ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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遅くなってしまい申し訳ございません。

なんとかアニメまでには投稿できました。

あと独自設定ありです。


幕間 邪なる神の従者 後編

 神父が礼拝堂の椅子に恵里を寝かしつけてから数十分後、修道服に身を包んだ女が礼拝堂の扉を開き入ってきた。

 

 

「ずいぶん私を働かせるじゃない。まさかいきなりあんな気色の悪いものを大量に運ばせるなんて」

 

 

 その容貌は神の造形のように美しい。今更語るまでもない、蓮弥達が幾度も対峙してきた神の使徒だった。ただし通常の神の使徒と違うところがある。銀色だった目はかすかに赤みを帯びてきているし、その美しい銀髪の毛先が金色に染まり始めている。

 

 

「ご苦労様でした。いきなり働かせて申し訳ありませんね。何しろ数が数なので、神代魔法でも使わないと運べなかったのですよ」

「申し訳ないとかやめてくれる? 復活の際に隷属術式なんて使っておいて。そうでなかったらあんたなんてすぐに殺しているわ」

「あいにく私には鎖もついていない猛獣を飼う心得などないものでして。安全策をとるのは当然でしょう。……あなたに対する命令に一つ追加事項があります。私だけでなく、彼女にも手を出してはならないと」

 

 その時、入ってきた使徒はようやく恵里の存在に気付き、げえぇと顔を歪める。

 

「あんたマジで言ってるの? そいつ、私が活動していたころもちょろちょろ動いてたけど、ゴキブリみたいな女よ。そんな奴引き入れるわけ?」

「彼女には実験の手伝いをしてほしいのですよ。それよりどうですか? あなたの新しい身体の調子は?」

「そうね……神代魔法くらいなら問題なく使えるけど、今はその先は使えないわね」

 

 手を握ったり開いたりして感触を確かめる使徒。まるで他人の身体が自分の意思でしっかり動くかどうか確かめているかのような動きだった。

 

「あなたの魂と馴染むまでは、動きに違和感があるかもしれませんが我慢していただきたい。いずれあなたの魂にその身体に馴染み、力を完全に取り戻したら、あなたの技能が元のあなたに合わせて容姿も含めて変成させるはずですので」

 

 染まった毛先がそれを証明している。じきに完全に馴染むだろうと神父は考えていた。

 

「けどよかったの? せっかく神の使徒の生け捕りなんて貴重なサンプルを手に入れたのに。こんなところで使ってしまって」

「問題ありませんよ。もうすでに搾り取れるものは搾り取ったので。残っていた搾りカスを再利用しただけにすぎません」

 

 あの王都の戦い以前のある使徒が起こした騒動において、生き残った神の使徒が一体だけ王都に隠れていた。それは同胞であったはずの者の暴走から逃れるために息をひそめていただけだったのだが、あの神山での度外れた戦いを間近で見てしまったが故に、恐怖という感情を目覚めさせた個体だった。

 

 

 初めて感じる激しい恐怖の感情に、その使徒は神との繋がりを自ら断ち切り、極限まで気配を薄くすることで逃げ、隠れようとしたのだ。そしてその際に頼ったのが、ダニエル神父だった。

 

 

 神父は心の底から歓迎した。なぜなら神父にとって、神の使徒は心がないがゆえに天敵だったのだが、恐怖という感情を目覚めせたばかりの赤子を騙すのなど、至極簡単なことだったのだから。そして生け捕りにされた神の使徒は神父に備えていた全てを搾り取られ、その搾りカスを別に再利用された。

 

「あとそうだ。ついでにこの辺をウロチョロしてた不審者を見つけたから捕えておいたけど」

 

 

 使徒が空間魔法を使用し、中身を取り出す。カエルが潰れたような声を出して、外に出てきたのは……

 

「おや、檜山さんではありませんか」

 

 王都にて多数の凶行に及び、間もなく指名手配されるであろう人物である檜山大介だった。

 

「お、俺は悪くねぇッ!」

「ほう……と、言いますと?」

 

 目の前の神父とここに連れてきた銀髪メッシュのシスターを見て、何を勘違いしたのか勝手に釈明を始める。

 

