ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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勇者の末路が辛い。うちの光輝君の成長モデルは一応勇者ワルフラーンなつもりなのですが……アレはないですよね。


快楽の試練

 雫が夢の世界から脱出して数分後、琥珀が解除され、まずは香織が目を覚ました。

 

「香織ッ、身体はどう? 平気?」

「私は平気。だけど……ハジメ君達は?」

「まだ眠っているわ」

 

 香織が悲痛そうな顔をした後、すぐに頭を切り替え、何やら琥珀に干渉を始める。

 

「この琥珀……どうやら夢の世界へ誘うためのアーティファクトみたい。地球で言うならVRマシーンってところかな。だったらこれを利用させてもらって……」

「何をする気なの、香織?」

「ハジメ君達の精神に干渉しようと思って。たぶんあの記憶はそのまま残したら駄目なやつだと思うから……」

 

 そう言って琥珀に魔術行使を行う香織。だがその直前、ある琥珀が起動して中から人が起き上がってくる。周りの視線が集まる中、ダルそうな顔をしながら起き上がったのは真央だった。

 

「……最悪の気分ね。あれでも相当劣化してたはずなのに……逆十字が半世紀以上経っても未だに恐れられるわけだわ」

「真央ちゃん!」

「私は平気だから……香織は南雲達に付いてあげなさい。……別に謝らなくてもいいわ。たぶんあんたを取り込むと、突破される可能性があるから外されたんだと思うし

 

 香織に自分は大丈夫だと言った後、ぼそぼそ何かを呟く真央。だがそれを気にすることなく、香織はハジメ達の治療の準備に取り掛かる。

 

 

「ねぇ、蓮弥。そういえば皇帝陛下はどこ行ったの?」

 

 雫はふいに疑問に思う。ざっと見た限りこの部屋の琥珀にはガハルドはいないようだったからだ。

 

「ああ、皇帝なら早々目覚めてそこらを探索しているよ。どうやらここはこの試練以外は安全地帯らしい。珍しいものがあるかもしれないと目を輝かせてたぞ、あのおっさん」

 

 この大迷宮は主に精神力を試される試練が多い傾向にあるようだ。そういう分野だと経験値がある方が有利になるのは間違いない。ほぼ学生と大国の皇帝では精神構造が違う。

 

「よし、これで……後は少し待ってれば目覚めると思う」

 

 

 そうして待つこと数時間。琥珀からハジメ達や光輝達が次々目を覚ましていく。

 

「おはよう、ハジメ。事情は雫から聞いた。……気分はどうだ?」

「…………最悪だな」

「…………思い出したくもない」

「思い出しただけで……吐きそうです」

「流石の妾もアレはの……」

 

 各々感想を告げるが、影響を受けたのが僅かな時間だった光輝達はともかく、ハジメ達にとっては拭い難い人生最悪の経験だったのは間違いなさそうだった。

 

「それで……アレはどうなった?」

「もういないわ。今頃あの世で家族に説教でもされているんじゃないかしら」

「なんだそりゃ……」

 

 ハジメのツッコミに勢いがない。どうやら相当へばっているらしい。

 

 

 そして蓮弥は視点を変え、今度は光輝達の方を向く。光輝達も疲れ切った顔をしていた。蓮弥は体験しなかったが、やはり相当な苦痛を経験したと態度でわかる。

 

「お前達は平気か? ……苦痛というのは身体より先に心に来る。必要なら白崎に治療を受けてもいいかもな」

 

 もっとも、無理やり精神を修復されるという地獄もあるのだが……

 

「藤澤……俺達は何とか。すごく苦しかったけど南雲達に比べたらほとんど一瞬だったからな」

「なんつうか……健康な身体ってそれだけでいいもんなんだな……」

 

 

 龍太郎がしみじみという。もしかしたら今、彼は健康な身体で産んでくれた両親に感謝しているのかもしれない。

 

「……みんな、ごめん……」

 

 そんな中、一人浮かない顔をしていた鈴が光輝達に謝罪する。

 

