そしてついに彼に試練が襲いかかる。
カタカタカタカタ
無音の空間にて響く音がある。その軽快な音を奏でているのは地毛の金髪にばっちりメイクをきめている一人の少女。一見典型的な今時のギャルっぽく見える美少女は目の前の魔導式コンピューター『ヘファイストス』のアカウント所有者の一人だ。
その彼女が目の前のスクリーンの前で休憩を挟みつつ活動し始めて早数日と数時間。ようやくその苦労が報われる時が来ていた。
「ん──、終わった──!」
伸びをしつつ、目の前の成果物を前に満足そうにしているのは永山パーティーの縁の下の力持ちだったメンバー、吉野真央だった。
「よう、吉野。進捗はどうだ?」
まるで狙ったかのようなタイミングで部屋の中を訪れる少年、南雲ハジメはある意味同士である少女の仕事を確認する。
「ちょうど良かった。今フェルニルの『飛行制御システム』と『魔導障壁展開システム』、そして『管理AIの素体』の実装が終わったとこ。自動で走らせてるデバッグとテストの結果に問題がなければ実機で組み込んで運用テストもできるはずよ」
「お、おう。そうか……」
(こいつ……基本設計とインターフェースの作成は俺がやったとはいえ……マジでこの短期間でこの複雑なシステムを組み立てやがったのか)
吉野真央。ハジメが直接会ったのは高校に入学してからだが、その時は単に割と派手なクラスメイトがいるとしか思っていなかった。
だが、実際はハジメと真央では意外な関わりがあったのだ。
この一種のネットサークルで行ってきた所業の数々はあえて語らない。おおよそのエピソードにハジメの黒歴史が絡んでくるためハジメの脳が拒否するのだ。
そのネットサークルに真央は『電子の女帝』というハンドルネームで参加していたが、一つだけ言えることがある。
それは間違いなく彼女は当時のハジメを上回る常識外れの技術力の持ち主だったということだ。少し考えれば誰でもわかるだろう。
航空機に使われるような飛行制御システムが短時間かつ一人で作れるものではないことを。
その創世神時代と変わらない、でたらめな能力に軽く引きつつもハジメは魔導式のテスト結果を確認する。
「……よし、問題ねぇみたいだな。後は機体の方に組み込んでの試験運用の結果に問題なければ、ようやく完成するってわけだ」
ハジメが残りの大迷宮の内の一つが魔人領にあるとわかってからずっと計画していた特大プロジェクト。
当初では半分人力操作になると思われた──ハジメは今にして思えばだいぶ無茶なことをしようとしていたと考えている──それは王都に来て魔導式コンピュータ『ヘファイストス』と吉野真央との出会い、そして王都の錬成職人達により思わぬ進化を見せることになった。
彼らの残りの旅の移動手段であり、南雲ハジメが作ったアーティファクトの中で間違いなく最大を誇る傑作。
魔導制御式飛行船体、飛空艇『フェルニル』。
その進空式が、もう間もなく迫っていた。
~~~~~~~~~~
レギオン事件が起きて約二週間。蓮弥達はハジメに王都前の草原地帯に呼び出されていた。そして彼らは目の前の巨大な物体を目にすることになる。
「まさか……本当に作れるなんて……」
「ファンタジーかよ……」
「男なら……一度は乗ってみたいと思うよな」
蓮弥を含めた男子連中は皆程度の差こそあれ感動していた。
「おう、いい反応だなお前ら。そう、冒険の終盤の移動手段と言ったらこいつだろ!」
そこでハジメが指し示したのは一隻の船。これからハジメ達一行の冒険を支えることになる新たなる移動手段、飛空艇『フェルニル』。それの全容が明らかになった。
全長は約百二十メートル。普通の船のようにも見える外見をしているが所々メカメカしい部分も目立つ。ハジメ曰く、レギオンの封印作成時に間に合わなかった魔力炉を搭載しており、それに合わせた魔導式ジェットエンジンが駆動力。操作はシステム構築による半自動操縦型。そしてメインデッキの中央には……
「この光のキューブ……もしかしてヘファイストスなのか。まさか……持ち出してきたのか」
