ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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物語の転機です。


無茶の代償

「パパ~」

 

 とてとてとミュウが走ってハジメの元に駆け寄っていく。目の保養になることこの上ない。

 

「よしよしミュウ。さあ、これから買い物に行くぞ」

「は~い」

 

 ハジメが完全にまんざらでもない態度でミュウを相手にしている。その姿は完全に子煩悩の父親そのものだった。

 

 

 ミュウを連れていくということで改めて出発の準備を行うことになった。ミュウがいることで必要になるものが増えるし、今の内にミュウの前でやってはいけない行動とかを決めておこうということになったのだ。というのも……

 

「お前のことをいってるんだぞこの駄竜。今のうちにお前の変態を治しておかないとミュウに変態が移るからな」

「ハァハァ、すでにもうたまらんのじゃがご主人よ」

「……ハジメ。お前の態度もいけないと思うぞ。色々と」

 

 蓮弥はハジメにまずはその態度を改めろと言ってやりたい。というのも蓮弥からしたらいつの間にか同行することになっていたティオだが、恐ろしいことについ数時間前まで蓮弥のこともご主人様と言っていたのだ。どうやらティオに対して行った魂への直接攻撃を覚えていたらしい。ちらちらともう一度やってほしそうな顔をたびたび向けてきた。

 

 

 注目されている状態では例の軍帽も役に立たないので蓮弥は非常に困った。このままだとハジメともども変態の世話をさせられると思った蓮弥は逆の発想を行った。

 

 

 ハジメは素の態度がもうティオへのご褒美にしかなっていない。なら蓮弥は逆に紳士的な対応でできるだけティオに対して優しく接したのである。聞けば竜人族とは英知と武力を兼ね備えた一族らしいのでそれ相応の対応をしたのだ。

 

 

 それが功をなした。いつまで経っても望む対応をしてくれない。紳士的に接するのをやめろとも言えないティオはすっかり蓮弥への興味を失い、いまやご主人様はハジメ一人だ。ハジメは蓮弥を恨みがましい目で見ていたが無視した。普段の態度を改めないハジメが悪いのである。

 

「というか本気で態度を改めたほうがいいぞ。お前も両親の影響でがっつりオタクになったと聞いたからわかるだろうけど、あの年頃は親の影響を受けやすい。……いやだぞ。あの子が将来、敵とみなした相手を進んでスプラッタにするのを見るのは……」

「うっ、でもなぁ~」

 

 親の影響をがっつり受けたハジメが痛いところを突かれたという顔をする。

 

「今更昔に戻れとは言わないけど、せめてあの子の見てる前では自重したほうがいいぞ」

「わかったよ」

 

 ミュウのためなら自重できるらしい。これは予想以上にミュウが与える影響は大きいかもしれない。そしてそのミュウはというと……

 

「うっうっ、ミュウちゃんのお父様は亡くなっているんですか。かわいそうにぃぃ。わかります。お父様がいなくなったその気持ち」

 

 彼女の境遇を聞いたシアに抱きしめられていた。ミュウは少し苦しそうだ。

 

「そうか、シアの父上もなくなっておったのか」

「……いや、シアの父親は生きてる」

 

 ティオが声のトーンを落として言うがすぐにユエが否定する。だがその言葉が聞こえていたらしいシアが急に無表情になる。

 

「……いえ、死にました。あの優しかった父様はもう死んだも同然ですぅ。……誰かさんのせいで……」

 

 くるっとハジメの方を見るが、ハジメもくるっと顔を反らす。

 

 

 シアからしたらユエとの修行を終えて帰ってきたらヒャッハー共の統領になってたんだからその気持ちもわかる。

 

 

「あの時は本当に驚いたよな、ユナ……ユナ?」

 

 隣に座っているユナの方を見るがまだ眠そうにぼーとしている。あの日から疲れているとは言っていたが、あれからそこそこ時間が経っているのに改善されているようには見えない。

