ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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少し遅くなりましたが更新です。

今回はタイトル通り、とある人物に一年早く春が来る話。


とある拳士のハッピーロード

 完全復活したハジメはまず、王宮の会議室にて居残り組のクラスメイトを集めていた。

 

「さて、蓮弥から事情は大体聞いたとは思うが、神を名乗る変質者がとうとうやってはならないことをやってしまった。だから俺はこれからオルクス大迷宮地下で神をぶっ殺すための準備に入る」

 

 元々概念魔法作成のためにオルクス大迷宮に向かう予定だったのだ。残り4日という時間でどこまでできるかはわからないが、ヘファイストスを持ち込んだハジメが本気で挑めば、世界を滅ぼす兵器くらいなら平気で作れそうな気がしてくる。

 

「敵の居場所はトータス最南端……魔王城。そこにカチコミに行く以上、俺達はそのための準備も並行してやらなければならない」

 

 もし神エヒトが復活する場所を教会で伝えられてきたように神山を選んでいたら、あらかじめ神山に超兵器を設置して待ち構えることができただろう。だがエヒトが復活の場所に選んだのは人族領域から一番遠い魔王城。つまりこちらから攻め込まなくてはならない。エヒトも馬鹿ではないのだから、神山の想定とは逆に、敵はこちらを迎撃する準備をしっかり備えているだろう。

 

「だからまずは吉野。お前にはフェルニルの大改造を任せたい。以前できなかった装備も今のお前なら作れるようになっているんだよな?」

「まぁね。そのために昇華魔法を習得したわけだし。いいわ、私がフェルニルを完璧にしてあげる」

 

 昇華魔法の神髄は世界に満ちる情報の操作にある。つまり真央の星辰光(アステリズム)であるパラメータ操作能力と互換性があるのだ。自身の星辰光(アステリズム)と昇華魔法の組み合わせによって、今の真央は以前できなかったような複雑な設定ができるようになっていた。

 

「必要なものがあれば言ってくれ。大至急用意する。魔王城攻略の要はフェルニルだ。妥協は出来ねぇ、任せたぞ。そしてお前達だ」

 

 ハジメが王都居残り組に向かって声をかける。

 

「何しろ相手の数も規模もわからねぇからな。戦力は多いに越したことはない。だからこれからお前らの適性や素質を魂魄魔法と昇華魔法で解析して、ヘファイストスに突っ込む。それから……お前達専用のアーティファクトを用意してやる」

「俺達専用?」

 

 玉井がハジメに疑問を投げる。

 

 正直王都居残り組はこの戦いで自分にできることなどないと思っていたのだ。既に戦闘のレベルは自分達の手の届かない遠い場所まで行ってしまったと思っているからだが、それに対してハジメが否を唱える。

 

「お前達のデータを参考にお前達が最も力を発揮できるアーティファクトを作る。それを使えばお前達の能力を何倍、何十倍にすることも不可能じゃねぇ。少なくとも神の使徒くらいは倒せるようになってもらう」

 

 昇華魔法とヘファイストスという魔導コンピュータがあるからこそできる方法。これで前線に出れなかったクラスメイト達も十分戦えるようになるはずだ。

 

「さて残りのメンバーについては俺の方から報告がある」

 

 ハジメからバトンを受け継ぎ、蓮弥が仲間達の状況を整理する。

 

「まずは、ティオについてだが、既に竜人族の里へ向かっている。これは神エヒトに対する戦力を確保するために竜人族に応援を依頼したという面もあるが、そこでティオはさらに強くなる方法があるらしい。これに関しては完全にティオ待ちだな。早ければ明日には帰れるという連絡も受けてる」

 

 この場所にティオの姿はない。既に新たな力を求め、故郷の地へ足を踏み入れている。次にティオが帰ってくる時、それは新たな力と大勢の仲間を率いての帰還となるだろう。

 

「シアも現在白崎が治療を行って、もう間もなく完全回復するらしい」

「そうか……良かった」

 

 これにはハジメもホッとした様子を見せる。香織から聞いていたとはいえ、自分が発端でシアは酷いダメージを受けていたのだ。その上神父に抗うために傷口が開いたため、一時目も当てられない状態になっていた。そのシアが間もなく復活するとなればハジメの心の荷も少しは降りるというものだった。

 

「あとは坂上と谷口だが、本人達の強い希望でユナの内界で既に修行を開始している」

「決戦までにものにできそうか?」

「本人達のやる気は十分だからな。俺も後で修行に付き合うことになってる」

 

