ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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なんとか月一更新


滅びた都市での戦い

『戦いが始まる前に、鈴……あなたに話しておかないといけないことがあるわ』

 

 この戦いが始まる前のフェルニルにて、雫は鈴に対してそう言った。

 

『私は邯鄲の夢の世界でもう一つの神話大戦を経験したわ。もちろん今置かれている状況とは違うし、全て鵜呑みにするのは危険かもしれない。けど……鈴が恵里と戦うなら、知っておいた方がいいと思うから。……恵里の過去、そして恵里の選択と結末について』

 

 そうして雫が語ったのは、夢の中で知った鈴が感づいていながらも、決して踏み込まなかった恵里の過去。

 

 五歳の時に、酷い交通事故で父親を目の前で亡くしたこと。

 

 父親の死をキッカケに家庭が壊れ始めたこと。

 

 常日頃から行われる母親の虐待や母親の新しい彼氏によるレイプ未遂。

 

 それでもいつか元の優しい母親に戻ってくれることを祈って耐え続けてきたけど。ある日心が折れてしまい自殺しようとしたこと。

 

 その場に居合わせた光輝によって救われ、盲目的な恋に落ちたこと。

 

 それから時を経て、トータスに召喚された恵里は、この世界で光輝を手に入れるために、凶行に手を染めたこと。

 

『うん。私も恵里が光輝君のことが好きなんだろうってのはわかってたよ。けど、今の恵里は……』

『光輝の方に見向きもしていない……たぶんあの神父が何かしたんだと思う。私の体験した世界にダニエル・アルベルトという男は存在しなかった。だから正直私も今の恵里が何を考えて行動しているのかわからない。……それでね、鈴』

 

 少し躊躇した雫は最後に、鈴に話したのだ……恵里の最期についてを。

 

 鈴と恵里は夢の世界でも戦い、鈴は必死で手を伸ばした。

 

 だが恵里は、その手を掴むことなく、自ら死を選んだ。

 

 夢の世界で鈴は、恵里を救うことができなかった。

 

 

 その話を聞いた鈴は今もずっと考え続けている。

 

 どうすれば恵里を救えるのか。夢の世界の自分は何を失敗したのだろうかと。

 

 

 だがついに答えなど出ず、鈴は恵里の前に立つことになった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 膨れ上がる恵里の存在感。

 

 溢れ出る膨大な魔力。

 

 そして……恵里の背後で蠢く哀れな霊魂。

 

 数多の霊魂が像を成し、見上げる巨人になった時、恵里の自信の理由を鈴は悟った。

 

(確かに、これなら死兵を全滅させても余裕でいられるわけだよ)

 

 魂は莫大な魔力を生み出す燃料になる。それらの知識を鈴は蓮弥やユナ、香織から聞いていた。

 

 だが魂の力は容易に利用できるものではないとも教わっており、現に仲間達の中に魂の力を工夫して扱っている者はいれども、十全に扱えていると言えるのは蓮弥とユナだけだ。

 

 だが、それを念頭に置いた上で、鈴は目の前の恵里のことを見て確信する。間違いなく魂の力を十全に操っていると。

 

 背後に浮かぶ巨大な髑髏"修羅の大怨霊"は性質こそ香織が使う魂魄具現化(オーバー・ソウル)に酷似しているが、その術式の構成と強度と規模は桁違いだ。

 

 "修羅の大怨霊"は数多の魂を折り重ねることで構築されているが、雑多に組み立てているのではなく、魂の性質、強弱、相性、それらをしっかり吟味し、一番力を発揮できる形で成立させているのがわかる。

 

 今の恵里の魔力値は数値にして最低でも数十万以上は確実。魔力値は高ければ高いほど最高出力も上がる。もし恵里がこれだけの魔力を使いこなせるとしたら、ハジメや蓮弥達も油断してたら殺されるレベルだと言えるだろう。

 

 つまり恵里は現在、蓮弥達と同じ領域に存在しているということ。

 

「じゃあ始めるけど、あんまり直ぐに死ぬなんて興醒めなことはするなよ」

 

 恵里の周辺に事前に準備されていたであろう無数の魔法陣が展開される。その数は軽く見積もっても百以上。膨大な魔力に物を言わせたその魔法がたった一人の標的に向かって放たれた。

 

「ッ、”聖界(エリア)”──”封魔宮(パッケージ)”」

 

 鈴はすかさず空間魔法を展開、それぞれの魔法を空間の箱に封じようとするが、数が多い。封じきれなかった魔法が容赦なく鈴に襲い掛かる。

 

「”聖絶”」

 

 なんとか通常の防御魔法にて攻撃をしのぐが、当然恵里だって黙ってはいない。

 

「”終極・狂月”」

 

 数瞬の間だけ、対象の意識を奪う闇属性魔法が鈴に放たれる。

 

「あ……」

「”蒼天”」

 

