ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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勇者のフルボッコ回です。

なので光輝ファンの人は注意してください。


決闘の行方

 聖約文

 

 以下に記載される契約者は、提示された契約を魂の領域に至るまで絶対遵守するものとする。

 

 契約は契約者同士で決闘を行い、契約者のどちらかが戦闘不能、又は敗北を宣言することで履行される。

 

 決闘の際、相手を殺害してはならない。

 

 契約者:

 藤澤蓮弥

 天之河光輝

 

 契約内容:

 契約者 天之河光輝が契約者 藤澤蓮弥に勝利した場合、契約者 藤澤蓮弥は以下のことを行う。

 1.南雲ハジメに白崎香織を連れていくことをやめるよう説得を行う。

 2.八重樫雫に対して、藤澤蓮弥に関わらないように説得を行う。

 3.南雲ハジメに、ユエ、シア・ハウリア、ティオ・クラルスの解放を行うように説得を行う。

 

 契約者 藤澤蓮弥が契約者 天之河光輝に勝利した場合、契約者 天之河光輝は、

 1.藤澤蓮弥、南雲ハジメ、白崎香織、八重樫雫、ユエ、シア・ハウリア、ティオ・クラルスの言動を常に尊重し、金輪際その言動を否定してはならない。

 

 なお、この契約は勝者による無効宣言で以ってのみ、無効とされる。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「じゃあ、天之河。勝負を始めようか」

 

 蓮弥は十字剣を構え、勇者 天之河光輝と対峙する。

 

 

 その様子をハジメはニヤニヤ笑いながら見ていた。

 

「うまいことやりやがったな、あいつ。あの契約、ほぼ詐欺みたいなもんじゃねーか」

「どういう意味です? ハジメさん。……蓮弥さんが負けるとは思いませんけど、万が一負けたら私たちにも被害が及ぶんじゃないですか?」

 

 どうやらシアは意味が分かっていないようだった。ハジメが説明してやる。

 

「いや、あの契約書をよく読んでみろ。蓮弥が負けた場合に遵守しなければならないのは俺達や八重樫の説得だけ。その説得の結果、俺たちがどうするかまでは契約に入ってねぇ。つまり、あいつの説得を受けても拒否すればそれで終わりだ」

「そうなんですか?」

 

 シアが疑問を浮かべるがその通りである。

 

 聖約という聖術はいくつかの条件を満たすことでお互いに絶対破れない契約を履行させるものである。条件とは……

 1.契約内容を明確にすること。

 2.その内容に対して、相手が合意の意思を見せること。その際握手などの行動があれば望ましい。

 

 もっともこれは蓮弥の場合であり、本来の使い手であるユナなら何気ない会話の中で契約を成立させられるし、もっとエグい条件もつけることも可能だ。蓮弥はオルクスにいる間、この聖術の効果を確かめるために軽い内容で実験をやってみたので間違いない。

 

 

 余談だが、この聖術を使う際、たとえ蓮弥相手でもじゃんけんで負けたほうが勝ったほうの言うことをなんでも聞くとかいう契約は二度とやらないようユナに言い聞かせた。ユナにそんなことをさせると色々危ない。

 

 

 要は契約履行義務があるのは契約者だけであり、第三者にまで効果は及ばないということである。この場合、蓮弥は説得するだけが義務であり、しかも回数や期間を明確にしていないなら1回行えば履行したことになることは確認済みだ。

 

「ふむ、一方あの勇者殿は負ければ金輪際、妾達の邪魔はできなくなるということじゃな」

「その通りだティオ。つまり解釈次第では俺達に逆らえなくなる奴隷契約書にうかつにサインしたということだよ。……たぶんあいつにはそういう認識がないんだろうけどな」

「……哀れ」

 

 ハジメの言葉にユエが光輝を哀れなものを見る目を向ける。雫は光輝のあまりの短慮な行動に頭を抱えた。

 

 

「いくぞぉぉぉぉ!!」

「おっと、決闘が始まるみたいだぞ。さて、俺たちは高見の見物でもするかな」

 