 ハジメが目覚める前、龍太郎と鈴の二人は自ら蓮弥に修行してほしいと祈願していた。鈴は迫る親友との邂逅に備えて、そして龍太郎は、道を踏み外してしまった親友を見たことによって。現在ユナの内界にて個別で修行を始めているところだ。特に鈴の修行は少し特殊なことを行っているので、後で蓮弥も鈴と共に修行に参加するようにとユナから言われている。

 

「最後に雫と優花だが、この二人も今日の夜から始める修行の準備を行ってる。詳細は後で確認するけど、決戦までには間に合わせると言ってた」

「あいつらに関しては俺ができることはなんもねぇからな。お前にまかせる」

 

 一通り状況確認が終わった後、ハジメが締めの言葉で場を終わらせる。

 

「敵だって馬鹿じゃねぇ。もしかしたら世界中が大変なことになるかもしれない。だが俺はそれでもユエの救出を最優先にする。なぜならユエは、トータスの民全員を足しても変えられない俺の最愛の人だからだ。……別にお前達にこの気持ちをわかって貰おうと思ってねぇ」

 

 ハジメにとってトータス全てよりユエ一人の方が重い。間違っても世界を救うために戦うことなどできないのがハジメだ。

 そしてハジメは元来、他者とのコミュニケーションが上手いとは言えない人物でもある。だからハジメは他人が思わず奮い立つような気の利いた言葉を持ってないし突然湧いてもこない。そんなハジメが彼らをやる気にさせる物があるとすれば一つしかない。

 

「だがあえて言うならただ一つだけ、約束してやれることがある。それは……俺がユエを取り戻した後、全員生き延びることができたなら、地球へ帰るための手段を用意してやれるということだ。この戦いが終われば、俺達は地球に、故郷に帰れるんだ! これが最後の戦いだ! だからお前ら……絶対死ぬんじゃねぇぞ」

 

 返ってくるのは無数の咆哮。ひとりの科学屋としてのハジメの言葉は、彼らを奮い立たせるには十分な効果を発揮した。

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 そして地球からきた来訪者の中で、既に確かな想いを胸に宿し修練に臨んでいる者がいる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「そこまでだな。これでお前の基礎は大体出来上がったと思う」

 

 肩で息をする龍太郎に対し、蓮弥は龍太郎のステータスプレートを見ながら答える。

 

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 坂上龍太郎 17歳 男 レベル:98

 

 天職:拳士

 

 筋力:2000 [+最大36000]

 体力:25000

 耐性:1800 [+最大35800]

 敏捷:1650 [+最大35650]

 魔力:3000

 魔耐:3000

 

 技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊][+二重の極み]・縮地[+爆縮地]・物理耐性[+金剛]・魔力操作[+体力変換][+変換効率上昇Ⅲ]・闘気操作[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+全身強化]・全属性耐性・昇華魔法・変成魔法・言語理解

 

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 体力の上昇が桁違いに大きいのは闘気が身体エネルギー、つまり体力由来の力だからだろう。当然闘気を使用すればするほど体力は減っていくので常に理論最大値で戦えるわけではないが、それでもその鍛えた拳は神の使徒を容易く屠れるだけ威力がある。

 

「実際大したものだよ。もしかしたら変成魔法を手に入れたのも影響してるのかもな。ユナ曰く坂上と変成魔法は相性がいいらしい。今の坂上なら間違いなく神の使徒相手でも戦える」

 

 このステータスなら坂上龍太郎は立派な最前線の戦士だ。現状神の使徒相手に真っ向に戦えるメンバーの一人だろう。

 

 だが龍太郎は蓮弥の賞賛に嬉しそうな顔をしない。

 

「なあ、藤澤……今の俺は……光輝と戦えると思うか?」

「……」

 

 そう、龍太郎の求める力のレベルは神の使徒レベルではない。それよりももっと高みの領域を目指している。そして現状の龍太郎がそのレベルに到達しているかと言えば……

 

「……正直に言うと……無理だ。今の天之河の強さはこの世界の規格を完全に超えてる。ステータス換算で最低でもオール十万を超えてるはずだ」

 

 あの時の光輝はかつて王都上空で戦ったフレイヤにも劣っていなかったというのが蓮弥の感想だ。そしてそれは……聖約により制限された状態での話。

 

