あとグロ注意です。
シアに対して独自解釈満載です。
「ぶっ飛びやがれですぅぅぅぅぅ──ッッ!!」
『ふふっ』
氷樹のある巨大な空間に、烈火のごとき雄叫びと轟音が響き渡っていた。一方は、巨大な戦槌ヴィレ・ドリュッケンを振り抜いた姿勢で残心するシア。他方はシアの攻撃が直撃し、ピンボールのようにぶっ飛んだ、黒髪に黒ウサミミの虚像のシアだ。
黒シアはシアのドリュッケンの一撃を威力を減じさせることもなくそのまま直撃を喰らい、背中から氷樹に激突する。再び轟音が鳴り響き、氷樹の幹が放射状に砕け散った。
その状況は、一見するとシアが自分の影を圧倒しているかのように見える。だが……実情はその逆。
「ハァ、ハァ、ハァ」
先程から同じことを何度も繰り返し、肩で息をするシアと。
『あれぇ~? どうしたんですぅぅ? ……もう、おしまいですかぁ?』
埋まっていた壁の中から何事もなかったかのように出てくる黒シア。その姿は大迷宮の魔物が粉々になる威力の攻撃を直撃したとは思えないほど美しく、服装にすら乱れがない。吹き飛ばされる前と何ら違わない姿で、息を乱すシアに対して嘲笑を浮かべる。
黒シアが無事である理由。それは現在黒シアが纏っている闘気の密度。身体を覆うようにして溢れ出す闘気のバリアが黒シアを守っている。今の黒シアは並みの攻撃ではかすり傷一つ負うことがない。
『ほらほら、もっと頑張るですぅぅ。死んだ家族の悲鳴とか思い出して、ね』
「黙りやがれですぅぅぅ──ッッ!!」
シアは脳裏に蘇る忌まわしい過去を振り払うように、叫びながら黒シアに突貫した。
『あの時の帝国兵は私達を玩具としか見ていなかった。人を見る目なんかじゃなかった』
言われるまでもない。シアにとって今でも鮮明に思い出せる。忘れられない記憶。
『どうして帝都にいた時我慢しちゃったんですぅ? 皆殺しにしちゃえばよかったじゃないですか。まさか帝都崩壊だけであなたの憎悪が消えたとでも?』
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」
シアが黒シアに向かってドリュッケンを振り回すが、それを黒シアは笑いながら躱す。躱しながら、シアの心の闇を付いてくる。
『あの悪魔が言っていましたよね。あなたは悪魔だと。あなたは兎人族の積もり積もった絶望を糧に誕生した異端児なのですよ。ならその起源に従って、何もかも滅茶苦茶にしちゃえば良かったじゃないですか? ……きっと気持ちよかったですよぉぉ』
「しゃらくせぇですぅぅぅ!!」
シアは黒シアの言葉に耳を貸さずに黒シアの顔面に右ストレートを叩きこむ。そのまま地面に激突しながら壁に叩きつけられる黒シアだったが、相変わらずダメージらしいダメージはない。
「帝国とかもはやどうでもいいですぅ! 確かに許せないこともあります。けど、心のまま獣みたいに暴れるつもりはありませんッ。そんなことをしたらハジメさん達に顔向けなんてできません!」
ドリュッケンによる重い攻撃から、徒手空拳による素早い攻撃に切り替えたシアが連続して拳を、蹴りを叩きこむが、避けながらも黒シアは言葉を止めない。
『なるほど、どうやら過去のことは割り切ったつもりなんですね。過去は変えられない。背負うことしかできない。それでも未来のために頑張ると誓って、あなたは今まで努力してきました』
「これで終わりですぅぅぅぅ──ッッ!!」
シアが黒シアを壁際まで追い詰める。そして逃げ場を無くした黒シアを倒すため、再びドリュッケンを構えギガントモードを発動。巨大大槌を振りかぶり、黒シアに向けて振り下ろす。
だが、追い詰められているはずの黒シアには微塵も動揺はなく、逆に口を弧の形にしてシアに嘲笑を向ける。
『そしてその結果、あなたはハジメさんとユエさんの未来に……亀裂を入れたんですよ』
シアのドリュッケンが、片手で止められていた。
「なッ!?」
シアに動揺が走る。そしてその隙を黒シアが見逃すことはなかった。
ドリュッケンを力づくで押しのけ、そのままシアに接近。そして闘気を纏った拳をシアの腹部に減り込ませ、吹き飛ばした。
「がはぁっ、げほ、げほ」
壁に叩きつけれ、口から血を吐き出すシア。シアの攻撃は黒シアに痛打を与えないのに、黒シアの攻撃一発で足が震えるほどのダメージをシアは負っている。その理屈は単純明快。単にシアと黒シアの纏っている闘気の量が違う。
