ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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今年最後の更新です。


最悪の結末

 部屋の中に光が満ち、蓮弥達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。そしてすぐに収まり、どこかの床に叩きつけられる。

 

 

 ほとんどのクラスメイトは尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝などの一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

 

 転移した場所は、巨大な石造りの橋の上。

 ざっと100mはあるだろうか。天井も高く20mを超え、橋の下は全く何も見えない深淵の如き闇が広がっている。まさに、落ちれば奈落の底まで一直線だろう。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 メルド団長の指示に、生徒達は動揺しつつも動き出す。

 そして、蓮弥は内心焦っていた。こういうダンジョンの転移系トラップはいくつかパターンがある。単にランダムで飛ばされる嫌がらせ目的のものという可能性もあるが、それなら全員固まっているのはおかしい。

 

 

 となると最悪のパターンか。蓮弥は冷や汗を流す。これが嫌がらせではない場合、もっとも定番の仕掛けといえばなにか。

 

 

 その答えは目の前に迫っていた。

 階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現した。更に、通路側にも魔法陣は現れ、そちらからは一体の巨大な魔物が、威圧感を醸し出しながら出現を終える。

 

 

 そう、ダンジョントラップの定番の一つ……それが……モンスターハウスである。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きが皆の間にやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

「南雲!」

「ごめん、わからない。けど明らかに二十層やそこらで出てくる魔物じゃないと思う」

 

 光輝達とは違う前線のパーティリーダーである永山が、すかさず南雲にを言葉をかけるが、今まで淀まず問に答えていたハジメが初めて答えに詰まる。

 

 

 当たり前の話だが、ハジメはあの短期間でこの世界の全ての魔物を記憶したわけではない。しかし、二十層や少し先の階層で出てくる魔物までは覚えていたので、逆説的にそれ以上深度が深い階層の魔物であることは明白だった。

 

 

 背後だけに構っていられない。目の前の小さな複数の魔法陣からも次々魔物が出現している。見た目は骸骨が剣を携えた姿、数はどんどん増え続け、すでに百に迫ろうとしている。

 

(あの骸骨もやばいけど、やっぱり危険度は後ろの奴の方が上か!)

 

 蓮弥は改めて後ろの魔物に注目する。

 骸骨兵士の魔法陣よりさらに大きな魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が現れていた。もっとも近い既知の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

 

 

 メルド団長の言うベヒモスという単語に注目する。こちらと同じかはしらないが、物語の終盤に出てきて主人公を苦しめる魔物の名前と同じだった。あれの威圧感とメルド団長の焦りから、あながち間違ってはいないことに舌打ちしたくなる。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 全員の身体が竦む。

 逆にメルド団長は正気に返ったのか、騎士団メンバーに素早く指示を飛ばす。あるものはベヒモスの足止めのために、あるものは目の前の骸骨兵士を退け、道を切り開くために。

 

 

 流石というべきか、蓮弥達が混乱で動けない中、正気に返った騎士達の行動は素早かった。

 

 

 しかし、ここで勇者の病気が発症する。

 撤退を指示するメルド団長の命令を拒否して、前線で共に戦うと言いだしたのだ。メルドは今のお前達では無理だと強い口調で言い聞かせようとするが、病気を発症した光輝は聞く耳を持たない。

 

 

 そんなことは当然、ベヒモスの知ったことではなく、その巨体を揺らしながらこちらに向けて突進してくる。おそらくあれに跳ねられるのは元の世界で大型トラックに跳ねられるようなものだろう。全員轢殺して然るべき威圧だった。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

 2m四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。

 

 

 一回使い切り、しかも一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現。

 

 

 純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

 衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

 

 それでもなんとか立ち上がり脱出を図ろうとするが、目の前の魔物がそれを許さない。

 蓮弥達は当然しらないが、目の前の骸骨兵士はトラウムソルジャーといい、大迷宮三十八階層に現れる魔物だ。後ろのベヒモスほどではないが、今まで蓮弥達が戦ってきた魔物とは一線を画する。

 

「蓮弥! これ、どうすればいいと思う?」

 

 雫が不安そうに聞いてくる、蓮弥は倒れた生徒を助け起こしつつ、今までの知識で役に立つものがないか頭の中で検索をかける。

 

