ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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今回はLight要素、というより戦神館要素多めです。今回の内容については本作との擦り合わせによるアレンジが入ってるのでご承知下さい。

今回、いつか雫にやらせなければならないと思ってた試練を与えます。


長き夢の旅路

 ──邯鄲法

 

 盧生というサーバーを介する事で人類の普遍無意識へ夢という形で繋がり、力として引き出す秘術。

 

 一度普遍無意識に繋がればそれで完成するというわけではなく、盧生とその眷属は段階的に構成される夢界への挑戦を行い、人類種への理解を深めることを求められる。

 そして夢界行の果てに悟りを得た盧生のみが真に邯鄲法を完成させ、夢の現実への持ち出し、あるいは封印を可能とする術だ。

 

 もっとも、それはあくまで邯鄲法が生まれた大正時代での認識であり、約1世紀に渡る夢界の調査と研究、それに伴う技術の発展により、現代では夢界に盧生を介さずアクセスする方法が確立された結果、夢の一部を持ち出して行使する者達も現れ始めている。

 

 そして百年越しにようやく現れた盧生の適正者である八重樫雫もおそらく、邯鄲法を確立した逆十字が本来想定していた盧生という形とは外れた位置にいることは間違いない。

 もっとも、そもそも雫以外に盧生候補は現れたことがないゆえに定義も何もないのだが。

 

 実は逆十字から邯鄲法の研究を継承する形になった神祇省の術者達は、彼らなりに盧生になり得る者についての仮説を立てていた。

 盧生は普遍無意識の阿頼耶を掴むものであるからこそ、普遍無意識に属する人類の善性も悪性も両方理解し、肯定しなければならないはず。なので先天的要素として、その誕生に真っ当な慈愛と強い悪性を注ぎ込まれるような歪な環境で育つ必要があるのではないかと仮定したのだ。

 

 もっとも残念ながらオリジナルの邯鄲法自体が未完成のまま封印されていた曰く付きの代物だった上に、裏の世界ではもっと扱いやすく便利な夢奏鋼(アダマンタイト)を用いた夢界への干渉が主流だったが故に仮説を証明することはできず、ようやく現れた盧生候補である雫はその仮説に当て嵌らないので、この仮説は間違いであることが逆に証明されてしまった。

 

 否、適正者が一人というサンプル数の少なさ故に間違っているとも言えない。結論を言ってしまうなら盧生について未だに何もわからないというのが正しい。もしかしたら神祇省が立てた仮説とは別の条件に雫が当てはまったのか、或いは偶々逆十字が選ばれず、偶々雫が選ばれただけで無作為に探せば案外、日本国内だけでもそれなりの数の適正者がいる可能性もある。

 

 そしてそんな中誕生した盧生である雫は、その攻略も想定に従わないやり方で攻略してきた。

 

 ある時は神の使徒相手に、ある時は大災害という脅威を超えることで、そしてある時は自分自身との対話によって。

 

 ある意味雫が飛ばされたトータスという世界自体が、地球の常識からしたら夢の世界のようなものだからだろうか。眷属の数が多い故のショートカットはあったかもしれないが、それでも現実で戦いながら雫は邯鄲の攻略を進めてきたことに間違いはない。

 

 だが、それもここまで。

 

 前述したが、邯鄲法を完成させ、夢を掴み盧生として真に完成するためには夢界への挑戦が必須である。だからこそ、第七層ハツォルはとうとう、雫に真っ当な夢界の攻略を条件に提示してきたのだ。

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

 決戦の日まで残り二日と迫る夜中に、蓮弥は王宮まで来ていた。

 

 つい先程までユナの内界にて鈴や龍太郎と共に修行を行なっていた蓮弥だったが、現実時間で夜を迎えたことで一端現実世界に戻ってきたのだ。

 

「雫……入るぞ」

「うん、いいわよ」

 

 そして蓮弥は今、王宮内に割り当てられた雫の部屋に来ていた。

 

