ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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勇者の人気が止まることを知らない。作者はありふれのWeb原作のリアルタイム組ではないので推測でしかないのですが、きっと原作でのこの辺りの話の感想数はすごかったんだろうなと思いました。


ハイテンション

 ひとまず魔人族との戦いに決着をつけた蓮弥とハジメは倒れているメルドの元に向かった。

 

「シア、メルドの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。……指示通り“神水”を使って置きましたけど……良かったのですか?」

「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる……」

 

 ハジメの言う通り彼は貴重な常識人だ。ここで死なせるには惜しい。もっとも良い人すぎて勇者達に教えるべきことをまだ教えられていないようだが……

 

 

「おい、藤澤。なぜ、彼女を……」

 

「蓮弥……いろいろ聞きたいことはたくさんあるけど、まずメルドさんはどうなったの? 正直助かるレベルの傷じゃなかったと思うけれど……見たところ治ってるようだし……それに今更だけど、私も確か重症だったはずなんだけど……」

 

 光輝が何やら蓮弥に話しかけたが、間に割り込んだ雫によって遮られる。メルドの状態を見て、ようやく自分が瀕死の重症だったということを思いだしたらしい。

 

「ああ、それはな……ちょっと特殊な薬を飲ませたんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒、魔力も全回復するという代物だ。エ○クサー的なものだと思ってもらっていい」

「……そんな伝説の霊薬みたいなものを二つも持ってるとか……いったい今までなにしてたのよ……」

「まあいろいろとな……心配しなくてもちゃんと説明してやるから……」

 

 神水の効果は絶大であり、メルドは峠を越したようだった。雫もとっくに歩けるようになっていた。

 

「おい、藤澤、雫とメルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

 

 また蓮弥に話しかけようとする光輝を今度は香織が遮る。香織は完全に光輝を意識していない。

 

 

 ハジメに歩みよる香織はグッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返している。

 

 

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く香織に対して、ハジメは何とも言えない表情をしている。蓮弥が愛子から聞いた通り、どうやら相当張りつめていたらしい。

 

 

 ハジメが泣いている香織をなだめようとあたふたしているが、その対応に益々感極まってしまい、とうとうハジメの胸に飛び込んでしまう。蓮弥は後ろでじっと香織とハジメを見つめるユエに気付くが見なかったことにした。

 

 

 隣の雫は優しい笑みで香織のことを見守っている。……ここで蓮弥は少し茶化してみることにした。

 

「……お前はこないのか? 今だったら親愛のハグを返してやるぞ」

「バ、バカ言わないで頂戴ッ。べ、別にわたしは蓮弥が死んだなんてちっとも思ってなかったし、帰ってくるのが遅いくらいにしか思ってなかったんだから、勘違いしないでよね」

 

 そして蓮弥に背を向ける雫。それはそれは見事なツンデレだった。内心無理しているのがばればれだったが、蓮弥はあえて気にせず声をかける。

 

「そうか。……すまなかったな。どうしてもすぐ帰れない事情があったんだ。……許してくれ」

 

 蓮弥は相変わらずこういう時に甘えるのが下手な幼馴染の両肩に、後ろからそっと手を置き、寄り添うように少しだけ抱き寄せる。もちろん顔を覗き見るなんて無粋な真似はしない。肩に置いた手に震えが伝わっているのにも気づかないふりをする。

 

「……本当よ……バカ」

 

 ハジメと香織、蓮弥と雫の間に独特の空間が形成されている。クラスメイトはそれを優しく、そして黙って見守る。クラスメイトは雫と香織が蓮弥とハジメの生存を信じていることを知っていた。雫は誰よりも訓練に勤しんでいたし、香織の執念で習得した治癒魔法にはクラスの誰もが幾度も助けられた。そんな二人の努力と想いが報われた瞬間に、女子の一部などはもらい泣きするものも現れ始めた。

 

 

 だがどこにでも空気の読めないやつは存在する。

 

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、藤澤は無抵抗の人を殺したし、南雲は相手をいたぶるような真似を平気で行ったんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、二人は藤澤と南雲から離れた方がいい」

 

