ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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北の山脈にて出会うもの

 夜明け。

 

 月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、蓮弥一行はすっかり旅支度を終えて、“水妖精の宿”の直ぐ外にいた。

 

 

 ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。地球での72時間の壁を考えるなら絶望的な時間経過だが万が一ということも考えられる。急ぐに越したことはない。

 

 

 表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。すると蓮弥達はその北門の傍に複数の人の気配を感じた。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

 

 朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

 ハジメが少し凄んで見せるが、ある種の使命感に燃えている熱血教師モードの愛子には通じていないようだった。毅然とした態度でハジメと正面から向き合う。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も愛子の傍に寄ってくる。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

 確かにその問題があったかと蓮弥は思っていた。当然蓮弥達はハジメ謹製のバイクで向かう予定だが、おそらく愛子達は馬による移動だろう。

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? 南雲が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

 ハジメの物言いにカチンと来たのか愛ちゃん大好き娘、親衛隊の実質的リーダー園部優花が食ってかかる。

 

 そこでハジメは宝物庫から魔力駆動二輪を取り出し、突き放すようにして言う。

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

 案の定、ハジメがバイクを出すと皆ギョッとした顔を向ける。この世界でバイクという近代のマシンを見るとは思わなかったのだろう。蓮弥もバイクを取り出し準備にかかる。

 

 

 そこへ、クラスの中でもバイク好きの相川が若干興奮したようにハジメに尋ねた。

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

「まぁな。それじゃあ俺らは……「よくぞ聞いてくれた」あん?」

 

 ハジメの言葉を遮って蓮弥が語り始める。

 

「まずは排気量だがこれは魔力量によって自由自在。どの速度からでも出される適切な加速が乗り手に爽快感を与えてくれる。ガソリンではなく魔力駆動によって動くから環境にも優しい。ハンドル操作は手動でもできるが、魔力による思念操作も可能になっているから居眠りでもしない限り取り回しに苦労することはまずない。タイヤは奈落で出会った魔物の弾力性に富んだ素材をふんだんに使い、各種サスペンション機構は鉱石とゴム系素材をうまく合成して防振機能を持たせているからシートに使われている素材も相まってどんな環境でも振動はほぼ伝わらない。そもそも錬成機構によってどんな悪路も整地されるから問題にならないわけだが……」

 

 蓮弥の語りは止まらない。流石のハジメもあっけにとられてしまい呆然と蓮弥を見るしかない。

 

「……以上、これが練成師南雲ハジメ先生の練成魔法による創作物の一つだ」

 

 蓮弥の長い語りが終わった後、皆一斉にハジメを見る。神の使徒として呼ばれた生徒達は装備品を揃えるために国お抱えの練成師と交流することが多々ある。だからこそ彼らは正直侮っていた。作れるといってもせいぜい性能のいい剣とかの武器や、鍋などの生活雑貨品くらいだと思っていたところに、何百個の部品を組み合わせて作るような高度な技術を使った工芸品が出てくるとは思わなかったのである。

 

 

 バイク好きの相川はもちろん、現代日本に生きるものとしてバイクがそう簡単に作れるものではないことくらいは興味がなくてもわかる。もしハジメが奈落に落ちなかったら、日本には当たり前にあるがこの世界にはないあれやこれを作ってくれたかもしれない。銃の存在もあり勇者パーティがあの日失ったものは大きいと認めざるを得なかった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そんなハジメに対する視線が驚きと賞賛の目に変わったことを悟ったハジメはむず痒くなりそうな思いを隠すために蓮弥を睨んだ。この世界に来てハジメは変わってしまったし多くのものを削ぎ落とした。しかし今までのハジメが全てなくなったわけではない。

 

 

 地球にいたころ、ゲーム会社を運営している父親によってゲームクリエイターとしての技術はもちろん、設計図面の引き方や電子工作など、ものづくりの基本的な技術は叩き込まれている。

 

 

 練成師の練成魔法とはつまるところ物質を自由に操れる()()の魔法であり、物を作る際には術者のセンスが問われることになる。

 

 

 もちろんハジメはまだ高校生。魔力という応用性が高すぎるエネルギー、そしてオルクス大迷宮で手に入れた生成魔法によるゴリ押しもあっただろう。だが曲がりなりにも自分がこだわって作った逸品を賞賛されるのは悪い気分ではなかった。

 

 

 アドバイスを貰ったとはいえ、自分が作ったわけでもないのにドヤ顔する蓮弥に少しイラッとするが、蓮弥がなぜこんなことを言い出したのかを考えれば何もいえなくなる。

 

(気ぃ使わせちまったんだろうな)

 

 

 思えば奈落に落ちる前も蓮弥がやたらとハジメを持ち上げていたことを思い出す。

 

 