 そこはかつて蓮弥と雫が結ばれた部屋でもあるわけだが、現在は特に変わった様子はない。強いて言うならそこにいるのが雫だけじゃないことぐらいか。

 

 そこにいたのは園部優花。現在蓮弥のパーティーに属する投術師であり、盧生である雫の現状唯一の眷属だ。

 

 盧生と眷属。その関係は徹底して盧生が上位に置かれる契約であり、眷属は力の有無だけなく、盧生と命の共有までしているらしい。以前優花が雫が死ねば自分も死ぬと言っていたのでノーリスクで強大な力を分けられるわけではない。

 

 そして一度雫は、蓮弥を自身の眷属にできないか試したことがある。それはある事を見越しての判断だったが、結果的には失敗に終わることになった。

 

 蓮弥のエイヴィヒカイトが邪魔をしているのか、それとも他の理由があるかは判断できなかったが、何度やっても蓮弥は雫の眷属にはなれなかった。

 

 それはつまり……

 

「雫……準備はできたんだな」

「……うん。覚悟はできたわ。私と優花はこれから……第七層ハツォルの攻略を行う」

 

 これから始まる雫の旅路に、蓮弥はついて行くことができない事を意味していた。

 

 

 第七層ハツォル。最終階層である第八層一歩手前に位置する夢界が突破条件として雫に対して要求してきたことは、真っ当な夢界の攻略だった。

 

 それは本来もっと早く経験してしかるべき試練。今までその試練を介さず夢界の階層を突破できたのはトータスという環境が生んだ偶然だと雫は考えている。

 

 本来人間の価値観を含めた急激な成長など地球、ましてや現代日本では望めない。なぜなら平和な世界で生きるだけなら夢の力など必要ないからだ。そういう意味では雫は盧生としては恵まれた環境にいたといってもいいだろう。

 

 だがそれだけでは限界が見えている。恵まれた環境だけでは盧生の本質には永遠に辿り着くことはない。その本質に近づくためには、本来の攻略工程を辿る必要があった。

 

「第七層攻略は単純よ。一定期間夢の世界で生き抜くだけでいい。私の場合はそう提示されてきたわ」

 

 他がどうかは雫以外に例がないのでわからないが、少なくとも雫に関してはそう夢界は提示してきた。

 

「今までに比べて攻略に長い時間がかかるんだよな……だから聞かなきゃいけないけど、具体的にどれくらい時間がかかるんだ?」

 

 蓮弥が聞いているのは、雫が更なる力を手に入れるためには、夢の世界で長い時間修行しなくてはいけないということだけだ。だが具体的にどれくらい時間が必要なのかは聞いていない。神父が提示した日まで時間が余っているとは言い難いのだ。

 

「それは問題ないと思う。現実時間ならたぶん……丸一日と少しくらいかな。順調にいけば明後日の朝には目覚められると思う」

「……夢の中では?」

 

 雫は少し言葉に詰まるも、決意を込めた目で蓮弥を見つめ、己の試練を語った。

 

 

 

「…………百年よ」

 

 

 つまり現実では一日そこらの時間だけ眠っていても、これから雫達は連続百年という時間を夢の世界で過ごさなくてはならないということ。

 

 百年と言う時間は竜人族のティオや吸血鬼のユエのような最初から長命種として生を受けた者なら大した時間ではないのかもしれない。だが人間にとっては十分すぎるほど長い時間だ。現代日本人の平均寿命が八十歳前後である以上、大半の人間は百年と言う年月を経験する前に一生を終える。人が生まれて死ぬまでの時間より長い、それが百年という年月。長命種の百年と人間の百年では重みがまるで違う。

 

「平気なのか?」

「……全く怖くないと言えば嘘になるわ」

 

 百年間、仮想世界で生きろと言われて即答する人間は少ないだろう。例え現世に未練が全くない人間であろうともそう簡単ではない。なぜなら百年経ったら夢から覚めるのだ。しかも現実ではたった一日しか経ってないわけである。その認識のズレは否が応でも意識せざるを得ない。