「俺は……俺は悪くねぇぞ。だってこいつが無理やり俺を脅して……そうだ、こいつがやれって言ったんだ」

 

 檜山は混乱しつつも、長椅子に寝ている恵里を見つけ、意識がないことをいいことに責任の全てを擦り付けようとする。

 

「聞いてくれよ神父さん。俺は、南雲や藤澤を落とすこともしたくなかったんだ。なのにこいつが俺を操って無理やりやらせて、そのネタで俺を脅してきたんだ。俺が兵士にしてきたことだって最終的に生き返るってこいつが言うからやったんだよ。な? 俺は何も悪くねぇだろ。こいつが全部悪いんだ。こいつは屑だ、最低だ。人の命なんて何とも思ってねぇ、だから俺は悪くねぇっ!」

 

 出てくる言葉のあまりの醜さに、使徒が顔を歪めて鬱陶しそうに聞いている。神父に目で語っている。

 

 

 ──こいつを殺してもいいかと

 

 

 それに対して神父は行動することで答えを示す。

 

「ですが檜山さん。あなたは彼女に命令された以外の暴行。王都の裏路地に住んでいるホームレス相手にも残虐行為を行っていましたよね」

「へぁ!? な、なんで……」

 

 それを知っているのか、それを言う前に神父が口を開く。

 

「あなたはずいぶん身勝手なことをしていましたよね。自分は選ばれた神の使徒だから、お前達町のゴミ共に構ってやるだけありがたく思え、でしたか。これまたなんというか……」

 

 恐らく愛しの香織に存在ごと無視されたことか、それとも雫のプレッシャーに当てられ続けたためか、或いは横たわる共犯者のせいなのか。檜山は誰にも言わず、町の浮浪者に対して、ストレス発散目的で非道行為を働いていた。その浮浪者は相手が神の使徒だと知って何も言えず泣き寝入りするしかない状況であることを知った檜山は、回を増すごとにエスカレートしていった。

 

 

「あなたは、蛙のように矮小だ。私も自分が善人だとは口が裂けても言うつもりはありませんが、あなたはそれに輪をかけてひどい」

 

 檜山の心を覗き込むようにダニエル神父が檜山の目を覗き込む。その行為にひっ、と怯える声を出す檜山。

 

「結論から言うと……数百人殺したあなたの罪は、神の使徒であろうと庇いきれる限度を超えている。間違いなくあなたは捕らえられ、このハイリヒ王国の法に裁かれ……死刑を言い渡されるでしょう」

「死……刑?」

 

 なまじ地球でも聞いたことのある単語が聞こえてきた檜山の顔がさっと青くなる。

 

「おや、あなたの産まれた国には存在しない法律でしたかね? その罪が通常の刑罰で償えないと判断された囚人は、命を持って罪を償う必要があるのですよ」

「そ、そんな……俺は……そうだ、俺は十七歳、未成年だ。未成年は罪を犯しても死刑にはならないはずだ」

 

 自分の末路を予感し、狂乱寸前の檜山が、異世界の住人に自分の世界の法律を持ち出す。

 

「ほう、あなたの産まれた国にはそんな法律があるのですか……おそらくまだ善悪の判断のつかない幼い子供の罪を情状酌量するための法なのでしょうが……残念ながらこの世界にそんな法律はありませんし、国によって成人年齢が違うとはいえ、檜山さんの年齢なら、どの国でも成人として扱われます。その理屈は通じません」

 

 カタカタ震えるしかない檜山に言葉を投げかける神父。その顔には恵里の時とは違い、同情など宿していない。どこまでも他人のせいにして罪から逃れようとする男を裁こうとする、本来の神父としての目だった。

 

「あなたの場合、ハイリヒ王国で罪を犯したのでハイリヒ王国の法で裁かれるでしょう。ハイリヒ王国の処刑は……ギロチンです。あなたは公衆の面前に罪人として連れ出され、民衆が見届ける中、断頭台にて首を切り落とされる」

 

 その未来を想像して檜山はただ震えるしかない。そんな行為を見せられていた使徒がしびれを切らしたように、神父に文句を言う。

 

