ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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レギオン

 引き続き探索を進める。

 

 

 蓮弥は優花たちがそこそこ戦えるとわかったので、今は例の魔物の気配を追うことに集中していた。

 

「……どうやらこっちに気配が集まっているみたいだな」

 

 山道を登ること数十分。かなりハイペースで来ているのでそれぞれの進捗具合がわかれてきた。

 

 

 まずは雫は当たり前のように蓮弥の傍についてきている。見たところ息も乱していないし、この辺は流石といえる。

 

 

 次は優花達。以前ウィルを捜索した時に似たような工程を辿った時は全員へろへろになっていたのに、今回は息を乱しつつもなんとかついてこれていた。どうやら戦闘技術だけでなく、基礎訓練もしっかりしていたらしい。意外だったのは非戦闘職である愛子もなんとかついてきているということだった。どうやら彼女も心境の変化があったらしくそれなりに力をつけようと努力しているらしいことが伺えた。

 

 

 その愛子の傍には護衛騎士の方々。こちらは曲がりなりにもベテランのエリート騎士。疲れた様子もなく、愛子の周辺で今も油断なく構えている。問題は……

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

 

 蓮弥の監視役であるオイバ騎士が問題だった。見るからに倒れそうなほど弱っている。本当に何をしに来たのかわからない。正直先に馬車に戻っていてほしいのだが、そんなことを言っても聞いてもらえるかわからない。

 

 

「……ここらで状況整理のためにいったん休憩するぞ」

 

 仕方なく休憩を言い出す蓮弥。それに対してバカにしていると思ったのかオイバ騎士がきっと睨みつけるがすでに体のほうは休憩に入っている。本当にこのままついてくるのだろうか。

 

「さて、優花。実際にあいつらと戦った際に感じたことを聞きたい」

 

 蓮弥とて外から観察していたわけだが、実際戦ったものにしかわからないこともたくさんある。

 

「うーん。魔物自体の強さは大したことはなかったかな? ただ……」

「ただ?」

「なんて言ったらいいんだろ。なんか単体の魔物を相手しているような気がしなかったというか……」

「それは魔物が複数だったという意味じゃないよな」

 

 

 優花の言葉に他のメンバーも感じた違和感を言っていく。

 

「俺が一体の魔物を斬ろうとしたら、まるで後ろに目がついてるみたいに反応されたことがあったな」

「私の時には同じ魔物のはずなのに微妙に魔法の効き方が違ったというか……」

「なんというかまるで一匹なのに複数の魔物と戦ってたというか……」

 

 彼らも戸惑っているのだろう。そこで蓮弥が彼らに対して意見を投げる。

 

「まるで、群体で一つの生命体、みたいにか?」

「そうそう、そんな感じかな」

 

 蓮弥は感じていた違和感に答えが見え始める。そう、それはまるで……

 

「とにかく先へ進もう。もうすぐ先に魔物が集まっているらしきところがある」

 

 どちらにせよ魔物は討伐しなければならない。これ以上は実際戦ってみないとわからないだろう。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

「なっ、なっ、なっ」

「うそぉお……」

「これは……」

 

 その光景はある意味絶景だった。絶望の景色という意味で。

 

 今蓮弥達がいるのはある崖の上である。そして下にはかなり広めの空間が広がっているわけなのだが……

 

「これ、全部魔物なのかよ……」

 

 崖下は、魔物の大群で埋め尽くされていた。一面黒、黒、黒。その中で赤い光だけがぎらぎら光って見える。ざっと見て、赤い光を数えたところ四千個以上は確実にあるように思われる。

 

「なんというか、色といいまるでゴキ……」

「相川、それ以上言ったら殺すから」

「いい!? わ、わかった」

 

 相川があるものを連想仕掛けたのを優花が止める。確かにあれを思わせる。

 

「これは……おい、貴様。これを本当にすべて倒すというのか!?」

 

 オイバ騎士が蓮弥に向かって叫ぶ。

 

