そして長くなったので二つに分けます。
緑光石の淡い輝きに照らされる空間に、一人、佇む人影があった。
背後には草原な両開きの扉。両側には規則正しく並んでいる柱の列。大きな空間で、どっか神殿のような厳かな空気が感じられた。
「……ハジメ君」
佇む人影──ハジメは、肩越しに話しかける香織に対して振り返る。
「香織。進捗はどうだ?」
「問題ないかな。ユナちゃんが作ってくれた地図があったから鉱石採取も楽に終わったよ」
「魔物は平気だったか、ここの魔物は油断できる相手じゃなかったはずだが」
「それも大丈夫。私には彼女がいるからね」
そう言う香織の背後に守護霊のように般若さんが現れる。般若のお面を被りながら腰に手を当て威張る般若さんにハジメは苦笑する。
「そういえばシアはどうなった?」
「傷口が開いて大変だったけど、オルクス大迷宮深奥の魔素に満ちた場所で治療したからね。今は完全回復してライセン大迷宮に行ってもらってるよ」
「ミレディか、通信機で呼び出せばいいのに」
「あはは、流石に現状の説明は直接言った方がいいかなって」
いよいよ神との決戦が始まると言う時になってミレディに声を掛けないという展開はない。彼女にとって数千年の戦いの決着が間近に迫っているという事情もあるが、ハジメ達にとっても戦力は多いに越したことはない。
ミレディは到達者だ。正確に言えば蓮弥曰く、一歩手前の領域にいるらしいがそれでも頼もしい戦力に違いはない。ことここに及んで、ミレディも出し惜しみなどしないだろう。
「後はレミアさんにも連絡しておいたよ。それでハジメ君……本当にミュウちゃんに会わなくてもいいの?」
「…………今会っても約束を果たせねぇしな。次会う時は……ユエを取り戻して帰還する手段を手に入れた時だ」
この世界で大きな事件が起きようとしていることを香織を通じてレミアには報告済みだった。一応香織は直接空間転移でエリセンへと赴き、レミアやミュウの周りに異変がないことも再調査済みだ。もちろん恵里の死兵の検査も行っている。
そして決戦が行われる前後にて、レミア達には要塞化した家に避難してもらうように言ってある。空間魔法による空間拡張が行われ、見た目より広くなったレミア邸は海人族の避難場所としても使えるようになっていた。今頃少しずつ避難準備を進めている頃か。
一つの意見としてレミアとミュウを側に呼び出すという案もあったのだが、正直二人がいてもできることはほとんどない。他のメンバーと違って戦闘力が皆無の二人を危険な目に合わせるわけにもいかない故に、エリセンで待っててもらうことになっていた。
「あとは龍太郎君達はユナちゃんの内界で修行中、ハジメ君が専用で作ったアーティファクトを受け取った他の皆も同様かな」
「そうか。なら後は俺が準備を終わらせるだけだな」
「今夜には各国の重鎮達が集まることになってるから忘れないようにね」
「猶予はアワークリスタル空間換算で5日ってとこか。十分だ、これも香織のおかげだよ」
ユナの創造空間をヒントに自分でも時間を引き延ばす空間を作れないか試行錯誤している際に、香織が一つの再生魔法を提示してきた。
──再生魔法、刹那
一定空間において時間を引き延ばす魔法だ。”時間への干渉”という再生魔法の根幹により近い領域の魔法であるこれは、再生魔法の中でも奥義に分類される力である。本来、人の身では行使し得ないレベルの超高難度魔法なのだがそこは香織だ。香織もまた存在そのものが非常識の領域にいる。伊達に現代の魔女などと名乗ってはいない。
そして香織の非常識な再生魔法とハジメの生成魔法が組み合わさって結果生まれたのが、アワークリスタルというアーティファクトだ。このアーティファクトの領域内に入ると現実時間と比較して十倍ほど時間が伸ばせるようになる。膨大な魔力を使用するため大迷宮の深層といった魔素が溢れている場所にしか設置できないという欠点は存在するものの、これによって圧倒的に足りない時間というリソースをハジメは得ることができていた。
