ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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やっと先生との再会。あとここで表紙のハジメ関連の注意書きが意味を持ちだします。


思わぬ再会

 蓮弥達は広大な平原の真ん中を、北に向かって爆走していた。特に整備されている道路というわけではないが、ハジメ先生謹製のバイクは荒れ果てた土地だろうと錬成機構によりスムーズに走ることができる。コンクリートで整備されていない、ほぼ自然なままの大地を後ろにユナを乗せて蓮弥はバイクでの旅を満喫していた。前にも思ったがこのバイクは現実に持ち帰りたいものである。

 

 

 ノンストップでこの世界基準ではありえない速度で移動した結果、蓮弥達はウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろう。

 

 

 その町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。遭難救助は時間との戦いである。時間が経てば経つほど生存率が下がっていく。イルワに持っていく報告が吉報、凶報、どちらの方が恩を売れるのか考えるまでもない。それを理解しているハジメも珍しくやる気になっていた。

 

 

「……なるほど」

 

 どうやら隣でハジメがユエに急ぐ理由を説明したようでユエはハジメが珍しくやる気になっていることに納得したようである。もっともやる気になっている理由はハジメ、蓮弥共にそれだけではないのだが。

 

「何か他にも楽しみがあるのではないですか?」

「やっぱりわかるか」

 

 ユナが蓮弥に尋ねる。ユナにはハジメと蓮弥がいつもよりテンションが少し高いことに気づいていた。

 

「これからいくところは水源が豊かなお陰でこの世界随一の稲作地帯らしいからな。米が食えるということでハジメはテンション上げているんだろうさ。もちろん俺もな」

 

「米?」

 

 多分パンが主食の国出身のユナにはどうやらあまり馴染みがないらしい。

 

「俺たち日本人の主食だよ。ユナにとってはパンみたいなものかな。こちらに来てから食べてないからな。楽しみにしてるんだよ」

 

「なるほど、それほど神聖な食べ物なのですね。……興味深いです」

 

 思った以上に捉えられてしまった。ユナからしたらそうなるよなと蓮弥は納得する。まああながち誤解でもないだろうしそのままにしておく。

 

 

 こうして蓮弥達は湖畔の町ウルに向かっていったのだった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 しばらくして到着した蓮弥達は、宿を取り早速例の米料理を食べに行くことにした。捜索は明日からの予定だし、腹ごしらえは大事だという結論が全会一致で可決された。

 

 

 住民に話を聞くと米料理が食べたいなら水妖精の宿が一番であるという情報と、どうやらカレーや丼、チャーハンっぽい料理も出していることを知り、日本人二人の期待がどんどん膨れ上がっていく。

 

 

 そしてその高いテンションのまま水妖精の宿のレストランに到着する。中に入ると奥の席に案内された。その際王都よりある集団が来ておりVIPルームにいるため揉めないように注意してほしいと店員に言われた。どうやらこの店の常連となっているらしく、詳細はわからないがどうやら相当大物がきているらしい。

 

 

 そんなこと関係ないとばかりに蓮弥達は奥に入っていく。

 

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? ハジメさん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら蓮弥の部屋に行ったらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。ハジメさんが冷たいこと言いますぅ」

「……ハジメ……メッ!」

「へいへい」

 

 どうやら相変わらず桃色空間を形成しており、シアが居辛い環境になっているらしい。でもそのうち創造まで進化してシアも取り込まれると思うけどな、と蓮弥はこれからおきるだろうことにむしろ自分の居場所がなくなるのではと内心懸念していた。

 

「それに蓮弥さんとユナさんの邪魔するわけにもいきませんしぃ」

「……そっちはそっちで激しい?」

 

 シアとユエがユナに対して聞いている。

 

「蓮弥は優しくしてくれます」

「言っとくけど、別に変な意味じゃないからな」

 

 なんどか危ない場面があったような気もするが、一応蓮弥とユナの間にまだそういうことは起きていない。

 

「……時間の問題」

「ですですぅ」

 

 やっぱり異世界であろうと女子は自分が絡まない他人の恋話には目がないらしい。時々ユナに何かいらん知恵を入れているエロ吸血姫とか要注意だ。

 

 

 そうやって席についた一行は何を頼もうかメニューを見ている際にそれは起こった。

 

 シャァァァ!! 

 

 隣のカーテンが引かれた。存外に大きく響いたその音に、思わず蓮弥達はギョッとして思わず止まってしまった。

 

 そしてこの世界で久しく呼ばれていない呼ばれ方で呼ばれる。

 

「南雲君! 藤澤君!」

 

 呼ばれた苗字に学生の頃の癖で反射的に返事しそうになる自分を抑え、呼ばれた声の方向を見ると。

 

 信じられないものを見るような目でこちらを見る畑山愛子先生の姿があった。

 

「あぁ? …………先生?」

「……………………なるほど」

 

 ハジメは呆然と、蓮弥は納得したように呟く。どうやら王都からきているVIPとは愛子達一行だったらしい。後ろを見ると同じく信じられないようなものを見るような目を向ける見覚えのあるクラスメイト達がそこにいた。

 

 

 突然の再会だったが、いつかこの日がくるだろうなと思っていた蓮弥は冷静だった。たとえ側にいる騎士が不審人物を見るような目で睨みつけていても。とっさに食事中なので外していた認識阻害の軍帽を深く被りそうになろうとも冷静といったら冷静なのだ。