 

「私はね、蓮弥がついてきてくれるなら、きっとどこでも耐えられると思う。けど……だからこそなのかしら。私が蓮弥を眷属にできないのは」

 

 蓮弥が一緒ならどこにでも、いつまでも過ごせるかもしれない。だがそれでは試練にならないと阿頼耶は判断したのかもしれない。

 これから雫は百年という年月を蓮弥無しで過ごさなくてはならない。今日眠りに付き、第七層の試練を始めてしまえば、雫の感覚の中で蓮弥に会えるのは百年後なのだ。

 

「それでも、挑戦するんだな」

「うん。だってそれが私が強くなるための一番の方法だもの。ここにきて妥協したくないの。光輝の時のような思いはしたくない」

 

 それでも雫が挑戦を辞めないのは、やはり光輝のことが尾を引いているから。

 

 強くなった光輝に対して、雫は何もできなかった。それどころか神父から光輝がこうなった責任の一端が雫にあるとまで言われた。

 

 ずっと見ているつもりだった。光輝が成長するために突き放したつもりだった。だけどそれは光輝にとっては、余計なお節介だったのかもしれない。単に光輝を傷つけただけなのかもしれない。

 少なくともそう告げる神父に対して、雫は反論を口にできなかった。

 

 これからの戦いは、神との戦いであると同時にあの神父との戦いでもある。その時に精神の傷を抱えたままでは思わぬ不覚を取ることもあり得る。

 

 そう言う意味では、邯鄲での修行はうってつけと言えた。なぜなら誰にも邪魔されない場所で、様々なことを見つめ直す機会が与えられるのだから。

 

 だけど……

 

 思わず、雫は蓮弥に抱き着く。

 

「雫……」

「怖くないわけないじゃないッ。だって……百年後の自分なんて誰も想像できないわよッ。もしかしたら、今の私と全然違う私になってるかもしれないじゃないッ。それに……蓮弥のことを、忘れるかもしれない」

 

 雫が一番恐れていること。それは百年という長い年月により、この想いが風化しているかもしれないということだった。

 

 人は飽きる生き物だ。どれだけ情熱を傾けていても時が経てば想いが薄れ、消えていく。それがずっと側にあるならともかく、百年も側になければどんどん忘れていくかもしれないのだ。

 

「嫌よ。私……蓮弥のことも、蓮弥のことが好きだということも……忘れたくないよ」

 

 涙声で雫が蓮弥に不安を打ち明ける。

 

 百年間一度も会えない人のことを、ずっと想い続けるという不変の境地に雫はまだ達していない。

 もしかしたら蓮弥のことを好きでなくなっているかもしれない。それは雫にとって今の自分とまったく違う自分になるに等しいことであり、耐えがたいことだった。

 

「……なぁ、雫」

 

 そんな雫を蓮弥はそっと抱きしめながら優しく声をかけた。

 

「邯鄲に、盧生……その単語を聞いて昔、父さんに聞いたある故事のことを思い出したんだ」

 

 そして蓮弥は、父親から聞いた中国の故事の話を語り始める。

 

 ──故事『邯鄲の夢』

 

 邯鄲の枕とも一炊(いっすい)の夢とも呼ばれるその物語は、盧生という名の若者が、人生の目標も定まらぬまま故郷を離れ、(ちょう)の都の邯鄲に赴くところから始まる。

 

 旅の道中、ある町で盧生が昼食を食べるため一軒の店に入る。そこで呂翁(りょおう)という道士と出会い、延々と僅かな田畑を持つだけの自らの身の不平を語った。するとその道士は夢が叶うという枕を盧生に授ける。

 

 その枕を使った盧生に待っていたのは栄枯盛衰の日々。邯鄲に着いた自分はみるみる出世し嫁も貰い、時には冤罪で投獄され、名声を求めたことを後悔して自殺しようとしたり、運よく処罰を免れたり、冤罪が晴らされ信義を取り戻したりしながら栄旺栄華を極め、国王にも就き賢臣の誉れを得るに至る。子や孫にも恵まれ、幸福な生活を送った。しかし年齢には勝てず、多くの人々に惜しまれながら眠るように死んだ。

