ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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たいへんお待たせしました。
例によって独自解釈マシマシです。

今回は巨大な力を持った竜に魔人の勇者が挑む話。


竜人と魔人

 はじまりは、何だったのだろう? 

 

 運命の歯車は、いつ狂いだしたのか? 

 

 神の陰謀渦巻くこの世界で、只人の身でその答えを知ることは不可能に近い。

 

 最初はただ同胞を助けたかっただけだった。

 

 そのために試練に挑み、多くの同胞を失い、それでも足掻いた果てに、おおいなる力を手にした。

 

 これで国は救われる。己の心に誇りが満ち溢れて、希望の未来が目の前にあると信じて疑わなかった。

 

 だがそれがいけなかったのだとしたら? 

 

 それこそが悲劇のはじまりだったのだとしたら?

 

 

 

 

 

 その時私は、どうやって同胞に報いればいいのだろう?

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 北の山脈地帯にて、神父の命を受けたフリード率いる魔人族軍が長年の神敵である人族を滅ぼすべく進軍を行なっていた。

 

「進め! 我らの勝利に疑い無し!」

『我らの勝利に疑い無し!』

 

 魔人族の部隊長が配下に向けて宣言する。現在魔人族が率いる魔物は最低でも三千体以上。多くが既存の魔物だが、それらは例外なく飛躍的な進化を遂げていた。

 

 

 四つ眼の黒狼は地獄の番犬の如く頭を二つ増やし、体毛を白に変え、触手を持つ黒猫は白い触手の体毛で覆われた豹のような体躯になり、魔法を喰らう大亀は頭の数がさらに増えている。感じ取れる力から見るに最低でも奈落の下層レベルばかりで、おまけに種族に関係なく全て空中に立っているという異常さ。

 

 

 そんな魔物の中でも最も数の多い灰竜もまた、一体一体が雪原の境界で対峙した時の白竜と同等、奈落の最下層レベルの力を保有しているようだった。それを示すように灰色の竜鱗はより鮮やかとなり、かなり白に近くなり、灰白竜と呼ぶべき存在へと進化を遂げているのがわかる。

 

 

 その脅威を前にウルの町を始めとする北に住む者達は結界の中で震えるしかない。神の使徒などは馴染みがないのとその容姿もあり、直接的な脅威を感じる者は少ないが、この地域に攻め込んできているのは長年人族の敵として敵対してきた魔人族と魔物だ。だからこそ結界内にいるとはいえ、不安を感じずにはいられない。

 

 だがしかし、その民達の不安を拭うために戦う者達もいる。

 

「戦士達よ! 今こそ我らの雪辱を晴らす時、必ず民達を護るのです!」

「おお──ッ!」

 

 竜人族ヴェンリの一声で義憤を上げるのは民達からしたら滅びたはずの伝説の種族。

 

 遥かな昔、あらゆる種族の共存を成し遂げ、最も美しい国を作ったと伝えられる守護者の一族。

 

 竜人族が一族、クラルス族が人族を滅ぼさんとする魔人の軍勢を食い止める。

 

「我らこそが選ばれし種族ッ、この戦いを終え、我らは神民として永遠の楽園へと旅立つのだ!」

 

 魔人族の大義とは、アルヴ教の教えにして、創造神エヒトに選ばれた種族であるという自負。

 

 幼き頃から神敵である人族を滅ぼせば、神域にて神民となり、永遠の楽園で過ごせるという教えを叩き込まれて過ごした彼らに戸惑いはない。例え信仰する神が別の何かにすり替わったとしても、彼らは止まることはない。空中で複数の魔法陣が展開され、神の敵を滅ぼさんと攻め入る。

 

 

 無辜の民を守らんとし、ハジメ達により力を与えられた竜人族。

 神の敵を滅ぼさんとし、神エヒトにより力を与えられた魔人族。

 

 それらの勢力は今のところ互角。

 

 あらゆる魔法とブレスが行き来する中、どちらも一進一退の攻防を繰り広げる。

 

「魔物達よッ、神の敵を打ち倒せ!!」

「戦士達よ! 悪しき神の手から民を護りなさい!」

 

 神の力を受けたことで奈落の下層レベルにまで力を増幅した魔物が前に出れば、悪魔への切符を服用した竜人族達が竜化状態で空中の灰白竜軍と激突する。

 

 すでにこの戦いはこの世界の民達の常識など超えており、もはや天災が過ぎ去るのを待つしかないという様相を醸し出している。

 

 このままでは数で劣る竜人族の部隊が壊滅するか、あるいは個で勝る竜人族が押し返すか、その未来しか無いと思われる中。

 

「白神竜の咆哮ッ」

真竜殲滅獄炎大砲(ドラゴニア・テオブレス)

 

 ブレスの衝突で両軍を吹き飛ばした……

 

 

 ──竜人族の姫にして龍神の継承者、ティオ・クラルスと魔人族の英雄にして神に選ばれし者、フリード・ハグアーに命運は託されるのだ。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 白竜の背に立つ魔人族の若者と幾度目かの相対となったティオは、フリードから目を逸らさずに竜人族達の指揮を行なっていたヴェンリに声をかけた。

 

「ヴェンリよ、ご苦労であった。ここから先は妾に任せよ。皆を連れて下がるが良い」

「姫様……ご武運を」

 