「私が罠にかからなければ……皆が苦しい思いをしなくてもよかったのに……」

 

 

 落ち込む鈴に対して、言葉をかけたのは側の樹の根に座っていた優花だった。

 

「気にすることないよ。アレはたぶん……誰でも嵌ると思う。……攻撃を受けた時に少しだけあいつがどんな奴かわかった。……あんなやばい奴、私達の手に負えないわよ」

 

 優花は邯鄲の夢を使える影響で少しだけ逆十字の本質に触れることになった。その経験が語るのだ。アレは悪鬼羅刹……それさえも超越するナニカなのだと。

 

「そうね。落ち込むのはもうやめにしましょう。今回は長めに休憩を取って、次に備えましょう」

 

 雫の一言で、各々休息の形を取ることになった。

 

 

 結局のところ、次の階層に移動するのは、ハジメ達がまともに動けるようになる半日後になったのだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥達が転移したのは、最初と同じような樹海の中だった。最初と違うところがあるとすれば、最初から向かうべき目標が見えていることだろう。他の樹々がほぼ同じ高さでそろえられているのに対し、空間の一番奥に明らかに突出して大きい樹木がそびえたっているので間違いないだろう。

 

「今回は全員いるみたいだな」

 

 

 なんとか調子を取り戻したハジメが目を細めながらメンバーに視線を巡らせる。また転移先で何かされるんじゃないかと疑っていたのだが杞憂だったようだ。

 

「……ハジメ、偽物は?」

「いや、大丈夫みたいだ。俺の眼も感覚も全員本物だと言ってる。八重樫、ここが夢の世界という可能性は?」

「ないわね。ここは間違いなく現実よ」

 

 そこでハジメが安堵する。ハジメパーティー全員同じ挙動をするあたり、相当夢の世界を警戒しているのがわかる。

 

「よし、行くぞ。夢で死にかけた俺があえて言うが……ここは大迷宮だ。何が起こるかわからねぇ。少しでも気を抜いたら絶体絶命状態に追い込まれることを、改めて肝に銘じたほうがいい」

 

 鬱蒼と茂る樹海と遠くに見える巨樹を見てハジメが出発の号令を掛ける。

 

 今まで以上に警戒しなければならないと光輝達、初挑戦組もベテラン組も思っていた。

 

 むしろこういうのは慣れたものほど怖いのだ。あれは相当のイレギュラーだと思うが、ハジメ達の中に無意識的な緩みがなかったとは言い難い。光輝達ではなく、自分達が真っ先に全滅しかけたという事実は深く受け止めなければならないだろう。

 

 一行が真っすぐゴールまで進む間に、蓮弥は一つユナに聞きたいことがあったことを思い出す。

 

「そういえば、ユナ。夢の世界には何でいなかったんだ?」

 

 蓮弥とユナは一心同体だ。それは魂レベルの現象だと言っていいものであり、蓮弥が夢の試練に引き込まれたのにユナがいなかったことに疑問を持ったのだ。

 

 そしてその蓮弥の問いに対し、ユナはバツの悪そうな顔で答える。

 

「すみません。私は弾かれてしまったようでして……だからそもそも夢の世界に入っていません」

「弾かれた?」

「はい。私は普段から精神的な術に関する障壁を展開しているのですが、それがあったから大迷宮の試練は私を夢の世界に引き込めなかったようなのです。なので蓮弥達の力になることは叶いませんでした」

 

 どうやらうっかり試練自体をその耐魔力で防御してしまったせいで、一人だけ試練に入れなかったらしい。おそらくこの大迷宮を作った解放者達も自分達の試練を完全防御する存在がいるとは思ってなかったらしい。もしかしたら攻略認定に影響が出るかもしれないが、蓮弥とユナは特に神代魔法を積極的に手に入れる意味は薄いので気にしないことにした。

 

 

 そしてしばらく先を進んだ一行に……唐突に試練は訪れるのだ。

 

「……ん? 雨か?」

「ほんとだ。ポツポツ来てるね」

 