黒シアは益々増大した闘気を漲らせ、愉悦に歪んだ顔にて口を開く。
『とんでもない勘違いした馬鹿女ですよね。一瞬でもハジメさんが自分を受け入れてくれると勘違いして、舞い上がって。ふふ、結果ッ、大玉砕だったじゃないですかぁぁ。あんな恰好までして迫って、身体を寄せて押し倒しまでしたのに……
それはシアの抱える傷の一端。この大迷宮に挑むには、致命的すぎる隙。
黒シアはシアのウサミミを強引に引っ張り、力任せにシアをぶん投げる。
『ほんと、馬鹿ですよね。そもそもあなたが感じている怒りと妬みは筋違いなものですぅぅ。だって私が出会った時から、ハジメさんと
「がふぅぅ!」
亜音速で吹き飛ぶシアに素の敏捷で追いついた黒シアが拳を合わせて作ったダブルスレッジハンマーにてシアを氷の大地に叩きつける。氷の大地が揺れ、地面に巨大な円状の亀裂を入れる。
『勝手にハジメさんに告白して、当然のように振られて盛大に自爆した挙句……ユエに見当違いの八つ当たりをする始末。あははは、なんだぁ、未来のために頑張るとか言っておいて、結局自分の欲望第一なんじゃないですかぁぁ』
深いダメージを負ったシアの元まで、ゆっくり歩み寄ってきた黒シアがシアの頭を踏みつける。シアも全力で傷を治そうとしているが、今はうめき声を上げるしかできない。
『そう。別に私がフラれるだけなら良かったんですぅ。馬鹿な私が勝手に自爆して終わり。本来シア・ハウリアという人間はくよくよ悩む性質じゃありません。今までのあなたがそうだったように……前向きにとらえることで前に進むことができるはずだった』
黒シアの言うことは正しい。
確かにシアは昨日の夜。心に大きな傷を負うことになった。ハジメが一方的に悪いとは言わないが、彼はある意味、女であるシアに大恥をかかせる形でフっている。
シアはもちろんショックを受けた。悲しかったし悔しかった。さらにタイミング悪く失意の中自室へ戻る途中で、ユエと遭遇してしまった。
たった今、女として拒絶されたばかりのシアの目には、これからいかにもハジメと愛し合うための恰好をしたユエの姿がいかような姿で見えたのだろうか。
考えるまでもない、いくら温厚なシアでも頭に血が昇って嫉妬に突き動かされるのは当然だった。
だが、シアは元来、いつまでも恨みや怒りを持ち越すタイプではない。確かに嫉妬していたし、あの一瞬は本気でユエに殺意を覚えた。だが、シアならせいぜい、次の日に話し合って、時には手を出すこともあるかもしれないが、それで終わり。禍根を残すなんてことはしない。
元々ハジメとユエの関係に横恋慕している形になるシアに大義はないのだ。そんなことがわからないほど、シアは馬鹿な女ではない。
だが……
『けどぉぉ。視ちゃったんですよねぇ。ハジメさんとユエの争う声を聞いて、あの二人が破滅する未来が』
ドクン
それこそが……シアが抱える傷の中枢。
「あ、あぐ……」
『忘れてたんですかぁ。それとも気づいていないふりですかぁ。まあどっちでもいいですけど、あなたは未来視の技能の本質がまるでわかってない。いい加減理解してください。あなたはどんな時も……
黒シアがシアの頭を踏みつける力を増していく中、占術師の天職を持つシアの本質を容赦なく突いて行く。
『家族の危機の時もそうだったし、友人の恋路なんて些細なことでもそうだった。いつもあなたの眼に映るのはいつも決まって悪い未来。成功している未来やより良い未来が見えることはなかった。あなたが口癖のように言っている言葉、『未来は絶対じゃない』、『未来は、一生懸命頑張れば変えられる』。一見前向きなセリフのように聞こえますけど、それって要はシア・ハウリアにとって
もしシアの未来視が、より良い未来を、そのための道筋のみを映し出すものであった場合、間違いなくこれらのセリフは出てこないし、発想もしないであろう。むしろ未来は絶対であるという思考に陥り、シアはもっと未来視を絶対視した人格を形成していたのは想像に容易い。
だが、現実にそうなってはいない。つまりシアにとって未来とは、放っておけば悪くなる一方である都合の悪いものだったという証左。
「それが……どうしたんですぅ。この力が……人の役に立ったこともありました」
『そうですねぇ。確かにそれでも有用ではありましたけどね。自分にだけ都合の悪い未来は割と簡単に替えられたし、他人の悪い未来もその道ごと閉ざすことで回避可能でしたしね。あの時は盛大に振られて引きこもるほどショックを受ける友人の未来を回避するために、告白そのものを諦めさせたんでしたっけ』