 

 光輝が“縮地”により高速で踏み込むと豪風を伴って蓮弥に向けて唐竹に聖剣を振り下ろす。それを観察しながら余裕をもって避ける蓮弥。

 

 

 光輝は蓮弥が避けるので精いっぱいであると勝手に勘違いして、連撃を繰り返す。袈裟斬り、切り上げ、突き、と“縮地”を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 

 

 だがその程度の速度では蓮弥は捕まらない。持ってはいるが碌に構えもしていない剣は使わず。光輝の剣の質を観察しながら紙一重でかわし続ける。

 

 

 それがしばらく続く。ハジメなんかは早速飽きてきたのかあくびしているくらいだった。光輝は思う通りにいかないことにフラストレーションが溜まってきているのは明白だった

 

 

「はあ……合流した時の状況を見て、もしかしてと思ってたけど、まだこの程度なのかよ」

「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」

「いや、怖気づいてるのはお前だろ」

 

 気合と共に振り下ろした光輝の剣を、蓮弥は手でつかんで受け止めた。

 

「!!?」

 

 ハジメパーティ以外の人物が本日何度目かもわからない驚愕を受ける。刃の部分を挟んで行う白刃取りというような技ではなく、本当に無造作に握るようにして止めたからだ。光輝は力一杯引き戻そうともがいているが、掴まれた聖剣はびくともしない。

 

「お前の剣からは何も感じない。想いも殺気も何も乗ってない。……見栄えだけ綺麗な張りぼてだな」

「くっ!」

 

 蓮弥が勢いよく突き飛ばした。そして光輝が再び剣を構える。構えるが、攻撃してこない。流石に警戒しているようだ。

 

「まったく、聖術をユナぐらい扱えてたらこんな手間をかける必要もないんだけどな」

 

 蓮弥は聖術をうまく扱えない。もしも光輝が負けを認めなければ契約は発動しないかもしれない。だからこそ徹底的に負けさせる。

 

「おい、天之河。お前言ってたな。なんであの魔人族の女を殺したのかって」

「そうだ。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。お前がしたことは許されることじゃない」

「許されることじゃないと来たか。言っとくけど俺はなんの罪にも問われないと思うぞ」

「そんなわけないじゃないか。人一人殺したんだぞ。相応の罰を受けるべきだ」

 

 光輝が蓮弥を断罪しようと言葉を張り上げる。だが蓮弥にはそんな言葉は通じない。

 

「いや、少なくとも聖教教会では魔人族は人間扱いされていない。言ってみれば魔物を殺したのと同じ扱いだ。褒められることはあれど、罰するべきだなんていう奴はお前以外いないだろうな」

「屁理屈を言うな!!」

 

 光輝が再び、蓮弥に剣を向けてくる。流石に先ほどよりかは剣が鋭かったが、展開は以前と変わらない。

 

「それでもお前が殺したことには変わらない。それなのにそれをまるで誇るみたいなことを……」

「しょうがないだろ。他でもない()()()()()()()()()()()()()

 

 蓮弥が十字剣で光輝の聖剣を弾き飛ばす。決定的な隙を晒すが追撃しない。だが口撃は行う。

 

「お前だって正当防衛の概念くらいはわかるよな。あの状況、あの女は間違いなくお前たちを殺そうとしていた。殺さなければ殺されていた。まあこの世界に俺達の世界の法律を持ち出しても意味はないが、俺たちの世界の基準で考えてもあの状況で相手を殺して罪に問われるかは微妙だな」

「相手はあの時無抵抗だった。お前の場合は過剰防衛だ!!」

「その感性が、お前の瑕だよ」

 

 光輝が聖剣を呼び寄せ構える。その間も蓮弥は何もしない。

 

「俺が駆け付ける前、お前の魔力を感知していた。たぶんあの女を殺すのに十分な力だったはずだ。……けどできなかったんだろ。大方躊躇しているお前を見て、雫が尻ぬぐいをするために動いたという感じだったはずだ。……誤魔化すなよ。お前は目の前で人が死ぬという、お前の世界にとってあり得ないことが起きるのが見たくなかっただけだ。要は人を殺す覚悟ができていないのに殺し合い前提の戦場に立っていたということだよ」

