復活した神エヒトは、すぐには行動しなかった。
静かに自分の手を見下ろす。
指をゆっくりと握り、ゆっくり開く。
──軋む。
ただそれだけの僅かな動作で、空間がわずかに悲鳴を上げた。
「……なるほど」
小さく、呟く。まるで数十年寝たきりだった人間が身体の具合を確かめるかのように。
その視線が、地上へと落ちる。
「では……」
次の瞬間。
天が、落ちた。
誰かに押されたわけではない。
実際に何かが降ってきたわけでもない。
現れたのは、下手をすれば骨まで砕きかねない圧倒的存在感。
まさに、天が落ちてきたとしか言い表せない神威。
「なッ──!!」
「これはッ──!!」
膝が砕けるように地に落ちる者。
耐えきれず顔面から叩きつけられる者。
声すら上げられず、地に伏すしかない者。
大地が、空気が、あらゆるものが鳴動している。ただ存在が纏う威圧だけで、現世に在るものが神威に服従していく。
そんな神威の前で、立っていられるのは、ほんの一部の強者。
南雲ハジメのパーティーメンバー。
最後の解放者。
そして虚空の黒騎士。
だがそれでも現状立っているのがやっとの状態。
当然ハジメ達の心中には混乱しかない。
──おかしい。
南雲ハジメは、歯を食いしばりながら思考を巡らす。
エヒトの復活条件は当然、仲間達の中で共有済み。
エヒトは魂だけの存在。単体では地上に干渉できない。だからこそ必要なのは“器”。
ユエ。あるいは<勇者>天之河光輝。そのどちらかに降霊することでしか、神エヒト復活は成り立たない。
──それが前提だった。
それ以外はあり得ない。少なくとも──自分達が知る限りは。
だが、目の前に現れた存在はどうだ。
その放たれる神威は紛れもなく神格のもの。
その姿はユエでも光輝でもない、肖像画で描かれた神エヒトの姿そのもの。
この局面で神話大戦における大前提が、大きくひっくり返ったことを悟る。
「……ふざけんなよ」
ハジメは低く、吐き捨てる。
意味が分からない。わからないが自分たちにとって悪い意味で
それで思考を止める理由にはならない。
「理由は後だ。今は──」
視線を上げ、神を睨む。
その瞬間だった。
ハジメと神エヒトの視線が合う。
ぞくり、と背筋が粟立つ。
今までとは質の違う圧がハジメに対し、直に叩きつけられる。
エヒトは、わずかに首を傾げた。
「……ほう」
興味を持ったような、ただそれだけの声音。
「まだ……立つか」
エヒトが心底不思議そうな顔をする。まるでなぜ抗うのか理解できないというような表情。
「もう決着はついたであろう。私にはやることがあるのでな。早々に平伏してくれると助かるのだが……」
平伏しろと言われて素直に平伏するようならこの場に立っていない。ハジメは腹に力を入れながらエヒトを睨みつける。
「急に現れて何言ってんだてめぇ。決着がついただ? まだ俺達は誰一人膝をついてないんだがな」
ハジメの横ではユエが、背後ではシアやティオ、香織がエヒトの神威に抗い立ち上がっている。遠くの方ではこの気配になれたのか、クラスメイト達も立ち上がり始めているのが分かる。
まだ、戦える。誰も屈してはいない。
「……ああ、そうか……貴様らには、まだ戦う理由があるのだな」
エヒトは何かを思ったのか再び上空へと飛翔する。戦場全てを見渡せる宙域を超え、世界全てを見渡せるような高度へ。
だがその存在感は微塵も損なわれず、まるですぐそばにいるような存在感を世界中の存在が感じている。
「聞くがいい。この地で生きる我が眷属たちよ」
眼下に広がるトータスという世界に対し、エヒトは大音声で世界に対して告げる。
「私の名はエヒト。創造神エヒトルジュエである。此度この地に再び降臨することになった。故に、今私はそなたたちに対し、誓いを果たそう」