 

「本当に大丈夫なのか。聖遺物に戻ったほうがいいんじゃないか」

「…………大丈夫です」

 

 それだけ言うがどう見ても大丈夫ではない。

 

「やっぱりおかしいぞ。熱でもあるんじゃ……」

「蓮弥……私は……」

 

 

 

 何が言いたかったのか、蓮弥は聞くことができなかった。

 

 

 

 なぜならユナが……その一言を放った直後……蓮弥に向けて倒れこんできたからだ。

 

 

 

「ユナ!? おい、どうした? しっかりしろッ、ユナ!!」

 

 ミュウとじゃれていた他のメンバーもユナの異常に気付いて集まってくる。

 

 ユナを視ると時々存在がぶれているのか、気配が消えそうになったり急に増えたりめちゃくちゃになっていた。姿も半透明になっている時がある。

 

「ユナさん! どうしたんですか!?」

「ハジメ……神水……」

「おう……蓮弥ッ」

 

 ハジメがユエの言葉を受け、宝物庫から神水を出す。一行の命の危機を幾度も救ってきた万能薬。それを蓮弥に手渡す。

 

「ユナ、神水だ。飲めるか?」

 

 ユナは苦しそうにしているが、少しずつ神水を口に含み、飲んでいく。……だが

 

「……効いてないのか……」

 

 今まで神水を飲んだものは飲んで間もなく効果が表れた。だが、ユナは相変わらず苦しそうにしている。

 

 

 どうするどうする。蓮弥の頭の中でその言葉がループする。

 

「とりあえず、まずは休息じゃ。宿にいったん戻るぞ」

 

 この中ではユナを除けば年長のティオが普段の変態性を他所にやり、的確に行動を指示する。

 

 一行の旅に暗雲が立ち込めた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ユナを宿のベッドに寝かせる。だが、ベッドに寝かせても一向に回復しない。

 

「……」

 

 蓮弥は沈黙する。周りの空気も重くなる。このままではいけないと思いつつも神水が効かない以上、一行にはどうすることもできない。この町に神水以上の薬はないし、ユナを治せる医者がいるとも思えない。

 

「少しいいかの」

 

 雰囲気が重くなる中、言葉を切ったのはティオだった。

 

「妾は一行に加わったばかりじゃし、最初の出会いが出会いじゃったからのぉ、まだ深く立ち入るのは早いと思っておったのじゃが……あえて聞こう……ユナは何者じゃ?」

 

 その言葉に周りに言葉はない。

 

「……私たちはアーティファクトの精霊だと、蓮弥さんから聞いています」

 

 代表してシアが答える。それに対してティオが言う。

 

「アーティファクトの精霊のぉ。……妾達、竜人族は長きに渡って世界の中立者として世界を見守ってきた。もちろん世界の全てを知っておるなどと傲慢なことは言わんが、アーティファクトの精霊などというものは妾でも聞いたことがない」

 

 それは500年以上生きる賢者の実感の籠った言葉だった。説得力が違う。

 

 今度は一斉に蓮弥の方を見る。ユナがこうなっている以上、答えられるのは相棒である蓮弥だけだ。

 

「……別に嘘を言ったわけじゃない。単にそれ以外ふさわしい言葉がなくてな。……わかった。正直に話すよ。俺が使う力のことも含めて」

 

 そして蓮弥は話を始めた。もちろん転生云々はさらに話をややこしくしてしまうからそれを除いて。

 

「……俺達の住んでいた地球という世界には、表向き魔法というものはないことになっている。俺もハジメも当然そんなものがあるとは信じていなかったし、ここにくるまではクラスメイトだって信じているやつはいなかっただろう。……だけど俺達の世界にもそういうものは存在していた。それが聖遺物……一般的には聖人に関する遺物のことを指すが、この場合は人々から膨大な想念を浴び意志と力を得た器物を指す」

 

「想念?」

 

