ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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Frohe Weihnachten(フローエ・ヴァイナハテン)


2人の戦い

 雫とフレイヤの戦いは、開始の瞬間からトップスピードに突入した。一般人の目には、閃光と金属音が巻き起こす暴風の嵐にしか映らないだろう。

 

 雫の村雨丸が閃き、鋼と鋼が激突する。音速を超えた剣撃は火花を散らし、空間を切り裂くたびに轟音が遅れて響き渡る。

 

 数百を超える打ち合いの末、戦況を制しているのは雫だった。

 

「……ッ!」

 

 幾度目かの首への斬撃。刃はフレイヤの肉体を半ばまで断ち斬るも、すんでのところで彼女は身を翻してかわした。直後、自動再生による修復が肉体を元通りに戻していく。

 

 フレイヤは一瞬の隙間で冷静に戦況を分析した。

 

(正直、見くびってたわね。間違いなく、剣士としてはあいつの方が格上。しかも速さと技術が異常……)

 

 フレイヤの中で、雫の戦術が次第に脅威となり始めていた。これまでの打ち合いで、純粋なステータスだけならフレイヤの方が上だと確信していた。しかし、実際の戦闘では雫の剣技に押され続け、常に後手に回る有様だった。

 

(こいつ、すべての動作に無駄がなさすぎる。『敏捷』で勝ってるはずなのに、なぜか後手に回らされている……!)

 

 音速を超える速度と虚の刃──実体なのかフェイントなのか判別できない剣を駆使する雫の戦術は、フレイヤにとって未知の領域だった。迷いなく最短で振るわれる刃がフレイヤを圧倒し、彼女は次第に苛立ちを覚えた。

 

「またッ、鬱陶しい!」

 

 ステータスの高さと羽弾を使い、強引に押し切ろうとした瞬間、虹色に輝くナイフが羽弾を撃ち落とす。超音速で展開される戦闘の中で、的確に介入してくる援護射撃──その存在を、フレイヤはすぐに思い出した。

 

 雫と共に戦っているのは、正確無比な援護射撃を得意とする優花。二人の連携が、フレイヤを確実に追い詰めていた。

 

 フレイヤは戦場の空気を一変させるようにゆっくりと笑みを浮かべる。

 

 

「もういいわ。あんたの剣技には飽き飽きよ。今度は……」

 

 その言葉と同時に、彼女を中心に空間が震え、周囲の魔力が収束していく。幾重もの魔法陣が空に描かれ、異形の咆哮が天を貫いた。

 

 

「──魔法で圧殺してあげる! "五大精霊の龍王(エレメンタルドラゴン)"」

 

 天から現れたのは五体の龍。炎、氷、嵐、雷、石──それぞれが天災そのものを象徴する存在だ。

 

 その雄叫びが大地を揺るがし、空気を震わせ、まるで世界そのものがフレイヤの意志に屈していくかのように感じられた。

 

 

「世界の理を司る龍。その神髄……たっぷり味わうといい!」

 

 

 五体の龍が獲物に向かって牙を剥き、地獄そのものを解き放つかのように雫へと襲いかかる。

 

 だが、その脅威に対して雫は静かだった。彼女の目は揺るぎなく、村雨丸を静かに構えていた。

 

 

「八重樫流……精霊之太刀」

 

 

 言葉とともに刀身が青白く輝き、周囲の空気が震えた。剣が纏う夢の力は次第に精霊そのものの意志を宿し、まるで雫の体と一体化するかのように同調していく。

 

 一閃──。

 

 雫は目の前に迫る炎龍の咆哮を跳ねるように躱し、静謐な流水を纏った刀でその顎を一撃のもとに断ち切った。その動きはまるで舞うかのように流麗でありながら、無慈悲に命を断つ刃の冷たさを纏っていた。

 

「次……」

 

 切り裂いた炎の欠片を背に、雫は旋風のように身をひるがえし、迫る石龍に雷の刃をまとわせた剣で一刀両断する。轟音とともに石片が降り注ぎ、その姿は戦場の閃光となった。

 

 だが、それだけでは終わらない。彼女の動きは止まることを知らない。

 

 氷龍と嵐龍が牙をむくも、雫は炎の刃を閃かせて逆にその猛威を焼き尽くす。そして、最後に残る雷龍──その雷撃を受け止めるように飛び込み、鋼の刃で雷の核を叩き斬った。

 

 一瞬の静寂。

 

 雫が舞い終えた瞬間、五体の龍は崩れ落ち、戦場に再び静寂が訪れた。

 

