ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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Frohe Weihnachten(フローエ・ヴァイナハテン)

なんとか今年も言えました。

……もう今年も終わりで年間で5回しか更新してないってマジ?


魔王ディンリード

 玉座の間にて、こちらを見下ろす叔父の姿をユエは改めてその眼で見る。

 

 以前再会した時、ユエは全魔力を失っていた。あらゆる技能が使用不可能になり、文字通り無力の存在となった。それゆえに、再会した叔父がどんな状況下にあるのか、まったく分かっていなかったのだ。

 

 

 そして今、叔父の魂を魂魄魔法を通して診てようやく理解した。

 

 

 叔父ディンリードの魂が半分以上悍ましい何かに汚染されているのを。

 

「叔父様……そんな……」

 

 叔父のその姿にユエはショックを隠せない。そんな絶句して言葉が出ないユエに代わり、ハジメが前に出て不敵な笑みを浮かべる。

 

「よう、また会ったなおっさん。冥府の底から蘇ってきたぜ」

「そのようだ。まさかこの短期間で眷属まで階梯を上げるとは思わなかった。どうかね? 我らが同胞になった感想は?」

「悪くはねぇな。ここにきて力が漲ってきてる感じだ」

「私が生み出した領域は正に属する生物に呪いを、負に属する生物に力を与える効果が付与されている。その上で力を増しているというのであれば、君は立派な吸血鬼になったという証だよ」

 

 まるでなんてことないような会話をしつつもお互い油断はしない。先ほどの挨拶をもって、互いが互いに油断のならない敵だという認識を終えているからだ。

 

 既に覚悟と準備を終えている二人に対し、ユエは震える声で叔父に問いかける。

 

「叔父様……その身体は……その魂は、どうなって……」

「私に今寄生しているコレこそが、我々魔族が長き時に渡り封印してきた魔王の正体だよ」

 

 この地に眠る魔王。それが今自分を蝕み続けている物の正体だとディンリードは語る。

 

「果たしてコレが何なのか……本当のことを知るには、いささか以上の時間が経ちすぎて調べる術はない。我らの偉大な先祖の成れの果てなのか、それとも長きに渡り我々を支配してきた異次元の黒幕なのか。ただ一つ、わかっていることがあるとすれば、これは魔族に寄生し、精神と魂を作り替えながら生きながらえるという悍ましい生態を持っていることだけだ」

 

 大災害『淵魔』は寄生獣だという伝説が広まっていることをハジメは思い出す。魔族に取り憑くことで生きながらえる寄生生物ならそんな伝説が出てもおかしくはないだろう。

 

「そんな状態になっているから、ユエの……『アレーティア』の側にいられなかったというわけか」

 

 ずっと思っていたのだ。本当にディンリードがユエを愛していたのなら、なぜ300年の間、一度も会いに来なかったのかを。

 

 最初は偽物だからだと思っていたハジメだったが、直接戦って彼が本物のユエの叔父であると今更疑うことはない。

 

 だとしたらなぜか。その答えを今理解した。

 

 

 彼は、愛しの姪に会いたくても、会えなかったのだ。

 

 

 自分が彼女の最大の味方であるのと同時に、最大の敵でもあったから。

 

 

「そうだ。私に寄生している魔王は、より良き器を求めている。……すぐにわかったよ。私よりも、アレーティアの方が器に適していると。アレーティアの側にいるだけであふれ出る吸血衝動を抑えるのに必死だった。物理的に距離を取る以外に対策はなかったのだ」

「……ちっ、どいつもこいつも……ユエをなんだと思ってやがるッ」

「それには同感だよ」

 

 

 それでもディンリードは耐えてきた。己の身を蝕む何かに抗い続けていた。これに屈すれば、次に狙われるのがアレーティアであるとわかっていたから。

 

 

 耐えて耐えて耐え続けて、300年と言う時が流れても耐えてきた。

 

 

 だが、それももう限界に近い。

 

「もう間もなく、私は魂まで魔王になるだろう。そうなった時、この世界に七つの大災害の一角が復活することになる」

「そんな……何か、何か方法は? 叔父様を助ける方法はないのですか!?」

 