「いきなり何を言う……」

「その点はお前だけのせいだとは言わない。こういうのは教導する側がきっちり教えなければならないことだと思うしな」

 

 光輝の剣に戸惑いが混じりはじめる。蓮弥は適当に捌きながらメルドを横目で見る。目があったメルドはバツが悪そうな顔をしている。メルドは召喚者に対して神の使徒という目線ではなく対等に付き合ってくれる貴重な人だが、どうやらそれが裏目に出たらしい。

 

「人を殺したくないというその感情は否定はしない。普通の人間なら人を殺すのに躊躇するのは当たり前だしな。だけどそれなら他にもやりようはあったはずだ。お前にもっと力があれば周りの魔物だけを全て殲滅できたかもしれない。それならあの女も素直に撤退したかもな。そうでなくてもそれ以前に交戦を避けられる可能性はあったはずだ。圧倒的な戦力差があるにも関わらず、あの魔人族の女がすぐにお前たちを殺さなかったのが証拠だ。……たぶん交渉をうけてたんだろ? 違うか?」

 

 光輝の顔を見た後、周りのクラスメイトの顔を見て、図星だと判断する蓮弥。

 

「たぶん雫や永山あたりなら、いきなり交戦という選択肢よりもう少し冷静な判断を下してたはず。その意見をお前が跳ね除けて勝手に突っ走ったんだろ」

 

 これも正解。蓮弥は周りのクラスメイトの顔色で判断する。蓮弥は口撃を続ける。

 

「つまりお前は仲間を危険に晒した上に、その仲間を守ることもできなかったわけだ」

「黙れ!! 次はこうはいかない。今度こそうまくやって見せる!!」

「本来は次なんてものはないんだよ。人を殺す覚悟もない。人を殺さないという意志を貫くための力もない。そのくせにカリスマだけはあるからお前の意見は通っちまう。……お前、ここに来る前俺に言ったよな。お前はいい加減で中途半端で真剣にやってないって……あの言葉、そっくりそのまま返してやる。お前はいい加減な判断で仲間を危険に晒し、中途半端な力で剣を振るう愚者だよ」

「いい加減に黙れ!! ここからは本気で行く。今までのようにいくと思うな。”限界突破”!!」

 

 蓮弥の言葉を振り払うために限界突破を発動する光輝。もっと冷静なら話は少しは違うかもしれないが、今の光輝ではそのステータスが3倍になってもたいして意味はない。

 

「図星指されて癇癪起こすとか子供と変わらないな。……まったく、よく雫はこんなやつに付き合ってやれたな。関心するよ」

 

 激しくなる攻撃を避けつつ、ネクタイを緩める。

 

「お前は無条件で雫と白崎が、お前の傍にずっといると思ってたみたいだけど……常識的に考えてそんなわけないだろ。……これも俺やハジメに言ってたな。いつまでも雫や白崎が俺達を構ってばかりいられないって。……それもそっくりそのまま返してやる。……いつまでも二人に甘えてんじゃねぇよ糞ガキ」

 

「ああああああああああああ!!!!」

 

 蓮弥の口撃に対して絶叫を上げながら攻撃を激しくする光輝。だがその剣はもはや力任せで振っているだけだった。

 

「お前に何がわかるんだッ。俺は二人に甘えてなんかいない。俺は誰よりも二人の傍にいたし、いつだって守ってきた。これからもずっと二人を守るんだ!!」

「誰よりも傍にいたと言う割には白崎の気持ちに気づいてなかったよな。……いい加減に気付けよ。白崎を守るためにお前はハジメを非難しているんじゃない。……言っとくけどお前以外はたぶんほぼ全員気づいてるぞ。つまり今お前が感じているものは……」

 

 そこで光輝の腹部を蹴り飛ばす。光輝はうめき声を上げながら吹き飛ぶ。

 

