ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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これは間違いなく神座からブースト受けてますね。
それでは投稿します。


オルクス大迷宮

 現在、蓮弥達はオルクス大迷宮の正面入口がある広場に集まっていた。

 

 

 蓮弥の中では、大迷宮の入口はそのまま洞窟の入口のようなイメージだったのだが、流石に国民が生活の一部として利用している空間といったところか。入場ゲートのような入口があり、制服をきた職員らしき女性が笑顔で受付対応している。

 

 

 話を聞く限り、ここでステータスプレートをチェックし、人の出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握しているらしい。つまり何日も音沙汰なく出てこなかったものは死亡扱いされるというわけだ。

 

 

 蓮弥達はメルド団長を先頭にカルガモの親子のように大迷宮に入っていった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 オルクス大迷宮は緑光石という発光する特殊な鉱物の鉱脈を掘って出来ているため、松明などの明かりがなくても視界は問題ない。

 

 

 通路は縦横5m以上あるが、大人数での戦闘を考慮すると決して広いとはいいがたい。よって迷宮の攻略は基本的に縦に隊列を組み、各人が前後左右を警戒しながら進んでいくのがセオリーらしい。

 ちなみに蓮弥は隊列の中でも中頃、ポジションでいうなら遊撃担当といったところか。

 

 

 やがて、天上の高さが7・8mほどあるドーム状の開けた空間に出る。

 壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出し、物珍しげに辺りを見回していた一行の前に立ち塞がった。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 他のメンバーは交代で前に出てもらうからな、気を緩めずしっかり準備しておけ!」

 

 指名された光輝達が了解と威勢よく返事を行う。いざ戦闘か、と皆が身構える中、メルド団長が光輝に対して言った。

 

「では光輝、あの魔物の名前と特徴がわかるか?」

「えっ!?  ……いや……あの……」

「……じゃあ、ハジメ! お前はわかるか?」

 

 突然のメルド団長の質問に光輝は動揺する。考えてはいるようだが、いつまでたっても答えは出ない。光輝が答えられないと見るや、メルド団長は隊列を振り返り、ハジメに質問をぶつける。それに対して、ハジメは冷静に滞りなく答える。

 

「はい、あれはラットマンという魔物です。特徴は素早い動き。ですが筋力も耐久も低いので冷静に対処すればみんななら怖い魔物ではありません」

「ハジメの言った通りだ! お前たちなら落ち着いて対処すればとるに足らない魔物だ! 恐れずにいけ!」

 

 ハジメの答えに満足そうに頷いたメルド団長は、光輝達に指示を飛ばす。光輝は面食らったような顔をしていた。その結果に蓮弥はしてやったりと内心ほくそ笑む。

 

 

 きっかけはハジメが小悪党四人組にリンチ紛いのことをされていた時である。あの時光輝はハジメに対して、本なんか読む暇があればその時間を訓練に当てたらどうだといった趣旨の言葉をハジメに言っていた。

 

 

 それに対して内心腹を立てていた蓮弥は大迷宮へ出発する前にハジメを引き連れ、メルド団長に光輝が情報を軽視するような発言をしていたことを告げた。そしてハジメが自分の出来ることを探すために、魔物やこの世界について学んでいること、今回の大迷宮攻略のどこかでそれを活かす機会を与えて欲しいということを進言したのである。

 

 

 メルド団長が試しにハジメにいくつかの魔物に対して質問を投げかけたところ、ハジメは全て淀みなく答えてみせた。どうやらハジメにとってリアルファンタジーなモンスターは、オタク知識に該当するらしく結構楽しんで覚えたようだ。

 

 

 その結果に素直に感心したメルド団長は、今回の大迷宮攻略に対してハジメに知識を披露する場を設けたのである。

 メルド団長は国の軍隊を率いる立場にある人間だ。当然、一つの情報が時に戦況を左右することや、隊員の生存率に関わることを骨身に沁みて理解している。メルド団長はこの機会に少し脳筋思考になっている者たちに、情報の重要性を理解してほしかった。

 

 

 光輝達が無事ラットマンを倒し終わった後──メルド団長にやりすぎだと注意されていた──次の列の番が回ってきた。蓮弥達の列である。

 

 

 ラットマンは同胞が過剰戦力で駆逐されたのを警戒したのか、自身最大の武器を使って一行を翻弄する行動に出た。複数体でそれぞれが各自補うように動くので、勇者一行はラットマンを捉えられないでいた。そんな中、しばらくラットマンの動きを観察していた蓮弥が動き始めた。

 

 

 先頭列のチームから一歩前に出て行く。当然一人孤立する形で飛び出した獲物をラットマンは逃さず。己の同胞の仇に対して牙を剥いた。その行為に対して生徒は危ないと止めようとするが、メルド団長筆頭に護衛騎士はいつでも手を出せるようにはしているものの、観察を決め込んだ。

 

(確かに動きは早いけど。最近目で追いきれなくなってきた雫の剣よりかは遅い!)