シアが少し回復した身体を動かし、何とか黒シアを跳ねのけようとしているが、びくともしない。現在黒シアは自身に重力魔法を行使して重さを変え、その上でシアを踏みつけている。フロストゴーレムレベルでも粉々になる圧力を掛けられても圧死していないのは流石だが、それだけで状況は一向に変わることがない。
そんなシアをあざ笑うように、黒シアが話を続ける。
『そんなあなただったからこそ、ハジメさんを好きになったんですよね。だって初めてだったから。あなたの眼により良い未来が映ったのは』
あの日、帝国兵に追い詰められ、絶望と悲観の中で見た未来。今まで悪い未来しか見たことがなかったシアにとって初めて映った二つの希望。
ハジメとユエ。その二人によって一族が救われるという未来を。
だからこそあの時は、その未来が追い詰めれれた自分が見た都合の良い幻でないことを確かめるために必死に行動した、必死に行動した結果、シアはその未来を掴み取り、未来視で見た通り家族は救われた。
シアもまた、救われた。
『だからハジメさん達についてきた。ハジメさんを好きになった。この人なら、これからもより良い未来を私に見せてくれる。そう信じて。なのに、そんな大恩人二人をあなたは……破滅させるのですよ』
黒シアがシアのウサミミを掴み、顔の高さにまで持ち上げる。もちろんシアが抵抗して黒シアの顔面に拳を叩きこむがびくともしない。逆に黒シアに膝蹴りを叩きこまれることで、再び血を吐き出し沈黙させられる。
『私が知る限り、未来には変えられる未来とそうでない未来がある。そして問題は変えられない未来の方ですぅ。ねぇ、私。あなたは無自覚に感じていたんじゃないんですか?』
『占術師として、未来を見る者として、常に悪い未来だけを観測し続ける私が、もしかしたら悪い未来を確定しているんじゃないかって』
シアの未来視は自分にとっての最大の不幸である命の危機に関しては自動で発動する。それについては今シアが生きている通り、回避可能な未来であり、旅を始めてからもそれに幾度も助けられてきた。
だが任意で見る未来視については事情が異なる。
シアは他人の未来についても悪い未来しか見えない。だからこそ、その未来にいかに到達しないかを考えて行動してきたが、ここで考えるべきことがある。
未来とは……否、事象とは、観測することで確定するものだということを。
地球の量子力学にて、シュレーディンガーの猫という有名な思考実験が存在する。
フタ付きの箱の中に猫と、一時間後にちょうど五〇%の確立で致死性の毒を吐き出す装置を一緒に入れた場合、一時間後の猫は箱を空けるまで生きている状態と死んでいる状態が同時に存在していることになるという思考実験だ。
量子力学の世界において、量子は観測する前とした後で状態が変わることがわかっている。つまり観測するということはその事象を決定づけることを意味するわけだ。
シュレーディンガーの猫の例えに戻るなら、フタを空けるまで猫は生きているのか死んでいるのかわからない。その確率は五〇%ずつ存在する。
だが、もしも。箱を空けずに箱の中身を知る術があったとしたらどうだろう。
簡単に言えば、シアの未来視がその術に当たる。シアが未来を見ることで、シアの眼には猫の生死が見える。そしてシアが観測した以上、その猫の運命はどちらか片方に集束されるのだ。
そして、シアの未来視は基本的に悪い未来しか写さない。悪い未来とはシアの感性にもよるものだが、この場合捻ることなく、猫が死んだ未来が悪い未来だと言えるだろう。
つまり、シアは未来を見ることで、五〇%で生きているはずの猫の運命を、猫の死という悪い未来で確定してしまう。
この場合、シアはどのタイミングで未来視を使えば猫を救えるのか。
シアが救う方法は一つだけ。すなわち、その実験自体を止めることである。それが変えられる未来。そして変えられない未来とは、実験が実施された後のことである。そうなればもうシアにはどうにもならない。可能性の熱的死。観測した結果、未来を変える選択肢が一つもない状態。
もちろんシアはシュレーディンガーの猫なんて思考実験のことは知らない。だが自分の力だ。意識せずとも無意識的にわかっていることもある。