「好きな女を他の男に取られて悔しい。ただそれだけだろ」

「え……」

 

 その言葉に光輝はきょとんとした顔を向ける。まるで意外なことを言われたかのように。その反応を見て、蓮弥は口撃を続ける。

 

「なんなら今から白崎に告白したらどうだ? お前のことが好きだから、お前が必要だから傍にいてほしいって」

 

 かっこ悪くても、みっともなくても、たとえ泣き喚き散らすようなものであっても、ここで香織に向き合って真摯な想いを告げたのなら、きっと香織の心にわずかにでも爪痕が残るだろう。蓮弥視点で光輝のようなめんどくさい奴の幼馴染なんて、光輝のことが嫌いでできることではない。きっと蓮弥は知らない、光輝には光輝の良いところがたくさんあるのだろう。それに……

 

「言っとくけど、今が唯一最大のチャンスだと思うぞ。今なら白崎の立場上、強くお前を拒否できないから付け入る隙は十分ある。せこいかもしれないけど、少なくとも白崎の好きな人を白崎の前で延々と貶し続けるより、よっぽど振り向いてもらえる可能性はあるぞ」

 

 ハジメが好きだからあなたの想いには答えられない、だからあきらめてくれとは今の香織には言えない。なぜなら今まさに香織も同じ立場だから。正直今ここで付け入らないと今後二度と香織は手に入らないだろう。香織は戦いの舞台に上がった。なら曲がりなりにも勇気ある者を名乗る男にできないとは言わせない。

 

 

 だが光輝は戸惑うばかりで動かない。ここまで言われて火が付かない光輝に対して蓮弥は攻める方向性を変え、()()()()()()()な口撃を行うことに決める。

 

「……反応なしか。だとしたらお前、最悪だよ」

「最悪だと……」

 

 その言葉には反応する光輝。限界突破のインターバルは終わったらしく立ち上がる。

 

「ああ、そうだな。さっきの言葉を訂正する。……本当はお前……」

 

 いったん言葉を区切る蓮弥、そして光輝に突きつけてやる。

 

「白崎や雫のことなんてどうでもいいんだろ」

「なっ!」

 

 その言葉に反応する光輝。そこで堰を切ったように吐き出す。

 

「ふざけるなッ、そんなわけないだろ。俺にとって二人は……」

「特別なアクセサリーってところか。本当はお前は白崎や雫なんてどうでもよくて、あの二人が特別に人目を惹く存在だから傍にいるべきだと思っているだけだよ」

「黙れッ。俺は、そんなことを……勝手なことを言うなっ!!」

 

 もはや攻撃ではない。ただ振り回しているだけだ。

 

「自分は主人公で勇者だから、その傍にいる女はそれに見合うような最高の女でなければならない。だからハジメの傍にユエ達がいるのも気に食わない。あんな見目麗しい女性たちは何より素晴らしい自分にこそふさわしいのであって、自分と比較して塵芥以下の価値しかないオタクなハジメなんかに靡くのはおかしい」

「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇ──ッ! “覇潰”!!」

 

 光輝が“覇潰”を発動させる。

 

 

 否、この時、勇者 天之河光輝は更なる覚醒を果たしていた。限界突破の派生技能[+覇潰・羅刹]。今までの限界突破をさらに尖らせたような性能であり、効果が及ぶのはたった一撃分。発動させるのに溜めが必要な上に、これを使うと本当にしばらく戦えなくなる。その代わりにその効果は絶大であり、その強化倍率は覇潰のさらに二倍。まさにこの一撃で戦いを終わらせるための決戦技能。

 

 

 今、光輝の頭の中はぐちゃぐちゃだった。メルドが殺されたと思い、その怒りから覇潰を覚醒させた時とは違う。よくわからない。よくわからないが、とにかく目の前のこいつを跡形もなく叩き潰す圧倒的な力が欲しい。今の光輝の心にはその渇望しか存在しない。

 

 

