ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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あっという間に夏ですね。

というわけで長らくお待たせしました。

久しぶりの蓮弥サイドです。


神父へ至る道

 世界の命運をかけた戦争は続く。

 

 世界中に飛び散った蓮弥の仲間は各々相対した強敵達との闘いを制しつつあるが、まだ肝心の男の捕捉が出来ていない。

 

 神エヒトを欺き、その力を奪うことで神の座を簒奪した狂神父ダニエル・アルベルト。

 

 彼がどこに向かっているのか、彼の目的がなんなのか。それが明かされるのも遠い未来ではないだろう。

 

 

 戦いもいよいよ終盤。この戦いの結末はどうなるのか。

 

 彼女もまた体勢を整え、この戦いをモニター越しに注視する。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 仲間達が世界中でそれぞれの敵と戦っている頃、直接神父を追跡している蓮弥達は神山に到着していた。

 

「黙って通すはずはないとは思っていたが……」

「当然こうなるわよね」

 

 蓮弥と雫の目線の先にあるのは神山の頂上から押し寄せてくる黒の群れ。神聖なはずの神山の上に出現した空間の切れ目から絶え間なく魔物が雨のように降り注いでいるのだ。

 

「少なくとも数百万体、下手すると数千万体はいると思った方が良さそうだな」

「神の使徒もうんざりするほどいるし。この辺りは夢と同じなんだね」

 

 優花が上空を仰ぐと、銀色の雨に見えるほどの数の神の使徒が空中に次々と投入されていくのが見える。一見すると神聖な光景に見えそうな場面も赤黒い空と合わせると不気味にしか思えない。

 

「ちなみになんだが……雫と優花が体験した夢での戦いではこの場面はどう切り抜けたんだ?」

 

 まだ激突には時間があると判断した蓮弥は、夢と同じという優花の言葉により興味をひかれ聞いてみる。

 

「あの時は確か……南雲君が無数の隕石を落として神山崩しをやったんじゃなかったかしら」

「そうそう。愛ちゃん先生の扇動で指揮を高めた状態で、女神の剣を名乗る南雲が派手にやったんだよ」

 

 雫達の話を聞く限り、夢の世界のハジメ達は神エヒトの宣言により神山が戦場になるのが分かっていたため、あらかじめ迎撃準備を整えていたらしい。雫と優花に動揺が一切ないのもかつて経験し、対処した経験があるからだろう。

 

「それにしても隕石か。あの規模の魔物群を殲滅しようとしたら数発じゃ足りないだろ。よく魔力が持ったな?」

 

 蓮弥の常識では神代魔法はある一定の規模になると魔力使用量が指数関数的に上がっていく。今のハジメの魔力でもあの魔物群に効果のある大きさの隕石を落とそうとしたら10発も保持できないはずだ。

 

「その辺なんだけど。やっぱり夢の世界と現実世界では世界の法則が違うっぽいんだよね」

「法則が違う?」

「そうね。感覚的な話になるけど、夢の世界では魔法を行使する際の抵抗力が弱い気がしたわね」

 

 目の前で魔物群が襲ってきても蓮弥達が余裕でいられるのは、今まで乗り越えた場数のおかげか。正直言ってしまえばこのレベルの脅威でもまだ『大災害』の方が手ごわいと感じてしまう。

 

『では私たちはどうしましょうか』

 

 ユナの言葉で意識を戦場に戻す。だが現実世界で女神の剣と呼ばれているのは蓮弥なのだ。この場にいないハジメに変わり、この局面を軽く乗り越えることで士気を上げなくてはならない。

 

「そうだな……よし、なら俺達も少し乱暴しようか」

 

 考えた結果、方針を決めた蓮弥は通信用アーティファクトを起動させる。

 

「こちら蓮弥だ。リリィ、聞こえるか?」

『……はい、聞こえますよ、蓮弥さん』

 

 通信先にいたのはリリアーナ。この戦いの総司令官であり現在進行形で各地の戦場を指揮しているこの戦争の支柱の一人。

 