『悪食の時がそうでしたよね。あなたは極めて有用な技能である未来視を最後の最後まで使わなかった。温存していた? 違いますよね。お前は怖かったんですぅ。自分が未来を見ることで、未来がバッドエンドで決まってしまうことが』
「語るに……落ちましたね。あの時私は、最後の最後で悪食を倒す未来を……見たはずです。……悪い未来ばかり、はぁ、はぁ、見ているわけじゃありません」
『確かに、あなたがより良い未来を見る方法もあります。今までもそうやって良い未来を見てきましたしね。けどその場合、周りの協力があって、多大な労力を費やして初めて見れるもの。悪い未来とは違って場を整えないと見られない。そして良い未来を見るためには……シア・ハウリア、
ビクンと黒シアに掴まれているシアが反応する。
『本当は昨夜のことを謝りたかった。謝って、ハジメさんやユエと仲直りしたかった。けどできなかった。あの二人が破滅する未来が見えてしまったから。自分が行動すればするほど、その未来が近づくような気がしていた。時に未来は、声をかけるだけで変わることを知っているから……声すらかけられなかった。いや、もしかしたら私のその行動自体が二人の未来を悪化させているのかも。ああ、わからない、わからない。結局私はいつもこうだ。もし自分が授かった力がより良い未来が見える力だったなら、それに従っていれば家族は誰も死なずに済んだかもしれないのに。どうして悪い未来しか見えないのだろう。どうして自分の悪い未来は簡単に替えられるのに、他人の未来は変わらないのだろう』
「あ、あ、あああ……」
シアの身体が震える。それはあるものに怯え、ずっとあるものから目を逸らして、必死に抗っていた一人の兎人族の少女の姿。
『もうわかってますよね。私がなんなのか。あなたがずっと目を逸らしてきたもの。ずっと見ないようにしていたもの、一生来なければいいと思っているもの。私は……』
黒シアの姿が変わる。肌の色はシアと同じ色に、だがそれ以外の色が変わる。髪の色は薄紫色に、オーラの色はそれより濃い、紫色に。そして瞳の色は……狂気を内包した血のように紅い色に。
黒シアのオーラの量が桁違いに増幅する。今までとは明らかに違う。試練すら逸脱した異常なパワーアップ。
だがそれもそのはず。なぜなら黒シアの正体とは……
『あなたが辿り着くかもしれない。最悪の未来そのものですよ』
そして黒シアはシアの頭を手で掴み……
それを開始した。
「がっ、あああああああああああああ──ッッ!!」
その膨大な魔力によってシアの意思に反して強制発動され、暴走を始める未来視。シアの眼に、次々と未来が見せられる。
最悪の未来を視る。
ハジメとユエが喧嘩別れした結果、その隙をエヒトに付け込まれ、ユエを奪われた上でハジメがユエに殺される未来を見た。
ユエへの愛憎が裏返しになり、二度と正気に戻れないほど狂気に犯されたハジメが、狂った笑い声を上げながらエヒトに取り憑かれたユエを惨殺する未来が見えた。
豹変した香織が、ハジメの心を壊して奪い去り、世界の果てまで逃げた挙句、追い詰められた果てにハジメと無理心中する未来が見えた。
龍神の力に飲まれたティオが理性を失い。仲間ごと世界の全てを焼き払い、世界を地獄に変える未来が見えた。
「いやぁですぅっ、いやぁああああああ、やめてぇぇぇっ、私に、私にそんな未来を見せないでぇぇぇぇぇぇぇ──ッッ!!」
頭を押さえて暴れまわるシア。だが黒シアによってもたらされた未来視の暴走はシアの意思に反して止まらない。
今見た未来の全てがこれから起こりうる未来。シアの行動によって未来が分岐し、産声を上げた未来の可能性という名の子供達。
皆が皆、自らを産んでくれた母親に己を選んでもらうため、競い合うように母の瞳に、終わってしまった未来を延々と見せつける。
そして……
「あっ……」
ついにシアの眼に……その未来が見えてしまう。
「あ、あ、あ……」
その未来は、程なくして訪れることになる近未来、わずか数分後の出来事。
登場人物は二人。一人は金髪の少女。一人はウサミミが生えた薄紫の髪をした紅眼の少女。
「ああああああ!!」
ナニをしているのか理解できない、いや、理解したくない。
そして
「ああああ、ああああああ、あああああああああ!!」
シアの心をへし折るには、十分すぎる効果を発揮した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──ッッ!!」