エヒト教の教義など聖句一つ知らないハジメは誓いという言葉の意味は分からない。だが聖教教会に信仰を持って生きていた者達はどうか。
「私はこれより、この世界の全てを抱え、新天地へと旅立つ。そなたらは私の一部、すなわち神民となり永遠の安息を得ることができるのだ。案ずることはない、人族、亜人族、魔人族。隔たりはない。分け隔てなく全てのものは我が眷属となる」
神エヒトが再びこの地に降臨した時、この地に生きる人族は神に選ばれた民、すなわち神民となり永遠の安息の地に旅立つ。それがエヒト教に刻まれた教えなのだ。その言葉を前に聖教教会関係者は歓喜のあまり崩れ落ちるものも現れる。
だが……
「故に……」
ここで、神エヒトの気配が変わる。
「私の邪魔をするな」
瞬間、密度を増した神の圧力を世界中の人々が体感した。
この世界の人族の9割がエヒト教の信者である。彼ら彼女らは神の教えを胸に、生きてきたものが大半だろう。
だからこそ、神の意思に僅かでも反するのは、恐ろしい。
「私の覇道を妨げるな。これから行うは更なる境地への行進だ。無粋な真似をすれば……容赦せん」
「死を与えることになる」
それだけで、人族の戦線は恐慌状態に突入した。
まず初めに現れたのは狂喜する者。
「神ッッ、私は……あなたの仰せのままに!!」
感涙に咽びながら恍惚の表情を浮かべながら膝をつき手を組む。たとえそれが戦場のど真ん中であろうと、今にも襲い掛かろうとしている魔物の前だろうと関係ない。
次に現れた者は、恐怖に顔を歪める者たち。
「やめろ……やめろって……!」
震える手で武器を取り落とす。
信仰など関係ない。
ただ、本能が理解してしまったのだ。
──逆らえば、殺される。
「従えば……助かるんだろ……? そうだよな!?」
誰にともなく、縋るように呟く。答えなどない。だが、それでも彼らは自ら膝を折った。
次に現れたのは、怒りを露わにする者たち。
「何をしているッ!!」
戦場に怒号が響く。
「エヒト様が降臨なされたのだぞ! なぜ頭を垂れぬ!」
視線は、未だ膝をつかぬ者たちへと向けられていた。
「逆らう気か!? 神に背くつもりか!」
それは恐怖ゆえか、あるいは信仰ゆえか。
だがその声は、確かに“敵意”を孕んでいた。
「やめろ……やめてくれ……巻き込まれる……!」
誰かが怯えた声を上げる。
従わぬ者がいる限り、自分達も罰せられる。
だからこそ──
「膝をつけッ!!」
その叫びは、もはや命令だった。
そして……それでも、膝をつかぬ者たちがいた。
「……ふざけるな」
低く吐き捨てたのは、帝国兵の一人だった。
「今さら神だと?」
「今まで救いなんて一つも寄こさなかったくせに」
「はっ、神ってのはずいぶん調子がいいもんだな」
神を嘲笑するのは主に帝国兵で占められた集団。もとより神の教えなど重視していない。便宜上信仰してた方が便利だからという理由で都合よく利用してたもの。
その視線は、ただ一つ。
敵を見据えている。
「命令は変わらん。目の前の敵を討つ。それだけだ」
ガハルドのその一言を皮切りに、帝国の戦線が<王軍>の加護を受け動き出す。
膝をつくこともなく、祈ることもなく。
ただ、前へ。
そしてもちろん、ハジメ達の意思は何も変わらない。
「大迷宮の試練を超えた白髪くんはわかるよね?」
「神が齎す安息の地の正体か?」
「そうだよ。私たちの時も、自らの言葉で信徒を操って世界を混沌に落としてきた。あれが奴の手口だ」
ミレディの言葉に、ハジメは短く息を吐いた。
「……なるほどな」
視線は、変わらず空の彼方にある神を捉えたまま。
「はっ、今まで人族、魔人族など種族で分断して戦争を起こしてた癖に全員神民にするだと? ずいぶん気前がいいじゃねぇか。……奴に何があったかは知らねぇが、要するに、全部まとめて取り込む気か」