「あたりまえだろ。俺と吉野以外に使える人間がいねぇんじゃ宝の持ち腐れだ。姫さんに言ったらくれるって言ってたしな」
メインデッキにあるヘファイストスによる演算機能も搭載。まさにこの世界観をぶち壊すSF御用達の近未来航空機のテンプレみたいな代物が誕生していた。
「うわぁぁ、中も広いんですねぇ」
「見てみて雫ちゃん。個室も王宮の部屋と同じくらい大きい上に、全部屋バスルームキッチン付き、さらにエアコンまでついてるよ」
「ほんとね……なんというかここだけ世界観が違うわね」
シアが中の意外な広さに驚き、香織と雫が部屋を覗いてその快適な空間を見て回る。
「なあ、南雲……ビームとか出せるのか?」
「ワープとかは?」
「中にはまだ実装できないものもあるけどな。それでもあらかた定番の機能はついてるはずだ」
「おお──!」
愛子護衛隊の相川と玉井が興奮気味にハジメに問い詰める。こういうメカに興奮するのは男子共通だ。かくいう蓮弥も少しワクワクしてくる。
「これは……すごいですね。ハジメや真央もすごいですが、職人達の魂が籠っているように感じます」
ユナが壁に手を当て、フェルニルの想念を感じ取る。どうやら錬成師の職人達の手も相当入っているらしい。
「まあ外装なんかは気合入れて作ってたからな。ユナが褒めてたって聞いたらおやっさん達も喜ぶだろうよ。実際大したものだった。俺もあの人らの長年培ってきた職人芸には学ぶことが多かったよ」
ハジメが国家錬成師をおやっさん呼ばわりすることから察するに、フェルニル建造中に相当意気投合したらしい。同じモノづくりを好む者同士、感じるものもあったようだ。
「俺は代わりに現代で使われてるエンジンの仕組みとか科学や基本的な化学知識を教えておいた。変態ストーカー野郎をぶちのめした後、もしかしたらトータスに技術革命が起きるかもな」
「それは……問題ないのか? 中世時代に近代技術を持ち込んで」
「文明レベルは問題ない。俺の知り合いが『サバイバル科学論』なんて本を出してるんだが、その人曰く、順番に積み重ねていけば人類は理論上、石器時代の文明で月まで行けるらしいぞ」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃ……まあいい」
蓮弥は技術レベルの話ではなく、文化的ブレイクスルーによる混乱のことを言ったのだが、よく考えればハジメがそんなことを気にするはずもなかった。
幸い、蓮弥の良く知るリリアーナ姫はそういうところにも配慮できる人物なので、いきなり公開したりしないだろう。きっと段階的に広めていってくれるに違いない。
技術に罪はない。その技術をどう使うかはその時代の人間の采配次第である。
「そして明日、この飛空艇で旅を再開するわけだが……」
クラスメイトと一部の王国騎士。そして蓮弥達が注目する。ここでハジメに名前を呼ばれるということは、世界の敵であるエヒトの討伐と故郷への帰還を果たすための最前線で戦うことになるメンバーであることを意味する。
「まずは言うまでもなく俺、そして俺のパーティーメンバーだ。主に地球帰還のための概念魔法を手に入れるために大迷宮を攻略することと、引きこもり変態ストーカーを潰すために活動する」
ハジメの声に従って、ユエ、シア、ティオ、香織が前に出る。このメンバーは確実に大迷宮攻略を目指すメンバーだ。特にハジメとユエには是が非でも概念魔法を手に入れてもらわなければならない。
「次に蓮弥パーティー。変態ストーカーを潰すのは同じだが、こちらは大災害なんかの特殊戦力が出た際に前線で対処してもらうメンバーになる」
蓮弥、ユナ、雫が前に出る。戦闘力と言う意味では未だに抜きん出ているメンバーで構成されており、大災害などの特殊戦力が出た時に前に出るメンバーである。
「ここで蓮弥のパーティーにメンバーが増加する。先生の護衛隊から園部と先生が移籍することになった」
「うん。よろしくね。蓮弥君……それと雫とユナさんも」
「ああ、よろしくな、優花」
「一緒に頑張りましょう」
