ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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久しぶりに更新されたのを確認した際に、嬉しさのあまり思わず第一話から読み直すくらいの面白い作品が書きたい(願望)


魔王城での戦い

 敵の包囲網を突破し、魔人領域の最深部、すなわち魔王城が見えてくる。

 

 ──魔王城

 

 その様相はまさにRPGに出てくるような不気味な城そのものであり、雲海を眺められるほど標高の高い山の頂上を切り取ったような場所に聳え立つそれは、対岸の山から繋がる細い道でのみ繋がっている山の上の堅牢な城だった。

 

 その位置関係の都合上、仮に人族の軍が魔王城を攻めようとしてもそう簡単には攻略できないような作りになっている。だがそれも聳え立つ魔王城上空を浮遊できるフェルニルには関係ないことだった。

 

 フェルニルが上空に浮かぶ中、先に魔王城付近に潜伏していたティオがフェルニルに近づいてくる。

 

 ”ご主人様よ。ここらの敵はあらかた掃討は済んでおる。増援が来る前に攻めるのがいいじゃろう”

「ご苦労、ティオ。助かった」

 ”ふふん。礼には及ばぬ。今の妾にとって歯ごたえのない敵ばかりだったのでな”

 

 そうは言いつつもティオは褒められて満更でもない声を返す。

 

「南雲。私はフェルニルで待機してるから!」

「ああ、任せたぞ吉野。ティオ!」

 ”うむ、皆妾の背中に! ”

 

 流石に魔人族の領域でフェルニルを無造作に着地させるわけにはいかない。フェルニルの護衛として残る竜人族以外のメンバーはすぐに竜化中のティオの背中に飛び乗る。

 

 ”では行くぞ。敵の中枢。魔王城へ”

 

 黒き竜の背に乗り、一行は魔王城へ突入する。

 

 この先に待つ、激戦の予感を覚えながら。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

「いたぞッ! 奴等をここで仕留めるぞ!」

「魔法隊構えッ、撃て!!」

 

 魔王城に突入して間もなく、道を塞ぐように魔人族の魔法部隊らしきものが魔法を撃ったなら……

 

聖術(マギア)4章3節(4 : 3)……"聖練雷槍"

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 ユナの聖術で魔法を全て押し返し、魔法部隊をまとめて吹き飛ばす。

 

「奴等をこれ以上先に進ませるな! シールド隊。魔法障壁展開!!」

 

 またある時は魔人族の部隊が大盾を構えて多重魔法障壁を展開し、道を塞ごうとしてきたら……

 

「しゃらくせぇぇですぅぅ!」

 

 蓮華のエネルギーを纏ったドリュッケンを振りかざしたシアの一撃で粉々に吹き飛ぶ。

 

 広いエリアに出た際には大勢の魔物が待ち構えており、現れた一行目掛けて数多の属性攻撃を繰り出してきた。

 

「”聖絶・散”」

 

 だがその属性攻撃も鈴の展開する結界に防がれる。

 

「邪魔すんじゃねぇぞ雑魚どもッ!」

 

 攻撃が止んだ隙を付き、龍太郎が駆け出し、その剛腕を持って魔物を文字通り薙ぎ払っていく。

 

 魔物も決して弱くはない。だが、数多の修行を得て力を付けた龍太郎はもやはこの程度では止まらなかった。

 

 

「おかしい。いくら何でも手ごたえが無さ過ぎる」

 

 順調に進撃を続ける一行。だがここで蓮弥が違和感を覚える。

 

 確かに現状の一行は過剰戦力とも言えるレベルの人員が揃っている。それは今もなお襲い掛かる魔物に対して、考えながら迎撃できることでも明らかだ。

 

 だからこそ、この現状はおかしいと感じざるを得ない。

 

「ああ、さっきから足止めにもならねぇ雑魚ばかり。一体どうなってんだ?」

「魔人族の神代魔法使いであるフリードもいないみたいだし、神の使徒も一体もいないなんて……」

 

