないようならこの話はこれで終わりだ」

「あら? 私を無理やり縛ろうってわけ?」

「手を組む以上最低限必要だろ。俺とお前は元来敵同士なんだから、同盟を結ぶなら条約は必要だ。じゃあ、始めるぞ」

 

 

 蓮弥とフレイヤは向かい合い、聖約の準備に入る。

 

「一つ、契約期間は大災害レギオンの問題が解決するまでとする」

「了承するわ」

「二つ、フレイヤは契約中、人間に対して攻撃してはならない」

「それも了承する。ただし、私が攻撃された際の自衛目的の攻撃は許可すること」

「了承する。三つ、レギオン討伐の際に作戦が組まれる場合、フレイヤは従うこと」

「了承する。ただし、私に直接命令できるのは藤澤蓮弥だけとすること」

「了承する」

「私からも条件を付けさせてもらうわ。藤澤蓮弥は契約中、私に対して概念魔法に相当する攻撃を行ってはならない」

「条件付きで了承する。条件はお前が前述のルールに乗っ取って人間を攻撃しない限りだ」

 

 とんとんと契約が進んでいく。しばらく了承と却下などの行動が続き、最終的には以下の条件で纏まった。

 

 ~~~~~~~~~~~

 聖約文

 

 以下に記載される契約者は、提示された契約を魂の領域に至るまで絶対遵守するものとする。

 

 契約者:

 藤澤蓮弥

 フレイヤ

 

 契約内容:

 1:フレイヤは契約中、自衛以外の目的で意図的に人間を直接攻撃してはならない。※ここで言う人間とは人族、亜人族、魔人族などの魔物、大災害以外の高度知的生命体全般を指す。

 

 2:フレイヤは契約中、レギオン討伐のための作戦を実行する必要がある場合指示に従うこと。ただし藤澤蓮弥以外の直接命令を聞く義務はないし、藤澤蓮弥の命令でも正当性がない場合には拒否する権利があること。

 

 3:藤澤蓮弥は契約中、フレイヤに概念魔法に相当する攻撃を行ってはならない。ただし前述のルールに乗っ取ってフレイヤが人間を攻撃した場合、藤澤蓮弥は自衛を含めてその人間を守るために攻撃する権利を有すること。

 

 4:フレイヤは常に藤澤蓮弥の知覚できる範囲内にいなくてはならない。ただし作戦などで離れる必要がある場合は例外とする。

 

 5:もし藤澤蓮弥とフレイヤが交戦状態になった場合、可能な限り速やかに戦闘態勢を解除すること。

 

 

 なお、この契約は大災害レギオンの問題が解決した際に破棄されるものとする。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「さて、後は俺達がこの聖約書に調印すれば契約は完了だ」

 

 蓮弥が調印するがフレイヤは軽く笑う。

 

「ええ、契約するのは構わないわ。ただし、今さらっと追加されたもの以外についてはね」

「ん?」

 

 蓮弥が聖約書を見てみると確かに一文追加されていた。

 

 

 6:藤澤蓮弥とフレイヤは前述の契約により必要に迫られない限り、会話、身体接触を含むあらゆる接触行為を禁じる。基本的に半径三メートル以上近づいてはならない。

 

「……」

 

 蓮弥は黙って聖約を発動しているユナの方を見るもプイと顔を逸らされる。薄々感じてたが、どうやらユナは相当フレイヤが気に入らないらしい。割と腹黒い詐欺師も真っ青な対応するあたりが本気だった。

 

「はぁ、わかった。最後の一文は破棄する。加えて以上が契約の全てであると明言する」

「いいわ。契約成立ね」

 

 フレイヤも調印を行い、ここに大災害レギオンに対抗するための異色のパーティーが結成されたのだった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「それで、具体的にはどうすればいい? 同盟を結ぶことを提案した以上、何か対策があるんだろう?」

「さあ、知らないわね」

 

フレイヤは蓮弥の言葉にそう答える。蓮弥は一瞬だけ眉を顰めるがここで口論しても仕方がないとでも思ったのか口をつぐむ。

 

確かにわざわざ自ら歩み寄った以上、何かあると思うのは当然ではある。だが、フレイヤは何も答えられないのだ。

 

(本当に……あの神父は何考えてるんだか)

 

