「落ち着いてください。どうやら神エヒトが封印した太古の怪物が復活したようなのです。このままでは世界が終わってしまうかもしれません」
そう言いながら、教会神父の一人であるダニエル=アルベルトが蓮弥達のいる部屋に入ってきた。
蓮弥の感覚からしたら久しぶりに会ったと言っていい人物だ。
「太古の怪物……私達も今それについて話していたところです。それで……わかった重大な事実とはなんですか?」
リリアーナがダニエル神父に対して問いかけ、それに対して神父は手に持っていた古い本を開いて見せる。
「実は最近起こっている黒い魔物騒動について独自に調べていたのですが、実はあれがエヒト神の創世神話に描かれている七つの大災害の一つである可能性が高いことがわかりまして、ここをご覧ください」
神父の持つ本の中身を見ると黒い大波に対峙する七人の人の姿が描かれている。
「ここにこうあります。『大陸を覆う黒い大波は黒い魔物の発生を前兆に発生したものであると』、そこに書いてある黒い魔物の特徴がクーランの町で出たものや各地で目撃された魔物の情報と一致するのです」
慌てながら早口でまくし立てる神父に対して、リリアーナは冷静に答える。
「おちついてください。実はその情報は既にこちらでも把握しています。そこにいる神の使徒によってもたらされた情報によって」
神父がフレイヤの方を見るとその目を見開き驚愕しているのがわかる。神父からしたらあの王都での戦いで死んだはずの存在であり、あの戦いを知っているものならフレイヤは警戒されてもおかしくはない。フレイヤは興味がないのか、神父を視界にすら入れていない。
「……なぜ神の使徒がここにいるのかはあえて聞かないほうが良さそうですね。どうせ私がどうこうできる問題でもないでしょうし。ならこれからいったいどうなさるおつもりですか? ハイリヒ王国の対応を聞きたい」
「それは……」
リリアーナが答えに詰まる。そう、この世界に危機が迫っていることはわかった。わかったがまだそれだけだ。ここにいる全員感覚的にレギオンを放置したらまずいのはわかるが、まだ情報が足りなさすぎる。例えば具体的に世界にどれくらい時間が残されているのかとか、それを踏まえてどう行動したらいいかとか。
その様子を察したのか神父が蓮弥に声をかける。
「では藤澤さん。少しお付き合いしてもらってもよろしいでしょうか。あとは……できれば南雲さんにも来ていただきたい」
「ああ?」
よくわからない神父が入ってきたと思ったらいきなりこちらに声をかけてきたことによって顔をしかめる。
「その前にあんた誰だ? 俺とは初対面だよな」
一応リリアーナという前例を踏まえているのか面識がないことを確認するハジメ。それに対してうっかりしていたというような顔で神父が自己紹介を始める。
「これはこれは。確かに南雲さんとは初対面でしたね。私はダニエル=アルベルトと申します。ちょうどあなたがホルアドで皆様と再会した頃から勇者達のカウンセリングと各種補助を担当しています」
「カウンセリングねぇ」
「それに関してはやはり悔いが残ってしまいますね。何せ、直接会話したにも関わらず檜山さんや中村さんの真実を見抜けなかったのですから。もう少し踏み込んでいれば違った結果もあったかと思うと悔やんでも悔やみきれない」
「そんなことはどうでもいいんだよ。そのカウンセラーが俺に何のようなんだ?」
ハジメの態度はそんなどうでもいいことは置いといてさっさと話しを進めろという態度を隠さない。ハジメにとっても勘に障るのに自分ではどうにもできない存在であるフレイヤが身近にいることで、ここに来てからイライラしっぱなしだった。
「少し落ち着けよハジメ。それで俺に用というのはもしかして禁忌庫関連か?」
蓮弥と神父との関係などそれ以外にないのでそう考える。
「はい、そうですね。正確にはさらに先のエリアになるのですが……もしかしたら今回の事件を解決するためのヒントが得られるかもしれません。南雲さんが必要なのもそこに関連しています」
