ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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彼女達が再登場します。


教会からの依頼

 もどかしい。

 

 蓮弥は今自分が置かれている状況をそう評した。本当なら今頃、王都で神代魔法を探すための手掛かりを集めているはずだったのだ。それが……

 

「なんで俺たち、こんなところにいるんだろうな……」

「……正直に言っていいなら、自業自得なんじゃないかしら」

 

 馬車の隣に座っている雫は蓮弥に現実を突きつける。

 

 そう、蓮弥と雫は今、王都を離れ、北の山脈地帯にある辺境の町に向かっていた。なぜこんなことになってしまったかというと、蓮弥の聖教教会本部での出来事が尾を引いているのだ。

 

 

 蓮弥としては、神山にあるという神代魔法を探すという目的がある以上、少なくともまだ聖教教会ともめたくない。かといって教会の傘下に入って動くなど問題外だ。

 

 

 だからこそ、尋問された際に使徒としての使命を自分のやり方でいいなら果たしてもいいと言ったのだが、それなら力を見せてもらおうということになり、蓮弥に対して聖教教会が一つの依頼を持ち掛けてきた。

 

 

 その依頼とは、北の山脈の辺境に奇妙な魔物が発生し続けているという。とはいうものの新種が出たということではなく、既存の魔物には違いないのだが、その見た目が特殊らしい。

 

 

 幸い、魔物は人里離れた場所にたむろしているだけで人的被害は今のところないが、魔人族が率いる魔物が想像以上に強力だったこと。数日前に強大な魔力反応が出現したこと。それらの出来事が立て続けに起きているのに不吉なものを感じる者も多く、だからこそ今のところ被害が出ていないとはいえ、厄災の芽は早めに摘んでおこうということになった矢先、蓮弥が帰ってきたのだ。

 

 

 曰く、ウルで魔物六万体を倒したのなら楽に殲滅できるはずと皮肉交じりに教会の神官に言われたのが印象的だった。おそらく六万体の魔物を倒したことを信じておらず、数を盛ったホラ話だと思っているのだろう。ここで化けの皮を剥がして自分達が優位に立とうという思惑が透けて見えた。

 

 

 馬車に揺られながらあの時の決断は早まったかもしれないと思い始めた蓮弥。こういう時ハジメの強引な性格が羨ましくなる。あいつなら容赦のない言葉で徹底拒否していただろう。

 

 

 だが嘆いたところで依頼を受けてしまった以上、解決するために行動しなければならない。そして、本来なら雫をヴァナルガンドの後ろに乗せ、依頼のあった町に足早に行って早々に解決したかったのだが、そうもいかない理由があった。

 

「…………」

 

 それが先ほどから曲がりなりにも神の使徒であるはずの蓮弥に対し、敵意を隠そうともせず睨みつけている聖教教会の若い騎士、オイバ・ザハードの存在だった。

 

「……ふん、本当はこのような任務、この俺が出るようなものではないのだがな……お前がヘマをやらかした時に後始末をする人間が必要だ。この俺が付いてくることを光栄に思うんだな」

 

 オイバ・ザハードの経歴を最近知り合いになったダニエル神父に聞いたところ、才能はあるようだが、いささか若さゆえの増長が目立つ人種だという。

 

 

 聞くところによると、蓮弥達が召喚される前、とある反社会的な死霊術師が引き起こした大量の腐乱死体が動き回り、次々人に襲いかかるというという大事件を生き残り、解決に貢献したということでいささか天狗になっているとのもっぱらの噂らしい。顔立ちもどこかの勇者を思わせるような美男子であり、おそらく今まで大した失敗もせずにここまで来たというのがよくわかる人物だった。

 

「大体百歩譲って勇者ならともかく、神の使徒とはいえ、今まで行方不明になっていた天職不明の男に単独で任務にあたらせるなど……教会の上層部の決定を疑うよ」

「……彼の実力は確かです。実績でいえば、この中では私が足を引っ張るかもしれませんが、あなたの迷惑にならない程度には貢献させていただきます」

 

 蓮弥に皮肉を言ったつもりが、雫が返事を返してしまう。それにオイバ騎士は慌てて訂正する。

 

「べ、別に雫さんに言ったわけではありません。……それに決して神の使徒を非難するつもりでは……」

「はい、わかっています。心配してくださりありがとうございます」

「任せてください。雫さんのことは俺が守ってみせます。このオイバ・ザハードの名にかけて」

 

