ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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絶賛スランプ中のシオウです。

本当はもう少し貯めたかったのですが、モチベ向上のために更新します。


進撃の亜人

 神の使徒に自我などいらない。

 

 もとよりこの身は神の創造物であり、己の全ては神のもの。

 

 神の命令だけを聞き、神のために生き、神のために死ぬ。

 

 そう作られ、そして……それでいいとずっと思っていた。

 

 

 

 そう…………思っていたのだ

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 フェアベルゲン上空に無数の神の使徒が迫る。

 

 我等の敵を全力で排除せよ。

 

 新たなる主となった神父ダニエルによって命じられた神の使徒のナンバーズ達は、まずはエヒトが作り出した失敗作が(たむろ)する樹海を襲撃した。

 

 

 原初の五種族の一種である森人族を除く亜人族は、かつて神エヒトが作成した人工種族である。

 

 

 魔族の減少をキッカケに、かつて同胞と共に南の地の果てに封じた魔王が復活するかもしれないと言う懸念を防ぐために、減りつつある魔族のレプリカを作ろうとしたのがキッカケで生み出されたのが魔人族。

 

 

 魔人族の出現により、魔王の封印は何とか保たれたのは良かったが、魔人族を作る過程で失敗作がいくつか生まれてしまった。それこそが亜人族と呼ばれる種族であり、魔族のレプリカを作ろうとしたにも関わらず、ほとんどが魔力を持たずに生まれた失敗作をエヒトは東の果てに広がる森に放置した。

 

 せっかく作った種族を捨てるのは惜しいと思ったのが、あるいは残しておけば後で遊びに使えると思ったのか、今となっては定かではないが、長いトータスの歴史上で、亜人族はほとんどの期間を被差別種族として過ごすことになる。

 

 この世界は魔力こそが全てだ。魔力を持たない亜人は人外だと人族からも魔人族からも疎まれ、蔑まれて生きてきたのがほとんどだろう。

 

 増してや今から戦うのは神が長年自らの眷属として愛用してきた神の使徒だ。

 

 昔なら亜人族が一方的に蹂躙されて終わるだけだったはずだ。

 

 そう、終わるはずだった。

 

 

 

 樹海の結界により、外から攻撃ができない神の使徒は、樹海の中にて戦闘を行うことになるが、そこは亜人族達が真の意味で本領を発揮できる狩場と化していた。

 

 

「シィッ」

 

 樹々を足場に立体機動を行い、死角から迫るのは、立体機動力においては亜人随一の能力を持つ豹人族の青年戦士。

 

 そのあまりの速度により分解魔法を展開することができなかった神の使徒の一体は大剣でガードする。

 

「はぁぁ!」

 

 本来なら膂力の差で振り切れるはずの相手だが、神の使徒は豹人族の戦士を払い切ることができず、地に叩きつけられる。

 

 

 そして、その隙を見逃すことなく亜人族最強の膂力を誇る熊人族が巨大な戦斧を掲げて神の使徒に突貫する。

 

 とっさに二振りの大剣でガードするが、熊人族の戦士は止まらない。

 

「おらぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 神の使徒を超える膂力を持って熊人族が神の使徒の頭をかち割ることに成功する。

 

 頭から真っ二つになった神の使徒はそのまま機能停止するしかない。

 

(地形を活かした不規則な戦法。それはいい。相手のホームグラウンドにいることは承知の上、だが……それでも、奴等は強すぎる)

 

 地上で同機が機能を停止する様を見た神の使徒は、亜人族が自分達の知っているデータ以上の戦闘力を発揮していることに困惑していた。

 

 

 元より亜人族は彼ら自身が思うほど弱くはない。

 

 確かに彼らの大多数は魔力を持っていない。魔力を持っていないということはこの世界の根幹を支えるものである魔法を使えないことを意味する。

 

 それは確かに大きな枷ではあるが、代わりに彼らは優れた身体能力を与えられていた。

 

 野生動物に素手で敵う人間はほとんど存在しない。それは地球でもトータスでも同じだが、そんな動物の力を人並みの知性持つ生物が所持しているのだ。弱いわけがない。ステータスプレートさえ持っていれば、亜人族の戦士達の魔力以外のステータスが大多数の人族の戦士を大きく上回っているのがわかるだろう。

 