「最後に今蓮弥達は何をしてる?」
皆の大体の状況を確認したハジメが最後に蓮弥達のことについて聞く。詳細は伝えられたなかったがハジメ達も雫と優花が何やら特別な修行をしていることは知っているのだ。
「藤澤君なら……もうすぐ雫ちゃんが起きる時間だからって、今頃王宮の雫ちゃんの部屋にいるんじゃないかな」
~~~~~~~~~~~~~~
雫と優花が眠りに落ちて1日経った日の朝。蓮弥は雫の部屋にて朝食の準備をしているところだった。
本来だったら王宮の一室に調理場などないのだが、そこはハジメが作ったサバイバル時に使う空間収納型簡易キッチンを使わせてもらっている。
パンをトースターに入れた後、蓮弥は卵を取り綺麗に割った後、素早く溶いていく。
実は蓮弥は料理ができる。前世の経験もあるし、何より料理上手の母親の影響もあり、ある程度のものはレシピを見ずに作ることができるようになっていた。
王宮にある食材は、どれも日本にあるものと遜色ない品質のものが揃っているので、特別手を入れる必要がないのは楽でいい。卵をふわふわに、ベーコンをカリカリにしたところで用意してあったサラダを添える。そのタイミングでトーストが焼き上がり、綺麗に並べていく。
最後に黒茶を用意する。王都でその存在を知ってから色々試した結果、なんとかそれなりに美味しいものができるようになった蓮弥渾身の一杯である。
「蓮弥……そろそろ目覚めそうですよ」
「ああ、わかった」
蓮弥が朝食を準備している間、雫達を見ていてくれたユナが雫達の目覚めの兆候を蓮弥に報告する。
約束したのだ。雫が起きた時、目の前にいると。その約束を蓮弥は叶えて上げなければならない。
朝食の準備の残りをユナに代わってもらい、蓮弥は眠る雫の側に寄り添う。
現在その顔は穏やかな表情をしているように思う。
ずっとそうだったわけではない。時には苦し気に歪む時だってあったのだ。邯鄲で過ごしす期間は百年。もしそれを迎える前に雫が邯鄲で死ぬようなことがあれば雫と優花は現実に二度と帰れずそのまま死亡する。
そんな現実を前に、夢の中までついて行けない蓮弥には何もすることができない。
こんな時、もしかしたら雫は奈落の底に落ちた蓮弥に対し、今の蓮弥と同じ想いを抱いていたのではないかと蓮弥は思ってしまうのだ。
帰ってくると信じている。だけど自分はその間、相手に何もすることができない。まだ側で見守り続けられた蓮弥はマシな方だろう。ただ信じることしかできないことが、こんなにもどかしいものであることを蓮弥は改めて知ることになった。
だがその日々が報われる時がやってくる。
「んん」
雫が口を開き息を漏らす。それをキッカケに雫は身じろぎをしだし、そして……ゆっくりと目を開けた。
「………………あっ……」
「おはよう、雫」
目を開けた雫だが焦点があっていない。寝ぼけ顔のまま、目の前にいる蓮弥をジッと見つめている。
「…………蓮弥?」
「ああ、おはよう、雫」
改めて蓮弥が挨拶をすると、雫がそっと手を伸ばして蓮弥の腕に触れ、思いっきり引っ張った。
「なッ?」
不意を突かれる形になった蓮弥は雫に引かれるがままにベッドに横になる。
「蓮弥……蓮弥だ! 本物だぁ」
すかさず雫が蓮弥の懐に入り込み、蓮弥の胸板に笑顔で頬擦りする。まるで猫を思わせる仕草に最初は狼狽していた蓮弥だったが、蓮弥の腕の中にいる雫をそっと抱きしめてやる。
「蓮弥……私、蓮弥のこと……忘れなかったわ。ずっと、ずっと!」
「そうか、頑張ったんだな」
「うん。色々あったけどここに戻ってこれた。蓮弥……大好きよ!」
「俺も好きだよ、雫……おかえり」
「ただいま!」
笑顔で抱きしめ返してくる雫の温もりを蓮弥は感じる。