 何かを言おうとしたヴェンリだったが、ティオの目を見て考えを改める。

 

 その目が告げていた。ここから先は自分達の理解が及ばない戦いになると。だからこそヴェンリは、己の主君を信じ、部隊を下がらせる。

 

「ふん、いい加減貴様らと関わるのも飽き飽きしてきたな」

「それはこちらのセリフじゃよ。いい加減にしてほしいものじゃ」

 

 グリューエン大火山で敵対して以降、魔人族フリードは幾度もティオ達と敵対してきた。その戦い全てでティオ達が勝利しており、戦う度にフリードは深い傷を負って引き下がるを繰り返してきたが、今もってなお戦意は衰えないらしい。

 

「最後に一つ問うておこうかの。今お主は……何のために戦うのじゃ?」

 

 どんな形であれ、目の前の魔人族との因縁がここで終わると感じているティオは最後に聞いてみたくなった。

 

 今、彼の心はどこに向いているのかを。

 

「お主は何故、エヒトルジュエになんぞ従っておるのじゃ? 奴は人間族側について戦争を扇動しておった。そのせいで亡くなった魔人族も多かろう? 思うところはないのかの? お主とて同胞を思いながら大迷宮へ挑み、神の正体を知ったはずじゃ」

 

 今まで出会ってきた魔人族は皆フリードを慕っていた。おそらく魔人族にとっては本当に良き将軍なのだということが伝わってくる。

 

 そしてだからこそ解せない。

 

「何を言っている卑しい亜人がぁ! 神の意思に従うのは、神の民である我らの使命であろ……」

「そこの若いの……しばし黙っておれ。妾は今、お主達を率いる将たる男と話をしているゆえな」

「ッッ!!」

 

 同伴していた若い魔人族が、フリードに代わってティオに暴言を投げるが、ティオが威圧を籠めるだけで言葉が止まる。

 

「お前は下がっていろ!」

「フリード様……」

「他の者も下がれ!! こいつの相手ができるのは私しかおらん!」

「……はっ!」

 

 フリードの命令により、一人の例外もなく後方に下がる魔人族。

 

「慕われておるのだな。それによく訓練されている良い兵達じゃ。だからこそ解せぬ。なぜお主を慕う兵を犠牲に出来るのじゃ? 神の名の下に行われる戦いに未来などない。今のお主はそんなこともわからぬのか?」

「…………全ては神の御心のままに」

「その神が……別のナニカに挿げ代わってもか?」

「……」

 

 もはや神のためという大義すらこの戦いにはない。なぜなら神エヒトは邪なる聖者により、神の地位を追われたのだから。

 

 まさかそれすら知らないのか。神父がどれほどフリードに手を出したのかはわからないが、今ならフリードの目を覚まさせることができるかもしれない。

 

 だが、ティオのそんな想いは……

 

「……もはや問答は不要。私は最後まで、神の使徒として戦う」

 

 問答を打ち切り、戦闘態勢に入ったフリードにより打ち捨てられた。

 

「……そうか。本当に、本当に残念じゃ」

 

 目の前の魔人族とは相いれない。それがわかったティオは……

 

「”竜の心臓”」

 

 自身の魔力回路である竜の心臓に火を灯した。

 

 

 ドクンッ! 

 

 

 その鼓動だけで、周囲に膨大な魔力が広がり、周囲を威圧する。

 

 竜化状態でしか駆動しなかった無尽蔵の魔力炉がうなりを上げ、龍気を生成する様は、まるでこの世の絶対王者を思わせる。

 

 

 世界最強の生物であるドラゴン。その頂点に近い場所にいる真竜が、戦闘態勢に入ったのだ。

 

「せいぜい足掻くがよい。さすれば……その頭の霧も晴れるやもしれぬからな」

 

 

 ティオの挑発に乗る形で先制したのは、フリード率いる魔物軍。

 

「蹂躙せよ!」

 

 フリードの命令を受けた魔物達が、たった一人の竜人族相手に一斉攻撃を行う。

 

 上空からは灰白竜による極光の暴雨が降り注ぎ、背後からは空中に浮かぶケルベロスによって業火の津波が吐き出され、再度からはアハトドの集団による魔力衝撃波の壁が迫る。

 合わせてフリードも動く。神の使徒化によって手に入れた分解魔法による白羽が流星群を思わせる規模でティオに襲いかかる。

 

 常人であれば生を諦める状況においても、ティオは一切焦りを見せない。

 

 己の敵は己の中にある。ティオは己の中の龍の解放を開始した。

 

「装甲展開」

 

 その言葉と共に、放たれた攻撃全てをその身に受けるティオ。

 

 背後で自らの将の戦いを見守っていた魔人族は歓声を上げるが、フリードとフリードを背に乗せるウラノスは一切油断せずに構える。

 

 そしてフリードの懸念は外れることなく……

 

「龍人装甲……紅龍神の竜鱗装甲(グレン・ドラグ・スケイルメイル)

 

 龍人と化したティオが無傷で現れる。

 

 その姿は紅の和鎧を着た龍人の戦姫。着物の上だけでなく、肌を覆うようにして展開された紅のスケイルメイルが、魔物の攻撃全てを受け止めてみせた。

 

「やはり……恐るべき頑丈さだ」

「お主の魔物の攻撃も悪くはなかったがの……今の妾に攻撃を通すには力不足じゃ」

 