 だがそれでも、今神の使徒相手に優勢に戦えているのは、この場所にある。

 

 

 姿を隠す魔法を解き、フェアベルゲンの中央に聳え立つ神樹。この森に満ちていた怨念が払われた聖なる樹は一部ではあるが力を取り戻し、この森に住む眷属に力を与えていた。

 

 

 空中に浮かびながら地上の亜人族に分解砲撃を叩き込もうとしていた神の使徒の核に矢が刺さる。

 

「な……に……」

 

 神の使徒の知覚範囲外の超遠距離からの狙撃。それを成功させたのは戦装束を身に纏う森人族の老人──森人族の長アルフレリック・ハイピスト。

 

 神樹の太い幹の一つに立ち、戦場を俯瞰しながら、神の使徒に狙撃を続ける彼は一度も狙いを外していない。樹々の間を縫うような神業的な狙撃を幾度も成功させている。

 

「いやはや、この弓は良い物だ。……かつてこの森を訪れた少年がまさかこれほどの物を作るとはな」

 

 アルフレリックに与えられたのは明人に与えられた弓型アーティファクトの劣化版。魔力を持たない森人族でも使えるように魔力を周囲から吸収する機能を付けられたハジメのアーティファクトだ。

 

 もちろんアーティファクトもすさまじいが、今のアルフレリックは老齢でありながら全盛期以上の力を発揮している。

 

「……まだ、我らを見捨てぬと……そうおっしゃられるか、神樹様よ」

 

 神樹ウーア・アルトの成り立ちをハジメ達から聞いたアルフレリックは後悔の念に襲われていた。

 

 龍神紅蓮より齎された神樹の正体。それを思えば、もしかしたらかつて自分達が亡き者にしてきた魔力持ちの亜人達は、逆境に喘ぐ亜人族を救うために神樹によって齎された神樹の子だったのではないか。そう思えてならなかった。

 

 そんな神樹の想いを、卑屈になり、絶望し、魔法を恐れるあまり、過去の先祖達から延々と踏みにじり続けてきたのだ。

 

 とっくに神樹に見捨てられてもおかしくない。だがそんな亜人族達を、神樹は懐深くも力を与え続けてくれる。

 

 

「誓いましょうぞ。この戦いの後、フェアベルゲンは変わると。あなたが与えてくれる加護に恥じぬ生き方をすると」

 

 アルフレリックがもう一度弓を引くと、一体の神の使徒が撃ち落とされる。軌道に変化を付けて狙撃しているがゆえに、神の使徒はまだ狙撃手たるアルフレリックに気付いていない。

 

 そんな中、この戦場にて飛び抜けた戦果を挙げている種族を見つける。

 

 否、種族ではない。数多の種族が魔力持ちを忌み嫌い、排斥してきた中で禁忌であることを承知の上で守り育ててきた、今となっては亜人族最強の戦士達を。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 ある一部の神の使徒達は、感情がないはずなのに混乱の極みに突入しようとしていた。

 

「ふっ、閃光の中で輝く音速の使徒。”閃戒音靱”のミルベルフィアの手に掛かれることを光栄に思うがいい」

 

 盛大にポーズを付けた一人の兎人族が、神の使徒に向かって突進する。

 

「……よくわかりませんが、死になさい」

 

 閃光もないし音速には程遠い動きをする兎人族に大剣を振りかざす神の使徒。本物の亜音速にて振るわれる大剣は刹那の間で兎人族を真っ二つにするだろう。

 

 最弱の種族であるはずの突然変異体(シア・ハウリア)には空中戦にて苦渋を飲まされたのだ。彼女の家族を無惨な肉塊に変えることで少しは気が晴れる。

 

 そう思っていた使徒の目の前で、ミルベルフィアが膨大な闘気(オーラ)を立ち上らせた。

 

「瞬時昇華──音速之野兎(ソニック・ザ・ハーレ)!」

 

 一秒にも満たない刹那、音速を超えたミルの刃が神の使徒の首を跳ね飛ばす。

 

 一切無駄のない動きに闘気による強化。さらに昇華魔法を併用し、止めに神の使徒にも通じるハジメ製アーティファクト。

 

「また……世界を縮めてしまった……」

 

 首の無い神の使徒の死体を前に、うっとりとナイフを構える姿はどう考えても危険人物。

 