 光輝が真っ先に気付いて顔をしかめる。鈴も同意するがそれがあり得ない現象だと気づいた。

 

「これは……結界を張れる奴はすぐに展開を!」

「「「”聖絶”」」」

 

 蓮弥の言葉にユエ、香織、鈴が障壁を展開する。

 

 空がないのに雨が降るはずがない。その証拠に上から降ってきたのは白い粘性のある液体だった。なのでその正体は自ずと絞られる。硫酸や何らかの毒性をもった液体を降らせるトラップか、あるいは、そういう魔物であるか、どちらかだ。そして、今回は後者のようだった。

 

「気を付けてください。既に囲まれています!」

 

 ユナの警告通り、それは姿を現した。

 

「スライムか? クソ、気配遮断タイプにしても、魔眼石にすら感知されないなんてどんな隠密性だよ」

 

 ハジメの言う通り、どうやらスライム型の魔物らしく、周囲三百六十度覆うようにして乳白色の液体が彼らを襲う。

 

「ちッ、こんなことならここら一帯焼け野原にしたほうが良かったかもな。おい、内側に侵入してきた奴を順番に片づけるぞ!」

「了解!」

 

 蓮弥と光輝、そして龍太郎がハジメの号令で行動を開始した。

 

 蓮弥が既に慣れたスライムの対処法として聖炎を纏った攻撃で、光輝が光の剣でスライムを跡形もなく薙ぎ払う。

 

「おい、おっさん。この魔物に見覚えは? 経験値だけは豊富なんだからなんかあるだろ?」

「そうだな……スライム型の魔物は内側に取り込んで溶かすか、或いは……飛び散って状態異常にするかだな」

 

 ガハルドが冷静に忠告する。そして……この魔物がどちらかなのかはすぐに判明した。

 

「なッ!? こいつら自爆して」

「うぇぇ、気持ち悪いぃぃ」

「できるだけ当たらないでね。もしかしたら毒かも」

 

 どうやら何が何でも液体に触れさせたい意図が見える攻撃だった。現に勝てないとみるや攻撃で跡形もなく消される前に積極的に自爆してその乳白色の液体を結界の中にいる者達に振りかけている。現状その液体に触れていないのは聖遺物になっているユナだけだ。

 

「面倒くせぇ。纏めて燃やしてやる!」

 

 だが魔物自体はそれほど脅威ではなく、最終的にハジメが爆炎錬成でまとめて焼却したことで事なきを得たのだった。

 

「一体何だったんだ?」

 

 蓮弥としては癪全としない。大迷宮の試練にしてはさほど脅威がない上に、今のところ粘液も蓮弥達に何ら悪影響を及ぼしていない。もっとも蓮弥は特殊なので確認対象としては不足かもしれないが。

 

「雫……何か影響はあるか?」

「いいえ。今のところ特には……」

 

 雫も相当な量の粘液を浴びているが今のところ体調に変化はないらしい。

 

「うえぇ、まずはこのドロドロを落としたいよぉぉ」

「そうだね。ちょっとこれは……」

「うむ。絵面的にちょっとまずかろう」

 

 鈴が全身についたドロドロに顔をしかめた。全員見た目は結構卑猥なことになっているのでなんとかしたいところだった。もっとも、ティオは全身ドロドロすぎてギャグの領域になっているが。

 

「これって……え、ええ──」

 

 香織が解析を終え、その結果を見てちょっと微妙な表情をする。なぜ香織がそんな表情をしたのか、それは徐々に効果を発揮し始めていた。

 

「はぁ、はぁ、ハジメ」

 

 そして突如、ユエが顔を赤くし、息を荒げながらハジメにしな垂れかかった。

 

 蓮弥が周りを見渡すと、どうやらかなりの数がやられているらしい。皆目を虚ろとさせており、身体をよじって悶えている。

 

「ああ、これはアレだな。昔ちょっとやばめの女に手を出した時に盛られたやつに似てるな」

「わかるのか?」

 