 雫の言う通り、この城に入ってから神の使徒の姿を見かけていない。道中邪魔する際はあれほど山ほど湧いて出てきたというのに、本丸である敵の城の中に配置されていないということがありえるのか。

 

 蓮弥は脳裏に嫌な予感が過った。

 

「ハジメ……本当にこの先にユエはいるのか?」

 

 代わり映えのない静寂に満ちた空間を高速で移動しながら、ハジメは無言でもう一度”導越の羅針盤”を使用する。

 

 そこでハジメの脳裏にユエの居場所の詳細な情報が伝達される。ユエの居場所は確かにこの通路の先だと示していた。

 

「確かにこの先を指してる。間違いねぇ」

 

 だがハジメのその言葉に若干力がない。ハジメとて蓮弥と同じ違和感を感じている。ユエとの距離が、少しずつではあるが近づいていることを羅針盤が教えてくれていなければ、ハジメも進行を止めざるを得なかったかもしれない。

 

 

 ミレディ達解放者達が作った”導越の羅針盤”は異世界である地球の座標すら正確に映し出して見せた。その力に間違いはない。だが……

 

「ユエッ!」

 

 通路の先にあった一つの扉をハジメが蹴破り、中に侵入する。

 

「誰も……いない?」

 

 部屋は落ち着いた雰囲気の寝室であり、テーブルには二人分のティーカップがそのまま放置されている。だがどこを見渡してもユエの姿はない。

 

「羅針盤は……あっちを指し示してるッ!」

 

 ハジメが足早に天幕で覆われているベッドに近づき、カーテンを開く。

 

 そこにあったのは…………一体の人形。

 

「なんだ、これ? ユエはどこだ!?」

 

 蓮弥も気配探知を行うが、ユエの気配はどこにもない。

 

「おいッ! ミレディ!! どういうことだ!!? どうして羅針盤の先にユエがいねぇ!?」

「そんなこと言われてもッ……羅針盤が座標を示したらその場に吸血姫ちゃんがいないとおかしいよ。だってそれはそういう概念が宿っているんだから!」

 

 ユエがいないことの苛立ちにハジメが言葉を荒げてミレディを糾弾する。その糾弾に対し、ミレディは戸惑いつつも、毅然とした態度で示す。

 

 彼女にとってもこの結果は不本意だが、羅針盤に間違いはない。なぜならこの羅針盤は、自分とかつての仲間達の真摯な祈りが込められている。その想いに誓って羅針盤に間違いなどないとミレディは確信している。

 

「ハジメ……羅針盤が悪いわけではありません。原因はこの人形です」

 

 蓮弥から離れ自身を形成したユナがボロボロの少女の人形を手に取る。

 

「感じます。この人形に籠められた想念を。子供の死を認められなくて、その現実から逃避するために使われたこの人形の呪い。これは聖遺物です」

 

『聖遺物』──通常のアーティファクトとは違い。数多の想念が重なり、呪いの概念を宿すに至った遺物。

 

「この人形に宿っている概念は『身代わり』。どうやらこの人形のせいで羅針盤が正しく機能しなかったのでしょう。概念魔法は概念魔法で対抗できますから」

 

 望んだ道を指し示す概念を身代わりの概念が狂わせた。そしてそんな代物があった場所といえば一つしかない。

 

「これも禁忌庫の代物か。ッこんなことならもっと詳しく見とくんだった」

 

 蓮弥が禁忌庫を訪れたのは技能の書を取りに行った時とバーン大迷宮に行く時の二回だ。だがそのどちらも、蓮弥は禁忌庫の中身にさほど興味を示さなかった。

 

「クソがッ! つまり魔王城は囮だったってことか!!」

「待て。大した気配を放って無いとは言え聖遺物だ。俺に任せろ!」

 

 ハジメが激情の勢いのまま聖遺物の人形に攻撃しようとするが、相手は聖遺物だ。何が起きるかわからない。

 