 覇潰・羅刹によって増幅された魔力が剣に収束される。生徒達や騎士達は今まで感じたこともないような桁違いの魔力が光輝に集まっていることに恐れ慄き、あまりの圧力で体が動かない。ハジメ達ですらこれはまずいと思い、代表でユエが蓮弥達を覆うように防御結界を張る。こうでもしないとこちらにまで影響が出てしまう。

 

「……それが今のお前の全力か」

 

 蓮弥は目の前で高まっていく魔力をミレディ戦での教訓からしっかり視て観察し、この攻撃に対して複数の対策を導き出し、どのような対応を行うか決める。雫が心配そうな顔で見ていたので蓮弥は念話で絶対大丈夫だと伝える。こうでもしないと無理やり割り込んできかねない。

 

 

 そして光輝の準備が終わる。その聖剣には太陽が現れたのだと錯覚しそうな熱量を発している。弱い魔物ならこれだけで倒せるかもしれない。ユエの防御結界がなければ、周りの空間に影響したかもしれない大魔力。

 

「藤澤ァァァァァァァァ──ッ!!」

 

 聖剣を構えた光輝が蓮弥に向けて踏み込む。今までとは桁違いの速度と圧力。通り過ぎただけで空気が熱を発する。

 

 

 その強大極まる力に対して蓮弥が取った行動は、ハジメですら一瞬正気を疑うものだった。

 

 

 蓮弥は、十字剣の形成を解き、無防備で立ち尽くしたのだ。正確にはほんの少し立ち位置を変えていたが。

 

「ッ!?」

 

 

 誰かの悲鳴が聞こえるがもう遅い。光輝は止まらないし、防御は間に合わない。そのまま光輝の攻撃は蓮弥の()()に直撃した。

 

 

 炸裂する爆音、結界内を立ち込める土埃。そのため結界の中がよく見えない。ユエは安全を確認した後、結界を解除する。

 

 

 周りに沈黙が走る。まだ両者の姿は見えない。いや、常識的に考えてアレの直撃を受けて跡形が残っているだけでも奇跡だろう。一部以外に悲惨な光景がよぎるが……

 

 

 

 

 

 

「正直俺もあんまり人のことをとやかく言える立場じゃないんだけどな」

 

 声が響く、その声に誘われたわけではないだろうが、一陣の風が吹き、土埃を吹き飛ばす。そこには……

 

「でもさすがに……お前ほどタチは悪くないつもりだよ」

 

 首元で光輝の聖剣を受け止める蓮弥の姿があった。

 

「嘘、だろ……」

「……ありえない」

 

 その光景に今日一番の驚愕を露わにする勇者パーティと騎士達。首とは人体の中でも最も柔らかい急所の一つだ。その部分に何も遮るものもなく直で強大な魔力を帯びた聖剣が直撃したにも関わらず、蓮弥の首は薄皮一枚斬れてはいなかった。

 

「勝手に一人で舞い上がって、周りを巻き込んで危険に晒して、神様とやらから与えられた力で無双を楽しんで……ここらで勇者ごっこはもういいだろ」

 

 蓮弥は首元にあてがわれている聖剣にそっと指を添える。この剣こそ、光輝を勇者足らしめている象徴。

 

「敵も斬れない、仲間も守れない、それどころか危険に自ら飛び込む。そんな奴にこんな聖剣(おもちゃ)……いらないよな……」

 

 

 蓮弥が指に力を加えるとまるでガラス細工が割れるかのように、勇者の象徴であった聖剣が粉々に砕け、同時に光輝の覇潰・羅刹も終了する。得物を失った光輝は呆然と立ち尽くすしかない。

 

「ここまで言って、自分を見つめ直せないんじゃどうしようもない。後はしばらく反省してよく考えるんだな」

 

 呆然としている光輝に軽く拳を振るう蓮弥。そのまま光輝は吹き飛んでいき、壁に激突して意識を失った。

 

 

 そこで決着がついたと判断されたのか契約書が丸く纏まり、蓮弥の手に渡る。これは契約を完全に履行する、もしくは履行不可能になれば消える。これを蓮弥が破壊すれば契約を無効にできるというわけだ。