 もはや人型の龍と言っていい今のティオはあれだけの攻撃を受けてなお、まるでダメージが通っていない。元々耐久はハジメパーティーでも破格の能力を持っていたティオだが、初代クラルスとの修行を経て、さらに耐久に磨きがかかっていた。

 

「さて、ではこちらからも行くぞ」

 

 ティオは竜の翼を展開する。

 

 包囲網を突破するための高速移動と読んだフリードが、すかさず魔物に各種感知技能を発動させる。

 

 全ての魔物が高精度の感知技能を備えており、どれか一つでも引っかかれば即座にフリードに伝達する仕組みだ。

 

 包囲網からの連続集中攻撃。逃がすつもりはないと意気込むフリードだが。

 

 

「"龍神昇華"……一階層」

 

 

 ドクンッ! 

 

 

 龍の鼓動が鳴り響くのと同時に、ティオが眼前に迫っていた。

 

「ッ!?」

 

 フリードが全ての魔物の感知を振り切るティオの移動速度に対処できずにいる中、本能的に主の危機を察知した白神竜(ウラノス)が迎撃のために動く。

 

 

 ──ゴァアアアアアアアアアアアアッッ!! 

 

 

 ティオ目掛けて放たれたのは特大の咆哮。

 

 空間魔法が付与された音と空間の激震が真正面のティオに直撃する。

 

 その衝撃で一部の魔物が砕け散る中、流石のティオも吹き飛ばされた。

 

「助かったウラノス。これなら……」

 

 至近距離での神竜の咆哮。力が絶大過ぎて集団戦では使えない力だが、直撃させたのならダメージは避けられない。

 

「ふむ、やるのぉ若いの。流石に無傷とはいかぬな」

 

 至近距離で咆哮を直撃したティオの鎧の一部に傷が入っている。

 

「そのまま畳みかけよ。奴とて無敵ではない!」

 

 ティオの放つ魔力に委縮していた魔物も、魔物達の頂点でもあるウラノスの攻撃がティオに通じたことで行動を開始し、ティオに向けて再び砲撃の雨を打つ。

 

 ティオは全方位から放たれる砲撃の雨を掻い潜るようにしながら避けていく。

 

「”竜爪”」

 

 指先から放たれた熱線がまるで竜の爪が振り下ろされるように弧を描き魔物軍に襲い掛かる。その威力は包囲網の一部を巻き込みながら引き裂き、軌跡上の魔物をまとめて消滅させた。

 

「拘束せよ!」

 

 魔物軍の一部を滅ぼしたティオが一瞬硬直する隙を見逃さなかったフリードは、触手型の魔物を全て総動員してティオを拘束する。

 

 幾重にも絡まった触手の束はティオを中心に繭状になるが、激しい光と共に触手が爆発四散する。

 

「ふむ……やはり触手は好かぬな。ただ気持ち悪いだけじゃ」

 

 無理やり触手を吹き飛ばしたティオだが、視界からフリードが消えていることに気付く。

 

「これで終わりだ!」

 

 声が響くのはティオの頭上。ティオが見上げる頃にはウラノスの準備は終わっていた。

 

 ウラノスの開かれた顎門の先で凝縮された白雷のスパークが迸りながら集束し……放たれた。

 

 耳鳴りのような音と共に周囲一体が強烈な光に満たされる。

 

 白神竜ウラノスのブレス──”極光”

 

 香織が治したとはいえ、かつてハジメを再起不能寸前まで陥れたそれの数十倍の力がティオに落とされる。

 

「"龍神昇華"……二階層」

 

 命中していたらウルの町を湖ごと蒸発させかねない力がティオに直撃し、爆発する。

 

「やった、ウラノスの極光が!」

「流石の奴でも、これなら跡形も残るまい!」

 

 今度こそフリードの勝ちを確信した魔人族達が歓声を上げる。

 

 神の手により神竜と呼べるレベルまで進化を果たしたウラノスのブレスは、いかなる敵を一撃にて屠る大いなる力だ。

 

 フリードとて確信に近い予感はある。いくらこの世界の全ての大迷宮を走破した集団の一人とはいえ、今のウラノスの一撃を喰らって無事で済むわけがないと常識の部分が安堵しようとする。

 

 だが、同時にフリードは知っていた。

 

 

 必勝を確信し、挑んだ王都襲撃戦。

 

 その際に己の部下達を蹂躙し、薙ぎ倒し、世界の境界さえも破壊して見せた黒き軍装の死神を。

 

 これほど力を増してなお、藤澤蓮弥という男に勝てると確信できない。

 

 そしてティオ・クラルスはその一味の仲間なのだ。

 

 

 爆心地に光の柱が立ち上がる。

 

 天高く上った魔力流は、そのまま光の雨として降り注いだ。

 

 この雨自体には攻撃力はない。ただの具現化しただけの魔力だ。

 

 だがそれは同時に、大洪水もかくやという規模の魔力を放出している者が爆心地の中心にいることを意味していた。

 

 

「ッッ……化物め」

 

 そこに現れたのは巨大な竜の翼を広げる竜人の姿。

 

 あれだけの攻撃にさらされた後だというのに、壊れかけていた鎧は再編され、より高密度の魔力を纏っている。

 

「…………化物とは失礼な……妾とて……女じゃぞ」

 