 ユエは縋るような眼を叔父に向けている。このままだと死に別れたと思い、現代にて再会した叔父の魂が壊れてしまう。それが分かったがゆえに、そしてこれから何が始まるのか察しているがゆえに。

 

「……言いたいことはそれだけだ」

 

 そんなユエの視線を無視し、ディンリードは静かに立ち上がる。

 

 これ以上語る言葉はない。そう語りかけるように持っていたワイングラスを放り投げる。

 

「来るがいいアレーティア。そしてアレーティアが選んだ眷属よ。見事私を打ち倒し、古の魔王の復活を阻止してみよ!」

「待ってッ、叔父様ッ!」

 

 

 アレーティア(ユエ)の悲痛な叫びが広がる中、玉座の間にガラスが割れる音が響き渡る。

 

 それこそが、この地で行われる最後の戦いの火蓋となった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 闘いはハジメとディンリードの戦いの再現から始まった。

 

「"蒼天"!」

 

 ハジメとユエに向けられる暗黒の炎。それらに対し、ハジメは余裕の笑みでドンナー・シュラークを構える。

 

「そんなもん効くかッ」

 

 例え本来の"蒼天"とは異質な魔法になっていようと、核があるのには変わりはない。ハジメは正確に核を打ち抜くことで魔法を打ち消した。

 

「お返しだ。たっぷり味わえッ」

 

 続けてハジメはディンリードに向けて銃撃。弾倉の中身が瞬間的に打ち出され、真っ直ぐディンリードに向かうが、ディンリードは以前と同じように銃弾を受けた瞬間、分解と自動再生にて避ける。

 

「それの種はもう割れてる。種の割れた手品に価値はねぇッ」

 

 

 その手品はもう通じないとばかりにハジメはアーティファクト、物質固定機(マテリアフェスト)にてディンリードの分解を阻止すべくフィールドを広げた。これでもう分解からの自動再生はできない。

 

 

 アーティファクトを起動する隙を突くように背後から現れたディンリードが闇の炎を召喚し、ハジメがその魔法を打ち抜く。

 

 続け様に闇の雷を放つディンリードに対し、ハジメは対雷用のアーティファクトで回避する。

 

 

 ここまではほとんど先ほどの戦闘のやり直しだ。

 

「同じやりとりでは芸がないな。なら手を変えようか。”魔剣召喚”!」

 

 ディンリードが虚空から召喚したのは身の丈十メートル、幅一メートルを遥かに超える大剣。その纏う禍々しい魔力は並のアーティファクトとは比較にならない。

 

(間違いなく聖遺物級のアーティファクトだ。斬られたらヤベェ!)

 

 手に持って振るうだけで空間を引き裂く刃がハジメに迫るが、ハジメとてただ斬られるつもりはない。

 

「クロスヴェルト!」

 

 ハジメの背後から現れたのは、多角攻撃機クロスヴェルト。

 

 強化された錬成魔法を用いてバックヤードにて修復を終えた約1000機のアーティファクトが、今度は出し惜しみ無しだと言わんばかりに魔剣を持つディンリードに銃口を向ける。

 

「跡形もなく消し飛べッ!」

 

 分解を封じられている以上、瞬間移動では躱せない。ディンリードは秒間数千を超える銃弾の雨に飲み込まれるがそのままハジメに向けて突き進む。

 

 分解を封じられたが自動再生を封じたわけではない。傷を負った端から再生することでハジメの攻撃をやり過ごし、ハジメに向けて大剣を振るう。

 

「障壁展開ッ!」

 

 その瞬間、空間が軋む音と共に世界の一部が崩壊した。ディンリードが振るった大剣の軌道に沿うように世界が割れ、空間崩壊を起こしたのだ。

 

 

 それに巻き込まれたハジメを守るために多重障壁を展開したクロスヴェルト800機が、800層の多重障壁ごと原子一つ残さず消滅する。

 

 そしてその僅か数瞬後、展開された異界が内界の異常を察知し、何事もなかったかのように空間を修復した。

 

「空間が崩壊してもすぐに元に戻るのか。そりゃありがたい話だな!」

 

 ディンリードによって展開された領域効果による空間修復を目の当たりにしたハジメはクロスヴェルトの弾頭を切り替える。

 

 残りのクロスヴェルト200機が吐き出すのは特殊弾頭”空間炸裂弾(エリアバーストブレッド)”。

 