「この手のモンスターハウスは時間をかければかけるほど状況がまずくなる。だから攻略するなら目の前の骸骨をまとめて吹き飛ばして道を切り開き、一気に出口まで進むしかないが……」

 

 それができる人間は限られている。

 そして、その限られた人間の一人である光輝は未だに現状が見えていない。

 

「くそ、もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達もだ、早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……!」

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫が光輝を説得しようとするが、聞いていない。いつもの悪い癖だ。自分が正しいと微塵も疑っていない。おそらく光輝の頭の中には、自分が力を発揮してベヒモスを撃退し、全員救助して引き返す光景が根拠もなく展開されているのだろう。

 完全に自分の力を過信してしまっている。メルド団長は戦闘素人の光輝達にまずは自信をつけさせようと、褒めて伸ばす方針を訓練にて取っていたが、今回それが裏目に出てしまっていた。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

 いつものノリで乗っかってくる龍太郎の言葉に、更にやる気を見せる光輝。状況が悪化していく様、雫は思わず舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 

 そして、蓮弥と同じ結論に至ったのだろう。なけなしの錬成で周囲のサポートをしていたハジメが、光輝達に飛び込んでくる。

 

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

 

 驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

 ハジメを言外に戦力外だと告げてここから撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは普段の様子から考えられない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

 

 いつも苦笑いしながら物事を流す、普段の大人しいイメージとは違うハジメの様子に周囲が固まる。

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

 光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

 

 その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ、混乱の最中にあるクラスメイト達がいた。

 

 

 当然の話だが、今まで戦闘などしたことがない現代の若者が今までの訓練だけで一人前に戦えるわけがない。皆今までの効率のいい戦い方を忘れがむしゃらに戦うために、思うように魔物を倒せず敵の増援に押しつぶされそうになる。各自のスペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

 呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は……しかし正気に返ることはなかった。

 

「……うるさい! 弱いお前に指図されるつもりはない。あいつを倒した後、俺がみんなを救えばいい! お前は後ろに下がっていろ!」

「なっ!?」

 

 その言葉に勢いよくまくし立てていたハジメが流石に唖然とする。

 

 

 本来なら流石の光輝でも、クラスメイトの危機に正気に立ち返り、この場の危機を脱するため、行動を開始しただろう。

 しかし、それを指示した人間が悪かった。いやハジメは悪くない。だが今回ハジメは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 おそらくだが光輝の無意識の中で、自分では答えられないメルド団長の問に対して、淀みなく答えるハジメがいつも以上に気に触ったのだろう。戦闘でも思わぬ錬成の使い方に騎士達が関心を示していた。

 

 

 そして何より、光輝の幼馴染である香織が、ハジメが評価されるたびに満面の笑みを浮かべる。その状況に光輝の普段以上に溜め込んだストレスが、この最悪のタイミングで爆発したのだ。

 

「下がれぇ──!」

 

 メルド団長の叫びと共に、遂に障壁が砕け散った。

 

 

 暴風のように荒れ狂う衝撃波が彼らを襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

 

 

 舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

 

 そこには、倒れ伏した団長と騎士の三人が呻き声をあげる光景が広がっていた。どうやら衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ

 

 

 またハジメに助けられたことで益々ヒートアップする光輝。もはや誰に何を言われても止まらないことは明白だった。

 

 

 その光景を見て光輝が当てにならないと判断した蓮弥は自分が使える()()()()()()()()をここで切る覚悟を決めた。

 

「おい雫……それと坂上! 少しだけ時間を稼げるか?」

「なにか手があるの?」

 

 雫も光輝が役に立たないことを知り、蓮弥の意見に耳を傾ける。

 

「ああ!」

「わかった! なんとかしてみせる。龍太郎もいいわね」

「……流石にしょうがねぇな。なんとかするしかないだろ!」

「ちょっ!」

 

 思わず抗議の声を上げかける光輝を流石にスルーして雫と龍太郎がベヒモスに突貫する。

 

「白崎! お前はメルド団長の治療を!」

「うん! わかった」

 

 蓮弥の指示に従う香織は、既にメルド団長の前で錬成壁を作っているハジメに向かって走っていった。これで一応後ろは大丈夫か。

 蓮弥は自身のアーティファクトに付いている魔石の順序を入れ替えはじめた。

 