 一瞬でフリードの側まで移動したティオは化物扱いするフリードに抗議するも、フリードは内心舌打ちするしかない。

 

「貴様のような存在を、化物と呼ばずに何と呼ぶのだ」

 

 ウラノスの一撃はフリード達魔人族にとって最大火力を誇る力だった。再生や治癒を阻害する力も備わっており、これを受けて生き残ったとしても極光の毒に汚染され、じわじわと敵を追い詰めることができるはずだったのだ。

 

 だがフリードの目の前にいるティオは間違いなくブレスが直撃したにも関わらず殆ど効いている様子がない。極光の毒すら無効化しているのは明らかだった。

 

「ッッまだだ!!」

 

 攻撃が効いていないわけではない。ウラノスの一撃で倒せないなら数の暴力で攻める。

 

 フリード達魔人族にとって幸いだったのは、ティオが単騎にて戦いを行っているところだ。

 

 直前まで戦っていた竜人族達は、民間人を守るための結界の構築に力を割き、ティオの援護をすることができない。

 

「逃げ場のない集中砲火で攻撃せよ! 当て続ければ、いずれ倒れる!」

 

 フリードの攻撃を受け、周囲の魔物が一斉にティオに向けてブレスや魔法を掃射した。

 

「……ッ、無駄なことを」

 

 顔を歪めるティオが翼を広げ、高速戦闘を開始する。

 

 ティオの姿が消えると同時に、魔物軍の一角がまとめて爆発した。

 

「な、何が起きて……」

 

 魔人族の兵には赤黒い閃光が走ると共に魔物軍が爆散しているようにしか見えない。帯を引きながら、極超音速戦闘機と化したティオが戦場を蹂躙する。

 

「ふざけるな……俺達が一体どれだけの数の魔物を率いていると思って……」

 

 王都襲撃にて、大災害群体の被害を受け、使役する魔物を大幅に減らされた魔人族だったが、この戦いを始める前に、神エヒトより神獣の譲渡が行われていた。

 

 神域の魔物の力は、一年前であれば、この軍勢を見ただけであらゆる国が、人種が、生を諦めただろう。

 

 神に選ばれたのは魔人族であり、自分達はただ消えゆく敗者であると実感し、敗北感と絶望の底に落とされたはずだ。

 

 そのはずなのに……自分達は神に選ばれた種族であるはずなのに……

 

 

 その竜爪は魔物ではなく魔物群を引き裂き、そのブレスは数千の魔物を一撃で蒸発させる。

 

 音すら置き去りにする超速度は魔物達の攻撃を掠らせることすらせず、仮に偶然当たったとしても分厚い竜鱗の装甲が防いでしまう。

 

 空を支配するこの生物には数の有利が通用しない。地を這う虫けらが何万集まろうと、天高く飛び上がる竜には傷一つ付けられない。

 

 空を自由に舞う人型の竜が魔物を駆逐するのに、時間はかからなかった。

 

「さて……これで……終わりかの」

 

 ティオが掌を向け、魔力を籠め始める。

 

(ここまで……差があるか)

 

 まさか竜化すらさせることができないほどの差とは思っていなかったフリードは、呆然とティオの方を見るしかできない。

 

 ティオも言葉をかけることなく、そのまま闇夜のような魔力球をフリードに放とうとして……

 

 

 ──四方から放たれた魔法により阻まれた。

 

「お前達!」

 

 そこに現れたのは、まさにこの戦場から離れたはずの配下達。総勢数百人程度だが、この戦場に連れてきた総員がこの場に集っていた。

 

「フリード様、お逃げを!」

「あなたは……ここで死んではなりません!」

「この化物は我々が引き受けます!」

「急ぎ撤退を!」

 

 彼らは見ていた。魔物を率いて、神竜を率いて、巨大なる敵と戦う将の姿を。

 

 その姿を見て、必死にティオに喰らい付く自らの主君の姿に、何か感じるものがあったのかもしれない。

 

 今彼らの目に、信仰の狂気はない。みずから仰ぐべき主君を目の前の竜人族の姫からいかに逃がすかしか考えていない。

 

「お前達……」

 

 

 

 

 

『もしあなたが……かつての自分を思い出すことがあれば……これを使いなさい。もしかすれば……彼らに一矢報いることが叶うかもしれませんよ』

 

 

 

 

 なぜ、フリードの脳裏に、この戦いを始める前の神父の言葉が蘇るのか。

 

 そしてなぜ今更、かつて氷雪に包まれた大迷宮に挑んだ時のことを思い出すのか。

 

 渡されたのは、一本の牙。神父曰く、伝説の竜の牙の一部を加工したものらしい。信仰に染まった頭で、これの使い方も聞いていた。

 

 

 ──使用に伴う代償についても

 

 

「お前達……」

「はっ、ここに!」

 

 

 

 

「────。────ッ」

 

 

 フリードの言葉に対して、問われた魔人族達は……

 

 ──揃って笑みを浮かべた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 これまでの戦場にて始終優勢であり続けるティオ。

 

 初代クラルスとの修行により、龍神紅蓮の力を引き出すことができるようになった現在のティオに敵う者は少ない。

 

 

 龍やその眷属である竜は本来そういうものなのだ。

 

 竜に特殊な能力など必要ない。

 

 如何なる概念が相手であろうと、質量の桁が違えば意味などない。

 