 よってハジメが何かする前にユナは蓮弥の元まで戻り、創造を発動。人形を両断する。

 

「■■■■■■■■■──ッッ!!」

 

 人形から声にならない断末魔の悲鳴が部屋いっぱいに響き渡る。真っ二つにされた断面からおぞましい腐臭を放つ血液と臓物が人形の許容量を超えて溢れ出し、しばらくじたばた藻掻いていた人形はやがて動かなくなった。

 

「これで身代わりの概念は消えた。今ならユエの正確な場所が探知できるはずだ!」

 

 ハジメが再び羅針盤を動かすと今度はこの部屋とは違う場所を示す。

 

「これは……南大陸の果て……ここから南西三千㎞地点だと……完全にやられた……ここは囮で……ユエはこの場所から遥か遠いところにいる……ッッ」

 

 ハジメは歯噛みする。魔王城が決戦の舞台と聞いて、自分がいつの間にかゲーム脳になっていて、ラスダンから囚われの姫を救うことに夢中で、今更登場していない辺境の地に移すことを考慮してなかったと後悔した。今まで少なからずハジメの旅路を助けてくれたオタク知識が、ここにきて足を引っ張った形になってしまった。

 

「ユエはここにはいない……なら次の手段を考えないと……」

「おい、ハジメ……少し落ち着け……」

「黙っててくれ! フェルニルの最高速度で飛ばしたとしても数時間はかかる距離。ここまで誘導した以上、普通に移動しただけじゃ多分アウト……ならもうこれしかねぇ」

 

 ハジメが取り出したのは、羅針盤とゲートのアーティファクト。

 

「羅針盤の座標を頼りに、ゲートのアーティファクトで空間転移する。これなら一瞬でユエのところまで……」

「南雲!」

 

 完全に一人の世界に入り、今まで取らなかった手段を行使しようとするハジメを止めたのは、優花だった。

 

「それはやめなさいッ。あんたのゲートは羅針盤の示す場所に正確に転移できないでしょ」

「ああッ、それでも近くには行けるはずだッ、試してみる価値はある!!」

「転移する先の土地の情報が何もない状態での転移は、所謂『いしのなかにいる』状態になる可能性があるから危険だって。これは夢の中の可能性のあんたが言ってたことよ」

 

 ゲートと羅針盤の組み合わせでどこでも転移ができるのならフェルニルなど必要ないのだ。ハジメのゲートを含めた空間魔法を用いた空間転移は、空間魔法の中でも非常に難易度が高い技術だ。それは基本的に魔法に関しては万能なユエが界穿による転移に少なからず時間をかけなくてはならないところからも現れている。

 

 ハジメのゲートは本来座標を設置して、その座標に向けて転移門を開くという仕様だ。行ったこともない場所に転移することを想定していない。

 

 転移先周囲の情報が何もない状態での空間転移は、下手をすると移動先に物体があると埋まってしまう危険性がある。これが壁なら別にいい。ハジメだったら抜けられるが、これが例えば高い岩山の中心や地中深くなどに転移したら一切身動きが取れなくなってしまう。

 

「クリスタルキー。南雲が概念魔法を習得したら作れるようになる、次元間移動用アーティファクトなら羅針盤と組み合わせて正確な転移ができるかもしれないけど……」

 

 だが当然今のハジメの手元にそんなものはないし、急には作れない。

 

 どうすればいい。一行の中に焦燥が募りつつあるこの場に……

 

 

「ようやく気づかれたようですね。アレーティア様がここにいらっしゃらないことに」

 

 

 ──蓮弥達以外の声が現れた。

 

「誰だ!」

 

 ハジメがドンナーを構え、声の方向に振り向くと、そこには女が立っていた。

 

 片側に深いスリットが入っている黒いロングワンピースを着た豊満な身体付きの金髪ロングで赤目の美女。外見年齢は二十代半ば。だがその佇まいは外見年齢以上の落ち着きを感じ、その赤い目はこちらを見定めるかのように鋭く光る。

