ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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今回も勇者サイドです。
あと独自設定多数です。


幕間 悪夢に抗う者たち

 蓮弥が、奈落にて聖遺物に振り回されている頃

 

 

 光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、檜山不在の小悪党組、それに永山が率いる男女五人のパーティーだけだった。

 

 

 理由は簡単である。ハジメと蓮弥の死に動揺して再起不能になるメンバーが多発したからだ。メンバーは二人の死によってこの世界が、元の世界より死が遥かに近いところにあることを実感したのである。

 

 

 それに聖教教会関係者はいい顔をしなかった。彼らにとって戦わない神の使徒などなんの役にも立たない。直接的な言葉は使わないが、毎日のようにやんわり復帰を促していた。

 

 

 しかし、それに愛子先生が猛然と抗議した。彼女はハジメと蓮弥の死に責任を感じていた。彼女は作農師という天職の都合上そこにはいなかったわけだが。そんなことは慰めにもならない。

 

 

 それに愛子は知っていた。自分以外にも戦いに参加することに反対していた生徒がいたことを……もちろん蓮弥だった。

 

 

 蓮弥は訓練の合間に各地へ出発前の愛子と話していたのだ。そして雫にも語ったことを愛子にも説明した。戦争参加がいいとは思ってはいないけど、自分達が神の使徒にふさわしくないと判断されて彼らの庇護を失うことは現状避けなければならないこと、自分達はこの世界について学ばなければいけないと。

 

 

 愛子はこの世界について何も知らなかった自分達が、この世界のどこかに追放されてた可能性があるというところで、ひょっとしたら自分がそのキッカケになったかもしれないという事実を知り、顔を青くしていた。だが蓮弥は言ってくれた、先生の立場なら当然だと。

 

 

 そこで頼まれたのは情報収集である。図書館で手に入る知識は限定的だし、百聞は一見にしかずとも言う。作農師という天職上、各地を自由に旅できる愛子に情報を集めて欲しいと願ったのだ。特に不足している魔人族関係、それと亜人族のことや反逆者の噂についても。

 

 

 愛子はそれに気合をいれて了承した。生徒達が命掛けで自分達の世界へ帰るために頑張っているのに、一人だけ元の世界への帰還とは関係ないことをやっていると思っていたのだ。そんな自分にも出来ることがあると熱血教師魂に火がついた。

 

 

 それから愛子は各地を回りつつ情報を収集していた。しかし、その情報を蓮弥に伝えることはできなかった。

 

 

 愛子は聖教教会のやり方に激怒して言ったのだ。これ以上戦えない生徒を無理やり戦わせるなと。かつて愛子は蓮弥に聖教教会から追放されるかもしれないと顔を青くしていたが、あの時とは状況が違うことを知っていた。生徒達がこの世界に適合し、ある程度戦えるようになったことは勿論だが、愛子は自分の天職の価値を知ったのである。

 

 

 愛子はもし今後強引に生徒を戦いに駆り出すようなら今後自分は一切彼らに協力しない覚悟で訴えた。

 

 

 それが功を成して愛子の訴えは認められた。彼女との関係を悪化させることを教会は良しとしなかったのである。結果、現在迷宮攻略は二人の死を前にしても戦うことのできた少数にて行われていた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「……………………」

 

 そんな一同は60階層で止まっていた。眼前に広がる奈落に続きそうな深い闇が広がる谷。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ない……だが皆やはり思い出してしまうのだろう……あの時の悪夢を。特に、雫と香織は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。

 

「ねぇ……雫ちゃん……大丈夫だよね」

「大丈夫よ……私も覚悟はできているから」

 

 それはこの先へと進む覚悟。そして何があろうとその死が確定するまでは二人の生存を信じる覚悟。そして二人の死が決まった時、然るべき報いを受けさせる覚悟。

 

 

 そこには複雑に絡み合った。同じ立場の二人にしかわからないことが決意があった。

 

 

 もちろん普段から空気が読めない光輝がそんなことを理解できるわけもなく。先ほどの会話で香織が不安になっていると思ったのだろう。

 

「……香織、心配しなくても大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

 