 ユエが疑問を持つ。

 

「信仰心や怨念、なんでもいいんだ。特に強い念を長い時間かけて集めた器物はやがて強い呪いを帯びるようになる。……そうだな。例えば戦争中に何百人も何千人も人を殺した剣があったとする。その剣は殺した人間の数だけ魂、想念を蓄えることになる。それが一定ラインを超えると意思を持ち超常の力を発揮するようになる。それこそ並みのアーティファクトなんか比較にならない力をな。そんな聖遺物を使うための複合魔術「永劫破壊(エイヴィヒカイト)」。それが俺の力の源泉だ」

 

 黙っては話を聞いている一行。

 そこでハジメが沈黙を破る。

 

「……その力をどこで手に入れたかはあえて聞かねぇ。だけどそこからユナの正体にどう繋がる?」

「言っただろ。魂を集めるってな。聖遺物は徳の高い逸品から呪いの武器まで様々なものがあるけど一つ共通している特徴がある。……それは魂を喰らうということだ。ユナは俺が使う聖遺物に一番初めに宿った魂だ」

 

「まて、魂じゃと? まさか……」

 

 蓮弥の説明にティオが反応する。少しだけ蓮弥に非難を向けているようだ。

 

「そうだ。聖遺物は魂を喰らえば喰らうほど強くなる。もちろん術者である俺も喰らった数だけ強くなる。俺の耐久力の源である霊的装甲もそうだな。百人喰らえば百人分の生命力と防御力が手に入る……外道の術であることはわかってる。だけどこの世界で生きていくには仕方ないと割り切ってる。……非難は避けられないとは思うけどな」

「別に構わねぇよそんなこと。俺だってさんざん自分のために人を殺してきてんだ。生きるために喰らう。それが基本だろ。俺も奈落で魔物相手にやってきたことだ、今更人間単位でそれをやってたってどうとも思わねぇよ」

 

 ハジメは奈落の底で魔物を喰らい、その血肉を糧とし、スキルを取り込んでここまできた。もしそれしか手段がないのなら、あるいは奈落に落ちた直後のハジメなら、人間も喰らっていたかもしれない。

 

「すまんのぉ、別にお主を非難しようとは思っておらんかったのじゃ。その永劫破壊(エイヴィヒカイト)とやらを作ったものを考えておった。そうか……聖遺物とな。……けどそれであそこまでの力を出せるものなのか? この世界にも想念とやらが宿ったものはいくらでもあろうが、ユナのステータスはそれでは説明がつかんじゃろ」

 

 蓮弥はこの世界に来て出会った宝物庫の十字架を思い出す。ひょっとしたらこの世界にも扱う術がないだけで聖遺物と呼べるだけの代物は他にもあるのかもしれない。

 

「ユナはちょっと特別でな。聖遺物が想念を宿した器物とは言ったが、ユナの場合は俺たちの世界で正しい意味で聖遺物を名乗れる代物だ。ハジメにしかわからないとは思うが、俺達の世界で一番有名な聖人の処刑に関わった聖十字架といえばわかるんじゃないか」

「やっぱりそうか。……バチカンとかにばれたらやばいやつだよな、それ。下手すりゃ二十憶人だか三十憶人だかの信徒をまるごと敵に回すんじゃないか?」

 

 その規模に異世界トータスの住人は驚く。この世界にも聖教教会という今は敵に近い組織があるが、それとは規模が違う。それだけの想念が集まっているならユナのようなステータスもありえるかも知れないと納得する。もっとも地球の組織はこの世界ほど神に頼ってはいないのでそこまでになるかは疑問だが。

 

 そこまで話して言い出したティオが話をまとめようとするが……

 

「結論からいうと……すまんな蓮弥よ。そのような存在を治療する方法など見当もつかぬ」

「そうだよな……」

 

 結局ユナを治す方法がわからないのでは意味がない。神水も効かない、この中で一番知識があるであろうティオもお手上げ。……蓮弥達には打つ手がなかった。

 