「わかった。あんたがハジメが必要だと言うんだったらそうなんだろうな。俺達もどうしたらいいのか見当がつかない状態だったからありがたい」
今は大災害レギオンについて少しでも情報を集めるべき段階であり、その足掛かりになる可能性があるのなら、神父と共に禁忌庫まで行く価値はあるだろう。
こうして蓮弥達は神父を伴い、再び禁忌庫に足を踏み入れることになった
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神山下層エリア道中にて、蓮弥とユナは並んで歩いていた。
今回来るメンバーは神父を先頭に、蓮弥、ハジメ、ユナ、そしてフレイヤだ。現状聖約で縛っているとはいえ、フレイヤを単独にするわけにはいかない。
「ここから先は例によって何が起きるかわからないエリアになっています。お気をつけて」
「ああ、ありがとな神父さん」
「いえいえ、こちらこそ頼りっぱなしですみませんねぇ」
神父を先頭に階段を下りていく。以前は悪霊などによる妨害を受けたが今回、神父以外の人間は全員魂魄魔法を習得している。何があっても対応できるだろうと蓮弥は考えていた。そんな蓮弥をユナは見つめ続けていた。それに蓮弥が気づく。
「ユナ? どうしたんだ、何か気になることでもあるのか?」
「いえ、蓮弥……随分あの神父さんを信用してるのですね」
「ああ、そういえばユナも初対面だったよな。あの人にはバーン大迷宮攻略の際に世話になったからな。いい人だし信用できると思うぞ」
「…………
「? ああ、そうだけど」
「………………そうですか」
ユナは少し奇妙な反応を返す。何かおかしいことを言っただろうかと蓮弥は内心首をかしげた。確かに蓮弥は雫共々神父には世話になったのだ。それは間違いではない。現にこのエリアに入るための資格を特別に発行してくれた。彼の協力なくしてはバーン大迷宮攻略は叶わなかったし、こうしてユナと再会もできなかったのだ。
「……しっかりしなさいよ」
フレイヤが何か呟いた気がするが、通路の奥に集中していたせいで蓮弥は聞き洩らした。
地下へ降りること数十分、以前とは違う道を行くあたりどうやら本当の目的は禁忌庫ではないらしい。
「そもそもこの地下道は古代遺跡の一つでして。詳しい資料は残っていないのですが一説によれば北の山脈に張り巡らされた迷宮で、神エヒトがまだ地上で活動していたころの活動拠点があったと言われております」
「へぇ、つまりエヒト教の総本山がこの山にあるのは偶然じゃないってことか」
むしろエヒトゆかりの地だからこそこの場所を総本山にしたというのが自然だ。もしかしなくても聖地と言える場所なのかもしれない。
「はい。もっとも既に詳しい情報は失われている上に、複雑怪奇すぎてほとんど誰も近づけない。それに無理に調査を進めても大したものが出てこないとあって、近年では発掘も碌に行われていません」
「……じゃあ、なんであんたは調査できるんだ?」
ハジメが少し威圧的な声で言うが神父はたいして気にした様子もなくハジメの問いに答える。
「ちょっとした固有技能があるのですよ。”思念鑑定”と言いまして、鉱物などに触れるとそれに残っている記憶などの情報を引き出すことができるのです。まあ、そのおかげというかそのせいというか。かつての教会の上層部は完全にここの管理を私に任せきりでして……護衛だけ渡すから何か重要なものを見つけたら即報告して献上しろなどと言われる始末。……はぁ、正直ジメジメしてる上にそれなりに危険で成果が少ない。誰もやりたがらない閉職ですよ」
その背中には無茶な上司やイキがる若者に挟まれている中間管理職の哀愁が漂っていた。
「さて、そんな話はもういいでしょう。そろそろ目的地に到着します」
蓮弥はようやく平面になった地面を踏みしめながら、前を歩いていくとそこには巨大な扉が見えた。
「なんだか大迷宮の扉みたいな感じだな」
ハジメの言葉通りそのトビラはかつて見たオルクス大迷宮を始めとする大迷宮深層に続く扉に酷似していた。
「この奥に何があるんだ、神父さん?」
「それがですね……実はわからないのですよ」