 まさに空気をぶち壊すセリフである。一部の生徒は光輝に対して空気を読めというような非難の眼差しを向けている。蓮弥は久しぶりに会った勇者の極まりっぷりに驚愕していた。

 

「……なあ、雫。あいつ、ますますいい感じに極まってるな。最後に見た時よりパワーアップしてるぞ」

「……ごめんなさい。最近構う余裕がなかったから……」

 

 蓮弥の方を振り返った雫はバツが悪そうな顔をする。……どうやら自分に余裕がないからという理由であの勇者を放置していたらしい。まあ蓮弥は仮に雫が構ってやってもこうなった可能性はあると思っているが。

 

 仕方ないと蓮弥は光輝に向き合う。

 

「なあ、天之河。それは今この状況で話さないといけないことなのか? お前にとってクラスメイトの安全より大事だと?」

「クラスメイトの安全のためにもだ。今のお前たちを信用することはできないからな。だから雫……早く藤澤から離れるんだ」

 

 どうやらこの勇者は雫と香織が蓮弥達を構うのが気に入らないらしい。クラスメイトの安全のためというが、果たして今の勇者にどれだけ仲間を思う部分が残っているのやら。そしておそらく蓮弥達を信用していないのは光輝だけだ。光輝に離れるように言われた雫だが、当然光輝の言うことを聞く気がない。蓮弥はめんどくさくなった。

 

「さあ二人とも、早く俺の「ちょっと寝てろ」うぐぅ」

 

 蓮弥が光輝の後ろに回り、八重樫流の首トンで気絶させる。……今更だがなんでこんな技を教わることができたのか疑問である。

 

 

 いきなり蓮弥が消え、いつの間にか光輝の後ろに現れたと思ったら一瞬で気絶させた蓮弥の所業に檜山以外の光輝に加勢しようとしていた小悪党組が沈黙する。

 

「次、文句のあるやつ、前に出てこい」

 

 その言葉に対して、前に出る者も、文句を言う者も現れなかった。

 

 

 蓮弥がユエやシアの方に視線を向けるとナイスと言わんばかりにぐっと親指を突き出してきた。あの勇者の態度に地味にイラっとしていたらしい。ハジメもうるさいのがいなくなって満足そうにうなずく。ハジメには蓮弥のような絶妙な手加減ができないから対処できなかったのだ。

 

 

 ここはまだ大迷宮の中だ。当然魔物は現れるが、いまさら蓮弥やハジメの敵ではない。各自適当に対処する。そこで蓮弥は雫が武器を持っていないことに気づいた。

 

 

「雫、確かお前の武器って壊れたんだよな」

「そうよ……もともと吉野さんに無理な強化をしてもらったせいでここで壊れる運命だったから未練はないけど……」

「強化?」

「私に合う武器がなくてね。ちょっと本気で振るうと壊れちゃうのよ……」

 

 その言葉に蓮弥は少し驚いた。蓮弥はたいして王国のアーティファクトを使ってはこなかったが、過剰に魔力を込めればアーティファクトが壊れることは知っていた。かつて過剰に供給された魔力による暴発を利用してベヒモスに攻撃したわけなのだが、アーティファクトの差もあるかもしれないが、少なくともあの時ベヒモスに対して炸裂させた膨大な魔力以上の力を雫は身につけているのかもしれない。ならちょうどいいと思った蓮弥は自分の宝物庫を開き、ある物取り出す。

 

「ならちょうどいいな。……ほら、これやるよ」

「……これ、刀?」

 

 蓮弥が取り出したのは、かつてここの地下深くでハジメと共に語り合い、徹夜明けのハイテンションで作り出した一本の刀があった。

 

「銘は特に決めてない。好きに呼べよ。……まあ、帰るのが遅くなったお詫びだな」

 

 刀を受け取った雫は慎重に鞘から抜刀する。

 

「これは……」

「綺麗……」

 

 現れた抜き身の刃は、美しい刃文を描いていた。それを見た雫はもちろんのこと、この世界出身のメルドや、クラスメイトが思わず見惚れるほどの代物だった。

 

 