 

「初めまして。魔王城にお越しの皆様。私の名はミシェール。主命により、南雲ハジメ様を主の元へ案内するために、お迎えに上がりました」

「なんだと?」

 

 その言葉と共に腕を振るったミシェールと名乗った女の側に"界穿"による黒い穴が出現する。

 

(神代魔法使い……それも空間魔法の中でも難易度の高い空間転移を無詠唱で使用か……相当な手練れだな)

『気を付けて蓮弥。彼女……私の知らない人だわ』

 

 その行動で、周囲にその実力を示したミシェールに蓮弥は慎重になる。さらに雫から追加情報が念話で飛んできた。

 

 仮想未来を経験した雫でも知らない相手。つまり神父ダニエル・アルベルトと同じく、敵の戦力は未知数。蓮弥達に囲まれても顔色ひとつ変えないところ、そして漏れ出る魔力から神の使徒以上の戦力を仮定する。

 

「てめぇは一体何者だ!? ユエは無事なんだろうな!」

「もちろん。我が主がアレーティア様を傷つけることはありえません。それで……返答はいかがしますか? 時間が限られているので素早い選択を期待します」

 

 普通に考えれば罠だと考えるのが自然。だが現状のハジメ達がユエのところに向かう手段は限られている。こうしている間にも時間は過ぎていき、ユエの身体を奪い取ったエヒトが高笑いを浮かべているかもしれない。

 

 だからこそ、ハジメが取れる選択肢は一つだけだった。

 

「わかった。連れていけよ。ユエの元に」

 

 罠の可能性があろうとも、ユエの元に行くのがハジメの選択。

 

「ハジメ、言わなくてもわかるだろうけど罠の可能性もあるぞ」

「ああ、もちろんわかってる。だが罠だと言うならこの状況がすでに敵の術中だ。ただエヒトを復活させたいだけなら、俺達をここに放置すればいい。態々俺達の前に情報源になりうる奴を送る意味はねぇ。相手が凄腕なら尚更だ」

 

 すでに罠に嵌ってしまっている獲物に対し、反撃のリスクを負ってまで二重に罠にかける漁師はいない。それでもなお、こちらに干渉してくると言うことは他に理由があるということ。

 

 ユエを取り戻したいという思いが先行していたハジメだが、皮肉にも敵に嵌められたことで本来の思考力が戻ってきた。あらゆる状況を想定して、それを上回るための立ち回りをすでにハジメは考え始めている。

 

「なら私も行きます。ユエを取り戻したいのはハジメさんだけではありませんッ」

 

 シアが身を乗り出して自分の意思を主張する。数多の試練を乗り越え、今や本物の友情を結ぶことができた親友を絶対に助けたいという強い意思が感じられる啖呵。

 

「それはできません。連れてくるよう命じられたのは南雲ハジメ様ただ一人。それ以外の方は何人たりとも通すことはできません」

「そんなもの知ったこっちゃねーです。通さないなら、力づくで通るまでです!」

 

 だが、そんなシアの啖呵に対し、ミシェールは冷たい声を放ち、そんなミシェールに対し、シアの身体から闘気が立ち登る。

 

 シアの闘気によって場が緊張で満ち始める。ミシェールもシアの魔力量は流石に看過できないのか、鋭い目線を向け始める。シアの力を肌で感じても彼女は妥協する意思はない。

 

 あわや戦闘かと思われた時、シアの闘志を止めたのは、他ならぬハジメだった。

 

 

「いや、今回は俺一人で行く。こっちがダミーだという可能性も零じゃねぇしな。だからお前達はこのまま残って魔王城を制圧しろッ」

「けどッ!」

「心配するなシア。俺がユエを取り戻すためならなんでもやる男だってわかるだろ」

 

 シア達はハジメがいつもの表情をしていることで落ち着きを取り戻す。だが先程から眼前で行われる好戦的なやり取りに対し、ミシェールは軽くため息をつく。

 