「ええ、歓迎するわ」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」
あっさり移籍を受け入れた優花は蓮弥達に挨拶をするが、なぜか一緒に呼ばれた愛子が初耳だと言わんばかりの表情をする。
「ふ、藤澤君。どういうことですか? なんで先生が藤澤君のパーティーに!?」
「落ち着けよ先生。何も前線に出てもらおうというわけじゃない。ただ旅についてきてもらった方がいいと思ってな」
混乱する愛子を落ち着かせた後、事情を説明する。
愛子に旅についてきてもらいたい理由。それは聖教教会の信仰が集まりすぎているのが理由だ。
戦時中や、戦後しばらくの混乱期には都合がいいということで豊穣の女神愛子の名前は愛子の許可のもとリリアーナが使っていたわけだが。早期の王都の安定と引き換えに、愛子は想定以上に信者の信仰を得すぎたのだ。
「もちろん無理強いをするわけじゃない。けどこの国の信徒の様子を見ていると、そのうち聖教教会の新しいご本尊にされかねないぞ。それでもいいなら残ればいいけど」
「それは……正直嫌ですけど……」
「先生行ってきなよ。私達のことは気にしないで」
「そうそう。ここにいるとマジで教祖とかにされそうだしな」
「…………わかりました。藤澤くん、よろしくお願いします!」
「基本危ないことにはならないようにするよ」
悩む愛子の背を愛子護衛隊が妙子と玉井が押す。彼女達もこの国にいるより蓮弥について行った方がいいと判断したらしい。愛子も教え子に背を押されて決心がついたらしい。意外と決心が速かったのは教え子が想像以上に逞しくなっていたことも理由の一つだろうが、彼女も王国の空気に気付いていたからだろう。蓮弥は色々な意味でこのあぶなかっしい先生を守らなければならないと気を引締める。
「私達はここに残って復興活動を続けるからさ。だから頑張ってね優花ッち……色々な意味でね」
「うん……大丈夫。絶対負けない」
奈々が優花にエールを出す。蓮弥としては微妙な感じだがそれを止めることもできない。雫は余裕の表情で優花を見据えていた。
「さて、後は永山パーティーからエンジニアとして吉野についてきてもらう。フェルニルを動かすのも直せるのも俺と吉野だけだからな。非戦闘要員としての参加になる」
「オッケー。任せなさい」
「ちなみに俺も参加して吉野を守りつつ、陰ながら支援するからな……聞こえてるよな?」
永山パーティーから一人、吉野真央が前に出る。彼女はハジメが言う通りエンジニアとしての参加になる。何でもフェルニルの制御システムを作ったのは彼女であり、ある意味ハジメ以上にシステムを把握している人物らしい。戦闘においてフェルニルの支援が必要になれば彼女の力に頼ることになるだろう。
そして永山パーティーで残った永山、野村、辻の三人は引き続き、王都の復興に当たることになる。
「そして……」
一部の者から緊張が走るのを感じる。以前より旅について行くことを志願していたメンバーが何人かいるが、暫定船長のハジメの一声で参加できるかどうかが決まる。
「俺達の敵である鬱陶しい裏切り者の降霊術師、中村恵里に対する肉壁……もとい対応するために谷口が参加する。ついでに青春ボーイ坂上もな」
「は、はい!」
「おい、南雲ッ。青春ボーイってなんだよ!」
名前を呼ばれて若干興奮気味の鈴が張り切って応える。当初は力不足を理由に鈴の参加に難色を示していたハジメだったが魔力操作を習得したこと、そしてグリューエン大迷宮を突破し、空間魔法を習得した功績を認められ鈴が旅に参加することが決まった。そして一方、制限付きのシアとはいえ、そこそこ戦えるようになったことで参加を認められた龍太郎は自分の呼ばれ方に文句を言う。
「ほ──う。じゃあ何でついて行きたいのか、この場で大きな声で言ってみろよ」
「うっ、それは……まだ言えねぇ。まだ俺にはその資格がねぇからな」
「ふっ、そういうところが……青春ボーイ」
「?」
