ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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というわけで勇者サイド。

最初は苦労人メルド団長視点


幕間 孤高の剣鬼と目覚める狂姫

 時間は少し遡る。

 

 王国騎士団団長メルド・ロギンスはあの日、ハジメと蓮弥が奈落の底に落ちた日、勇者一同と共に宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って王国へと帰還した。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる状態ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

 

 メルドは王国に帰還した後、ハジメと蓮弥という()()()勇者の同胞が死亡したと王国と教会に報告した。

 

 

 メルドは正確に報告した。途中の訓練の様子、未知のトラップによる強制転移、そして、二人の勇敢な()()の奮闘によって残りの者たちが生きながらえたと。

 

 

 メルドはせめて伝えたかったのだ。今回の迷宮探索で死んだのは無能と天職不明ではなく、立派で、尊敬できる人物だったのだと。

 

 

 だが、メルドの必死の訴えも虚しく、王国と教会の反応は残酷だった。もちろん、公の場で発言したのではない、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあった。だがやれ死んだのが無能や天職不明でよかっただの、神の使徒でありながら、何の役にも立たたない者など死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していたのだ。

 

 

 メルドは悔しかった。そして恐れてもいた。

 このままだとなにか事件が起こる予感があったからだ。

 

 

 そして、それは起こってしまった。死人二人を貶していた者たちが突如謎の昏倒を起こすという事件が発生したのである。

 

 

 もちろん騒ぎになったが、犯人はわからず昏倒させた方法も不明。意識が戻った者達は皆一様に首を切り落とされたと恐怖に染まった顔で言った。以降そのもの達は勇者の話題を出すことが亡くなったことだけが幸いだろう。

 

 

 メルドは犯人を知っている。その生徒の名前は八重樫雫。

 

 

 メルドは彼女の犯行を目撃している。それは最近よく目撃する、雫がただひたすらに、一人で剣を振るっている現場に死んだ二人を貶すものが現れた時だった。

 

 

 その人物がなんの前触れもなく倒れたのである。その人物が医務室へ運ばれた時、雫がメルドに謝罪してきたのだ。

 

 

 メルド団長の客人を()()()()()()()()()()()()と。

 

 

 確かにその人物はメルドの客で、装備の発注に関する打ち合わせがあったのだが……そんなことはどうでもよかった。斬ったとはどういうことかと聞いた時、雫が世間話をするように言ったのだ。

 

「確かに私が斬りました。ただしイメージの中で……それを殺気と剣気を乗せてぶつけただけです。八重樫流裏奥義……首飛ばしの颶風。フフフ……今まで使えなかったのですが()()()()()()()()()()()()()()

 

 未だ聞いても信じられなかった。あの時側にいたのだ。いくら魔力操作で直接魔力を操れるようになったとはいえ、あれだけ近くにいれば魔力を使ってわからないわけがなかった。

 

 

 つまり彼女は本当に剣気と殺気だけで相手の首を切り落としたのだ。

 実際倒れたものの中には薄っすらだが首に傷ができているものもいたという。

 

 

 メルドは恐ろしかった。

 この後予定している例の魔法を放った犯人探しで犯人が判明した場合、本当に神の使徒同士の殺し合いになるのではないかと。

 

 

 メルドは絶対にあの時の経緯を明らかにするべきだと考えていた。

 

 

 仮に一度目は誤射だとしても、二度目は絶対に()()で行われたと確信していたからだ。ベヒモスを狙った魔法が逸れたのと()()()()()撃たれた魔法を見間違えはしない。生徒の中に仲間の背中を平気で撃つ者がいる。仲間の命を預かる以上、絶対に見逃せなかった。

 

 

 王国や教会に止められようと断固実行する覚悟を持ったメルドだったが……それは思わぬ決着を見せる。

 

 

 檜山大介が自白したのだ。彼は未だ目を覚まさない香織を除いた関係者全員の前で、土下座での謝罪を行った。

 

