ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ゴールデンウィークが終わってしまった。というわけで更新頻度が下がります。


帝国武闘

「なんだ!? なにが起こった!?」

「いやぁ! なに、なんなのぉ!?」

 

 一瞬で五感の一つを奪われ、混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる帝国貴族を見て蓮弥は始まったことを認識し、真っ先に混乱中のリリアーナを抱えて端の方に移動する。

 

「れ、蓮弥さん!? 一体これは!?」

「落ち着け、リリィ。少なくとも君には害はない」

 

 例え王国の姫の顔を知らずとも蓮弥の側にいる少女を彼らが襲うことはない。

 

「狼狽えるな! 魔法で光をつくっがぁ!?」

「どうしたっギャァ!?」

「何が起こっていっあぐっ!?」

 

 逆にそれ以外の関係者にとっての悪夢は続く。比較的に冷静を保っていた者が、周囲に指示を出しながら魔法で光球を作り出して灯りを確保しようとするが何者かの襲撃によって阻止される。

 

 周囲の異変に耐えられなくなった貴族達が次々に悲鳴を上げて混乱を促していく。

 

 比較的冷静だった者が、指示を出しながら魔法で光球を作り出し灯りを確保しようとする。が、直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いた。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。

 

「落ち着けぇ! 貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

 

 だがその空気はガハルドの覇気に満ちた声により恐慌に陥りかけた帝国貴族達の精神を強制的に立て直させた。

 

「っ!? ちっ! こそこそと鬱陶しい!」

 

 そのガハルド目掛けて闇の中から無数の矢が飛来する。

 

 通常では考えられないほど短いくせに驚く程の速度と威力を秘めた矢が四方八方からガハルドを襲ったのだ。その上、絶妙にタイミングをずらし、実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく撃ち込まれるので、さしものガハルドも防戦一方に追い込まれてしまった。とても態勢を立て直す為の指示を出す余裕はない。

 

 

 それでも真っ暗闇の中、風切り音だけで矢の位置を掴み儀礼剣だけで捌いているのは流石というべきだろう。怒声を上げるガハルドを中心に金属同士が衝突する音が鳴り響く。

 

 が、それもここまで。

 

 

 奮闘するガハルドに向けて、何かが炸裂する音が響いた。

 

「ッ!? ぐぅぅ!!」

「へ、陛下ぁぁぁ!!」

 

 ガハルドに向けて、矢より桁違いに速い何かが飛来して、ガハルドの肩を抉った。その思わぬダメージに思わず呻いてしまい、皇帝が攻撃されたことを察した側近が慌てて駆け寄るが……

 

「がぁッ!?」

「ぐぁぁ!?」

 

 連続して響く炸裂音と光が広がり、側近はいつの間にか攻撃されたことを知る。

 

「なんだ……一体何をされてる!?」

 

 連続して響く轟音。そのたびに倒れる人の気配。それはまさに抵抗することも許さぬ圧倒的な蹂躙。それを何とかしようと身体に力をいれて立ち上がろうとしたガハルドは身体が動かないことに気付く。

 

「身体が……まさか」

「ご名答。今お前に打ち込んだ弾丸には特殊な毒が塗ってある。身動き一つとれん」

 

 そこでパーティー会場の明かりが回復し、その全貌を余すところなく映し出す。

 

 そこはまさに惨劇の後だった。戦いの心得のある者達は全員どこかしらか怪我をしており、地面に倒れ伏している。呻き声が聞こえるため死者はいないようだが、同時に動くことができないのは明白だった。

 

 

 そしてそれを成した下手人は、特徴的な耳を持つ人とは違う種族。帝国内で最も下の地位にいると言っても過言ではない亜人族。その中においても最弱だと言われる兎人族達の姿。彼らは全員迷彩服を着ており、手にはそれぞれ銃火器らしきものを所持していた。

 

「ハウリア……てめぇらその武器は……やっぱりお前の仕込みか南雲ハジメ!」

 