「もういいでしょ。正直見てて不快だし。どうせ死刑になるなら今殺しても問題ないわよね」

 

使徒が檜山に手をかざす。それに対して怯えることしかできない檜山。

 

「いえ、少々お待ちを……檜山さん……あなたは本当に、自分の罪を後悔していると、神の名の下にその罪を許されたいとお思いですか?」

 

 その神父の優しい言葉に、希望を見出した檜山が縋り付くように神父の足元で土下座を行う。

 

「ああ、誓う、誓うよ。二度と罪は犯さねぇ、なんならこの世界の神に信仰を捧げてもいい、だから、死刑だけは許してください」

「死刑さえ回避できればいいと? 苦しく、厳しい道のりになるかもしれませんよ」

「ああ、やってやる。いや、やりますからどうか……」

 

 頭を下げ続ける檜山に考えるように手を顎に当てる神父。そして結論が出たのか檜山に頭を上げるように言う。

 

「あなたの熱意は伝わりました。なら……あなたが本当に試練を乗り越えられるか、テストしてみましょう。歯を食いしばりなさい。あなたの心が、真に懺悔の気持ちでいっぱいなら、どんな痛みにも耐えられるはずです」

「へっ?」

「”幻痛”」

 

 間抜けな声を出す檜山に対して、神父が魂魄魔法を使用する。

 

 

 突如檜山の全身が、大火に飲まれ、炎上した。

 

「ぎぃいいああああああああああああああああああ──ッ!」

 

 全身に走る激痛に悲鳴をあげる檜山、転げまわりながら火を消そうと抵抗するが、火は全く消えない。轟轟と燃え盛る炎は檜山の全身を焼き焦がしていく。

 

 

「ああああああああああああああああ、ぎゃあああああああああああああああああ──ッッ!!」

 

 そこで一旦魔法を終わらせる。

 

「い"でぇ、な"んでぇぇ!」

「”幻痛”」

「ぴぎゃあああああああああああああああああああ──ッ!」

 

 

 今度は真空の刃で構成された竜巻が檜山の身体を包み込み、ミキサーにかけるように全身を万遍なくミンチにするまで切り裂き始めた。

 

 

 もちろんダニエル=アルベルトにはわかっていた。目の前の愚者が反省する気がまったくなく、ただ死にたくないが故に贖罪のポーズをとっているだけであると。

 

 

 だが、その生き汚さ、その矮小な心に利用価値を見出したゆえに、いささか手間をかけることにしたのだ。

 

 

 檜山のような人種を従順にさせる方法を神父は熟知していた。簡単なことだ、獣のしつけと同じである。立場を明確にしてやればいい。

 

 

 どちらが上で、どちらが下か。痛いとはどういうことか、苦しいとはどういうことかを骨の髄まで、それこそ魂に刻み込むようにして教え込むのだ。目上の存在に逆らえば、痛い思いをすることになる。どんな猛獣もそれを教え込まれれば逆らわなくなるものだ。

 

 幻痛を与えては、壊れる精神を再生させ、また壊す。それを延々と繰り返し続ける。

 

「まあ、これくらいでいいでしょう」

「ぎぎぃいいいいい、お、おでば、ごれでぇ」

 

 地獄の苦しみの果てに、許しを得られたのかと思ったのか、ひどくやつれたその顔に光が宿りはじめる。

 

「はい、おめでとうございます。これであなたには、贖罪するための道へ挑む権利を与えられました」

「!? な"んでぇぇ、だずげるでいっだのに」

「おや、何か誤解をされていたようですね。私は申したはずですよ、テストをすると。これからさらに艱難辛苦が待ち受けているでしょうが、あなたならきっと乗り越えられるでしょう、頑張ってください檜山さん」

「~~~~~~~~!」

 

 笑顔と共に告げられるその言葉を聞いた檜山は、意識のブレーカーを落とした。現実に耐えられなかったかのように。

 

「あんた……これからいったい何しようっていうのよ。こんなゴミ屑達を拾って何がしたいわけ?」

「おや、そんなに自虐しなくてもあなたをゴミだとは……」

「……自爆覚悟で道連れにするわよあんた……」

 