 同じく影響を受けているガハルドがこの粘液の正体を明かした。

 

「なんだ? 流石に試したことはないのか。これは……媚薬だ」

「は?」

「こうなった以上、溜まったものを発散するしか解決方法はねぇ。覚悟を決めてここは思い切って全員で乱こぉぉぉぉ!!?」

 

 なにやら皇帝がアホなことを言い出したので蓮弥は殴って強制的に黙らせる。

 

 いよいよ周りが限界になった時、真っ先に動いたのは香織だった。

 

「ハジメ君……もう駄目。ふふふ、今こそ、あの計画を実行に移す時! まずは……”毒耐性解除”」

「はっ? 一体何をおおうッ!!?」

 

 ハジメが身体を抑えて崩れ落ちる。どうやら理性を失いつつある香織がハジメの毒耐性を解除したらしい。おかげでハジメも他人ごとではなくなる。

 

「さあ、ハジメ君。ここで気持ちよくなろ?」

「おいおい、マジか。助けてくれッ、ユエッ!」

 

 そしてそこは抜かりの無い香織さん。既にユエは縛煌鎖によって拘束されている。魔法使用もその快楽によって阻害される仕様だが、魔力を通すだけで発動できる紋章がある香織には関係ない。

 

 このままではハジメが捕食される。だがその前に雫が動いた。

 

「香織……落ち着きなさい」

 

 そう言って雫は、香織の首筋、背中、足の付け根などを順番に素早く撫でる。

 

 その効果は……すぐに現れた。

 

「ひゃああぁぁぁぁぁああん!!?」

 

 それは一瞬の出来事。その一瞬で、香織は行っては駄目なところへ行ってしまい、その場でへたり込む。

 

「し、しししししし雫ちゃん!? 何をするのかな!?」

「決まってるでしょ。()()を突いたのよ」

「弱点!!? なんでそんなこと雫ちゃんが知ってるのかなッ! かな!?」

 

 どうやら正気を取り戻すほどそれは衝撃的だったらしく、香織は思わず雫からへたり込みながら勢いよく遠ざかる。

 

「おい、雫?」

 

 何か様子が変だと悟った蓮弥は、雫の顔を覗き込む。

 

 そしてその表情を見て悟る。ある意味この場で一番やばいスイッチが入ったのだと。

 

「ふふふ、香織……可愛い。だけど駄目ね。そんなこと言ってると……」

 

 香織の前に高速移動した雫が香織の手を取り、片方の手で頤を上げ……

 

「むぐぅ、ん、ちゅ、むぅぅッッ!!?」

 

 おもむろに香織にキスをかました。そして数秒後……

 

「きゅう……」

 

 香織は目を回して気絶した。

 

「……キスしちゃうわよ。これで香織は問題ないわね。さて……」

 

 次に雫が目を付けたのは……パラメータ操作能力で自身の感度を落として何とか抑えようと対処している真央だった。

 

「えっ、いや、雫? 私は平気だし、むしろ今はあんたの方が……」

「大丈夫。私は正気よ。今すぐ楽にしてあげる」

「いや、全然大丈夫じゃ……んんッッ!!?」

 

 真央にキスが施される。しかもご丁寧にパラメータ操作能力を解法で解除してまで。

 

「ッ!!?」

 

 雫の舌技の絶技によってほどなく意識のブレーカーを落とす真央。

 

「これで二人目」

「おいおいおい、ちょっと待て、雫ッ!」

 

 突如行われ始めた百合プレイに呆然としていた蓮弥だったが我に返って雫を止める。

 

「何? どうしたの?」

「いや、どうしたのじゃないッ。お前、一体何をやってるんだ!?」

「何って皆を助けてるのよ。こうなった以上、致命的なことが起きる前に、意識を落とすのが一番手っ取り早いわ。言っとくけど私は正気だし、一番効率がよくて身体に負担のかからない、合理的な手段を取ってるだけだから」

「お、おう」

 

 意外としっかりした言葉遣いと目を見て本当に正気なのかと思ってしまう蓮弥。

 