「神山方向の状態は把握できているか?」

『もちろんです。すごい量の魔物と使徒ですが。蓮弥さん達が召喚されてからこの規模の脅威にさらされるのになれたせいか、連合軍にもほとんど動揺はありませんね』

「それは頼もしいな」

 

 現在、それぞれの戦場で多方面に戦闘中の連合軍だが、ハジメが開発した通信システムにより各地の状況がリアルタイムで伝わっている。どうやらこれほどの危険に晒されても連合軍には余裕があるらしい。ならばこれからやる事にも耐えられるはずだと蓮弥は話を続ける。

 

『それで如何しましたか蓮弥さん?』

「ああ、神山方向の敵を対処するために色々考えたんだが、リリィにひとつ聞きたい」

 

 

「この世界で暮らす住民として……神山が消えても大丈夫か?」

『はい?』

 

 蓮弥の唐突な質問に、思わず戦争中の総司令官としてあるまじき返事をおこなってしまうリリアーナ。正直ツッコミたいと思うリリアーナだが、今は戦争中ということもありこの世界に生きる者の代表としての返事を行う。

 

『……神山はエヒト教において神聖とされる山であり、いずれ降臨する神エヒトを迎えるための祭壇としての意味もありました。ですが……その降臨しようとしている神エヒトが悍ましき邪神であるとわかった以上、今まさに我らを蹂躙せんと魔物を産み出す発生源になっているのだとしたら……そんなものは、私たちの紡ぐ新時代には必要ありません』

「そうか……ありがとう」

 

 リリアーナがそう断言するならトータスの民としては本当に神山は必要ないか、あるいはどんなことがあっても民達を説得してみせるということなのだろう。

 

「なら遠慮なくやらせてもらおうか、ユナ」

『はい、聖術の展開を開始します』

 

 聖遺物に戻っているユナが聖術の展開を行うために魔法陣を展開していく。

 

──Assiah(活動)──

 

 

 同時に蓮弥も聖遺物を活動位階にて展開。砲台型の聖なる右腕が迫りくる神山の魔物群に向けられて構えられる。

 

 

「さて、夢のハジメが天空の隕石で圧倒したのなら、俺は大地の極光で相手してやる」

 

聖なる大地の加護は今、邪悪なるものを払うべく、我らの元に集うのです。聖術(マギア)3章10節(3 : 10)……"華御光海"

 

 大地に広がる魔法陣がさらに巨大化し、神山周辺に光の花を咲かせる。まるで地上に光の絨毯が現れたような光景に加え、花から光の粒子が蓮弥の元に集まっていく。

 

 華御光海という聖術は大地の力を光の花という媒体を通じて集める効力がある。ある程度の出力を得るために溜めが必要であるがゆえに、戦闘中に用いるのは中々困難だが、こういう場面では溜めれば溜めるほど出力が上がっていく聖術だ。

 

 神山というトータスでも有数の霊脈から力を直接引き出しながら聖遺物の砲身に力を溜めていく。その光景はまるで地上に太陽が出現したような光を発していた。

 

我らの目的は異教の地をことごとく征服することである。我らは精鋭兵士であり、異国の地は我らの戦場である

 

 そして活動に対して詠唱を加えたこの一撃は、異教の神の軍団に対して極大の戦果をもたらす一撃となる。

 

逆神罰砲撃術式──『破戒』

 

 

 そして砲撃が放たれた瞬間、世界が光に包まれた。

 

 弾道からわずかに逸れたエリアに世界が揺れるような衝撃波が発生し、その領域に存在していた魔物と神の使徒が宙に舞う埃のように吹き飛び、砕け散る。

 そしてその弾道の直線状にいたあらゆるものは存在することすら許されず、光が止んだ時存在していたものは、全長の八割以上が消えて無くなり見る影もなくなった神山の姿だった。

 

『相変わらず……なんという規格外な……』

 

 通信越しに、産まれた時から存在した聖なる山が消えて無くなった光景にリリアーナが呆然とする。

 

「これでここは当分大丈夫だろ」

『はい、異界への入り口も消えましたので、しばらく使徒も魔物も現れないでしょう』

 

 敵の抵抗すら許さず数千万単位の敵勢力を一撃で無力化した当事者二人はなんでもないかのように会話をする。

 

 彼らにとってもはやこの程度は敵ですらないし、禁術の聖術も必要がない。

 

 

 ====================

 

 藤澤蓮弥 17歳 男 レベル:? 

