海上の町エリセンから西北西に約三百キロメートル。
そこが、かつてミレディ・ライセンから聞いた七大迷宮の一つメルジーネ大迷宮が存在する海底遺跡の場所だ。
蓮弥とハジメは人数が増えることによって狭くなることを想定し、拡張改造を行った潜水艇の上で、ミレディの指示通り月とグリューエンの証を持って夜を待っていた。
ちなみにこの場には蓮弥とハジメしかいない。現在女性陣は6人ともシャワールームの中だ。当初ハジメはいつも通り無理やりシャワー室に引きずり込まれそうになるたびに逃げるという行為を繰り返していたのだが、ハジメサイドではない女の子であるユナと雫の二人が同じくシャワールームにいることでその心配が消滅したのでハジメはホッとしているようだった。
「なんか……ますますお前の女難が大変になってきたみたいだな」
「そうなんだよな……香織が加入して以来、香織に触発されたシアやティオの行動がエスカレートしてきてな……それに対抗してさらにユエが迫ってくる。正直気の休まる暇もない」
ハジメの顔は自分はユエ一筋なのに、どうしていつもこうなってしまうのかと割と真剣に悩んでいるようだった。
「俺はお前のこと、すごいと思うけどな。あんな美人だらけの環境で、それでもユエ一筋を貫けるんだから。……後悔がないとはいえ、俺はどっちか選べなかったからな」
「そういえば、ユエ達が言ってたな。……結局二人とも恋人にすることになったんだったか?」
「そこに至るまで相当大変だったけどな」
実は夕方の時点で蓮弥と雫の関係が進展の気配を見せたことを察知した香織により、蓮弥とユナと雫の関係はハジメパーティに広がってしまった。やっぱりその手の話には目がないのか、女性陣がこぞってユナと雫を質問責めにしていたのを見ているしかなかった。正直あの場に介入する勇気は蓮弥にはなかった。
日が沈み、月が浮かび上がる時間帯になると、女性陣がシャワー室から出てきた。
「だから、まだ私と蓮弥はそこまで深い仲にはなってないんだってば」
噂をすればというやつか、シャワーから上がってきた女性陣が早速雫をからかっているようだ。
「でも雫ちゃん。……やっとだよね。ずっ──と片想いのままだったし、見ていてずっ──とやきもきしてたんだから」
香織の顔には感慨深いという感情が滲み出ていた。どうやら幼馴染の長年の恋が実って、我が事のように喜んでいるようだった。
「ねぇ、蓮弥。いつ二人を恋人にする決意を固めたの?」
「後学のために教えてください」
ユエとシアが蓮弥に対して興味津々といった感情を向けてくる。その目は割と据わっており、蓮弥が思わず後退してしまうほどの迫力があった。
「いや、後学って……一体なんの後学だよ」
「それは決まってるじゃないですかぁ〜。ハジメさんとのラブラブ生活の第一歩のためのですよ。目指せ、妻妾同衾ですぅ」
どうやらハジメの受難に繋がっているらしい。ハジメが無難な返事をしてくれと目でメッセージを送ってくるが……
蓮弥は……考えるのが面倒になった。
「……いっそ四人で殺し合いでもしたらどうだ?」
「「「「殺し合い!?」」」」
ユエやシアだけでなく、聞き耳だけ立てていたティオや香織も蓮弥が提案した物騒な単語に思わず声を上げてしまう。
「俺のために争わないでくれーってやつだ。それぐらい本気を見せれば、俺がまとめて幸せにしないとやばいとハジメも危機感を持つかもしれないだろ」
「おい、蓮弥ッ、あんまり適当なことを言ってんじゃねぇよ。……ここにいるメンバーがマジで殺し合いを始めたら大変なことに……香織だって結構エグい魔法使うし……」
「ハジメ……」
蓮弥はハジメに真剣な目を向ける。まるでいつか来るかもしれないその光景に対して心の準備を済ませとけと言わんばかりの態度だった。
「……女同士のガチ修羅場とか……マジで地獄だからな。明日は我が身と思って、お前も気をつけろよ」
「いやお前、顔がマジすぎるだろ……いったい何があったんだよ」
「別に、ちょっと二人が全力で大暴れしただけだ」
その蓮弥の言葉に全員雫とユナの方に注目する。
「えーと……雫ちゃん……修羅場したの?」
