ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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今回は原作とほぼ同じなのでいつもより文字数が少ないです。

ですが考えてみたら昔はこのくらいの文字数の話とかあったはずなのに連載が進むにつれて一話ごとの文字数がインフレしていく。

長いと読みごたえはありますが、その分気軽に読めない罠。悩みどころです。


戦闘民族ハウリア人

 カムを救出し、ゲートを通ってハウリアやティオ達が待機している岩石地帯に空間転移して来たハジメ達は、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

 

 

 ハウリア達は、お互いに肩を叩き合い、鳩尾を殴り合い、クロスカウンターを決め合って、罵り合いながら無事を喜び合っていた。

 

 

 そして歓声を上げるウサミミ達の様子を眺めていたハジメの元に、黒い仮面をつけた男が近寄ってくる。

 

「どうやら上手くいったみたいだな」

 

 加工された声でハジメに声を掛けながら仮面の男は仮面を外す。

 

 何の捻りもなく、出てきたのは蓮弥だった。

 

「お前も随分派手に暴れまわったみたいだな。振動が俺達のところにも伝わってたぞ」

「まあな。あれだけ暴れたから、しばらく帝都での話題は独占だ」

「そうね。あれだけ念入りに私達のことを宣伝したから、すぐに名前は広まると思うわ」

 

 雫が仮面を外しながらハジメに言う。とてもいい顔をしており、ハジメは思ってた反応と違って少し困惑しているようだ。

 

「なんだ、八重樫。意外と気に入ったんだったらその仮面、プレゼントしようか?」

「遠慮しておくわ。南雲君の魂胆が透けて見えるし。なんなら、ご期待の反応を返して斬りかかった方が良かったかしら?」

「冗談だよ。お前に斬りかかられたら普通に死ぬわ」

 

 ハジメとて真っ向からの近接戦闘で雫に勝てないことなど承知の上だ。それでもジョークをかませるのは雫がそう簡単に斬りかからないと信頼してのことだろうか。

 

「ボス、宜しいですか?」

 

 ようやく、ド突き合いを終えたらしいカム達が、ハジメの方へ歩み寄ってきた。真剣な表情であることから、蓮弥達も、唯の再会の挨拶というわけではなさそうだと察し、ハジメが錬成で手っ取り早く椅子を車座に用意すると、カムが着席し、事情の説明を始めた。

 

 

「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです……」

 

 

 そう言って、始まったカムの話を要約すると、こういう事だ。

 

 

 度重なる襲撃により減少した亜人奴隷補充の為に、魔人族襲撃を受け疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、カム達ハウリア族は相当な数、撃破している。そしてそれがキッカケで、帝国兵をかなり警戒させたらしい。そこで帝国はカム達正体不明の暗殺特化集団を確保するために一計を案じ、カム達を誘い込むために罠を張ったのだ。

 

 

 カム達も、あっさり罠にはまるという失態を犯したわけだが、それは、帝国が直接樹海に踏み込んで来るというまさかの事態に対する少なくない動揺があった、としか言いようがない。

 いくら帝国でもフェアベルゲンを本格的に襲撃するということは今までなかったのだが、今回は樹海を端から焼き払ったり、亜人奴隷に拷問まがいの強制をして霧を突破したりという手段を選ばない行動を取ってきた。

 フェアベルゲンもまた先の魔人族襲撃で多少疲弊していたということもあり、今まででは考えらえない数の亜人の同胞が攫われてしまって流石にカム達ハウリアも思わず逆上してしまったのだ。

 

 

 こうして捕まったカム達だったが、その正体不明の暗殺集団の正体が亜人族最弱のはずの兎人族ということに驚いた。何しろ彼らの認識では兎人族は間違っても帝国兵と互角に渡り合える存在ではなかったのだ。これは彼らの裏に何かあると疑った帝国はカム達に探りを入れていたらしい。

 

「我等は生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていたわけです。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」

「あと、奴らは何故か森が黒い魔物の被害を受けていないということにも興味を示してました。もしかしたら黒い魔物の出所がフェアベルゲンじゃないかと疑ってたのかも」

 

 どうやら帝国が進軍した理由の一つが先日の黒い魔物騒ぎが全国に広がり、帝国にも少なくない被害をもたらしたのに、フェアベルゲンには大した被害が出ていないことにあるらしい。