 

 天職:超越者

 

 筋力:330000

 体力:330000

 耐性:330000

 敏捷:330000

 魔力:1,250,000

 魔耐:1,250,000

 

 技能:永劫破壊[+活動][+形成][+創造]・吸魂・聖術[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+魔素操作]・霊的装甲・超身体能力[+形成][+創造]・五感超強化[+形成][+創造]・超直感[+形成][+創造]・魂魄形成・高速魔力回復[+魔素集束][+魔素生成]・魔力変換[+筋力変換][+体力変換][+耐久変換][+俊敏変換]・生成魔法・重力魔法・魂魄魔法・再生魔法・空間魔法・昇華魔法・変成魔法・言語理解

 

 ====================

 

 このステータスが何を意味しているのか。それは蓮弥の力がユナの力を十全に引き出せるようになったことを意味している。これでようやく、蓮弥はユナと足並みを揃えて成長していく資格を手に入れたのだ。

 

「行くぞ雫、優花。神父は神山の深部にいるはず。ここからが本番だ」

 

 蓮弥に対して頷く雫と優花を伴い、蓮弥は神父との決戦の地になるであろう神山深部へと足を踏み入れた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 神山の奥深くに続く螺旋階段を降っている途中、当然の如く神父からの妨害があった。

 

 

雫の視界からいきなり光が消え、周囲から寒気と悍ましい気配が複数現れる。

 

死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ

 

「これは……技能の書を取りに行った時のやつか」

 

近くに蓮弥の声を確認した雫は以前のことを思い出す。以前蓮弥と共に技能の書を取りに向かった雫はこの霊現象というべきものの前に震えて蓮弥にしがみつくしかなかった。

 

苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ苦シメ

 

『蓮弥……これに実態はありません。ただ現象としての呪いだけがこの他に残留しているようです』

「なら俺が……」

 

以前はあの神父が祓ったこの現象は依代こそあれど形がないものだ。剣士である雫の出る幕ではない。

 

許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ

 

「いいえ蓮弥。あなたは何もする必要はないわ」

 

ただしそれは、邯鄲にて百年の修行の旅に出る前の雫の話だ。

 

 

雫はただ村雨を抜き……

 

 

     全員永遠ノ闇ヲ彷徨エ!!     

 

──()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 すぐさま視界が回復し、周囲の冷気と悍ましい気配が消えてなくなる。

 

「この程度の相手に蓮弥が無駄に消耗する必要はないわ。私も伊達に百年修行してたわけじゃない」

 

 百年の間に何があったのかについては、短い期間で語りつくせるものではない。だがその中でも雫は絶えず剣を極めるべく鍛錬してきたのは間違いないのだ。

 

 だからこそ今の雫なら、形のないものを斬ることも不可能ではない。

 

『……兄弟子の中に、剣にて実体のない真正悪魔を斬る境地に達した者がいましたが、今の雫ならあの樹海で戦った悪魔相手でも、もっと有効な攻撃ができるでしょうね。見事です』

 

 神代魔法に頼れば似たような現象を起こすことも不可能ではないだろうが、今雫は神代魔法を行使していない。むしろある地点まで到達した剣士に余計な神秘は不要だ。

 

 ただ斬るという概念のみを突き詰めることこそが剣士の本懐なのだから。

 