「今更何言ってんだあんた? そのために来たんだろうが……」

「しかしこれは、どう考えても軍隊を派遣しなければならない規模だぞ」

「なら問題ないな。ウルで戦った魔物の十分の一以下の数だ」

 

 蓮弥は優花達にここで遊撃を頼み、飛び降りる準備をする。これはさっさと行って片付けたほうがいいと判断する。隣には当然のように雫が立っている。

 

「雫、準備はできてるか?」

「あたりまえじゃない。いつでもいけるわ」

「わかった。……無理だけはするなよ」

 

 蓮弥と雫はそのやり取りの後、お互いの呼吸を合わせ、谷底に向けて身を投げ出した。

 

 

 落ちながら蓮弥は背中の四刀も合わせて形成する。今回はウルの時と違い、ユナの聖術による補助がないため、地道に削っていかなければならないが、それもやり方次第だ。それに、蓮弥がここにきて使えるようになったのは聖術だけではない。

 

 

 自身に重力魔法による加重をかけ、蓮弥は剣を前に出しながら突っ込む。ほぼ自爆特攻のような状態だが、生半可な物理ダメージでは傷を負わない蓮弥だからことできる特攻技だ。

 

 

 重力魔法によって一種の重量爆弾となった蓮弥が魔物の群れのど真ん中に突き刺さる。それだけで大地にクレータが発生し、巻き込まれた数十体の魔物は消滅した。そして、蓮弥に遅れて雫も危なげなく着地する。

 

 

「じゃあ、開戦といくか」

「ええ……」

 

蓮弥と雫は改めて、魔物の群れと対峙した。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥と雫は谷底にて奮闘した。魔物は数こそ多いが、一体一体は大したレベルではない。おそらく表のオルクス大迷宮の中層ほどのレベルだろう。これで苦戦はしていられない。

 

 

 雫も基本的には危なげなく戦っていたが、雫の戦闘スタイルは素早い動きで敵を翻弄しつつのヒット&アウェイ戦法だ。魔物が密集しているせいで、動きづらそうだった。

 

「ああ、もう。なら……」

 

 雫が、一度刀を納刀する。もちろん魔物はまだまだ大量にいるので雫に一斉に襲い掛かってくるが、雫は腰の剣に手を当てたまま動かない。蓮弥も特に心配はしていていない。あの構えは見たことがある。

 

 

 そして雫がその場で回転する。もちろん魔力で肉体と刀は強化済みであり、その力を加えて、刀を抜刀する。その場で無数の魔力の刃が雫を中心に全方位に荒れ狂い、周囲の魔物を斬り刻む。まるで小型のサイクロンにでも発生したかのような惨状は、多くの魔物を細切れにして絶命させる。

 

 八重樫流抜刀術、”魔装水月・漣”。

 

 

 本来は周囲数メートルを乱撃する技なのだが、魔力操作による強化によって射程距離と攻撃力がけた違いに上がっている。これも得物が刀になったことで使えるようになった技だ。

 

 

 そして周囲の魔物が一瞬だけだが一掃された瞬間、雫の姿が消える。邪魔な魔物がいなくなったことで得意の高速戦闘ができるようになったようだ。

 

 

 雫は大丈夫だろうと蓮弥は自分の相手に注意を向ける。蓮弥も両手の十字剣、背中の十字剣を駆使して魔物を倒していく。回転するだけで魔物数十体は消し飛ばせるし、相手の攻撃はこちらには届かない。だが……

 

(なんだろう。この違和感)

 

 蓮弥は魔物を倒していて違和感を感じていた。それは倒せば倒すほど大きくなる。しかしまだピンとこない。何か普通の魔物を倒した時と違いがあるような気がする。

 

 

 蓮弥の疑問とは裏腹に、魔物の討伐は順調に進んでいく。もう数えるほどの魔物しか残っていない。

 

「これで……」

「……終わり!」

 

 蓮弥と雫で、最後の魔物に止めを刺した。

 

 

「すげぇ……」

「本当にあの魔物の大群を……」

「倒しちゃった……」

「無双シリーズかよ……」

 

 