 ガハルドは唯一動く首を向けて恨めしそうにハジメに声をかける。だがハジメはそんなもの知ったことではないとカムに近寄って銃の様子を見る。

 

「ふむ。中村の奴に倣って量産型の拳銃を作ってみたんだが、悪くない出来栄えみたいだな。実際使ってみてどうだった?」

「素晴らしいですな。小さくて軽い上に少しの訓練で子供でも使える。しかも魔力の有無も関係がないと来た。こんなものが大量に出回れば、間違いなく戦争は変わるでしょうな。まあ、私はナイフの方が好みですがね」

 

 ハジメはハウリア達が使った武器が上手く運用できたことに満足しているようだった。以前中村恵里に銃本来の使い方を見せられて以降、自分以外が銃を使うことを想定した機能を制限した銃火器の作成に取り掛かっていたのだ。魔力が無い亜人族もこれを手にすれば一大戦力になれることを証明した。

 

「なあおい、南雲ハジメ。お前なんか帝国に恨みでもあるのかよ」

「なんのことだ。俺は偶々自分のアーティファクトの性能実験に協力してくれるようハウリアに頼んだだけだ。それをどう使うかはこいつら次第だろ。後はそうだな……俺達はお前らよりこいつらのほうが気に入ってるということくらいか」

 

 縁も力の内ということだ。ハジメと交友が深かったからこそ、ハウリア達は力を手に入れた。そして今、その力で帝国の喉元に牙を突きつけている。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

「ふん、要求があるんだろ? 言ってみろ、聞いてやる」

 

 カムの一言に倒れてなお、傲慢な口調を隠さないガハルド。だがその言葉に嫌な顔を見せることなくカムは淡々と要求を述べる。

 

「我々の要求は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか?」

「飲まなかったらどうする?」

 

 言外に飲むつもりはないという態度を取るガハルドにカムが周りを見渡す。

 

「ところで今のところ我々は貴様たちを一人も殺していない。それは何故か。……死の苦しみは一瞬で終わるからだ。そんなもので我らの怒りは収まらん。ここで要求を飲まないと言うのなら皇族や有力貴族達や捕えている兵士共をまとめてフェアベルゲンに持ち帰るだけだ。皇族や貴族階級という我々を最も苦しめてきたと言っていい奴らが碌に身動きが取れない状態でフェアベルゲンに運ばれれば……他の亜人族達は彼らをさぞ盛大にもてなしてくれるだろうな」

「てめぇ……そんなことをして……フェアベルゲンがタダで済むと思っているのか。全面戦争だぞ」

 

 要は帝国の要人を丸ごと人質に取るとカムは宣言したのだ。人質とは生きてこそ価値がある。このパーティーには帝国中の有力貴族が集まっている。それらが全て人質に取られたとなると流石に帝国も本気で動かざるを得ない。もちろん生きているなら問答無用で攻撃することは流石にできないが、取り戻せないとわかったら躊躇しないのも帝国だ。人質ごと森を焼き払うくらい平気でやるだろう。

 

「それも問題ない。我らのバックにはボス達がいるからな。例え貴様らが全軍率いてフェアベルゲンに戦争を仕掛けても貴様らを丸ごと滅ぼすことは可能だ」

「てめぇッ、どこまでもッッ、あいつらの威を借りることしかできない雑魚どもがッッ!!」

 

 ガハルドは失望と軽蔑を込めてカムを見る。帝城に乗り込んでこの状況を作り出したことは評価しようとしていたガハルドだったが、蓋を開けてみたら武器からなにまでハジメのアーティファクトと戦力頼りの交渉。完全実力至上主義を掲げるガハルドにとってカムのように弱いくせに強い奴の威を借りて物事を通そうとする輩が嫌いだった。

 

 

 だがその現状はガハルドにとって最悪だと言える。仮に自分達が殺されても帝国は瓦解することなく万軍を率いてフェアベルゲンに戦争を仕掛けるだろう。だがガハルドは知っている。藤澤蓮弥や南雲ハジメのスケールの桁が違う戦闘力を。あれらがフェアベルゲンのバックに付いている状態で戦争など起こそうものなら、万軍を一方的に滅ぼされるだけでなく、帝都が文字通りトータスの地図から物理的に消えかねない。