 今の一言で目が据わりはじめた使徒を見て手を上げる神父。いくら隷属術式で縛っているからといって目の前の存在が自爆覚悟で暴走されたらたまらない。

 

「冗談ですよ。……確かに初期の実験は恵里さんの傀儡を利用しようと思いますが、それだけでは限界が見えてくることは予想できます」

 

「藤澤蓮弥が使う術式を私達なりに再現する、だったかしら? いったい何が目的でそんなことをするのか知らないけど、本当にうまくいくの? 直接戦ったからわかるけど……たぶんあれ、エヒトでも手に負えない代物よ」

 

「もちろん重々承知していますとも、ですがあれほどの完成度に至らずとも、可能な限り真に迫ることはできる。あなたの力の深奥が彼の力に対抗できたのですから全く不可能ではないはずです。ですから彼が必要なのですよ。光輝さんは替えがきかない。なので……都合のいい実験材料は、他にいくらあってもありすぎるということはない……そう思いませんか?」

 

 

 その言葉を悪びれもなく言う神父に、使徒は納得したように眼下に倒れ伏す檜山を憐れむ。

 

「ゴキブリ女の奴隷の次は、変態神父のモルモットとか。こいつの人生終わってるわね。たぶんだけど、ここで死んだほうがマシだったんじゃない?」

「それは彼次第ですよ。案外、彼のように生き汚い人間の方が適正があるかもしれない。ですが、まずはラレブアン商会の裏に頼るところからでしょうかね」

 

 そこで改めて使徒に向き直る神父。

 

「なに、安心してください。あなたをモルモットにしようなどとは思っていません。個人的にあなたと藤澤さんの結末にも興味がありますしね。いずれ彼に会える機会もできましょう。だから……あなたにも手伝っていただきますよ。使()()()()()()

 

 そうして神父が神の使徒、否、蓮弥と戦った末に敗北したにも関わらず奇跡の生還を果たした使徒フレイヤに協力を依頼する。

 

 

「別に構わないわ。どうせ逆らえないんだし、彼との間に邪魔さえ入れなければ協力してあげる。けど具体的に何をするのよ」

「そうですね。まずは、神の従者としての役割を果たさなくては……主にお許し願いたいことがあるのですよ」

 

 

 神父とフレイヤは恵里と檜山を空間魔法で収納し、礼拝堂から姿を消す。

 

 

 まずは許容量を超える事態に焦っている主に、救いの手を差し伸べるために。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 神域。

 

 この世界を救った光の使徒、エヒトルジュエがその権能を持って作ったとされる聖域。今の魔人族には人族を滅ぼし、地上統一を成し遂げた暁には、この世界に導かれて永遠の安息を得られると伝えられている神聖な場所だった。

 

 

 そしてその奥にいるのは当然。この世界の主であり、全能の支配者であるエヒト神なのだが、今神は激怒していた。

 

『おのれぇぇ、おのれぇぇぇぇ!!』

 

 今までなかった異常事態に彼はどのように対処したらいいか判断に迷っていた。

 

 

 神の計画の歯車が狂い始めたのはいつだったのだろう。おそらくあのアンノウンに手を出してからだ。

 

 

 最初は中々面白いあり方をしている銀髪の聖女をここに連れてこようと思っただけなのだ。この世界は自分の所有物なのだ、自分が欲しいと思えば、喜んで献上するのがこの世の真理であり、絶対である。その傲慢な心のままに奪い取ろうとしたのだ。彼女の秘密を解き明かせばこの窮屈な状態から脱せるかもしれないと思ったから。

 

 

 彼女を使う少年は凡庸なれど、彼女の力は侮ることができない。そう思い、手持ちのカードの中で最強のカードをぶつけた。途中までは上手くいっていた。かのアンノウンは無様に地に倒れ伏し、フレイヤによって捕獲される。その時まではエヒトの機嫌は上機嫌だったのだ。

 

 

 次の瞬間、それが覆されるとは思わずに。

 

 突如少年が変貌する。その異常極まる魔力は地上に瞬く間に広がり、この神域まで伝わる。

 