確かに生きてそこにいる。蓮弥からしたらたった一日のことでしかないが、それでも安堵の感情がどんどん湧き上がってくる。
しばらく雫と抱きしめ合っていた蓮弥だったが、背中側にも柔らかい感触が伝わってきた。
「……雫だけずるい。私も頑張ったんだから」
雫を抱きしめつつ振り返ると、雫と同じく目覚めた優花の姿。
「優花もおかえり」
「うん、ただいま蓮弥君……あと私……約束覚えてるからね」
「ああ、約束は守るよ。だけどまずは……」
「そういえば……何かいい匂いがするわね」
寝ぼけたまま蓮弥を堪能していた雫が段々意識が冴えていくのに合わせて、黒茶のいい匂いが漂っていることに気付く。
「二人の起床に合わせて朝食を準備してある。詳しい話はそこでしよう」
蓮弥が雫を離すと雫も名残惜し気に蓮弥から身体を離す。そして優花と共に丁度窓から入ってくる朝日を背に立ち上がる。
この目覚めを持ってして、雫の第七層の試練を完了する。
こうして夢の世界にて修行を終えた雫と優花は、蓮弥のいるこの朝に帰還を果たしたのだ。
それから、蓮弥と雫達は朝食の席に着きつつ話し合いを開始した。
話題は百年のブランクがある雫達に対する現状確認、そして雫達の夢での体験について。
「不思議と今の現状はかなりはっきり覚えているんだよね。私達からしたら百年前のことのはずなのに」
優花が不思議がるように、現状確認を行うも意外と蓮弥と雫達に認識の差異がない。
それはやはり蓮弥が言ったように所詮夢だからかもしれない。凡人がどれだけリアルな夢を見ても、朝起きて行動を始めた時、夢と現実を混同する人がいないように。
だが当然、何の影響もないわけではない。
「百年って思ってたよりあっという間だったわね。栄枯盛衰は一瞬の夢……蓮弥の言ってた通りなのかもね」
そういう雫は心なしか以前よりも大人っぽくなっているように蓮弥には見えていた。大きく変わったわけではないのだろうが、やはり仮想空間であろうと百年も経てば人は変わるということなのかもしれない。できればその時間を雫と共有したかったと蓮弥は少し寂しい気持ちになる。
(いや……よく考えたら俺も似たようなものか)
そこで蓮弥は自身にも前世の記憶などというものがあることを思い出す。前世の自分と今の自分は別人であると、創造習得時やシュネーでの試練で認識した蓮弥だが、全く経験が生きていないわけではない。そういう意味では雫達と変わらないのかもしれない。
「? どうしたのよ、蓮弥」
「いや……雫が急に年寄り臭いことを言ってきたらどうしようかと思ってな」
「失礼ね……確かに夢の中で老齢時代を経験したけれど、心は最後まで若々しくあったつもりなんだから。まぁ、夢の中の香織達が文字通りいつまでも若かったのも影響するんだけどね」
そこで雫が夢の中身についてぽつりとこぼす。そのことに気付いたのは蓮弥だけではなく、朝食を楽しんでいたユナも気になったようだ。
「具体的にどんな夢だったんですか?」
「あら、ユナは小さいユナとは感覚を共有してないの?」
「ええ、雫の元に行った時点で私との接続は切れていましたので」
ミニユナを雫につけたユナだったが、現実との時間差か、それ以外の要因かはわからないが感覚共有はできなかったらしい。雫達が寝ている間にわかったことは雫達が無事かどうかだけだった。
そのことを知った雫は過去を懐かしむような顔で、自分が経験した夢について語り始めた。
「そうね……基本的に現実世界と変わらない世界だったわね。地球で生まれ育って高校生になって。ただ……私にとって重要なことは……蓮弥がいない世界だということね」
「それは、所謂NPCとしての俺もいなかったってことか?」
「そうよ。蓮弥だけ不在のままトータスに飛ばされたの」
そこから語られる雫の物語は、まさに蓮弥抜きで始まったトータスでの日々だった。
「私はできるだけ静観する方向で進めることにしたから……酷いこともしちゃったかもね」