 一瞬意識を奪われた鈴は硬直してしまう。その隙を突いて放たれた炎属性最上級魔法が鈴に襲い掛かり、全身を火だるまに変えた。

 

「どうしたの? 僕を止めると言いながらその程度? だとしたら拍子抜けなんだけど?」

「…………そんなわけないじゃん」

 

 炎の中から飛び出した鈴は無傷。それどころか衣服に煤すらついていない。

 

 今度はこちらの番だと閉じた鉄扇を横に振るう。

 

「”千断”」

「ッ!」

 

 放たれるは空間のギロチン。その魔法の力を知っていた恵里はとっさに効果範囲外まで離脱する。

 

「怖ッ、僕を止めるとか言っといて殺す気満々じゃん」

「あいにくだけど、私の千断は特別性だから殺傷力はないよ」

 

 続けざまに鉄扇を振るい千断を放つ鈴。

 

「ちッ」

 

 千断の対処法は相手から姿を隠すこと。それが基本だが空中戦では遮蔽物がないと悟った恵里は地上に向けて降りていく。

 

 地上にあったのはこれまであった数多の戦いの犠牲になったであろう廃墟になった街。この場所なら遮蔽物があるので鈴とて直接恵里に向けて千断は使えない。

 

「”千断”」

 

 だが関係なく鈴は空間魔法を行使する。ただし恵里を直接狙わず街にある監視塔目掛けて。

 

聖界(エリア)”──”操杖(タクト)

 

 すぐさま結界を展開し、崩れ落ちる監視塔を固定、そのまま方向を変え恵里に向けて射出する。

 

 魔法ではなく巨大質量による攻撃。これを防げる魔法は限られているため、少なくとも隙くらいはできるかと鈴は思ったが、今度は恵里が己の力を鈴に見せる。

 

 恵里の背後に存在しているだけだった大怨霊が腕を振るい、迫る監視塔を一撃で粉砕した。

 

(やっぱり攻撃もできるんだ。カオリンの魂魄具現化(オーバー・ソウル)に近い)

 

「”蒼天・連弾”」

「”聖絶・城塞”」

 

 迫りくる無数の最上級魔法を恵里は、聖絶が次々と生み出されていく自身のオリジナルの防御魔法にて食い止める。

 

「”深淵”」

 

 魔法発動を感知した鈴は魔法が晴れた正面を見るが、恵里の姿がない。

 

「ッ、聖界(エリア)

 

 急いで結界を展開するが、それでも恵里を見つけられない。焦る鈴のすぐそばに探し人は見つかった。

 

「ここだよ。──ぶっ飛べ!!」

 

 いきなり鈴の眼前に現れた恵里の背後に浮かんでいる大怨霊が腕を振りかぶり、そのまま鈴に叩きつける。

 

「ッッ!」

 

 吹き飛ぶ勢いが大怨霊の膂力のすさまじさを語っており、そのまま街の建物を破壊しながら吹き飛んでいく鈴。それほど大きくない街だとはいえ端から端まで吹き飛んだ挙句城壁に叩きつけられる形になってようやく鈴は停止する。

 

「はぁ、はぁ、げほ、げほ」

「……さっきも思ったけどさぁ。随分頑丈なんだね」

 

 潰れた肉塊になった鈴を想像していた恵里だったが、鈴の五体は未だに万全。蒼天で炎上した際も大したダメージを受けなかったその鈴らしからぬ頑丈さに、流石の恵里も少し警戒度を上げる。

 

「私だって切り札の一つや二つ持ってここに来てるよ。そう簡単に倒せるとは思わないで」

 

 

 鈴はユナに魔法の指導をしてもらっている際に、幾度も結界の強度不足を指摘されている。

 

 指摘を受けて以降、鈴なりに魔法を改良し、ハルツィナ大迷宮にて習得した昇華魔法、そして最高適性を誇る空間魔法を用いて、”聖絶・纏”をより戦闘に特化させた新魔法──”霊装結界”。

 

 文字通り空間を圧縮した結界を鎧のように身に纏うことで、耐魔力、耐物理に対してすさまじい耐久を鈴は手に入れた。

 

「なるほど……確かに僕は鈴を見くびっていたみたいだ。認めるよ、君の魂は僕の糧にする資格があると……だから、これからギアを上げていくことにするよ」

 

 

「──修羅顕現・限界突破」

 

 それは文字通りギアを入れる魔法だった。

 

 恵里の背後から悲鳴が木霊し、その声の大きさに比例するかのように恵里の魔力量が上昇していく。

 

「この限界突破は僕じゃなくて背後のこいつが使用するものでね。僕には一切リスクがない。ただ、これを使うとこいつらを構成する魂自体が擦り減っちゃうんだよね。だからさ……」

 

「鈴、お前の魂を食わせろよ」

 

 

 言葉の終わりと共に、恵里の姿が鈴の視界から消え、鈴の前に現れる。

 

「”掌底・破重”」

 