 空間に多大な衝撃を加えるその弾頭を、遠慮なくディンリードに向けて解放した。

 

 今度はハジメが空間を崩壊させ、ディンリードの全身を消し飛ばす。その威力はここが異界でなければ空間異常を起こす規模。対神用に用意した弾丸をハジメは惜しみなく使用していく。

 

 だが、当然この程度で魔王は滅びない。

 

 

魔より来たれ、喰らい、汝が敵を滅ぼせ。大魔獣召喚──”ソドム・ゴモラ”

 

 全身が消し飛んだはずのディンリードが上空に現れ、背後に巨大魔法陣を展開する。

 

 そして、詠唱と共に現れたのは、神の眷属アルヴヘイトを喰らいつくした影の魔獣の真体だった。

 

 その姿は魔性の竜。東洋の竜にも似ているが、纏う魔力の禍々しさが神聖なものではなく、魔に属するものであることを証明する。

 

「「GAAAAAAAAAAAA──ッッ!!」」

 

 二体の竜がハジメに対して威圧を向ける。それだけでトータスのどの魔物よりも強力であることがわかる。もはやオルクス大迷宮のヒュドラが可愛く見えるレベルの脅威。

 

 その脅威に対し、ハジメは即座に手を合わせ錬成を発動し、対応する。

 

 錬成神の工房(パラケルスス)から吐き出される元素から錬成するのは数百を超えるアグニ・オルカン。それらが一斉に火を噴くことで数千発のミサイルを二体の魔竜に向けて放たれた。

 

 だが、それらの攻撃の効果は高いとは言えない。

 

「特撮の大怪獣に挑む軍隊の気分だ。ユエッ! こいつは大災害と同じだッ、並の神秘じゃ傷一つ付けられねぇ。俺の攻撃よりユエの攻撃の方が有効なはずだ!」

 

 魔竜が身体を振るうだけで半数のオルカン付きのビットが落とされる。ハジメとて対抗策に当てがないわけではないが、それよりもまずは有効であろうユエの攻撃を試すほうが先だ。

 

 だが、ハジメの言葉を受けても、ユエは全く動かない。

 

「ちっ!」

 

 ハジメは魔竜に向けてありったけのミサイルを放ち視界を塞ぎ、吸血鬼の敏捷を駆使してユエの元まで走る。

 

「ユエ!」

 

 今度は直接肩を掴んで声をかけるハジメ。流石に気が付いたのか、ユエがハジメの方を向く。

 

「ハジメ……私……どうしたらいいの?」

 

 ユエが発するその声は、震えていた。

 

 勢いでここまで来たが、ユエはいまだに最後の大迷宮で壊された心を回復しきってはいない。

 

 今感じているのは、またディンリードに全てを背負わせてしまった罪悪感と、そんな叔父と戦えないという弱音だった。

 

「叔父様は私のせいであんな……そんなのって……」

「ユエ……」

 

 どうしたらいいかわからない。そんな迷子のような顔をするユエに対しハジメは静かに顔を近づけ……

 

「ふんッ」

 

 強力な頭突きをお見舞いした。

 

「あうっ!?」

 

 思わぬ衝撃に頭を抱えるユエと自分とユエのステータス差を考慮していなかったハジメが悶絶する。

 

「ぐぅ、思ったより硬かった。けど……どうしたらいいか、そんなもの……俺が知るわけねーだろ」

「ハジメ?」

「言っておくけどな。俺は迷わねーぞ。奈落の底にいた時と同じだ。俺に敵意を向ける者、殺そうとするやつには容赦しねぇ。例え相手がお前の叔父さんだとしても敵なら俺は……殺す」

 

 ハジメの頭にユエの叔父だからという迷いはない。なぜならハジメからしたらよく知らない他人なのだ。まして一度ボコボコにされている身でもある。色々な意味でハジメとは相容れないのは明らかだ。

 

 敵は必ず殺す。それは今となっては生き抜くために必要だった威勢の良さに任せた決意だったと分かっているが、同時にこの世界における一つの真理であることは疑っていない。

 

 

 やらなければ、やられるのだ。

 