 雫の笑顔と共に送られた返事に対して、キメ顔で雫を守る宣言するオイバ。この反応から彼が雫に対して抱いているものは非常にわかりやすい。それにどうやらあの勇者と同じく、都合の悪いことは目にも耳にも入らないタイプの人種のようだ。雫の目が全く笑っていないことに気づいていない。

 

 

 このオイバ騎士の反応を見てわかるように、当たり前の話ではあるのだが、雫は同性にばかりモテるわけではなく、普通に異性にもモテる。

 

 

 普段は学校では光輝が、プライベートでは蓮弥が常に傍にいるため、異性から告白された経験は意外と少ないみたいだが、年頃の男子からしたら十分雫は高嶺の花なのだ。この世界で剣士として無双してたのなら、同じ剣士連中には嫌でも憧れと尊敬を集めただろうことは想像するにたやすい。つまり目の前の若い騎士も雫の容姿だか剣だかに惚れてしまった一人というわけだ。

 

(だからこそ益々俺が恨まれるわけなんだが)

 

 正直彼の存在は邪魔くさい。なんだか一緒にいると生物災害に合いそうな気がする上に、自分に対する敵意を隠そうともしないとなると面倒なことになることは目に見えていた。

 

 

 蓮弥は最近ため息が増えたせいで幸福が逃げてるんじゃないだろうなと疑った。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 数時間後、蓮弥達は例の魔物がいるという山の辺境にほど近い町に来ていた。

 

 

 今回魔物の被害が出た町、クーランは辺鄙なところにある割にはなかなかの人口を誇る町のようだった。事前に仕入れた情報では、この辺りには治療薬や魔力回復薬に使われる薬草が自生している地域らしく、特にクーランの治療用ハーブは他にはない高品質なものであるという。王都の医療院や騎士団も御用達のハーブを売って生計を立てているラレブアン商会に多くの商人が出入りすることからそれなりに栄えた町に成長したのだという。

 

 

 だが、この地域に奇妙な魔物が見つかったという情報から、町民の間に不安が広がっているという話だったのだが……

 

 

「あまり緊張感が伝わってこないわね。町の人たちは不安に思っていないのかしら?」

 

 どうやら雫も同じことを思ったのか周りの見回して感想を述べた。

 

「おや、旅人さんかな」

 

 そこで町の住人がこちらに気づいたようで声をかけてくる。それに対して前に出て説明を始めるオイバ騎士。

 

「私は聖教教会騎士団に所属するオイバ・ザハードと申します。教会からの命により、この地に現れたという魔物を退治しにまいりました」

 

 蓮弥に対して傲岸不遜な態度ばかりしているから意外だったがちゃんと挨拶ができるらしい。蓮弥に対しても雫ほどとは言わないが、彼くらいの態度を取ってほしいものである。……いや、あまり丁寧に接されるとかえって怪しいかもしれない。

 

「これはこれは、遠路よりはるばるようこそいらっしゃいました、騎士様。ではまずはこの町の代表のところへ案内させていただきます」

 

 頭を下げた町の住人に引きつられて、蓮弥達は町の代表のところへ向かう。町はブルックやフューレンほどではないが人の出入りは今でもそこそこあるらしく。プランターに植えられた緑、赤、青の色とりどりのハーブが町中のあちこちにあるのが特徴だった。

 

 

 蓮弥は移動中も町の住民の様子を伺ってみるが、皆何かに怯えることもなく、平和に暮らしているように見える。

 

「聞きたいことがあるんだが、この町に奇妙な魔物が現れたと聞いてきたんだけど、それは確かなのか?」

「ええ、そうです。発見したのは山に薬草を取りに行っていた若いのだったのですが、それはそれは不気味な魔物だったとのことです」

 

 蓮弥の問いにそれは事実だと返す案内人の男性。

 

「だけど皆さん落ち着いていますよね。もっと混乱していると思っていました」

 

 続いて雫が蓮弥も疑問に思ったことを口にする。そう、この町は未知の魔物が現れたにしては穏やかすぎるような気がする。

 

「……確かに現れた当初は我々も混乱しました。つい最近のことですが遠い山脈の方で巨大な魔力を持った魔物が現れて、大暴れしたという話も耳に入っていたものですから、これは何かの異常の始まりではと皆怯えていたのです」

 

 その言葉を聞き思わず頭を下げたくなった蓮弥。王都でも問題になったようだし、どうやら蓮弥が暴走した時の影響は蓮弥が思っているより大きいのかもしれない。

 

「しかし、教会に救援を求めたものの、皆がどうしていいかわからず途方に暮れていた時、遠路より救いの女神が現れてくれたのですよ」

「救いの女神?」

 