 蓮弥は想像以上の進化を見せた雫の剣に頼もしさを感じつつ先へ進む。神父の残した罠がこれだけであるはずがない。蓮弥は魔王城で神父と対峙した時に徹底したメタを貼られたことを忘れていない。

 

「これも俺が対処しにくい。あるいは消耗させる目的の罠だろうな」

 

 蓮弥だとこの手の罠を破壊するためには創造に頼らざるを得ない。神父の狙いが蓮弥を消耗させることなのだとしたら狙いは悪くない。

 

 

 次に待ち受けていた罠もその傾向が明らかだった。

 

 幾つもの柱で支えられた大聖堂のような大きな場所にて、宙を飛び回るのは掌サイズの蟲だった。

 

 注目すべきはその数。20メートルほどの高さの天井を覆う量の蟲が耳障りな羽音を響かせながら蓮弥達に殺意を向けている。

 

 圧倒的な数の暴力も剣が主な武器である蓮弥の苦手とするもの。聖術による広範囲殲滅を試みようにもここが旧神山の地下深くであることが邪魔をする。

 

 柱が乱立していているこの場所で破壊力の高い聖術など使おうものなら天井が崩れ、蓮弥達は生き埋めになってしまう。

 

 それでも蓮弥は死なないが、時間稼ぎには十分だろう。

 

「無視していくことはできなそうにないな」

 

 蓮弥が次の道を探ったところ、どうやら天井を覆う蟲が密集している場所に次のエリアがあることがわかった。

 

 広範囲を攻撃するような派手な聖術を使えば天井が崩れ、蓮弥達は大きな足止めを喰らってしまう。かといって加減して倒すには数と蟲の敏捷が壁となる。

 

 悉く蓮弥が苦手であろう罠を張る神父の手腕。間違いなく敵に対する嫌がらせをさせたらこの神父の右に出るものはいまい。

 

「なら、ここは私の出番かな」

 

 だが蓮弥もここに一人でいるわけではない。雫は蟲の軍団を見た後、後ろにすぐに下がっており、入れ替わるように優花が前に立つ。

 

「要は的当てみたいなもんでしょ。そんなの……飽きるほどやってきたから」

 

 優花が七耀を展開し、空中に向けて射線を作る。そして優花の敵意を感じ取ったのか、蟲達も優花を敵と認識し、戦闘態勢に入る。

 

 そこからは虹色と黒の弾丸の応酬だった。

 

 弾丸のように飛び出す蟲群に対し、優花の七耀が様々な軌道を描きながら蟲を撃ち落としていく。

 

 虹色の弾丸と黒の弾丸がぶつかり合い、時に火花を散らすのは芸術に見えなくもないがそこはまさしく戦場だ。

 

 優花が絶え間なく周囲に七耀を召喚し次々放つ。それに応じるように蟲群の数も増していく。

 

 形勢は互角。だが蟲達は終わりがないかの如く投入されてくる。徐々に虹色が黒の群団に押されていく。

 

「優花……」

「大丈夫よ、蓮弥」

 

 思わず圧倒的な火力でまとめて薙ぎ払いたくなる蓮弥を隣で見ていた雫が静止する。

 

「優花だって私と一緒に邯鄲で百年間生き抜いてきたのよ。心配不要だわ。優花ならこの程度軽く乗り越えるわよ」

 

 雫の言う通り、宙を黒が覆いつくしつつある中、優花は冷静に周囲を見回していた。

 

「……見つけた」

 

 優花は宙に浮かぶ七耀の一本を手に取り、宙に向かって投擲する。

 

 空中に浮かべて射出するのとは違う優花の手で直接投げられた七耀は蓮弥も油断したら見過ごすレベルの速度で飛翔し、一回り小柄な蟲を打ち抜く。

 

「こういう相手には必ず親玉がいると思ってたけど予想通りだったね」

 

 優花が妥当した蟲が親に当たるものだったらしく、他の蟲も次々と消滅していく。

 

(あれだけの数の蟲の中から一匹の親玉を見つけ出したのか)