 相性次第で、創意工夫次第で、弱者であっても強者を倒せるという理屈は通じない。

 

 ただ力。あらゆる敵を跡形も残らず消し飛ばす力の塊。

 

 それが龍であり竜でありドラゴンと呼ばれる幻想における最強の生物なのだ。

 

 

 そんな龍の力を手に入れたティオは現在、戦場のど真ん中にも関わらず……

 

 

 ──意識を失わないようにするのに全力を費やしていた。

 

「~~~~ッッ」

 

 魔人族達の意識がフリードに向かったことを理解したティオは、苦悶に顔を歪める。

 

 

 今ティオに襲い掛かっているのは……痛み。

 

 

 竜の心臓を動かした時から、ティオが自らかけた『戒律』は容赦なくティオに苦痛を与え続けている。

 

 

 技能”龍神昇華”

 

 

 その名の通り、龍神の領域に近づくことのできる技能だが、本来この技能には第一段階や第二段階などの刻みは存在しない。

 

 本来ならリスクなしで龍神化まで至れるはずの技能も、今のティオには段階を踏まなければ耐えられない力なのだ。

 

 

「実戦で本格的に使うのは……中々辛いものがあるのぉ」

 

 

 制約もなく、使用に危険を伴うこともない無敵の龍の力をわざわざ制約を設けて使用するなど一部の者はティオを愚かだと罵るだろう。

 

 

 だが、ティオはそれでいいと考える。

 

 軍を薙ぎ払い、街を焼き払い。国すら滅ぼすほどの力が、何の制限もなく使えていいわけがない。

 

 圧倒的な力の持つ誘惑は恐ろしい。どんな聖人であっても痛みに鈍感になりながら力を振るい続ければ力に酔ってしまう。

 

 光の使徒と称されていたはずのエヒトが堕ちた神になったように。

 

 だからこそ、この戒律はティオが堕ちないためのもの。

 

 ティオがティオのまま、力を振るうためのもの。

 

(これで終わってくれるのなら、楽なんじゃがの)

 

 決死の表情でこちらに攻撃してくる魔人族の部隊を文字通り払い退けつつ、ティオはフリードの方を見る。

 

 心なしか、フリードのその表情は以前と違って見えた。

 

「何か掴んだのか。それとも何か思い出したのかの」

 

 相手が狂信者のままであれば無慈悲に爪を振るう覚悟があるティオだが、もし相手が戦士であるのなら……

 

「構わぬぞ。全力でくるがいい。妾は逃げも隠れもせぬ」

 

 全力で迎え撃つのが、誇り高き竜人族の在り方だ。

 

「…………ウラノス」

「がう……」

「……最後まで付き合ってくれるか?」

「……ぐるる」

 

 自らを背に乗せる相棒にそう語りかけるフリードに対し、フリードの始まりの従魔である白き竜ウラノスは、肯定の鳴き声を上げた。

 

「あれは?」

 

 ティオはフリードが持つ白い牙に注目する。

 

 純白の牙が放つ魔力は、ある種の力ある遺物に相応しい力を放っているのがわかった。

 

 そのことからティオは、あの牙を初代クラルスの鱗と同系統の遺物であると理解する。

 

”古に生きる古き龍よ。我が捧げる贄を喰らいて今こそ白き龍の力を我に与えん”

「ッ、お主ッ、まさか!」

 

 ティオが反応するが遅い。フリードが胸にその牙を突き立てると場が光に包まれる。

 

 影響を受けるのはフリードだけではない。彼の側にいた魔人族達もまた光に包まれ、肉体の分解の後、魂がフリードに集まっていく。

 

「狂信ゆえの行動か……それとも……」

 

 ティオの疑問の答えが出る前に、光の中からフリードが姿を現す。

 

 

 そこにいたのは、一人の魔人族。

 

 

 全身を白い鎧のような鱗で覆い、背中には青白い光を放つ巨大な翼が生えており、周囲にはウラノスの周囲に存在していたオベリスクが備わっている。

 

 

 空間変成魔法”超越融合”

 

 

 空間魔法にて種族の壁を取り払い、変成魔法にて異なる生物を合成することで、今フリードは己の相棒であるウラノスと生物レベルで融合している。

 

 

 今までとは桁の違う魔力を発し、ティオを真っすぐ見つめる瞳に写るのは、ある種の覚悟を決めた者の目。

 

「蓮弥が使う術式に似ているが、わかっておるのか? それを使えば……お主は勝っても負けても先はないぞ」

「…………すべて承知の上だ」

 

 フリードは籠手に覆われた手を掲げ、ティオに向かって宣言する。

 

「我こそは、魔人族の勇者フリード・バグアー。今こそ同士の想いを背負い、汝に戦いを挑もう!」

 

 フリードの言葉通り、現在フリードの内側には数多の魔人族の魂が宿っている。特殊な複合魔術(エイヴィヒカイト)無しで他人の魂を抱え込んでも自我を失くさず、力に変えることができるのは、彼の持つ常人にはない将軍とての器のおかげなのだろう。

 

 

 もし、信仰に染まらず、真に魔人族の未来を憂う将軍のままであったのなら、別の道があったのかもしれない。もしかしたらティオ達の側に立って、世界のために戦うような世界があったかもしれない。

 

 

 だが、もう全ては遅いのだ。

 

 