 

 

 どうすればこの危機を乗り越えられる。ガハルドが動かない身体の代わりに頭をフル回転している最中、カムが動いた。

 

「とは言っても貴様は簡単に要求は飲むまい。だから貴様が要求を飲まざる得ないようにしてやる」

 

 そこで一旦息を整えたカムは這いつくばるガハルドの目をしっかり見据え、パーティー会場に広がるほどの声で堂々と宣言した。

 

「ガハルド・D・ヘルシャー! 兎人族ハウリアが族長、カム・ハウリアは……貴様に一対一の決闘を申し込む!!」

「なんだと?」

 

 それはまさに意表を突いた提案だった。その発言に周囲にどよめきが走るがそれを気にすることなくカムが続ける。

 

「時間は今、場所はここでッ。皆が見ている中で貴様と私が決闘を行い、私が勝てば貴様には先の要求を飲んでもらおう!」

「……正気で言ってるのか、あいつらの手を借りなきゃ何も出来ねぇ雑魚がッ!」

 

 ガハルドは這いつくばりながらもカムに向かって威圧を放つ。並みの兵士では息もできなくなるその威圧を受けてもカムは微動だにしない。どうやら威圧を流すだけの力はあるらしいとガハルドは少しだけカムの評価を上げる。

 

「一対一の決闘で負けたとあれば、完全実力至上主義を謳う貴様は認めざるを得んだろう」

「やるメリットがないな。別に俺はこのままでもいいからな。もし決闘して欲しかったら俺が決闘に勝てばどうなるのか言ってみろ」

「決まっている。我らハウリア一同。貴様の下僕にでもなんにでもなってやろうではないか」

 

 そう言ってカムが懐から羊皮紙を取り出し、ガハルドに突きつける。

 

「それは何だ?」

「ユナ様の作った聖約書だ。これに調印すれば聖約は有効になる。既に我らハウリアは全員調印済み。後は貴様がこの決闘を認めれば効力は発揮される」

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 聖約文

 

 以下に記載される契約者は、提示された契約を魂の領域に至るまで絶対遵守するものとする。

 

 契約は契約者同士で一対一の決闘を行い、契約者のどちらかが死亡、又は戦闘不能、又は敗北を宣言することで履行される。なおハウリア族はカムが、ヘルシャー家はガハルドが代表として決闘するものとする。

 

 契約者:

 カム・ハウリア 他ハウリア族(現時点でハウリアを名乗る全ての兎人族)

 ガハルド・D・ヘルシャー 他ヘルシャー家(現時点でヘルシャーを名乗る全ての人族)

 

 契約内容:

 契約者代表 カム・ハウリアが契約者 ガハルド・D・ヘルシャーに勝利した場合、契約者 ヘルシャー家は以下のことを行う。

 

 1.皇帝の立場を使っての現奴隷の即時全面開放の実行。

 2.ガハルドの支配下にある帝国の樹海への不可侵・不干渉の確約。

 3.帝国全土での亜人族の奴隷化・迫害の禁止。

 4.以上の三つの法定化とその法の遵守。

 

 契約者 ガハルド・D・ヘルシャーが契約者代表 カム・ハウリアに勝利した場合、契約者 ハウリア族一同は、以下のことを行う。

 1.ガハルドが生きている間、彼に対し絶対服従を誓う。

 

 以上

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「なるほどな。つまり俺が勝てばお前達は一生俺の奴隷ということか」

「そういうことだ。さあ、どうする?」

 

 ガハルドは少し考える。だいぶ評価は下方修正されているが、この帝城まで潜入すること自体はハウリアの能力だろう。それは蓮弥達が来る前の騒動を見ればわかる。つまり……それだけ諜報に優れた人材を絶対服従の私兵に変えることができるということ。それは確かにガハルドにもメリットがあった。だがここで気になったのは別のことだった。