 

(一体何が起きた? まさかッ、まさかあ奴は……)

 

 ある懸念を持ったエヒトが、地上で活動している使徒達を集結させてかのアンノウンを殲滅しようとした。

 

 

 ある種の予感を感じたのだ。あれは今潰さなくてはまずいと思い、計画したのが使徒8人による総攻撃。これで不安は消えると思った矢先に、またしてもイレギュラーが発生した。

 

 

 使徒フレイヤの暴走である。エヒトにとってそれは全く想定外の事態だった。神の使徒にはある一定以上の感情を得られないようにプロテクトが仕組まれていたはずなのに、アンノウンによりその機能にバグが発生したのだ。

 

 

 暴走するフレイヤによりアンノウンを討つはずだった使徒の半数が潰され、そして使徒フレイヤは禁忌を超えてしまう。そしてその戦いの果てにエヒトにとって恐れていた事態が発生してしまうことになる。

 

 

『フレイヤめぇぇぇ!! 出来損ないの分際で使ってやった恩も忘れおって! それにまさか、まさか、召喚したものの中に、『到達者』が交じっているとは!』

 

 身体があれば拳を握りしめているのだろうか、エヒトが焦っているのはそこだ。

 

 

 神代魔法のその先に到達したものを到達者とエヒトは呼んでいるが、それは神のみに許された、つまり自分にのみ許された権能であるはずだった。数千年前に解放者を名乗る人間達によって到達者誕生一歩手前まで行かれたことがあるが、その時は対処する余裕があったのだ。それがまさか突然到達者が二人も現れるとは思っていなかった。

 

 

 エヒトは震えている。あのアンノウンは下賤の身でありながら、唯一神であり、絶対者である自分に対して不敬にも宣戦布告を行ってきたのだ。本来なら生まれたての到達者など自分の力を持ってすれば、容易く捻り潰せるはずなのだが、エヒトにはそれができない理由が存在していた。

 

 

 今のエヒトは肉体がないがゆえに、地上で活動することができない。それを成すためには自らが乗り移ることのできる器が必要なのだ。幸運にも、かつて失われたと思った最良の器がまだ存在していたことに歓喜したエヒトだったが、未完成の器に乗り移ったとて到達者には勝てない。あの器をさらってこれればいいのだが、アンノウン程ではないにしろ、あのイレギュラーとて油断できる存在ではない。そして自然に任せていてはあの器が完成するまでにそれなりの時間がかかるだろう。それまであの到達者を足止めする必要があるが、先の騒動において、地上で活動していた神の使徒が全滅してしまったのだ。

 

 

『エーアストよ。ここに参れ』

「主よ、ここに」

 

 エヒトの一声で、どこからともなく今では唯一生き残った使徒のナンバーズになってしまったエーアストがはせ参じる。

 

 

『量産使徒は今どうなっている?』

 

 エーアストは地上で活動せず、この神域にて神の命により、使徒の量産という活動を行っていた。それはこの世界の終わりへの準備であり、途中からはあのイレギュラーやアンノウンを止めるための戦力として量産を急がせていた。

 

「はい、好調に量産は進められています。特に初期ロットの五百体に関しては、既に最終調整段階に入っています。ですが……先の使徒フレイヤの暴走の影響という不安要素があり、最終調整には今しばらく時間が必要だと思われます」

 

 そう、時間を稼ごうにも手が足りない状況にエヒトは陥っていた。エーアストを動かすわけにはいかないし、魔人族を扇動するにしても魔人族の準備にも時間がかかる。神の使徒という駒が全滅した以上、あのアンノウンの足止めをするものがいないのだ。

 

 

 もし、もしも……器の完成の前に、この場所に乗り込んでくる術をアンノウンが手に入れたら。

 

 

 向けられた覇道を思い出す。奴の概念は、神である自身を殺しえると言わざるを得ない。肉体のない自分では勝ち目は薄いと冷静に判断する。

 

 

 殺される。エヒトが震えていたのは憤怒のためではあるが、その中に怯えが混じっていることに気付いてはいない。

 

 

