わざわざリンクを張ったりはしないので興味のある方はどうぞ。
そして例のやつとほぼ同時刻の雫サイドです。
雫ちゃんカワイソスww
とかは思わないように。ちゃんと雫のターンは用意するので。
一方その頃。
蓮弥と同じく神代魔法の魔法陣に乗った雫は、本人が思っているより簡単に魂魄魔法を習得することに成功していた。
「これが……神代魔法……」
頭の中に直接魔法の使い方を刻み込まれる感触に雫が顔をしかめていると、同じく神代魔法を手に入れているはずの蓮弥の方を向いた雫は、蓮弥が魔法陣の上で蹲って動かないことに気づく。
「蓮弥!?」
雫は慌てて駆け寄り、まず蓮弥の生体反応を調べる。
呼吸をしていることにまず安心した。どうやら眠っているようだ。
「私は簡単に習得できたのにどうして……そうだ」
雫は蓮弥の頭に手をかざす。
「"魂捜"」
雫は先程手に入れたばかりの魂魄魔法を蓮弥に向けて行使する。魂捜は魂魄魔法の中でも、もっとも基本的な魔法であり、魂の状態を調べるというものだ。その魔法を使い、蓮弥の状態を調べる雫。
(……良かった。眠ってるだけみたいね)
雫は蓮弥の魂が奥の方で眠っている状態になっているだけで命に別状はないことを確認し、再度安心する。
そして同時に蓮弥も魂魄魔法を行使しているということにも気づく。もしかしたらユナを助けるために魔法を行使したのかもしれない。
「それなら私が起きるのを待ってからやればいいのに……」
蓮弥の行動に対して不満を持つ雫。
言う余裕がなかったのか、それとも……
(そんなに……あの子に会いたかったの?)
胸の奥が痛みを発する……正直に言えば面白くない。だが、それを承知でついてきたのは自分だ。そのことについては蓮弥が目覚めた後に聞くことにする。
そして、雫はこの後どうするか考える。蓮弥が目覚めるまで待っているか、それとも先に外に出て安全を確保するのが先か。
雫の感覚としては大迷宮で約一日過ごしたことになっているため、蓮弥と雫がなかなか帰ってこないのでクラスメイトが心配しているかもしれない。それなら比較的安全だと思われるこの部屋にいつ起きるかわからない蓮弥を残しておいて、先に外の様子を探るのがいいのかもしれない。
「"付魂"」
再び魂魄魔法を使用し、自身の魂の一部を蓮弥に残す。これを行うことで、蓮弥の状態をいつでも知ることができる。もし蓮弥に何かあったら蓮弥から渡された髪留めの魔法を使って蓮弥の元に移動すればいい。
「じゃあ、蓮弥。行ってくるわね」
蓮弥を魔法陣の中央で寝かしておき、空中に浮かんでいた二つの指輪の内一つを手にする。これが蓮弥の言っていた大迷宮攻略の証だとわかった雫は指輪を付け、外に出る用の魔法陣の上にのり、地上に帰還する。
地上に帰還した雫は来た時とは別の狭い部屋に出る。これも蓮弥から聞いていた隠し部屋だとわかった雫は閉まっている扉に向けて攻略の証である指輪をかざす。指輪は光を放ち、上に上がるための階段が扉の奥より現れる。
このルートで攻略したものは神への信仰の少しの迷いから目が覚めたものであるという前提なのだろう。もう神山には戻れない人のために作られただけあって、人目につきにくい神山の麓に繋がっていた。
「けど、一度ハイリヒ王国に戻らないと」
雫はひとまずクラスメイトがどうしているのか確認するために、王都に戻ることにする。外は夜になっており、人っ子一人いないため、誰にも見つからず帰還できるはずだ。
そのまま雫が、移動しようとしたその時……
上空から銀色の光が降り注いだ。
「ッ!?」
雫はとっさに魔力で身体能力を強化し、その場を飛び去る。
直後、爆音を響かせ、雫がいた場所が爆散した。
刀を抜き、上空を見て構える雫。
そこにいたのは銀髪の女。その背中から銀色に光り輝く一対の翼は銀光だけで出来た魔法の翼のようだ。煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。
ドレス甲冑を着たヴァルキュリア。その女の特徴は、髪と目の色以外は蓮弥から聞いた者の特徴と一致していた。すなわち……
「あなた……神の使徒とやらなのかしら?」
「ご名答です。私の名はアハト。神の使徒の一人です」
雫の問いに対し、感情のこもっていない冷たい声が返ってくる。どうやら本当にこの世界の狂った神とやらが派遣した使徒だという。
「ここで待っていればあなたが出てくると聞いていたのですが、その通りでしたね。流石長年、主の忠実な駒であり続けた男。いい仕事です」
どうやら誰かの指示によってここで待ち伏せていたらしい。蓮弥と雫がここに来ることを予想できる人物は少ない。もしこんな時でもなければ考えをまとめたいところだが、神の使徒が放つ剣呑な雰囲気が雫にそんな余裕がないことを伝えてくれる。
「あなたにはあのアンノウンを倒すための人質になっていただきます。抵抗しても無駄なので大人しく捕まってください」
「大人しく捕まれと言われて、はいと答える人はいないわよ」
「ではしかたありません。多少痛い思いをしていただきます。お覚悟を」
アハトから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーが雫に襲いかかる。そのプレッシャーは間違いなく今まで雫が相対してきたものの中でも別格。
だがここで引くわけにはいかない。ここで捕まって蓮弥の足を引くためにここまで付いてきたわけではない。その叩きつけられるプレッシャーに対して剣気を叩き返すことで対抗する。
「やれるものなら、やってみなさいッ!」
その言葉と共に異世界の剣士と神の使徒が激突した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
