これからも頑張ります。
そして蓮弥は目を覚ました。
どこかの丘だろうか、周りを見ると十字架が何本も建てられている。自分の状況を確認すると十字架に固定されているようだった。
「なんだ……これ?」
意識がはっきりしない。足元に視線を向けると人がいることに気づく。変わった衣装をきた人が何人も足元に集まり、蓮弥を見上げていた。
「※※※※※!」
「※※※、※※※※※!!」
何を言っているのかわからない、だが敵意を向けてきているのはわかった。内一人が槍を持ち出し……蓮弥の脇腹を突き刺した。
「ぐっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
蓮弥はあまりの激痛に叫びをあげる。脇腹からは血が滝のように湧き出てきた。まるで命そのものが流れているかのようだ。
ヨコセ
モットタマシイヲヨコセ
蓮弥の頭の中に映像が流れてくる。この十字架のために命を落としたもの達の記録を。頭が割れそうになるほどの苦痛と脇腹の痛みを抱えつつも蓮弥はそれを見つける。
それは丘の下……質素な服装に身を包み……右手に短刀を、左手に重そうな布袋をもった。銀色の髪と碧眼の……綺麗な女の子だった。
それを認識した時、再び蓮弥は別のところに立っていた。見たところ崩れた教会だろうか……割れたステンドガラスがのこっており、天井がないためか月の光を反射している。
そこで再び銀髪碧眼の少女を見つける。先ほどとは立場が逆になっていた。その少女は十字架に磔になっており、脇腹からは血を流しその血は下の杯に貯められている。
女の子はおもむろに顔を上げるとこちらを見る。
「……気をつけて……」
「気をつけて? 何を……? 君はいったい……」
「少しだけなら手を貸せます。だからしばらくは大丈夫だと思いますが、繋がりが薄いからこれ以上はできません。あなたが助かるためには……」
私を見つけて……
私を見て……
その言葉と共に光が溢れ出す。
蓮弥は咄嗟に手を伸ばす。
ちょっと待ってくれ、まだ聞きたいことが。
蓮弥は光に飲み込まれ、この世界から退出した。
残ったのは未だに血を流し続け、自罰し続ける少女のみだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うっ、ここは……」
藤澤蓮弥は目を覚ました。どうやら縦横五メートルくらいの空間にいるらしい。そこで蓮弥は違和感を感じた。
まずは異様に視点が低い……下を向くとすぐそこに地面が見えた。次に体が動かせない。色々やってみたが首から下が指一本動かせなくなっている。
寝惚けていた意識が覚醒して原因がはっきりした。蓮弥は……首から上を残して…………地面に埋まっていた。
「…………はぁ!?」
わけがわからない。一体なにが起きたらこうなるのか。蓮弥は意識を失う前のことを思い出す。確か熱があったせいで朦朧としててそれで……
そこまで考えたところで第三者がこちらに話しかけてきた。
「どうやら目を覚ましたようだな。散々暴れまわった気分はどうだ?」
なんとか動く首を上に向けて声の主を確認する。それは同年代くらいの少年だろうか。髪は白髪……身長は多分同じくらいだろう。自分とは逆に左腕のない少年はこちらを冷ややかな目で見下ろしていた。
蓮弥はこの場所に自分以外の人がいることに驚いたが、よくよく考えてみれば、正体など一人しかいないことに気づく。見た目は変わったが声は同じだ。口調こそ違うが間違いない。
「お前……ひょっとして、ハジメ……なのか?」
蓮弥の質問に白髪の少年は答えた。
「確かに俺は南雲ハジメだが……そんなことはどうでもいい。質問するのはこっちだ……お前は……何者だ?」
蓮弥に向けて銃らしきものを突きつけて尋問するハジメ。それに対して蓮弥が答える。
「いや、俺だよ……藤澤蓮弥だ……というか意味がわからない。一体今どうなって……」
ドパンッ!
ドパンッ!
ドパンッ!
発砲音が三発! 狭い洞窟に響き渡る!
いきなり発砲されたことに驚き、蓮弥は言葉を中断する。
「勝手に喋ってんじゃねぇッ、質問してんのはこっちだ……お前は質問されたことだけ答えろや……」
有無を言わさない脅迫だった。その迫力にお前こそ誰だよと蓮弥は言いたかった。見た目の変化といい、どうやら友人はこの奈落でたいそう揉まれてすごしてきたらしい。
とにかく今逆らうのは得策ではないと判断した蓮弥は動く首を縦にコクコクと頷く。
「初めに言っとくぞ。今から俺に敵意を向けたり、嘘をついたり、俺が気に入らない返事をした場合、この部屋の仕掛けを作動させる。……今この部屋はありったけの焼夷手榴弾で囲んである。ユエの魔法と組み合わせて数時間、三千度の業火でお前を燃やし続ける仕組みだ。だから抵抗はするなよ」
なにそれひどい!
