ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ヤンデレ妹に死ぬほど愛されて眠れないイ〇ポお兄ちゃん。

どないすんなら……

というわけで今回はユエ回。
と同時にハジメとシアの新兵器お披露目。


魂殻霊装

 レギオン氾濫まで残り六日。いよいよ残り半分を切った頃。流石の蓮弥にも疲れが見え始めた。雫と優花が遭遇した新型のレギオンは他人の精神に寄生して暴走させるという力を持っていた。それらが猛威を振るうことでレギオンに取りつかれた一般人が暴走するという事態に発展したのだ。

 

 ユナの力などで調べた結果、どうやら無理矢理力を引き出しながら与えているということがわかった。そのせいで一般人であっても油断できる状態ではなくなり、さらに対応できる人も限られることでさらに蓮弥の負担が増加することになった。止めに攻撃されたことを理由に面倒だからという理由でレギオンに取りつかれた一般人を纏めて殺そうとするフレイヤを止めたりするような事態も発生してしまう。余談だがそちらの方がレギオン討伐より余程疲れたと言っておこう。

 

 益々勢いを増していくレギオンの脅威に蓮弥の限界が見え始めた頃。ようやく待ちに待った援軍が出てくることになった。以前から修行に励んでいたユエ達が一定の完成を果たしたのだ。

 

「と、言うわけで、今度から私達も暴れてやるですぅ」

「成長した私の姿……とくと見るがいい」

 

 現在、蓮弥と雫の他に王都の城壁の上で佇むシア、ユエが王都に迫りつつあるレギオンに向けて戦意を新たにしていた。

 

 そして……

 

「ハジメ……お前も参加するのか?」

 

 蓮弥が視線を向けると、そこには現在封印を作成中であるはずのハジメが側に香織を伴ってユエ達と同じく城壁の上に立ってレギオンを観察していた。

 

「まぁな。俺の工程は今職人達の進捗待ちに入ったからな。職人達の進捗も順調だし、細かい作業は今吉野がやってくれてる。それに俺もたまには身体を動かさないと作業効率が悪くなる」

「専門的なことはわからないし、お前が大丈夫というなら大丈夫なんだろうけど無茶だけはするなよ。ある意味お前は今一番替えが効かないんだからな」

 

 最悪蓮弥が一時戦闘不能になったとしても変わりはいるが、ハジメはそうはいかない。万が一ハジメが行動不能になればそれはトータス最期の日が近づくと言っても過言じゃない。

 

「わかってるよ。今回ここに来たのは作業の合間に作った兵器をテストする為だ。そんなに無茶するつもりはねぇ」

「けど、南雲君。あなたここ最近働きっぱなしなんじゃない? 少しくらい休んだ方がいいんじゃ……」

 

 そう雫は心配するが、その心配は無用と言わんばかりに香織が胸を叩く。

 

「心配無用だよ雫ちゃん。そのために私が側にいるんだから。ハジメ君はずっと作業しっぱなしなんだからこれが終わったら一度本格的に疲労をとってあげる予定だよ」

 

 どうやら専属の主治医である香織により既に疲労回復の準備は万端らしいハジメはシュラーゲンを取り出して準備を行う。現在王都に迫っているレギオンは巨人タイプ二体、そしてよくわからないもやもやした雲のような形状のものが一体。前者の二体はこの一週間の襲撃にも頻繁に現れたタイプの敵だったが、最後の一体は新型だ。データがない分気を付けなくてはならない。

 

「じゃあ、まずは俺からだな」

 

 シュラーゲンを構え、巨人レギオンに狙いを定める。距離はまだ数㎞離れ、既存のレギオンの攻撃射程距離からも外れているくらいには距離があるが、今更ハジメがこの程度の距離を外すわけがない。

 

 そしてそれを証明するかのようにシュラーゲンが火を吹き、まっすぐ進む銃弾はレギオンのコアの一つに命中。補完機能によりすぐに再生されこそしたが、間違いなく破壊していた。

 