「せめて魂とやらを研究しているものでもおればのぉ。大昔には人を延命させるために()()()()()()()宿()()()延命を図る術を研究しているものがいると聞いたことが「それだ(ですぅ)!!」ひゃん、お、お主ら急にどうしたのじゃ!?」

 

 なぜ思い浮かばなかったのか。いるじゃないか。この世界で魂をゴーレムに宿して生き延びていた人物が。しかもその人物はティオより遥かに長い時間を過ごしており、都合のいいことに永劫破壊(エイヴィヒカイト)についても多少知識を持ってくれている。

 

 

 こうなれば善は急げだ。

 

「ユナ、苦しいかもしれないけど、一度聖遺物に戻すぞ」

 

 聞こえているかわからないがそうユナに言った後、ユナの実体化を解き、聖遺物に戻す。

 

「ハジメ、悪いけど。今から全力で行ってくる。お前たちは出発準備をやっててくれ」

「まてよ。それはいいがどうやって移動するんだ? ここからだと相当距離があるぞ」

「だから言っただろ、全力で移動するって。本気で走れば新幹線より速い」

 

 蓮弥は早速準備する。今から全力で移動すれば半日もあれば到着するはず。

 

「待つのじゃ蓮弥よ、一体どこに行く気じゃ?」

 

 他のメンバーが納得している中、唯一事の流れがわからないティオが言う。

 

「決まってるだろ。この世界でゴーレムに魂を定着させて生きてる人物……ミレディ・ライセンのところだ」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 半日後、蓮弥はライセン大峡谷にいた。あれから休まず走ってきた。聖遺物の使徒の戦闘は基本音速領域に達する。まっすぐ走るだけなら時速300㎞オーバーなど簡単に出せる。苦しんでるユナを思えば、この程度の距離止まらず走るなんて、たいしたことではなかった。

 

 

 そこにはかつてみた看板があった。

 

 “おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ ”

 

 あれから一月も経ってはいない。まさかまたここにくることになるとは思わなかった。蓮弥は扉の仕掛けをくぐり中に入る。ユナが倒れている以上、正直あのトラップ群を抜ける自信はない。もしまたトラップが襲ってくるならミレディには悪いが力ずくで突破するつもりだった。

 

 

 だがその悩みは杞憂だったようだ。蓮弥がつけているライセンの指輪が光り、目の前にミレディのいる場所につながるであろう扉が現れた。どうやら一度クリアーしたものはトラップの洗礼を回避できる仕組みになっているらしい。オスカーのところでもそうだったからもしかしてと思ったがありがたい。

 

 

 そうして扉を潜り、ミレディを探す。ミレディはすぐに見つかった。どうやら渡した神結晶でなにやら作業をしているらしい。

 

 

 ミレディも蓮弥が来たのに気付いたのか。こちらを振り向く。

 

「おやおや~蓮炭じゃないか~。なになにもうミレディたんが恋しくなっちゃった? それともまさかミレディたんの宝物庫を漁りにきたんじゃないだろうね~」

 

 相変わらずの態度だがこちらにはそのテンションに合わせる余裕がない。すぐに蓮弥は横抱きにユナを形成する。

 

「頼むッ、助けてくれッ、あんたしか頼れる人がいない!!」

 

 蓮弥は必死だった。現状頼れる最後の人物。彼女で駄目なら自分たちに打つ手はない。

 

「……わかった。彼女を奥の部屋に連れてきて」

 

 ミレディが蓮弥の腕に抱えられているユナを見ると真面目モードに変わり奥へ蓮弥を案内する。どうやらミレディもふざけていい状況ではないと察したらしい。

 

 

 そこは以前立ち入らなかった部屋だった。棚を見ると七人の男女が移った写真のようなものが見えた。見覚えのある顔もいるのでそれが何を指しているのか明白だった。

 