 

 雫といい優花といい、蓮弥が関わることができなかった邯鄲での百年でどうやら蓮弥の想像以上に強くなっていたらしい。そのことに頼もしさを感じつつも蓮弥は少しだけ寂しい気持ちになる。

 許されるならその百年の経験を自分も共有したかったと。

 

 

 感傷に浸るのはそこまでにした蓮弥は、優花の活躍により進めるようになったエリアを進んでいく。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 敵を殲滅し、神父への道は開かれた。神山の大半が消滅したとはいえ、大迷宮を含む重要施設は神山の地下にあることは確認済みだ。

 

 ユナの霊的感応能力により神父の元の肉体から得た情報では、神山地下には神父が作り上げた神殿があるらしい。

 

「神殿? あの神父は本当に神になるつもりなのかしら?」

 

 神山の地下への道を降りる中、湧いて出てくるゴースト系の魔物を斬り捨てながら神父の行動に疑問を持つ雫。

 

 夢の神話大戦を経験した雫にとって、今の状況は完全に未知なるもの。特に夢で現れさえしなかったダニエル・アルベルトの行動は雫にも読めないのだ。夢の中では神山の奥にこのようなスペースがあるなど考えもしなかったがゆえに、この場所のことも雫はよくわからないでいた。

 

 

『いいえ、違います』

 

 雫の疑問を、聖術にて魔物を倒しながらユナが否定する。

 

『彼の願い。それは人が持つ最も純粋な願いの一つでしょうね』

「ユナ?」

 

 聖なる右で通常より巨大なベヒモスの集団を薙ぎ払いつつ、ユナが言い淀んでいることに蓮弥は気づく。

 

『正直言えば……私は彼の願いを完全に否定することはできません。きっとそれは、誰もが一度は願うであろうことですから……』

 

 その声は、神父の思考を読み取ったがゆえの苦悩があるように感じた。

 

「だがこのまま神父を放置するわけにはいかない。どんな願いであろうと、世界の破滅と引き換えに叶えていい道理にはならないからな」

『……わかっています。だからこそ、早く彼を止めなければ』

 

 どれほど高潔な願いを持っていようとも、それが世界の破滅と引き換えになるのであれば、破滅に巻き込まれる者達の、理不尽に巻き込まれる者達の代表として蓮弥は戦わなければならない。

 

 それが現在の蓮弥の魂の中心にある、渇望に根差す感情であるがゆえに。

 

 

 道中魔物などは出現するが、それ以外に大した妨害がないがゆえに順調に神山に潜っていく蓮弥達。そして蓮弥達はある部屋へとたどり着く。

 

「ここは……」

「まさに背教者の部屋って感じだね」

 

 その部屋には人一人が入れるくらいの試験管のようなものが並んでおり、その中に浮かぶものは蓮弥達のよく知るものだった。

 

「これは、神の使徒か?」

「みたいね。診た限り、今世界中で出現している神の使徒とは違うみたいだけど」

 

 雫が解法にて診た結果、見た目も中身も少しずつ通常の神の使徒とは異なっている部分が散見される。

 

 成人女性の個体があれば、戦わせるには明らかに若すぎる個体もある。髪の色が違う個体もいるし、なんなら性別すら違う個体が浮かんでいるのに蓮弥は気づいていた。

 

「まるで実験室だな。あの人は、神の使徒を使って何かをしようとしていた? ……いやまて。……神の使徒……人造生命……まさか、神父の目的は……」

 

 蓮弥が神の使徒の用途について思考をめぐらし、ある結論に至る。

 

「……そういうことなのね」

 

 同時に雫もまた神父の目的に対しおおよその当たりをつけることができていた。百年生きた経験を持つ雫は、その願いを持つ者達とも出会ってきたがゆえに。

 

「答えは直接彼に聞きましょうか。……彼がこの通路を通った形跡があります」

 

 形成したユナが壁に触れ、神父の痕跡を発見する。

 