「………………ちょっとだけ」
香織の言葉に雫は気まずそうに顔を逸らす。流石に本人も振り返れば黒歴史らしい。
「全力で大暴れ……戦闘力33万、魔力値125万が……」
「雫さん……よく生きてましたね」
ユナのステータスを知っているユエとシアの視線に、ユナも顔を逸らす。流石に本人も振り返れば黒歴史らしい。
「実際死ぬかと思ったわよ。もう二度とごめんだわ」
「それはこちらのセリフです。私……雫に心臓、潰されてますからね」
「戦闘力53万が全力で殴りかかってきたら必死に抵抗するわよ。私だって攻撃をカウンターしただけで左腕ぐちゃぐちゃになったし……だいたい今思い出せば、ヤコブの奥義って何よ」
「文字通りヤコブ様より代々受け継がれている格闘術です。……割と聖人や聖女は使えるスキルでしたよ」
「だから聖人や聖女の定義って何なのよ。格闘家の別名なの?」
雫とユナの会話の中で出てくる心臓潰されただの、左腕粉砕だのの単語の物騒さに、ハジメ達は想像以上にやばいことが起きていたと察したようだ。ハジメなんかは戦闘力53万の辺りで「フ〇ーザかよ」とか呟き、そんな泥沼の戦争が己の未来に起こるかも知れないのかと戦慄していた。
「そこまでだ。正直思い出したくないからそろそろ大迷宮攻略に本気で取り組むぞ。ユナ、もう月は出てるんだがどうすればいいかわかるか?」
蓮弥の言葉で一行の顔立ちが真剣なものになる。そして蓮弥の言葉を受け、ユナが固有魔法である霊的感応能力を使用する。
「ハジメ、グリューエンの証の記憶を読んだ限り、ここでそのペンダントを月にかざせば大迷宮への道が開くはずです」
ハジメは、取り敢えずユナの言う通り持っていたペンダントを月にかざしてみた。ちょうどランタンの部分から月が顔を覗かせている。
しばらく眺めていたが、特に変化はない。ハジメがユナに本当にこれでいいのか聞こうとしたその時、ペンダントに変化が現れた。
「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」
「ホント……不思議だね。穴が空いているのに……」
「ずいぶんファンタジーらしい仕掛けね。海の上ということもあって中々ロマンチックじゃない」
シアが感嘆の声を上げ、香織と雫が同調するように瞳を輝かせる。
彼女達の言葉通り、ペンダントのランタンは、少しずつ月の光を吸収するように底の方から光を溜め始めていた。それに伴って、穴あき部分が光で塞がっていく。ユエとティオも、興味深げに、ハジメがかざすペンダントを見つめた。
「昨夜も、試してみたんだがな……」
「この場所で試さないと仕掛けが発動しないようになっています。しばらくするとその溜まった月光が大迷宮の場所まで案内してくれるはずです」
ユナの言う通り、やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。
「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」
「全くだ。すんごいファンタジーっぽくて、俺、ちょっと感動してるわ」
「メイル・メルジーネって人は結構ロマンチストだったのかもしれないな」
〝月の光に導かれて〝という何ともロマン溢れる道標に、ハジメだけでなくユエ達も感嘆の声を上げた。特に、ミレディのライセン大迷宮の入口の風情の欠片もない看板を知っている蓮弥達はなおさらだった。
そして一行は潜水艇にて海底探索を実行に移す。外は満月が輝いていることもあり、中々明るかったのだが深海は一寸先もわからない闇が広がっている。
闇を切り裂く光を目印に一行が潜水艇を進めると途中仕掛けによりメルジーネ大迷宮の入口が開き、無事中に入ることに成功した。
「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この〝せんすいてい〟? がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」