「ここに彼女を寝かして……」

 

 蓮弥はゆっくりユナを寝台に寝かせる。一度聖遺物に戻っても変わらない。相変わらず苦しんでいる。

 

 ミレディが手をかざす。何やら調べているようだ。

 

「これは……ひどいね。魂がガタガタになってる。前の私よりもひどいかも……神水は試したんだよね?」

「ああ、だけど効果がなかった」

「神水でも駄目だとなると……ちょっと待っていなさい」

 

 ミレディは焦燥に駆られている蓮弥を見抜いてか、普段から考えられないような落ち着いた声で蓮弥に言い聞かせる。

 

 すぐにミレディは戻ってくる。手には蓮弥が渡した神結晶が抱えられている。

 

「魂魄魔法で見た結果を簡単に言うと、彼女は魂魄が不安定になってる。だから安定した純度の高い魔力を注いでやれば……」

 

 ミレディが神結晶を掲げると光を放ち、その光がゆっくりユナに吸い込まれていく。しばらくそうしているとユナの顔色がよくなり、呼吸も安定してきた。

 

「とりあえず、応急処置はこれで終わり。これならすぐどうこうならないと思う」

「そうか……よかった」

 

 蓮弥はユナの手をそっと握る。倒れた時は生きた心地がしなかった。

 

「安心するのはまだ早いよ。こうなった原因を探さないと。……何か心当たりはある?」

 

 ミレディの問いに蓮弥は考えるが、心当たりは一つしかない。

 

「この前北の山脈で神の使徒とやらと戦った。その際ちょっと俺が無茶してな。それから眠そうにするようになって……」

 

 神の使徒という言葉に少し反応したようだ。外見はにこちゃんマークのゴーレムだからわかりづらいが。

 

「なるほど、北の山脈の方面で強大な魔力を感知したから何事かと思ったけど、あれ君だったんだね。……なるほど」

 

 しばらくミレディは考えていたようだがすぐに顔を上げる。

 

「これは私の推測だけど、あなたは糞人形と戦っていた時に無理やり力を引き出した。あの時感知した力は今の君の力と釣り合うとは思えない。そして足りない力はどこからか補うしかない。君の使う力のことを考えると間違いなく魂を相当削られるはず。にも拘わらず、君は大した影響を受けていない。なら考えられる可能性は一つ」

 

「ユナが……俺が負うはずだった代償を……代わりに払った?」

「そう考えるのが自然だね」

 

 あの時、疑似創造を発動した時、間違いなく蓮弥は制御が効いていなかった。体から力を引っ張りだされる感触はあったのだ。あの規模の力を引き出したなら何らかの代償があってもおかしくない。あとは創造を止める際にハジメの力を借りたが、その時のダメージはどこに消えた? 答えは一つだった。

 

「俺が、全ての原因かよ……」

 

 蓮弥は己の浅はかさと弱さを呪いたくなった。もっとユナに気を使っていれば倒れる前に解決できたかもしれない。自分の渇望を制御できていればあんな暴走じみた力を使うこともなかった。いや、そもそも自分がもっと強ければ……

 

 

 考え出すと嫌な考えが止まらない。

 負のスパイラル。

 どこまでも落ちていきそうな……

 

「ミレディちゃ~ん、チョ~~ップ」

「!!?」

 

 突如蓮弥の頭に割とシャレにならない衝撃が襲う。小さいゴーレムの腕で殴られたとは思えない重さ、あと霊的装甲を突き抜けているのは例の対蓮弥用の攻撃だろう。痛みに悶絶しながら蓮弥はミレディの顔を伺う。

 

「はい、そこまで。私の経験上そうやってうじうじしてても何も解決しないから。正直うざいだけだよ」

 

 うざいとかお前に言われたくない。そう心で反論するくらいには余裕が戻っていた。それを確認したミレディは話を続ける。

 