 

 蓮弥の使うアーティファクトは雫と共に見つけた柄の部分に無駄に宝石が散りばめられていたものだった。その時は宝石だと思っていたがどうやら魔石の類だったらしく、うまく並び替えてやれば切れ味が増したり属性付与ができる特殊なものだった。だがパズル性が高く、組み合わせ次第ではもとより能力が低下するということで誰も手に取らなかったのだが、蓮弥は面白そうだと手にした。

 

 

 そして訓練期間中に色々試して偶然発見した組み合わせがあった。

 その組み合わせにした時、魔力感知が得意ではない蓮弥がはっきりわかるほどの魔力が刀身に集まりだし、発光しだしたのだ。刀身は高熱を発し、明らかに膨らんでいるように見えた。その時は咄嗟に魔石を外したことで難を逃れたが、そのままにしてればどうなるのか。このあとすぐ知ることになる。

 

「今だ! 二人とも下がれ──!」

 

 蓮弥が叫ぶとその声に反応した二人が即座に離脱した。ギリギリだったようで二人共ボロボロだった。

 

 

 二人が撤退したことを確認すると。蓮弥は己の主装備であるそのアーティファクトを躊躇なくベヒモスめがけて投擲した。

 

 

 剣がベヒモスに飛来する。そしてそのタイミングで刀身に集まっていた膨大な魔力が臨界点を超えた結果。

 

 

 

 

 そのアーティファクトは轟音を響かせながら、ベヒモス相手に炸裂した!! 

 

 

 

 発せられた膨大な熱量がベヒモスの皮膚を焼いていく。光が辺り一面を覆い隠し、その衝撃は直撃したわけでもないのにベヒモスが暴れてもビクともしていなかった橋にヒビを入れた

 

 

 そのあまりの爆音と衝撃に後方の生徒が呆気に取られる中。

 前衛を務めた二人が帰還する。

 

「すげぇ威力だ。……これなら流石にやったよな」

「だといいけどね」

 

 背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。光輝は目の前の光景に呆然と立ち尽くしていた。どうやら色々な感情がせめぎ合って動けないでいるようだった。

 

 そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる! その先には……

 

 

 

 ……多少のダメージは負ったものの、今だ顕在のベヒモスがいた。

 

 

 

「ちっ!」

 

 舌打ちする蓮弥はすかさず光輝の方へ歩きだし、今だ立ち尽くす光輝の横面を思いっきり殴り飛ばした。

 

「ちょっ! 蓮弥!?」

 

 突然の行動に雫が動揺するが構っている暇がなかった。そのまま倒れている光輝が何か言う前に掴み起こし、詰め寄った。

 

「別にお前が勝手に死ぬのは構わないけどな! お前の癇癪に俺たちを巻き込むなよ!! 仮にも勇者なら、守るべきものをちゃんとみやがれ──!!!」

 

 耳元で大声で叫んでやる。

 頬の鋭い痛みとその怒声で光輝はようやく正気に戻ったらしい。生徒達を見た後、黙ってこちらに頷いた。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

 どうやら今の一撃で怒りに火がついたらしい。ベヒモスがツノを赤く発光させて身構えた。ダメージが抜け次第突撃してくるのは目に見えていた。

 

 

 蓮弥も失った主装備の代わりである短刀を構え、撤退の準備を始める。あの一撃であの程度のダメージ量。二度と同じ手段を使えない以上、現状倒す方法はなかった。

 

 

 メルド団長はどうやらここを死地と定めたらしい。前線で食い止め生徒達だけでも逃すつもりのようだ。

 

 

 そんな中ハジメはある提案をしていた。

 危険はあるが、うまくいけば全員助かる方法を。

 

「……やれるんだな?」

「やります」

 

 決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 

 そして、ダメージから回復したベヒモスが飛び上がりこちらに頭を向けて突進してくる。それをメルド団長が簡易の魔法を使い光輝達を連れて撤退する。そして頭部がめり込んだベヒモス相手に、ハジメの唯一にして最大の武器が炸裂する。

 

「──錬成!!」

 

 そして錬成した橋を使いベヒモスを拘束する。

 ベヒモスは抵抗するが、蓮弥が与えたダメージはまだ残っているらしい。最初の頃よりもパワーが落ちているように感じた。

 