 その気配はつい最近のもの。つまり……ようやく蓮弥達は神父に追いついたということ。

 

 今までの道より明らかに厳重に護られていた通路を進む。

 

 そして、その先に待ち受けていたのは。

 

 

「……ここでお前か」

「あら、嫌そうな顔ね」

 

 

 広場のような場所の中央に佇んでいたのは、白き軍装を身に纏う堕天使。幾度も蓮弥と対峙してきた異端の神の使徒、フレイヤだった。

 

「悪いけど通せんぼよ。ここを通りたかったら私を倒すしかないわね」

 

 フレイヤは好戦的に笑う。まるでこの時を待ちわびたのだと蓮弥への戦意を隠そうとすらしない。

 

 ならばここからは言葉など不要だろう。蓮弥もまた不思議な縁で結ばれた目の前の敵に対して剣を振るうのみだ。

 

 蓮弥はこんどこそフレイヤの息の根を止めるために、臨戦態勢を取ろうとする。

 

 だが、そこで思わぬ待ったが入ることになった。

 

「雫?」

 

 雫が一歩前に踏み出し、刀を腰だめに構える。

 

「先に行って蓮弥。ここは私と優花が引き受ける」

 

 ここで蓮弥が足止めを喰らうことはすなわち神父をその分野放しにするということだ。神父の目的は依然はっきりしないが、ここまであからさまに時間稼ぎを行っているあたり、時間を与えて良いことなどないだろう。そう結論に至った雫と優花が蓮弥の代わりにフレイヤと戦うと決めたのだ。

 

「……任せていいんだな」

「もちろんよ」

 

 雫が頷くと蓮弥は戦闘態勢を解除する。それに不満を覚えるのはフレイヤ。さきほどまで蓮弥に好戦的な笑みを浮かべていたが、雫が介入したあたりでぽかんとし始め、次第に顔に怒気が浮かんでくる。

 

「はぁ? 私はあくまで藤澤蓮弥に用があるのであって、あんたには微塵も興味がないんだけど」

「悪いけどこっちはそうはいかないのよ。強制的に付き合ってもらうわ」

 

 

 その言葉と共に、戦闘は静かに開始される。

 

 フレイヤは瞬時に翼を展開し、その金翼から羽弾を雫に対して放つ。

 

 その間、瞬き以下の一瞬。

 

 その一瞬で数百の弾丸が音速の数十倍の速度で雫を粉みじんにするべく放たれ……

 

 

 ──羽弾を全て瞬時に斬り捨てながらフレイヤに迫る雫が、フレイヤの首に村雨の刃を喰い込ませた。

 

「ッッ!?」

 

 首に半分まで刃が喰い込んだ時点でフレイヤが防衛本能で後ろに爆発する勢いで跳ねた。

 

 

「……あんた」

 

 村雨の特性により血を変換した水が首からあふれ出しているのを確認したフレイヤが目を鋭くさせながら自動再生で傷を修復する。

 

 

 その僅かな隙を突き、蓮弥はすでに先に進んでいた。

 

「強制だって言ったわよね?」

 

 

 それだけ言った雫は静かに刀を構える。

 

 ここまでやられてフレイヤもようやく雫を敵と認めた。

 

 かつては大きな力の差があった邯鄲の剣士と異界の堕天使。

 

 

 今両者はお互いを敵だと認め……

 

 

 ──激しき戦闘の火蓋が落とされる。




>逆神罰砲撃術式──『破戒』

オルクス大迷宮で暴走中の蓮弥がハジメに放った砲撃の強化版。その一撃は神なる山を一撃で消滅させる威力を誇る。当然うかつには使えないので使う場所を選ぶ。

>優花の投擲術
普段は所謂ギルガメッシュ戦法を取っている優花ですが、実は直接手で投げた方が速度も命中精度も上。本当に大事な時に頼れるのはやはり己の肉体。

次回は蓮弥視点と雫視点を交互にやる予定。
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