ティオがまず大迷宮手前の海底遺跡に近づくことへの難易度に注目する。
「……強力な結界が使えないとダメ」
「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだな」
ユエとハジメが海底遺跡に近づいた後の難易度の高さにも注目する。
「でも、ここにくるのにグリューエン大火山の攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」
「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかも」
最後にシアと香織がここに来るまでに大迷宮攻略必須なのではというところに注目する。総評すると、中々鬼畜な難易度設定になっていることがわかる。
「そうですね。ここまでの来るためにはかなり高レベルの術者がぎりぎり振り絞って攻略できるようなレベルに設定されています」
「空間魔法必須というのも当たりだろうな。ハジメは気づいているかもしれないけど、おそらく大迷宮には推奨攻略順が存在する。間違いなく空間魔法必須の試練だろうなここは……あとは、大迷宮の主の性格かな?」
「性格?」
蓮弥の言葉に雫が疑問を浮かべる。
「ああ、実はライセン大迷宮にもう一度行った時に、少しだけミレディから解放者の人柄について聞く機会があったんだが……」
当時の蓮弥は、とりあえずユナがすぐどうこうなる心配はないことがわかりほっとしていたこともあって、少しでも大迷宮攻略がはかどるようにミレディからミレディ以外の解放者がどんな人物であったのか聞いていた。
渋るかと思ったミレディは思ったより素直に話してくれた。ひょっとしたら初めて大迷宮を攻略した人物の一人である蓮弥に、かつての自慢の仲間について聞いてほしかったのかもしれない。
「とはいえ、あんまり有益な情報は得られなかったけどな。オスカーがメイド服好きだのナイズがロリコンだの聞かされてもって感じでな」
「ええー……」
ハジメ達は微妙そうな顔をしている。もしかしたら最近攻略したグリューエン大迷宮の主がロリコンと知って幻滅しているのかもしれない。
……なぜだろう。草葉の陰から二人の解放者が全力で抗議している気がする。
「まあ、そんな中で今回攻略する大迷宮の主であるメイル・メルジーネの話もあってな。彼女は海人族であり、ここらを支配する海賊の船長だったらしい。穏やかな包容力のある見た目とは裏腹にッ!?」
蓮弥が言葉を告げる前に突如、横殴りの衝撃が船体を襲い、一気に一定方向へ流され始めた。
「!? どうやら始まったみたいだな」
船体が激しく揺れる。回転こそしていないが、船内の揺れ具合がこの海流の激しさを物語っているようだ。
「ちっ、対策はしたはずなんだけどな。想定より潮の流れが速い」
一応ハジメは対策をしていたようだが、想定以上に海流の流れが速いらしく、対策むなしく結構揺れてしまっていた。
「うう、この感覚はもう味わいたくなかったですぅ~。海……怖い」
どうやら大火山を脱出する際に相当ひどい目にあったらしい。シアの心が既に折れかけている。
「蓮弥ッ、何か近づいてきます」
ユナの忠告で体勢を整える。当然これだけでは終わらない。
「確かに何か近づいてくるな。……まぁ、赤黒い魔力を纏っている時点で魔物だろうが」
「……殺る?」
ハジメの言葉にユエが好戦的な態度を示した。どうやらこの二人はまだ余裕があるらしい。
「いや、武装を試したい。水中戦で通じるか確認したいからな」
ハジメが潜水艇のギミックを作動させると、船から魚雷らしきものが魔物の大群に発射された。
発射された魚雷は真っすぐ魔物群へ向かっていき、激しい爆音と共に炸裂した。
「なんというか……科学無双ってやつね。異世界に地球の科学を持ちこめばすごいという感じかしら」
「地球舐めんなファンタジー、とも言うな」
雫と蓮弥が呑気にハジメの兵器の威力に感心している。実際水中でこの威力の攻撃を行おうと思うと魔法が使えるだけでは非常に厳しいはずだ。蓮弥とて水中戦などどう戦えばいいのかわからないので錬成師ハジメ様様である。