 クラスメイトは最近よく感じるようになった驚愕を覚えていた。愛子は蓮弥と雫が大した怪我を負っていないことにほっとしていた。

 

「……くそぅ、悔しいけど、やっぱりすごいなぁ」

 

 優花だけは複雑な思いを感じていた。あの二人はソロで戦っているように見えて時折片方をサポートするように動いていた。そこに指示やアイコンタクトの類はない。阿吽の呼吸とはこのことを言うのだろう。悔しいが、優花ではあのような戦いはできない。今まで培ってきた絆の差を見せつけられた気分だった。

 

 

 優花は弱気になっている自分を叱咤し、二人の元に降りていった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥は周りを探り、魔物の気配が消えていることを確認する。どうやら無事に終わったらしい。

 

「これで依頼完了かしら」

「ああ、一応奥まで確認してからな」

 

 少し釈然としないことはあるが、これで依頼は果たしたと言える。

 

「おーい、二人とも大丈夫だった?」

 

 安全だと察したのだろう優花達が降りてきていた。

 

「ああ、なんとかな。後はちょっと奥まで見るだけだな」

「ふん。ならさっさと進むぞ。これだけの魔物がたむろしていたのだ。一刻も早く教会に報告せねば」

 

 自分は何もしていないのに、えらそうな態度を取るオイバ騎士。優花達はその態度に気を悪くするも、ここで何か言っても巡り巡って蓮弥の印象を悪くするだけだと踏みとどまる。

 

「なら今度は、あんたが前に出て進んでくれるんだな」

「あ、当たり前だ。聖教教会の騎士たるもの、この程度で怖気づくわけがない」

 

 ちなみにこのオイバ騎士の態度に愛子護衛騎士のデビッドたちはまるで昔の自分を見ているみたいで見ていられなかった。どうやら愛子に毒されてだいぶまともになってきたようだ。

 

 

 少し進んだところの谷の終着点に到着する。だがそこには明らかにおかしい異物があった。

 

「なにあれ?」

「なんか闇の塊みたいな?」

「どう考えても、あれが魔物を変質させている原因だよね」

 

 それは宙に浮かぶ直径二メートルぐらいの闇色の球だった。

 

 

 そしてこれを見て、蓮弥はようやく自分が感じていた違和感の正体に気づいた。

 

「ふん、あれがどうやら今回の騒動の原因らしいな。ならこの私が払ってやろう。万翔羽ばたき、天へと至れ”天翔閃”」

「おい、ちょっと待てッ」

 

 観察するのに夢中になり、オイバ騎士の行動を止めることができなかった。オイバ騎士の剣より放たれた光の斬撃は真っすぐに黒い球に伸び、そのまま直撃する。

 

「……雫……注意しろ……」

「蓮弥?」

「おいッお前ら!! いますぐここから離れるぞ」

 

 

 そう、蓮弥は今まで感じていた違和感の正体に気づいた。魔物ではあまり意識したことがなかったので気づくのに遅れてしまった。聖遺物の使徒が魂の存在するなにかを倒した時に行われる現象、吸魂が行われていない。蓮弥の目から見て、あの魔物たちには確かに魂が存在していた。にも拘わらず、あの戦いで蓮弥の元に魂は一つも取り込まれてはいないのだ。

 

 

 なら、取り込まれなかった魂はどこに消えたのか。その答えは目の前に出現した。

 

 

 オイバ騎士が攻撃した黒い球から魔物があふれ出す。あふれ出した魔物はその黒い球を中心として渦を巻くように集まっていく。

 

「なにしてるんだあんた!? 死にたいのか!?」

 

 蓮弥は自分の攻撃によって起きつつある現象に呆然としていたオイバ騎士の首根っこを掴み後ろに放り投げる。

 

 

 そして、蓮弥は優花達がある程度距離を取ったのを確認した後、再び目の前の()()に目を向ける。

 

 それは黒い渦だった。あるいは波といってもいいかもしれない。黒い魔物の大群が黒い球、コアを中心に旋回する。蓮弥の目には複数の絵の具を混ぜた一つの魂として映っている。膨大な魔物の集合体はまるでレギオン。魔物の群体にして軍隊。その脅威が蓮弥に向けて、明確に敵意を持った。