 目の前に現れた恵里は、足を力強く踏み込み、鈴に対して渾身の掌底を叩きこむ。

 

「ッッ、聖界(エリア)──”停界”」

 

 

 思わず鈴は吹き飛びそうになるが、先程の二の舞になるまいと、”聖界・停界”を使用。空間の粘度を変え、衝撃を緩和。なんとか着地し、すぐさま体勢を整える。

 

聖界(エリア)──”万魔牢”」

 

 鈴は恵里が視界にいる内に今度は恵里を結界内に閉じ込めようとするが、恵里は結界に包まれる前に、高速移動で鈴の結界から逃れ出る。

 

「このぉぉ──ッ!」

 

 負け時と連続で結界を展開するが、当たらない。

 

 まるで剣士のような緩急をつけた動きに、基本的にフィジカルに劣る鈴が翻弄される。

 

(まるで、シズシズみたいな動きッッ)

 

「不思議かな。降霊術師という後衛職である僕が、何でこんな動きが出来るの、がッッ」

「ッ、がふッ」

 

 再び鈴の懐に潜り込んだ恵里の拳が鈴の脇腹に抉り込む。霊装結界のおかげでダメージこそないが、霊装結界自体にダメージが蓄積されていく。

 

「はぁ、はぁ」

「特別に教えてあげるよ。そもそも僕達が使っている技能ってのはさぁ……魂に記憶されてるんだ。天職は魂に巻かれてるラベルになるのかな。だから魂を上手く混ぜ合わせて死体に詰めれば複数の天職を持った死兵だって作れる。だからさぁ、天職を持ってる他人の魂を僕自身に憑依させれば……僕は他人の技能を自分の物として使えるんだよ」

 

 鈴は魂魄魔法を習得していない。だが、魂魄魔法を多用するであろう恵里相手に防御策がないのはまずいとわかっていたハジメは、神言対策のアーティファクトの他に魂を感知するアーティファクトも全員に持たせている。

 だからこそ鈴には見えていた。恵里の後ろにいる大怨霊から魔力だけでなく、魂らしき何かも恵里に流れてきていることに。

 

「南雲が強い理由の一つが魔物を喰らったことで手に入れたステータスと技能なわけだけど、僕はそれよりさらに上をいく」

 

 先程の一撃は剣士の”縮地”と拳士の”剛腕”を組み合わせたのだろう。もし恵里の言うことが本当なら、恵里は様々な天職の技能を組み合わせた戦術を使えることの証明になる。

 

 再び剣士の縮地を発動して高速移動する恵里。

 

(今度は……気配も消えるの!?)

 

 鈴も恵里を捉えようとするが、暗殺者の”気配遮断”も同時使用しているので捉えられない。

 

 今度は蹴りをまともに受けた鈴は、先程とは逆にあえて飛ばされることで恵里と距離を取る。

 

「”憑依変換”」

 

 後方に下がる鈴に対して、恵里は追撃せずに憑依する魂を切り替える。

 

 まず土術師の魔法、”土槍”にて土の槍を作った後、付与師の”強度強化”を用いて、土槍を鉄の硬度に変換。その上で槍術師の槍術にて槍を構えて、鈴に突撃する。

 

「”聖絶”」

 

 超高速の刺突を防御する鈴。このまま攻撃するのかと思いきや、恵里は一歩下がって手を鈴に向けてくる。

 

「”幻痛”」

 

 発動した魔法は魂魄魔法にて対象に激痛を与える魔法。その魔法は鈴のアーティファクトによる魂魄障壁を突き抜けて鈴の魂に直接痛みを与えてくる。

 

「あは、魂魄魔法は防げないみたいだね。それに攻撃を障壁で防御したってことは、その鎧みたいな結界にも耐久限度があるのかな。だったら……圧倒的な力でぶっ潰せばいい!」

 

 恵里と戦う上で警戒するのは恵里だけではない。

 

 忘れてはならない。恵里の後ろに控える大怨霊は直接攻撃ができることを。

 

『オオォォォォォォォ──』

 

 幾重にも重なった声。亡者の叫びをまき散らしながら、その巨大な剛腕を鈴に叩きつける。

 

 再び吹き飛ばされた鈴は街の端まで飛ばされる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、げほ、げほ」

 

 鈴の身体にはほとんどダメ―ジはない。だが霊装結界が攻撃の度にきしむのは感じているし、魂への直接攻撃、攻撃の威圧といった物が鈴の精神に負担を強いる。

 

「どうしたのさ、鈴? さっきから僕が喋ってばっかりじゃん。僕と会話したいんじゃないの?」

 

 移動系の技能を多用したのか、すぐに恵里が膝をついている鈴に追い付いてくる。

 

「別に……ただ饒舌な恵里は珍しいから、ちょっと観察してただけだよ」

 

 油断なく恵里を見る鈴は、現在の恵里の戦闘能力を頭に纏める。

 

 恵里を強者たらしめているのは主に二つ。

 