「わからない?」
てっきり中を知ってるのかと思ったが、蓮弥は扉をよく見てその考えを改める。扉には鍵穴がついている。わかりやすい鍵穴の形をしているが……
「鍵がないから入れないということか」
「お察しの通りです。そもそもきっかけは私が最近見つけたこの本にあります」
そう言って再び王宮にて見せた古本を取り出す神父。
「この本は神エヒトと共にこの地に降り立ったと言われている光の使徒の一人が書いたと判明しました。何分古い言語で書いてある古文書でしたのでいささか解読には苦労しましたが読んでみたところ、この部屋の存在と行き方が記されていました。もし大災害が復活するようなことがあったらここに来るようにとのメッセージと共に」
蓮弥は横目で古文書を読もうとして見るが、一文字もわからなかった。”言語理解”という技能を手に入れることで蓮弥達地球人はこの世界でも会話はもちろん、読み書きにも苦労したことがなかったがこの古文書は読むことができないとわかった。そのことからどうやら”言語理解”という技能にも限界があるらしいことが判明したのはちょっとした発見だった。
「ええ、それによるとこの扉を開けるためには……」
「まどろっこしいわね」
神父の言葉を遮り、フレイヤが吐き捨てるようにして言った。見ると全身から魔力が立ち上がっている。
「おい、フレイヤ。何をするつもりだ」
「決まってるじゃない。鍵がないというなら壊して進めばいいだけでしょ。これは
まるで溜まった鬱憤を晴らそうとするかのような言動に蓮弥は焦る。
「おい待てッ! お前がこんなところで暴れたら……」
「”
止めようとするがもう遅かった。得意の想像構成により編み出した魔法式に従い、蒼い龍が現れ、扉に真っすぐ向かっていく。感じる威圧により少なくとも蓮弥の知るユエの蒼龍の十倍以上の魔力が込められているのがわかる。
そのまま真っすぐ扉に向けて進んだ蒼龍は扉に当たる直前に掻き消された。
「………………あのですね。いきなり無茶はやめていただきたい。この部屋を見つけた時に護衛の方々と扉の破壊を試してみたのですが魔法が届く前に消えてしまうのですよ」
蓮弥とユナは扉に近づいてみる。こういう時はユナに頼るのが一番効果的だとわかっているからだ。
「ユナ、頼む」
「はい」
ユナは扉に手をあて、目を閉じる。そして十秒ほどそうしていたかと思えば目を開けた。
「これは……通常の魔法ではありませんね。間違いありません……概念魔法です」
概念魔法と聞いてハジメが扉に向けて魔眼石を発動してみたようだが……
「駄目だ、俺には全く分からねぇ。というより魔眼石に何も映らない」
「当然です。この扉は掛けられた概念により、正式な手順による開錠以外はいかなる方法でも干渉できないようになっていますから」
基本的に概念魔法は概念魔法でしか破れない。それは蓮弥とフレイヤとの衝突で証明されている──もっとも蓮弥の使う力は創造なので厳密に言えば少し違うのかもしれないが──。つまりここを突破するには、この概念魔法を施した術者の思惑にのって正式な手順を踏むか、強引に概念を破壊するかどちらかだろう。
「そのために俺を連れてきたのか? 確かに俺なら壊せるかもしれないが」
概念破壊は得意とするところだ。せめぎ合いを行うならわからないが、残留した概念魔法なら間違いなく破ることができるだろう。
「いえ、それは違います。そもそも藤澤さんの力を詳しく知っているわけではありませんので、もし可能ならと保険としてついてきてもらいました。なので藤澤さんではなく南雲さんの力を借りたかったのですよ。あちらをご覧ください」
扉の横を見ていると何やら小さいキューブ上の鉱物が複数宙に浮かんでいるのがわかった。
「調査してみたところ何らかのアーティファクトの類だとわかったのですが、それ以上は調査隊メンバーではわからなかったので。そこでアーティファクトを作れると話に聞く南雲さんなら何かわかるかもしれないと思いました」
「なるほどな」