「俺は必ず生きて帰るぞ。そのために俺は全力を尽くす。ユエはどうだ。どうすればいいかわからないと言ってるが、本当にそうか? お前の心は、魂はどうしたいと叫んでるんだ?」

 

 魂の力とは渇望である。心の虚飾を拭い去った後、魂の中心に宿るもの。

 

 強き想いは奇跡を起こす。

 

「叔父様を……助けたい」

「ならその望みをかなえるために全力を出せばいい。少なくともここで蹲るよりずっと良い」

 

 空に浮かんでいたオルカンの群れが二体の魔竜により落とされる。それを察したハジメはユエから目を反らし、戦闘態勢を整える。

 

「いくぞ、ユエ。俺たちなら、きっと超えられる」

 

 この世界の壁からも、目の前の男の試練からも。その意思を受け取ったユエがようやく覚悟を決める。

 

 

「さて、話は終わったかな。では……見せてもらおうか!」

 

 主の命を受け、魔竜がハジメとユエに襲い掛かる。

 

「”雷龍”」

 

 重力魔法と雷属性最上級魔法の混合魔法である雷龍がユエに向かってくるソドムに襲い掛かる。その巨大さは以前とは比較にならない。かつてフレイヤが振るった蒼き雷の龍と同等の規模。

 

 魔竜と雷龍が真正面から激突する。巨大怪獣同士の激突はその衝撃だけで魔王城の周辺の建造物を破壊していく。

 

「”千獣の王、曙光の煌めき、後光の柱”」

 

 ユエが既に発動中の雷龍に詠唱を加え始める。

 

「”天空の雷鳴轟きし、暗雲より来たる覇なる神よ。今その身に宿りて、我が敵を滅ぼせ──”後述詠唱──『覇王雷龍』! 

 

 ユエの雷龍の姿が変わる。その角はより鋭利に、その牙はより頑強に、そしてその体躯は更なる力を。

 

 真祖の吸血鬼になって初の神代魔法最上級魔法。その膨大な魔力に魔竜ソドムが押され始める。

 

 そんなユエに対し、足元の影から次々と魔物が現れ、ユエに襲いかかる。

 

(自動再生でしのぐ……いや、ここは違う!)

 

 ユエは爪を伸ばし襲いかかる魔物を引き裂いた。その瞬間、襲いかかってきた魔物の原型は溶け、ユエに覆い被ろうとするが、ユエはステップにて避けて対処し、背後に迫っていた影の魔物を魔力を纏わせた回し蹴りで跡形もなく粉砕する。

 

 上空では二体の龍が戦い、地上では吸血姫が美々しく舞う。

 

 その光景がこの戦場の主役が誰かを彩っているようだ。

 

 

 

 そして、ハジメの方でも新たな戦況を迎えようとしていた。

 

 ハジメが展開するは再び再構築した葬送凶王軍(グリムリーパーズ )。大量消費に大量生産。それこそが錬成師の本領と言わんばかりに壊れた材料なども再利用しながら物量を投下し続ける。

 

 

 だが、それでは魔竜ゴモラには届かない。

 

 この二対の魔竜はディンリードが使役する大魔獣の中でも特殊な能力を持たないものだ。だがその代わり世界最強の竜を語るだけありその力と神秘は頑強だ。

 

 神秘無き力では魔竜は落とせない。そしてそれはハジメとて重々承知の事実だった。

 

 自動制御の葬送凶王軍(グリムリーパーズ )にて時間を稼ぐ間、ハジメは錬成魔法を行使する。

 

(ユエはもう戦える。あの魔王も本気になりつつある。だから、今この場で取り残されてるのは……俺だ)

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『なぁ、蓮弥。俺にはさ、決定的に足りないものがあると思うんだ』

 

 神父に与えられたモラトリアムを無駄なく使うために、解放者の部屋にあった疑似太陽を勝手に流用したハジメは、その擬似太陽を動力源としたアーティファクト大量生産工場を動かしながら、蓮弥に悩みを語っていた。

 

『足りないもの? なんでも作れるお前がか?』

 

 現在進行形でアーティファクトの大量生産というトータス史上でもおそらくなかったであろう光景を見ながら蓮弥は疑問を呈する。事実、蓮弥の友人は足りないものがあれば自分で作る男であり、戦闘のための武器や長距離を移動するための手段。果ては大災害をも封印する結界の構築なども自分が中心になって行ってきたのだ。