「それは……もしかして新しい弾丸か?」

「おう。最近普通の弾丸が効かない敵が増えてきたからな。神山で習得した魂魄魔法を弾頭に付与し、さらにヘファイストスの高度な演算機能による銃器と弾丸の設計の見直しで貫通力も増した新型弾頭。その名も『霊的装甲貫通弾(ソウルアーマーピアス)』だ」

「……霊的装甲貫通弾……なぁ……その、もう少し名前をこう……なんとかできなかったのか?」

 

 その名称だと、まるで対蓮弥を想定して作った弾丸のように感じる。そしてその意図が伝わったのかハジメが目を怪しく光らせながら蓮弥に目を向ける。

 

「ああ? あたりまえじゃねーか。俺が魂魄魔法を習得して一番最初に考えたのがお前対策だぞ。むしろレギオンなんておまけだおまけ。何しろお前のその霊的装甲とやらには今まで散々煮え湯を飲まされてきたからなぁぁ」

「うっ」

 

 蓮弥の脳裏に幾度か暴走するたびにハジメ達に迷惑をかけ続けてきたという失態が思い浮かぶ。蓮弥の霊的装甲を貫くためには同じ聖遺物による攻撃以外にもいくつか手段がある。

 一つは核兵器などの超広範囲殲滅兵器による攻撃。

 二つ目が神代魔法や大災害などの強力な神秘による攻撃。これは以前魔人族フリードの空間魔法”震天”を蓮弥が迎撃する必要があったように、強力な神秘を纏った神代魔法による攻撃は防御しなければ多少効いてしまう。そしてそれよりも強力な概念魔法や太古の神秘である大災害などの攻撃は聖遺物による攻撃に匹敵するという理屈になる。

 そして三つ目が魂魄魔法を使うことによる肉体と魂への直接同時攻撃だ。現在のハジメでは一つ目の手段はとれないし、ほとんどの神代魔法に適正がないハジメでは二つ目も無理だ。おまけに現代兵器だとどうしても神秘が薄れてしまうという都合上、ハジメは今まで蓮弥に有効な攻撃を行うことができなかった。だが、それもハジメが神山を攻略したことでその前提が崩れることになった。

 

「安心しろ蓮弥。今回レギオンに使用した際の実戦データを加えて補正を行った結果、問題ないことがわかればこの弾丸を大量生産する予定だ。だからもし今度お前が暴走することになったら、遠慮なく山ほどこの弾丸をぶち込んでやるからな」

「お、おう」

 

 結構根に持たれていたことに冷や汗を流す蓮弥。もう暴走するつもりはないとはいえ、もし万が一そんなことになれば次は蓮弥も無事では済まないかもしれない。

 

「後は『簡易式霊的装備(ソウルアーマー)』なんかも作った。お前のそれを鎧だとしたらこっちは多少頑丈な冒険者の服くらいの防御力しかないが、これで聖遺物の攻撃を喰らって即アウトってことはないはずだ」

「それは……」

 

 ハジメが何を警戒してそんなものを作ったのか。それは蓮弥にもわかった。もちろん蓮弥対策もあるのだろうが、蓮弥も話には聞いているのだ。

 

 突如行方不明になった果てに、生徒達に牙を剥いた檜山大介が聖遺物を使用したことを。

 

 王都襲撃後にその情報を知った時は多少驚いたが、ハジメの記憶を許可を得てユナに取得してもらった結果、蓮弥のエイヴィヒカイトによるものとは比べ物にならないくらいレベルが低いものだとわかった。久しぶりに思い出したDies_iraeの知識で言うならエイヴィヒカイトという超魔術を使わずに聖遺物という最強のマジックウェポンを使いこなそうとした狂気の産物である『現代の魔女』に近いと言えるかもしれない。

 

 ハジメには蓮弥の使う術式ではないことを伝えた──ちなみにそろそろエイヴィヒカイトの出所を聞きたそうなハジメだったが、蓮弥にも個人的事情に関わるので言えなかった。現在その情報を正確に知っているのはユナと雫、限定的に言えばミレディくらいだ──。だが、いくら劣化しているとはいえ聖遺物による攻撃は魂を汚染する呪詛の猛毒。既存の毒耐性が意味を成さないことを含めればハジメの対策も当然と言えるだろう。香織も魂魄魔法による呪詛の毒の対抗魔法を研究していると聞いている。