 雫が疑問に思うが蓮弥にはなんだか聞いたことのあるフレーズだった。

 

「ええ、聞けば例の大暴れした魔物もかの女神とその女神の剣が討ったという話です。他にも魔物の軍勢を薙ぎ払ったなどという話も聞きますので、それほどの方が来てくれたのはまさにエヒト様の思し召しと皆で感謝していたところなのですよ」

 

 ありがたやありがたやと手を合わせる男性。話を聞けば聞くほどある人物が思い浮かぶ。

 

「……それで、その人物は今どこに?」

「ちょうど代表のところにいますよ。今代表がこの町を救ってもらえないか頼んでいるところです」

 

 なるほどと蓮弥は納得した。どうやらその救いの女神という人物がここにきているということは町に周知済みらしい。もともと別の名前で売れていたことだから浸透するのも早かったというわけか。

 

 

 今頃無茶を言われて困ってるんだろうな。

 

 

 蓮弥には彼女が困っている姿が大いに想像できた。

 

「……なら早いとこ助けてやらないとな」

「なんの話よ。蓮弥、知り合いなの?」

「お前も知ってる人物だよ」

 

 

 話している内に代表の屋敷に到着する。

 

 到着して早々二階に案内される。そこで二階の部屋の奥から声が聞こえてくる。

 

「……ですから、そんなことを言われましても……」

「ご謙遜なさるな。あなた様のお力はこの辺境まで轟いておりますぞ。ぜひともそのお力をお貸しください。今も魔物は増え続けて民の不安は広がっておるのです。なに、たかが未知の魔物数百体、女神の剣にかかれば物の数ではあるますまい」

「だから、えーと、今はその女神の剣が手元にないと言いますか……」

「……愛ちゃん先生、私たちに南雲達と同じことしろって言われても無理だからね」

「わかってますよぉ、そんなことぉ。……本当にどうしたらいいんですかーこれぇぇ」

 

 

 やっぱり予想通り参っている声が聞こえてくる。その段階に至って雫もようやく気付いたようだ。

 

「ねぇ、蓮弥。この声って……」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 畑山愛子は現在、割と困った悩みがある。

 

「おお、あれが豊穣の女神様か。ありがたやありがたや」

「ウルの町の知り合いが言ってたけど、魔物の大群から町を救ってくださったそうよ。その時のお姿は後光が差して見えたと聞いたわ」

「なんでも女神の剣という最強の守護者がいるそうだぞ。たった一人で魔物数万体をなぎ倒したとか」

「噂だと声をかけてもらっただけで恋愛運が上がるらしいよ」

「私は金運が上がるって聞いたけど……」

 

 

 どこかの町に入るたびに聞こえてくる噂、噂、噂。

 

 ウルの町から去った後、次に訪れた町ではすでに救いの女神の噂はそこら中に広がっていた。誰かが積極的に流しているのか、それともあの時被った帽子型のアーティファクトが原因か。どちらもという可能性だってある。

 

 

 とにかく、現在愛子はどこへ行っても現人神扱いされてしまっていた。

 

「なんというか、すごいよね。アイドルとかそういうレベルじゃないでしょ、まじで」

 

 愛ちゃん親衛隊の一人である宮崎奈々が周りを見ながら言う。

 

「俺たちまで女神の剣扱いされてるし。……あいつらと同じレベル求められるのはマジ勘弁なんだけどな」

 

 玉井 淳史はここにはいない真の女神の剣と比較され、戦々恐々としていた。

 

 

 ここまでなら別にいい。良くわないかもしれないが、所詮噂は噂。気にしさえしなければ直接的な影響はないと言っていい。だからこそ問題は……

 

「豊穣の女神様が来てくださるなんて、まさにこれはエヒト様の思し召し、どうかこの町の危機を救ってくだされ」

 

 こうやって直接自分の力を頼られる場合だろう。

 

 

 この町にはいつものように、農作師としての仕事できたのだが、その際に自分が名乗ったとたん、この町の代表である男性、エスカー町長が血相を変えて飛んできて先ほどのセリフを愛子に言ったのだ。

 

 

 話を聞くと、この町の近くにある山に奇妙な魔物が増えてきているのだという。既存の魔物でありながら今まで見たことのない風貌をしたそれらに、町の住民に不安が広がっているのだという。だからこそ、この町にもぜひウルの町の奇跡を、と頼みこまれているわけだ。

 

 