 

 

 旋回していた魔物が形を変える。まるで蛇のように列を成して進む様は一種の百鬼夜行を見ているようだった。それが谷を回って勢いを増し、蓮弥に向けて突進してくる。

 

 

 異様な光景を前にその攻撃を観察した蓮弥は、()()()()ことを選択した。

 

 

 本能的に理解したのだ。()()()()()()()()()()()()()と。

 

 言ってみれば今のあれらは永劫破壊(エイヴィヒカイト)と仕組みが似ている。それが人間か魔物かの違いはあるが、複数の魂をうまく折りたたんで強化しているという意味では同種といえる。同種であれば、こちらにも攻撃は届くだろう。

 

「蓮弥! どうする?」

 

 どう見ても状況がまずい方向に変化したことがわかった雫は一人残り、蓮弥に指示を求める。

 

 

「雫、あいつの攻撃を避けることに専念しろ。あれはただ雑魚が寄り集まってるわけじゃない」

 

 そうしている内に蓮弥に向けて再び突撃してくるレギオン。それを再び回避した。

 

 だがこのまま回避しているだけでは相手を倒せない。ここで一度斬りこんで見ることにする。

 

 

 再び突進してくるレギオンを躱し、その勢いで四本の剣を束ねた大剣を思いっきりたたきつける。それだけで奴を構成している一部の魔物がごっそりいなくなるが、手ごたえが薄いと感じる。

 

 

「あいつにとって魔物一体一体は臓器にも末端にも変わるんだな」

 

 

 いわばどこを攻撃しても魂の末端を削っているレベルのダメージしか与えられないということ。

 

 

「なら、あのコアみたいなところを攻撃すればいいんじゃないかしら?」

 

 魔物の突進を躱し、今度は雫がコア目掛けて鋭い三段突きを放つ。

 

 

 八重樫流、”魔装・霞穿”

 

 

 雫の技の中でも貫通力ならトップクラスの技だが、コアに当たるも大したダメージを与えられていない。まるで物理ダメージでは意味がないかのように。

 

 

 だがこの攻撃で警戒したのか、レギオンは攻撃手段を変えてくる。蛇のように蛇行して進んでいるのはそのままだが、弾丸のように魔物を射出してくるようになったのだ。それはちょうど優花がナイフを飛ばしている風景と似ていた。

 

 

 一度に数十匹の魔物が高速で迫ってくる。蓮弥はその魔物を切り裂き、撃ち落として対処する。

 

 だが数が多い、討ち漏らした魔物はそのまま襲いかかる脅威に変わるので数がどんどん増えていく。

 

 

「流石に、こいつらと連戦はきついわね」

 

 雫とて無限に魔力があるわけではない。さきほどの戦いで消耗している分いつか魔力がなくなる時がくる。蓮弥は此処で勝負に出ることにする。

 

「雫、十秒だけでいい。こいつらを抑えられるか」

「……十秒稼げばいいのね。わかった、任せて」

「頼む」

 

 蓮弥が聖術付与しようとした場合、どうしても詠唱時間が発生してしまう。それは戦闘においては明確な隙になるのでその間蓮弥を守る人間が必要になる。

 

 レギオンは魔物を射出するのをやめ、再び突進に移る。あれに飲み込まれたら、どんな相手であっても骨も残るまい。

 

 対する雫は刀に仕込まれた技能である纏雷を起動する。それを体に纏うことによって体の反応速度を無理やり上げる。

 

「八重樫流裏奥義、”首飛ばしの颶風・雷切”!!」

 

 ふさわしい得物を得た雫はこの奥義の精度を遥かに上昇させ、相手の精神を断つ技にまで昇華させた。これと纏雷にて強化した高速の連続居合を組み合わせることによって、魔物の外と内を両方攻撃していく。それは疑似的にではあるが、魂魄魔法付与攻撃の域まで達しており、レギオンの構造が永劫破壊(エイヴィヒカイト)と似ているために届かなかった雫の攻撃をレギオンのコアに届かせる。