「我が主よ、どうかこの忠実なる神の下僕の進言をお聞きください」

 

 その空間にエヒトとエーアスト以外の声が響き渡る。

 

「お前は……神の従者か。今主はお前に構っている余裕など」

「ですので、お困りであられる我が君に、進言したく参上したのですよ」

 

 エーアストはこの人間を覚えている。

 

 以前、神の啓示を与える水晶から、思念が逆流してきたことがきっかけだった。

 

 

「主に献上したいものがございます。些細なものかもしれませんが、わずかにも主を楽しませられたのなら幸いです」

 

 そうして示す座標を主と共に観察した時、そこにあったのは地獄絵図だった。

 

 人と人が殺し合っているのはありきたりなことだったが、その中身が異常だった。親が子供を殺している。幼子が母親の首を食いちぎる。犬が赤子を咥えて走り回り。何の前触れもなく人が隣人の首をはねる。

 

 

 その光景だけならまだ理解できる。だが、何より異常だったのは、その悲劇の参加者が全員心の底から幸せそうだったのだ。まるで己こそが至高だと信じ切った上で天命を全うするかのような。そんな神聖さも感じるような最期とやっていることの凄惨さの美しきコントラスト。

 

 

 その見世物を大層楽しんだ神エヒトがその人間に珍しく直接話しかけたのだ。なぜならこんなものを供物として捧げたということは、地上ではびこる神の像ではなく、真実のエヒトを知った上でこのようなことを行ったということなのだから。

 

「私には、願いがあります。神の力に頼らなければ叶えられない願いが……だからこそ、その願いが叶えられるその時まで……私をあなた様の神の従者として迎えていただきたい」

 

 

 その申し出にエヒトは答えた。中々面白い見世物だったのは確かだし。自ら頭を垂れてきた珍しい駒だ。飽きたら捨ててしまえばいいと考えていた。

 

 

 だが、その男は神やエーアストが想像している以上に、優秀だったのだ。

 

 

 かつて神への叛逆一歩手前まで行った解放者が発生したことをきっかけに、この世界では時々、神への叛逆を行う者達が現れるようになった。

 

 

 それはどうしてもこの世界を運営する上で発生してしまうバグのようなものであり、エヒトも放置するわけにはいかないものだったのだが、神父はそれに対して積極的に対処していった。

 

 

 神の使徒を警戒する反逆者も同じ人類に対しては警戒を緩める。その力でもって彼らの心の中に入り込み、内側から破滅させ、神に人々の悲劇と絶望を提供し続けてきた。それを幾度も繰り返す内にエヒトから、一定の信頼を得るまでに至った。

 

 

『貴様には、この状況を打破する秘策でもあるというのか?』

 

 割と行き詰まりを覚えていたエヒトは彼の意見を聞いてみることにする。そして彼のその計画は語られる。

 

 

「曲がりなりにも、あなたと同格の位階に到達した到達者を、直接排除するのはとても難しい。他にもイレギュラーという存在もある。だからそれらをまとめて排除するために……」

 

 

 

 

 

 

「『大災害』を、解き放ってみてはいかがでしょうか」

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 それに反応してのはエーアストだった。

 

 

『大災害』、彼の言うそれがエーアストが知っている大災害と同じ意味なのだとしたら……

 

「お前は、わかっているのですか!? 『大災害』を放つということは、この世界を根底からひっくり返しかねないことなのだということが……」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 むかし、むかし。

 

 

 まだこの世界に秩序がなく、ひどく原始的だった時代。

 

 

 魔物という災害はあるものの、人々はそれでもなんとか日々をたくましく生きていました。

 

 

 しかしこの世界に転機は訪れます。

 

 

 突如現れた七つの『大災害』が世界に混沌をもたらしてしまったのです。

 

 

 天を覆う止まることなき大雷雲 ”雷轟”

 地中に潜む魔を喰らう悪魔 ”獄蛇” 

 火山に住む太古の魔龍”紅蓮”    

 海に漂う暴食の大怪異”悪食”  

 増殖しながら彷徨う魔樹海”樹樹”  

 地上に現れる黒い大波”群体”   