 

 たった一人でベヒモスを食い止めるハジメを香織が助けたそうにしていたが、メルド団長が諌める。ここで香織が残ったらハジメの苦労が水泡に帰すからだ。

 

 

 そして階段までの道を開くために、骸骨兵士相手に苦戦していたメンバーも、一人力が有り余っている光輝が無双することで切り開かれていく。

 

 

 後はハジメを助けるだけだと香織が言うが、殆どのメンバーは言われる前にハジメを援護するための準備を整えていた。

 

 

 今回の大迷宮でのハジメの貢献は大きい。今もなおベヒモスを一人で食い止めるハジメを見て、大抵の生徒は考えを改めていた。今後、彼を無能とみなす輩は少なくなるだろう。

 勝算が見え、少し余裕を取り戻したメルド団長は思った。今回の経験を得た彼らはいいパーティになると……

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ハジメが撤退し始めた光景を見て、蓮弥は作戦の成功を確信する。

 この調子でいけば、ベヒモスが追いつくより先に逃げ切れるだろう。

 

 だがしかし、イレギュラーは起きるものだ。ハジメを援護しているはずの魔法の一つが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 逸れた魔法はハジメの足元に直撃する。

 

 驚愕の表情を浮かべるハジメ。

 

 まさかの事態に焦るメルド。

 

 悲壮な顔を浮かべる香織。

 

 誰もが最悪の事態を想定したが、その時に動いた者がいた。蓮弥である。

 

 

 蓮弥は偶然魔法の一つがハジメに向かっているのに気づいた瞬間、縮地を発動してハジメに向かっていった。

 

 

 考えてはいなかった。直感でこのままではまずいことになると思い、身体が動いたのだ。万が一彼が死ぬことになったら()()()()()()と思ったから。

 

 

 縋るように手を伸ばすハジメ……

 

 そしてその伸ばされた手を蓮弥は……

 

 

 

 

 …………しっかり掴み取った。

 

 

 

 蓮弥が向かっていた時は肝を冷やした雫も安堵した。後はもう一度縮地を発動し、ハジメを抱えて戻ってくるだけだからだ。おそらく誰かが焦りでミスをしたのだろう。こんな状況だ、十分にあり得る。

 

 一瞬よぎった悲劇の予感。

 

 しかし、それも蓮弥のファインプレーで最悪の事態は防がれた。

 

 皆の間に安堵が走る。これで無事に全員で帰還できる。

 

 

 

 …………そのはずだった。

 

 

「がっ!!」

 

 

 

 ……ありえないことが……起きていた……

 

 

 今まさに縮地を発動しようとしていた蓮弥に対し()()()()()()()()()()、直撃した。

 

 

 再び、そして今度は蓮弥を巻き込んで体勢が崩れる。後方で暴れるベヒモスと足元に着弾した魔法の影響で足場が崩壊する。

 

 

 蓮弥が体勢を立て直した時にはすでに遅く。蓮弥とハジメは空中に投げ出されていた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

(あーあ、失敗した。何やってんだろな俺)

 

 空中に投げ出されながら蓮弥は考える。別に勇者と違って誰かれ助ける聖人君子ではなかったはずだ。途中妙な思考が挟まれたような気がするが、今はどうでもよかった。

 

 

 極限状態だからだろうか。スローモーションにみえる世界で雫と目が合う。初めてあった時のような必死の泣き顔で、こちらに手を伸ばしていた。

 

 

(泣くなよ……らしくない)

 

 

 このままだと本気で後を追いそうだと感じた蓮弥は行動に移した。

 

 

 首にかかっている、彼女が()()()()()()()()()()()()()アイテムだと称した十字架を、雫に見えるように握りしめる。

 

 

 そして彼女が()()()()()()()()()()()()()を目に込め訴える。

 

 

 

(必ず生きて戻る!)

 

 

 

 死んでたまるか。

 必ず生きてお前のところに帰ってくる。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その想いが幼馴染の少女に届けばいいと祈りながら、蓮弥は奈落の底に落ちていった。




奈落に落ちてしまった蓮弥とハジメ。
彼らの運命やいかに!

では皆さん、来年もよろしくお願いします。

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