 

 その高校生離れした技術力に驚かされる毎日の蓮弥からしたら足りないものがあることで蓮弥に悩みを打ち明けるのが少々意外だった。

 

 だが、蓮弥に打ち明けたということで、ほどなくして蓮弥にも何が足りないのか見えてくる。

 

『もしかして、概念に対するものか?』

『ああ」

 

 そう、ハジメはこの戦いに向けてアーティファクトの増産を行っているが、同時にアーティファクトの限界が見えてきてしまっているのだ。

 

『確かに単純な火力という意味ではお前にも負けてねぇと思う。その気になればこの世界の国を俺一人で滅ぼせる自信もあるしな』

『お、おう。そうだな』

 

 現在進行形で生産されているアーティファクトが人間に敵対した場合、機械対人間というSFでしか見れないような光景があらわになるだろう。だがハジメの求める方向はそれではないのだ。

 

 

 ハジメが過去の戦いを振り返った時、ハジメが決定的に遅れを取った敵がいくらか存在する。

 

 それは西の海に現れる大怪異、または大峡谷から現れる黒き群体の形で。時には悪夢の中の怨霊として、はたまたガングロの悪魔そのものとして。

 

 そして……堕天使フレイヤと堕ちた勇者天之河光輝。

 

 

 姿形は千差万別、どれもこの世界の規格から大きく外れた存在だが、共通しているのは巨大な神秘や概念で守られていたこと。

 

 

 香織曰く、大災害の神秘強度は神代魔法以下の神秘ではダメージが通らない概念防御レベルになっていること。

 

 逆十字の怨霊とガングロ悪魔も真央曰く、間違いなく地球でも特級レベルの神秘であり、さらにあれでも両者とも全力ではなかったと語られる。

 

 

 そして堕天使フレイヤや天之河光輝は自身が未だ至っていない概念魔法を使う者、到達者の領域にいる。

 

 

 それらの脅威に対抗するための手段。つまり概念的な攻撃を行うための手段を欲したのだ。

 

『お前用に作った霊的装甲貫通弾(ソウルアーマーピアス)は単に魂に当たるようになっただけで概念攻撃を行っているわけじゃねぇ。今のお前に当たったとしても大したダメージにはならないだろうな』

『なるほどな。……一番良いのはお前が概念魔法を習得することだが……』

『それはもう試した。だけど概念魔法もどきは作れてもそれ以上の境地には行けなかった』

『残念ながら、今のハジメだけでは概念魔法を使うことは難しいでしょうね』

 

 そこで鈴との修行を切り上げたユナが自身を形成し、蓮弥とハジメの会話に参加した。現状神秘の事に関しては最も詳しい人物の一人として、ユナがハジメが概念魔法に到達できない理由を考察する。

 

『確かな渇望を元にして、一度概念魔法を構築できてしまえば、渇望が絶えない限りいつでも発動可能でしょうが、そこに至るまでが難しいのです。例えば蓮弥も蓮弥だけで概念魔法の領域、創造位階には辿り着けません』

 

 蓮弥自身の渇望。

 ユナが宿る聖遺物『罰姫・逆神の十字架(ゴルゴタ・プロドスィア)』。

 聖遺物を運用するための魔術エイヴィヒカイト。

 

 この三つが揃わないと至ることはできないとユナは語った。

 

 厳密には同じ仕組みではないが、ハジメで言うなら概念魔法を運用するための魂の力。その魂の力を上手く魔力として変換するための魔法制御能力。そして魂から捻出された魔力を受けて新たな概念を産む七つの神代魔法といったところだろうか。

 

 ハジメは現時点では七つの神代魔法以外の条件を満たしていないと言える。

 

 

 さらに渇望、つまり魂の力の制御自体が非常に困難。

 

 

 仲間の中で魂の力を運用することができたのは蓮弥とユナを除けば三人。

 

 

 まずは香織。これは香織が天才的な魔力使いだからというのが一番の理由だろう。原子レベルに干渉する緻密な魔力操作能力あってのものであり、ハジメにはできない。

 

 