 視点を変えると別の光景が広がる。

 

「使徒の首、”深淵蠢動の闇狩鬼”カームパンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアが確かにもらい受けた」

 

 軽く天を仰ぎながら、神の使徒の死体に囲まれているのはハウリア族族長、カム・ハウリア。

 

「おのれ……兎人族の分際で!」

 

 神の使徒が真っすぐカム・ハウリアに突撃する。散々不意打ちされているにもかかわらず、策も練らず真っすぐ攻めるのは、兎人族をまだ侮るからか、それとも自身のプライドか。

 

 だが、そんな隙を見逃すハウリアではない。

 

 族長に釘付けの使徒の背後に音もなく迫り、ハジメより授かった使徒殺しの刃で正確に核を刺し貫く。

 

「外殺のネアシュタットルムよ。こんなわかりやすい隙を作るなんて……クスっ、おばかさん」

 

 そう言って年の割に大人っぽい態度を示すのはハウリア族年少組のネア・ハウリアだ。

 

 さらに……

 

「悪いな。今宵のジュリアは少々大食いなんだ。さあジュリア……たらふくお食べ」

 

 中年のハウリア。ジンガリウスが神の使徒の胸を刺し貫きながらジュリア(小刀)に話しかける。

 

 さらに……

 

「あなたが悪いのよ。もう一人の私を目覚めさせるから……」

 

 片手で目元を覆いながら哀しげな微笑を浮かべる女ハウリアが神の使徒の羽をむしり取る。

 

「お前達……お前達は一体」

「決まっておるだろう」

 

 天を仰ぎ見るのを辞めたカムは禁域解放を発動し、正々堂々真正面に突撃し、神の使徒に迫る。

 

 不意打ちを警戒していた神の使徒は真っ向からくるカムに対し逆に不意を突かれ、一瞬隙を作る。

 

「我らはハウリア。貴様たちが劣等だと決めつけた、最弱の種族だよ」

 

 

 

「”帝殺聖拳”!」

 

 顔面にカムの拳を喰らった神の使徒が盛大に吹き飛ぶ。皇帝ガハルドと戦った後も訓練を続け、さらに威力が増した一撃必殺の拳だ。

 

 

「族長……調子に乗ってそんなに使ってたら、早々にばてるっすよ」

 

 遠くからこちらを狙う神の使徒を狙撃銃の片手撃ちで撃ち落とした必滅のバルトファルトことパル・ハウリアがカムに注意する。

 

 彼らも当然神樹の加護を受けており、それゆえに神の使徒相手にも互角以上の戦いができているが、それでも無敵ではないのだ。

 

 

 そう、こんな風に……

 

「まさか……私が薄汚い暗殺者の真似をするとは」

 

 神の命令で潜入捜査をする際くらいにしか使わない潜伏技能にて姿を隠し、ハウリアを狙う神の使徒達。

 

 一人、一人倒せばお人よしのハウリアのことだ。動揺して必ず隙を作る。

 

「これ以上の失態。()()()()()様に申し訳が立ちません」

 

 主のことを思い、音もなくハウリアに忍び寄る神の使徒。

 

 気配察知も上手いハウリアなら直前で気づくかもしれないが、その時には神の使徒のスペックでごり押しすればいい。

 

 そう考え、まずは子供が良いだろうと年少組に向けて大剣を振りかざし……

 

 

 いつの間にか首を断ち切られ墜落した。

 

 

「えっ、ふぁ! ら、ラナッ!?」

 

 突然現れた首の無い神の使徒よりも、その後すぐにいつの間にか現れたラナ・ハウリアにこそ驚いたミナステリアことミナ・ハウリア。

 

 気配探知を潜り抜けられたとはいえ、直前で神の使徒の気配は掴んだのだ。だが、年の近い彼女の気配をミナは気づくことができなかった。

 

 そしてようやく周囲の惨状に気付く。

 

「嘘……」

 

 いつの間にか、周囲に神の使徒の死体が散乱している。

 

 恐らく少し調子に乗ったカムの隙を突くように襲撃してきたのだろう。だがその神の使徒が一体残らず死んでいる。

 

「一体いつ……いつ倒したの?」

 