 

「おい、この聖約ってのを作ったのは嬢ちゃんだったな。いくつか聞きたいことがある」

「なんですか?」

 

 ガハルドの要請を受けて、聖約書の作成者であるユナが前に出る。

 

「ここにハウリア一同って書いてあるが……それはそこにいるシア・ハウリアも含まれるってことか」

「なッ!?」

 

 それに対し、光輝達慣れてない組が反応する。否、むしろ光輝が反応したのは現在進行形で聖約の厳しさを知っているからか。その質問に対し、ユナは淡々とした調子で返答を行う。

 

「そうですね。今回の場合、直接の血縁であるカムが調印しているのでその条件だとシアも含まれることになります。もっとも、直接契約しているわけではないので絶対遵守という曖昧な縛りの効力は落ちるかもしれませんが」

「構いませんよ、ユナさん。家族が一生を懸けるなら私も同じ条件で」

 

 そう言ってシアは前にでて浮かんでいる聖約書に触れる。これで調印は完了したとみなされ、カムが敗北した場合、シアにも皇帝に絶対遵守という聖約が掛かることになる。

 

 

 帝国が持っている情報は蓮弥達のものだけではない。中には尋常ではない力を持っている兎人族の情報も含まれていた。全長数十メートルの巨大怪獣を素手で薙ぎ倒したやら超巨大ハンマーで大地を割れるなどという逸話はガハルドの耳にも入っている。蓮弥達の力を目にした今、シアを手に入れるということは、一騎当千の戦力を帝国が手に入れることを意味するのだ。そうでなくてもそれを元にハジメ達と交渉して未知のアーティファクトを手に入れることも可能。

 

 

 そしてもう一つ、ガハルドが聞かなければならないことがあった。

 

「もう一つ質問だ。決闘は一対一で行われているとあるが、決闘に介入するものが現れたらどうなる?」

「その場合は、介入した側の人間が負けになります。例えばあなたの国の人間が介入した場合、強制的にあなたの負けになるでしょう」

「……いいだろう。乗ってやる」

「よし、話は纏まったな。じゃあ準備するためにまずは傷を治すぞ、香織」

「うん、”聖典”」

 

 ハジメの合図で全体回復魔法を香織が使用する。通常の聖典とは違い状態異常回復まで組み込まれたその魔法は、倒れ伏して動けない者達の傷と魔力、そして状態異常を瞬時に回復する。

 

「これは……複数の術者が長い詠唱を行うことで行使することが常識の最上回復魔法を詠唱無しで。どれだけ有能な人材がそろってるんだよ、お前らのところには」

 

 ガハルドが回復魔法によって治療されたことで立ち上がる。

 

「じゃあ、始めるか。兎人族の未来を懸けた一世一代の大勝負を!」

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 カム・ハウリアは今までにない心境でこの場に立っている。

 

 カムと向かい合うガハルドの両脇には既に帝国のパーティー主席者とハウリア族で別れてもうすぐ始まる戦いを待っていた。

 

「皇帝陛下ッ! 罪深き亜人共に帝国の力をお示しください!」

「調子に乗るんじゃねーぞ薄汚い獣風情が! 此度の狼藉、貴様が嬲り殺される光景を持って留飲を下げるとしよう」

「バカな奴らだ。自らの力を過信して真っ向勝負など。皇帝陛下は一対一の決闘で未だ無敗だと言うのに」

 

 帝国側からカムに向けてヤジが飛ぶ。当たりまえの話ではあるが、ここは帝国の中心であり、当然ほとんどすべてはガハルドの勝利を願っている。

 

 否、それだけではないだろう。今宵行われた屈辱の数々。死をもって償えという過激な言葉も飛び交っている。

 

 だがそれらの声は今のカムには届いていない。全て雑音として処理し、自己の中の闘志と向き合い、気を高めている。それがわかっているがゆえに、家族達は何も言わない。唯々、自らの族長の勝利を祈っている。

 