吐き捨てるようにハジメは言う。エヒトの目的はなんとなくわかってきた。
それは散々蓮弥やユナを見ていてわかっている事実。
魂は高品質の燃料になる。
この世界の全ての命を取り込むということは、その魂を内に取り込むという事だろう。ならばそれを成した時、エヒトはどれほどの力を得ることになるのか。そして、その魂の扱いはきっと碌なことにならないだろう。
「救いでもなんでもねぇ。奴がやろうとしているのは、ただの
その一言で、空気が決まる。
僅かに存在していた迷いは、消えた。
「だったら──やることは一つだな」
ハジメは一歩、前に出る。
軋む大地を踏みしめて。
「ぶっ殺す」
その背に、気配が重なる。
「当然」
ユエが並び立つ。
「わたしは最初から、そのつもりです」
シアが槌を構え、歯を剥く。
「当然、ご主人様と共に行くのみじゃ」
ティオが低く笑う。
「神様であろうと、負けないよ」
香織が静かに前を見る。
「……もう、これ以上この地から奪わせない」
そして最後の解放者、ミレディ・ライセンが決意を固める。
それぞれの意思が、揃う。
神威に押し潰されかけていた空気が、わずかに軋む。
抗う意志が、形を持つ。
「行くぞ」
その一言と同時に。
南雲ハジメが開戦の火蓋を切った。
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その瞳は世界のすべてを見据えている。
だがエヒトは、相変わらずハジメ達を見ていなかった。
かつて感じたそれと同じ。
神であるが故の慢心、傲り、傲岸不遜。
だが、ハジメにとっては滑稽でしかない。
つい先ほどまで、その傲りを突かれ、すべてを奪われていた存在なのだから。
「まだこっちを舐めてるってんなら、その隙を突くまでだ」
最初からクライマックス。
ハジメのアーティファクトの中でも、超兵器と称されるそれが駆動する。
太陽光集束レーザー兵器《バルス・ヒュベリオン》。
成層圏遥か上空に展開されたそれは、限界まで太陽光エネルギーを収束していた。
壊れても構わない。
収束率を限界以上に引き上げ、傲慢な神を撃ち落とす。
「太陽の光に翼を焼かれたイカロスの如く──そのまま堕ちろ!」
命令と同時にバルス・ヒュベリオンが、その最大出力を解き放つ。
白光が、天を貫いた。
視界を焼き尽くす閃光。
大気が悲鳴を上げ、世界そのものが震える。
直撃。
間違いなく、直撃した。
誰もがそう確信した。
──だが。
「……終わりか?」
光の中から、声がした。
変わらぬ声音で。
変わらぬ位置で。
エヒトは、そこにいた。
傷一つなく。
衣の端すら、焦げることなく。
ただ、そこに。
「愚かな。どうやらまだ力の差がわかっていないようだな」
エヒトが、その場で手を掲げる。
「……よかろう。ならば教えてやろうか。……本物の魔法というものを」
次の瞬間。
世界が、軋んだ。
「星が……動いた」
誰かの呟きの通り、天上に散らばっていた星々が、ゆっくりと軌道を変えていく。
引き寄せられるように。
収束するように。
やがてそれらは、一点を中心に円を描き始めた。
その中心に在るもの。
──太陽。
これほどの至近距離に本来存在するはずのない、灼熱の天体。
しかもそれは、ただの太陽ではない。
周囲を巡る無数の星々が、衛星のように規則正しく公転している。
重力も、軌道も、すべてがエヒトの意のままに制御された、異常天体。
“太陽という現象”そのものを、ここに再現したかのような光景だった。
「先ほどのアーティファクトは太陽の光を集めたものであろう」
エヒトが、わずかに手を傾ける。
それに呼応するように、星々の軌道が歪み、太陽の輝きが増していく。
「ならばそんな小細工などせずとも、太陽そのものを使えばよい」