 

 纏めると帝国を騒がせる暗殺者集団の正体がまさかの兎人族だった。最弱種族であるはずの兎人族の暗躍、さらに何故かフェアベルゲンは黒い魔物の被害を受けていない。そのことから兎人族はフェアベルゲンの隠し玉、黒い魔物は森の生物兵器か何かと思い込み、その裏を探るまではカム達を処刑するわけにはいかなかったと言うわけだ。

 

「それで……お前達はどうするつもりなんだ」

「……このままでは帝国はフェアベルゲンに攻め込んでくるかもしれない。だからこそ我々は……先手を打ち、帝国にゲリラ戦争を仕掛けます」

 

 カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。だが、ハジメはたいして動じることもなく、彼らの話の続きを聞くことにした。

 

「ほう、けどフェアベルゲンのために戦うわけじゃないんだろ?」

「もちろん。どうやら皇帝ガハルドは我々に興味を持ったようです。弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている国の皇帝です。おそらく我々を自分の物にするまで追い続けるでしょう。我々は逃げられても他の兎人族達が狙われてしまう。だからこそ戦うしかないのですが真正面での戦いでは流石に勝ち目がないのは承知の上、だからこそ……」

「ゲリラ戦法で帝城を落とし、皇帝を討つ、か」

「はい、ボスにはそのお力添えをしていただきたい」

 

 頭を下げるカムには相当の覚悟が見える。カムの知るハジメは一番冷酷非道だったので、フェアベルゲンのことなど微塵も興味がないと思っているはずだ。それでもなお頭を下げ、例えボスであろうと利用できるものは全て利用して勝つ。その意気込みが伝わってくるようだ。

 かつてのハウリアとは雲泥の差だ。蓮弥は事情により本当にビフォーアフターしか見ていないのでいつ見てもギャップが半端ない。光輝達などまるで一級の戦士のような気迫を見せるカム達に驚いていた。

 

 

 ハジメはどうしたものかと悩んでいるようだったが、ハジメが結論を出す前にシアが覚悟を決めた表情をしているカム達の前に出る。

 

 

「……父様……みんなの決意は伝わりました。その上で言います」

 

 顔を俯かせながらシアがカム達に掌を向ける。

 

「自惚れないでください」

「!? ぐぅぅッッ!」

 

 カム達ハウリアが全員その場でうずくまる。まるで何かに縫い付けられたように身体を動かせないらしい。蓮弥が目を凝らせばシアの掌から薄いオーラがカム達に向けられているのがわかった。

 

「動けないですか? この程度の闘気(オーラ)を向けられただけで怯むのに……一体何を成そうと言うのですか?」

 

 シアは相変わらず顔を上げない。だがその纏うオーラはどんどん上がっていく。

 

「事情はわかりました。私達に取れる選択肢は他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国に取り込まれるか、身命を賭して戦うかだけしかないことを。けどそれなら……そこまで追い詰められているなら……」

 

 

 

「私が今から城へ行って……あいつらを皆殺しにすれば済む話じゃないですか」

 

 

 

 薄ら笑いを浮かべたシアのオーラがさらに増していく。まるで無理やり堰き止めていたのが溢れ出すかのように。

 

「父様、知ってますか? 森の外の世界って……私達が想像しているよりずっと広いんですよ。海には山より巨大な無限に再生する化物が存在しましたし、王国にいた時は全長百メートルを超える黒い巨人がいっぱい現れて襲ってくるようなこともありました。それと比べて……帝国はどうなんでしょうね」

 

 シアは自分を最強無敵だとは思っていない。上を見上げればキリなどなく、身近な人達の存在だけで自分の未熟さを日々思い知らされるばかりだ。だが、世界の広さと頂の高さを知ったからこそわかることもある。

 

「弱い者は強い者に従うのが当然? 笑わせてくれますよねッ。帝国なんて所詮、狭い世界の中で生きてッ、自分は強いと思い上がってッ、上を見上げることなく弱い者虐めして悦に浸ってるだけの……ただの自惚れ集団ですッ! 昔絶対に敵わないと私達が恐れていたものは……今の私にはとても小さく見える」

 