蓮弥は思わず突っ込みたくなったが、我慢する。そんな地獄の業火みたいなことされたら確実に灰も残らないだろう。
「まず質問だ……お前はなんで俺達を襲った?」
最初の質問から意味がわからない。襲った? ハジメを? 意味がわからないので沈黙する。
「追加ルールだ……俺の質問に十秒以内に答えなければ……その時も燃やす」
「ちょっと待てッ、いや待ってください……襲った? 俺が? 正直全く身に覚えがない」
正直にそう答える。こうなると燃やされないことを祈るしかない。
「ユエ……どう思う?」
「明らかに理性がなかったっぽい……暴走?」
そこで蓮弥はこの部屋にもう一人いることに初めて気がつく。どうやら後ろにいるらしいが、首を回せないので顔を見ることはできない。声からして少女だろうか。
「じゃあなんで暴走した?」
暴走した理由を聞かれた。暴走した記憶がないのにわかるはずがない。いや、まてよ……
「なあ、一ついいか……暴走している時の俺はどうなってた?」
勝手に質問したことにハジメはピクっと反応したが、質問に答えないと話が進まないと思ったのか素直に答えてくれる。
「白い霞を纏った獣みたいなやつだ」
なるほど……蓮弥は一応納得した。
どうやら聖遺物が暴走したらしい。活動位階は不安定だとわかっていたはずなのに調子に乗りすぎたか。正直生きていたのが奇跡だろう。
だがしかし、正直に言っても信じてもらえるかわからない。とりあえず蓮弥はここにきてから起こったことを正直に答えることにする。
「ここに落ちてきてからずっと魔物で飢えを満たしてたんだが、熱が出てきてな。いつのまにかへんな鉤爪みたいな腕が生えてきて、それ使って魔物を倒してきたんだが、だんだん意識が朦朧としてきて……そこから覚えていない」
肝心なところはぼかしたが嘘は言っていない。ハジメは後ろにいるらしき少女と相談し始めた。
「魔物肉を食ったことによる副作用か……あり得ない話ではないか」
「むしろ魔物の肉を食べて……まずい以外にデメリットがないのは不自然」
ユエと呼ばれた少女が同意する。どうやら彼らなりの理屈に嵌めようとしているようだ。
「だよな。……だんだん不安になってきたんだが、俺は大丈夫だよな。体調悪くなったり意識が朦朧としたことはないはず……俺が特別なのか、それとも蓮弥が例外なのか……俺と蓮弥の違いはなんだ?」
「私が定期的に血を吸ってるから、とか」
「可能性はあるけど、サンプルが少なすぎて判断できないな」
血を吸ってるとか物騒な話が聞こえたんだが……いったい後ろになにがいるのか気になる。声は可愛らしい少女だが、見た目チュパカブラとかはやめてほしい。蓮弥は後ろに吸血UMAがいるかもしれないと思って軽く身震いした。
「まあ、それはいい。じゃあ最後の質問だ」
ハジメが一旦言葉を区切る。おそらくこれが一番聞きたいこと。
「……お前は俺の……敵か?」
「いや、それはない。お前は友達だからな。敵になったりはしない」
最後の質問にはノータイムで答える。確かに聖遺物のせいで妙な思考になった時もあったが、好ましい友人だと思っている。たとえ見た目が変わろうが性格が変わろうがそれは変わらない。
真っ直ぐ目を見る。ハジメも見返してきた。まるで逸らしたら負けのような空気が流れる。しばらく見つめあって先に折れたのは……ハジメだった。
「ちっ、もういい。男と見つめ合う趣味なんてないし。……それにしても一度襲いかかっといて、友達とは随分都合がいいんだな」
「それは正直悪かった。けどなんとなくもう大丈夫な気がする。根拠は示せないが」
おそらく聖遺物との霊的なリンクが安定したのか、襲いかかるような飢餓感は無くなっていた。もっともまた無計画に使えばどうなるかわからないが。
「それより、そろそろここから出してくれないか。流石に全身が痒くなってきた」
俺が出してくれるように言うと二人? は目を合わせているのかこちらから目を離す。
しばらくそのままの状態で待機していたが、ようやく決めたのかハジメが床に手をついた。
「言っとくが……俺は敵になる奴には容赦しない……必ず殺す。次暴走して襲いかかってきたら命はないと思っとけ」
その言葉とともにハジメは錬成を行使する。そして蓮弥が地面から勢いよく飛び出す……黒髭危機一髪のように。そしてそのまま蓮弥は低い天井に激突するのだった。
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蓮弥が思わぬダメージを負った後、蓮弥とハジメはお互いに今まであったことを説明した。
