ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ライセン大迷宮

 ライセン大峡谷

 

 

 蓮弥達は再びこの世の地獄、罪人達にとっての処刑場と恐れられている場所へ訪れていた。目的はもちろんこの大峡谷にあるとされる大迷宮攻略のためである。大迷宮捜索のためこの谷に降りてきて早数時間。その間にこの大峡谷には、魔物の死体で溢れかえることになった。

 

「一撃必殺ですぅ!」

 

 シアが魔物相手にハジメが作成した新兵器である大槌型アーティファクト『ドリュッケン』を振りおろす。それだけで魔物の大半は地面にこびりついて落ちない頑固なシミに早変わりしていく。圧殺とはこのことを言うのだと思わせる力技の極致だった。

 

 

「……邪魔」

聖術(マギア)1章2節(1 : 2)……"聖焔"

 

 こちらはユエとユナの魔法組だった。

 大峡谷は魔力分解作用があるせいで魔法が使えないとされるエリアだが、ユエはそんなものは関係ないと言わんばかりに魔力にものを言わせて魔法を発動させ魔物を屠っていく。

 

 

 ユナもほぼ同様だが、こちらはもっと酷い。魔力にものを言わせているのはユエと同じだが、()()()()()()()()()()()()()。今も広範囲放射型火炎魔法にて魔物をまとめて黒焦げの炭に変えていく。おそらくユエ以上に魔力を込めて撃っているのだろう。大峡谷の原則を軽く無視していた。

 

 

「うぜぇ」

「全くだな、どこからこんなわらわら出てくるんだか」

 

 

 続けてこちらは射撃組。ハジメはドンナーに雷纏を使ったレールガンにて魔物の頭を正確に撃ち抜いていく。蓮弥は活動の大砲を利用して魔物を纏めて吹き飛ばしていた。

 

 

 そんな風に魔物を大虐殺しながら大峡谷を進むこと早三日、一行は未だにライセン大峡谷にある大迷宮の入口を見つけられずにいた。

 

 

 蓮弥達はハジメ謹製のテントに篭りながら少しうんざりしていた。大峡谷にあるかもしれないという曖昧な情報だけでこの広い谷を走り回っているのだ。ある意味一本道だったオルクス大迷宮とは違った苦労があった。もしやこれも大迷宮の試練なのかもしれない。

 

 

 蓮弥が長丁場になることを覚悟してすぐ、シアから吉報が届けられた。入口らしきところを見つけたという。

 

 

 “おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ ”

 

 

「……なあ、蓮弥……」

「……なんだ……ハジメ……」

「……もしかして……ここがそうなのか?」

「……たぶんな……ミレディという解放者の名前が入ってるし」

 

 色々台無しだった。あまりのチャラい文字に思わず気が抜けてしまいそうになる。なんというか、ものすごく頭が悪そうだった。

 

「これでいいのか大迷宮……」

「ん…………頭悪そう」

 

 ハジメとユエも若干脱力しながらそう零していた。オルクス大迷宮をイメージしていた分、そのギャップがすごいのだろう。蓮弥も同じ気持ちだったのでよくわかる。

 

 

 一方、今回大迷宮攻略初参加のシアは自分が発見したとあってやる気十分だった。

 

 

「いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って。見つかってよかったですぅ」

 

 シアは能天気にそういった。そしてペタペタメッセージの書かれた石版を触っている。

 

 

「おいシア、あんまり迂闊に触ると危ないぞ!」

「う〜ん、入口なんて見当たりませんね〜どこかに隠れてい、ふきゃ!?」

 

 

 蓮弥の警告も虚しく、シアは触っていた窪みの奥の壁の向こうに消えてしまった。忍者屋敷の仕掛けのようなものがあるらしい。

 

 

「「「……」」」

 

 三人は沈黙する。まるでアトラクションの入口のような仕掛けにどう対応すればいいか一瞬悩んでしまった。

 

 

 結局シアが入ってしまった以上、蓮弥達が入らないという選択肢はない。三人はなんともいえない雰囲気の中、二つ目の大迷宮に挑戦するのであった。

 