 

「さて、そう言ってる間に充電完了だ。今まで未完成だったこいつもついに完成品をお披露目だ!」

 

 ハジメが先ほど狙撃した巨人レギオンの一体を視界に収め、手に収まるほどのコントローラを取り出して準備を行う。そして空の一部が一瞬異様に明るくなったと思ったら……巨人を丸ごと包み込むような光の柱が出現した。

 

 巨人レギオンを包み込むように照射を続けた結果、巨人レギオンはコアを全て破壊され、消滅することになった。蓮弥が耳を澄ませると突如現れた光の柱に動揺する王都民の声も聞こえてくる。

 

「試作型ヒュベリオンをヘファイストスによる設計見直しを行うことで改良。そして魂魄魔法を加えることにより霊的存在にも攻撃できるようになった完成形対大軍殲滅用アーティファクト『バルス・ヒュベリオン』だ。見ての通り威力は折り紙付きだし、もしかしたら魔人族の軍隊くらいならこいつで殲滅できるかもな」

 

 完成した超兵器の威力に城壁にて監視を行う兵士などは開いた口が塞がらない。その神の裁きのような攻撃を見るだけでこの世界では恐れを抱かせる効果もありそうだ。

 

「なんというか……本当にお前一人で魔人族を滅ぼせそうだな。……頼むから早まったことはするなよ」

 

 敵は必ず殺すという信条を持つハジメには一度敵対したという理由だけで魔人族を滅ぼしかねない危うさがある。それを懸念しての言葉だがハジメの顔は心外だという表情をしていた。

 

「流石に俺を侮りすぎだろ。俺だって大量殺人鬼になりたいわけじゃねぇ。それに……やられたからってやり返しすぎるとやり返しすぎた分が自分に返ってくる。それを俺は……この旅で学んだつもりだ」

「ハジメ……」

 

 蓮弥は少しだけ感動していた。この旅を始めた当初は一度敵と認定したならば問答無用で皆殺しにし、そうでなくても拷問くらいは辞さないような危険な気配を纏っていたハジメも信頼できる仲間との出会いや大迷宮の試練などによって成長しているのだと思うと感慨深いものがある。

 もっとも、その教訓というのが恐らくユエ達をしつこくナンパする男達の股間の紳士を気軽にスマッシュし続けたことで誕生した筋肉漢女へのトラウマであろうというのが少し締まらない感じではあったが。

 

「それに欠点がないわけじゃねぇ。これだけ大掛かりな兵器を運用する以上、どうしても付与している神代魔法を使用する際の魔力消費量が膨大になっちまう。重力魔法による太陽光収束も同じ理由で溜め続けられない以上、今の俺の魔力量だと使えて一日二回が限界だな」

 

 蓮弥には細かい仕組みはわからないが要は超兵器の運用はそれ相応の魔力消費コストがかかるということだろう。流石に無制限に使えるわけではないらしい。

 

「さて、俺はもういいとして。次はシア。お前の番だ」

「はいですぅ。じゃあいきますよー」

 

 シアがドリュッケンを構えながら、蒼いオーラを纏う。どうやらシアも訓練の成果が出ているらしく。今では一瞬で細胞極化を使用できるようになったらしい。

 

「じゃあ、行ってきますッ」

 

 シアが飛行してもう一体の巨人レギオンの方に向かう。本気を出していなさそうだが中々のスピードだ。この分ならすぐにレギオンのところにつくだろう。

 

「ドリュッケンも改良したのか」

「ああ、一度設計を見直したのは既存のアーティファクトと同様だが、あいつの『ヴィレ・ドリュッケン』は搭載している魔力回路が違う」

「というと?」

「あいつが今使ってる蓮華(パドマ)だったか。今までのドリュッケンだとそのエネルギーを流し込むと誤作動を起こしてたんだが、その性質を解析して魔力回路を改造した結果、あいつの全力に耐えうる代物になった。その結果……」

 

 ハジメが前方を示すので蓮弥も前方を注視すると……

 

「このまま、ドリュッケンの頑固なシミになりやがれですぅ!」

 