 別に美しく作ろうと思ったわけではない、いかに切れる刃物を作れるか試していたらこうなっていただけだ。色々テンションが上がったハジメと蓮弥があーだこーだ言いながら強度と粘りを両立するために、各種金属の微妙な配合バランスまで考え抜いた合金で出来た業物だ。足りない技術は魔力という万能エネルギーの力で補った。

 

「すごい……これ、試してみてもいい?」

 

 雫は好奇心を抑えられないのかうずうずしだす。そしてちょうどいい具合に魔物の群れがこちらに向かってくる。話が聞こえていたハジメたちも雫に道を譲り、蓮弥は何があっても対処できるように雫を見守る。

 

 雫は刀を構えた後、魔力で自らの肉体と刀を強化する。

 

「ん? 雫、お前今魔力操作……」

「はっ!!」

 

 蓮弥は雫の行動に疑問を持つが、その言葉を言い切る前に雫が気合の掛け声と共に刀を振り下ろす。

 

 気合一閃

 

 刀から発せられた魔力を圧縮してできた飛ぶ斬撃は、目の前に迫っていた魔物の群れをまとめて斬り裂き、薙ぎ払う。同時に斬られた岩の切断面がまるで鏡のような美しさを醸し出している。一目でわかる切れ味だった。

 

「……」

 

 クラスメイトやメルドは唖然としていた。この階層の魔物は一匹一匹が集団で対処しなければならない強敵であり、それは本気で戦えない雫も同様だったのだ。だがその雫の放った斬撃によって魔物の群れが、たった一撃で壊滅したのだ。

 

「……」

 

 一方で雫に刀を渡した側になる蓮弥とハジメも驚いていた。

 

 あの刀にはギミックが仕込んであり、魔力を流すことで組み込まれている魔物の固有魔法が発動する仕組みなのだが、作っている途中で魔力操作ができないと使い物にならないことに気づき、魔法陣をわざわざ組み込んだのだが、そんな気遣い無用とばかりに魔力を直接操作した雫はデフォルトで設定されていた風爪を発動した。しかもその威力は設定したハジメの想定していた以上に高い。断言するがハジメはここまでの威力が出るようにした覚えはないし、風爪の固有魔法を持つハジメでも風爪だけではこの威力は出せない。

 

 

 その雫はというと、今の一振りの手ごたえに感動しているのか珍しくテンションを上げて蓮弥の方へ振り返る。

 

「蓮弥、本当にすごいわね、これ! 魔人族が襲ってきたタイミングでこれがあれば、私一人でも対処できたかもしれない」

 

 蓮弥が雫の目を見ると欲しかったおもちゃをもらった子供みたいにキラキラしていた。これは雫の趣味であるクレーンゲームでお気に入りのゆるキャラのぬいぐるみを取った時と同じような喜びようだと蓮弥は思った。

 

「お礼ならハジメに言っとけ。実際作ったのは錬成師のハジメだし」

 

 その言葉を聞き、テンションが高いまま雫がハジメに向き直る。

 

「南雲君、ありがとう。本当にすごいのねあなた。ハイリヒ王国中の錬成師を総動員してもこれの半分の力も発揮できない性能の武器しか作れなかったのに……」

「お、おう。喜んでもらえたならなによりだ……」

 

 ハジメは今まで見たこともないほどテンションの高い雫に若干引き気味に答える。ハジメの隣にいる香織は、これはかわいい子猫が寄って来た時と同じような喜びようだと思った。

 

 

 それからというものの、すっかりテンションが上がった雫は、今まで本気を出したくても出せなかった鬱憤を晴らすがごとく暴れまくった。途中から蓮弥達が加勢する必要もないくらいに。

 

「八重樫の奴、中々たいしたもんじゃないか」

「ん……侮れない」

「正直姿を追いきれないですぅ、私ぃ」

「……あいつ、どんな鍛え方したんだよ」

 

 その雫の動きに蓮弥達は素直に関心していた。

 

 

 正直、未だに表の大迷宮で苦戦しているようでは勇者パーティの実力は自分達には遠く及ばないと思っていただけに、目の前の光景は蓮弥達にとっても結構見ごたえのあるものだった。

 

 