「うわぁ~、ハジメさん。今、窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」
「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」
どうやらシアもギャグが言えるくらいには回復したらしい。基本的に近接オンリーのシアだが未来視のスキルの力は侮れない。特にこの環境だと選択をミスれば即死もありうるため頑張ってもらわないといけない。
しばらく激流に身を任せるしかないという状況に追い込まれていたが、ハジメが何とか船体の体勢を整えられるようになったころ。あることに気付く。
「ハジメ……たぶんループしてるな」
「ああ、さっき倒した魔物の死体が挟まってるからな。となると何か仕掛けがありそうなものだが……」
各自何か手がかりがないか探索する。その結果……
「あっ、ハジメくん。あそこにもあったよ!」
「これで、五ヶ所目か……」
手掛かりはすぐに見つかった。洞窟の数か所に五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。メルジーネの紋章は五芒星の頂点のひとつから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様があるというものだ。それが、円環状の洞窟の五ヶ所にあるのである。
当然何かの手掛かりであることは間違いないし、近づいて調べたいところだが……
「ちっ、駄目だ! 海流の流れが速すぎて近づけねぇ……ユエッ、水流操作でなんとかならないか」
「ちょっと難しい。私の使う水流操作は攻撃魔法の応用であって、環境を変えるものじゃないから」
どうやらハジメはこの海流の流れに船体を安定させるので精一杯らしい。海流の流れは不規則に激しくなったり緩やかになったりを繰り返すのでまともに探索もできない。
「ユナ。なんとかする方法はあるか?」
案に聖術にそういうものがあるか聞いた蓮弥だったが、ユナは首を横に振る。
「狭すぎますね。何をするにしてもここだと洞窟ごと崩してしまいかねません。それに……」
「また来たのか!」
再び現れる魔物群。海流が緩やかになるタイミングで襲ってくるこいつらにも手を焼かされる。ハジメには船体の制御に集中してもらいたい。よって……
「
ユナが聖術にて迎撃することになる。洞窟の壁が一部隆起して魔物群に襲い掛かる。鋭くなった切先に刺し貫かれる魚群。うち漏らしたものを蓮弥が船外にて発動した活動砲撃で撃ち落としていく。
「とはいえジリ貧だな。いつまでも海中を漂うわけにもいかない」
「空気だって永遠にもつわけじゃねぇ。何とかしないと最終的に海底の水圧でまとめて潰されておじゃんだな。仕切り直しをやろうにも、海流のせいで脱出不可能。魔物はともかく、せめて海流さえもっとおとなしければ……」
「なら私が何とかするわ」
何とか対策案を出そうと頭を捻っていた一同に対して、雫が提案する。
「八重樫? 何とかするって言っても……剣士であるお前がどうやって?」
「正直あんまり得意じゃないんだけど……上手くいけば海流の流れを抑えられるはずよ」
論じている暇はないということで雫は早速印を結び始める。その光景を初めてみるハジメ一行は目を丸くするもすぐに頭を切り替える。雫がこんな時に冗談を言うような性格じゃないことは短い付き合いでしかないトータス組にもわかる。
「──詠段・顕象──」
「創界──”尋龍点穴”」
雫が何らかの術を行使してしばらくすると、容赦なく船体を襲っていた激流が緩やかになるのがわかる。どうやら上手くいったらしいことがわかるが、雫の顔に余裕があるわけではなかった。
「ぐぅぅ、やっぱりしんどい。南雲君ッ、あんまり長くはもたないから急いで!」
「わかった!」
雫の要請に素早く応えるハジメ。こんな時ではなかったらいつか見たであろう懐かしい光景だが、今はそんなことを言っている場合ではない。ハジメは此処が正念場だと判断し、できる限り無駄なく、例の紋章のところまで潜水艇を操作する。