 

 蓮弥が足を一歩踏み出す。

 

 目の前に迫っていたラットマンの一体を正面から袈裟斬りにする。

 

 続けて右側から迫るラットマンを体を九十度横にずらし、弧を描くように切り上げる。

 

 その勢いで身体を反転させ、背後に迫っていた最後の一体を真っ二つにする。

 

 

 その間、数秒の出来事である。

 蓮弥はなんとかなったと息を吐き、周りの状況を確認すると他の前列のメンバーが固まっていた。

 

 

 余談ではあるが、ラットマンは第一層で一番最初に出てくる魔物である。某RPG風にいえばスライムに相当するだろうか。確かに動きは早いが、動きが単調で読みやすいため。あらかじめ訓練を受けた者にとって難敵とは言い難い。

 

 

 だが、最近雑魚モンスター筆頭だったゴブリンが見直されているように何事にも例外はある。

 それは、目の前で同胞が圧倒的な力で壊滅させられるのを見せられると、警戒モードに入るのである。こうなってくるともともと素早い魔物が仲間と徒党を組んで襲ってくるため、ラットマンの討伐難易度は少し上がる。

 

 

 魔物の討伐に慣れてない新米冒険者が、ラットマン目掛けて過剰な攻撃を行った結果警戒させ、思わぬ傷を負って帰ってくるのは初心者にはよくあることだった。

 

 

 とはいえ、レベルが高ければやっぱりなんとでもできるし、こちらも数がいれば初心者でも対処できるだろう。ただ初心者が初見で三体同時に相手取って無傷で倒すというのはそうお目にかかれない。

 

 

 蓮弥はメルド団長の方を見ると、面白いものを見つけたような顔で笑っていた。もしかしたら帰った後の訓練の強化とか考えているのかも知れない。

 蓮弥はやっぱり目立つのはやめようとおとなしく列に戻った。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そうして、一行は順調に迷宮を進んでいった。その後もハジメは、引き続きメルド団長に解説役にさせられ、いつの間にか、最後尾から最前列手前まで前に出ることになった。ハジメの解説は新しい魔物が出るたびに続けられ、それに対して的確な答えを出していくハジメにメルド団長も満足そうに笑っていた。

 

 

 最初はハジメの解説を聞き流していた生徒も、魔物の弱点や、魔物に対して使ってはいけない属性の魔法の注意が混ざるようになると、自分達がいかに情報を疎かにしていたのか気がつくものが増え始める。

 

 

 クラスでも良識者である柔道部の永山重吾が引き入るパーティなどは、素直にハジメに感心していた。もっとも小悪党四人組や光輝なんかは良い顔をしていなかったが。

 

 

 さて、ハジメも前線一歩手前にいる以上、戦闘に参加しなくてはいけなくなる。

 

「よしハジメ、やってみろ!」

 

 メルド団長がハジメの名前を呼び、群から溢れた()()の魔物を一匹けしかける。

 

 そいつの特徴は群れでの素早い連携攻撃にある。単体としてはそれほど脅威になる魔物ではない。だが、基本ステータスの低いハジメにとってはなかなか強敵だった。

 香織が緊張した目でハジメを見ていた。もし怪我を負ったらすぐに治療するために準備しているようだった。

 

 しかし、大半の人間の予想に反して、ハジメは冷静だった。

 

 一度両手を合わせると、床に手をつき、お得意の錬成魔法を発動させた。

 

 飛びかかる魔物が、目の前に出てきた壁に阻まれる。

 

 弾かれた魔物が、体制を立て直そうとするも、弾かれた方向に再び壁が出現した。

 

 それを何度か、繰り返す内に逃げ場を失った魔物がハジメの錬成魔法に完全に囚われる。

 

 

 一切身動きが取れなくなったことを確認したハジメが剣を取り出し、魔物を串刺しにして仕留めた。

 

「よし、下がっていいぞ。ちゃんと魔力回復薬を飲んでおくようにな」

 

 メルド団長の言葉で事が無事に終わったことを知ったハジメは、ホッと一息付き、支給されている魔力回復薬を口にした。

 

 

 蓮弥はちらりとメルド団長が率いる騎士団の様子を伺ってみた。

 騎士団の隊員達は皆意外なものを見たような目をしていた。まるで今まで考えたことのない画期的な戦術を見つけたような様子だった。

 

 

 実際、錬成師=鍛治師という認識が定着しているトータスの住人たちは、まさか錬成魔法を戦闘に使うなど考えもしなかったのだろう。

 

 

 しかし、蓮弥達異世界からきた者達にとってその先入観はなかった。特に蓮弥などは錬成と聞いたらまずフルメタルなアルケミストを思い浮かべた。

 

 

 そこで図書室で仲良くなったハジメと一緒に錬成の活用方法を考えたのである。鉱物が錬成できるなら地面とかも錬成できるはず。水などの液体はどうなのか。錬成の練度を上げるために使えそうなオタク知識はないかなど、片っ端から試してみたのだ。