 シアがドリュッケンを巨人レギオンに向けて振り上げていた。今までもハジメが作成した特殊合金により魔力を注げば膨張する性質を持っていたが、エネルギー源が蓮華(パドマ)になることでさらに進化していた。

 

 長さ二十メートル、縦横十メートルの長方体の槌を備えた巨大質量兵器。それをまともに受けた巨人レギオンはその重圧に耐えられず地面に叩きつけられる。

 

 放射状に地面がひび割れ、ドリュッケンを戻した時には巨人レギオンの姿はなくなっていた。

 

「…………」

「欠点はまぁ、あれだ。例によってエネルギーの消耗が大きいことと使いどころを選ぶってところだな」

 

 蓮弥がギャグシーンでしか見ないような光景に無言でいるとハジメが補足を入れる。まさかリアルで百トンハンマーを使うやつがいるとは思わなかった。

 

「ただいま帰りましたー。いやぁーこれすごいですね。これならミレディなんかも一撃で頑固なシミに早変わりですぅ」

「ははは」

 

 蓮弥は百トンハンマーを向けられてあわあわ慌てるミレディゴーレムの姿を幻視した。今度直接会う時は間違ってもウザキャラで行くのは止めるように言っておこうと思う蓮弥。

 

「さて……問題は……」

「ああ、新型だな」

 

 残るは黒い雲のような形のレギオン。見た目は精神汚染を起こす泡状のレギオンを想起させるが、同時に攻撃型にも見える。何にせよ油断していい相手ではないだろう。

 

「今回は俺が変わるか? ユエ」

「大丈夫、心配しないで」

 

 蓮弥の言葉に対して自信たっぷりの返事を行うユエ。

 

「じゃあ行ってきます。ハジメ」

「なんだ?」

()()()()をよく見てて。今の私に、弱点なんかない」

 

 そういった後ユエが宙に浮かび雲型レギオンと相対する。レギオンも攻撃されていることに気付いてからは移動速度を上げている。今では数百メートルの位置まで近づいているだろう。

 

 雲型レギオンは蓮弥の目から見て膨張しているように見えた。今では数百メートル規模の雲になっていると推測できる。

 

 その雲に対してまずは小手調べとばかりにユエが先手を打つ。

 

「”緋槍・千輪”」

 

 空中に展開した千にもなる炎の槍をレギオンに向けて撃ち放つ。かつて香織達に対して魔人族が行使した決戦術式も今のユエにとっては普通に使える魔法でしかない。女王時代も溜めが必要だったことを踏まえれば単純に魔法の技量も成長していることがわかる。

 

 黒い雲型のレギオンは何もしない。ただその身に魔法を受け続け、炎上する。

 

 だが当然それで終わるわけがない。

 

 レギオンは進化する。今までの戦いで自身の分身を一番多く屠り続けたのは間違いなく藤澤蓮弥だ。

 

 彼の創造は概念殺し。いくら古代の神秘を纏っていようとも神滅の剣にて破壊することができる。悪食のように再生特化の概念を持っているならともかく、数が最大の武器であるレギオンはどうしても蓮弥を超えられなかった。

 

 だが同時に弱点も悟られている。蓮弥の攻撃はあくまで剣の届く範囲にしか効果がないことを。

 

 つまり、今回のレギオンは……

 

「これは……」

「雨?」

 

 炎上していた雲が黒い雨を地面に降らしていく。

 

 形を変える。広範囲に広がっていた雲は大地に黒い洪水をおこし、うねりを上げる。おそらく、これこそがエヒトの時代に存在したという世界を飲み込むほどの黒い大波。

 

「こいつ、俺が広範囲攻撃が苦手だとわかって……仕方ない、俺たちも参戦を……」

『大丈夫……ユエ、行けますね?』

「余裕」

 

 蓮弥が参戦しようとする中、ユエはそれでも余裕を崩さない。

 

「"虚空絶禍"」

 

 ユエが巨大な暗黒球を空中に放つと大波が上空に吸い寄せられていく。だが、流石に質量の差がありすぎて吸い込むことが出来ずに大波をその場に止めることしかできていない。だが、それで十分だ。元よりこれは時間稼ぎ。ユエの本命は別にある。