ハジメは早速宙に浮かぶキューブに解析をかけているようだ。ひとしきり眺めた後何か納得するように頷くハジメ。
「何かわかったのか?」
「ああ、どうやら魔法式の公式がバラバラに書かれているみたいだ。キューブを上手く組み合わせれば魔法式になるようになってる」
「つまりパズルみたいなものか」
「そうだな」
「だが、ざっと見ただけでも複数の魔法式が作れそうだからこれだけじゃ答えがわからねぇな」
「ハジメ……どうやら鍵穴に魔力を通せば符号が浮かんでくるようですよ」
ユナの言葉を聞きハジメが鍵穴に魔力を通すと一つの魔法式が浮かんでくる。
「つまり符号に適合するような暗号の魔法式をキューブを組み合わせて作れってことか。はっ、おもしれーじゃねぇか」
ハジメがまるで難問に挑む数学者のように意気揚々と作業に取り掛かる。蓮弥としては少し意外だがハジメは案外こういうのも好きらしい。思っているより楽しそうにパズルを解いていく。
「よし、これで公式の半分くらいは解けて……」
「あっ、南雲さん。何か表示されましたよ」
「は?」
神父の声に導かれ、蓮弥が扉の鍵穴を見ると何やらカウントダウンが始まっている。残りは……10秒。
「なっ、時間制限付き!?」
ハジメが慌てて解こうとしているが、無情にもカウンターはゼロになり浮かんでいた符号は消えてしまう。もう一度魔力を通してみるが、今度は蓮弥の目からみても全く違う符号が出てくる。
「つまり……時間制限以内に暗号が解けないとリセット。符号も変更されるから完全に一からやり直しというわけか」
その後ハジメが何度かチャレンジしてみるが、結果は失敗の連続だった。どうやら生半可には解けないようになっているらしい。
「ハジメ……一応言っておくが、この扉に仕掛けられているのが概念魔法なら、おそらく俺なら強引に突破できるぞ」
「もちろん最終手段として頼らせてもらうがもう少しやらせてほしい。これは……俺の戦いだ」
どうやら目の前の暗号を絶対に解いてやると燃えているらしいハジメ。
「はっ、さっきから何をちんたらやってるのか知らないけど、藤澤蓮弥が壊せるなら頼ればいいじゃない。何なら私がやってもいいわよ」
「うるせぇ、お前は黙ってろッ、その声で話されると気が散るんだよ!」
「なっ、何ですって!!」
ハジメの言葉に怒りを覚えるフレイヤだが、ハジメには攻撃できない聖約だ。しばらく忌々しそうにハジメを見ていたフレイヤだったが、不毛であることに気付いたのか、それとも単純に興味を失くしたのかそっぽを向き始める。
「よし、大体法則が見えてきた。次で決める。”限界突破”、”瞬光”」
ハジメは解読を開始した際に限界突破と瞬光を使って思考力を強化した。超高速で計算を始め、魔法式を今までにない速度で組み立てていく。そして残り5秒になった時点でハジメの魔法式が完成した。
「これでどうだ?」
ハジメがキューブを符号に合わせると光を放ち……
「ぐっ!」
ハジメが頭を押さえるのと同時に扉の鍵が開く音が聞こえた。
「ハジメっ、どうした?」
「いや、悪い。何か頭に書き込まれたみたいだ……アカウントだと?」
ハジメが呟くのと同時に扉が開いていく。どうやら攻略は無事に完了したようだった。
「では先に進んでみましょう。あなた達に言うことではないのかもしれませんが、これから進むのは未知の空間です。くれぐれもご注意を」
何があるかわからないので蓮弥とユナが先頭に立つ。
しばらく暗い廊下のようなところを歩くと今度は小さい扉のようなものが見える。それに近づくと、自動ドアのように左右に開いた。
「これは……」
「……ある意味世界観違いだな」
ハジメの言う通り、そこには異世界トータスには似つかわしくない光景が広がっていた。
まず内装について表現するのが難しい。鋭角的な意匠と流線形の意匠が融合しており、床や壁が金属なのか石なのかも蓮弥には判断がつかない。少なくとも現在のトータスでは作れないものであることが漠然とわかるだけだ。これはトータスに住む住人では説明できないだろう。否、蓮弥達地球人でも難しいかもしれない。