 頭の中は意外と透き通っていた。焦りも迷いもない。このまま自らのできることを最大限発揮することしか頭にない。

 

「それでは、私が試合開始の合図をさせていただきます」

 

 中央に立ったユナが試合開始の前口上を始める。

 

「この戦いは一対一の決闘方式です。相手を戦闘不能、もしくは敗北宣言を持って試合の決着とします。……その際相手の生死は問いません」

 

 つまり相手を殺しても勝利ということになる。儀礼用の服から一転して鎧と剣で武装したガハルドは当然のことだと笑う。まるでそうでなくては決闘ではないと言わんばかりに。

 

「今回の戦い、カムが勝利した場合、皇帝ガハルドはカムが提示した四つの要求を飲む必要あります。問題ありませんね」

「ああ、問題ねぇ」

「逆に、ガハルドが勝利した場合、カム達ハウリア族は皇帝ガハルドに忠誠を誓い、絶対服従を強いられます。よろしいですね」

「ああ、問題ない」

 

 両者の意思の確認は終わった。ならば後は宣言するだけ。ユナは手を前に出し聖約書を提示した。

 

「そうですか。ではこの戦いの果てに、より善き道が待っていることを我が師の名の下に祈ります……では、試合開始!」

 

 試合開始の合図が入るが、両者とも一歩も動かなかった。時間的に十秒以上経つが試合が進まないことに対し、ガハルドが挑発を開始する。

 

「おいおい、どうした兎人族。これじゃあ勝負にならねぇぞ。お前がこなけりゃこっちから行くがどうする?」

「今更恐れをなしたのか獣が! 皇帝陛下に逆らうとどうなるのか、骨の髄まで叩き込んでもらうがいい!!」

「一時はどうなるかと思いましたが、これはよい余興になりそうですな」

「全くだ。おーーい。いつまでもビビってんじゃねーぞ。俺達はお前が無様に殺されるところが見たいんだ!」

 

 ガハルドの挑発に合わせて、帝国側の人間がヤジを飛ばす。間違いなく彼らは皇帝ガハルドの勝利を疑っていない。むしろ、いかにして皇帝が愚かな獣に懲罰をくれてやるのか高みの見物だという雰囲気まで出てきている。

 

 だがカムの心に澱みはない。なぜなら、ガハルドから攻撃してこないのはわかっているからだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

『いいか、カムさん。この戦い。間違いなく皇帝は自分から攻撃してこない。少なくとも初撃は待ちに徹するだろう』

 

 これはユナの内界でのこと。蓮弥達やハジメ達と共に、この決闘に向けた訓練を行っていた際の作戦会議でのこと。

 

『帝国からしたら兎人族との決闘なんて勝って当たり前の話なんだ。なのに自分からなりふり構わず勝ちに行く姿勢は中々取り辛いだろう。周りに貴族の目があるならなおさらだ。この国を背負って立つ以上、余裕をもって対処することが求められる。()()()()()()()()()()()()()()()、まず皇帝は動かないとみていい』

 

 蓮弥の考えは、貴族達の目もあるがゆえに初っ端から全力は出せないだろうということだ。理想で言うなら、帝国最強の皇帝に歯向かった愚かな兎人族の攻撃を華麗に躱し、疲弊したところで痛めつけたほうが帝国貴族も満足するとのこと。

 

『だからこそ、カムさんが勝つには一つしかないわ。それは、初撃必殺。つまり後先考えない全力の一撃に全て懸けることよ』

 

 だからこそ雫は勝ち筋を提案した。カムが勝つには、相手が全力を出していない初撃以外にないと。百戦錬磨の戦士の初速と元々戦士じゃない男の全力疾走ならそれなりに勝負ができるはずだと。

 

『だけどそれだけじゃ足りないわね。私は一度あいつと模擬戦をしたことがあるけど、完全な不意打ちを決めたにもかかわらず、戦士の勘のようなもので避けられたわ。だから……もう一つ策を弄する必要があるわね』