 ユエは手を掲げ、掌に炎を出現させる。それは徐々に集められた空気によって圧縮、膨張していく。

 そして、この魔法に魂を吹き込むべく詠唱を行う。

 

汝は万物全ての母にして全てを見守る太陽の統率者。その天の権威を持ちて眼前の敵を焼き払い、我らに道を指し示せ

 

 当初どうしてもこの魔法を完成されることができなかったユエだったがユナとの修行にてあっさり解決していた。

 

『上手く魔法がまとまらない? なら詠唱を加えればいいのでは?』

 

 本来、詠唱とは術者のイメージを補強してくれるものである。なまじ想像構成や魔力操作を持っているために、ユエはそんな当たり前のことを見落としていた。

 

「"天空之陽"」

 

 完成した魔法を天に掲げる。かつて悪食相手に使った時は数百メートル規模の大爆発を起こした大魔法だが、黒い大波の規模はそれよりも広い。まるで悪食戦の焼き直しのような光景。このままでは通じない。

 

固着(セキュア)

 

 されどユエは、あの時のユエではない。

 

憑依(アニマ)

 

 作り上げた太陽の魔法を固定した後握りつぶし、自身に憑依させ──

 

憑神覚醒(アバター)

 

 その詠唱と共にユエの身体が炎上した。

 

 

 

 完成された神ノ律法(デウス・マギア)。それはただ神霊や精霊を自らに憑依させることで魔力を増幅するだけの技ではない。その真価とは超常存在を肉体に取り込みその権能を自身の固有技能へと変えることができるところにある。

 かつての救世主は自身に憑依させた大天使や神の力を『魂殻霊装(こんかくれいそう)』という名の剣や鎧に変換し纏うことでそれらの力を自身の力に変えたのだが、纏うものは武器だけとは限らない。

 物々しいものでなくても、女性にとってはこれも一つの立派な武器になるだろう。

 

 

 

神ノ律法(デウス・マギア)──魂殻霊装

 

──火女神の炎舞衣装(ヘスティアフレアスカート)

 

 それは炎のように真っ赤なイブニングドレス。それを身に着けるユエは、誰も知らない姿をしていた。

 すらりと長く伸びた手足。それに比例するように花開く豊穣の肢体。その光景を見ている誰もを魅了しながら、朱金の髪を持った女神のごとき美女が戦場に降臨する。

 

 黒い大波は虚空絶禍の影響を免れ、ついに王都を呑み込まんと襲いかかろうとしたが、ユエが手を振るだけで発生した炎の大津波に阻まれた。

 

 炎属性最上級魔法"劫火浪"

 

 神の使徒も好んで使う広範囲殲滅魔法の一つであり、この魔法一つで軍隊を焼き尽くすことすら可能な決戦魔法だが、もちろん使用難易度は非常に高い。

 だが、そんな魔法をユエは正真正銘手を振るうだけで行使したように見えた。

 

「ユナ……俺の目が確かならユエの奴、今魔力すら使ってなかったよな?」

 

 そう、蓮弥の指摘通り、ユエは最上級魔法の使用に詠唱はおろか、魔法陣も、そして魔法を構成する魔法式も、果てには魔力すら使っていなかった。

 

『今のユエは神ノ律法によって炎の上級精霊と同様の存在になっています。その影響で魂殻霊装を維持している限り、炎属性の魔法で神代魔法より格の低い魔法であれば無制限に念じるだけで使えるようになるのです』

 

 その証拠に黒い大波の一部が触手のように伸びて王都を襲おうとしていたが、ユエが視線を向けるだけで虚空に発生した蒼天により燃やし尽くされた。

 発動の予備動作すらない完全な自然現象に近い神秘。ただの蒼天だけでも纏う神秘の格が違うとわかる。

 

「そろそろ終わらせる」

 

 紅いイブニングドレスに炎を纏いながら空中に浮かんだユエが両手を交差しながら掲げる。ここで初めて魔法式らしきものを感知するがそれは極めて単純な仕組みになっていた。まるで炎に関するあらゆる魔法式を省略し、神代魔法を加えただけのような簡略化された魔法。

 