 次にシア。シアが大迷宮での暴走時に魂の力を運用できたのは自分の内界である肉体に作用する身体強化に絞ったから。しかも暴走状態なので使いこなしているとはいいがたい。

 

 

 最期にティオ。

 

 ユナだけが詳細を知っているが、これはティオが自身に科した戒律によってもたらされたもの。そうそう真似できるものではない。

 

 

 みな程度の差こそあれ、魂の力の使用にリスクを伴っている。リスクなしで運用しているものなど、ユナからの供給がある蓮弥くらいのもの。

 

 

 ならハジメはどうするのか考える。今の自分に概念魔法を使うのは無理だと分かった。だがそれだと概念魔法級の敵相手には対抗できない。

 

 

 そしてハジメが至った結論は、()()()()()()()()()()に至ることだった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

錬成式構築──

 

 上空にて雷の龍と魔竜の激突。機械の死神達の号砲。それを無視してハジメはひたすら錬成魔法に集中する。

 

 

 結局それはモラトリアム中にはできなかったもの。

 

 

材料に奈落の魔物──深淵に近い魔物に限定

 

 この世界において最も恐れられている存在とは何か。それは大多数がこう思うのではないだろうか。

 

 トータスで恐ろしいのは魔物だと。

 

 だからこそ、鉱物ではなく魔物自身を素材にするのがこれからの錬成には望ましい。

 

錬成開始。形状は銃……銃身は黒鐵。幾重にも折り重ね、その芯に心を宿す

 

 錬成魔法に詠唱はないが、ハジメなりに詠唱を加えて精度を上げる。

 

 手の中には一丁の銃が構築されようとしているが、これではだめなのはわかっている。

 

 器はできている。だが今までのハジメはここから先に進めない出来損ないしか生み出せなかった。

 

 なぜなら一番肝心な魂を注ぐことができなかったから。

 

 

 だがハジメは知った。己の魂を全て捧げる感覚を。

 

 ユエに血を吸いつくされ、一度死んだことで手に入れた魂の持つ力の核心。

 

(イメージしろ! 己の血を、魂を消費する感覚を!)

 

 

魂血錬成

 

 錬成反応に加え、ハジメの身体が傷つき血が流れ、錬成反応に吸い込まれていく。

 

 血液を魂の通貨に見立てることで魂を注ぎ込む。文字通り身を削るような行為。限度を超えれば間違いなく死ぬが半端では意味がない。

 

「ッッッッ」

 

 身を削られる苦痛。そのギリギリの狭間の中で、ハジメは錬成の極意、その核心に……確かに触れた。

 

 

魔に染まりし我が身を捧げ、心金よ。己にふさわしき姿で、起き上がれ! 

 

 

 そして激しい黒い火花と共に、ハジメの錬成が完了する。

 

 手の中にあるのは一丁の魔銃。深い紅色をしたそれは確かに魂の力を宿した武器だった。

 

 

聖遺物(アーネンエルベ)──血盟之魔銃(ブルート・ゲヴェアー)!」

 

 

 

 ──聖遺物の創造。それは地球でも神代や古代の一部の鍛冶師や錬金術師しかできなかったというまさに神業。

 

 そしてそれを成したことで、ハジメの錬成師としての階梯は更なる境地に到達した。

 

 

 感慨に浸る間もなく、ハジメは錬成した己の聖遺物を構える。

 

 ハジメの闘争心を受けた血盟之魔銃(ブルート・ゲヴェアー)はハジメの()を吸い、スパークを上げながら弾丸の生成を開始した。

 

 

 聖遺物の運用方法は蓮弥と大差はない。魂を燃料に、現実に神秘を出現させる。

 

 

 これは今までハジメが運用してきたアーティファクトとは違う。

 

 聖遺物の行使はどう考えても大量生産・大量消費(基準を底辺)に合わせていない。

 

 

 

 文字通り身を削られる苦痛に耐えながら、ハジメは己の限度を察する。

 

(もって4発。魂の回復を待たずにそれ以上使えば、不可逆の傷になるな)

 

 

 これからハジメの戦いはよりギリギリになるだろう。一歩間違えば自滅する危険を背負いながら戦うことになる。

 

 

 だが、それを乗り越えれば……

 

 

「食らいやがれッ、これが俺の……魂だぁッッ!」

 