その言葉は、神を名乗ってきた者のみが出せる結論だった。
「天体魔法……
エヒトが、指先をわずかに下ろした瞬間、空に顕現した恒星が膨張し、周囲を巡る星々が、一斉に軌道を歪めた。
収束。
圧縮。
そして──解放。
その直前。
「……はは」
ガハルドが、乾いた笑いを漏らした。
理解していた。この攻撃は防げない。
理屈ではない。本能が告げている。
──己はここで死ぬ、と。
「なんだ、意外とあっけないもんだな」
いつ死んでもいいと思って生きてきたが、いざその時が来ると案外やることはないらしい。
そう思いながらガハルドが最期に目を向けたのは未だ膝をつかず、神を睨み続けている一団へと向けられていた。
「……まだやるつもりか」
呆れたように、だがどこか愉快そうに呟く。
無謀だ。
ここまでの天変地異を見せられれば、ただの足掻きに過ぎないとわかるだろう。
だが──
「それでもお前達なら、最後まで足掻くんだろ?」
戦士でも、皇帝でもない。
一人の男としての声音だった。
「ま、せいぜい頑張るんだな」
わずかに口元が吊り上がる。
「あばよ」
それが、最後の言葉だった。
次の瞬間、光が落ち、視界が白に塗り潰される。
音は聞こえなかった。
爆音が消えたわけではない。光と熱があまりにも速く、すべてを呑み込んだせいで、音が届くよりも先に、すべてが終わっていたのだ。
その光が収まった時、そこにあったはずの光景は──消えていた。
「ッ……!」
誰も、言葉を発せない。
前線に展開していた連合軍。
教会騎士団も、帝国軍も。
そこに“存在していたはずのもの”が、何一つ残っていない。
瓦礫も、血も、残骸すらも。
ただ、大地だけが抉り取られたように消えている。
まるで最初から──何もなかったかのように
「……くそッ」
あり得ない。
教会騎士団にも帝国部隊にも、ハジメのアーティファクトによる恩恵は確かにあった。
防御力の底上げ、耐性の強化。
それだけではない。
帝国軍には、昇華魔法を習得したガハルドの<王軍>が展開されていたはずだ。
あれが発動していれば、神の使徒による数千発規模の分解砲撃──その飽和攻撃ですら、容易く壊滅などしない。
それほどの戦力だ。
それがたった一撃で、消えた。
理解はしている。
だが、認めたくはない現実。
──つまり。
エヒトの攻撃は、ハジメが想定していた攻撃力を、遥かに上回っている。
「先ほど受けたアーティファクトの攻撃……そのざっと十倍の出力、といったところか」
淡々とした声が、空から降る。まるで、些細な事実を確認するかのように。
「今の私からすれば──児戯に等しい」
(十倍……? 違う)
(そんな次元の話じゃねぇ)
ハジメは、神エヒトと戦う上であらゆる準備をしてきたつもりだった。あらゆる資材を使い、あらゆる知恵を合わせ、やるべきことをやってきたと確信する。
だが、ここに来て。魔王との戦いすら乗り越えてなお、ハジメの認識はまだ足りていないと言わざるを得ない。
それは、神の力が完全に規格外であることの何よりの証左。
だが──まだ、終わらない。
「次は……こういうのはどうだ?」
エヒトが、再び手を掲げる。
だが先ほどのように星々が動くことはなかった。
何も起きていない。
──そう、思えたのは一瞬だけだった。
異変は、王都の上空に現れる。
光が、消えた。
いや、違う。
空が──塞がれた。
その光景を見上げた騎士の一人が、手にしていた槍を取り落とす。
「はは……くそ……」
乾いた笑いが、漏れる。
「……嘘だろ」
「……な、なんだよ、これ」
一人、また一人と、顔を上げる。
見てしまう。
見ないという選択肢など、存在しない。
視界を覆い尽くす影。
空を埋め尽くす、圧倒的な質量。
「じ、次元が違いすぎる……」