 黒い大波は炎の大波に遮られて堰き止められていたが、突如出現した擬似太陽に引き寄せられる。今度は抵抗することも出来ず、吸い込まれていくレギオン。

 

「解放──”太陽之理”」

 

 空中高く浮かび上がった太陽が轟音と共に炸裂する。地上で爆発していれば町一つが跡形もなく消し飛ぶ威力と範囲。構成していたコアを全て焼き尽くされたレギオンはただの一滴も王都を犯すことなく消滅した。

 

「すごい」

 

 誰が呟いたのかはわからないが、その一言が全てだった。数分で王都全てを飲み込むであろう規模のレギオンをほとんど動くことなく丸ごと燃やし尽くしてしまった。

 

 振り返ったユエが優雅に地上に降りてきた。そこで気づく。その魔法の威力に目を奪われがちだが、ユエ自身にも大きな変化があることを。

 

『自身を精霊化する際に元のユエの器では小さすぎたのでしょう。この魔法の副産物として使用中、ユエはその魔力を振るうにふさわしい年齢まで強制的に成長するようです』

 

 ユナの説明を聞きつつ蓮弥はユエを見てみるが外見年歳はおそらく蓮弥達と同じくらい。だからこそユエは普段の十二歳相当の肉体から年相応に成長を遂げていた。本来は因果関係的に逆なのだが、今のユエは自身のコピーであるフレイヤに近い姿をしていると言える。

 

「ハジメハジメ、どう? 今の私は?」

「………………すごく……大きいです」

「よしッ!」

 

 そしてそんなユエを前にしたハジメはといえば、若干前屈みでハジメの顔を伺うユエの顔とそこから三十㎝下を交互に視線が行ったり来たりしていた。

 はっきり言えば、ユエは十七歳相当に肉体が成長したおかげで胸も激しく成長していた。ユエはよく仲間連中から貧相だとネタにされてきた。だがハジメ以外詳しく知らないことではあるが、ユエの肉体年齢が十二歳だと考えれば実は年齢にしては発育は良いほうなのだ。もし自動再生に成長を止められなかった場合、年相応になればこうなるであろう姿。

 イブニングドレスからこぼれ落ちそうになっているユエの巨乳にどうしても目がいってしまうハジメ。特に最近巨乳の魔力に自身のピンチを救われたハジメからしたら恋人の胸が大きくなることは喜び以外の何物でもない。ユエもハジメの反応を見て満足そうにしている。

 

 一方、ここにはいないティオ以外のハジメガールズは戦慄していた。

 

「嘘、そんな……ユエの魔法がすごいのなんて今更驚かないけど……ここにきてまさかのそっち方面でも戦力アップなんて……」

「アレ……ひょっとして私より大きいんじゃ……」

「ふふん、だから言った。今の私に弱点などないと」

 

 戦慄する香織とシアを前に胸を張って自慢げに言うユエに確かにと蓮弥も思う。身体的な意味でフレイヤと近似値をとるならおそらくシア以上。遠目にユエの胸をチラ見しながらそんなことを考えていると蓮弥は不機嫌な顔をしたユナと雫にそれぞれ脇腹と頬を抓られる。

 

「痛ッ、ユナ? 雫!?」

「蓮弥ッ、他の女の子の胸をそんなにじろじろ見ない! わかった?」

「ああ、すまん。ついな。悪気はなかったんだ。許してほしい」

「気をつけてください。女の子はそういう視線には敏感なので」

 

 蓮弥としては恋人二人の胸も十分立派なので何ら不満を持ってはいない。だが、それでも他所に目移りしてしまうのは男の本能としか言いようがないので蓮弥も気をつけるが、多少大目に見てほしいというのが本音だったりする。本気で怒ってないようなのでその辺をわかってもらえていると信じたい。

 

「ユエも調子に乗らないように。弱点がないと言っていますが、ソレは長く続かないという明確な弱点があるでしょう」

 

 その言葉と共にユエ(推定十七歳)が光に包まれてユエ(十二歳)に戻ってしまう。

 

「くっ、まだこれくらいの時間しか維持できないか……ハジメ、大きくなった身体で色々するのはもうちょっと維持できるまで待ってて」

「お、おう。楽しみに待ってる……」

「ぐぬぬ」

 