 シアは帝国をずっと観察していた。例え周りで亜人族が奴隷として酷い扱いを受けていても何も言わなかった。頂の高さを知り、自らの力を正確に把握し、そして帝国を観察してシアが出した結論は……取るに足らないだった。

 自信を持って言える。今のシアなら真っ正面から攻め込んで、たった一人で城を落とせると。

 

「なんなら今から飛んで行って真っ正面から城くらい簡単に落としてきますよ。あいつらだって私達に好き勝手やってきたんですからッッ、今度は私達のッ!! ッ!? ひにゃぁぁぁぁ!!? は、ハジメさん!?」

「あれ? おかしいな。香織にいつもやって貰ってるみたいにしたつもりだったんだが……やっぱりそう簡単にはいかねぇか」

 

 オーラを昂らせ狂気を纏いながらどんどんヒートアップしていくシアをそろそろ止めようと蓮弥が動く前にハジメが動き、シアに魔力を流して止めた。だが、どうやら香織のようにはいかなかったらしく、シアは明らかに痛そうにしていた。

 

「な、何するんですかぁぁ」

「シア、お前の言い分は……たぶん正しい。きっと俺達なら……この国を制圧するのにそれほど労力なんていらねぇ。俺なら帝城の真上にヒュベリオンかロッズ・フロム・ゴッドを配置して、安全地帯で優雅に茶でも飲みながらボタン一つ押すだけで、帝城の奴らは何が起こったかもわからず跡形もなく消滅するだろうな」

 

 だけどなと、ハジメはシアを正面から見つめながら話を続ける。

 

「いくらやり返すための正当な理由があったからと言って、やりすぎたらきっと駄目なんだ。それはあいつらに復讐されるとかそういうものじゃねぇ。例えシアがあいつらを皆殺しにして禍根を断ったとしても、その代償にシアの中の大事なものに傷がつく気がしてならねぇ」

 

 それはハジメが旅を続けて得た結論なのかもしれない。やられたからやり返す、それは確かに当然かもしれないがそれだといつまでも応酬の繰り返しが続く。だが、だからといってやり返されないために徹底的にやりすぎても駄目なのだ。例え禍根を残らず排除しても、いつかやりすぎた分何かしらの返し風が自分や、或いは自分の大切なものの元に帰ってくる。

 

「割に合わないだろ。お前の言う取るに足らない連中のために、シアがぬぐえない業みたいなものを背負うなんて。お前は大切な仲間なんだ。この中でお前が見えない傷を負うことを望んでる奴なんて一人もいねぇ」

「ハジメさん……」

 

 もしかしたらシアは無意識的にこれは兎人族である自分達の問題であり、ハジメを巻き込むまいと思っていたのかもしれない。なまじ自分一人で何とかできるだけの力がある分、なおさらだ。だが、蓮弥達も、ユエ達も、シアだけ重い物を背負わせるつもりはない。それに……

 

「それにシア。見てみろよ。お前のオーラに当てられても、お前ひとりに背負わせまいとむしろ一層やる気満々の顔になった奴らがいるじゃねぇか」

 

 シアが視線を向けるとそこには、シアのオーラを受けたことでさらに据わった顔をした家族がいた。そのうちの一人、シアの父親であるカムが口を開く。

 

「ボスの言う通りだ、シア。今のやり取りだけでお前が旅に出て強くなったのは十分わかった。だがな……だからと言って大事な娘に全て任せていいと思っているような臆病者は、ここには一人もいないんだ」

 

 そうだ。そうだ。とハウリア達がカムに賛同する。可愛い妹分のためにもさらに負けるわけにはいかなくなったと目が語っている。

 

「カム、そしてハウリア族。シアを不安にさせるようなチンケな作戦なんぞ全て却下だ。お前等は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ。髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ。ただ帝城を制圧するだけじゃもはや足りねぇ。ハウリアは影に隠れてコソコソ不意打ちをするだけの小賢しい集団だと言い訳させるな! 狙うは真正面からの……ぐうの音も言わせない完全勝利だ! 自分達が強いと思いあがっている連中に思い知らせてやれ! 真の強者がどっちなのかってことをな!!」

『Sir,Yes,Sir!!』

 

 さらに続くハジメの気合の掛け声に対し、更なる気合の叫びと共に熱狂するハウリア達。

 