「五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば……これで当たりだろ!」
ハジメが手に持っていたグリューエンの証をかざすと紋章にランタンの光が当たり輝き始める。
「これで後、四つだ。八重樫ッ、もうちょい持つか?」
「持たせて見せるわよッ、こんな薄暗い場所で水圧に潰されてぺしゃんこなんてごめんだわ!」
ハジメの問いに対して気合の返事を返す雫。
「蓮弥……悪いけどちょっと身体を支えててくれる?」
「ああ、わかった」
「雫……私も援護します」
蓮弥が雫の身体を支え、ユナが雫の肩に手を置き、霊的感応能力にて周囲の状況を雫に伝える。
その甲斐があったのか、順調に紋章に光を灯していく一行。途中で魔物群が再び襲い掛かることがあったが、突如激しい海流が魔物群に襲い掛かり、魔物を押し流してしまう。どうやら雫が海流を操作しているらしい。ユナの協力があるからかさっきより負担が軽くなったようだった。
「これで、最後だ!」
ハジメがだんだん小さくなっていく光を最後の紋章にかざした時、ついに、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。水中に轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れる。
最後の力を振り絞って潜水艇を奥に進めるハジメ。通路自体に罠が仕掛けられていなかったこともあり、地下へ通じる水路らしき場所に到達する。すると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。
「最後の最後でこれかよッ、全員、何かに掴まれー!」
「もう掴まってますぅ~。ここはこんなのばっかりなんですか~~!」
ウォータスライダーの最後のような坂を下っていき、潜水艇が空中に投げ出された。
「”光輪”」
香織がとっさに衝撃緩衝魔法を発動させ、衝撃を殺すことで何とか無事に着地に成功する。
「何とか辿り着いたようだな。……みんな無事か?」
「……なんとか」
「目が回りますぅ~」
「うう、私も流石に……ジェットコースターとか特に苦手じゃないはずなんだけど」
ユエが気丈に振る舞うも無理しているのがバレバレだ。シアは目をぐるぐる回しているし、香織も相当酔ったのか自分に酔い止めの魔法をかけている。
「雫、無事か?」
「ええ、何とかね。伊達に鍛えてるわけじゃないし、ちょっと疲れただけだから」
無事と言えるメンバーは常識外の肉体を持つ蓮弥とハジメ、存在がバグキャラなユナ、あとは数々の責め苦に喜びを見出しているティオだけだった。雫は酔ってこそいないが、術の反動とやらでしばらく動けなさそうだった。
それにしても潜水艇を使ってこれなのだ。もし潜水艇なしで攻略した場合、どれだけ限界を超えなければならなかったのか。限界ギリギリどころか、気合と根性による限界突破──スキルに非ず──すること前提の超絶鬼畜難易度だった。
「……なあ、蓮弥……この大迷宮の主の性格ってまさか……」
「……ああ、想像通りだ。ミレディ曰く、真正のドSだったらしい」
大迷宮攻略は一部喜んでいる変態以外の体調が回復してからになりそうだった。
>尋龍点穴
創法・界を用いた地脈操作。もともとは邯鄲の夢に属する異能ではなく、風水術の一種。五行思想、地相、風水術を駆使することで自然環境を意のままに操ることができる。超一流の風水師でもある雫の伯父静摩が使えば、自由自在に天候を変えることもできるし、大地震クラスの大災害の脅威を誘導して被害を抑えることも可能。とはいえ風水を聞きかじった程度の知識しかない雫では水の流れを穏やかにするくらいしかできない。
ちなみに大迷宮に入るのに原作より苦労したのは原作よりメル姉がドSだったわけではなく、少し前に某聖遺物の使徒がウルの町で大暴走した際に海の龍脈を狂わせていたため。つまり自分でやっといて自分で苦労している自業自得であり、メイルさんはとんだ濡れ衣である。