 ──ハジメは以前よりもずっと強くなれる。

 

 

 放たれたハジメの魂の弾丸は、数多のアーティファクトでも傷一つ付けられなかった魔竜ゴモラの概念防御を突き抜ける。

 

 

 今までよりもはるかに”重い”一撃。

 

 それが魔竜を打倒するのは、ユエが雷の龍でもう一方の魔竜を飲み込むのと同時だった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ディンリードは愛しの姪が構築した魔法とその戦闘を見て感慨に耽っていた。

 

(ああ、本当に……強くなった)

 

 魔法の練度は自分の知る頃よりも遥かに洗練され、後述詠唱という高等技術にまで手を出している。

 

 魔法だけではない。大魔獣ソドムが姪の魔法と激突している間に差し向けた魔物も危なげなく素手で対処している。ディンリードの知る頃のアレーティアなら自動再生に任せて魔法にのみ意識を向けていた。身体の動かし方や間合いの取り方などが以前より見違えるほど成長している姿をみれば、彼女が良い師に恵まれたのだと予想がつく。

 

 そして、ディンリードは同時に大魔獣ゴモラを相手するハジメを評価する。

 

(錬成魔法でここまで戦えるとはね)

 

 錬成魔法を馬鹿にしているわけではないし、過去オスカー・オルクスという規格外の錬成師が存在したことも承知しているディンリードだったが、戦闘の魔法ではない錬成にて彼の見せた技の数々には驚かされっぱなしだ。

 

 だが彼を一番評価する点が何かと言われれば……

 

(まさか、躊躇しないとはね)

 

 ディンリードはハジメをアレーティアが吸血衝動による心神喪失状態から立ち戻るための生餌だと称した。そして人間というものはたとえ愛する相手であろうとも自身の命を捧げることなどそう簡単にはできはしない。

 

 

 でも彼は、南雲ハジメはディンリードが見ている中で、躊躇なくアレーティアに命を捧げた。どうやら生き返る算段があったらしいが、それでもその献身を評価するに否はない。

 

(本当に……良い出会いに恵まれたのだな)

 

 300年後という誰一人自分を知る人のいない世界に一人放り出されたアレーティアのことを心配しなかった日はない。何度自分が側にいたらと思ったか。

 

 だが、そんな心配を他所に、アレーティアは逞しく成長して見せた。

 

 

(もう、大丈夫なのだろうな)

 

 ディンリードは同時にやられたソドム・ゴモラを影に戻しながら眼下の二人の顔を見る。その顔は程度の差はあれ、これから来る困難に立ち向かうと覚悟した者の眼をしていた。

 

「どうやらこの程度では退屈なようだね。なら、そろそろ始めるとしよう……」

「待ってッ、叔父様ッ、私……」

 

 必死の形相で声をかけてくる愛しの姪にディンリードは応えない。

 

 

 なぜならこれからが本当の戦いの始まりであり……

 

 

 

 ──ディンリードの悲願、その最終幕なのだから

 

 

 

 

「遊びは終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────我に力を────────」

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン

 

 

 

 僅かの後、そこに存在していたのは、巨大な異形だった。

 

 

 身の丈は十数メートルにも及ぶ、巨体であり、体表は皮膚とも金属ともつかぬ、黒や赤色で構成された通常の生物とは一線を画するもの。

 

 

 両の眼は血のように紅く。

 

 

 現在のトータスのどの生物にも類似されるものがいない、不気味に尖った耳を持ち。

 

 

 鮫よりも鋭利な歯を有する裂けた口蓋は大きく開かれ。

 

 

 頭部には山羊のような角、そして蝙蝠の翼と蛇の尻尾を生やした混沌の異形。

 

 

 溢れ出す魔力は……見上げるその威容は……跪きたくなる畏怖に満ちていた。

 

 

 

「嘘……こんな……」

「気を抜くなよユエ。俺がやられた時より、遥かにやべぇ」

 

 ハジメが数十秒で敗北した時も変身のようなものを見せていたが、どうやらアレはまだ本気なんて出してなかったらしい。

 

 

 その異形の肉体も脅威だが、なにより脅威なのは、際限なく膨れ上がっていくその魔力量。

 

 

 ユエは気づいていた。変身した叔父が発する魔力の感知先が多いという事実に。

 