「いいじゃろう。受けて立つ」

 

 フリードの覚悟を見定め、ティオが再び戦闘体勢に入る。

 

「"龍神昇華"……三階層から五階層──解放」

 

 いきなり()()()一歩手前のトップギアまで入れるティオ。当然ティオの身体に今まで以上の負荷がかかるがそれを耐え抜き、真っすぐフリードの方を向く。

 

 そうしないと、此方がやられるとわかっていたから。

 

 

「いくぞぉぉぉぉ──ッッ!!」

 

 白き竜魔人騎士がティオに向けて飛び込む。

 

 

 ここに竜人族と魔人族の最後の戦いが幕を切った。

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 フリードの力は今までとは次元が違っている。目の前に消えたフリードの拳に吹き飛ばされた時に、それを確信した。

 

(龍神化一歩手前の妾にダメージを与えるか)

 

 すぐに体勢を立て直したティオが無数の竜爪を振るうが、超高速で飛行するフリードは全ての攻撃をかわして見せた。

 

「白帝竜剣!」

 

 手に光の剣を発生させたフリードが、ティオに向かって真っすぐ振り下ろす。

 

 それを受けてはならないと察したティオがかわすと、直線状にあった山が真っ二つに斬り裂かれた。

 

 以前暴走した蓮弥が暴れまわることで地形が変わってしまった北の山脈地帯が再び被害を被るのを見たティオは、地上に影響が出ないように超高度まで飛び上がるとフリードもティオの意図を察したのか、高速移動を始めたティオに追いすがる。

 

『ふむ。魔族のまがい物だと思っていたが、中々の大器であったようだな。神の信仰を振り払えていれば傑物になれたものを……』

「ッッ!? 龍神様!」

 

 そこでティオは側に見覚えのある紅珠が浮かんでいるのに気づく。

 

『お主がここまで力を発揮したのがわかったのでな。様子を見に来た。……身体への負担は平気か?』

「お気遣い感謝するのじゃ……けど、大丈夫じゃ龍神様よ」

『ふん。本来この力を使うのにリスクなどないものを、わざわざ欠陥を作って使う者が現れようとはな』

 

 本来、龍神の力にリスクなどない。あえて言えば力を使うたびに強力な破壊衝動に襲われることはあったが、従来の悪性寄りだった竜であれば気にすることもなかったものだ。

 

『今更お主の覚悟に文句などつけぬが、我の力を使う以上、無様を晒すことは許さぬぞ』

「委細承知」

 

 後ろから追い付いてきたフリードがティオ目掛けて無数の光弾を放ってくる。

 

 数百を超える光弾は全て灰白竜のブレスを遥かに超える魔力が込められているのがわかった。

 

「”爆竜炎陣”」

 

 全方位に発する炎の波を放ち、迫りくる光弾を防ぐも一瞬視界が塞がってしまう。

 

「はぁぁぁぁ──ッッ!」

 

 その隙を逃さず、ティオに向かって白帝竜剣を叩きつけるフリード。

 

 

 竜鱗の盾を形成し、防御したティオだが、その盾を光の剣が砕きティオを北の海に叩きつける。

 

 衝撃と共に立ち上る水柱を眺めながら、フリードが顔を激しく歪める。

 

「まだだ、まだやれる!」

 

 だが攻撃を受けたティオ以上に、フリードの消耗が激しい。

 

 まるで全身に火を付けて突撃を繰り返しているかの様子は、後先などまるで考えていない。

 

「どうした! 俺はまだ戦えるぞ!! トータスの伝説に刻まれた竜人族がこの程度のわけあるまい!」

 

 

 この世界において、自身の種族以外は皆敵だとする種族は多い。

 

 人族は魔人族を神敵とし、亜人族を人間モドキ扱いした。

 

 魔人族は人族を神敵とし、亜人族を動物モドキ扱いした。

 

 吸血鬼を始めとする魔族は鎖国していたが故に例外として、ほとんどの時代においてその関係性は変わらない。

 

 ……たった一種族、竜人族を除いては。

 

 

 五百年前、あらゆる種族が暮らす理想の国を作り上げた竜人族だが、そのあらゆる種族の中には南の大陸に住む魔人族もいたのだ。

 

 そして竜人族の国が滅び去った後も彼らの偉業を評価する魔人族は多い。

 

 ある魔人族は、彼らこそが、この世界の王の一族であったと賞賛し、

 

 ある魔人族は、そんな王の一族を滅ぼし、理想郷を崩壊させた人族は、やはりこの世界に存在してはならない邪悪であると確信を深め、

 

 ある魔人族は、伝説にある彼らの武功を知り、一度手合わせして見たかったと語る。

 

 

 つまり魔人族にとっても、竜人族とは伝説の種族なのだ。

 

 だからこそ、フリードは伝説の一族の末裔が自らの前に立つと確信している。

 

 そして……

 

「ふむ、待たせてしもうたか」

 

 まるで少し出かけていたかの調子で再びフリードと同じ高さの空域まで昇る。その姿はフリードの全力に近い攻撃を受けても未だ健在。

 

 

 その姿を見て、フリードは思わず笑みを浮かべる。

 

 

 彼女こそが、自分の最後の敵に相応しいと。

 

 

「…………いくぞ竜人。これが俺の最後の一撃だ」

 

 