 

 中に入った瞬間、矢が飛んでくるトラップが動き三人を襲ったが、それを難なく対処する。この程度のトラップで死にはしない。

 シアもなんとか矢に刺さることなく無事だった。もっとも別の意味で大丈夫ではなかったわけだが……

 

「うぅ、ぐすっ、ひくっ」

 

 人としての尊厳を貶められたシアはシクシク泣いている。蓮弥は可哀想すぎて言葉もでない。

 

 

 しばらく泣いていたシアだったが、目の前の石版に気づく。

 

 

 “ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ”

 “それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ”

 

 

 それは挑戦者をいかに煽るかを追求しているかのような文章だった。シアの顔から表情が消える。

 

 

 無言でドリュッケンを取り出したシアは、石版に対し渾身の一撃を叩き込んだ。今まで最高の威力を発揮したような気がするその一撃に石版は粉微塵になる。

 

 

 砕けた石板の跡、一仕事やりきったシアは地面を見てみるとなにやら文章がかいてあった。そこには……

 

 “ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!! ”

 

「ムキィ──!!」

 

 シアは金切り声をあげながらドリュッケンを滅茶苦茶に振り回し始めた。

 

「これは前途多難だな……」

 

 蓮弥はこれからの受難を思い、そっと息を吐いた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 シアが気の済むまで石板を破壊し尽くした後、一行は広大な空間に出ていた。そこはまるで子供が適当にレゴブロックを繋げて作ったかのような構成であり、規則もなく滅茶苦茶な空間であった。

 

「こりゃ、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」

「……ん、迷いそう」

「ふん、この迷宮を作ったやつはぜ〜ったい腹の底から腐ったヤツですぅ。この迷宮のめちゃくちゃ具合がいい証拠ですぅ」

「はあ……シア。気持ちはわかるが落ち着いとけ。おそらくここで挑戦者を怒らせるのもトラップの内だろうしな」

 

 蓮弥はシアに忠告する。深読みするならたとえどんな環境にさらされても、常に冷静さを保てるかを試されていると見るべきだが……石版文字を見るに個人的趣味という線も否定できない。

 

 

 とりあえず一同は考えても仕方ないとハジメの固有魔法を応用したマーキングをつけながら先に進んでいくことにする。

 

 

 一行は注意しながら進んでいく。ハジメは魔眼石で周囲に魔法がないか確認する。蓮弥は聖遺物の使徒になったことによる超人化した第六感を働かせる。聖遺物の使徒の仕様上、身を守ることに関しては攻撃に出るときほど勘が働かないのだがないよりはマシだろう。

 

 

 だが自分は警戒できても他人のまではわからない。ハジメが早速何か踏んでしまった。ガコンッという音と共に足場が沈む。

 

 

 その瞬間、刃が滑る音と共に左右のブロックの間からノコギリ状の刃が飛び出してくる。あたれば常人ならただでは済まないだろう。

 

「回避ッ」

 

 ハジメが咄嗟に周囲に叫ぶ。ハジメは仰け反りながら避け、ユエはかがんで避ける。蓮弥は軽いステップで避け、シアは慌てつつもギリギリ避けることに成功する。

 

 

聖術(マギア)7章1節(7 : 1)……"聖盾"

 

 聖遺物に戻っているユナが魔法障壁を展開する。それは頭上のギロチンを防ぎ、その間に蓮弥達は離脱する。一度目のトラップを避けて少し気が緩んだタイミングで襲いかかるギロチン。なかなか挑戦者の心理をついたいやらしいトラップだった。それに完全に不意をつかれた形になるハジメ達は冷や汗を流す。ハジメが感知できなかった。というのも……

 

 

「……完全な物理トラップか。マジでタチが悪いな。魔眼石じゃあ、感知できないわけだ……最後のあれは正直やばかった。……蓮弥、助かった」

「……グッジョブ」

「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。蓮弥さん、ありがとうごさいますぅ〜」

 

 ハジメとユエ、それにシアが礼を言ってきたが筋違いだ。

 