 しかし、その光景を予想していたフレイヤの表情は緩むことなく、次の手を打つ。

 

「──黒箱」

 

 フレイヤが発動したのは、空間そのものを六方向から圧縮し、標的を消し去る重力魔法。その殺傷力は圧倒的で、わずかな余地も許さず雫を中心に空間が潰れていく。

 空気が軋む音と共に、重力の圧迫が頂点に達した瞬間、中心の空間が崩壊するように圧縮される。空間が歪み、魔法の中心点には影すら残らない──かのように見えた。

 

 だが、その時、雫の姿が現れる。

 

 解法『透』を駆使し、空間を滑るように移動する雫が、重力の檻を抜け出していたのだ。

 

 その瞬間、フレイヤは咄嗟に反応した。背後から迫る雫の動きを感じ取り、雷属性中級魔法『雷斧』を振りかぶる。その刃が鋭い閃光を放ち、空間を裂いて迫る。雷撃がフレイヤの周囲を包み、彼女はその衝撃を頼りに一瞬体勢を整えた。

 

「逃がさない!」

 

 雫の反撃は容赦なかった。雷の斧を躱し、透き通る刃を高速で振り抜く。狙いを定めたのはフレイヤの背後に展開された漆黒の二枚の羽。根本から断ち切られた羽が空中で散り、フレイヤは一瞬飛行能力を失う。

 

「──ッ、こいつ……!」

 

 羽根を失ったフレイヤの体が重力に囚われる。自由を奪われたまま、彼女は地上に引きずられるかに見えた。だが、その瞬間、フレイヤは短く呟く。

 

「いいわ……ならば消し飛びなさい!」

 

 爆炎と雷光が戦場を飲み込む。フレイヤがその身ごと巻き込む覚悟で放った多属性魔法の爆発。爆音と共に生まれた爆風が周囲を飲み込み、空間を揺るがす。

 

「なるほど。剣しか能がないと思っていたら、ちゃんと魔法も使えるのね」

 

 フレイヤが一瞬の隙を突いて羽を再生させ、次の攻撃の準備を整える。

 

「魔法陣も詠唱もなし。剣技と神代魔法を一つにしている。いや、むしろ、剣技や体術で神代魔法を再現しているのかしら?」

 

 雫の剣は、フレイヤを容易に斬る。だが、それが意味するのは、常に分解魔法で自分を守っているフレイヤの防御を突破したということだ。かつてハジメが用いたパイルバンカーでさえ、一秒も耐えられなかったその防御を突破するためには通常、空間魔法、昇華魔法、そして魂魄魔法を同時に纏う必要がある。

 

 しかし、雫の剣には魔法陣も詠唱もなかった。ただの剣技で、フレイヤの防御を突破している。その事実に、フレイヤの心に疑念が生まれた。

 

 神代魔法は、この世界の根本に干渉するための七本の道とユナは言ったことがあるが、世界の理に干渉するための道は神代魔法だけではない。実際、剣術という形でその力を引き出す方法も存在する。

 

 雫の剣術はその一つだ。剣を極限まで極めたとき、その剣は時に人知を超える。百年の修行の果てに、雫の剣術は神代の奥義の領域に到達していた。

 

 その後も雫とフレイヤの交戦は続いた。

 

 秒間数百、数千の魔法が乱れ舞い、空間そのものが歪む。雫はまるで空間の中で踊るように動き、敵の魔法を巧みに避け、透過させ、鋭い刃を振るう。しかし、フレイヤもまたそのすべてに手を緩めることなく応じた。ユエ由来の天性の魔法の才能を駆使し、空間を覆いつくすかのような膨大な数の魔法を展開し、雫に次々と打ち出す。

 

 戦場はまるで千日手のような様相を呈していた。フレイヤは自らの魔法を一度も途切れることなく発射し続け、空間全体がその力に呑み込まれる。彼女の目の前に広がる魔法の弾幕は、まさに圧倒的な数と威力を誇り、雫の周囲を取り囲み、逃げ場を無くそうとする。

 

 一方で雫は、まるで魔法の波を駆け抜けるように、魔法を切り払う、躱す、そして透過する。その身を空間の隙間に忍ばせるようにして、フレイヤの攻撃を巧妙に回避していく。しかし、フレイヤの魔法の弾幕が途切れることはなく、次々と雫を狙って迫ってくる。雫はその隙間を見つけることに注力し、なおも切れ目のない攻撃に耐え続ける。