雫が見上げる中、神の使徒アハトは銀翼を広げる。そして手に付けているガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに振り払う。
そして、雫の視界から、アハトが消えた。
「ッ!?」
生存本能、剣士としての勘、その全てを総動員して雫は横に刀を振るう。金属と金属がぶつかり合う音が周囲に響き渡る。
「お見事、なかなかやりますね」
そして再び雫の視界から消え、上空に姿をあらわすアハト。
「本来なら、剣士であるあなたを屠るなどたやすいことなのです。あなたの刃の届かない上空から一方的に攻撃するだけで事が済んでしまう」
その言葉には余裕の色が伺えた。それに対して雫は内心歯噛みする。剣士である雫は基本的に遠距離攻撃に向いていない。
ないこともないが、それは空中を高速で移動する存在を捉えられるかといえば難しいと言わざるを得ない。制空権を完全に相手に握られているという事実は認めるしかない。
「しかし、今回あなたを殺すことが目的ではありません。人質は生きていないと意味がありませんから。……ここ数日あなた達を観察していて、あなたがアンノウンに対して十分人質たり得る人材であることはわかっています」
観察されている気配は無数にあったが、それに対して否と言えない立場だったのが不運だった。いや、どの道このレベルの相手ではどうしようもないかもしれないが。
「とはいえ我々と違い、人間は脆い。手加減していてもたやすく壊れてしまう。そこで考えました。剣士であるあなたを剣で圧倒すれば諦めてもらえるかと」
舐められている。雫はそう感じていた。
だが、それは逆にチャンスだと言える。相手が舐めてかかるのなら、そこをつけば突破口は開けるかもしれない。
「舐めるなッ」
雫は激昂しているふりをして使徒に迫る。
まずはどこまで力の差があるか見極める。
雫が縮地を発動して高速戦闘に入る。
刀を振るう。幾重にも放たれる何物をも斬り裂いてきた刃は、されど相手に擦り傷も与えられない。
全ての雫の攻撃を軽く躱したアハトは、今度はこちらの番だと言わんばかりに剛剣を振るう。それは圧倒的なスペックでもって振るわれ、一太刀一太刀が音速を凌駕しているのか、ソニックブームが起きている。
その連撃に対して、雫は魔力による身体能力強化を最大限に行って対処する。雫は相手から放たれる剛剣を受け流し、時には体を傾けて避け、反撃の刃を返す。二人の間に行われる剣戟の演舞は、ここまでなんとか成立していた。
それでも対処はギリギリだ。否、おそらくギリギリ対処できる用加減されている。
(このままだとまずい)
雫が感じたのはまず圧倒的なスペック差だ。
雫も魔力での強化を含めれば、勇者パーティはおろか、ハジメ一行でもやっていけるという蓮弥からのお墨付きをもらっているが、それでも目の前の神の使徒と比べたら、圧倒的な差があることを自覚せざるを得ない。
「人間にしてはやりますね。では、少しペースをあげますよ」
その言葉と共に両手に持つ大剣が鋭さを増す。
無数の剣戟、奏でられる金属音。そして少しづつ量を増やしていく飛び散る鮮血。
対応しきれない攻撃が雫の肌に刀傷を増やしていく。それでも致命傷になっていないのは相手が手加減していることと、雫がなんとか食らいついているからだ。
それでも限界は訪れる。相手の剣をまともに受け止めてしまい、その膂力の差により雫は盛大に後方に吹き飛ばされ、壁に激突する。
「がっは、ゴボ、ゴボ」
背中を打ち付けられても刀を手放さなかったのは流石だと言える。だが……
「理解しましたか? これ以上無駄な手間をかけたくないので、早々に諦めていただけるとありがたいのですが……」
「こんな程度で、諦める、わけないでしょ」
雫は体勢を立て直す。その目にはまだ闘志の炎が燃えているのがわかる。
「そうですか、ならこういうのはいかがですか?」
使徒アハトの持つ大剣が銀色の光に包まれる。そして再び雫に向かって疾走。そして横に振り切るその剣を、雫は大きく跳躍することで回避する。
後ろの木々がその一太刀で複数本断ち切られ、切られた部分から光となって消滅する。
「ご覧の通り、我々には『分解』という固有魔法が備えられています。これは魔力すらも分解してしまうものであり、あなたの持つ能力では突破は不可能です」
わざわざ自分のスキルを説明してくるのは慢心故か、それとも雫に絶望を与えるためか。
スペックでは圧倒されている。それでいて分解という固有魔法のせいで物理攻撃も魔力攻撃も届かないのだという。確かに絶望的だが……
「……ねぇ、もし私が諦めたらどうなるのかしら?」
「アンノウン次第ですが、アンノウンを排除し終わった後なら解放しても構わないと考えています。あなたは取るに足らない存在でしかありません。主も放置しても何もおっしゃらないでしょう」
そうか、よくわかった。つまりこいつは……
「なら、やっぱり……あなたは私の敵よッ!」
八重樫雫には絶対に許容できないことがある。
「あなた、言葉の節々から人間を見下しているのを感じるけど、蓮弥だって人間よ。つまりあなたは取るに足らないと思っている人間を殺すために、人質が必要だって自白してるの、理解してる?」
例えばもし蓮弥が、彼が自分以外の女の子を、どうしても必要だと言えば、それを受け入れるだけの度量はあるつもりだ。それはユナの存在を知った時点で覚悟はできている。
「それにさっきから、勝負はもう終わったみたいに言ってるけど……」
だけど絶対に許せない。八重樫雫から藤澤蓮弥を奪おうとする行為を。そして彼を傷つけようとする輩を……八重樫雫は絶対に許さない。
「私を……舐めるんじゃないわよッッ!!」
届くかもしれない刃が、一つだけある。
物理も駄目、魔力攻撃も駄目なら……
姿形のない、虚の刃ならどうだ?