「はい、優花。こそっと蓮弥に近づかない。どさくさに紛れて蓮弥に近づこうなんて……優花には少しお仕置きが必要みたいね」

「えっ、だって雫ぅぅ!!」

「はいはい、今楽にしてあげるから待ってなさい」

「えっ、ちょっ、はぁん。何で私の弱いとこ知ってッ!?」

 

 蓮弥の背後に迫っていた発情中の優花を抑え、お仕置きを執行する雫。

 

「蓮弥……考えない方がいいかもしれません。雫の行動が有効であることも事実ですし、雫は後で私が止めるので」

「ああ、わかった」

 

 どうしたらいいかわからず固まる蓮弥に形成したユナが助言する。流石にユナは影響を受けていないようで蓮弥は安心した。

 

 

 一先ず鈴と百合モード全開の雫をユナに任せ、蓮弥は事を行う五秒前のハジメとユエを力づくで止めることから始めることにした。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 そしてもちろん、雫は正気ではなかった。

 

 

「今回は……誠に申し訳ありませんでした!!」

 

 一応事態が鎮静化された後、雫は女性陣に向かって惚れ惚れとするような土下座を慣行していた。

 

 雫としては一応助けようと思ったのは事実だし、ちゃんと思考能力も残っていたのだが、いくら最善だったとはいえ、手あたり次第躊躇なく百合営業を実行したのは影響を受けていたとしか言いようがない。結果的に被害が少なくなったとは言え、謝らなくてはならないだろう。というより雫は今自分の行動を振り返り、羞恥で死にたい気分だった。

 

「ええと、雫ちゃん。頭を上げて。ね? 正直今回は私だって反省しなきゃいけない立場だと思うから……」

「まあ、私は……正直雫のおかげで助かった面もあったし。蓮弥君にあんなことしようとしてたとか、マジ死にたくなる」

「はぁ、緊急事態だったのは事実だし、女同士はノーカンということにしといてあげる」

 

 香織はある種、自分の内なる野望が爆発したことがキッカケになったことに罪悪感があるがゆえに、雫に顔を上げるよう言い。

 優花はもう少しで蓮弥に淫らな自分を不本意に晒されるという、実施されてたら黒歴史で死にたくなったであろう行為を止めてくれたことに恩義があるがゆえに、雫に対する態度が優しい。

 真央もその辺りドライなのかあっさりノーカウントにする。実際やり方に目を瞑れば雫の行動はとっさの判断としては効果的だったのも確かなのだ。それを考慮せず雫を責める浅慮な者はここにはいない。

 

 だが、未だに顔を真っ赤にして雫を見れない者がいた。鈴である。

 

「あわわわわ。私……なんてこと。お姉様ってお姉様ってッ! 私はソウルシスターズじゃない。ないよね? 私にそっちの気はない。無いったら無い!!」

 

 どうやら雫とやってしまったことが相当キてるのか真っ赤になって取り乱す。

 

「鈴、責任は取るわ。私ができることならなんでも言ってちょうだい!」

「今そんな男前なこと言わないでくれないかなぁ!? 別にシズシズのことを怒ってるわけじゃなくて……ただ自分にこんな一面があることを認められないだけで……だから少しだけ整理させてください!」

「あ、うん。わかったわ」

 

 どうやら何とかこっちは纏まったらしい。蓮弥は達観しながら視点をハジメ達に移す。

 

「全く。お二人は普段から所構わず盛ってるからこんなことになるんですぅ。反省してますか? ハジメさん」

「はい、そうですね」

「声に真剣さが足りません!! 少し弛んでるんじゃないですか!?」

「……ハジメが野獣さんになるのが悪い」

「そこッ。ユエさんッ。反省してください!」

 

 現在、蓮弥に止められたことで夜の営みフル公開プレイを未然に防がれたハジメとユエは、土下座で反省中だった。その向かいで厳しい態度のシアが説教している。

 