「はぁ……ずいぶん好戦的ですね。少なくとも私はあなた達と敵対する意思はないのですが……」

 

 その言葉を聞いた蓮弥は、今まで疑問が確信に変わる。

 

「なぁ、あんた」

「なんでしょう……藤澤蓮弥様」

「それだ。さっきから気になってたが、ずいぶん俺達を敬う言葉を使うんだな。もしかして……お前はエヒトの手下じゃないのか?」

「さぁ、どうでしょうか」

 

 明言しないのは、一応ここが魔王城だからか。だが今の言葉でどうやらエヒト陣営にも複雑な事情があるらしいことを蓮弥は悟った。

 

「わかった。最後に聞かせろ……あんたの主とは誰のことだ」

「決まっています。私の主はただ一人。魔王様だけです」

 

(魔王だと? 魔王って確か……)

 

 雫から聞いた魔王についての話を思い返す前に、ハジメが前に一歩歩み出る。

 

「どうでもいいそんなことッ。俺にとってユエの敵は全部俺の敵だ。さぁ、案内してもらおうか、ユエの元まで!」

 

 ハジメも違和感を感じてはいるのだろうが、ユエを傷付けようとしている可能性があるのなら敵に違いない。そのスタンスで動くのは変わらないようだ。

 

 

「わかりました。ではこちらへ。我が主の元へ案内します」

「蓮弥……こいつを残していく。こいつがあれば、俺達はリアルタイムでの情報のやり取りができるはずだ」

 

 黒いゲートの元まで歩くミシェールの後を追いながら、ハジメが一機のクロスビットを残していく。

 

「ハジメッ、気を付けろ。どうやらエヒト陣営も複雑な事情がありそうだ。何が来るかわからないから冷静さだけは失うな」

「わかってるよ……次にお前と会う時は……ユエと一緒だ!」

 

 ハジメは不敵な笑みを浮かべながら拳を差し出してきたので蓮弥も拳で応える。

 

「お前達もだ。遠慮はいらねぇ。派手にやっちまえ!」

「うむ。了解したのじゃご主人様。竜の怒りに触れたらどうなるのか……こ奴らにはたっぷり知って貰わねばならぬからの」

「全員ボコボコのギタギタにしてやるですぅぅ」

「ハジメ君も気を付けて。何かあったら渡した薬を遠慮なく使って」

 

 そしてハジメは、自身を心配する仲間に激励の言葉を送った後、ミシェールの後を追うように転移門の中へと消えた。

 

 

「さて、移動しながら話すぞ。目標は……ユナ」

『この先に強力な魔力の反応が多数存在しています。一人はダニエル神父。そしてもう一人は……』

 

 そう、ここにいるみんなはすでに気づいていた。この先に巨大な、そして身に覚えのある気配がすることに……

 

「光輝……」

 

 そしてその気配の一つが光輝であることに気付いた龍太郎は……

 

「いたぞッ。奴等をこの先へと通すな!」

「うっせえんだよ!! このモブキャラがぁ、俺はあいつの元まで……行かなきゃならねぇんだよぉ。うおぉぉぉぉぉぉぉぉ──ッッ!!」

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!』

 

 こちらに気付いた魔人族達を薙ぎ払い。叫びながら全力疾走を開始した。

 

「ちょッ!? 龍君ッ!?」

「龍太郎!? あまり先行しないで頂戴! ……たくもう!」

 

 龍太郎が魔人族を薙ぎ払いながら先行する中、蓮弥達は襲い来る魔人族や魔物達を蹴散らしつつ、雫に声をかける。

 

「なぁ、雫。あのミシェールって女が言ってた魔王って確か……」

「私の知ってる夢の知識だと、魔王は神エヒトの眷属である神アルヴのもう一つの姿。魔王とは代々神アルヴの依代になる者を指す言葉で、今代はユエの叔父であるディンリードって吸血鬼がそうだったはず」

 