つまり文明としてのレベルが違いすぎる。まるで超高度に発展した科学技術の結晶のように感じる空間。ファンタジーではなくSFの世界だ。
「まるでSFだな。ここだけこの世界のノリとまったく合ってねぇ」
どうやらハジメも同じ感想を抱いたのか、周囲を注意深く観察しながら部屋の奥に進む。
しばらく奥を進むと一際広い空間に到達した。そこの中央には柱の間に浮かんでいるキューブとコンソールのような何かが配置されていた。
「奥まで到達したらしいな。さて、鬼が出るか蛇がでるか」
ハジメが慎重にコンソールに触れると光を放つ。
『アカウントを確認──
生成魔法の所有を確認──
条件を満たしていると判断──
アーティファクト『ヘファイストス』を起動します』
光と共にスクリーンが展開される。
「これは……アーティファクトというよりコンピュータか」
ハジメが確かめつつ操作を始めるのを見る限り、確かに蓮弥達の世界に存在するコンピュータに近いものだとわかる。
「どうやら何かメッセージらしきものが仕込まれているらしい。表示するぞ」
ハジメがコンソールを操作すると立体映像が表示される。
出てきたのは一人の青年。眼鏡をかけ、白衣を着ている様はいかにも科学者という風貌をしていた。
『このメッセージを見ている者が何者かはわからない。だが、このメッセージを開封しているということはこの世界に危機が訪れているという意味でもある。私の名はアイザック。民達からは光の使徒などと呼ばれているものだ」
彼が語る話を要約するとこうなる。数万年前、神エヒトが地上で活動していた頃、龍脈の異常を検知したことをきっかけにレギオンが発生したこと。そのレギオンを倒すために活動していたが……
『私が観測したレギオンのコアと呼べるものの数は数億以上。それを同時に破壊するということは……世界を滅ぼすことを意味している』
よって彼ら到達者をもってしても討伐を断念しなければならなかったこと。そのために封印を作り上げたが、その封印がいずれ壊れることは想定していたと言う。
『このメッセージを見ることができたということは、入口の仕掛けをクリアーし、生成魔法を所持していることを意味している。まあ、だからと言って私を超える頭脳を持っているとは思わんが、多少マシな者が見ていることを信じよう』
「なんだこいつ。無駄に偉そうにしやがって」
その言葉には自信が宿っていた。まるで自分を超える頭脳などあり得ないと言わんばかりの言葉にハジメが思わず舌打ちを行う。
『もし君達がこの先も生き続けたいと願うのなら。この設計図を元に封印を完成させるがいい』
『どうか、わが友エヒトと彼女が健やかであることを祈る』
その言葉を残し映像は途切れ、その代わりに、何やら図面らしきものが表示される。
「なるほど、これが設計図か。……これはすごいな。ぱっと見ただけでも手作業でやってたら数十年かけても終わらねぇ規模だ」
「なんとかなりそうなのか?」
どうやら想像以上にその設計図は複雑らしい。間違いなく現代最高の錬成師であるハジメがお手上げではこちらに打つ手はない。
「そのためのこのアーティファクトだ。どうやらアーティファクト生成ツールとして使えるらしい。もしくは……概念解読ツールと言っても言いかもな。見た目通りアイザックってやつはなんでも数式にして解き明かさないと気が済まない学者タイプの人間らしい。そしてこれはそいつの概念魔法の結晶だ」
「そうですね。このアーティファクトに込められた概念は『全ての概念を解き明かす』というものです。実際それを実現できるかは別として、ありとあらゆる現象を解き明かす方程式を作ることができるはずです」
ユナの保証により、ひとまずレギオンへの対策の方針が固まった。こうなると完全に錬成師であるハジメ頼りだ。相当無茶をしてもらうことになるだろう。
『蓮弥! 聞こえる?』
「雫か、どうした?」
そこで雫からの念話が聞こえる。ハジメによりパーティ全員に念話用アーティファクトは配られている。それを使って通信してきているとわかった蓮弥は横目に退屈そうにしているフレイヤを入れつつ、会話に意識を向ける。