 

 

 決闘を終えた蓮弥は雫と香織の元に向かう。一応フォローすべきだと思ったからだ。

 

「雫、それに白崎。決闘中にあんなこと言ったけど、天之河が本当にお前たちを物扱いしていたかは俺の勝手かつ大袈裟な推測にすぎない。流石にそこまでひどいとは思いたくないけど……だから気にするなというか……」

 

 蓮弥とて、本気で光輝が雫達をアクセサリー扱いしていたとは思っていない。真実はまだはっきり恋愛感情を理解できていないというところだろうと蓮弥は予想していた。それでも過剰に反応したのは、全く的外れでもなかったからだろう。少なくとも二人に対して無自覚な独占欲くらいは持っていたのは間違いない。

 

 

「大丈夫だよ藤澤君。……光輝君もこれで少し落ち着いてくれるといいけど……」

「………………そうね。今まで放置していた私が言うのもなんだけど。いつかだれかが言わなきゃいけなかったことなのよね。思えば私が構いすぎてたから光輝は自立できなかったのかもしれない」

 

 それは考えすぎだと思う蓮弥。母親でもあるまいし、そこまでする義理は雫にはない。

 

 

 今の光輝にとって必要だったのは訓練ではなく完全な挫折だ。ここらで折っておかないと後々取返しがつかないことにならないとも限らない。だからこそ蓮弥はあえて過剰かつ大袈裟に挑発して、光輝が後で言い訳できないよう光輝の全力を引き出した後、その攻撃を完璧に凌ぎ、光輝にとって勇者の象徴であった聖剣を砕くことで光輝の精神を完膚なきまでに叩き折ったのだ。これで成長できるかはわからないが少なくとも聖剣が直るまでは戦闘には参加できないし、しばらく大人しくしているしかない。

 

 

「まあ、あいつがどうなろうと俺の知ったことじゃないし。……そろそろ行くとするか」

 

 その言葉と共に四輪車を出すハジメ。当然周りは驚くが無視して乗り込もうとする。だが、蓮弥はそれに待ったをかける。

 

「少しだけ待てハジメ。あとひとつだけやることがあるだろ?」

「あとひとつだけ? なんかあったか? ……ああ、すっかり忘れてた」

 

 ハジメは思い出したのか野暮用を済ませることにする。

 

「よう檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」

 

 ハジメが急に横に現れてビクッと反応する檜山。他の生徒はこれから行われることを察して檜山から距離を取る。それは残りの小悪党四人組も例外ではなかった。巻き込まれてはたまったものではない。

 

「な、なに言って……」

「違うぞハジメ。こいつに一番適正がある魔法は風魔法だ。俺がハジメを助けそうになって焦って使ったのが風の弾丸だったからな。そうだよな、檜山」

「ひっ!」

 

 ハジメとは逆側に現れ、自身の肩に手を置いた蓮弥に、檜山が軽く悲鳴を漏らす。先ほど勇者である光輝を圧倒した蓮弥の出現に震えるしかない。

 

 

 まだあの時の犯人があやふやだったら誤魔化せたかもしれない。だけどあの日、二人を落としたのが檜山であることは周知の事実だった。二人は生きて帰ってきた。それも想像を遥かに超える力を手にして。しかも片方にはリンチまがいのことをしたこともある。

 

 

 復讐される。檜山は周りを見るが誰も目を合わせない。雫と香織は静かに成り行きを見守っている。被害者本人達が戻ってきた以上、処遇は当人に任せるつもりだった。

 

 

「どうしたんだよ檜山、元気ねぇな。昔はオタクだのキモいだの言ってくるような気やすい仲だったじゃねぇか」

 

 ガシッと蓮弥とは逆側の肩を掴むハジメ。檜山は震えるしかできない。顔色は青から白に近くなっている。

 

「そういえばハジメは近藤達を含めて実戦形式で訓練してたな。あの時は碌に戦う力がなかったハジメ相手に、遠慮なく魔法を山ほどぶち込んでたわけだが……どうだ? 再会記念に今からまたやらないか? 近藤達も含めて」