 一つ、無数の魂を束ねて作った修羅の大怨霊。

 

 こいつが恵里に無尽蔵の魔力を供給している。それに加え大怨霊そのものも戦闘可能であり、その力は極めて凶悪だ。

 

 二つ、無数の戦士の魂を自身に憑依させることによる多種多様の技能の使用。

 

 身体能力は大怨霊から齎される膨大な魔力に物を言わせて強化されているのか、ハジメ達と比較しても引けを取らない出力が出ている。

 

 さらにやっかいたらしめているのが、どうやら恵里は戦士の魂から技能だけでなく経験値も習得しているらしいということ。そうでなければ技能を十全に扱えるわけがないからだ。

 

 単体でも強い大怨霊を従えて、多種多様な技能を行使することができる降霊術師。それが今の恵里だ。

 

 はっきり言って多くの魂を従えた降霊術師は、この世界に数多ある天職の中でも最強の天職の一つなのではないか。

 

(ッッ……負けるもんかッ!)

 

 その想像を超えた恵里の戦闘力に鈴の心が折れそうになるも、自身の魂を奮い立たせて立ち上がる。

 

 諦めるのはやれることを全部やってからでいい。それに……切り札はこちらにもあるのだ。

 

 今までの戦いで確信する。切り札を使えば、この状況を対等に持ち込めると。

 

(あと……二か所。急がないと)

 

 鈴は自身を守る霊装結界の限界が近いことを察しつつも、諦めることなく、勇気を振り絞り、余裕の笑みを浮かべる恵里に向かって対峙した。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「──来いよっ、奈落の狩人ッ──"天魔転変・狼王"!!」

 

 そして、龍太郎もまた、極限の戦いを始めていた。

 

 ──変成魔法 天魔転変

 

 闘気変換の技能の存在により、自分の身体以外に魔法を行使することができない龍太郎がユナの指導の元、魔物などが持つ魔石を媒介に、己の肉体をその魔物へと変成させる魔法である。

 

 今龍太郎が使用しているのは奈落の底に存在している狼王の魔石を使った”加速”という固有技能を持つスピード特化の変身だ。

 

 さらに……

 

「”闘気解放”!」

 

 丹田で練り上げ続けた闘気を解放。これにより龍太郎はさらに力を増していく。

 

 その速度。もはや従来の神の使徒ではとらえきれない速度域に達しており、龍太郎もまた、限界の壁を超えたことがわかる。

 

「ホウ、速度ハ中々ダ」

 

 だが、その速度域について行くのが、中村恵里が作り出した死兵の最高傑作。闇の探究者(ダーク・シーカ―)である。

 

 龍太郎の亜音速に達する正拳突きを、貫手を、回し蹴りに対して……拳で止め、受け流し、腕で受ける。

 

 その動きには熟達した武芸が染み付いていた。

 

「今度ハ、此方カラ行クゾ!」

 

 龍太郎の飛び蹴りをはね返し、体勢を整えた闇の探究者(ダーク・シーカ―)が今度は攻勢に回る。

 

 その攻撃は突き、蹴りの組み合わせだけではない。時にはフェイントすら入れて龍太郎を惑わし、巧みな技術で龍太郎を責め続ける。

 

 そして何よりも、今の龍太郎とはパワーが違う。

 

「ぐぅぅ!」

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)の拳を受け止めた龍太郎が衝撃に耐えられず、吹き飛ばされる。今の龍太郎を軽々と吹き飛ばすパワー。それは狼王形態の龍太郎を遥かに上回る。上手く受け身を取った龍太郎に対して、追撃することなく、片言にて龍太郎に声をかける余裕を見せた。

 

「貴様ト我デハ筋力ノ差ガ圧倒的ダ。貴様ニ勝チ目ハナイ」

 

 恵里の命令は龍太郎の死体を残して戦うことと言われていたからか。龍太郎を諦めさせるようなことを言う闇の探究者(ダーク・シーカ―)に対して、口の中に溜まった血を吐き捨てながら不敵に笑う。

 

「へっ、もう勝った気になってんのかよ。勝負はこっからじゃねーか」

 

 龍太郎は挑発しつつも相手を観察することを忘れていない。

 

 その巨体から繰り出される拳の連打はただ力任せに振るわれているものではない。確かな技術と経験に裏打ちされたものであることが、龍太郎にはわかるのだ。

 

(あの技には見覚えがあるぜ。確か王国の拳士が使ってたこの世界の格闘術だ)

 

 龍太郎の天職が拳士だとわかってから、この世界の武芸者に教わることがあったが、あの動きはそれに近い。しかも練度は目の前の敵の方が圧倒的に高い。

 

 龍太郎は身に纏う闘気を増大させ、果敢に攻め込む。どの形態であろうと龍太郎は近接戦闘しかできない。ならばより速く、より重くなりながら突っ込むしかない。

 

 そんな龍太郎に対し、闇の探究者(ダーク・シーカ―)は拳を真っすぐ突き出してきた。

 