 

 だがその後、目覚めた盧生を待っていたのは、枕を使って眠る前に頼んでいた栗の粥が煮えたという老人の声だったのだと言う。

 

「その後、盧生は人の世の栄枯盛衰は、儚いものであることに気がつき、邯鄲に行くのをやめ、何事もなかったかのように故郷に戻ったという話だ。所謂夢落ちってやつだな。つまり……夢なんて所詮そんなものだってことだよ。例え雫の見る夢がどれだけ現実に近い、真に迫るリアルなものだったとしても、今の雫を丸ごと塗り潰してしまうことになんてならない」

 

 普通とは違うとはいえ、所詮夢は夢。そんなもので現実の八重樫雫が変化するわけがないと蓮弥は雫に言い聞かせる。

 

「それに……万が一俺のことを忘れてしまったのだとしたら、その時は俺が何度でも思い出させてやる。雫は俺の女で、俺はもう雫を手離す気はないんだ。だから絶対に、もう一度雫を俺に惚れさせてみせる」

「蓮弥……」

「雫……」

 

 瞳を潤ませた雫が真っすぐ蓮弥を見る。その瞳が蓮弥に対し何を望んでいるのか明白であり、その想いに応えるべく、抱き合う蓮弥と雫はだんだん距離を縮めていき……

 

 

 

 

「あのー。盛り上がってるところ悪いんだけどさ。二人とも完全に私がいること忘れてるよね」

「ひゃぁぁ!!」

 

 ジト目を向け、不満増し増しの声を蓮弥と雫に向ける優花によって止められる。雫は完全に忘れていたようで思わず可愛い声を上げて蓮弥から引き下がる。

 

「ゆ、優花ッ!?」

「はい、部屋の隅で除け者にされたお邪魔虫の優花ちゃんですけど、何か?」

 

 その声は今なお冷たい。どうやら自分だけ除け者にされて二人の世界を形成されたことを根に持っているらしい。これには蓮弥も罰が悪い表情を浮かべるしかない。

 

「すまん」

「ごめんなさい……」

「全く……百年間、夢の中で過ごすのは私も同じなんだけどなー」

 

 盧生である雫が百年に渡る邯鄲への潜航を行うというのなら、必然眷属である優花もそれに巻き込まれることになる。百年の人生を経験するのは優花も同じだ。

 

「まぁ私は夢の中じゃ雫が生きてる限り不死身だし、いざという時は途中下車できると思えばまだ気楽な方だけど」

「それでも……楽な旅路じゃないと思うわ。いえ、場合によっては私よりも……」

 

 眷属は盧生と違って盧生との接続を切ることで夢から途中退場することができる。いざという時の逃げ道があるということで、確かに優花の精神的負担は軽くなるのかもしれないが、眷属である優花の役割は意外と重要だ。

 

「私は夢界(カナン)が提示した期間を夢の中で過ごすまでは絶対に死ねない。だから夢の中の内容次第では、優花には身体を張ってもらう機会が巡ってくるかもしれない」

 

 第七層の攻略に失敗する条件とは、雫が夢界(カナン)が提示した百年という期間を迎える前に夢の中で死亡することだ。そうなればゲームオーバー。夢の死は現実に反映され、雫は二度と目覚めないまま死亡することになる。そして盧生である雫の死は、命を連動する立場にある眷属である優花の死にも直結する。

 

 だからこそ。場合によっては盧生である雫を守るために、眷属である優花が身を差し出すという展開がないとも限らないのだ。夢の中の優花は雫が生きている限り復活可能だが、雫が死んだら一緒に死ぬのだから。

 

「それでも優花は……私に付いてきてくれる?」

 

 それは暗に引くなら今しかないという雫からの優花への気遣い。

 