 

 

 無数の剣気の刃がコアを切り裂き、同時に纏う魔物を蹴散らしていく。しかし纏う魔物の数が多い上に、コアへの攻撃は効いてはいるものの致命打にはなっていない。徐々にではあるが、雫は押され始めた。

 

「こ、のぉぉ、はあぁぁぁぁぁぁ」

 

 気合を入れ直す。雫は気が遠くなるほど十秒が長く感じていた。ここで押し潰されるようでは蓮弥と共に戦うなどできない。この詠唱時間はユナがいれば必要ないと聞いている以上、彼女の代わりもできないなど認めない。雫は強化倍率を上げ、再び魔物を押し返す。

 

「待たせた雫。後は任せろ」

 

 蓮弥が詠唱を終え、雫と場所を入れ替えた。

 

 蓮弥がレギオンに向けて疾走を始める。

 

 何か良くないものを悟ったのかレギオンは姿を蛇行する蛇から小型の台風に姿を変えた。コアが無数の旋回する魔物の渦に守られている。どうやら要塞モードらしい。

 

 

 その間もレギオンは魔物を弾丸に見立てて、ガトリング砲のように打ち出してくる。それを蓮弥は撃ち落としていく。後ろに行かせるわけにはいかない。後ろにはほとんどの力を使い果たした雫がいるのだから。

 

「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 距離が縮む。そこでレギオンは蓮弥にではなく、広い範囲に乱射する方法を取った。これでは蓮弥だけではすべてカバーできない。弾丸と違い、魔物には意思があるので、後ろの雫を直接狙われる。

 

「しまった。雫!!」

 

 蓮弥は雫の方に振り返るが、雫に向かって魔物の群れが襲いかかった。雫は剣を構えているものの魔力切れにより、対抗する手段がほとんど残されていない。

 

 

 飲み込まれる。蓮弥と雫がそう思った時、

 

「雫、後ろに下がって!!」

 

その声に反応して雫が全力で後退する。その直後、上空から飛来した複数のナイフの群れが、雫に向かっていった魔物全てを串刺しにした。

 

「ゆ、優花!?」

 

 そこには優花だけでなく避難させたはずの愛子先生一行が立っていた。

 

「藤澤。八重樫の守りは任せろ」

「私達だってそのくらいはできるから」

「藤澤君。気にせず行って!!」

 

 襲いかかる魔物を必死に迎撃するメンバーを見て蓮弥は覚悟を決め、再びレギオンに向けて駆ける。

 

 

「悪いが、これで終わらせてもらう」

聖術(マギア)4章5節(4 : 5)……"白天雷光"

 

 一本の剣に纏った天を穿つかのように伸びた雷光の剣。それを魔物の弾丸をよけながら、レギオンのコア目掛けて振り下ろす。

 

 魔物の群れが集まって防御態勢を取るものの、この攻撃に耐えることができず。レギオンのコアは一刀のもとに切り伏せられた。

 

 切り伏せられたコアは存在を保っていられなくなったかのように、はじけて消滅した。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 それから数時間後、蓮弥達は町にまで報告で戻っていた。

 

 

 あの後、念入りに周りを探索してみたが、レギオンの一部らしい魔物は見当たらなかった。どうやらこの辺り一帯から完全に姿を消したらしい。

 

 

 蓮弥からしてもあそこで止められて良かったと思う。もしあのレギオンが町に襲い掛かっていたら未曽有の生物災害になるところだった。町の名前が名前なのでシャレにならない。

 

 

 名前といえばオイバ・ザハード騎士は今回の軽はずみな行動を、どうやら先輩騎士だったらしいデビットにしこたま怒られていた。そのためか帰りは非常におとなしいものだった。蓮弥としては鬱陶しい視線が消えて万々歳だったが。

 

 

 そして町にもう魔物の脅威はないだろうと町長に報告して数時間後……

 

「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」

 

「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」

 

