ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ほぼ原作と同じなのでサクサクいきます。


商業都市フューレン

 ユエが冒険者達と商隊の人達を驚愕させて以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 

 

 蓮弥達はゲートの順番を待っており、ハジメはユエとシアと共に屋根の上でイチャイチャしていて、蓮弥は馬車を降りて待っていた。

 

 

「やはり彼女を売る気はありませんかな」

「くどいな。いくら積まれても渡さねぇよ」

 

 

 見ると商隊のリーダーユンケルさんがハジメ相手に交渉していた。どうやらシアを諦めきれないらしい。

 

「それなら貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。特にお二方が持つ“宝物庫”は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな。二つあることですし、どちらか一方で構いませんので」

 

 今度は蓮弥に対しても言ってくる。やはり商人なら宝物庫は垂涎ものの代物らしい。シアと違って二つあることから手に入れられる可能性が高いと思ったのか、旅の途中頻繁に交渉にきていた。

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はない。諦めな」

 

 ハジメがきっぱり断る。そのことに焦れたのか彼は少し踏み越えてしまう。

 

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょうなぁ……例えば、彼女達の身にッ!?」

「それは、宣戦布告と受け取っていいのか?」

 

 いつのまにか移動したハジメが殺気まじりで警告していた。銃口を突きつけ引き金に指をかけている。ハジメがあと数グラム指に力を込めるだけで目の前の商人の人生が終わる。

 

「まあまあ落ち着けよ」

 

 蓮弥がユンケルの肩を組むように隣に佇んでいた。こちらは殺気はないがユンケルの肩を掴む手が少し食い込んでいる。

 

「ひっ!」

「あんたは悪い人じゃないし、多分優秀な商人なんだろうな。なら商売する上で一番大事なことは何かわかっているだろう。……引き際をわきまえることだよ。どんな珍しいものを手に入れても死んだら意味がないしな。……あんた気づいてるか? 今少しだけ……死線(デッドライン)を踏み越えたぞ。……あんたも死ぬより辛い目にはあいたくないだろ?」

 

 

 殺気は無い。だが感情を感じさせない声と態度が逆に不気味に映ったのだろう。ユンケルは静かに震えていた。まるで剥き出しの魂を鷲掴みにされたかのように。

 

「優秀な商人のあんたなら、引き際をわきまえて、二度とこの話題を出さないと信じるよ。もちろん仲間内に話を広めるのもおすすめしない。取引先が謎の失踪を遂げたら……困るよな?」

 

 

 コクコクと頷くユンケル。なら話は終わりだとハジメにも銃を下げさせる蓮弥。

 

「……私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……この話は二度としないと約束しましょう」

 

 その言葉にハジメはちっと舌打ちした後、しぶしぶ銃を下ろした。わかってくれればいいのである。蓮弥とてむやみやたらに殺すつもりはないのだから。

 

 

 ようやく順番が回ってきたようで入門の許可が下りた。ユンケルは手続きがあるようでここで別れることになった。これにて依頼完了だった。

 

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

「……ホント、商魂逞しいな」

 

 どうやらあれだけ脅されても商魂は失われなかったようだ。なかなかの胆力である。

 

 

 6日という時間をかけてようやく到着したフューレン。

 早速入口でユエとシアとユナに視線が集まる。どうやらここでも一波乱ありそうだと蓮弥はため息を吐いた。

 

 

 中立商業都市フューレン

 

 高さ二十メートル、長さ五十キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

 

 そんな町で蓮弥達は冒険者ギルドを訪れていた。何をするにも情報が必要なので、ガイドマップを貰おうと訪れたのだ。

 

 

 そこで蓮弥達はリシーと言う案内人に責任の所在がはっきりしている宿を要求していた。この町でもし暴動に巻き込まれた際、責任を押し付けられるのはめんどうだからだ。

 

 

 そんな時、案内人と交渉しているといきなり面倒が歩いてやってきた。体重百キロは超えてそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアとユナを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 