 宣言した通り、愛子達が何をしようと興味がないということに嘘はない。だが逆に興味がないのなら必要以上に煽るような言い方をする必要もない。通りすがりの他人にケンカ腰で話す奴はいない。奈落に落ちる前の無力だった頃の自分を知る者達。近くに自分を慕ってくれているユエやシアがいたこともあって、おそらく無意識に気を張っていたのだろう。ユエやシアに弱い自分を見られたくないから。

 

 

 そこまで考えてハジメは急に気が抜けた。今の自分の態度は教師である愛子の前ということもあり、まんま反抗期のスレたガキそのものであることを客観視したハジメはなんだかバカバカしくなったのである。

 

 

 同じ方向に行くというなら、ついでに連れていってやってもいいだろう。そのかわり自分の命は自分で守らせる。そこまで責任は持たない。

 

 

 相棒の吸血姫はいままで彼らに対し冷たい態度を取っていたが、現在彼らがハジメを賞賛していることもあって機嫌がよくなっている。なら文句もでないだろう。

 

 

 ハジメは無言で二輪を宝物庫にしまい、代わりに魔力駆動四輪を取り出した。また驚愕する彼らに言い放つ。

 

「気が変わった。行きたいやつは乗れ。その代わり行った先で命の保証はしねぇからそのつもりでいろ」

 

 急に態度を変えたハジメに愛子は喜びの表情を浮かべた。昨日は蓮弥に事情説明を任せたハジメだったが、蓮弥は何を愛子に話したのかは聞いていない。だが余計なことを吹き込んだのはハジメにもわかった。なぜなら愛子の目が不良生徒の更生に燃える熱血教師の目をしていたからだ。

 

 

 蓮弥の行動には感謝しているが、あとで締める。ハジメは密かに決意した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 さて蓮弥が現状ハジメに締め上げられることもなく、一行は順調に進んでいた。ちなみに魔力駆動四輪の中は操縦するハジメはもちろん、レディファーストということで女子達が乗っていた。入りきらなかった男子は荷台の上である。もっともバイクに備わっている機能は当然四輪にも備わっているので乗り心地は悪くなさそうだ。蓮弥は定員オーバーということもあり普通にバイクでの移動だった。相川が運転させて欲しそうな目を蓮弥に向けていたが無視した。異世界での数少ない楽しみをそう簡単には渡さない。

 

 

 蓮弥が運転席を覗き込むと意外なことに運転席のハジメの隣にはユエではなく愛子が座っていた。聖遺物の使徒としての超強化された聴力をすませてみると、どうやら昨日蓮弥と話した内容を今度はハジメにもしているらしい。ハジメも少しだけ気が変わったのか、とりあえず邪険にすることなくオルクス大迷宮を落ちた後の話をしていた。

 

 

 頑張れ先生。

 蓮弥は内心エールを送る。彼女なら自分にできないことをやってくれると信じて。蓮弥は北の山脈目指してアクセルを回した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 北の山脈地帯

 

 標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。だが考えようによっては上手くやれば年中実りを得ることができるということであり、ウルの町が潤うわけだと蓮弥は思っていた。

 

 

 そんな麓に四輪を止めると、蓮弥は暫く見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。後ろのユナの方を見てもこの美しい光景に見入っているのがわかる。彼女にこの景色を見せてあげられただけでも来た甲斐があるというものだった。

 

 

 ハジメはミレディ・ライセンの宝物庫からパクった……もとい譲り受けた感応石を練成して作った無人偵察機を飛ばしていた。これに加え、ハジメの義眼に組み込んだ遠透石を組み合わせれば無人偵察機の視界を共有できるという探しものにはうってつけのアーティファクトだった。

 

 

 それを頼りに一行はハイペースで山道を進んだ。だが、人間をやめているハジメと蓮弥や、膨大な魔力によっていくらでもなんとかなる女子3人とは違い、愛子達常人にはこのペースは辛かった。

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

 

 死屍累々といった有様である。仕方なしにハジメが休憩を宣言する。どの道川沿いを調べるつもりだったからだ。

 

 

 川へと向かうハジメ、ユエ、シアを生徒達は恨めしそうに見つめる。川まで連れて行って欲しそうな目で見ているがハジメは気づいていない。そんな彼らにユナが近づく。

 

「皆さん、そこに集まってください。……聖術(マギア) 8章2節(8:2)……"効昇"

 

 ユナが使ったのは身体強化聖術である。蓮弥やハジメに使ってもあまり意味がないのと弱い生物にユナが本気でかけると破裂してしまう──魔物にて検証──という欠点があるものの、軽くかければ体力増幅などの効果がある。

 

「あれ? 体が少し軽くなったような……」

「体力を増幅しました。……もう少しなので皆さん頑張ってください」

 

 ユナが笑顔と共に言うと愛子達の顔が赤く染まる。特に男子3人の反応がすごい。

 