「それは後でユナに言ってくれ。気づいたのはユナだ」

 

 正直に言うなら霊的装甲がある蓮弥は、傷一つ負わなかっただろう。だが他はそうはいかない。特にハジメのような蓮弥に匹敵するスペックも、ユエのような自動再生もないシアは危なかったかもしれない。

 

「とりあえず解放者は容赦なく俺たちを殺しに来ている。用心するに越したことはない……慎重に進むぞ」

 

 蓮弥の一言で先へ進む一同。シアがまた残念な扱いをされて涙目になっていたがしっかりしてもらいたい。特にここではシアの身体強化が重要になるのだから。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 蓮弥達はトラップに注意しながら慎重に先へ進んでいった。幸いまだ魔物が出現していない。

 

「……蓮弥、どう思う?」

「魔物がいない件についてか……」

「ああ……」

 

 ハジメも疑問に思っていたらしい。このまま出て来なければありがたいが……

 

「楽観はしないほうがいいだろうな。魔物がトラップに引っかかると台無しだからここらにはいないだけかもしれない。モンスターハウスみたいな四面楚歌の即死トラップがないとも限らないからな」

 

「……なんか懐かしいな、それ」

 

 ハジメは奈落に落ちるキッカケになったトラップを思い出したのかそう呟く。蓮弥も思い出す。それはもう遠い昔のようだった。

 

 

 そうこう話しているうちに三つの分かれ道に遭遇した。看板があり、『↑出口 異世界→』と書かれていた。

 

「「……」」

 

 蓮弥とハジメは沈黙する。前から思っていたが、この世界の住人は所々日本人にしかわからないネタを取り入れている気がする。

 

 

 出口に用はないし、本当に異世界に通じているなら興味はあるが、間違いなく罠なので蓮弥とハジメは何も書かれていない階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

「おいバカやめろ。それはフラグだ」

 

 ハジメが注意するも時すでに遅し、フラグは丁寧に回収され、ガコンという音と共に階段の段差が消えて滑り台のようになる。

 

「おい、やっぱりか!?」

「!? ……フラグウサギッ!」

「昔の漫才のコントかよ!」

「わ、私のせいじゃないですよ〜」

 

 タールのような潤滑液が流れてきてそのまま滑りだしてしまう。このまま下に落ち続けてもろくなことにはならないだろう。

 

「ハジメ、俺のことはいいから二人のサポート頼む」

「わかった」

 

 ハジメは二人を抱えて蓮弥の後ろに回る。蓮弥は活動による巨大鉤爪を展開し、その爪を引っ掛けて強引に止まろうとする。

 

 

 壁をガリガリ削りながら勢いを殺していき、出口間近で止まることに成功する。

 

「ふぅ、なんとかなったか」

 

 蓮弥はため息をついた。下を見てみると棘山になっていた。このまま落ちていたら串刺しになっていただろう。

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「なあ……上から音がしないか?」

「ああ……嫌な予感が止まらねーな」

「……これはまずい」

「あわわわわ」

 

 蓮弥達は一斉に上を向く、そこには狭い通路いっぱいに勢いよく流れてくる激流だった。

 

「やばいッ、飛ぶぞッ、お前ら!」

 

 蓮弥が空中に身を投げ出す。続けて三人が空中に身を躍らせた直後、水が勢いよく出口から下へ吹き出していった。あのまま通路に残っていたら激流で押し潰されていた。

 

 

 とはいえピンチは変わりない。ハジメはユエのサポートを受けて、左腕の義手に仕込んであったアンカーを天井に突き刺し反対側の横穴まで渡る。蓮弥はというと……

 

聖術(マギア)5章2節(5 : 2)……"舞空"

 

 流石ユナである。言わずとも対応してくれた。

 蓮弥の体が浮き上がり、ゆっくりとハジメ達のいる反対側の横穴に渡ることができた。

 

「い……生きてる……助かりました……」

「さ、流石にちょっと焦ったぜ」

「……ちょっと一息いれるか」

 