 これだけの数が死んでいるにもかかわらず、自分達は認識できなかった。元より気配操作に関してはラナ・ハウリアは一族の中でも頭一つ抜きん出ていたが、これは彼らが知る気配操作よりさらに上の技能、認識操作と言っていい技だった。

 

 そんな一歩上の技能を使ったラナだが、その顔は不満顔だった。

 

「これじゃだめだ……深淵(アビス)様の認識操作はもっとすごかったし、刃はもっと鋭かった」

 

 本当は家族にすら気づかれずに始末するはずだったラナは、自分はまだまだだと戒める。

 

 かつて帝都にて目撃した光景はラナの脳裏に今でも焼き付いている。0でもなく1でもない。0と1の間を波のように揺蕩いながら、暗殺対象と自然な会話すら成立させたあの神業を成し遂げた深淵(アビス)と名乗った少年にはまだまだ届かない。

 

「いつか……絶対捕まえてやるんだから」

 

 きっとどこかの戦場で影ながら戦っているであろう少年を想う。

 

 この胸に宿った炎の命じるままに、突き進み、いつか捕まえてやるのだ。

 

 恋に燃える少女ラナ・ハウリアは止まらない。いつか彼を捕まえるその日まで。

 

 

 

 

 ──キィィィィィィィン

 

 

 

 

 樹海中に、甲高い音が響き渡る。

 

 

『ッ!?』

 

 

 その瞬間。樹海に住むあらゆる亜人族が上空に注目した。

 

 アルフレリックを筆頭に、神樹の枝から援護射撃を行っていた森人族。

 

 豹人族や虎人族、熊人族などの地上で戦っていた戦士達。

 

 この戦場で戦っていた誰もが、思考を止めた。

 

 

 

 上空に浮かんでいたのは、純白の翼を持つ神の使徒。基本的に姿は亜人族達が戦ってきた神の使徒達と変わらない。

 

 だが一つだけ、従来の神の使徒と違うところがある。

 

 

 

 天高く浮かぶ神の使徒の背中には、一つの光輪と六枚の羽があった。

 

 

 ──キィィィィィィィン

 

 

 その音が光輪が回転する音だと気づいた者。回転するほどに膨大な魔力が天使の掌に集まっていると気づいた者はわずか。慌てて対処したころにはもう遅く、今までの神の使徒が使ってきた分解砲撃とは性質が違う砲撃が地上に向けて放たれた。

 

 

 だが、それはそのまま地上に落ちることなく、空中で受け止められる。地より発生した巨大な力が砲撃の大部分を食い止めるも、その砲撃がその人物を飲み込んで地に叩きつける。

 

 

 急激な闘気の減衰。それを受けて、ハウリア達はあの場に誰がいたのか瞬時に察した。

 

 

『シアッ!!』

 

 家族の危機に、全てのハウリア達が砲撃の爆心地に向かう。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 時間はわずかに遡る。

 

 樹海のどこかで、他の亜人族や家族達と同様にシアもまた使徒相手に戦っていた。

 

 

 シアの立っている場所に空間を飛び越え、大剣が突きこまれてきたのでシアは、身体を捻ることで回避する。

 

 

 自らを襲う攻撃が空間魔法を利用した次元跳躍攻撃であることを察したシアは、ひたすら回避に専念することにした。

 

 

 四本の大剣が四肢を狙ってきたので空中で回転するように避け、虚空から後頭部へ突きこまれてきた大剣を頭を振ることで回避する。

 

 

 今シアが戦っている場所はフェアベルゲンの大広場であり、自然豊かなフェアベルゲンの中では比較的視界が広い場所だ。そんな場所で空間から飛び出てくる大剣をギリギリで避けるシアは容姿もあって、まるでフェアリーダンスを踊っているかのようだった。

 

「……なんどやっても無駄ですよ」

 

 シアは空間から飛び出してきた大剣を細胞極化状態の手で掴み捻り上げる。

 

 

 既に敵の膂力を大幅に超えた力にて武器ごと地面に叩きつけようとするが、完全に姿を見せた敵は背中の翼を広げることで空中で体勢を整える。

 

 

 一体が完全に姿を現したことをキッカケに、森への襲撃者達がその姿を現した。

 

 

「第二の使徒ツヴァイト。神敵に断罪を」

「第三の使徒ドリット。神敵に断罪を」

「第四の使徒フィーアト。神敵に断罪を」

「第五の使徒フュンフト。神敵に断罪を」

 