『突然で悪いけどすぐに帰ってきてッ。突然王都南にレギオンが出現したわ。……例の巨人タイプもいる。私達だけじゃ対処できない!』
~~~~~~~~~~~~~~
そう、雫がいる地上ではまさにある種地獄のような光景が映し出されていた。王都に迫りくる無数の黒、それらが王都を蹂躙しようと迫ってくる光景。
「どうなってるのよッ、何でこうも王都ばかりに」
雫が渦を巻くレギオンのコアを破壊する。だがキリがなく、倒しても次々出てくる上に王都の南からゆっくりと歩み寄ってくる二体の黒い巨人の脅威はどうにもならない。
『おそらくこの王都で戦争があったが故に一種の霊地になっているんだと思います。おそらくですが近年でこの場所ほど激しい闘争があった場所はないのでしょう。つまり……』
「これからもこいつらは、この土地に染み付いた呪いだか何だかを目指して来るってわけか」
「蓮弥!」
「無事か、雫!」
空間転移してきた蓮弥が雫の横に立つ。蓮弥が雫を見た限りダメージを受けているわけでないとわかりほっとする。つい先日までレギオンの攻撃により倒れたのだ。また同じことを起こすわけにはいかない。
「私は大丈夫よ。けど王都が……」
蓮弥は王都の様子を見ると、ほとんどの住人が顔を絶望に染め、膝をついていた。王都の民には余裕がない。やっと戦争が終わり、苦しいながらも平和への道を歩めると思っていたのだ。まだ戦いが終わったわけではないと知っている軍人すらもまさか数日でこのような災害に会うなど想定していなかったに違いない。
だがその絶望はさらに増していく。レギオンが口を開いてエネルギーを充電し始める。
「まずい、ユナ!」
『
正面から撃たれる砲撃をユナが障壁にて防御する。だが……
『駄目です。もう一体の方が!』
此度訪れた巨人レギオンは一体ではない。無慈悲にも、もう一体のレギオンが王都へ向けて砲撃を放ち、大結界に直撃した。
揺れる王都の大地、軋む大結界。轟音と共に放たれたレーザーは王都の大結界を少しずつ削っていく。
一枚、二枚、順番に割れていき、ついに最後の一枚に届くかと思われたその時。
「
それは巨人レギオンの頭上に現れた光の龍により阻まれる。巨人レギオンを丸ごと飲み込むほどの巨大さを誇る龍が跡形もなく黒き巨人を消滅させた。
「何をやってるのよ藤澤蓮弥。こいつら相手に守勢に回っても、いずれ潰されるだけよ」
「ああ、そうだな」
蓮弥はユナの障壁の内側で蓮弥自身が詠唱していた聖術を完成させ、光の戦槌を出現させ、レギオンの頭上に振り下ろした。
「■■■■■■■■■■!」
叫びと共に消滅するレギオン。それにつられてかどうかはわからないが、同時に出現していた竜巻状のレギオンや、黒い魔物も消滅した。
そう、これが始まり。
我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに。
その名が示す通り、レギオンは一体の魔物に非ず。
途切れることなく襲い続ける黒い大波。否、此度出現したのは大波ではない。
ならば改めてこう名付けるのがふさわしいだろう。
世界全てを混沌に染め上げる黒い大海。
不滅なるもの──大災害
この世界に復活した大災害と人類の互いの存亡をかけた戦いが今、始まる。
>アイザック
本作オリキャラ。原作でも語られていたエヒトと共にこの地に降り立った到達者の一人。原作ではエヒト一人残して既に消滅している。
正田卿の最近のノリであるレンジャーで例えるとエヒトレッドに対するアイザックブルー。光の使徒の頭脳担当。
概念魔法は『あらゆる概念を解き明かす』というもの。
神座世界でいうならサタナイルやクワルナフみたいなタイプと思われる。
王都「そんな……せっかく助かったと思ったのに、これからも怪物が大挙して押し寄せてくるなんて。しかも自分が倒れたら世界滅亡……大役すぎるだろ(ガタガタ)」
ポンポン
第3新東京市パイセン「まあ、なんだ。俺も新作が出るたびに危険に晒されるし、色々大変だけどよ。お互い頑張ろうな」
王都「先輩……」