「坂上は俺が天之河と結んだ聖約の対象外だから、さらに強くなったあいつと戦うことになる」

「わかってるッ、わかってるけどよ」

 

 その言葉から龍太郎が内心抱えている焦りと後悔、そして無力感が蓮弥に伝わってくる。

 

「焦るな。まだ少し時間はある。ユナがお前の力を発揮できる最適な変成魔法の使い方を考えてる。だから……その悔しさとか複雑な想いは心の中にしっかり留めておけ。時が来たらその想いを武器に替えなければならない時がくるだろうからな」

 

 光輝と相対したとして、龍太郎はそもそも戦えるのか。仮に戦えたとしてもどうするべきなのか。その答えに関して、蓮弥は戦闘訓練と違い教えてやることはできない。

 

 全ては龍太郎の魂の中に。龍太郎が悩んで、その果てに出さなければならない答えなのだから。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 そして時を同じくして、鈴の方もユナによる基礎訓練を終えることになった。

 

 

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 谷口鈴 17歳 女 レベル:98

 

 天職:結界師

 

 筋力:550

 体力:650

 耐性:500

 敏捷:480

 魔力:30000

 魔耐:30000

 

 技能:結界術適性[+魔力効率上昇][+発動速度上昇][+遠隔操作][+連続発動]・光属性適性[+障壁適性連動]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・高速魔力回復・空間魔法[+空間結界術]・昇華魔法・変成魔法・言語理解

 

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「鈴、今までよく頑張りました。これで現状での基礎訓練は終わりになります」

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございました」

 

 ユナの内界にて修行を行なっていた鈴が息を荒くしながら地面にへたり込む。

 

 ユナの内界は多少時間の流れを弄ることができる。あまり大きく乖離することはできないがそれでもそれなりに長い時間ぶっ通しで修行にあてていたのだ。それだけ鈴の執念が大きかったということもあり、鈴は今できる最善を尽くしたと言えるだろう。

 

「だけど……これで恵里に会えるのかな……」

 

 だがそんな鈴の胸中に浮かんでくる不安。それの原因はただ一つ。

 

 それは敵の手に堕ちたクラスメイト、天之河光輝が見せた規格外の強さだった。

 

 鈴にとって手の届かない領域にいるハジメと蓮弥という強者が揃って戦っていたにも関わらず、森に襲撃を仕掛けた光輝は終始優勢に戦いを進めていた。光輝の規格外の強さは凶神父ダニエル・アルベルトによってもたらされたものであることは状況から察するに容易い。

 

 ならば同じく彼の手中にある恵里もまた、鈴の想像以上に強くなっている可能性がある。

 

 鈴にとって最悪の展開とは、恵里の死兵に阻まれて恵里と会うことすらできないということだ。王都襲撃の際も恵里は鈴に対して声をかけることはなかった。まるで眼中に無しという態度を取られたことを鈴はずっと気にしている。

 それは鈴にとって認められないことであった。ならどうするか。答えは一つ。無視できないほどの力を鈴が示すしかない。

 

「それはこれから次第ですね。蓮弥が戻ったら開始します」

「えっ、その……まだ修行があるの?」

 

 これは別に修行が嫌で言っているわけじゃない。むしろ強くなれるのなら歓迎すべきことなのだが、先程ユナは修行を終えたと言ったばかりだ。

 

「ユナ、坂上の修行は一段落ついたぞ」

「ご苦労様でした、蓮弥」

 

 そしてタイミングよく別の場所で龍太郎の修行を見ていた蓮弥が合流した。

 

「それで、俺は何をしたらいいんだ?」

 

 蓮弥がユナから聞かされていたのは、龍太郎の修行がひと段落ついた時に鈴の元にくることだけだ。具体的に何をするのかは全く聞かされていない。

 蓮弥の個人的な意見を言うなら結界師である鈴に自分が役に立つとは思えないと言うのが本音だ。

 

「これから行うのは正確には修行ではありません。むしろ蓮弥は鈴から共感を受ける側になります」

 

 ユナの言葉に蓮弥と鈴は共に首を傾げる。ユナが言いたいことはつまり蓮弥は鈴から何かを教わることになるということだ。鈴のためにやることなのになぜ蓮弥が得ることになるのか。

 

「鈴に行って貰うのは私の習得しているある聖術の最適化です。実はその聖術とは私も使ったことがないものなのですが、概要の僅かな一端を伝えることはできます。それを鈴には自分が使えるようにアレンジして欲しいのです」