ハジメのからかいの言葉に対して、思ったより重く受け止める龍太郎。蓮弥もついて行きたい理由は察しているが、龍太郎はそれに対してまだ資格がないと思いつつも諦めるつもりはないらしい。そこには決意を固めた男の顔があった。その決意を認めつつもまさにそれこそが青春だとユエが茶化す。もっとも残念ながら、隣にいる鈴はよくわかっていないようだったが。
「後は道中帝国に寄るために姫さんと護衛が一時的に同乗する。以上、十三名とゲスト数名が明日、王都を出発してフェアベルゲンに向かうことになる。だから今日は明日に備えて準備を……「ちょっと待ってくれ!」あん?」
ハジメがメンバーの発表を終え、明日に備えるために解散の流れになったところで待ったが入る。この旅に参加することを志願していながら名前を呼ばれなかった男、天之河光輝だ。
「まだ俺の名前が呼ばれてないぞ!」
「? そりゃ呼んでないからな。心配しなくても間違ってないぞ。じゃあ今度こそ解散「なぜだ!」……まだなんかあるのかよ」
光輝の抗議の声を流しながら解散しようとするハジメだったが、光輝の叫びに掻き消される。
「何で……何で連れってくれないんだッ。聖剣だって直ったし、俺だって戦える!」
「いや……あのな」
気合十分で叫ぶ光輝にハジメがめんどくさそうな顔を隠そうともしない。手がドンナーのホルスターに伸び掛けており、このまま力づくで黙らせるか、それとも聖約で黙らせるか。どちらの方が効果があるか迷っているらしい。だから、蓮弥は間に入ることにする。
「なあ、天之河。お前……何でついて行きたいんだ?」
「そんなこと決まってるだろッ。神を倒して世界を救う「お前……」ッ!?」
光輝の言葉が蓮弥の言葉で止まる。聖約で止められたのではない。蓮弥の心を見透かすような目が、光輝に突き刺さったがゆえに何も言えなくなったのだ。
「お前……もしかしてまだ、本気でそんなことを言ってるわけじゃないよな?」
蓮弥の言葉に対し、何も言えなくなる光輝。このままにらめっこをしていても埒が明かないので蓮弥が答えやすいように誘導してやることにする。
「いくらお前でも流石にもう気付いてるよな。大災害にフレイヤのような神の使徒。それらを相手に、自分じゃどうにもならないことに」
「ッ……」
そんなことない。そう言おうとでも思ったのか、光輝の口が一瞬開くが、声が漏れることはなかった。
「それに神エヒトは俺達が倒すと宣言している。だからこそ、そのために行動するつもりなんだが、正直お前を連れていくメリットが俺達にはないんだよ」
「それは……だけどお前と南雲は言ってたじゃないか。この世界の住人を救うつもりはないって。この世界には神エヒトに苦しめられている人が大勢いるんだ。だから、お前達が救わないというなら俺が救う。それが俺の……
蓮弥の耳には光輝の『勇者』という言葉
「勇者の務めか。なら……なおさらお前は王都に残るべきだ」
「なっ!?」
「見ての通り王都はまだ復興中だ。失った人も、物資も計り知れない。まだまだ人手が足りない状況なのは言わなくてもわかるだろ。お前は今王都で嘆いている人や苦しんでいる人はどうでもいいのか?」
「そ、そんなこと……」
「それに……世界と言ったけどお前……言うほど救う世界のことを知ってるのか?」
「う……あ」
「王都は言わずもがなこの有様だし、西の国アンカジ公国はつい最近まで疫病が流行っていたおかげで死にかけてた住民と経済活動が、ようやく回り始めたばかりだ。エリセンの町は魔物が大発生したのと大災害が出現したことで不安に思っている人もいるだろう」
蓮弥はアンカジで会った人達やエリセンにいる海人族や冒険者の知り合いを思い浮かべながら光輝に語る。
「北の方ではウルの町が六万の魔物に襲われそうになってたし、クーランの町でもレギオンが発生しかけて危険な生物災害に発展する直前だった」
蓮弥は北で自分が起こした騒動を思い出し慙愧の念を覚えたり、クーランでの間一髪の悲劇のことを思いながら光輝に語る。
「フェアベルゲンは帝国とのいざこざが絶えないし、大都市フューレンだって裏の組織が壊滅したり新しい裏組織が生まれそうになったりして落ち着いているわけじゃない」