 

 単純に、魔力を発する反応が多い。まるで多数の魔物が折り重なって魔力を発しているかのような現象。ユエはそれに近いものを知っていた。

 

「これ、まさか蓮弥と同じッ」

「ああ、そうだろうな。あいつは蓄えた魂を魔力に変換する術を使ってるしそれの亜種か、あるいは俺の体質を凶悪にしたと言い換えてもいいかもしれねぇな」

 

 ハジメは魔物肉を食べ、その技能やステータスを取り込むことで強くなり続けてきた。その体質があったからこそハジメは怪物がひしめくオルクス大迷宮を乗り越えることができた。

 

 

 だが現時点ではハジメだけの特異体質ともいえるその行為を、もっと簡易にやっている種族が一種族だけ存在する。

 

 

 それこそが吸血鬼。他者の血を取り込み、自身の魔力に変換する技能を持つ唯一の種族。

 

 ならばその吸血鬼の上位種である真祖は、さらにその真祖の王である魔王であるなら、その技能はどうなるのだろう。

 

 

 ──真祖の魔王固有技能『魂奪(ソウルスティール)

 

 ()を吸った相手のステータスと技能を()()()()自身に上乗せする技能。

 

 つまり大災害淵魔は、旧時代の魔王は、他者の魂を取り込めば取り込むほど強くなる。

 

 

 現在進行形で膨れ上がり続ける魂の気配。それは数多の魔物か、あるいは太古の魔族の成れ果てか。

 

 

 だが数多の種族の数多の技能を取り込み、自身のものにしているのは確かだ。

 

 

 全は一、一は全。

 

 一人が総軍であり、総軍が一人である。

 

 

 かつて太古の時代にて、南大陸の覇者となり、世界を闇で飲み込みかけたもの。

 

 

 ──魔王、大災害『淵魔』

 

 

 その威容がついに姿を現した。

 

 

 

 淵魔の口が開かれる。

 

 牙が剥き出しになった、全てを飲み込む様な巨大な顎。

 

 開かれた口内に炎が集まる。火球が形成される。何気ない動作で構築されたその火球だけでも、今までの戦いを茶番にしかねないバカげた魔力密度。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■──ッッ!!」

 

 

 ここからが正念場だと気合を入れた二人の前に……

 

 

 その炎は放たれた。




聖遺物(アーネンエルベ)──血盟之魔銃(ブルート・ゲヴェアー)
ハジメが自ら生み出した聖遺物。材料はこの世界で負の念を一身に受ける高位の魔物達の亡骸。
エイヴィヒカイトを持たないハジメの運用方式は現代の魔女に近いゆえに、聖遺物と融合することによる霊的装甲や魔人の身体能力の恩恵は受けていない。
準備期間中は魂を込める感覚がどうしても掴めなかったが故に失敗し続けてきたがユエに血を吸われて殺されたこと。吸血鬼に生まれ変わったことにより血を魂の通貨にする感覚を覚えたことで錬成可能になった。
弾丸はハジメ自身の魂を削って生成しておりハジメ曰く魂に不可逆的な傷を負わないという制限で使えるのは四発が限度ということ。


あとがき

ようやく届けられました最新話。大変お待たせして申し訳ありません。正直まだ改善の余地はありそうですが、いい加減キリがないのでここらで投稿してみましたが如何だったでしょうか。

ディン叔父様のモデルは悪魔城ドラキュラのドラキュラ伯爵です。戦闘BGMも「幻想的舞曲」でイメージしています。

ここまで苦戦したのがこの戦いが単純に「右ストレートでぶっ飛ばす」戦いじゃなかったこと。作中のさまざまな登場人物の思惑が重なるのを考慮するのがまぁめんどくさい。特にディンリードや女王アレーティアの情報は原作からはほとんど得られないのでほぼ想像で書かないといけないところも苦行でした。

ではもうスランプを脱したのかといえばそういうわけでもなく……ハジメとユエ編は次回で最後にしてそろそろ本作主人公である藤澤蓮弥視点に戻りたいのですが果たしていつになるのか。

今年はあまり更新できませんでしたが、それでも少しずつ進めてはいくので来年も皆様どうかよろしくお願いします。

では
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