 

 

 だが、ハジメはこの事態をなかったことにするつもりらしい。

 

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

 席を立ち上がろうとするハジメ。愛子はあっけに取られた顔をしている。流石に愛子が哀れだと思った蓮弥はハジメを止める。

 

「いやハジメ。俺たちもここに滞在する以上、逃げられないと思うぞ…………諦めて覚悟を決めろ」

「…………チッ」

 

 蓮弥の言葉に冷静になったらしい。凄くめんどくさそうな顔を隠しもせず席に着席する。その間一行の女子達はハジメ達と愛子を交互に見て何やら考えているようだった。

 

「あー、なんというか……久しぶりだな先生。元気そうで何よりだ」

「藤澤君……本当に? 本当に生きて……」

 

 愛子先生が、感動して涙目になっている。どうやら感動しすぎて言葉が出てこないようだ。こういうことは逃げると逆に騒ぎが大きくなるものだ。もしハジメが逃げようとしていたら愛子は必死に問い詰めていただろう。堂々としていた方がイニシアチブを取れることもある。

 

 

 だが流石にこれは予想できなかった。

 

「本当に。本当に良かった」

 

 そういって蓮弥とハジメに抱きついてきたのだ。その愛子の行動に固まる蓮弥とハジメ。

 

 

 愛子のすすり泣く声がレストランに響き渡る。幾人かいた客達も噂の“豊穣の女神”が男二人に寄りかかって泣いている姿に、「すわっ、女神に男が!?」「修羅場きたー」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 

 蓮弥とハジメは身動き一つ取れなかった。流石に泣きだす愛子の姿にどうしていいのか内心パニックになっていた。心なしか後ろの目が痛いような気がする。

 

 

 しばらくそうしていたがとうとう我慢できなくなったのかユエが行動する。

 

「離れて……ハジメが困っている」

 

 そう見知らぬ美少女に言われて自分の姿を顧みたのか、すみませんと謝りながらハジメと蓮弥から離れる。生徒とはいえ公衆の面前で男に、それも二人に抱きついて泣きだす自分の姿を想像して恥ずかしくなったのか顔を赤くしている。その姿に騎士達が僅かに殺気立つ。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と藤澤君ですよね?」

 

 その言葉にようやく覚悟を決めたハジメが答えた。

 

「ああ。久しぶりだな、先生」

「やっぱり、やっぱりそうなんですね……生きていたんですね……」

 

 再び泣きそうになる愛子に蓮弥がフォローを入れる。

 

「まあ、色々あったけど生きてるよ。心配かけてすまなかったな先生」

 

 その言葉にまた何もいえなくなった愛子。

 

 そして完全に調子を取り戻したハジメが先生達を無視してメニューに目を通し、店員を呼びマイペースに注文していく。まあ、蓮弥もよそ見して頼んでいたが。

 

 

 まるで昨日別れて今日出会ったという雰囲気を醸し出し始めたハジメ達にようやく落ち着いた愛子がハジメに追及を開始する。

 

「南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

 愛子の言い分は、その場の全員の気持ちを代弁していたので、漸くハジメが四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の教え子であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も、皆一様に「うんうん」と頷き、ハジメの回答を待った。ちなみに蓮弥はさりげなく視線から外れていた。

 

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

 

 ハジメが答えようとするが、ユエとシアが告白する。

 

「……ユエ」

「シアです」

「ハジメの女」

「ハジメさんの女ですぅ!」

「お、女?」

 

 愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

 そしてまだ返事をしていないユナの方を向く愛子。蓮弥はユナの目を見る。大丈夫、自分とユナは一心同体。きっと自分の視線の意図を読み取って無難な言葉でまとめてくれる筈だ。蓮弥は期待した。

 

 だが期待はあっさり裏切られる。

 

「私は蓮弥の聖遺物(道具)です」

「ど、道具!?」

 

 さらに燃料を追加したユナを愛子はぎょっとした目で見ていた。後ろの生徒達も道具という響きにいかがわしいものを感じたのか衝撃を受けていた。特に若干一名が過剰にショックを受けていたように見える。

 

 

 蓮弥は天を仰ぎたくなった。

 

(ひょっとしてユナ、怒ってるのか? )

 

 蓮弥はユナが普段しないような言動をとったことからそう判断し、そっとユナの目を覗き見ると、ユナはそっと蓮弥から視線を逸らした。

 

(まじか……)

 

 蓮弥が困っている横で、ハジメもユエとシアが燃料をぶち込み続けるため収拾がつかないようだ。だんだん愛子の気配が変わっていく。

 

「南雲君……藤澤君」

「「はい」」

 

 思わず返事してしまった蓮弥とハジメ。なにか得体の知れない気配を感じる。そして愛子が爆発した。

 

「南雲君ッ、ファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんてッ、藤澤君に至っては道具って……いったい二人ともどんな悪い遊びを……もしそうなら……許しません。ええ、先生は絶対許しませんよ。お説教です。そこに直りなさい、南雲君、藤澤君」

 

 どうやらまともに食事にありつけるのはまだ先らしい。蓮弥とハジメは揃ってため息を吐いた。

 

 

 


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