 蓮弥は舌打ちしたくなった。記憶がないユナに色々なものを見せてやりたいという思いで戦闘以外では極力ユナを形成することにしている蓮弥だったが、これなら宿に着くまでは聖遺物に戻したほうがよかったかもしれない。もっともユエやシアを隠せない以上、結局この豚には絡まれただろうが。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪と銀髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 どうやら一番厳つい見た目をしているハジメをリーダーだと思ったらしい豚がぶひぶひ鳴いていた。

 そして当然イラついたハジメから威圧が放たれ、目の前の豚は粗相をしでかして床にへたり込んだ。周りの人間も威圧を受けたのかぎょっとハジメのほうを凝視している。

 その様子を見て蓮弥は席を立ち上がり移動しようとし、ハジメも同感だったようでユエとシアに声をかけ、場所を変えようとするが、大衆の前で恥をかかされた豚は護衛らしき男を金切り声をあげて呼び出した。

 

「レガニド、あのガキどもを殺せ。私を殺そうとした愚か者だ。報酬は弾む。ただし女は傷つけるな。あれは私のものだ」

 

「殺しはまずいんで半殺しにしときますぜ」

 

 そのセリフを聞き、ニヤリとこちらに向き直る。どうやらすでに報酬を勘定しているらしい。

 

「おう、坊主ども。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 周りの声から察するに黒ランクの相当優秀な冒険者らしい。だけどこちらの危険度がわからないあたりは一流には遠そうだ。

 

 

 ハジメではうっかり殺してしまうかもしれないので蓮弥が適当にあしらおうかと思っていたらユエが待ったをかけた。

 

「まって、ハジメ、蓮弥。あいつの相手は私達三人がする」

「ユエ、それは私もですか?」

「そうですよ。ユエさんなら一人で十分だと思いますけど」

 

 ユナとシアの疑問にユエが答えるまえにレガニドが爆笑する。

 

「おいおい嬢ちゃん達が相手するだってなんの冗談だ」

 

 どうやら相手は相当油断しているようだ。完全に舐めきっていた。

 

「ここで私達が戦えることを証明したら今後行動しやすくなる」

「なるほどですぅ、私達が高ランクの冒険者をボコボコにしたら……」

「今後私達を狙う人がいなくなるということですね」

 

 ユエの答えに対して、シアとユナは納得する。どうやら三人がやる気になっているようなので蓮弥とハジメは完全に高みの見物モードだ。

 

「そういうことで、今からあなたを半殺しにするので報酬は諦めるですぅ」

 

「ハハハ、冗談はそこまでにしておきな嬢ちゃん達。もっとも夜の相手ならしてやッ!?」

 

 突然頬をかすめた衝撃にレガニドが警戒する。どうやら少し気合を入れたらしい。

 

「腰の長剣抜かなくていいんですか? 下手すると死んじゃいますよ」

「ハッ、兎人族ごときが大きくでたなッ、ぼっちゃんッ、多少の傷は勘弁してくださいよ」

 

 亜人最弱の愛玩奴隷に侮辱されたと怒りをあらわにするレガニド。通常魔力を持たない兎人族より先ほど攻撃を行ったであろうユエ、もしくはユナを警戒しているようでシアには意識を払っていない。これは大怪我するパターンである。暴走トラック相手によそ見をするようなものだろう。

 

 

 シアはドリュッケンを腰だめに構え一気に踏み込み、次の瞬間にはレガニドの眼前に出現した。

 

「ッ!?」

「やぁッ」

 

 シアの出現に咄嗟に構えたはいいが、完全に遅かった。レガニドは衝撃を殺しきれず壁まで吹き飛ばされる。蓮弥は内心相手に十字を切った。

 

 

 レガニドはなんとか立ち上がったが、腕が片方ひしゃげていた。そこにユエの追撃が襲う。

 

舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ “風花”

 