 南に散る寄生獣”淵魔”

 

 

 これらの大災害の登場で人々の住むところはどんどん少なくなっていきます。

 

 

 まもなくこの世界は災害で満ちてしまうでしょう。そうなったらこの世界は生物の住めない世界となるのは明白です。人々は絶望していました。

 

 

 その時です。

 

 

 空からあふれんばかりの光が降り注ぎ、そこから七人の光の使徒が降臨しました。

 

 

 一際輝かしいオーラを纏った使徒の青年は言いました。

 

 

 あなた達に、光をもたらしましょう

 

 

 そこからは奇跡の連続でした。荒れ狂っていた大地は実り豊かに、大嵐は止み、海は穏やかに、山々に木々が蘇りました。

 

 

 この世界に混沌を齎していた七つの大災害を時に封じ、時に終焉させ、時に打倒していきました。そしてとうとう、この世界の大災害を全て地上から消してしまったのです。

 

 

 人々は彼らの偉業を称え、彼ら光の使徒を救世主として信仰しました。

 

 

 

 光の使徒の長だった青年、エヒトルジュエの名前を心に刻みながら。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 この世界の聖典にて記載されているエヒト神話の創世期の一節である。まだエヒトが神と呼ばれる以前の、おそらくまだ本当に全うな人格を持っていたころの彼とその仲間たちの偉業が語られているが、この世界には未だ滅ぼしきれなかった一部の大災害が各地にて封じ込められている。

 

 

 エヒトがこのトータスの神となり、世界を支配するようになってから一度もそれらを解き放つことはなかった。エヒトは地上の生物で遊びたいのであって、滅ぼしたいわけではないのだ。だからこそ、それらの存在はエヒトにとって、トータスというゲームの盤面をひっくり返しかねない劇薬、禁じ手であった。

 

 

『お前は……あれらを解き放つことがどういう意味を持っているのか……理解しているのであろうな』

「もちろんです。かつてのあなたと同胞ですら倒しきれなかった大災害なら、必ずや彼らの足を止めることができるでしょう」

「お前はあれらを操れるとでも言うつもりですか。所詮人間でしかないお前が」

 

 エーアストが未だに得体のしれないこの男に対して警戒していた。エヒトはいざとなったら捨てればいいと思っているようだが、どうしてもエーアストは気に入らなかった。

 

「いえいえ、そんなことはとてもとても。ですが、河を整備することで水の流れを制するように、操れずともその暴威の方向性を促してやることはできる」

 

 自信にあふれたその言葉にエーアストは言葉に詰まる。この男に口で挑むのは分が悪いことはそこそこの付き合いでわかっているのだ。

 

『確かに、かつての我でも封じるしかなかったアレらなら到達者とて倒せるだろう。だが、その後はどうするつもりなのだ。貴様は我の遊技場を貴様の判断で壊してもいいと?』

「理想は相打ちになってくれることですが、そう簡単にはいかないでしょう。大災害が解き放たれれば、この世界は瞬く間に滅びへと向かっていくことになる。ですが……それがどうしたというのでしょう」

『なに?』

 

 その言葉はエヒトも予想していなかったようだった。その声から感心を持たれたと感じた神父は言葉を続ける。

 

「そうなったら古い遊技場など捨ててしまわれればよろしい。我が主もこの世界での遊戯に飽きられた頃かと思いまして。だからこそ、異世界から勇者を召喚したのでしょう」

『……』

「万全の神子が手に入ればよし、そうでなくてもあなたの器足り得る予備はこちらで確保しており、既に調整を始めております。……最初は窮屈な思いをするかもしれませんが、今後の楽しみのためと思えばそれもまた一興。今度は彼らの世界を舞台に遊戯をやり直せばいい」

 

 意外と悪くない。エヒトは神父の提案に対してそう思っていた。この従者が言うようにこの世界で行う遊戯にいささか飽きが生じていたのは事実だし、ここで心機一転、到達者が現れた新天地へ向かうのも悪くないかもしれない。

 

 

 ならば最後の大舞台。大盤振る舞いに、派手に楽しむことにしようか。

 

 