 明らかに届くはずの無い拳の一撃は、あろうことか闇の探究者(ダーク・シーカ―)の腕が伸びることによって届けられる。

 

「ッ!」

 

 間一髪のところで避けた龍太郎だが、闇の探究者(ダーク・シーカ―)の攻撃は止まらない。突き出した方とは別の腕も細長く伸ばし、身体の周囲の空気を切り裂きながら旋回する。

 

 そこから放たれるのは音速を遥かに超えた鞭の乱舞。鞭状になった腕を振り回しながら、的確に龍太郎を狙って襲い掛かってくる。

 

「今度は操鞭師かよ。ちッ、来いよッ、鋼の鬼ッ──”天魔転変・王鬼(オーガ)”ッ!」

 

 深緑の魔力が迸り、龍太郎の全身の筋肉が倍に膨れ上がる。肌の色は濃緑色に、身長は二メートルを優に超え、目元は吊り上がり、犬歯も伸びて剥き出しになる。

 

 ──天魔転変・モデルオーガ

 

 奈落の鬼の中でも突出したタフネスとパワーを誇る鬼の王の魔石を利用した膂力と頑丈さに特化した形態だ。

 

「おおおおおお──ッッ」

 

 狼王形態と比較して遥かに頑丈になった肉体にて、鞭の大嵐の中に突っ込んでいく龍太郎。鞭の大嵐に突入した瞬間、全身を漏れなく鞭打ちに晒されるが、龍太郎は止まらない。そのまま闇の探究者(ダーク・シーカ―)目掛けて拳を叩きこむ。

 

「ムッ」

 

 インパクトの瞬間、爆発じみた音が鳴り響く。龍太郎が衝撃操作の技能にて、闇の探究者(ダーク・シーカ―)に対して拡散されるはずの衝撃を一点に叩きこんだのだ。その拳の衝撃を受けて闇の探究者(ダーク・シーカ―)は盛大に吹き飛ばされる。

 

 だが吹き飛ばされながらも鞭になっている腕を龍太郎の足に絡ませ、吹き飛ばされる勢いに任せて龍太郎も引き上げる。

 

「おぁッ!?」

 

 空中に投げ出された龍太郎に対し、闇の探究者(ダーク・シーカ―)は空力を使用して体勢を整えた後、反転し元に戻した握り拳にて容赦なく龍太郎の顔面を撃ち抜く。

 

「がはッ!」

 

 盛大に地面に叩きつけられた龍太郎は肺から息を吐き出すも、即座に呼吸を整えて、宙返りを行いつつ体勢を立て直す。

 

 そして闇の探究者(ダーク・シーカ―)を視界に入れると、またもや闇の探究者(ダーク・シーカ―)の戦い方が変化する。

 

「なッ!?」

 

 その行動に一瞬息を飲む龍太郎。それも仕方ないだろう。あろうことか敵は自分の右腕を切断したのだから。

 

 だが、切断された右腕を()()にて掴んだ闇の探究者(ダーク・シーカ―)は切断された腕の形状を変化させる。

 

 その形は鋭くとがった槍。三メートル以上はある槍を縦横無尽に振り回しながら構え、龍太郎に向けて真っすぐ突っ込んでくる。

 

 いつの間にか筋肉が落ち、スマートなフォルムに変化した闇の探究者(ダーク・シーカ―)の速度は先ほどのよりも速い。縮地系統の技能をふんだんに使った高速ステップを繰り返しながら、龍太郎に迫り、その槍術を存分に振るい始めた。

 

「な、今度は槍術士かよ!」

「ソノ鈍重ナ形態デハ、避ケラレマイ」

 

 槍の嵐を闘気と肉体の耐久にて耐えるが、徐々に傷を作っていく龍太郎。モデルオーガは膂力と耐久に特化している分、どうしても速度を犠牲にしてしまう。今の形態では高速移動を行う闇の探究者(ダーク・シーカ―)を捉えられない。

 

「クソ、今までの奴とはちげぇな。随分器用なことをしやがる」

「当然ダ。我ハ恵里様ニ作ラレタ兵達ノ最高傑作。使ワレタ素体モ、魂モ質ガ違ウ」

「魂だぁ? まてよ、確かユナさんは……てめぇまさか帝都の……」

 

 龍太郎は蓮弥とユナの話を思い出していた。

 

『いいですか龍太郎。あなたの天魔転変は変成魔法を使うことで肉体を強化する技です。ですがもしそれを行使し続けることで固有魔法や技能が発現することがあれば注意してください』

『ん? なんでだ? 技能が増えるんなら便利だと思うんだけどよ?』

『天職と技能は魂に紐づくもの。つまり技能が増えるということは魂の侵食を受けていると言うことなのです。ハジメのような特異体質は早々現れることはありません。限界を超えて魔物の力を取り込み続けていけば、いずれ自分でも制御できなくなるでしょう。ですので、無理は禁物です。いいですね?』