「これが……神の力……」
クラスメイトたちもまた、息を呑み、ただ立ち尽くす。
誰もが理解していた。
あれは、落ちる。
そして──防げない。
王都上空に顕現していたのは。
直径数キロに及ぶ、超巨大隕石。
空そのものが、崩れ落ちてくるかのような質量が。
今まさに、この地へと降り注ごうとしていた
「……んな馬鹿な」
神の杖、ロッズフロムゴッドを扱ってきた南雲ハジメには理解できていた。神代魔法は、扱う規模が大きくなればなるほど、消費魔力が指数関数的に跳ね上がるということを。
初めて王都でロッズフロムゴッドを使った際。重力魔法で百キロの金属棒を遥か上空に設置するだけで、ほぼ全魔力を使い切った。
今のハジメでも、細かな制御を度外視して、一トン程度の塊を打ち上げて落とすのが限界だろう。
だが──頭上にあるそれは、桁が違う。
どう低く見積もっても数百万トン。
質量そのものが、理不尽だった。
「まだだよ! もうこれ以上、好きにさせてたまるか!」
ミレディが空へ躍り上がり、両手を掲げる。
「重力魔法……"無空"」
視界に見えぬ領域が広がる。
落下する隕石の周囲から、重力が“消える”。
巨塊が、わずかに──ほんのわずかに、軌道を鈍らせた。
だが、止まらない。
「私もッ!」
ユエが隣へ並び、同じ魔法を重ねる。
「重力魔法──"無空"」
重ね掛け。
二重に展開された無重力領域が、落下の慣性を削り取っていく。
減速。
だが、それでも──足りない。
「くっ……!」
軋む空気。
押し潰されるような質量は、なおも地上を目指す。
「なら──受け止めてやる!」
ハジメが一歩、前に出る。
両手を合わせ、足元の大地へと魔力を叩き込む。
「地形錬成……"
大地が、唸りを上げた。
地面が隆起し、歪み、引き裂かれる。
次の瞬間──
無数の巨大な腕が、大地から生えた。
土と岩で構成された、巨人の腕。
幾本も、幾十本も。
天へと伸び、迫り来る隕石を迎え撃つ。
──掴む。
──支える。
落下してくる質量と、下から押し返す質量。
空中で、衝突。
衝撃が、世界を震わせた。
腕が軋む。
砕ける。
だが、そのたびに新たな腕が生え、押し返す。
「まだだ……ッ!」
ハジメが歯を食いしばる。
腕の群れが、わずかに隕石の落下を押し返した。
だが、それでもこのままでは押し潰されることがわかってしまう。
「ならば跡形もなく焼き潰してくれるわッ!」
ティオが竜化し、上空へと躍り出る。
顎を開き、深紅の魔力を収束。
まだ足りない。
「"龍神昇華"……一階層から五階層──解放」
竜化状態で龍神昇華を使用する。今のティオが使えるギリギリまで力を引き出し、龍気を収束する。
「
灼熱の奔流が、隕石へと叩きつけられる。
表層が赤熱し、溶解していく。
削れる。
だが、核はまだ健在。
「砕くッ!!」
シアが跳び上がる。
巨大化したドリュッケンを振りかぶり──
「いっけぇええええッ!!」
叩き込む。
衝撃が走り、亀裂が広がる。
削る。
焼く。
砕く。
それぞれの力が噛み合い──ついに、巨塊が、限界を迎えた。
──砕けた。
轟音と共に、隕石は無数の破片へと分解され、空中で四散する。
燃えながら降り注ぐ破片は、大気の中で次々と消えていった。
空が、開ける。
視界が戻る。
「……やった、のか」
誰かの呟き。
その瞬間。
「……おい」
震える声。
指差された先。
再び、空を仰ぐ。
そこにあったのは──同じもの。
いや。
一つではない。
二つでもない。
空を埋め尽くす、無数の巨影。
同規模の隕石が。
同じ“死”が。
王都だけではない。
遠方の空にも、等しく現れている。
世界中の空に。
「……は?」
理解が、追いつかない。
だが目を覆いたくなる現実だけが、そこにあった。
「天体魔法……
──終わりが、降ってくる。