『いいだろう。大災害の封印を破る許可を出す。見事、我の期待に応えて見せよ』

「我が主の仰せのままに」

 

 

 舞台は西の大海。そこに封じられている大災害を解き放つため。

 

 

 ダニエル=アルベルト神父が率いる異色のパーティは動き始める。

 

 

 世界は終わりへと向かっていく。

 

 それがこの世界の終わりなのか、それとも神の世の終わりなのか。

 

 

 その結果がいかなるものであれ、全ては彼女の掌の上に。

 

 

 優雅に神座に坐する女神は、彼ら一人一人が描いていく物語の続きを、今か今かと楽しみに待っている。




>使徒フレイヤ復活
まさかこんなに早く復活するとは予想できなかったでしょう。……バレバレだったかもしれませんが。今は神の使徒の姿ですが、時間が経てばユエ・オルタに戻る模様。

現状彼女は復活の代償として結んだ隷属契約により神父に逆らえないようにされています。もちろん現状納得はしていませんが、神父がビジネスライクに接してくるならこちらも利用してやるくらいのつもりです。

>2番から7番の神の使徒のどれか
蓮弥とフレイヤの常軌を逸した戦いを間近にみたことで恐怖という感情に目覚めてしまった個体。そのため協力関係にあった神父に頼るが、神父にとってはカモ葱にすぎなかった。神代魔法を含むすべての能力を技能の書で吸い取られ、その身体はフレイヤの新しい身体として再利用されたので魂は消滅。これにより神の使徒のナンバーズはエーアスト以外全滅することになった。

>檜山ぇ
曲がりなりにも根は善性の存在である光輝とは違い、間違いなく屑中の屑、キングオブクズである檜山君。多分原作で恵里はいざという時斬り捨てる気だったのならあの犠牲者の大半は檜山がやったということに。だけどそんなゴミ屑にも救いの手を差し伸べる神父様。
やったね、檜山君。生存フラグが出てきたよ。少なくとも王都襲撃では死なないはず。それに伴い近藤君は多分生存するはず。
ちなみに第四章で出てきたラレブアン商会には裏があるらしいですが一体何をされるんでしょうねぇ。

>エヒト、焦る
めっちゃ焦ってる自称神(笑)
まさか到達者がいきなり二人も現れるとは思っていなかった模様。何をやるにしても手が足りない時間が足りないと八方塞がりだった時に神父が救いの手を差し伸べる。

>大災害
今後しばらく、主人公一行の敵となる存在。既にいくつかの個体は滅びていますが、少なくとも敵として2体は出てくることが確定しています。

これらを出した理由はもちろん神の使徒を雑魚扱いする蓮弥に対するテコ入れです。なんとか違和感ないようにしようと思ったら魔物系になったという話。

今後いかなる形で主人公一行に立ち塞がるのかお楽しみに。

>悪役一味結成
外道変態神父 ダニエル・アルベルト
外道堕天使  使徒フレイヤ
外道降霊術師 中村恵里
外道小物   檜山大介
???    ???

これらが今後世界の裏で暗躍するドリームチームになります。時々彼らの行動も挟んでいくことになると思いますので、光輝を忘れた恵里の行動とか使徒フレイヤのツッコミとか変態神父の変態性とか小物がパシられるとことかお楽しみに。


あとがき
さて、幕間も一応これで終わりです。正直幕間は書いてて非常に楽しかったです。今まで隠してきた深淵卿を出したり、ユナと雫に修羅場やらせたり。ですがその反動で原作沿いの書き方を忘れたようでいまいち第五章の進捗が良くない。

よってもしかしたらこのまま例によって早めの夏休みを迎えるかもしれません。長くなるようなら活動報告にあげますが多分前より長くはならないはず。

あと設定集については現在作成中ですが、読者の中には設定集はいいから本編よろー、みたいな人もいると思いますので第五章プロローグと同時に更新することにします。

アニメもいよいよオルクス編最終局面。
今後も雫ちゃんの出番が欲しいとは思うが、正直厳しいですかね。ガハルドに言い寄られる雫ちゃんのシーンとかあると帝国編が書きやすくなるのですが。

では



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