 シアとハジメが呟く。ユエはなにも言わないがこくこくと頷いていた。

 蓮弥が休憩を提案し、目の前を見るとどこかで見たような石版が立ててあった。

 

 “焦ってやんの〜〜ダッサ〜〜〜〜イ! このくらいで疲れるようじゃ先が思いやられるわね。ププー! ”

 

 イラッ……

 

 ハジメ達の間に不穏な空気が流れる。蓮弥も石版の文字を見なかったことにし、深呼吸する。

 

 

 この大迷宮。イライラしたら完全に製作者の思うツボである。

 出来るだけ気分を落ち着かせて蓮弥達は更に慎重に先へ進んだ。

 

 

 この後もトラップと煽り文句の連続だった。

 天井ごと潰されそうになったり、典型的な岩が転がるトラップに遭遇したりもした。

 

 

 蓮弥達とて抵抗したのだ。破壊可能なトラップは正面から粉砕したり、超遠回りだが全員行ける道と近道だが一人置いていかなければならない道を選択する際、遠回りの道を選び、その壁をシアのドリュッケンドリルモードで削岩して近道に無理やり入ったりしたのだ。

 

 

 だけど敵は更に策士だった。

 破壊したトラップの後に、明らかにやばい粘性の液体みたいなものが付着するようになったり、近道は結局近道じゃなかったり。蓮弥達のストレスゲージがどんどん溜まっていくばかりだった。

 

 

 多数決を迫られるエリアで一人だけ〇×判定が逆になっていたときなんかイライラも相まってあやうくパーティが壊滅しかけた。

 

 

 そしてついに中々仰々しい通路が現れた。奥にはいかにも立派な扉が開いていた。一行はついにゴールかと気分が軽くなる。思わず皆顔を見合わせ頷き合い、同時に駆け出した。

 

 

 扉の奥は光で溢れている。

 

 皆足取りが軽い。

 

 やっと報われる。

 

 そう思った一行に待っていたものは…………ライセン大迷宮の入口だった。

 

「「「「……」」」」

 

 蓮弥達は目を疑った。何度も目をこすり確かめたが、その光景は大迷宮に入ったばかりのものにあまりにもそっくりだった。

 

 

 ダメ押しに入った時にはなかったこんな石版が立っていた。

 

 

 "は〜い、残念でした〜〜。ここはお察しの通りスタート地点で〜す。苦労して苦労してたどり着いたところがスタート地点だったわけだけど、ねぇねぇ今どんな気持ちー? ちなみに引き返しても無駄で〜す。この迷宮は一定時間ごとにランダムに仕組みが変わっちゃうのだ〜〜。あ、あとマーキングの類も消しちゃうので無駄な努力ご苦労様ってことで。じゃあ〜引き続きミレディたんのドキワク大迷宮をお楽しみ下さ〜〜い。m9(^Д^)プギャー"

 

 

 ブチブチブチブチ

 

 一行の間になってはいけない音が広がる。

 

「……くくく」

「フヒヒ、フヒヒヒヒ」

「………………」

 

 ハジメが俯きながら静かに笑う。シアなんかは不気味な声をあげながらドリュッケンを軋むほど強く握りしめる。ユエはいつもより沈黙が重い。

 

 

 ブチギレる皆を見て一人冷静になった蓮弥も手を顔につき天を仰いだ。

 

 

 ダメだ、攻略できる気がしない。

 

 

 皆が諦めかけたその時、蓮弥達一行最後の一人が動いた。

 

「……ユナ?」

 

 自身を形成し、目を閉じて例の石版に手をつくユナ。

 蓮弥達は突然のユナの行動に各自奇行をやめ、注目する。

 

 

 そしてユナの中で何か終わったのか手を離しそっと目を開ける。

 

「……解析完了。大迷宮のシステム、把握しました」

 

 その一言と共に、蓮弥達の反撃が始まる。




魔法で比較すると、技のユエに対して力のユナな感じ。
存在で比較すると、ユエはチートでユナは仕様外のバグです。

次回は製作者が想定してないバグキャラ無双の予定

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