「しょうがなかったわよ。蓮弥君がいないのに、南雲まで弱いままじゃ詰んでたかもしれないしさ。NPCとはいえ心が痛んだけど……」
蓮弥がいないことで起きる差異を警戒して、奈落の底に落ちるハジメを雫と優花はあえて見殺しにしたらしい。だがそこから現実と同じようにハジメはユエと共に奈落の底から生還し、神代魔法を探す旅を始めたので、いくつかの誤差はあったものの、大体現実と同じ展開を迎えたのだという。
そこで蓮弥はあることに気付く。
「まて……ということは雫と優花は……この戦いの結末を知ってるってことか?」
現実と似たような展開を迎えたということは、今この瞬間も雫達は経験したということだ。つまり……雫達はトータスを巡る戦いの結末を知っていることになる。
「一応ね。神話大戦……ああ私達の経験した夢ではトータスでの最後の戦いのことをそう呼んでたわけなんだけど……確かに私達は南雲君を中心として神エヒトに戦いを挑み、勝利することができた。そして南雲君とユエが力を合わせて作った世界移動の概念を宿したアーティファクトの力で地球に帰還できたわ」
雫曰く、阿頼耶が観測しうる未来を夢として経験するのが今回の試練の趣旨ということは、少なくともハジメとユエが揃えば帰還が叶うという自分達の考えは正しかったとわかった。それははっきり言って朗報だろう。
「けどごめんなさい。正直私達が経験した夢と現実の状況に乖離点が多々あるせいで、私達の経験がそのまま役に立つとは限らないのよ」
「正直夢の中でのトータスの冒険は現実より優しかったかもね。だって散々警戒してた大災害とかも結局現れなかったわけだし」
蓮弥が話を聞く限り、雫達が経験してきたトータスの旅はどうやらかなり乖離しているらしい。優花なんかは現実より楽だったとまで言っている。
「というより、うちらの本番はむしろ地球に帰った後からだったんだよね」
「そうね。本当に……色々あったものね」
優花と雫が遠い目をしだしたことで蓮弥は益々夢の内容が気になってくるが、そろそろ現実の話をしなくてはならない。
「夢の世界の思い出話はまた聞かせてもらうとして……今の状況を説明するぞ」
蓮弥は現在の状況を説明し始めると雫と優花も真剣な表情に切り替える。
ハジメが仲間のためにアーティファクトを作成し、今各自アワークリスタルやユナの内界にて修行をしていること。
リリィや愛子先生の活動により、世界の要人達にこれからのことについての話し合いの場が用意されたこと。
そして現在、ハジメはフェルニルなどの調整により、決戦の地である魔王城へ突入するための準備をしていることなど、雫達が眠っている間に起きたことを話す。
「私達の体験した神話大戦は戦場が神山周辺だったから待ち構えることができたけど、現実だと魔王城が戦場だから……」
「ああ、相手のホームで戦う以上、敵は準備万端で待ち構えてるだろうな」
「やっぱり、現実は上手くいかないよね。私達の経験あんまり役に立たなさそう」
それから蓮弥達は雑談も交えてこれからのことを話し合った。
夢での戦いは勝利で終わったらしい。ならば現実でも勝利を掴まなければならない。夢で出来たことが現実ではできないなんて認めない。
必ず勝利を掴む。そんな決意を四人は新たに結んだのだった。
~~~~~~~~~~
そしてその夜。とうとう各国の重鎮達を交えた会議が行われることになった。
場所はハイリヒ王国王都。その場所は今まで以上に物々しい雰囲気を醸し出している。
ハジメが提供したアーティファクトは一時的にこの世界に技術革命を齎していた。王都要塞化のために用意されたライトアップ用のアーティファクトがそこら中にあるおかげで平原を含めて地球の都会並みの明るさを誇る。
それがそれぞれ主要都市に無償で提供されることで夜の闇が一時的に重要都市から消えたのだ。
その光景を雫達をつれて歩いている蓮弥は実感することになった。