 

 曰くトラップに引っかかったのは、メルド団長の忠告を聞かなかった自分の責任だと、一発目はわからないが、二発目は大した力もないのに活躍する南雲に嫉妬して魔が差してしまった。自分がやってしまった事を心の底から後悔していると。

 

 

 皆の前、特に()()()()()()()()行われた悲痛な謝罪に責めるつもりだった生徒はなにも言えないようだった。一発目はわからないと言ったことが本当なら、ひょっとしたら自分も共犯になるのではないかと怖くて言えなかったのだろう。

 

 

 そしてこの男の言葉で檜山の処遇は決定した。光輝である。

 

 

 光輝は言った。よく勇気を出して罪を告白したと。やってしまった罪は消えないが償うことはできる。死んでしまった二人のためにも、罪を背負った檜山が今以上に努力して世界を救うことに貢献できれば、きっと二人も許してくれると。

 

 

 それを聞いた檜山は涙を流しながらただひたすらに謝り続けた。その姿を見た光輝が許すと宣言してしまったことで、彼を責めることが誰にもできなくなってしまった。雫が目の前で行われる()()()()を視界にすら入れようとしなかったのが印象的だった。

 

 

 とはいえ完全にお咎めなしとはいかず、檜山はしばらくの謹慎処分。聖教教会の罪人更生プログラムを受けるという処分で落ち着いた。世界を救う勇者の中に殺人者がいることをよしとしなかった教会の思惑が隠れていたのは明白だった。

 

 

 メルドは檜山も問題だが、やはり雫のことが気になっていた。最近誰も寄せ付けず一人でいることが多い。幼馴染の勇者は話しかけているようだが最近意図的に無視しているようだった。いや、眼中にないと言い換えた方が適切かもしれない。他の生徒達も今の雫の触れれば切れそうな雰囲気に少し距離を置いているようだった。

 

 

 その一方で雫はメルドには対人戦の訓練を要求するようになっていた。理由を聞いたら()()()()()()()()()()と返された。正直今の雫に訓練をおこなわせたくはないが、いずれ必要になると言うのは本当だったため断る理由がなかったのだ。

 

 

 それは今もメルドが悩んでいることだった。きっと彼女はその時が来たら()()()()()()。そしてそれは勇者に必要なことでもあった。だがこんな形で教えてもいいのか。

 

 ハイリヒ王国騎士団団長メルド・ロギンスに悩みは尽きない。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ハイリヒ王国王宮内。

 召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は未だに眠る親友を見つめていた。

 

 

 あの日から一度も香織は目を覚ましていない。

 

 

 医者の診断では、体に異常はないらしく、おそらく精神的ショックから心を守るための防衛措置だろうとのことだった。

 だから自然と目を覚ますのを待つしかないとも。

 

 

 とはいえあれから五日、()()()()()()()()()()()()()()()()()雫も流石に心配になってくる。

 

 

 その時、不意に、握り締めていた香織の手がピクッと動いた。

 

「……香織?」

 

 雫はそっと呼びかける。閉じられていた香織の瞼が震え始め、香織はゆっくり目を覚ました。

 

「……雫ちゃん?」

「ええ……そうよ香織……体は平気?」

 

 目覚めた親友を見て、雫は愛おしげにゆっくり笑みを浮かべる。五日ぶりに見せる表情だった。

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 香織は五日前に何が起きたのか思い出したのだろう。徐々に焦燥に駆られていった。

 

「それで……あ…………………………南雲くんは?」

「…………」

 

 雫は無言で見つめる。香織はその目を見て、あの日の出来事が現実だったのだと悟る。

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 南雲くんは……訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」

 

 現実逃避するように、次から次へと言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を……雫はあえて強く握りしめた。

 

「痛ッ……雫ちゃん?」

 