 

 

 空から無感情な声が降ってくる使徒の名乗りと宣言を耳にしつつ、シアは油断なく見上げる。

 

 

 他の神の使徒とは違い、名乗りを上げた神の使徒は一線を画する力を持っていることがすぐにわかった。

 

 

 シアには光輝の魔力光か神父の魔力光かは判別がつかなかったが、従来の神の使徒とは違う魔力が彼女達に流れているのがわかる。

 

 

 ステータスも大幅に上昇している上に、魔力切れの心配もないようで、先程からシアに対して後先考えない出力で攻撃してきていた。まるでシアさえ倒せればそれでいいと考えているようだとシアは思う。

 

 

 だが……

 

「何度も言いますが、その程度の力しかないなら私は倒せませんよ」

 

 

 シアはこの戦いで自分が神の使徒に負けることはないと確信している。もちろん戦いに絶対はないし、油断していい相手ではないが、それでもシアには余裕があった。

 

 神の使徒は確かに強い。特別に強化された個体ならなおのことだろう。

 

 だがシアは今までに至るまでにもっと強い敵と遭遇している。

 

 海の大怪異悪食、王都を襲撃した群体、森で遭遇した怨霊に悪魔。そして最後の大迷宮で死闘を演じたユエ。

 

 その戦い全てを超えて、既にこの世界の規格を大きく飛び越える力を手にしているシアが従来の神の使徒に負ける道理はない。

 

 

 超高速でシアの背後に出現した神の使徒の大剣による攻撃をシアは高密度の闘気(オーラ)で覆った手で受け止め砕き割り、そのまま体勢を崩した神の使徒相手にドリュッケンを振るい、吹き飛ばす。衝撃で周囲の樹々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ神の使徒はそのまま太い樹木に叩きつけられ、機能停止した。

 

 その隙を襲った二番から五番のどれかの神の使徒の首根っこを掴み、地面に叩きつけると地殻を吹き飛ばしながら地面に埋まっていく。

 

 

 従来の数十倍の威力があるであろう分解砲撃を、ハジメにより耐久度を大幅に強化されたドリュッケンに闘気を纏わせてはね返し、その砲撃を躱したところを超高速で使徒の斜め上に移動したシアの蹴りで地面に叩き落す。

 

 

 僅かな攻防で特殊な神の使徒は残り一体。流石に立て続けに同胞が屠られたからか残りの一体は警戒して近づいてこない。

 

「あり? やりすぎました?」

 

 全身に細胞極化状態特有の炎のようなオーラを纏いながらシアは困った顔をするのと同時に内心安堵する。

 

 

 訳あって現在、シアは全力を出せない状態になっていた。他の仲間と同じく準備期間中になんとか己の問題を解決しようと試みたものの、依然として問題は解決しない。その問題もシアの問題なので他の仲間にも相談できないままここまで来てしまった。

 

(大丈夫。私戦えてます)

 

 全力を出せない状態で世界の命運を決める戦いに挑むのは不安があったシアだったが、神の使徒を圧倒できている。

 

 

 このまま押し切る、そう考えたシアは最後の使徒に向かって突撃する。

 

「くっ」

 

 神の使徒とて今のシアとの力の差を理解している。彼女達は被造物であり、神の命令で動く人形でしかない。この世界の基準を考えれば破格の能力が与えられているがそれだけだ。

 

 この世界は感情が強いエネルギーを持つ。神の使徒が感情を持たない以上、彼女達はこの世界の上位の力を持とうとも超越者の領域に到達できない。

 

 

 そう……

 

 

 

「がふっ……」

 

 

 

 ただ、一体の使徒を除いて。

 

 

 目の前で起こった意外な光景にシアは思わず攻撃を中止する。シアが攻撃を辞めた理由。それはシアが攻撃する前に、目の前の神の使徒の胸から手が生えてきたからだ。

 

 

「な……ぜ……。エーアスト……なに、を……」

「…………」

 

 同胞であるはずの使徒を後ろから貫いた神の使徒エーアストが無言で同胞の胸から手を引き抜く。

 

 胸から大量の血らしきものをまき散らし、ナンバーズの一体は機能を停止する。

 

 