立派な塹壕や防御壁、大型兵器が設置された巨大な高射砲塔が目につくが、中でもひと際意識を惹くのはそびえ立つ砦だった。
「これは……すごいな」
「良い魔力が宿っていますね。今までこの国に存在していた砦より遥かに優秀です。これなら神の使徒の攻撃も防げるでしょうね」
蓮弥が感嘆の声を漏らし、ユナのお墨付きをもらった砦は奈落製の高品質の鉱物を使ったことでそれ相応に性能も上がっている。現状できる最高の要塞だと言えた。
「お前達は知ってるかもしれないが、これを作ったのはハジメじゃないんだぞ」
「確かに知ってるわ。王都の錬成師が作ったのよね。けど……」
「私達が夢で知ってる要塞より……すごくない?」
夢の中で体験したはずの雫と優花は要塞のクオリティに驚いていた。それはすなわち、もうこの時点で雫達が知る世界とは変わってることを意味する。
「そりゃ良かった。そう言ってくれればおやっさん達も喜ぶだろうな」
驚く雫達に対して返事を行ったのは、別の方向からシアを伴って歩いてきたハジメだった。
「よう、八重樫。どうやら戻ってきたみたいだな」
「こんばんは、南雲君。元気そうでなによりだわ」
「ああ。色々考えちまったが俺のやることは結局一つだけだ。必ずユエを……俺の最愛の人を取り戻す!」
ハジメの顔を見ると力強い笑みを浮かべているのがわかった。
その堂々たる宣言に、周りにいる作業員や兵隊が思わずハジメを仰ぎ見る。
ハジメの顔を見れば事情を知らない人であっても、ハジメの戦いに賭ける意気込みが伝わってきた。それが現在進行形でこの世界に革命を起こしている中心人物ならなおさらだ。
その宣言を側で聞いていたシアが少し複雑そうな顔をするも、それでもハジメの斜め後ろを歩いているのはシアの覚悟か。
シュネーから帰った後、蓮弥の知る限りシアは、ハジメにべたべたくっ付くことがなくなっていた。ぎこちない雰囲気や険悪なムードが漂っているわけではないが、所謂適切な距離というものを保っている感じだ。
又聞きになるが、蓮弥はハジメとシアの関係が一つの結末を迎えたのを知っている。ハジメが下した決断に対して蓮弥は何も言うことはないし、むしろ言えない。正直ハジメの決断に対して尊敬の念すら浮かべたほどだ。
ハジメとシアの関係がどのような形に収まるかは蓮弥にはわからないが、できれば二人が健やかである関係であればいい。そう蓮弥は心の底から願わずにはいられなかった。
~~~~~~~~~~~~~~
そして蓮弥達が要人達の集まる会議室に入った途端、一気に場が騒めいた。
「これは……
蓮弥がそう呟くように、円卓のテーブルには蓮弥の知る限りにおいて世界のトップクラスの要人達が、後ろに側近を従えながら座っていた。
まず入口正面の一番奥にいるのが異世界からの来訪者の代表達。
──豊穣の女神 畑山愛子
──作戦技術顧問 吉野真央
その左右にいるのがハイリヒ王国と新体制の教会の代表。
──ハイリヒ王国国王代理 リリアーナ・S・B・ハイリヒ
──側近 王国騎士団団長 メルド・ロギンス
──側近 王国騎士団副団長 クゼリー・レイル
──聖教教会新教皇 シモン・リベラ―ル
──側近 助祭 シビル・リベラ―ル
──側近 神殿騎士団長 デビット・ザーラー
リリアーナから時計回りにハイリヒ王国以外の国の重鎮が顔を揃える。
──アンカジ公国公 ランズィ・F・ゼンゲン
──ヘルシャー帝国皇帝 ガハルド・D・ヘルシャー
──フェアベルゲン長老 アルフレリック・ハイピスト
──ハウリア族族長 カム・ハウリア
──冒険者ギルド・ギルドマスター バルス・ラプタ
──側近 秘書長 キャサリン・ウォーカー
──中立商業都市フューレン代表 グレイル・クデタ
──側近 ウィル・クデタ
──同都市冒険者ギルド支部長 イルワ・チャング
その他各国軍の将校や最高位貴族などが列席している。