 何はともあれ、今日も無事乗り越えられたようだと蓮弥は思う。

 

 

 

 だが、心せよ。レギオンは氾濫に近くなればなるほどその力は増していくという事実を。

 

 これまではあくまで先兵。ここから先、レギオンの本隊ともいえる存在が産まれつつあることを、蓮弥達はまだ気づいてはいなかった。

 

 

 世界終了まで、残り六日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ ユエさん、リベンジ

(時系列:ちょっと先の未来)

 

 

 ハジメ「大胸筋上腕二頭筋腹筋太腿四頭筋……」

 ティオ「これは……また発作かの」

 シア「はい……どうやら筋肉乙女達の求愛行動、筋肉ダンスなる儀式を直視してしまったらしく……」

 香織「いつも通りこんなことになっちゃってるんだよね……」

 

 

 膝を抱えてぶつぶつ言うハジメに困惑の顔を浮かべる一同だが、一人ほくそ笑むユエ。

 

 

 ユエ「ふふふ、ある意味、私はこの時を待っていた」

 シア「ユエさん?」

 ユエ「思い返すのはかつてハジメに物足りないと言われた屈辱。けど……私はあの時の私じゃない! 神ノ律法(デウス・マギア)!!」

 

 

 ユエ、神ノ律法(デウス・マギア)を使って十七歳モードになる。

 

 

 ハジメ「広背筋背筋ハムストリングス……」

 ユエ「これで……どうだぁ!!」

 

 

 ユエ、ハジメの顔をBカップからGカップへと文字通りワープ進化したおっぱいに押し付ける。

 

 

 ハジメ「いあいあ筋肉……おっぱい……気持ちいい、柔らかい……大きい」

 ユエ「よしッ」

 

 

 ユエ、勝利を確信。

 

 

 ハジメ「…………もう一声」

 ユエ「なん、だと……」

 ティオ「ご主人様よ。もしやそなたが所望するものは……コレ、かの」

 

 

 ティオ、ユエからハジメを取り上げ、推定メートル越えの究極おっぱいに埋まるまで押し付ける。

 

 

 ハジメ「…………ああ、これこれ。おやすみなさい。Zzz……」

 ティオ「((* ॑꒳ ॑* ))ドヤァァッ」

 ユエ「(# ゚Д゚) 」

 シア「(# ゚Д゚) 」

 香織「(# ゚Д゚) 」

 

 

 結論:単純におっぱい勝負をするとティオが最強。

 

 

 




>時系列について
あからさまに飛ばし飛ばしやってるのは日刻みにするとテンポが悪くなりそうだからです。語られていない間のエピソードは余裕があれば五章終了後の幕間で取り上げたいと思います。

>霊的装甲貫通弾
ついに蓮弥対策の弾頭完成。これでやっと戦いの土俵に上がった感じです。

>魂殻霊装
神ノ律法の完成形。いまさらですがユエの強化モデルはネギま、UQホルダーのエヴァンジェリンです。
具体的に言えば魔法を固有技能に変えることができる。これによりかつてユナの師匠は人の身でありながら人知を超えた権能を発揮することができた。
ユエは精霊化した魔法を憑依させることで使うがもちろん憑依させる魔法によって展開される魂殻霊装の種類が変わる。
中々身体に負担がかかるのでまだ長く維持できないという弱点がある。

>火女神の炎舞衣装(ヘスティアフレアスカート)
天空之陽を装填することで発動する炎の魂殻霊装。自身を炎の上位精霊と化し、魂殻霊装展開中は無制限に神代魔法よりランクが下の炎属性魔法を使い放題になる上に、神代魔法を絡めた魔法もコストが小さくなる。髪の色は朱金でストレートヘアー。種別であえて言うなら覇道型。

>ユエ(十七歳Ver)
色々成長したユエの姿。神ノ律法を使った副作用だが基本ユエにデメリットはない。魔力他各種ステータスが大幅に増大するのはもちろん。女性としてのスペックも上がる。具体的な数字はフレイヤと近似。例によって長く維持できないのでハジメとチョメチョメするには時間が足らない。

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