これから向かう国、そしてかつて通過した国のことを思いながら光輝に語る。それらの言葉は全て、蓮弥達が関わり、時に解決してきた旅の経験から基づくものだ。
「今俺がざっと並べただけでもこれだけの悲劇が世界中で起こってるわけだが……お前はどれか一つでも具体的に思い浮かべた上で、世界を救うという言葉を口にしたんだろうな?」
「あ、う、あ」
「お前の言葉は全部軽いんだよ。経験に基づく骨子がない。だから何も響いてこないんだ。……明朝、出発前にもう一度だけ聞いてやる。お前が何のために俺達についてくるのか。そこでお前の……そうだな、『戦の真』ってやつを俺達に見せて納得させてみろ。それができないようなら……せめてここに残って、お前が良く知っている王都の民達のために戦った方がいい。勇者であるお前の存在で、勇気をもらう人や救いを感じる人も大勢いるだろうしな」
その言葉を最後に集まったメンバーは今度こそ解散する。
だが、そこでただ一人。天之河光輝だけがその場に佇み、動けずにいた。
~~~~~~~~~~~~
「おい、蓮弥。お前……なんであいつにわざわざチャンスをくれてやった」
時は深夜。明日の旅支度を終え、意外と長く滞在した王宮の中庭にて、蓮弥とハジメは今日の蓮弥の対応について話し合っていた。
「正直聖約で黙らせたほうが早かったんじゃないのか。これからどうなろうと今のあいつが大迷宮攻略の役に立つことはなさそうだぞ」
ハジメはきっぱりそう言った。どうやらハジメは完全に光輝に期待していないようだと蓮弥は感じる。だが、蓮弥の考えはハジメとは少し違うのだ。
「そろそろ聖約で無理やり押さえつけるとそれを言い訳にされるかと思ってな。それに……あまり中途半端もいい加減良くないと思った」
「それはあいつのためか?」
「俺達のためでもある。きっとここがあいつにとっての分水嶺になると思う。ここで少しでも進展があればよし。元々聖約もあるから邪魔にはならないし、乗せてもいいと思う。だけど駄目だった場合、あいつを多少強引にでもここに縛り付けたほうがいい。俺はお前ほどあいつの素質を軽く見てないんだ。今のあいつはともかく、もし誰かに目を付けられたら厄介なことになるかもしれない」
「……例の神父のことか?」
「ああ」
蓮弥がその懸念を抱き始めたのはユナによって神父の暗示が解けた後だった。蓮弥はおそらくフレイヤと恵里の背後にいるのはダニエル神父であると半分確信していた。そしてそこまで考えるとある事実に行きつく。
「もし俺の懸念が合ってるなら、あの神父は危険人物である中村恵里と理性が消えかけていた檜山大介。そしてなにより、あの使徒フレイヤすらも手持ちの駒としてコントロールしていることになる。俺達にも些細な言葉で暗示をかけてたようだし、そんな危険人物が暗躍している中で、もし精神的に隙だらけの天之河を放置してたら……何か都合の悪いことに利用されないとも限らない。あの檜山でさえ、お前が命の危険を覚えるレベルの脅威になったんだ。なら素質に恵まれてる天之河があいつの手に渡ったら……」
「その危険度は計り知れねぇってわけか」
「その通りだ。かといって何をするかわからない不安要素の塊のようなあいつを手元で管理する自信もない。あいつ、俺とお前のこと嫌いだろうし、聖約にも限界はある。だからこそついてくるなら、少しは真が入ってないと話にならない」
もし光輝の中に真が生まれれば、それを育て、成長を促してやることで光輝の精神を守り、神父の介入リスクを減らすことができる。そしてもし駄目だった場合、最悪神代魔法やアーティファクト、聖術を使ってでも多少不自由な思いを強いることになる。光輝を守る意味でもその周りを守る意味でも。
「どちらに転ぶのかはあいつ次第だよ」
「あいつは側にいてもいなくても爆弾なのかよ。わかったよ。俺は邪魔さえしなければそれでいい」
決断の夜。今頃光輝は何をしているのか。
蓮弥にはわからないが、できれば丸く収まることを祈らざるを得なかった。
次回、光輝視点を持って第5.5章は終了になります。