「まじかよ……」

「……天使か(結婚したい)」

「いや、女神だろ(結婚しよ)」

 

 とりあえず蓮弥は男子3人、特に後半の二人を藪の中に投げ捨てる。当然文句が返ってくる。

 

「何するんだよッ」

「ユナのそれは一時的だ。効果が切れると反動で動けなくなるぞ。そうなる前に早く移動しろ」

 

 蓮弥は急かすようにして愛子達を追い立てる。愛子達はここで動けなくなったら今度こそハジメに置いていかれると思ったのか急いで行動する。

 

「ありがとうございます。ユナさん」

 

 愛子が代表してユナにお礼を言う。それを大したことではないと笑顔で受け取るユナ。そのユナに対し、蓮弥は優しく頭を撫でてやるのだった。

 

 

 川に行った一行を追いかけるとどうやらユエが手がかりを見つけたらしい。どうやら盾や鞄が川上から流れてきたようだ。

 

 

 手掛かりを辿って行くとだんだん周りが荒れていく。まるで巨大生物が暴れまわったようだ。その様子に愛子達は表情を険しくしていく。最悪の想像をしているらしい。

 

「ユナ……」

 

 例によってユナに探ってもらうことにする。何か手掛かりがわかるかもしれない。

 

「……とても苦しんでいます。けど……」

「けど?」

 

 ユナがいい淀む。何かあったのだろうか。

 

「……いえ、今は置いておきます。……こちらに人が向かった記憶が残っています」

 

 そうしてユナの案内に沿って進んでいく。ハジメ達もユナの霊的感応能力にはライセン大迷宮で大変世話になったので誰一人疑っていない。

 

 

 そうして辿っていく内にひときわ立派な滝を見つける。

 

「あの奥です」

「おいおい、マジかよ。この気配は人間だ。まさか生き残ってるとは思わなかった」

 

 近づいたことによりハジメにも気配察知にてわかったのだろう。驚愕している。蓮弥の眼で視てもそれが人間の魂であることがわかる。

 

「ユエ、頼む」

「……ん」

 

 すぐにユエが魔法により滝を真っ二つに割る。またまた驚いた愛子達を置いて蓮弥は滝の奥に入る。視ると奥に人が倒れているのがわかる。どうやら二十歳くらいの青年らしい。相当衰弱しているようだったので蓮弥は自分の持つ神水を飲ませてやる。青がかった顔色が血色を取り戻していく。しばらくすると青年が意識を取り戻す。

 

「あれ? ここは……」

「悪いが質問させてほしい。あんたはウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「君たちは一体? どうしてここに……」

 

 どうやら混乱しているらしい。仕方ないとはいえ答えてもらわないと話が出て進まない。

 

「フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。もう一度聞くぞ、あんたはウィル・クデタか……」

 

 ようやく話が飲み込めたらしい。もうだめだと思っていたところに現れた助けに青年の眼に光が戻る。

 

「は、はい。私がウィル・クデタです。……まさか助けがくるとは思いませんでした。もうここで死ぬとばかり……」

 

 青年、ウィルを落ち着かせ話を聞く。話はこうだった。

 

 

 ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、魔物の群れに襲われたのだそうだ。犠牲を出しつつも逃げていた際に後ろの魔物の群れを超える脅威が現れたのだそうだ。

 

 

 それは漆黒の竜だったらしい。その黒竜のブレスにより川まで吹き飛ばされ、ウィルは運良く滝の中の洞窟に逃げ込むことに成功し、九死に一生を得たというわけだ。

 

 

 話していく内に感情が入り泣き出すウィル。自分よりもずっと優秀だった冒険者の先輩が死んだのに自分だけ生き残ったことを責めているようだった。

 

 

 周りの人間が何と言っていいかわからないといった悲痛な顔をしている中、後ろで控えていたハジメが前に出て、ウィルの胸倉を掴み無理やり立たせる。

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んでなにが悪いんだ? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

 

 おそらくハジメは彼の姿を自分と重ねているのだろう。そのことがわかった生徒達や愛子は罰が悪そうな顔をする。蓮弥の想像でしかないが、おそらく教会の上層部は死んだのが無能でよかったとか言っていたのだろうとか思っていた。

 

「蓮弥!? 何か近づいてきます」

「ああ、俺も感知した」

 

 滝壺の外に出るとそれは存在していた。

 

 漆黒の竜。まさにファンタジーの世界にしかいない幻想上の生き物。この世界にもいるらしいということは知識でしっていたが、実際に出会うとは思わなかった。

 

 

 こいつは一筋縄ではいかないと悟った蓮弥はユナを聖遺物に戻し武装を展開した。




基本ハジメのことは上げていく方針の蓮弥。
そしてユナは基本天使です。
さて、そろそろ話が動くかな。

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