 

 その言葉に近藤達が首を横に激しく振りつつ益々距離を取る。そしてユエの目が据わり始める。ハジメ達を落とした犯人については聞いていたが、そんなリンチまがいの行為を働いていたことは聞かされていなかった。ユエが男をスマッシュする準備を始める。

 

「そうだな……どちらがいい? 檜山、選ばせてやる。お前たちの知ってる大迷宮の魔物が可愛く見える化物がうようよいる奈落の底で一ヶ月ほどキャンプしてくるか……それとも今ここで腕一本捥がれるか……ああ、もう一つあったな。ユエに強制的に女にされるという選択肢もあるぞ」

「ん……準備万端」

 

 ハジメがユエの方を見ると準備万端という言葉が返ってくる。ハジメの命令一つで檜山の男はスマッシュされるだろう。蓮弥とハジメが軽く放っている威圧を受けて檜山は顔を白くしながら過呼吸を起こしている。

 

 

 こんな時暴走した正義感で割り込んでくる光輝はいない。まとめ役の雫は介入する気がない。仲間であるはずの小悪党組も巻き込まれないようにしている。もちろん檜山の()()協力者が介入するわけがない。……この場所で檜山の味方はいない。

 

 

 そしてとうとう恐怖の限界を超えたのか、白目を向いて意識を失う。男を抱き抱える趣味は二人にはないのでさっと避ける。当然盛大に地面に激突する檜山。

 

「ちっ、堪え性のない奴だな。せっかくわざわざ絡んでやったのに……」

 

 本当はこんな面倒なことをハジメはするつもりはなかった。だが愛子と再会した時、ハジメは愛子に涙ながらに何度も何度も檜山の代わりに謝られたのだ。特に心と体に取り返しのつかない傷を負ったハジメに対して責任を感じているようだった。

 

 

 ハジメとしては別に最初から復讐する気なんてなかったのだが、明らかにずっと思い詰めていたことがわかる愛子の態度を見て、逆に愛子が苦しんだ分くらいは檜山も怖い思いをするべきだと思ったのだ。……もっとも、思ったよりあっさり気絶したわけだが。

 

 

 檜山の足を乱暴に掴み。頭をずりずり地面に擦り付けるように檜山を引きずり、近藤に放り投げるように手渡したハジメが心底どうでも良さそうに言う。

 

「起きたらこいつに言っとけ。お前のことなんか最初から眼中にもないけど、お前のことを先生が気にしてたからそのことは忘れんじゃねぇってな」

 

 近藤はコクコクと頷くしかない。これで本当に用事は終わりだ。

 

「何というか……色々ごめんなさい。それと、改めて礼を言うわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」

 

 

 基本蓮弥を優先していた雫もここで改めてハジメに礼を言う。

 

「いや気にすんな。もともとついでに寄ったようなもんだしな」

「それにしてもこんな移動手段まであるなんて。けど二人増えたら狭くなるんじゃない?」

「あーそのことだが八重樫」

 

 ハジメが、言葉に詰まる。そこで蓮弥は割と大事なことを雫に伝えてなかったことを思い出す。

 

「雫……たぶん俺がいるからついていくなんて言ってるんだと思うけど……それだったらその必要はないぞ」

「えっ? それってどういう……」

「俺はここに残る。だから一旦ハジメ達とはお別れだ」

 

 蓮弥は自分が選んだ選択肢をここで宣言した。




もしここで自分の感情に自覚して想いの丈を吐き出していたらまだ何かが違っていたのではないかと思う作者です。特に香織はしばらく不遇の上、目の前でハジメとユエのイチャイチャを見せつけられるわけですし。本気で自分を想ってくれている人が別にいれば、少しはぐらついたかもしれません。もう遅いですけど。

ちなみに蓮弥にとって、香織関連のフラグは基本関係ないので告白を進めましたが、もし光輝が間違って雫に告白しようとしてたら普通に妨害してました。

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