 

 ユナは言っていた。天職と技能は紐づくものだと。だが目の前の闇の探究者(ダーク・シーカ―)は拳士、操鞭師、槍術師でなければ不可能な動きを見せつけてきた。ステータスは肉体を鍛えれば上昇する。だが技能が増えると言うことはつまり……

 

「ソウ、我ガ魂ハ多クノ戦士の魂デ成リ立ッテイル。故ニ、如何ナル状況ニモ対応デキルノダ」

 

 技能は魂に宿る。恵里は数多の戦士の魂を自身に降霊させることにより、その魂の持っていた技能を使用することができるようになった。

 

 だが実はその際に使用できる技能には限度が存在している。身体能力だけは魔力で強化することができるが、体格の差を始めとする元の身体的なスペックだけは変えられないのだ。

 

 だからこそ、恵里はその欠点を補うべく内蔵する魂とそれを宿す肉体の親和性を完璧に操作した死兵を作った。

 

 内蔵された魂の持つ数々の技能を限界以上に発揮できる最高の肉体を持った戦士。それこそが闇の探究者の名を持つ最強の死兵 闇の探究者(ダーク・シーカ―)

 

 

(ちッ、どうすっかな)

 

 龍太郎も状況に合わせて己の形態を変化させることができるが、変身するのは少し溜めが必要だし、龍太郎の天職 拳士を大きく超えた力を発揮することはできない。魔法タイプの魔物の力を取り込んでも魔法が上手くなったりはしないし、剣を使う魔物の力を持っても剣の達人にはならないのだ。

 

 一方で闇の探究者(ダーク・シーカ―)は変形するのにほとんど隙がないどころか、天職すら使い分けて龍太郎に向かってくる。

 

 仮に龍太郎が再び天魔転変で変身しても、すぐに相性の良いスタイルを取ることができる。

 

(先に狼王に変身してすぐに鬼王に切り替えるか? いや、変身するのに時間がかかるしその隙を見過ごしてくれるとは思えねぇ。それとも……)

 

 

 そして色々考えた結果、龍太郎は……考えるのをやめた。

 

 

「もっともっと強く、速くなってあいつをぶん殴る! これだぁ!」

 

 

 さも名案を出したかのような晴れやかな顔で、脳筋の極みに達した龍太郎はギアを一段階上に上げる。

 

「天魔転変混合変成──”狼鬼(ウルフオーガ)”ッ!」

 

 新たな変身を見せた龍太郎は、真っ向から闇の探究者(ダーク・シーカ―)に突っ込んでいく。

 

「無駄ダ」

 

 再び操鞭師のスタイルに変わった闇の探究者(ダーク・シーカ―)が龍太郎を捕捉しようと超音速の鞭を振るうが、当たる直前に龍太郎の姿が消える。

 

「ッ!」

「おせぇ、ぶっ飛びやがれ!!」

 

 オーガの体躯と角を持つワーウルフという形態に変化した龍太郎の拳が闇の探究者(ダーク・シーカ―)に突き刺さり、盛大に吹き飛ばされる。

 

 空中に投げ出された闇の探究者(ダーク・シーカ―)が今度は足も使い縦横無尽に鞭を振るうが、掠りもしない。

 

「オラッ!」

 

 再び拳が当たり、盛大に吹き飛ぶ闇の探究者(ダーク・シーカ―)

 

 流石に今の形態では龍太郎を捉えられないとわかったのか、すぐさま今までよりも巨体の姿に変わる。

 

「コレデ膂力モ速度モ、我ノ方ガ上ダッ」

 

 龍太郎との戦いで、龍太郎は技術的な差を見せつけても自分との力の差がわからないと判断した闇の探究者(ダーク・シーカ―)は、もっとも原始的な手段で龍太郎と対峙する。

 

 それはすなわち、真正面からのインファイト。

 

 拳と拳、足と足。

 

 一挙手一投足を全力で打ち合い、龍太郎と闇の探究者(ダーク・シーカ―)の周辺に暴風が吹き荒れる。

 

「おおおおおおお──ッッ!!」

 

 ラッシュの嵐。お互いがお互いを小細工無しの力で捻じ伏せようと拳や足を振るう。

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)は考えたのだ。このやり取りで負ければ相手の心が折れると。

 

 負けるとは思っていない。なぜなら自身は歴史上類を見ない天才降霊術師である中村恵里の最高傑作なのだから。

 

 だが、己の矜持にかけて負けるわけにはいかないのは龍太郎とて同じだ。

 

「らあぁああああああああ──ッッ!!」

 

 徐々に……徐々に龍太郎が前へ、一歩一歩進んでいく。

 

 

「マサカ、コレハ」

 

 徐々に均衡は崩れ、闇の探究者(ダーク・シーカ―)が押し込まれていく。

 

 そして……

 

「オラァァ!!」

「ッ!」

 