声にならない絶叫を上げ、シアの意識は反転する。
水色が薄紫に。
蒼が紅に。
白が黒に。
シアは……闇の中に堕ちていく。
──そうそう。未来を変える方法はもう一つあるんでしたぁ
──壊せばいいんですぅぅ。何もかも、未来に関わる全てを壊してしまえば……
~~~~~~~~~~~~
頭が痛い。視界が歪んで、頭がぼーっとしているのがわかる。
おそらく熱があるのだろう。先ほどから意識が朦朧として思考が定まらない。
確か自分は最後の試練を行ってそれで……
それからどうしたんだろうか。全く記憶にない。
視界の端に
はて、自分の髪の色はこんな色だっただろうか。
確か母も褒めてくれた水色の綺麗な髪だったような気がする。
これはこれで綺麗な色ではあるが、少し自分とはイメージが違う。
そしてふと、自分が相棒の大槌でナニカを潰していることに気付いた。
相棒を振り上げ、振り下ろす。そのたびに眼下にある何かは弾けるように潰れる。
はて、これは何なのだろうか。
天辺に丸くて大きいものがあり、その下に細い管のようなものがあった。そこから先にはそれよりずっと大きなものがついている。更にそれは途中で左右に細いのが伸びてて、そして中央の末尾は二股に分かれているようだ。
よくわからない。よくわからないのでとりあえず潰してみた。再び相棒を叩きつけることで地面が揺れ、眼下のナニカかがぐちゃぐちゃに弾ける。天辺の丸くて大きいものに付いている放射状に広がる
相棒を振り上げ、振り下ろす。
潰して、元に戻って、潰して、元に戻って。
それをひたすら繰り返すうちに、それが元に戻る速度が段々遅くなっていることに気付く。
ようやくこの作業も終わると思った段階で、自分はなぜこんなに必死になっていたのか考えてしまう。
なぜかわからないが、これを跡形もなく潰せば自分は楽になれる気がする。
さあ、これで私は解放される。
そう思い、最後の一振りに心を込めて。
私は相棒を振り下ろした。
シアについての考察。
本文にも書きましたが、シアを検索するとよく出てくる単語に未来は絶対じゃない。一生懸命努力すれば未来は変えられるというものがあります。これは前向きでシアらしい言葉だと思いますが、視点を変えればシアにとって未来とは絶対であってはならないものであり、努力して変えなければならないものであるという認識であることの証明だと感じました。
なのでシアを壊すとしたら未来視の暴走だと決めていました。自分と仲間達の鬱度増し増しの悲惨なバッドエンドを延々と見せられる地獄。そして最後は自身が起こす悲惨な未来を見たことで発狂。その結果、未来が実現するというところが皮肉。これもまた未来を観測したことで未来が確定するという事例ですね。作者的にはスターウォーズのアナキンがダースヴェイダーになる過程に似てると思います。
>お月様で餅つき大会を楽しむ狂乱兎
見た目のイメージは東方の鈴仙・優曇華院・イナバ。
そもそも原作の時点で鈴仙は彼女のイメージモデルの一人なのですが、こちらは狂気の瞳バージョン。
そして戦闘という意味での新形態でもあります。系統としては原作のレベル式ではなく、穏やかな心をもって絶望により目覚める最強の戦士的な感じ。
>お月様
なぜこうなってしまったのか、それは彼女の試練にて明かされます。
本作の時系列について
既に香織編やティオ編は公開済みですが、シア編は香織やティオより前の時系列にあたります。
若い順に並べるとしたら
シア編=ハジメ編=ユエ編<ティオ編<香織編
になります。
何が言いたいかというとシアが未来視を暴走させられた時にはまだ香織とティオは試練の真っ最中であり、試練に失敗する未来があったということです。そしてもちろん、試練を攻略した時点で、シアが見た香織やティオのバッドエンドは消滅しています。
ちなみにシアの未来視になぜ蓮弥やユナが出てきていないのかというと、シアの未来視は因果律に干渉する能力でもあるので聖遺物が自動防御しているからです。よってシアの未来視には蓮弥とユナは映りにくいと思ってください。最初シアと出会った時、蓮弥とユナの存在に驚いたのは蓮弥が帽子の機能で隠れていただけでなく、シアの未来視ではハジメとユエしか見えていなかったからでもあります。
次回はシアと同じ時系列でのハジメの話。
割とメンタルフルボッコ回になりそう。