「???」

「えーと、つまりユナは……相性かなにかで自分では使えない聖術を谷口が使うことに期待していると言うことか?」

 

 鈴は完全に頭上にハテナマークを浮かべ、蓮弥も頭を悩ませながら答えを出してみる。

 

 ユナの話がいまいち要領を得ないのは自分が使えない術だからか。魔法には属性などの相性があるのだから聖術にも相性があるのかもしれない。ユナはその術を習得してこそいるが、相性が悪くて使えない。だけど鈴には適性があるからそれを今から教えようとしている。

 

「通常なら蓮弥が使えるはずの力であり、空間魔法には極めて高い素質がある鈴なら習得できる可能性のある秘技です。これを使えるようになれば、鈴にとって切り札たり得る代物になるはずです」

「えーと、必殺技……ということかな?」

「その認識でも構いません。蓮弥は鈴が最適化したその術を共感することでその感覚を掴むことができるはずです」

 

 必殺技と聞いて鈴が真剣な顔をする。

 

 戦いにおいて必殺技とは、使い勝手が悪いものであっても、これさえ決まれば勝てるというもの。それがあるのとないのでは精神的な余裕が違ってくる。

 

 それを教えてくれるというのなら、鈴にとって願ってもないことだった。

 

「それで……その教える聖術というのは?」

 

 蓮弥の問いに対して、ユナは少し間を空けながら答えた。

 

「…… 聖術(マギア)10章10節(10 : 10)。師によって私が生涯一度だけ使うことになると予言された……最後の聖術です」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 外界から切り離されたような静謐が漂うその場所。それはユナの内界の教会の聖堂だった。

 

 その場所にて、ユナより聖術の公開と最適化を終えた鈴が静かにたたずんでいた。祈りこそ捧げていなかったが、修行の際に着用していたシスター服が中々様になっている。

 

 輝くステンドグラスから齎される月光が鈴を照らすその静謐な空間に、野太い声が響いた。

 

「おう、鈴。お前も来てたのか」

「龍太郎くん」

 

 そっと振り返った鈴の視線の先には、鈴と同じくユナの内界にて修行をしている龍太郎がいた。

 

「ちょうど修行の合間でよ……隣いいか?」

「うん、いいよ」

 

 鈴が座ってる椅子の隣にどっしり座る龍太郎。

 

 クラスメイトとして、仲間として鈴はずっと龍太郎の姿を見てきたが、ここにきて一段と逞しくなったことがわかる。

 

 間違いなく肉体的な成長という意味では龍太郎が一番変わっている。元々空手によって鍛えられていた肉体が、さらに無駄なく鍛え上げられ、近くにいるだけで一種のエネルギーを感じるような凄みがあった。

 

「谷口はここで何やってたんだ?」

「ちょっとね……ここでお祈りの真似事でもすれば神様に声が届くかなって」

「おいおい、俺達はその神様と戦うんだぜ」

「エヒトとは違う神様だからいいんだよ。ちょっとした願掛けみたいなものだし」

 

 これから始まる戦いは何が起きるか予想もつかないことが多い。いくら意気込んでも自身を鍛えても、縁がなければ自身の願いが叶わないこともあり得る。

 

 鈴と龍太郎の願いはその類だ。

 

「……いよいよだな」

「そうだね。これでやっと……恵里と話ができる」

「…………そうだな」

 

 望んだ戦場はすぐそこにある。それなのに龍太郎は普段とは違い陽気だとは言えなかった。

 

「龍太郎君はナイーブな感じ?」

「ナイーブだかオリーブだか知らねぇけどよ。まぁ、ちょっとな」

 

 どうやら本気で物思いに耽る龍太郎に鈴は身を乗り出してみた。

 

「よし、このシスターさんに懺悔してみなさい。そしたらいいことがあるかもしれないよ」

「ぷっ、なんだそりゃ」

 

 どうやら少し調子を取り戻したらしい龍太郎は自身の抱えているものを少しずつ吐き出していく。

 

「藤澤からも言われたよ。今の俺じゃ光輝には敵わねぇってな。修行は欠かさなかったし、ユナさんから切り札も受け取った。それを使えばもっと強くなれることもわかった。けど……それでも遠いんだよ」

 

 龍太郎の言いたいことはわかる。鈴とてあの光輝の変貌と圧倒的な力は心に来るものがあった。増してや幼馴染だった龍太郎からしたら許容できないものがあるのだろう。

 