「魂魄魔法で調べてみたけど、今この子は深い眠りに落ちてる。そもそもこの子の魂の力を考えると、君の力程度なら楽に支えられるはず。けどそうならなかったのはそうだな〜、例えるなら今までのこの子は魂の表層だけで活動してたっていえばいいかな。まるで本来の力を発揮してなかったわけだけど、表層の力では支えきれない力が急に降ってきたから潰れそうになってしまった。眠そうにしていたというのは魂が君の力に耐えられるようになるために、意識が奥に潜りつつあったからだと思うよ」

 

 眠そうなだけでなくぼーとしていることも多くなっていた。つまり……

 

「ユナの魂は、本来の力を取り戻すために奥深くに眠りについたということか」

「たぶんね。まあ奥から戻ってくる前に魂魄の外装が崩れそうになったから倒れたわけだけど、それを神結晶の魔力で修復したということだね」

「すまないな。あげた神結晶に頼ることになっちまって」

「いやいや、天然ものの神結晶ってすごいんだね。内包されている量もさることながら、魔力の純度が人工物とは比較にならない。今使った分引いてもまだまだたっぷり残ってるから気にしなくていいよ~」

 

 神水は神結晶の魔力の余剰分がにじみ出したものである。うまく使えれば神結晶本体の魔力の方が優れているのは当然か。ミレディは話を戻す。

 

「さて肝心の起こしてあげる方法だけど、こればっかりはミレディちゃんの専門外だね。残念ながら私では手を出せないよ」

「自然に目覚めるのを待つのは?」

「それだといつ目覚めるかわからないと思う。明日目覚めるかもしれないし、もしかしたら千年後なんてこともありえるかも」

 

 つまり現状こちらからできることはないわけだ。歯がゆい思いを感じる蓮弥。いつもユナは蓮弥の力になってくれた。そんなユナの危機に自分は何もできないなんて。

 

 

 そこまで考えて蓮弥は急いで上を向く。そこにはチョップ寸前のミレディがいた。チッといって手を引っ込めるミレディ。

 

「だから今からあなたが取れる選択肢を教える。一つはこのまま何もせず待つということ。現状彼女は安定しているから突然消えるということはまずないと思う。見たところ武装としてなら問題なく彼女の力を使えると思うし」

 

 蓮弥は形成してみる。手に十字剣が現れる。どうやら形成は問題なく使えるらしい。イメージとしてはDiesiraeの螢ルートでマキナに蓮とのリンクを絶たれたマリィと同じということだろうか。武装として展開できるが彼女とは話もできないし会えない。

 

「問題ないみたいだね。ただし、この選択だといつ目覚めるかわからない。さっきも言ったけど明日目覚めるかもしれないし、この子の底なしの魔力を考えたら千年かかるなんて可能性もあるかもしれない」

 

 いや、その選択は取れない。この世界で生きていくにはユナの力が必要だし、何より……そんなに長い間会えないなんて考えたくもない。蓮弥は彼女の存在が自分の中で想像以上に大きくなっていたことをいまさら自覚する。

 

「ならもう一つの選択肢だね。もう一つは……」

 

 ミレディの示唆する選択肢に蓮弥は……

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 再び半日後、蓮弥はフューレンの町に戻ってきていた。

 

 宿に戻ると出発準備を終えたハジメが待っていてくれた。他のメンバーも同様に心配してくれていたことがわかる。

 

「それで……どうなった?」

 

 ハジメが聞いてくる。もしユナが治ったなら蓮弥は皆を安心させるために彼女を連れ立って現れただろう。だが、今蓮弥の傍に彼女はいない。だが蓮弥の顔には悲壮感もない。だとしたらなんらかの手がかりを見つけたということ。

 

「そのことだがハジメ、それにみんなに相談がある。……今後の旅についての重要な話だ」

 

 そして蓮弥はハジメたちに話す。自分の選択と決意を。

 




蓮弥が選んだ選択とは?

その答えの前に次回は雫視点です。

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