本来このようなことは不本意なのだ。確かにフレイヤとてあの大災害を放置していてメリットなどない。地上の人間がどうなろうとフレイヤの知ったことではないが、異世界に渡る術を持たないフレイヤにとってこの世界がレギオンで覆われると単純にこの世界に住めなくなる。

 

だがだからと言ってフレイヤの思考に蓮弥と組むというものはなかったのだが……

 

 

『フレイヤ。これからあなたは藤澤さんと協力してレギオン討伐を成し遂げなさい』

『はぁ?』

『できる限り協力して事に当たってください。いいですか、これは制約による命令です』

『ちょっ!』

 

フレイヤは内心神父への忌々しさを募らせていた。本来のフレイヤの渇望からしたら決して同格だと認めているわけではない神父に従うなど屈辱以外の何者でもない。

 

これがもし無理やり従わされているのであれば、絶対位階の法則によりフレイヤはとっくに契約を破棄してあの気に食わない顔に一撃お見舞いして神父を粉々にしているだろう。

 

一重にそうできない理由は、曲がりなりにも契約がフレイヤの合意によって行われたからである。

 

いくらそれしか現世に帰還する方法がなかったとはいえ、事前に絶対服従しなければならないことを承知の上で契約書にサインしたのはフレイヤなのだ。契約とはある意味対等な者同士が結ぶものである。力関係が明白であればそもそも契約するという事態には発展しない。

 

蘇生という見返りをフレイヤが受け取っている以上、契約は妥当かつ対等な立場で行われたということになりフレイヤ自身の渇望的に逆らうことができない。

 

要は借りは作らない。恩を受けてしまった以上返さなければならないのだ。フレイヤはなぜ服従期間を明確にしなかったのかとあの時の自分を呪いたくなるが、神父のことをそれなりに知った上でいうなら残念ながらあの場でフレイヤが抵抗することは不可能だっただろう。何しろあの時フレイヤにできることは神父の土俵である会話することだけだったのだから。

 

「失礼します、リリアーナ様。教会からぜひこの場に参加させてほしいという通達がありました」

「一体どのような用事ですか? 今は教会のいざこざに関わっている暇が……」

「それが……今現在世界中に発生している黒い魔物について極めて重要な事実がわかったとのことでして……」

「!? 今すぐ通してください」

 

そう、フレイヤは何も知らない。なぜわざわざ復活させた大災害を討伐させようとしているのか。本当の目的は何なのか。答えたくても答えなど持ち合わせてはいないのだ。もしそれがわかるとしたら……

 

「突然申し訳ありません。ですが事態は一刻を争うようでして……落ち着いてください。どうやら神エヒトが封印した太古の怪物が復活したようなのです。このままでは世界が終わってしまうかもしれません」

 

そう、この場にいけしゃあしゃあと現れた外道神父。

 

ダニエル=アルベルトだけなのだ。

 




ピロリン

『フレイヤが一時的に蓮弥パーティーに加わった』
『ユナと雫は嫌そうな顔をしている』

ということでまさかのフレイヤとの同盟発足。大災害レギオン問題を解決するまでは蓮弥サイドです。

>ハジメとフレイヤ
フレイヤは原作では滅多にいないハジメを貶しまくる役です。ハジメとしてもユエと同じ顔で好き勝手言われるのに現状フレイヤが強すぎて手が出せないのでストレスしか溜まらないという。
オリジナルであるユエと違ってハジメとフレイヤの相性は最悪です。

>神父の目的
自分で大災害を解放しておきながらフレイヤを使って問題を解決しようとするだけでなく、いけしゃあしゃあとみんなの前で現れるという。彼も本格的に自分の望みのために動き始めた感じです。彼が一体何を考えて行動しているのかは今後少しずつ明らかになっていきます。



おまけ

蓮弥「ちなみに概念魔法を駆動させるにはもう一つ必要な要素があってな。香ばしい魔法名とキレッキレの厨二詠唱が必要なんだ。だから地球に帰りたかったら頑張ってハジメの中の14歳魂を刺激して厨二を絞り出せよ」
ハジメ「なん……だと……」

ハジメ、ついに地球帰還のある意味最大の障害の存在を知る。

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