「龍太郎君は戦うつもりなんだね」

 

 本当なら光輝はハジメや蓮弥に任せるべき敵だ。蓮弥がしかけた聖約というものは蓮弥達にのみ作用する。次回以降も通じる可能性は低いがそれでも聖約範囲外の龍太郎がいきなり戦うのは危険すぎると誰もが思うだろう。

 

「お前には前に言ったけどよ。……やっぱりあいつは俺の手で止めてやりてぇ。例え今の俺が勝てなくてもな」

 

 落ち込んでいる龍太郎でも目だけはしっかりと前を見据えているように鈴には見えた。そして龍太郎のその想いを鈴は否定することはできない。なぜなら自分も同じ想いを抱えているからだ。

 

 そして、そんな龍太郎に鈴はユナから教わったことを話す。

 

「想いが大切なんだってさ。魂の力は私達には使えないのかもしれないけど、揺るぎない強い想いを持ってる人には数値以上の力が宿る。そういうものらしいよ」

 

 ステータスが全てではない。技術が全てではない。大切なことは想いの強さ。それは極限の意思であり渇望に繋がるものだ。ユナ曰くこの世界はそういう風にできていると。

 

「南雲君なんてさ。恋人を連れ去られて一番辛いはずなのに全然諦めてないもんね。言動からユエユエを必ず取り戻すという信念みたいなものが伝わってくるもん。シアシアと色々あった時はどうなるかと思ったけどやっぱりユエユエが羨ましいと思っちゃうよね」

 

 仲間達の間でもすでにハジメ達に何があったのかについては、詳細はともかくとしても周知の出来事だ。その上で不謹慎なことを考えれば、恋愛小説とか恋愛漫画みたいだと鈴は思っていた。

 

 一人の女の子にどこまでも一途なところなどはハジメを未だに狙っている香織達に申し訳ないと思うが、鈴にはハジメが少女漫画のヒーローに見えて仕方ない。一人の女の子としてハジメとユエの恋愛模様はドキドキしてしまう。

 

「ふーん。やっぱり女は皆そういうのに憧れるもんなのか?」

「当然。女の子ならやっぱり誰かに一途に愛されることに憧れるんじゃないかな。ま、残念だけどああいうのは早々無いのが現実だし、ユエユエみたいに超美少女だからこそなんだろうけど」

 

 と鈴は現代の恋愛事情が少女漫画みたいにいかないことに対し、苦笑を浮かべる。今時ハジメのような初心な純愛思考の男など滅多にいない。

 

「……お前だって十分魅力的だぜ?」

「ありがと。お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 鈴は龍太郎のお世辞を軽く流そうとするが。

 

「……お世辞じゃねぇよ。鈴はいい女だ。誰にだって負けちゃいねぇ。それに……一途な男が南雲だけとも限らねぇぞ」

「へ?」

 

 直後届いた、龍太郎の驚くほど真剣な声音での言葉に、思わず間抜けな声を漏らすことになった。

 鈴が視線を向けた先にいたのは、龍太郎の鈴を見つめる真っ直ぐな視線。普段より真剣な眼差しを向け、男の気配を漂わせるその視線に鈴の心臓が思わず跳ね、首筋が、顔が、熱くなっていくのが分かる。

 

「えっ、その……どうしたの……龍太郎君」

「……正直今言おうか迷ってたんだけどよ。鈴はいつまで経っても気づいてくれねぇし。ここで言わなくて後悔するかもしれねぇ。だから……」

 

 動揺する鈴に対し、龍太郎はおもむろに立ち上がると、鈴の正面に回って片膝をついた。聖なる聖堂、美しく輝くステンドグラスに注がれる月光、そして自分を見上げる大柄な龍太郎の構図。これは……

 

「鈴のことが好きだ。この先何があっても俺は鈴のことを全力で守るし、大事にする。だから俺と……付き合ってほしい」

 

 龍太郎の告白に対し、鈴の脳裏に龍太郎との想い出が蘇る。

 

 王都の大広間のベンチで夕日をバックに共に笑いあったこと。

 

 王都での戦いで鈴を庇い、龍太郎が倒れた時の、鈴の絶望と喪失感。

 

 大迷宮での共闘、そして……旅の中で起こる何気ない日常。

 

 それらを想起した時、鈴の口は自然と開いていた。

 