 均衡は……崩れる。

 

 相手の両腕を吹き飛ばし、また一歩龍太郎が前に出る。

 

 大きく振りかぶって構え……

 

「オオオオオオ──ッッ!!」

 

 ──そのがら空きの胴体に全力の拳を叩きこんだ。

 

 

 だが……

 

 

「狂鳴閃」

 

 

 

 攻撃が当たる直前、闇の探究者(ダーク・シーカ―)の口が開き……

 

 

 ──圧縮された音波のレーザーが……

 

 

 ──龍太郎の胸を貫いた。

 

 

「……がはッ」

 

 

 地面に倒れ伏す龍太郎。胸から血を流すその姿からは、今まで纏っていた闘気も減衰し、姿も元に戻ってしまう。

 

「想像以上ノパワーダッタガ、最後ニ勝ッタノハ我ダ」

 

 そうやって勝鬨を上げるのは中村恵里の作る最強の傀儡死兵、闇の探究者(ダーク・シーカ―)

 

「ダガ誇ルが良イ。貴様ハ恵里様ガ喰ラウニ値スル。死兵トシテ生マレ変ワッタ後、マタ会エルダロウ」

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)は己の主の戦う方向に向く。

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)としてはとっくに決着がついていると思っていたのだが、まだ戦っていることに感心する。

 

 口には出していなかったが恵里は鈴とタイマンで決着を付けたがっているように感じたので龍太郎と戦うことを引き受けた闇の探究者(ダーク・シーカ―)だが、主に万が一のことがあってはならないとも考える。

 

「中々頑張ルガ、我ガ恵里様ノ元ニ参上スレバ、直グニ決着ガ付ク」

 

 龍太郎から背を向けて、恵里に向かって歩きだす。このまま龍太郎が地に伏せたままではこの敵は恵里と合流してしまうだろう。鈴はなんとか恵里に喰らい付いているが、この戦士が戦いに加われば勝敗は火を見るより明らかになる。

 

 そんなことを……

 

 

「…………待て……よ」

 

 

 ──この少年が許すわけがなかった。

 

「何?」

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)は驚愕を覚えながらその声の方を振り返る。そこにいるのは、血にまみれながらも確かに両足で立つ龍太郎。

 

「まだ立テルトハ驚キダガ、最強ノ変身ハ我ニ破レタノダ。貴様ニ勝機ハ無イ」

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)にとって狼鬼形態は驚嘆に値するものだったが、あれが最強形態ならこちらに負けはない。

 

 なのに……その事実は龍太郎も十分承知のはずなのに、龍太郎は笑みを浮かべる。

 

「何勘違いしてんだ、黒人形」

 

 

「──狼鬼(ウルフオーガ)が最強の形態だっていつ言った?」

 

 

 ここにきてまだ上があると龍太郎は宣言し、その言葉は流石に闇の探究者(ダーク・シーカ―)も無視はできない。

 

「貴様ッ」

「いくぜ。これが俺の……全力だ!」

 

 龍太郎が手に持っていた魔石らしきものを取り込み、魔力光に包まれながら変身を始める。

 

「悪イガ待ッテヤル義理ハナイ。今度コソ死ネ」

 

 最強の変身があると言っても龍太郎が死にかけなのには変わりない。ならばその本領を発揮する前に止めを刺すまで。そう思い、行動に移そうとした闇の探究者(ダーク・シーカ―)

 

 その拳が龍太郎に向けられる。その刹那……

 

 

 ドクン

 

 

 いつの間にか闇の探究者(ダーク・シーカ―)は、龍太郎から大きく距離を取っていた。

 

(何ダ……?)

 

 本人も理解できていない現象、龍太郎が何かしたのかと考えたが、その考えを闇の探究者(ダーク・シーカ―)はすぐさま否定する。

 

(何ダ、コイツハ何ニ変身シタ?)

 

 闇の探究者(ダーク・シーカ―)は人間だけではなく、数多の魔物の特徴も兼ね備えた死兵だ。このトータスに住む魔物はほとんど取り込んでいたと言っていい。

 

 その闇の探究者(ダーク・シーカ―)の中の魔物の部分が最大級に警戒を示す。

 

 これは……違うと。

 

 

 そして……龍太郎の変身が終わる。

 

 

 そこに立っていたのは黒。

 

 黒い龍鱗を纏い、鋭く伸びる尾が臀部から生えているその姿は、この世界からいなくなったはずの種族の再臨。

 

 かつてこの世界で最強の称号をほしいままにしていた頃の彼らの姿。

 

 赤い眼を見開きながら、龍太郎は眼前の敵に向かって伸びた犬歯をむき出しにする。

 

 

 天魔転変・龍王(ドラグーン)

 

 

 今ここに、世界の我儘と言われた力を、たった一人の敵に振るう。

 

「ぐぎゃああああぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 一人の戦士が誕生した。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 この戦いが始まる前に、龍太郎はティオからある物を受け取っていた。