 そんなシアだったが、この試練ではさほど影響を受けなかった。というのも自分の身体に異変が起きた時点で即”細胞極化(アルテマ・セル)”を発動。それによって生じた耐毒性能にて体内の媚薬を速やかに分解した後、鈴に襲いかかろうとしていた龍太郎や、寝込みの香織に手を伸ばしていた光輝を気絶させている。今現在二人は一番初めにノックアウトされたガハルドと同じく、地面に転がされていた。

 

「ふむ。どうやらまともじゃったのは妾とシア。そして蓮弥とユナだけだったようじゃの。全く、これしきの快楽で……妾はあの程度の快楽どうということはないわ!」

『嘘を申すな。お主、あの男にしばかれに向かっておったであろう。我が止めなくば無様を晒すことになったこと……そろそろ本気で肝に命じよ。我にも我慢の限界はあるのだぞ』

「ひぃぃ。き、気を付けるのじゃ」

 

 ティオはなにやらガタガタ震えて龍神様に怒られていた。心なしか龍神様の声が疲れているような気がする。気分は駄目な孫をどうにかする祖父母といったところか。

 

「はぁ、お前ら。今回のこと、忘れた方がいいぞ。たぶんここでぎくしゃくしたら大迷宮の思う壺だろうしな」

『はい』

 

 身に覚えのある人は全員、蓮弥の意見に賛同することにした。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 大迷宮、その最深部。

 

 

 ここはかつて存在した大精霊『ウーア・アルト』の中枢があった場所だった。

 

 現在地上で見えている世界樹は本来の大きさからすれば最上の一部でしかない。かつて大災害と称された頃のそれは……その巨大な樹だけで一つの国を形成していたほどだ。

 

 

 だが既にそこにあるのは残骸のみだった。かつてウーア・アルトは人との共存を望む眷属のエルフの願いを汲み取り、新しい時代は人の手で作られるべきだと言って表から姿を消したのだ。それでも残骸は今まで彼らの末裔たちを守り続けていた。

 

 

 だが、果たしてそれは本当に善意だけだったのだろうか。結論から言ってしまえばウーア・アルトは人と眷属の自由を許す代わりに、ある条件を付きつけた。

 

 

 それは死んだ後、必ずその魂をこの地に回帰させること。

 

 

 ウーア・アルトは確かに眷属の願いを尊重した。だが同時に彼らを信じ切ることもできなかった。だからこそ大精霊は、彼らを試すことにした。

 

 この森で生まれた生物は死後、魂がこの大樹に吸収される。その魂が持つ経験を取り込むことで、自らの行いが正しいか確かめるために。

 

 

 もし眷属の魂が輝きに満ちていれば、森はさらに神秘を増し、彼らに加護と繁栄を与えるであろう。

 

 

 だがもし、その魂の輝きが濁るようであれば。かつての眷属が嘆きと恨みで満ちるようなことがあれば……その時は恐るべき大災害が復活することになる。

 

 だが、その大精霊の目論見は、今回侵入したイレギュラーによって歪な形で達成されることになる。

 

 

 一つ、嘆きと恨み、憎悪と憤怒に塗れた断末魔の悲鳴をあげることになった、ソレと縁のある男がいたこと。

 

 一つ、それが現界するために必要な核となる絶望に満ちた魂がこの森には蓄えられていること。

 

 そして最後の一つ。それは……未だ未熟であれど、夢と現世を繋ぐことができる盧生がいること。

 

 

 何か一つでも欠けていれば実現しなかった悪夢の縁。だがそれは成され、異世界の地にて……本物の悪魔が召喚されつつあった。

 

 

 まだ悪夢は……終わらない。

 




「ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中できねぇなら、攻略は今ここで諦めろ。無駄死にするだけだ」

原作でハジメが光輝達に言った言葉ですが、今回真っ先に潰されたのは自分達なので何も言えませんでした。
一見ハジメは元通りに戻ったようだが果たして……

>雫の暴走
ちなみに詳しくは言いませんが、香織が出演最多です。

次回はステージボス戦。第六章ラスボスとは違います。

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