『そこで俺の出番だ。俺がお前達に向けて最高のタイミングで合図を送る。カムはそれを信じて……自分の全力をあいつに叩き込めばいい』

 

 足りない要素をハジメが補う。そして最後に蓮弥が言う。

 

『安心させるために言うけれど、仮にカムさんが負けたとしても何とかする方法はある。だがその場合、多少力技になることは否めない。多くの血が流れることになる。一番丸く収まるには、カムさんが勝つことが必要だ』

 

 大丈夫だと、その時カムは返したのだ。自分は一人ではない。こうやって誰からも迫害されてきたハウリアに対して、手を差し伸べてくれる恩人がいる。家族とその恩人に報いるために、自分は必ず勝つと誓った。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 冷静に構える。まるで引き絞られた弓の弦のように力を蓄え続ける。後はハジメを信じて合図が来るのを待つのみ。

 

 

 

 

 そして……その時は来た。

 

 

 パンッ! 

 

 

 パーティ会場に手を合わせる乾いた音が響く。それを聴いたカムは、今まで温存していた闘気を爆発させ、身体にかかる反動を無視してガハルドに接近する。

 

『いいですか、カム。この技を放つ際に必要なのは、まずは姿勢。身体を内側に巻き込むように、背中を広げることから始めます』

 

 ユナの助言に従い、身体を縮こませ、背中の筋肉を広げる。

 

『左の拳は内側に、そして体重を全て懸け、右拳に魂を籠める』

 

 そうして右拳に込められたカムの闘気(オーラ)が右拳を輝かせる。

 

 ユナが親友に教わったと言う、全てを決する無双の鉄拳。極めた者であるなら頑強なドラゴンの竜鱗すらも砕き割る魂の一撃。

 

 今までのことが頭を過る。シアが生まれた時のこと。妻が死んだ時のこと。そして森から追放され、帝国に家族を奪われた時のこと。

 

 今度はもう失わない。あの時戦っていればと後悔もしない。自分達ハウリアの戦いはこれから始まるのだ。

 

 まずは今までの弱い自分を終わらせよう。その想いと共に、右拳に己の魂を込めて……

 

(我らの想いを……思い知れ! ガハルド(帝国)!!!!)

 

 鉄拳聖裁。

 

 カム・ハウリアが積み上げてきた全てと今カムが使える渾身の全闘気(オーラ)が乗った拳は、無防備な皇帝ガハルドの顔面に……

 

 鈍い音を響かせながら直撃した。

 

「ぉぉぉおおおおおおおおおお──ッッ!!」

 

 命中してなお、前のめりになることで全体重を拳にかけ、カムはガハルドの鍛え上げられた巨体を地面に叩きつけた。

 

 地面に叩きつけられた皇帝はその勢いでパーティー会場の地面を転がっていき、帝城の壁に叩きつけられることで停止した。

 

 静まり返るパーティー会場。帝国側の人間は今起きた出来事が理解できないのか例外なく固まっている。

 

 技の反動で息を荒げながら、倒れ込みそうな身体を何とか支えるカム。壁に叩きつけられた皇帝に動きはない。

 

 雫とユナが皇帝に近づき状態を見る。彼女達の観察眼の前には狸寝入りなど通用しない。もっとも皇帝に狸寝入りする理由はないが。

 

「間違いないわね。彼は……気を失っているわ」

「よって皇帝ガハルドは戦闘不能とみなします。この決闘の勝者は……カム・ハウリア!!」

 

 ユナの宣言により、聖約書が光を放ちカムの傍まで飛んでくる。聖約が彼を勝者だと認めた証。

 

 そして自らが勝ったのだと知ったカム達ハウリアの間で

 

 

 ──オォオオオオオオオオオオオ!!!! 

 

 

 勝利の雄叫びが上がるのだった。

 




兎の渾身の一撃。帝国最強を打倒する。

さて、何故帝国最強のガハルドがあっさり負けたのか。蓮弥やハジメは何をしたのか。その種明かしは次回にて。

そして次回、帝国(編)終了

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