「諦めさえしなければ、祈りは必ず叶うと信じているのだァッ! 万歳ァァィ! 万歳ァァィ! おおおぉぉォッ、万ッ、歳ァァァァィ!!」

 

「…………」

「…………なんというか、すごい人気だな先生」

 

 

 今回の件で自分はほとんど何もしていないにも関わらず、新たな愛子様伝説が誕生してしまった愛子は、もう勘弁してほしいと顔に出ていた。蓮弥としても実際に愛子の信仰がこれほどすごいとは予想していなかったので若干威圧されてしまった。特に最後の奴に対して、松〇修〇バリに熱血漢すぎて暑苦しいなと蓮弥は鬱陶しそうな目で見ていた。

 

「……本当に何とかなりませんか? これ?」

「いや、俺に言われてもな……」

 

 例のベレー帽を使ったのはハジメであって蓮弥ではない。仮に逆の効果がある軍帽を被せても、ここまで広がってしまっては焼け石に水だろう。

 

「まあ、知名度が高くなったことで頼みごとがしやすくなったのは幸いでしたけど……」

「……それは清水のことか……」

 

 愛子護衛隊には少し前までもう一人、清水利幸という生徒がいたのだが、今現在行方不明中だった。

 

「はい、私の名前が少しでも彼を見つける役に立てばこれも我慢できるのですが……」

「あんまり芳しくはないみたいだな」

「……まだまだあきらめませんけどね」

 

 いい情報は未だに入ってきていないようだが、愛子の目には光が宿っていた。きっと彼女は清水を探し出すまでこの世界から出ていこうとは思わないだろうと蓮弥は感じていた。

 

「そうか。頑張れよ先生。それはきっと、先生にしかできないことだろうから……」

「はい。藤澤君もあんまり無茶しちゃ駄目ですよ」

「大丈夫だよ。何しろ俺には女神様の加護があるらしいからな」

「め、女神!?」

 

 周りの声の中には女神の剣万歳という声も混じっている。それは愛子も知っているはずだが、なぜこんなに動揺するのだろうか。

 

「どうかしたのか先生?」

「な、なんでもありませんことよ。さあ、行きましょう行きましょう」

 

 明らかにおかしいのだが何となくつついたら藪蛇になりそうなので自重する。その代わり蓮弥は今回の騒動について思いをはせる。

 

 

 今回の事件。蓮弥としても一応解決したと思っているのだが、蓮弥には一つだけ懸念事項があったのだ。

 

 

 魔物の魂を回収できなかったのは、より引力が強かったレギオンのコアというものに引っ張られたからだというのは予想がつく。だがここで疑問が残った。

 

 

 ではなぜ、レギオンのコアを倒したはずなのに、魔物の魂を一つも回収できなかったのかと。

 

 

 この近辺にレギオンと同個体がいる気配はなかった。中々独特の気配なので一度見た以上、見間違えることはない。

 

 

 だから蓮弥はもしと思ってしまう。

 

 

 もし、この世界のどこかで()()()()()()()()()()()()集めている個体がいるとしたら。もし世界単位で魔物を集めている巨大なレギオンがいるとしたら……

 

 それは一体どんな規模になるのだろうか。

 

 

 そこまで考えて蓮弥は思考を中断する。確証がない話なのでこれ以上考えても仕方ない。それより今後の大迷宮攻略のための行動を考えることにする。

 

 

 

 蓮弥はまだ知らない。

 

 

 その予想が当たっており、蓮弥が倒したのは本来のレギオンのほんの一部だったということに。

 

 

 それを知るのは、もっと後になってからのことであった。

 




>レギオン
見た目は黒い魔物の集合体。記録によると遥か昔、太古からより確認されていた現象であり、これが起きるということは世界になにかが起きるという不吉の象徴といわれている。エヒト神話にも語られており、エヒト神が戦い、封じたものは地平線を埋め尽くす量の魔物で構成されていたと伝えられている。

モデルはバイオ7のモールデッド+王国心のデビルズウェーブ+????

次回は王都に舞台を戻します。蓮弥は雫と付き合う上で避けられないある集団との問題に直面する。

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