「……うん。いいよ」

 

 口から出た言葉は告白に対して了承を示す言葉。鈴は自分でもびっくりするくらい、するりと言葉が出た。そして自らの想いを自覚する。

 

「……龍太郎君には申し訳ないけど、私は今自覚したみたい。私も、龍太郎くんのこと、結構好きだって。だからいいよ。今から私達は恋人同士ね」

 

 鈴の顔は頬を染めつつもしっかり龍太郎を見据えていて、場所が聖堂ということもあり、神聖な雰囲気すら感じる。

 

 異世界で過ごした日々は龍太郎をたくましい男へと変えたと同時に、鈴を一人の淑女へと変えていたのだ。

 

 

 そうして、人生初めての受け入れの言葉と、女の子からの”好き”を頂戴した龍太郎は……

 

「うぉっしゃああああああああああああああ」

 

 聖堂で項垂れてたのは何だったのかと言わんばかりにテンションを爆上げして叫び声を上げた。

 

「ちょっ、煩いよ、龍太郎くん!」

「あっはっはっは、当然だろ。今なら何も怖い物なんてねぇ。神の使徒だろうがなんだろうが掛かってきやがれ!」

「いやそれ死亡フラグだからね。っていうか、どんだけ嬉しいの? テンション上がり過ぎ!」

「嬉しいに決まってんだろう! 人生初の彼女だ! それも、鈴だ! 最高だ!」

「もう……」

 

 鈴も気持ちを汲んでやりたいところだが、ここは聖堂である。いつまでもガタイのいい男が雄たけびを上げていい場所じゃない。

 

 どれ、ここは意趣返しといくか。と鈴は割とびっくりさせられたことに対する仕返しと言わんばかりに自覚無しに上がってる自身のテンションに従って行動する。

 

 背丈の違いを空間魔法で足場を作ることで埋め、鈴は背伸びして……

 

 不意打ちで龍太郎にキスしてやった。

 

「はっ…………えっ」

「これで静かにする気になった?」

「お、おう」

 

 流石に不意打ちだったのか目を白黒させる龍太郎。そして、何をされたのかを知って顔がやかんのように赤くなる。その姿を見た鈴はしてやったりと思う。

 

 だがその余裕は、鈴の肩に乗せられた龍太郎の手で崩れ去る。

 

「すまん。正直よくわからなかった。……もう一回」

「へっ、いや、ちょっっ! 二回目とかないから。ッッもう!」

 

 口では何とでも言える。だが鈴は碌に抵抗することもなく。

 

 今度は龍太郎からの仕返しを静かに受け取るのだった。

 

 

 ~~~~~~~~~

 

 

「……どうやら鈴も龍太郎もここが私の内界であることを忘れているようですね」

 

 意図せず全て覗き見する形になったユナは困った声を上げる。自分のことを完全に棚に上げるとするなら神聖な聖堂でこれ以上の行為は困ってしまう。

 

「ですがこれで二人は心配いりませんね」

 

 これを死亡フラグと取る文化はユナにはない。ユナが知っていることは、互いが互いを想う心は強い力を産むという事実だけだ。

 

 ならば次にユナがするべきことは……

 

 

 今夜より、長き旅を開始する雫と優花の手助けをすることだろう。

 

 

 そう思ったユナは自身の内界で色々盛り上がりかけている鈴と龍太郎を一旦自身の内界から強制的に放り出すことにした。

 




>ハジメのセリフについて
実は私は原作でのハジメのクラスメイトに対する演説にしっくりきていない人です。以前から語るようにハジメはもっと不器用なやつだというのが私の印象です。なのでここで光輝のお株を奪うようなカリスマ発揮してカッコ良く士気を盛り立てるのは、正直似合わないと思ったので本作では控えめに、あくまで技術者としてユエを取り戻したら地球に帰れると説明するだけという形になりました。それでも十分だと私は思っていたりします。

>鈴の必殺技
それと同時に蓮弥のトータス編での最後の強化イベント。これにて技や魂の練度はともかく、蓮弥は創造位階での完成形に至ると思います。

>とある拳士のハッピーロード
そういうわけで原作より一年早く龍太郎×鈴のカップリングが成立しました。もっとも本作ではそれなりにフラグは立ててたと思うので意外でもなかったかもしれませんが。

次回は雫と優花の話。二人は邯鄲を攻略する上で避けては通れない試練に挑むことになります。
次回も早めに出したいです。

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