彼らは蓮弥やハジメ達が入ってきた瞬間、一斉に目線を向けた。
彼らの中には蓮弥達の伝説的所業を又聞きすることはあれど、直接本人を目にしたことがない者達も含まれている。
中にはまだ若い蓮弥達に対し、値踏みするような目線を向ける者もいた。もっとも、中には蓮弥とハジメが見目麗しい美少女を伴っての登場をしたせいで変な方向にヒートアップした者もいる。
「なんじゃなんじゃ、あの小僧達が愛子殿が言っておった奴らか。これまた見目麗し美少女を連れ立って歩きおって、まったくけしからん」
「そういう目で見ているのはお
シモン教皇が雫達を見て何か言っていたが、孫娘でもあるシビル助祭から諫められていた。
「よう、雫。またしばらく見ない内にいい女になったみたいだな。どうだ、その坊主を捨てて、俺のところに来る気になったか?」
相変わらず雫に対してちょっかいをかけることを忘れないガハルド。それに対して以前のように牽制しようとした蓮弥だったが、前に出てきた雫によって遮られる。
「ごきげんよう、皇帝陛下。お褒めに預かり光栄です。ですが、あいにく私はガキ大将がそのまま大人になったような人物のお守りは絶対にごめんなので、その申し出は永久に辞退させていただきます」
帝国皇帝に対してまるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような雫のセリフにこの対応に慣れていない周辺諸国がぎょっとする。
「ははは、相変わらずだな。それでこそ、手に入れがいがある」
「いや、本気で辞めなさい。というよりあなたはもっとこう……あなたを労わってくれる人を大切にしたほうがいいと思うわ。具体的には、嫌なことがあったり辛いことがあったり、ある暴君のパワハラや無茶振りで胃に複数の穴が開きそうになったり、特一級危険生物種の嫌がらせによるストレスが祟って、将来頭髪が残念なことになっても受け止めてくれるような人を」
「おいちょっと待てッ。なんだその具体的な内容は!? 特に最後のやつ。まるで俺が将来禿げるみたいじゃねぇか!」
「ぶふっ!」
ガハルドの声に対し、雫は無言で可哀想なものを見る目を返した。まるで将来暴君や狂人集団によって多大なストレスを負わされることを知っているみたいな態度だ。一方ガハルドが禿げる光景を想像したのか、密かにリリィが噴き出していた。
「まあその点、現実は良い意味でズレてるし、そうならない可能性も割と高いから安心するといいわ。それと野心も良いけど、もういい歳なんだからそろそろ足元見て、堅実に生きることも考えなさい」
「お、おう……ってお前は俺のお袋か!?」
とうとう雫のオカンが帝国の皇帝にまで発揮され始めた光景を慣れてない者達は目を丸くして見る。
「父様、どうしてここに?」
「今や我らは強大な勢力の一つだからな。特別に参加することになった。それと……どうやらもう元気になったみたいだな。よかった」
「それは……心配かけてごめんなさい」
シアが父親であるカムのほっとした顔を見て心配をかけた自覚があるシアは素直に謝る。カムの方も
そしてカムが参加している理由はカムの言う通りだ。帝国での奴隷制度崩壊事件でのカム達ハウリアの大立ち回りは周知の事実になっているし、ガハルドは隠そうとしているが人の口には戸は立てられない。カムが一騎打ちにて帝国最強のガハルドを破ったという噂も広まってしまっている。
おまけに数多の偶然が重なった結果とはいえ、ハウリア族全員が神代魔法を所持するという異常事態が起きているのだ。もはやハウリアは世界的に見ても無視できない勢力になってしまっていた。
「あ~、そろそろ良いかね? 話を進めたい方がいいと思うんだが」
「あっ、ちょっと待ってください」
役者がそろったことで、さっそく軍議を行うことを提案するランズィに対し、意外なことにシアが待ったをかける。