 目の前で同胞を屠ったエーアストは無言で手の中にある同胞の核を見つめ……口を開きそれを飲み干した。

 

 

「なっ……何をしてるんですか?」

 

 

 口から血を滴らせながら同胞の核を喰らうエーアストに度肝を抜かれたシアが思わずエーアストに問いかける。

 

 返事など帰ってくるはずがないと思っていたシアだったが、意外にもエーアストはシアの問いに答えを返す。

 

「あの男の命令に従ったまでですよ、シア・ハウリア。……あの男は命令しました。あなた達が現在取れる最高の戦力でもって我らの敵を全力で排除しなさいと。……かつてのフレイヤと同じです。今更神の使徒が束になってもあなたには勝てない。ならば……」

 

 

 フレイヤと同じ。それを聞いた瞬間、シアの肌に鳥肌が浮かぶ。

 

 

 それは、天高く舞う荘厳なるもの

 

 

 

 ドクン

 

 

 

「これで四体。フレイヤに出来たことが、私にできない道理はありません」

 

 

 

 ドクン ドクン

 

 

 かつてフレイヤが行った同族喰らい。同型機体の核を取り込むことで自己を拡張するというかつてエヒトに禁じられた行為。

 

 

 

 かくして、それは現れる。

 

 

 天に立ち昇る光の柱に沿って浮上する使徒エーアスト。同胞の核を喰らい、昇華魔法にて自己の拡張を行ったエーアストの魔法構造そのものが変化していく。

 

 

 背中には光輪と六枚羽が広がり、銀色だった髪は金色へと変化し、周囲に黄金の粒子をまき散らす。

 

 

 

「これでいい。後のことなど知らない。お前達を滅ぼせば、あの男の命令は遵守したことになる。そうすれば私は……」

 

 

 そしてその顔には、確かな怒りを浮かべていて……

 

 

「エヒト様を貶めたあの男を殺しに行ける!!」

 

 

 全使徒の中ではっきりと感情を残した始まりの使徒は、確かな感情の力を持って新生する。

 

 

 

 シアの未来視が自動で発動する。

 

 

 質量をエネルギーに分解する砲撃が大地に叩きこまれ、自分が樹海ごと消滅する光景が見えた。

 

 

 

「ッッさせません!」

 

 

 シアは上空に飛び上がり、オーラを全開まで放出しながら放たれた砲撃を受け止める。

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 質量を分解する砲撃の仕組みを理解していないシアだが、直接受け止めるのはまずいと気づき、同じエネルギーである闘気にて中和しようとしたのだ。

 

 

 だが、それでもエーアストの力はシアの予想を超えていた。

 

 

 シアの身体ごと大地に叩きつけられた分解砲撃は本来の力の大部分をシアに削がれたものの、その力を発揮する。

 

 

 その場で発生する爆炎が森を炎上させ、樹々を吹き飛ばしていく。

 

 

 残るのは半径百メートルほどの何もないクレーターだけだった。

 

 

「さっきの攻撃で消滅していれば楽だったものを」

 

 爆心地の中心で全身ボロボロのシアに向かって告げるエーアスト。

 

 

「エヒト様により作られた仮初の存在であろうとも、譲れないものはある。よってこれからあなたに死を与えます」

 

 エーアストは力を奪われたエヒトのことを考える。未だに神域が崩壊していない以上、エヒトはまだ生きているのは間違いないが、予断を許さない状況なのは察せられる。

 

 

 彼を助けなければならない。

 

 

 この想いが例え仮初の物だとしても……今この想いを抱いているのは紛れもない自分なのだ。

 

 

「覚悟しなさい! シア・ハウリア!!」

 

 己の身も顧みず、新生を果たした神の使徒エーアストは未だに戦意が衰えないシア・ハウリアに向かって飛び出した。




>エーアスト(改)
かつてのフレイヤを参考に、自分を無理矢理改造した姿。戦闘力の大幅な上昇が見込まれるが、後先考えて改造してないのでエーアストの活動限界が大幅に短くなった。本人はこの戦い(神話大戦)が終われば自分が完全に壊れることを自覚しており、それでも真なる主のためにシア・ハウリアに挑む。

>現在のシア
訳あって全力で戦えない状態。詳しくは次回にて

次回でシア編は終わりの予定だが果たして

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