 

 反面、雫の剣はフレイヤには届かない。激しい攻防の中で、一度も決定的な一撃を与えることはできなかった。雫の刃はフレイヤの防御を突破するどころか、常に魔法の壁に阻まれ、ひとたび隙を見せるとまた新たな攻撃が襲い掛かる。互いに譲らないその戦いは、まるで一進一退の激闘のようであり、どちらが先に疲弊し、終息を迎えるのか、全く予測がつかなかった。

 

 

 

だからこそ、この千日手の状況を打破するために、優花がついに動き出した。

 

停止解除(フリーズアウト)、全武装連続掃射!」

 

 優花の指示一つで、空間魔法にて待機させていた七耀千二百本の弾丸が一斉に召喚され、空中で激しく舞い上がる。その閃光が四方に散り、まるで虹色の花火が夜空に広がるような美しい光景を描き出しながら、フレイヤの魔法の核を次々と打ち抜いていく。

 

「ちっ、鬱陶しいわね!」

 

 フレイヤは初めて、雫を横目に優花の気配を感じ取る。その存在が隠れていることに気づき、明らかに苛立ちを露わにした。

 

「上手く隠れているようだけど、舐めんじゃないわよ。」

 

 空間に漂う魔素は、すでにフレイヤ由来の魔法で満たされている。彼女の魔素がセンサーのように作用し、隠れている者を感知するのは、もはや造作もないことだった。フレイヤは冷徹な視線でその魔素を操り、雫に向けるものとは別の魔法群を優花に向けて放つ。

 

 優花はその気配を察し、瞬時に透明化を解除すると、身をひるがえして空中を素早く駆け抜ける。しかし、雫ほどの速度を出すことはできず、フレイヤの魔法が迫り来る。優花は冷静に七耀を操り、数え切れない魔法の弾丸を打ち落としながら、すばやくその場を飛び回る。その動きは風のように軽やかで、まるで流れる水のようにスムーズだが、フレイヤの攻撃は一向に止むことはない。

 

 

(このままだと私は持たないか。なら……賭けに出るか)

 

 優花は視界一面に広がる魔法の弾幕を撃ち落としながら、右手に七耀本体をしっかりと握りしめ、そのまま――ナイフを回し始めた。

 

 その間もフレイヤの魔法は止まらず、地上を薙ぎ払うような勢いで放たれる魔法の波に、優花は追い詰められていった。

 

 だが、フレイヤは一切油断しなかった。現状、魔法の弾幕は雫7、優花3の割合で放たれているが、それは決して加減しているわけではない。もし相手が神の使徒だったなら、数千体は一瞬で消し飛ぶ規模の魔法群だ。それをかわすことができる力が優花にはあるということ。

 

(何か妙なことをやり始めたわね)

 

 フレイヤは優花の右手に視線を注ぐ。その動きに注意を払いながら、ナイフを回し続ける優花をじっと見つめていた。

 

 まるで一流のジャグラーのように、ナイフが優花の手元で優雅に空中を舞う。その行為は一見、戦闘には何の意味もないように見える。しかし、フレイヤは本能的にそれがただの遊びではないことに気づく。

 

 

 そのナイフに魔力は感じられない。純粋な技術だけで宙に浮かせているかのような事象を起こしているが、はっきり言って戦闘において何の意味もない。

 

 だが、一見何の意味もないからこそ、当たり前に意味はあるのだ。

 

 園部優花は投術師である。トータスでは戦闘職に分類され、中距離戦闘において無類の強さを発揮する。優花が愛子親衛隊として世界を回るようになってからは12組で1つのナイフ型アーティファクトを使って戦っていた。

 

 今でこそ思念操作式ナイフ型アーティファクト『七耀』を使って思念操作による射出という戦術を好んで使っているが、本領はやはり手でナイフを扱うことにある。

 

 フレイヤは散々見せつけられている。自身が放った魔法の核を的確に撃ち落としていく園部優花の神業を。誰でもできるわけではない。魔法にはその構成上弱い部分がどうしても出来てしまうがそれを射抜いて撃ち落とすという芸をやって見せたのは、奈落の底で手に入れた神結晶を加工して手に入れた魔眼にて核を見ることができるようになった南雲ハジメだけである。

 

 そのハジメもせいぜい数個打ち抜ければ良い方だろう。間違ってもハジメが使うガトリングガンのような勢いで放たれる魔法を撃ち落とすことなどできない。園部優花はそれを思念操作によるナイフの投擲でやってのけている。思念操作でそれなのだ。なら直接手で投げられればどうなるのか。