 雫が夢で見た魔王は、ユエを神エヒトの元から逃がすためにユエをオルクス大迷宮の地下に封印した後死亡し、その肉体を神アルヴに乗っ取られてたユエの叔父だった。一度叔父ディンリードのふりをした神アルヴは、ユエの精神的動揺の隙をついて神エヒトの完全復活を目論むが、それを見抜いたハジメによって止められ、完全復活まで時間を要するようになった。

 

 ここまでが蓮弥が聞いていた魔王についての話だったが……

 

「神アルヴからしたらユエは主であるエヒトの器以外の何者でもないはず。なのに……」

『私の目から見ても、あの人はユエを本気で敬っているように見えました』

 

 ──我が主がアレーティア様を傷付けることはありません。

 

 その言葉を発した彼女の魂を見ていた蓮弥だったが、その言葉に嘘はないように感じた。そしてその言葉を発した彼女自身にも、ユエに対する敬愛のようなものを蓮弥とユナは感じ取ったのだ。

 

「もしかしたら俺達は……ここに来てとんでもない勘違いをしているのかもしれない」

 

 ユエを依代にしてエヒトは復活する。それは敵である神父が宣言したことであり、フレイヤが話したことである。ユナの診断により、ユエには神の器足りえる素質があることはわかっていたし、実際雫と優花が見た可能性の夢でユエの身体を乗っ取ることによるエヒト復活は起こりえることであることは証明されている。だが現実の状況を顧みて、果たして魔力を失ったユエは器として適格かどうか。

 

「俺達はユエがエヒトの器で、ユエの肉体を依代にエヒトが復活すること前提で動いてたけど……他の可能性もあるんじゃないか……例えば……」

「エヒトは……他の器を見つけた?」

 

 そう易々と神エヒトの器が存在しないからこそ、ユエを奪い取るために先日の襲撃は行われたのだと思っていた。だがもし、この土壇場で神がユエ以外に自らの器としての可能性を見出すとしたら……それは誰なのか。

 

「おっし、ここだなッ!」

 

 蓮弥達の考えが纏まる前に、龍太郎が目的地前まで到達してしまい、そのまま勢いよく、魔王城の頂点にあると思われる巨大なドアを蹴破った。

 

 そこに広がっていたのは玉座の間。

 

 広く、荘厳な雰囲気を感じるその部屋の真ん中に人が一人立っている。

 

 堕ちる前に纏っていた物とは違う漆黒の鎧に、呪いを放つ暗黒の魔剣。

 

 にも関わらず、龍太郎に対して、以前と変わらない雰囲気を向けてくる不気味さ。

 

 そしてそこで待っていたのは……蓮弥達にとって苦い思いを禁じ得ない変わり果てたクラスメイトの姿。

 

「やぁ龍太郎。よく来てくれたよ。ここに来たってことは、やっと自分の間違いに気づいたってことかな?」

「光輝ッ」

 

 堕ちた黒い勇者、天之河光輝が余裕の表情でそこに立っていたのだ。

 

 




>呪いの少女人形
蓮弥の言うところの聖遺物であり、長年想念を蓄え続けた結果、固有概念を持つに至った呪われた器物。禁忌庫に封じられていた物。
宿す概念は「身代わり」
この人形の持ち主だった娘を失った母親が、その娘の死を受け入れられずにこの人形を自分の娘だと思い込んだ。それだけならただの古い人形で終わったが、母親が邪教思想にはまり、娘を復活させるために娘と歳の近い女の子を次々と殺害し、その内臓を人形の中に詰め込み始めたことで一気に呪われることになった。
血や髪の毛などの身代わりにしたい人間の一部を取り込ませることでその人物の身代わりにすることができ、概念系の探索能力を狂わせる効果を持つ。

>ミシェール
神父と同じく、原作世界を擬似体験したはずの雫や優花が認識していない人物。どうやら魔王の命令を受けて行動しているようだがその正体は……

次回は堕ちた勇者との再戦。

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