 愛子は困った。別に愛子達は戦えないわけではない。この旅を続ける中で、それ相応の危険はあったし、その危機を護衛騎士たちに頼らずとも乗り越えてきたという自負もある。だが、町の住民が見たことのない魔物、それも聞けば数百体レベルで集まっている可能性があるそうだという。そんなものの討伐など、ここにいるメンバーだけで解決できるわけがなかった。

 

 

「……ですから、そんなことを言われても……」

 

 相手が困っているのは本当だ。だからこそ相手を気遣いながら断りを入れていたのだが。

 

「ご謙遜なさるな。あなた様のお力はこの辺境まで轟いておりますぞ。ぜひともそのお力をお貸しください。今も魔物は増え続けて民の不安は広がっておるのです。なに、たかが未知の魔物数百体、女神の剣にかかれば物の数ではあるますまい」

 

 どれだけ無理だと言っても通じない。彼は完全に自分を妄信しきっている。少し前には見たこともないような金額の謝礼を出すと言われている。相手が困っているのはわかる。おそらく藁にもすがるような思いなのかもしれない。だが自分達ではどうにもならないのも事実だ。

 

「だから、えーと、今はその女神の剣が手元にないと言いますか……」

「……愛ちゃん先生、私たちに南雲達と同じことしろって言われても無理だからね」

「わかってますよぉ、そんなことぉ。……本当にどうしたらいいんですかーこれぇぇ」

 

 このままでは未知の魔物数百体と戦わされてしまう。この世界に来て、魔人族との戦争に参加する事をなし崩し的に決められてしまったあの時のように。愛子はあの頃と同じく流れを変えられない自分を不甲斐なく思う。

 

 

 それもこれも全部ハジメが悪いのだと愛子は思う。仕方なかったとはいえ、妙なアーティファクトのせいで愛子の知名度が爆上がりしてしまったが故の弊害。自分があおったのだからハジメには責任を取って手伝ってほしいと思う。

 

(それとも……)

 

 あの日の夜を思い出す。あの事件が自分を殺すために仕組まれたかもしれないということ。まさかの生徒から命を狙われたと知った時、確かに愛子は絶望しかけた。

 

 

 なぜ自分がこんな目に合うのだろうとか、そんなに恨まれるようなことをしたのだろうかとか色々ごちゃごちゃになってしまい自分を見失いかけていた。もしあのまま過ごしていたら教師としての情熱まで消えてしまっていたかもしれない。

 

 

 それを取り戻させてくれた人がいる。自分たちの先生は愛子だけなのだからどうか折れないでほしいと言ってくれた人がいる。

 

 

(こういう時、漫画だとさっそうと現れて助けてくれるんですけどね)

 

 

 ありふれた物語の話だ。ヒロインが困っている時にさっそうと現れては問題を解決してくれるヒーロー。愛子とて学生時代からまだ数年しかたっていない若い教師である。そういう物語に憧れている部分も少しある。

 

(まあ、彼がこんな辺境にいるわけないんですけど)

 

 愛子は内心苦笑する。彼は大迷宮攻略の旅に出ている最中である。ここら近辺で大迷宮らしいものがあるという情報は入っていない。

 

 

 そこで教会の騎士が応援に駆け付けたという。愛子の顔が少し明るくなる。増援があれば助かるかもしれない。

 

 

 だが、そこにはある意味妄想していた人物が立っていて……

 

「久しぶりってほどでもないけど、元気そうで良かったよ先生。……一応聞くけど女神の剣ならここに余ってるけど、今必要か?」

「ふ、ふ、ふ、藤澤くん!?」

 

 あまりにも都合よくあらわれるので愛子は思わず顔を赤くしながら上擦った変な声を出して驚愕してしまった。

 




>オイバ・ザハード騎士とエスカー町長
今回だけのオリキャラなのでそこまで重要なキャラじゃない。

>クーラン
上記と同じく今回だけの舞台。
高品質な薬草が取れるため薬剤師達の間では聖地扱いされている。
そこで自生するハーブは生でもしゃもしゃしてもそこそこ回復し、緑と赤を粉末状にして摂取するだけで、出血多量の重症患者が元気に走り回れるようになるという。

>ラレブアン商会
そこそこ大きい商会。薬品なんかを主に扱っており、モットーユンケルさんとも関わりがありそう。ちなみに今回の騒動の原因ではありません。本当だよ。

>現人神愛子様
例のベレー帽のせいでますます知名度が上がる愛子先生。これが型月世界ならそろそろ神性がつきそうなレベル。

次回は優花にスポットライトが当たります。

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