伯父から聞いたことがある。八重樫流には以前、他所の流派から流れてきた者を受け入れた際、伝わった奥義がある。
それが首飛ばしの颶風。
本来この技は殺意や狂気を相手に叩きつけて気勢を削ぐのが目的の技だ。雫はそれを相手を昏倒させる技とした使っているが、以前使った雷切のような別の技を組み合わせて物理的な力に剣気を上乗せするというように使うこともできる。
だが、この技の極みはそんなところにはない。八重樫流にその技を伝えた者がその境地に至っていたかどうかはわからない。だがその境地がどのようなものかは伝わっている。
極みに至った剣士は、剣気とその技を融合させて物理的な殺傷力を有する斬風、つまり遠当ての技として昇華するのだと。
それに必要なものは純粋な殺意と狂気。だからこそこの技の末尾には、悪意の総称を意味するこの文言が追加される。すなわち……
八重樫流裏奥義──
「首飛ばしの颶風──
放たれた虚空の刃は、神の使徒に迫り……
鮮血の花を、闇夜に咲かせた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ、はぁ、はぁ」
今の一撃だけで、相当気力を使った。もう一度使えと言われて使えるかどうか自信がない。
これで終わってくれれば何も問題ないのだが……
「……少し驚きました」
そこには、首から血を流しつつもなお、健在である使徒アハトの姿だった。
「これは魂魄魔法の応用でしょうか。……確かにこれは分解では防げませんね。少しあなたを侮っていたようです。……よって」
使徒アハトの姿が雫の目の前に現れ、雫の腹に膝蹴りを叩き込んだ。
「がっ!」
十メートル以上吹き飛ばされ、たまらず刀を取り落としてしまう。
使徒アハトは横たわる雫に向けて歩み寄り、道中雫の刀を拾い上げる。
「あなたを無傷で捕らえるのは諦めます。……手足の一、二本切り落としても、人質として使えるでしょう」
そして雫に見えるように雫の刀を眼前に掲げ……目の前で跡形もなく分解を用いて破壊した。
雫はその光景を見て、なんとか足掻こうと考える。
ここで素直に捕まるという選択肢がない以上足掻くしかない。
勝ち目はないとしても、せめて逃げ延びなければ……
そう、彼ならこんなピンチ何度も乗り越えてきた。
こんな時、いつも思い出すのは……
「えっ……」
"さっきから見とりゃ、げに情けない戦いしとるのぉ"
こんな時になぜ?
"力の差がある? 武器もない? じゃけぇどしたんなら"
この言葉は昔聞いたことがある。
"力がなければ補えばええ"
どこだっただろうか。少なくともここに来てからではない。
"武器がなければ作りゃええ"
そう、これは確か……
"ここではそれが許されとるけぇのぉ"
確か
"そうやって戦う術を雫。俺はちゃんとわれに教えたじゃろうが"
雫の目が蒼く光を放った。
次回雫覚醒。
どのように覚醒するかはもうわかる人にはわかると思います。
それに伴い、次回更新時にタグを大幅更新します。今までLight作品タグがあるし嘘はついていない状態だったのですが、本格的にかかわる以上変更の必要がありますので。
>魂魄魔法
蓮弥と同じく、彼女にとっても覚醒には必要不可欠の魔法です。実はすでに伏線で原作と設定を変えてるところがあるのですが気づいた人はいるのだろうか。
>雫の伯父さん
今までちょろちょろ出てきていたのに地の文以外で一言もしゃべらなかったのはこういう理由です。だってわかる人には一発でばれますし。
詳細は次回更新にて。