蓮弥は先ほどの説明の詳細を。そしてハジメはこの奈落に落ちた後のことを語った。奈落に落ちた後、左腕を魔物に食われたこと。必死に錬成を使い逃げ隠れたこと。ポーション石(ハジメ命名)を見つけたことで魔物肉を食べてもなんとか生きられるようになったこと。生きるために戦う決断をしたこと。五十層にあった両扉の奥でユエに出会ったこと。
「そうか……すまなかったな。もし俺がお前を助け出せてたらこんなことにはならなかったのに」
「そりゃ、お互い様だろ。お前だって俺を助けようとしなかったらこんな奈落の底まで落ちなかったんだから……」
「別に後悔してないんだ、気にすんな。むしろ雫が上で無茶やっていないか不安だな」
蓮弥は上に残して来た幼馴染について思う。多分メッセージは届いたと思うから最悪の事態にはなっていないだろうが。何かとんでもないことをやってなければいいのだけど。
「まあ、上の事情は今は置いておく。まずは俺達が生き残るのが先決だ」
そうして蓮弥達の前に魔物が出現する。全身黒い狼とプテラノドンのような飛んでいる魔物だ。
ハジメは銃を……蓮弥は右腕の鉤爪を構える。
まずはハジメが空中に飛んでいる恐竜もどきを銃にて撃ち落とす。
地上では狼が炎を纏って突っ込んでくるが蓮弥が右腕で叩き潰した。
「マジで銃を作るとはな。ハジメならいつかやるとは思ってたが」
「こいつはドンナー……まあ、この奈落でのもう一つの相棒といったところかな」
喋りながらも現れる魔物を殲滅していく。
蓮弥も右腕を大砲に変化させ、虎視眈々と漁夫の利を狙っていた蝙蝠タイプの魔物を撃ち落とす。
「お前こそなんだよその右腕……何を食えばそんなヘンテコな腕が生えてくんだよ……」
どうやらハジメ達はこの右腕を魔物を食べたことによる恩恵だと思っているらしい。勘違いしているが訂正する必要もないためそのままにしている。
ちなみにハジメとステータスプレートを確認しあったが。
「"凍獄"」
お互いの実力を確認しあったところで、ここにいるもう一人の人物が動いた、ユエである。どうやら前線で魔物を殲滅していくハジメと蓮弥に触発されたらしい。地上の魔物が氷漬けになる。
「詠唱破棄でこの威力……すごいな……しかも全属性の魔法が使えるんだろ……今までの階層なら敵なしだな」
「けど蓮弥には効かなかった……残念」
そうして次の魔法を用意して放つ。魔物が凍りつき、業火で燃え、雷撃で消し炭になる光景を見て蓮弥は自分がよく生きのこったなと思い、二度と戦うことがないよう祈った。
こうして蓮弥達は大迷宮を攻略していった。隙あらば、蓮弥の目も気にせずイチャイチャしだすハジメとユエに、蓮弥が内心砂糖を吐きそうになりつつも一行は順調に進んでいく。
そしてとうとうそこにたどり着いた。それは巨大な扉だった。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ
「……これはまた凄いな。もしかして……」
「……反逆者の住処?」
ハジメとユエが万感の思いで口にする。ようやくゴールらしきものにたどり着いたのだ、無理もない。
「だけど油断するなよ二人共……こういうダンジョンの最深部には、今までの敵とは比べものにならないボスがいるのが典型だからな」
「上等だッ、なにが来ようとも全部踏み越えて進むだけだ」
ハジメが気合十分で威勢を放つ。となりのユエもやる気十分だったようだ。
そして、三人が揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた時、それは起こる。
「なっ!」
「……!」
「これは!?」
ハジメと蓮弥の足元に魔法陣が出現する。忘れもしない、蓮弥達をこの世界に連れて来た忌々しい魔法陣だ。
(ここで転移!? まさか分断か!!?)
蓮弥はそう判断するが転移は始まる。
ハジメは咄嗟にユエを抱きしめ、蓮弥に手を差し出す。
蓮弥も手を出すが、奈落に落ちる前とは違い……その手は届かなかった。
ここで二組は分断される。ハジメ達はそこでヒュドラを模している神話の怪物のような魔物と戦うことになる。死闘の末に、ハジメが片方の目を失うことを代償になんとか勝利を手にすることに成功する。
しかし、ここではそれは語らない。ここではもう一つの物語の方を語らせてもらうとしよう。
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──さあ、プロローグの終わりだ──
──ここで君の価値を……証明してほしい──
それはここが見どころだとモニターの前で姿勢を正し、優雅に観戦の準備に入ったのだった。
ハジメ達はおよそ原作と同じなので省略。
次回、特別ゲスト登場!?