 フリードの周囲に浮かんでいたオベリスクがフリードの突き出す腕の周囲を旋回し、中央に巨大な魔力球を生成する。

 

 

 文字通り全ての力を賭けた一撃。魔人族フリード・バグアーの至高の一撃に対し、ティオの取った選択はシンプルだった。

 

「……よかろう、受けて立つ。全力で来るがよい」

 

 逃げも隠れも、隙を突くこともしない。フリードが竜人族の戦士とての自分と戦いたいと言うのなら、それを叶えてやるのも悪くない。

 

 

 少なくとも今のフリードにはそれだけの価値があるように思えた。

 

 

 極限まで圧縮された魔力が光を放つ。放つ光だけで並みの魔物を跡形もなく滅ぼしかねない力。

 

「これで……最後だぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 至大至高の一撃、それが一人の竜人族に向けて放たれる。

 

 超巨大なブレスとなったその力は、手を前に翳して、防御の姿勢を取ったティオを飲み込んだ。

 

 

 一秒、二秒……

 

 

 極光の放射は十秒以上続く仲間の魂すら用いた一撃。何物も存在を許さないその力を受けてなお……

 

 

「……見事ッ、敵ながら天晴じゃ。そなたの至高の一撃、妾は二度と忘れぬ」

 

 ティオは光の中から出てくる。

 

 流石に無事ではない。全身極光で焼かれ、血が滴り、光の毒にやられ一部爛れている部分もある。

 

 

 傍から見れば重傷にも見えるその姿は、けれども微塵も衰えない覇気に満ちていた。

 

 

 フリードの一撃に、彼の魂の形を見たティオは、同時に彼の真意を知ることになったが、そのことに対して無粋な口を挟むことはしない。

 

 

 彼の覚悟も想いも、彼だけのもの。所詮他人であり、かつ敵対者であるティオにできることなど、一つしかない。

 

 

 ティオは鎧の一部を変形させ、巨大な大太刀を生成する。棟が竜の鱗に覆われた身の丈を優に超えるその巨大な大太刀をティオは、斜めに振り上げ……

 

 

 ──力を使い果たした魔人族の戦士を一刀にて斬り捨てた。

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 斬り捨てられ、身体の感覚が徐々に無くなっていく中、天から墜落するフリードは懐かしい夢を見た。

 

 

 まだフリードが若き兵士だった頃、魔人族は人族との争いの中、劣勢に立たされていた。

 

 人族との争いに負け、敗走が増える度に同胞達の中で絶望が広がった。

 

 今はまだ大丈夫。けど次はどうなるのか。いよいよ人族が魔人族の領域深くに攻め入ってくるのではないか。

 

 そんな不安が蔓延する祖国の危機に対し、若き兵士だったフリードは大迷宮の伝説に縋った。

 

 攻略したものに、大いなる力を与えると伝えられる大迷宮を攻略しようと、賛同してくれた同胞達と共に大迷宮攻略に挑んだ。

 

 魔人族の中でのし上がろうと野心を滾らせたわけでもない。憎き人族を皆殺しにしたかったわけでもない。ただ絶望を胸に抱く同胞をただ救いたくて、報いたかった。何にも脅かされない安心できる国に、同胞達の守護者になりたかっただけなのだ。

 

 攻略は困難を極めた。自分を慕い、ついてきてくれた同胞が大迷宮の罠により帰らぬ人となる中、同胞の死を無駄にしないため、フリードは一人大迷宮の最深部に到達する。

 

 最後の試練にて、フリードの分身はフリードに問いかける。

 

 ──お前は手に入れた力を使い、戦争を加速させ、多くの同胞を死地に追いやるだろう。お前の望みは矛盾している。

 

 その問いに対して、フリードは答えた。

 

『ならば自分が強くなり、同胞達を守ればいい』

 

 その他問答を行いながら己の分身との戦いを制したフリードは魔人族初の大迷宮攻略を成し遂げ、神代魔法を手に入れるという偉業を成し遂げる。

 

 祖国は帰ったフリードはその功績から勇者の称号を与えられ、一躍時の人となった。

 

 誰もがフリードを褒め称え、従えた魔物達の姿に劣勢だった同胞達は希望の光を見る。

 

 フリードも希望に満ち溢れていた。

 

 使役する魔物を増やせば、同胞達の生存率が上昇する。戦争に勝つことができる。

 

 そしていつか、解放者の残したメッセージにあった人族を支配する神エヒトを打倒し、神アルヴをこの世界の神の座につけるのだ。

 

 今思えばここで勘違いしたのがいけなかった。解放者が言う悪神エヒトとはあくまで人族が信仰する神のことであり、神アルヴはエヒトの支配からの解放を願う善神だと思ってしまったのだ。

 

 だからこそフリードは人族は悪神エヒトに支配されているからこそ邪悪な種族であり、いつかエヒトを倒し、その支配から解放すれば、人族もアルヴ神の加護を受けられると思っていた。解放者達の意思を汲んではいたが、どこか歪さが残ってしまったのだ。

 

 

 おかしいと思ったのはいつのことだろうか。

 

 フリードが鍛えた魔物達を、フリードの部下が人族の非戦闘員の民間人に対してけしかけ、魔物になぶり殺しにされるところを嘲笑っている光景を見た時だろうか。

 それとも撤退を命じたはずの部下が、アルヴ神の名前を恍惚の笑みを浮かべながら叫び、敵もろとも自爆した時だっただろうか。

 