「いや、私は進めてもいいと思うんですけどね。うぜぇ奴が「え~、そんな大事な会議にミレディちゃんが登場しないなんてないない、絶対ない。ありえな~い。準備するからまっててね♥」とか宣いやがってですね」
シアがその時の様子を思い出したのかイラっとした様子を見せる。同じ想像をしたのかハジメもため息を吐き始めた。
「はぁ、あいつか。けど確かそう簡単にあそこから離れられねぇって話じゃなかったか?」
「そうなんですけど、もうすぐその問題が解決するそうですよ」
そうこう言っている内に蓮弥はこの場に異変が起きるのを感じる。
魔法陣が展開され、空間に穴が開く。空間魔法”界穿”による転移だ。
「ふふふ、待たせたね皆の衆」
そしてその穴の奥から聞こえてくる聞き覚えのある声。
「真打は遅れてやってくる。待たせたね皆、いよいよ主役の登場だよ」
誰も待ってないし、いちいち勿体ぶった言い方が癇に障るのかハジメとシアが露骨にイライラし始める。
「どうせ白髪錬成師君辺りは「はっ、偉そうにちびのゴーレムの分際で」とか私の大迷宮に強盗まがいのことを仕出かした兎ちゃんは「またボコボコに凹ませてやるですぅへへへ」とか思ってるんだけどそうはいかないよ~」
勝手に人の心を想像する上に、”界穿”で穴が開いてからそれなりに時間が経つのに声だけしか響いてこないことにハジメとシアだけでなくガハルドあたりもイライラしているのが伝わってくる。
「だが知るがいいッ! 慄くがいい! 練炭から譲り受けた神結晶とユナちゃんを参考に作り上げたミレディちゃんの術式を。いやぁ、エイヴィヒカイトなんてIQ高い馬鹿が作ったような術式をこちらの術式に落とし込めてしまうなんて自分の才能が恐ろしくなるわ~」
ハジメの手がドンナーに伸び掛けては引っ込めるという動作を繰り返し始める。前口上が長い上に自慢話まで混ざる辺り、蓮弥も顔が引き攣ってくる。
「おっとそろそろ我慢の限界かな。それじゃあ、いくよ~」
「
穴から光が溢れだし、強大な魔力が渦を巻く。
そして……この地に残った最後の解放者はその真の姿を現す。
光から出てきた一人の美少女。
重力に逆らうようなふわふわと靡く金髪のポニーテール。白を基調としたゴシックドレスに身を包むその姿は外見年齢15歳ほどだろうか。
そして開かれた目のサファイアブルーの瞳は、見た目によらない強い意思を感じさせた。
現れたその美少女をハジメは知らず、蓮弥は知っている。なぜなら彼女から人類の反撃は始まったのだから。
「いえぃ、いつも無敵で素敵で最強な天才美少女ッ、みんな大好きミレディちゃん。ここに参上!!」
そんな始まりの解放者はばっちりピースサインでポーズを決め、皆の前にその真なる姿を現したのだった。
その姿を見たハジメとシアは、その溢れ出るウザさから初見で彼女がミレディであると確信し、彼女を知らない大半の人間が「何言ってんだこいつ?」となったのは言うまでもない。
>ミュウとレミア
原作だとこの辺りで存在感が増している彼女達ですが、本作では出番なし。
レミアとミュウファンには申し訳ありませんが、私には彼女達の出る必要性がどうしても思いつかなかったです。正直原作で再登場した時も一瞬誰かわからなかったのは此処だけの話。
>雫と優花、無事に夢の世界から帰還
これで雫と優花の精神年齢は117歳です。とはいえ戦神館キャラも長い時を過ごしたからといって若い頃と性格が大きく変わったかと言われたらそんなことはないので基本は今までと同じです。
ちなみに、今の雫にとって、ガハルドは身体の大きいジャイアンでしかないので、皇帝相手でもオカンを発動できます。
>ミレディ、魂魄形成を取得
零ミレディついに登場。仕組みはユナというよりはDies原作でルサルカの聖遺物を乗っ取って魂魄形成を覚えた司狼方式。たぶん戦闘力皆無なミレディゴーレムではできない直接戦闘が可能に。
次回は話し合い後半と囚われてるユエ視点になるはず。