 

 だからこそ、フレイヤの警戒は必然だった。

 

「ありがとう。意外と貴方、私のことも見てくれているのね」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 

 

 

 両者の間に、絶対命中の協力強制が成立した。

 

 

 

 

其は重く、硬く、烈火のごとく、トウアハーデがたずさえし物なり

 

──急段・顕象──

 

光神之石弾(魔弾タスラム)

 

 

 その瞬間、フレイヤの核といえる場所に七耀が突き刺さっていた。

 

「ッがふッ」

 

 あらゆる警戒もあらゆる障壁も突き抜けて、フレイヤに七耀が突き刺さるという事象が発生した。

 

 だが、これだけではフレイヤが死ぬことはない。優花の急段はあくまで必中を約束する技であり、急所を破壊された場合に常識的に命を落とす生物にとっては必殺の一撃となり得る。しかし、非常識な回復力を持つフレイヤにとっては、決定的な致命傷にはならない。

 

 だが、その僅かな隙を八重樫雫は見逃さなかった。

 

 優花の急段でフレイヤを留め、雫がその隙間を突いて止めを刺す。それは夢界での戦いでも効果的だった、ある種の勝利パターンのひとつであった。

 

「──破段・顕象──」

 

 雫の声が響き、同時に彼女が放つ神剣が振るわれる。

 

大神八尺瓊勾玉(おおかみやさかにのまがたま)

 

 その刹那、フレイヤが体勢を立て直す暇もなく、雫の剣が振り下ろされ……

 

 ──その首を跳ね飛ばした。

 

 雫の破段には再生を阻害する効果がある。その力は大災害悪食にも通じるほど強力で、回復能力を持つ存在にさえ致命的なダメージを与えることができる。通常であれば、ここで戦いの決着がついたと言っても良いだろう。

 

 しかし、雫は決して油断することはなかった。

 

「いいわ。認めてあげる。あなた達は、私の敵足りえると。」

 

 首と胴が分かたれているはずのフレイヤが、冷徹に言葉を発した。それは、彼女がまだ本気を出していないことを示唆していた。

 

「だけど勘違いしないで頂戴。敵とはいえ、あなた達と私の間には大きな差がある。」

 

「そう……私が上で、あなた達が下よ……」

 

 その言葉が終わるや否や、フレイヤの周囲の空間が歪み始め、事象が再構築されていく。

 

 歪んだ空間の中から現れたのは、六枚羽を持つ大天使の姿だった。背後には巨大な像を携え、威厳と圧倒的な力を感じさせるその姿は、フレイヤが真の力を解放した証であった。

 

概念魔法(ArsMagna)──堕落せし至上の大天使(プリームス・ルシフェリア)

 

 その瞬間、概念魔法が発露し、フレイヤの力が戦場に満ちる。これにより、戦いのステージは次の段階へと移り変わった。

 




光神之石弾(魔弾タスラム) 

園部優花の急段
協力強制:優花の放ったナイフは必ず当たるという共通認識を持たせること

 発現する能力は因果の逆転:発動した瞬間ナイフが当たった事象が確定し、過程がそれに合わせて構築される。たとえ投げるのを阻止しようとしても無駄でありこの急段が発動した瞬間命中している。

 前提条件として優花の放つナイフは脅威だと思われなくてはならない。



あとがき
皆さま、お久しぶりです。半年も行方不明になっていたシオウです。待っている人がいるかはわかりませんがお待たせしました。なんとか最新話更新です。

気が付けばもう一年が経っている。更新してなかった間に、夏になり、コロナになり、ちょっとだけ秋がきて、インフルエンザにかかり、そして冬になってしまいました。もう少しどうにかできなかったのかと思う気がしますがどうしても筆が進まなかったのです。

いくつか原因は考えられるのですがやはりモチベの低下が大きい。執筆力の源にしているアーディティヤの更新も元気がないというのもあります。言い訳がましいですが二次創作はオリジナルが元気じゃないと力がでないのです。


それでもなんとかモチベを上げて頑張っています。最近chatGPTでもイラスト生成ができると知り、ユナのイラストなんかを作ったりして遊んでいます。納得いくイラストができたら公開するかもしれません。

次回はフレイヤ戦の続きか、視点変わって蓮弥サイドか。
鈍間更新で申し訳ありませんが途中でやめるつもりは今のところないので気長にお待ちください。
では
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