 確かな意思によって操作された魔力は流れるように無駄なく体に行き渡り、同じく体の一部のように強化された刀はいかなる敵も一刀の元に斬り伏せる。まさに鬼に金棒、雫は今まで合わない武器を使っていたがゆえに出し切れなかった自分の力を存分に発揮していた。

 

 

 特に速さは凄まじい。最近パーティでもバグ扱いされているシアを間違いなく超えている。俊敏のステータスに加え、技能の縮地系列、さらに八重樫流の技も加えているのか、時々蓮弥やハジメの視界から消える時もある。おそらく単純な速度ではハジメや蓮弥が上だろうが、長年の鍛錬によって洗練された無駄のない動きは二人にはないものだ。勇者パーティの中でも雫なら大迷宮攻略の旅に即戦力で連れて行けるだろう。その光景を一人冷静に見ていた香織は補足する。

 

「雫ちゃん、ハジメくん達が落ちた後、すぐに魔力の直接操作ができるようになってすごく頑張ってたんだよ。あ、もちろん私も頑張ったんだから。治癒魔法や光属性の支援魔法ならもう誰にも負けないよ、私」

 

 それは確かな自信を感じる言葉だった。どうやら香織も相応の試練と修羅場をくぐってきたらしい。

 

「それは有難い。もう神水も残り少なくなってきたし、ハジメにはそろそろ回復役が必要になりそうだったからな」

 

 それは、今後香織が取るであろう行為を先読みした蓮弥の言葉だったのだが、ユエに睨まれてしまった。

 

 

 お前はどっちの味方だと言わんばかりのユエの視線に対して目を逸らす。正直許してほしいと思っている蓮弥。やり方は多少ズレてはいたと思うが、地球にいた時から割と真剣にハジメを想っていた香織に少しくらい後押ししてやりたくなったのだ。……たとえユエには敵わないとわかっていても……

 

 

 色々ありつつ、遂に、一行は地上へとたどり着いた。

 そしてそれは、【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。

 

「あっ! パパぁー! おかえりなのー」

「おかえりご主人様」

 

 ハジメに向かってパパと呼ぶ少女がハジメに飛びつく。側には留守番を任せたティオも一緒だった。

 

「変わったことはなかったか?」

「妾がちゃんとみておったからの、何事もなかったぞ」

 

 なにやらティオに視線が集まっているあたり本当に何事もなかったのか少し疑わしいが、報告するほどのことでもなかった可能性もある。

 

「そうか、えらいぞミュウ。よくこの変態を町に解き放たなかったな」

「えへへー、パパに言われた通りティオお姉ちゃんをちゃんと見てたの」

「あれ? これ妾の方が心配の種だった感じなのかの。……おふぅ、相変わらずわきまえたご主人様じゃ」

 

 ミュウを褒めてあげ、しっかり変態(ティオ)にもご褒美をあげるハジメ。本人は否定するかもしれないが立派にブリーダーをやっている。やっぱりご主人様の座を明け渡して正解である。

 

 

 その光景に本日何度目かわからない驚愕を露わにするいつのまにか復活していた光輝を含めたクラスメイト達。死んだと思っていた生徒の片割れが自分たちではおよびもつかないほどの戦闘力を手に入れただけでなく、美女美少女を携えて子供まで作って帰ってきたのだから驚愕は当然だった。特に男子はユエ達の美貌に見惚れた後、ゆっくりと香織を見る。

 

 

 香織は顔をうつ向けてなにやらぼそぼそ言っている。蓮弥は耳をすませて聞いてみる。

 

落ちろ、落ちろ、落ちろ。「ちょっ! 香織」むぐぅ……はっ、雫ちゃん、私一体……」

「本当にやめてよね……改良、いえ改悪された香織のそれは本当にシャレにならないんだから……」

 

 なにやら物騒なことをぶつぶつ喋っている。雫が慌てて口を塞いで止めたあたりがマジっぽかった。蓮弥は香織が何をする気だったのか、正直非常に気になったが、なんとなく気にしない方が良さそうだと考え直す。

 

 

 そして正気? に戻った香織がハジメに突貫する。

 

「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」

 

 まずは香織を宥めることから始めるべく、となりの雫と共にハジメを助けに参戦した。

 


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