 その痛みで恐慌に駆られそうだった香織は少し冷静になったようだ。

 雫は未だに静かに香織を見つめていた。瞳の奥に……抑えきれない激情を宿しながら。

 

「いい……香織。よく聞いて……()()()()()蓮弥と南雲くんはいないわ」

 

 正直、今取り乱されてもそれを抑える余裕が雫にはなかった。今香織が爆発すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから目を見続ける。それで察してほしいと。

 

 

 香織はその目を見続ける。そしてハジメはいないのだと悟る。そして目の前の親友が同じ思いを抱えているという事実が……香織を落ち着かせた。

 

「……そっか……()()いないんだね」

「そうよ……()()()()()

 

 同じ言葉を執拗に繰り返す。それは雫と香織が同じ想いを抱いている証拠に他ならなかった。だけど震える体だけはどうにもならない。雫は香織をそっと抱きしめる。まるでお互い冷え切った体を温めあってなんとか生きているかのように。

 

 

 しばらく抱き合っていただろうか。香織は雫からそっと体を離し、再び雫の目を見る。

 

「ねぇ……雫ちゃん……ひとつだけ教えて……」

「……なに?」

「あの時南雲君達に向けて……魔法を撃ったのは……誰?」

 

 瞳から光が消えていく香織を見て、雫は少しだけ顔を歪ませる。気づいていないかもしれないと願望を抱いていたがそう上手くはいかないらしい。

 

 

 雫は一旦席を外して、扉に鍵を念入りにかけた。

 今からする話に邪魔者はいらない。

 

 

 そして香織に説明を始める。檜山大介が自白したこと。魔が差してやった……今は後悔していると涙ながらに謝罪したこと。それを光輝が皆の前で許してしまったこと。

 

 

 香織はただ無言でそれらを聴き続けた。一言一句逃さぬようにひたすら聴き続けた。

 

「そうなんだ……光輝君の中では……()()()()()()()()()()

「香織……」

「ねぇ……雫ちゃん……なんで檜山君は……」

 

 こんなことをしたのだろう……いや違う。そのセリフと今の香織の表情が一致しない。先ほどのセリフの後はこれが正解だろう。

 

()()()()()()()()()

 

「殺す理由がないからよ……蓮弥達はまだ死んでない……なにも奪われていないのに何かを奪うことはできない」

 

 逆を言えば殺す理由ができれば躊躇わないと言外に言っていた。今雫は意図的に檜山を視界に入れていない。雫にとって檜山を殺すハードルは()()()()()()()()というほど……低かった。

 

 

 幸い檜山も雫には一切近づかないようにしているため、()()()()()()()()()()()()()()はまだ起きていない。もし雫が檜山を認識していたら、颶風によって首はとっくになくなっている。

 

「ねぇ……雫ちゃん……」

「なに?」

「今日は……一緒に寝てくれる?」

 

 香織は雫に甘えるように言ってくる。それはただ眠いからだろうか。それとも香織は気づいたのかもしれない。眠り続けた香織とは逆に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 雫はしょうがないとそっと微笑み、親友の願いを叶えてやることにする。

 

「いいわよ……今夜だけね」

 

 扉がなにやらドンドン鳴っている気がするが、二人は気にしていなかった。

 

 

 二人はお互い抱き合いながらまどろみに落ちる。

 

 

 お互いの傷を舐めて癒すかのように。

 

 

 香織が目をさましたことが皆に知れ渡ったのは翌日の話だった。




雫強化その2 とりあえず使わせとけ変態剣術
一応注意ですが、この世界は神座世界ではありません。よって原作キャラの子孫とかそういうわけではないのでご容赦を。
斬りたい斬りたいと常時考えてる狂人ほどではなくても、それ系統の技が使えるようになってる辺り雫は相当ヤバイです。むしろ関係ない生徒は胃が痛いと思う。

あとキマシ空間にKY勇者と脳筋はいりません。
次回はベヒモス復讐編

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