 

『変成魔法──”魔石生成”』

 

 掌を傷付け、溢れ出した血に対して、ティオは変成魔法を行使し、その血を掌大の魔石へと変えた。

 

『ふむ、初めて作ったがこんなものじゃろ』

『ありがとな、ティオさん』

『礼には及ばぬ。確かに理屈上、お主がこれを取り込めば、妾の中に流れる龍の力が使えるようにはなるじゃろうな』

 

 この戦いが始まる前に龍太郎が欲したのは、絶対的な切り札だ。

 

 敵の戦力は未知数。自分とて修行したが、それでも絶対はない。

 

 この戦いで生き残るために、一つ切り札を欲した者は多い。龍太郎もその一人だった。

 

『じゃがな、龍太郎よ。一つ……妾と約束するのじゃ……三十秒。それ以上、この力を使わぬとな』

『……三十秒』

『お主が取得した変身も使いすぎれば魂を侵食される劇物じゃがこれはそれらとは比較にならぬ。正直使わぬに越したことはない。よいな、決して無理だけはするでないぞ』

 

 この変身のやばさは試しにたった五秒だけ変身した際に、龍太郎にも理解できた。

 

 確かにこの変身は、龍という生物は、他とは格が違う。

 

 過ぎれば身を滅ぼすだけの力。

 

 だが龍太郎は、それを切ることに躊躇はない。

 

 

 敵が鈴の身を脅かそうとしているのだから。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おおおおぉぉぉぉ──ッッ!」

 

 閃光──

 

 身体能力を限界まで強化された闇の探究者(ダーク・シーカ―)にさえそうとしか見えないほどの速度で龍太郎は、闇の探究者(ダーク・シーカ―)に拳を叩きこんでいた。

 

「ガッ!!」

 

 踏ん張ることすらできぬほどの力で吹き飛ばされた闇の探究者(ダーク・シーカ―)を先回りして龍太郎が蹴りで上空に飛ばす。

 

「ッッ! 舐メルナ! ──”狂鳴閃”」

 

 黙ってはやられない。自らの矜持にかけて恵里に無様を見せられない闇の探究者(ダーク・シーカ―)の口から先ほど龍太郎を貫いたのとは威力が違う圧縮音波レーザーが龍太郎に迫る。

 

「がぁぁぁぁッッ!」

 

 だがその攻撃を、素手で弾き、音より速く動きながら龍太郎は再び闇の探究者(ダーク・シーカ―)に一撃を入れる。

 

「馬鹿ナッ!?」

 

 恵里の最高傑作である自身が押されていることに焦りを浮かべ始める闇の探究者(ダーク・シーカ―)

 

 だが龍太郎とて余裕があるわけではない。

 

(や、べぇ。意識が……早く!!)

 

 今もなお、龍太郎の魂を汚染しようと迫る龍の力。それらから身を護る意味も込めて、龍太郎はここで決めると誓う。

 

 口を開き、底に集まるのは漆黒の炎。

 

 その膨大な力を感じた闇の探究者(ダーク・シーカ―)がこの戦いで初めて本気で守勢を取るために、守護者や結界師などの防御に特化した天職を十全に扱う形態に変化した。

 

「”龍人殲滅獄炎大砲(ドラゴニア・テオブレス)”!!」

 

 残り五秒。その間際に、龍の息吹は闇の探究者(ダーク・シーカ―)を襲う。

 

 幾重の障壁を砕き、金剛の鎧すら突き抜け、闇の探究者(ダーク・シーカ―)を破壊しようと襲い来る死の炎。

 

「オオオオオオオ──ッッ!!」

 

 その強大な災禍に闇の探究者(ダーク・シーカ―)が飲まれたのは必然だった。

 

 

 

 立ち上る爆炎。今度こそ力を使い果たした龍太郎が龍人形態を解き、膝を付きながら爆炎を見る。

 

 正真正銘、今の龍太郎が出せる全力の一撃。

 

 これで駄目なら……

 

 

 

 

 

「…………クソがッ!」

 

 

 

 

 

 そこに立っていたのは、全身に酷いダメージを追いながらも、立っている闇の探究者(ダーク・シーカ―)の姿だった。

 

 

「オ、オノレェェ……貴様!」

 

 もちろん龍太郎の全力の一撃を受けて無事ではない。存在を構成する魂魄の大部分は消滅し、存在規模(スケール)も大幅に低下した。だが、継戦能力が無くなったわけではない。

 

「……失ッタ魂ガ多スギル。自力デハ回復デキヌガ……今度コソ終ワリダ」

 

 龍太郎に止めを刺すべく、迫る闇の探究者(ダーク・シーカ―)。それに対して抗う術がない龍太郎。

 

 

 今度こそ決着がつく。両者がそれを覚悟した時……

 

 

 不自然なほど静かだった近くの空間から……大爆発が起きた。




次回、鈴と龍太郎の戦いが決着。

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