 そのカッコいいだけのセリフを……香織は無視した。例の下手人を無罪放免にした事実を知り、最近香織は光輝のこういうところにうんざりしていた。

 

 

 自分は決して許さないであろう()()()を彼は簡単に許した。その自分との価値観の違いに香織は、光輝とは分かり合えないとわかってしまった。

 

 

 だが勇者は止まらない。まさか無視されているとは心にも思わず、今度はきっと死んだ二人を思って心ここにあらずなのだろうと思った。

 

「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲も藤澤もそれを望んでる。……雫も香織に言ってくれ。()()()()()()()()()()()()香織にも出来ると」

 

 一向に聞く耳を持とうとしない香織に光輝は雫に援軍を頼んだ。一応光輝も雫が二人、特に藤澤の死に悲しんでいることは知っていた。だが表面上いつもと変わらず一層訓練に励むようになったことで、もうそれは乗り越えたのだと勝手に判断していた。

 

 そしてそれは逆鱗だった。

 

「? うわぁぁぁ!!」

 

 光輝が突然首を抑えて叫び出した。だが叫んだ後首をペタペタ触り出した。まるで首がついていることを確認するかのように。

 

 

 雫はその様子を見た後、光輝から視線を外しメルド団長に向き合った。

 

「メルド団長……先に進みましょう。どうやらここで足を止める生徒はいないようです」

 

 雫は冷ややかに小悪党三人に視線を流し言った。雫は知っていた、彼らが隠れて自分なら魔法を避けただの、自分ならうまく助けただの言っていることを。

 

 

 ちなみに檜山はここにいない。光輝に許されたとはいえ、好感度が上がるわけもなく、小悪党組以外からは腫れ物扱いされていた。そして雫に近づかないため、そして香織を手に入れるため、彼の()()()からの命令を実行していた。

 

 

 そんな冷ややかな目を向ける雫に小悪党は萎縮する。他の生徒も何も言えない。クラスのムードメーカーである鈴ですら、最近の雫は怖すぎて近づけないでいた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 そんな不穏なパーティの様子とは裏腹に一行の進行は順調だった。そしてとうとう歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。その階層でも順調に進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

 

 その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

 

 雫と香織の顔色が変わった。まるで長年探した怨敵の一人にあったような顔だった。

 

「皆、気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

 蘇る悪夢、そして万が一にもあの悲劇を再現することの無いように備えた。

 

 

 だが、光輝がその言葉に不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ。もう負けはしない。必ず勝ってみせます」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ」

「……そうね……精算するにはいい機会だわ」

 

 その言葉と共に雫と香織がまるでステップを踏むかのような足取りで前へ飛び出す。

 慌てて光輝とメルド団長が止めようとするが二人はスルーする。

 

「ねぇ、雫ちゃん……()()試してみてもいい?」

「ダメって言っても聞かないんでしょう。わかったわ……なら私が足止めしてあげる……あんまり準備に手間取ると勢いで殺しちゃうかも知れないけど」

 

 ベヒモスの前に躍り出た雫はあの日以降常時鍛えている【魔力操作】にて流れるように武装強化と身体強化を行うと…… 光輝達の視界から、消えた。

 

 

 当然ベヒモスの視界からも消え、ベヒモスは突然消えた獲物に動揺するが、次の瞬間、角が断ち切られたことを知る。

 

「グゥルガァアア!?」

 

 切られた方向に攻撃するもそこにすでに雫はいない。そしてまたベヒモスは死角から切られていた。

 

 

 八重樫流の歩法 『早馳風(はやち)』。簡単に言えば相手の死角に移動する技だが、もちろんただ移動しているわけではない。行動するたびに剣気と殺気、視線誘導などを駆使して相手に死角を作り、そこに入り込んでいる。

 

 

 ちなみに本来は八重樫家の家業用の暗殺術であり、この世界に来るまで雫には使えなかった技だが、あの事件以降使いこなせるようになっていた。

 

 

 そして常に意識して、それこそ寝る間も惜しんで鍛え上げた【魔力操作】による身体強化と武装強化、魔力値の急上昇、そして縮地系スキルを行使すればどうなるのか。

 

 