 空気の砲弾でサンドバッグになったレガニドは空中でボコられた挙句、床に叩きつけられた。もうぐちゃぐちゃである。

 

 

 レガニドは訳がわからないような顔をしていた。実際客観的に見たならともかく、主観的にはいつのまにか空中でボコボコにされたと思ったら、これまたいつのまにか地面に寝ていたのだから。

 

 

 だが、今度はわかりやすい絶望が空中に浮かんでいた。

 

聖術(マギア)1章1節(1 : 1)……"聖炎"

 

 それは炎球だった。直径五メートル以上ある単純な魔力の塊。ユエが先ほど使ったような魔力制御が行き渡った繊細で芸術的な構造の魔法ではないが、単純故に誰にでもその脅威がわかる。

 

 

 その炎球に襲われる末路を想像したのか、シアとユエの攻撃で限界だったのかレガニドが気絶した。それを確認した後、ユナが炎球を消す。もともと脅し用であり直撃させるつもりはなかった。

 

 

 その後豚がぶひぶひハジメに言っていたが、煩わしくなったハジメが蹴り飛ばした。

 

 

 そのあとギルド職員に事情聴取を取りたいと言ってきた。めんどくさい事態になってきたとため息を蓮弥は吐くのだった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 その後、ギルド職員に連れられ支部長室へと案内された。どうやら途中で出したキャサリンから貰った手紙が効いたらしい。本当に彼女は何者なのだろうか。

 

 

 蓮弥達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメが返事をしてから一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどの蓮弥達をここまで案内したドットという職員だった。

 

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、蓮弥君、ユエ君、シア君、ユナ君……でいいかな?」

 

 

 そこから支部長イルワとの話が始まる。そしてキャサリンの正体が明らかになる。どうやら長年本部のギルドマスターの秘書をやっており、どうやら彼は彼女の教え子らしい。

 

 

 想像以上に大物だったキャサリンのお陰で身分証明が完了し、このまま事なきを得るかと思ったが、そう簡単にはいかなかった。イルワより、今回の件を不問にする代わりに一つ依頼を受けてほしいと言ってきたのだ。そう言われると断れない蓮弥達はしぶしぶ依頼を受けることになった。

 

 

 依頼の内容は人探し、なんでも北の山脈で魔物の調査依頼を受けていた冒険者パーティが行方不明になったらしく、その中に飛び入りで参加していた伯爵の三男を探してほしいということだった。その冒険者パーティはかなりの手練れらしく、誰も帰ってこない以上並みの冒険者を派遣しても同じことを繰り返すだけ。現在この依頼を受けられる人材がいないと困っていたところ、蓮弥達が現れたとのことだ。

 

 

 最初は寄り道をしている余裕がないからと断ろうとした蓮弥達だったが、今後のフューレンという大都市のギルド支部長であるイルワが蓮弥達の後ろ盾になるという報酬を差し出されたことで話が変わってくる。金もほどほどでいいし、この世界で成り上がる気がないハジメと蓮弥にとってギルドランクもさほど意味がない。だが人脈というものは意外とバカにできないものであり、同時になかなか得られるものではない。

 

 

 ハジメと蓮弥はそれプラス、教会と揉めた時にイルワの権限で出来る限りの便宜を図るという条件とユエ、シア、ユナのステータスプレートを用意するという条件でその依頼を受けることになったのだった。

 

 

 それに一ギルドの長が蓮弥達に頭を下げてまで必死に頼んでいたのもあった。息子が行方不明になった伯爵とイルワは友人であり、今回の依頼を友人の息子に勧めたのは自分だという。冒険者という職業を諦めさせるために行かせたのだが、こんなことになって責任を感じているらしい。蓮弥達の秘密も守ってくれるということなので、ハジメほど非情になっていない蓮弥はハジメが受けなくても自分が受ければいいと思うぐらいには絆されていた。

 

 

 こうして一行は寄り道に北の山脈に向かうことが決定した。

 


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