 どうもおかしい。かつて神代魔法を手に入れた時に思い描いた国とは様相が違う。

 

 かつての同胞は神敵とはいえ、非戦闘員に対して虐殺を行うような騎士道のかけらもない行為を平然と行う者達であったか。捨てなくてもいい命を簡単に捨てるような者達であったか。

 

 たしかに絶望が蔓延していた頃より活気には溢れているし、笑顔も増えている。だがその笑顔がどこか歪に見えるのは気のせいだろうか。

 

 その疑念を抱きつつも、フリードは国に貢献し続けた。自らの進む道がいずれ魔人族の未来に繋がると信じて。

 

 だが、好調だった魔人族の勢いに霧がかかり始めることになる。

 

 異世界人の召喚。

 

 最初は取るに足らない子供ばかりだと思っていた。侮れないものも数人いるが、それでも最終的に自分達が勝つ。そう信じて疑わなかった。

 

 勇者に対して調査を依頼した信用に足る腹心の一人だったカトレアが帰って来なかった時から嫌な予感はいていた。

 

 カトレアが残した情報から人族に神代魔法使いが現れたことを知ったフリードは新たな力を求めるために、西の砂漠に一人渡った。

 

 新たな神代魔法を手に入れた。これがあれば同胞を守れるはず。そう信じていたのに、火山にて敵対した異世界人率いる集団は、フリードの想像を超えた戦闘力を持っていた。

 

 思わぬ負傷も受けた。顔が崩れる苦痛の中、フリードが抱いたのは恐怖。

 

 敵の戦力は想像以上だった。新たに手に入れた力も通じなかった。このままだと同胞を守ることができない。

 

 フリードはもう逃げられる立場にはいなかった。今の魔人国ガーランドの状況は、自分が齎したもの。だから自分がやらなければ、責任を取らなければならない。

 

 大迷宮に挑んだ時、若き兵士の一人だったフリードは、将軍という地位に着き、多くの責任を負うことになった。

 

 その重圧からか、それとも同胞達の変貌に対する不安からか。

 

「あなたに力を与えてあげましょう」

 

 恐ろしいほど美しい神の使徒にフリードは縋り付いてしまった。同胞を守るためならなんでもするつもりだった。その結果、フリードは神の手に囚われてしまうことになる。

 

 

(すまない。皆)

 

 神に囚われてからのフリードは初心を忘れ、神の都合の良い操り人形だった。もっと早くこの世界の真実を正しく理解していればと思わずにはいられない。

 

 自分の命令で多くの魔人族が死んだ。

 

(カトレア、ミハイル、アリア)

 

 皆自分にとって腹心の部下だった。

 

 カトレアとミハイルの婚約が決まった時には我が事のように喜んだ。まだ年若い女騎士アリアは自分のことを慕ってくれた。

 

 けれども彼らの犠牲虚しく気がつけば多くの同胞は邪神の意思に汚染され、引き返せないところまで来ていた。

 

 今更神エヒトを討つために動くことなどできない。フリードにはとらなければならない責任があった。

 

(だがやっと、お前達のところに逝ける)

 

 道中道を間違えた自分だが、最後の最後で戦士として死ねたのは僥倖だろう。しかも相手が伝説の竜人族なら冥府でも自慢できるかもしれない。フリードはそのことを思い少しだけ愉快な気分になった。

 

 後のことは魔王様に任せよう。当時は理解できなかった行動もきっと魔人族の未来のためにある。神の支配下にもっとも近い場所にあるはずの魔王に対しては何故か今になっても信頼できる気がした。

 自分は特に信心深く、神の齎す思想の毒にやられていた同胞達と共に逝く。魔国に残る信仰心の薄い魔人族はこれからの時代に適応できるはずだ。

 

 そこまで考えたところで、いよいよ終わりが近づいていることに気づいたフリードは最後に相棒の白竜ウラノスを見る。手に入れた変成魔法で初めて従魔にしてから、最後までついてきてくれた相棒だ。

 

「……すまん。共に逝ってくれ。相棒」

 

 その言葉に対し、肯定の意思が帰ってきたことに安堵したフリードは、静かに溶けるようにして消えていった。




>フリード・バグアー
原作だと一体いつから神の傀儡になっていたのかは不明。少なくとも神代魔法を手に入れる前と自分との対話を攻略したであろう試練直後はまともだったはず。
本作では、大火山まではどこか迷いがありつつもまともであり、王都襲撃前にエーアストに出会ったことが間違いの始まりと解釈。

神座シリーズ基準で言うなら実はそれなりに大きい魂の器の持ち主であり、もし道を違えずに鍛え上げられていればもっと強くなった可能性は在り得る。

フリードとウラノスが融合した姿のモデルは、ハイスクールD×Dの白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)

>ティオ・クラルス
初代クラルスとの修行で龍神化を習得したが、自らがかけた戒律の影響で自由に使えない力になる。
魔力を使えば使うほど苦痛が増えるため本来弱点のない龍という存在から極めて歪なものになっている。
今回の披露した鎧のモデルはハイスクールD×Dの赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)
むしろティオは中の人的にスイッチ姫の鎧が近いかもしれない。

次回は、シア編ですがいつになるかは明言できません。気長にお待ちいただけるとありがたいです。

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