 それは剣戟の嵐だった。

 

 

 ベヒモスの体には只々傷が増えていく。魔力による全方向の威圧も軽々と流される。

 

 

 死角に移り斬る。移り斬る。斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。

 

 

 ベヒモスは常に超高速で移動する雫を追いきれず、翻弄されるばかりだった。

 

「雫ちゃん!!」

 

 準備ができた香織が雫に対して叫ぶ。その言葉を聞き、雫は一足飛びで香織のところまで戻ってくる。香織の()()は話には聞いている。もし巻き込まれたら洒落にならない。

 

落ちろ、落ちろ、落ちろ。ここは奈落の底、ここに神はいない。絶望の中で命を呪え『堕天』

 

 治癒師である香織の魔法が()()()()に対してかけられる。聞いたこともない詠唱、なぜならこれは完全に香織のオリジナル。香織が執念で作りあげたそれの効果は、かけられて間もなく発揮された。

 

「ギィアァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 ベヒモスが魂からくるような悲鳴をあげる。

 

 その場で崩れ落ち、暴れながらもがき苦しむ。

 

 ベヒモスの全身が黒い斑点で覆われていく。特に雫に切られたところはひどく、肉が溶け落ちた。

 

 

 香織がやったのは細胞の超活性化。いわば過剰回復呪文といったところか。花に水をやりすぎると枯れるように、相手を過剰なまでに回復させ、生体組織を破壊するという治癒師の香織にしかできない恐るべき()()()()である。この魔法の恐ろしいところは、これによって負わされた傷には回復魔法が効かなくなる為、患部を抉り取るしかないという、非常に高い殺傷力を持つという点である。

 

 

 この世界の人たちは回復呪文=味方に使うものという認識であり敵に使うことを想定していない。加えて本来治癒師の天職を持つ人たちは個人差こそあれ、ほとんどは相手の痛みを自分の痛みのように感じ、それを癒してあげたいと考える心優しい人が多い。

 

 

 そんな人から回復不能で全身が腐り落ちる魔法という発想は普通出てこない。香織が長い眠りから目覚めてから狂気と憎悪で作りあげたおぞましい魔法である。

 

 

 相手が怨敵だったこともあり使用許可を出した雫だが、想像以上のエグさに雫は沈黙する。香織も流石にやりすぎたかと苦笑いを浮かべている。

 

 

 雫は今なお生きながら体が腐っていくいう極限の苦しみの中にいるベヒモスの首を切り落として楽にしてやる。そして香織の方にジト目を向ける。

 

「雫ちゃん……これは流石にまずいかなぁ……」

 

 どうやら香織もこれはやばいという自覚はあるらしい。

 

「……これっきりにしときなさい。でないと南雲くんが戻ってきた時に嫌われても知らないわよ」

「そんな〜」

 

 香織はがっくりと項垂れる。幸い欠点はあった。一つは魔法陣の準備に非常に時間がかかること。次に使用する魔力が膨大であること。治癒師が使うということもあり、あまり効率が良いとは言えない魔法だった。二度と使う機会がないことを祈るばかりである。

 

 項垂れてた香織が雫に目を向ける。

 

「雫ちゃん……私達やっとここまできたんだね」

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんも……藤澤くんも」

「さあ、どうかしら? よく考えたら蓮弥は大人しく奈落の底で待つタイプじゃなかったわね。早く行かないと案外二人揃って勝手に脱出しちゃうかも」

 

 雫はあえて軽い調子で言う。雫のその言葉に香織は……そうだといいねとはにかみながら返す。

 

 怨敵を倒し先へ進む二人、彼女らの悪夢は……まだ晴れていない。




その他一行「( ゚д゚)ポカーン」
というわけで雫と香織の独壇場でした。

雫の使った技の元ネタは早馳風・御言の伊吹。
宗次郎のそれは無尽の刃が世界を埋め尽くして死角攻撃を行うという意味不明な技だったが、雫の使ったのは単に死角を作って入るだけの技。

香織のオリジナル魔法の元ネタはもちろんマホイミ。回復術者に使わせたい魔法No1、たぶん。

次回は主人公視点に戻ります。

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