「……うぅ~、シズシズ、あの人達こわいよぉ~」

「本当よね。シアを見て私、兎人族ってもっと可愛い種族だと思ってたのに……」

「雫……言っておくけどつい最近まで、可愛い種族だったんだぞ……あいつら」

 

 鈴が異様な雰囲気で熱狂するハウリア達を怖がり、雫はシアから連想してた可愛らしい種族という夢を壊されたことの落胆を隠しきれず、蓮弥が相変わらず変化の激しいビフォーアフターにどうしてこうなったと嘆く。

 

 

「南雲の奴……へへ、まさかあの軍曹を取り入れていたとはな、やるじゃねぇか。ハウリア達も結構気合入ってるしよ。まだ完全に目覚めてないが、いい闘気(オーラ)してるぜ」

「龍太郎!? なんで、ちょっと親近感持ってるんだ!? どう見ても異常な雰囲気だろ!?」

 

 龍太郎が、ハウリア達の身に宿る潜在的なオーラの量を見て、こいつらできると頷き。そのノリについていけない光輝がついていけてる親友に戦慄する。

 

「う~む、すごいのぉ~。兎人族がここまで変わるとは。流石、ご主人様じゃ。あっさり帝国潰しを目的にしよるし。堪らんのぉ~。あんな気勢で罵られてみたいものじゃ」

「……黙れ、変態ドラゴン」

「っ!? ハァハァ」

「うん、ティオさんはちょっと自重しようね? それより、シアの表情見てよ、ユエ。蕩けてるよ」

「……ん、可愛い」

 

 シアはハジメの方を見て蕩けていた。決してハジメの魔力式マッサージが成功したわけではない。自分が危険な方向に落ちそうになっていた時にハジメが手を伸ばして引き留めてくれたことがうれしくて仕方ないと表情が語っている。

 

「それでハジメ……完全勝利を目指すとなると足りないものがあると思うんだが」

 

 蓮弥がハジメに今後のことを尋ねる。軍勢の差は明らかだし、真正面からの戦闘となるとハウリア達では心もとない。なのでそれを補うために必要なことがある。

 

「ああ、もちろんだ。というわけでお前ら。浮かれるのもそこまでだ。これから始まるのは地獄のハウリア改造プランその2だ。香織」

「わかってるよ。指導は任せて」

「なら……訓練する場所は私が提供します」

 

 そう言ってユナがこの場に形成する。

 

「私の内界なら少しですが時間の流れを弄れます。彼らを訓練するにはもってこいかと」

「あの……ボス? 私達はこれから何を」

 

 クールダウンさせられたハウリアの代表カムがハジメに尋ねる。いかなる試練にも耐えるつもりなのは間違いないが、同時にノリが多分に含まれていたのも確かなのだ。具体的にどうやって真正面から戦うのか見当もつかない。

 

 だがハジメは不敵に笑う。牢獄で彼らと再会した時から練っていたプラン。

 

「決まってるだろ。今からお前達全員……闘気(オーラ)を習得してもらう。時間がねぇ、香織と相談しつつスパルタで行く。全員死ぬ気で付いてこい!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 これは少し先の話。トータスでの物語が一つの完結を迎えた後、フェアベルゲンに住む亜人族は、獣人族と名を変え、人権を確保していくことになる。

 

 だがその中で異質な存在が産まれることになる。彼らは兎人族であって兎人族に非ず。彼らはその鍛え抜かれた身体と獣人には持ちえないはずの魔力を兼ね備えた近接戦闘のプロ集団であり、それにも関わらず真正面から勝てないとなると途端にゲリラ戦に切り替えるという変幻自在の戦術を兼ね備えている存在だった。

 

 帝国を真正面から打ち破り、後の獣人族に対する脅威を時に真っ向から捻じ伏せ、時に闇に紛れて事を成していく。

 

 いずれトータス中で畏敬の名と共に強者の代名詞になっていく存在。

 

 トータス最強の厨二戦闘民族ハウリア人。その誕生の瞬間がもうすぐ訪れようとしていた。

 

 




ウサギが黒ウサギになりかけましたが、無事Bキャンセルできた模様。

次回、いよいよ帝城にてガハルドと面会。果たして帝国は無事に面会を乗り越えられるのか。

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