 どうしても案じずにはいられないのだ。例え神父からそういうのが無用のお節介だと言われようとも。

 

「心配してくれてありがとう、雫。でも大丈夫、私だってこのまま負けっぱなしでいたくないし」

 

 だが優花は雫の想いを察して、雫に礼を述べた上で自分の決意を語る。

 

「眷属だからって雫の都合に巻き込まれたわけじゃない。これは私が自分で決めたことだから。だから一緒に夢に行こうよ雫。そして……一緒に帰ってこよう!」

「優花……」

「それに……朝も昼も夜も一緒にいるようになってわかったけど、雫って思ってたほど女傑ってわけじゃないしね。一人くらいついて行かないと寂しいでしょ?」

 

 優花の強い気持ちに対し、雫は己を恥じる。

 

 思い返してみれば、ハジメと蓮弥が奈落の底に落ちて皆大なり小なり気を落としていた時も、自分にできることをしたいと立ち上がり、愛ちゃん護衛隊を結成したくらいなのだ。地球から来たクラスメイトの中でも、優花はとても強い女性だ。土壇場で活動できる芯の強さを持っている。

 

 優花がついてきてくれるのなら、雫にとってとても頼もしいことだろう。

 

「わかった。決意が固いようならもう言わないわ。一緒に夢を超えましょう!」

「うん! ……それで……蓮弥君」

 

 雫と共に行く決意をした後、優花は蓮弥と向かい合う。

 

「私も百年、夢の中で頑張る。それでね、その……もし、もし私が百年経ってもこの気持ちが変わらなかったら……地球に帰った後、私と一回デートしてください!」

「なっ!? ちょっと!?」

「わかった」

「蓮弥!?」

 

 優花のデートの申し込みに対して、狼狽する雫を他所に蓮弥は即答で返事を行う。

 

「この約束が、優花の心の支えになるものならやぶさかじゃない。その代わり……雫を頼む!」

「うん、任せて!」

 

 蓮弥は雫の夢の旅について行けない。そして夢の旅は場合によっては命の危険も伴うものだ。だからこそ蓮弥は、自分の想いを優花に託すしかない。デートを賭けるだけの価値はある。

 

「私からも、雫に送るものがあります」

 

 そう言って光と共にユナが形成して姿を現す。先ほどまで龍太郎や鈴の指導をしていたのだがどうやらそれが一段落ついたらしい。そしてユナは錬精の聖術にて自らの魂の一部を切り分け、ミニユナを生み出すと雫の中にそっと溶け込ませる。

 

「これは……」

「私の分身のようなものです。雫の眷属になれないのは私も同じなので、夢の世界であまりすごいことはできないかもしれませんが、話し相手くらいにはなれるはずです。お守り替わりに連れて行ってください」

「ありがとう、ユナ」

「あなた達の無事を祈っています。必ず戻ってきてください」

「もちろんよ」

 

 

 そしてそれから少しだけ、四人で他愛無い話をした後、旅たちの時は来た。

 

 雫と優花は、一緒のベッドに蓮弥を間に挟んで横になっている。就寝準備を終えた二人はとてもいい匂いをしており、触れている箇所から二人の身体の柔らかさを感じて蓮弥は少しだけ落ち着かないことになったが、二人のことを考え、じっと耐えることにする。

 

「えへへ~」

「もう、優花。デートのことといい本当に油断も隙もないんだから。言っとくけど今回だけだからね」

「わかってるって」

 

 優花が機嫌よく蓮弥の片腕を抱きしめながら横になり、逆側の蓮弥の腕を雫が抱きしめ、優花に少し不満を言う。これから大きな試練に挑む直前とは思えない。まるで夜中にパジャマパーティを開く女子高生のようだった。

 

 だがそれはすぐに終わる。何気ない話を行っていた二人も徐々に目が虚ろになっていき、まず最初に優花が眠りに落ちた。これで夢界へ繋がる親機に当たる雫が眠れば、第七層の試練は始まる。

 

「ねぇ、蓮弥……」

「……何だ?」

 