 

 

 ハジメは最初、そういうのに興味がなさそうな蓮弥が実は意外とこういう分野が得意なのだとわかり喜んでいたが、それが錬成の精度を高める為に味を知ってみたらどうかとか言い出したあたりで嫌そうな顔をした。

 どうやらハジメは現実に二次元を持ち込むのは忌避するタイプらしく、あとで黒歴史になるからとそれらを導入するのを拒否していた。

 

 

 しかし、例の事情からいつか厨二病にどっぷりつからなければ強くなれない力を授かる予定だった蓮弥は、すでに厨二を貫く覚悟を決めており、錬成のレベルをあげる為にやれることはやっておこうと無理やり押し切った。実際味を知ったことで錬成の精度が少し上がった時は微妙そうな顔をしたハジメだったが、効果があるならと渋々試してみることにした。

 

 

 その結果、錬成の精度と魔力のステータスが他よりも少しだけ上がった。

 魔力を使い切るつもりで戦えば魔物一体仕留められるくらいにはなったのだ。ちなみにやる前に両手を合わせるのは蓮弥が指示した。

 

 蓮弥はメルド団長に近づき話しかける。

 

「どうでした? ()()()()()()()()()()は?」

「……今のまま一匹仕留めるだけで魔力が尽きるレベルでは話にならないが……今後ステータスが伸びていけば、なかなか面白い戦い方ができるようになるかもな」

 

 どうやら本気で感心しているらしい。

 実は魔物の知識について進言した際に、蓮弥はハジメには内緒でもう一つ頼みごとをしていた。それはハジメを非戦闘職という先入観を捨てて見てやってほしいということだった。

 

 

 ここまできてようやく蓮弥がなにか仕掛けていたことに気づいたハジメはこちらを見る。だが蓮弥は逆方向を向くよう示唆してやった。

 

 

 ハジメが反対方向を見ると、香織が満面の笑みでハジメを見守っていた。どうやら先ほどの会話が聞こえたらしく、ハジメの力が評価されたことを我が事のように喜んでいる。

 

 

 雫はこちらに対して、やってくれたなという突然サプライズを食らったような顔をしたが、すぐに香織をハジメのことでからかい始めた。

 

 

 そう、雫が気づいたように、他にも聡い生徒や騎士達は気づいたのではないだろうか。まずは魔物の知識という、軽視していたものが想像より大切なものだったことを認識させた。次に錬成師のできることが、一般的な認識より多いことを見せつけることで連想させたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 もちろんステータスが低いという弱点はあるが、それは訓練次第でどうとでもなると蓮弥は予想していた。これで賢いやつらはハジメを非戦闘職の無能ではなく、やり方次第では戦力になり得る人材だと考えるようになるだろう。

 

 

 やっぱり努力しているやつは認められるべきだと思う。特に、ハジメみたいな()()()()を持った人間は。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そしてようやく目的の二十層までやってきた。

 この層の奥まで行くことが本日の目標である。

 

 

 先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。先頭の光輝達が戦闘態勢に入る。どうやら魔物が出たようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は褐色となり、二本足で立ち上がる。カメレオンのような擬態能力があるらしい。

 

「南雲君!」

「あれはロックマウント! 擬態するゴリラみたいな魔物! 腕力が強いから掴まれないように気をつけて!」

「ありがと!」

 

 ここまでくると、雫を始めとした一部の生徒はメルド団長が何か言う前にハジメに情報提供を要請するようになっていた。ハジメは雫の要請を受け、即座に情報を展開する。

 繰り返すごとにやり取りがスムーズになり、皆の動きも連動してよくなっていく。

 

 無駄が少なくなってきているおかげか、今のところ大きな怪我を負ったものはいない。戦闘は何かに触発された勇者がいつも以上に過剰に気合を入れた一撃で派手に魔物を薙ぎ払って終了させた。

 香織達に向かってキラリと光るイケメンスマイルを披露していたが、狭いところで大技を使ったことでメルド団長に怒られ、皆に慰められていた。

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青色に発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。どうやら緑光石とは違う鉱石らしい。香織を含め女子達はその美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 どうやら宝石の原石のようだ。

 装飾品として非常に人気のある者らしく、求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ3に入るとか。

 

「素敵……」

 

 香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、蓮弥にも雫にもバレバレだったが。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 警告するメルド団長を無視して、檜山は聞こえないふりをしてヒョイヒョイと鉱石の場所にたどり着く。どうやらいいカッコがしたいのは光輝だけではなかったらしい。

 

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人が罠を見つけるための道具「フェアスコープ」で鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。それはあの日、蓮弥達をこの世界に飛ばした悪夢の再来だった。




原作主人公無双。一人理解者がいれば環境改善も容易い。なお気に入らないやつはますます気に入らなくなった模様。

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