 眠りに落ちる直前の意識の中、最後に雫が蓮弥に語り掛ける。

 

「私が帰ってきた時…………蓮弥が目の前に……いてくれたら……嬉しい」

「わかった。雫が起きた時は側にいる」

「…………約束よ」

 

 

 そして……

 

 

「蓮弥………………行ってきます」

 

 

 

 その言葉を最後に、雫は百年に渡る人生の旅を始めるため、文字通り夢の世界に旅立っていった。

 

 

「おやすみ……雫、優花。良い夢を……」

 

 

 雫と優花がいい夢を見れますように。

 

 

 その願いを込め、祝福を与えるように、蓮弥は雫と優花の額にキスを落とした。

 




あなたは、目の前の百年ボタンを躊躇なく押せますか?


>邯鄲の夢についての解説
戦神館原作だと邯鄲を制覇するためには、通常の夢界の階層を突破するだけではなく、夢界が用意する仮想人生を経験しなくてはなりません。
例えば戦神館主人公、柊四四八は1回100年設定で最低でも3回分+αの人生を経験しています(ちなみにこの3回はヒロイン4人中、3人分のルートとも言える)
この周回数はどれだけ眷属がいるかで変わるので原作にて第八層到達までにかかった時間は盧生ごとに違います。

第一盧生 「魔王」 甘粕正彦(ウルトラ馬鹿)
眷属数:0人
周回数:100年×500周
現実経過時間:10年

第二盧生 「英雄」 柊四四八(優等生馬鹿)
眷属数:仲間6人+3000人以上
周回数:100年×3周+α
現実経過時間:1週間

第三盧生 「死神」 クリームヒルト・ヘルヘイム・レーヴェシュタイン(メスゴリラ)
眷属数:3人?
周回数:不明
現実経過時間:1ヶ月

第四盧生 「仙王」 黄錦龍(ファンジンロン)(阿片おじさん)
眷属数:300万人
周回数:不明
現実経過時間:数時間

眷属の数が多いほど第八層到達までの難易度が優しくなり、攻略時間も短縮されるが、ショートカットした分、第八層で待つ最後の試練の難易度が上がる。だからこそ眷属数0人の甘粕は第八層の試練を一人だけ免除されています。

前置きが長くなりましたが、じゃあ本作ヒロインの八重樫雫の場合どうなるのかというと、四四八と阿片おじさんの中間なのでこんな感じになります。


盧生候補 「???」 八重樫雫
眷属数:1人(優花)+1万人以上(第四章にて蓮弥を助けるために契約した王都の民の数)
周回数:100年×1週
現実経過時間:1日

くらいかなと考えています。

さて、肝心の雫の夢の中身何ですが、実は書くか書かないか迷っています。一応構想しているのですが、どう考えても長くなるのでテンポが悪くなるのが原因です。

ちなみにどういう世界を辿るのかというと、藤澤蓮弥のいない世界、つまり原作「ありふれた職業で世界最強」に限りなく近い展開を迎える世界(アフター含む)になります。
もしも本作の雫と優花が原作ありふれ世界に逆行したら? と言い換えてもいいかもしれません。
たぶん雫に

「唯一魔王とその正妻が逆らえない女傑」
「魔王と嫁~ズを刀一本でまとめて叩き潰す魔剣士」
「対ナグモ属性完全ガードの女」
「日本政府最後の切り札」
「ソウルシスターズをけしかけるだけでホワイトハウスを攻略できるお姉様」
「お願いします。今魔王達のストッパーができるのは世界で君しかいないんです。マジでお願い(by世界の要人一同)」

などの称号がつく可能性が高いです。シリアスなところでいくと、魔王達に対抗するために、魔法技術が地球に生まれたことをキッカケに起こる、第三次世界大戦の発生危機や異世界間戦争なんかもあるかもしれません。

もし書くとするなら雫の日記形式でどこかのタイミングで乗せるかも。

次回は一人故郷に帰ったティオの話。

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